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華彩夜行祭

#サムライエンパイア #ノベル #猟兵達の秋祭り2024

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朱赫七・カムイ



誘名・櫻宵



橙樹・千織




 穏やかな夜の帳が下りゆく頃。
 普段は静けさに満ちる時刻だが、今宵は違う。
 此処はサムライエンパイアの誘七藩。秋も桜が舞う場所、誘七神社にて。
 この場所で今夜、ひらかれている催しは異郷を倣った宴。所謂ハロウィンを採り入れた秋祭り、百鬼夜行祭だ。
 淡く美しい桜色の大鳥居には狛犬ならぬ狛龍が並び、社の象徴である神代桜の周囲も今宵は南瓜灯篭で飾られている。社内では華やかな音楽が奏でられており、雰囲気も良い。
 境内には様々な屋台が軒を連ね、そこかしこに南瓜型の和提灯が飾り付けられている様はとても賑やかだ。
 天狗や猫又、九尾や一反木綿。和を思わせる妖の飾りなどもあり、屋台の者や祭りに訪れる民達も思い思いの妖の仮装をしている様子は平和そのものだった。
 そんな周囲を見渡し、櫻宵は久しぶりに実家に帰ってきた実感を抱く。
「誘七は誰の影響か、お祭り好きが多いのよね」
 それゆえに四季の祭りもたくさんあるのだとして櫻宵は明るく笑った。特に今年の秋祭りはカムイが考案したものであり、常と異なる祭りとなっている。
 櫻宵は道中で買った、色が変わっていく不思議な化け猫ドリンクを飲みつつ、今宵に待ち合わせしている目当ての神と友を探しにゆく。
「カムイ! いたいた、やっと見つけたわ!」
「サヨ!」
 手を振る櫻宵の声に顔を上げたのは探し人、もとい探し神のカムイだ。
 彼はお務めである御朱印書きに一息をつけ、或いはイザナと神斬に任せたともいうが、妖の祭りへと繰り出したばかりだ。さっそく櫻宵に会えたことでカムイはご機嫌だった。
 そんな中、迷い込むように訪れた者がひとり。
「あらあら、ここは……どの辺りかしら?」
 首を傾げる千織は二人と合流するべく歩いてきたのだが、ほんの一瞬だけつやつやの林檎飴に気を取られてつい道を逸れてしまっていたらしい。
「颯、上からお二人は見える?」
 ぱたぱたと頭上を飛ぶ自由気ままな精霊猫に声をかける千織は、暫くきょろきょろしていた。
 すると――。
「チオリ! 祭りに来てくれたんだね!」
「千織もー! はっぴぃはろうぃん!」
「ああ、カムイさんと櫻宵さん。ハッピーハロウィン、ですねぇ」
 何とか合流できたことに安堵した千織は、ふわほわとした雰囲気で挨拶を返す。
 櫻宵とカムイは笑みを浮かべ、これまで自分たちが担っていた神楽や御朱印書きについて労いを交わしあった。
「カムイ、神様のお役目お疲れ様!」
「ありがとう、サヨ」
「御朱印書きは今、師匠たちが変わってるのね」
「折角の祭りだから、楽しんでこいと言われたんだよ」
「イザナさんと神斬さんが? ふふ、お優しいですねぇ」
「二人きりにしておいてあげましょう」
「あとでお土産を買って帰った方がいいかしら?」
 留守番のような役割を買って出てくれた二人についても語り、一行はゆっくりと歩きはじめる。
「サヨは神楽の奉納も見事だったね。お疲れ様。私としても鼻が高いよ」
「でしょう! 私の七つ神楽は至高なの」
 あまりの見事さにイザナもびっくりしているはずよ、と軽く胸を張る櫻宵。
 カムイは何度か頷き、確かに、と同意を示した。
「イザナも褒めてくれているはずだ。素直では無いが、実力は認めてくれる。私も何かしたら……そうだね、十回に二回は褒めて貰えるしね」
 ふと零れ落ちたイザナとカムイの関係はさておき、櫻宵は千織の方に視線を向けた。
「そういえば千織も神楽を見てくれたかしら? 見事に奉納してみせたわ!」
「ええ、ええ。勿論見ましたとも! とっても素敵な舞でしたよ」
 私ももっと頑張らねば、と感じたと語った千織に対して櫻宵は嬉しげに目を細める。
「いつか千織と一緒に舞ってみたいわ」
「あら、それは楽しそう。いつか舞いましょうね」
 二人が穏やかな視線を重ねる様子は和やかだ。カムイは彼女たちが語る会話に耳を傾けた後、改めて周囲を示してみせた。見てごらん、と示された先では今年ならではの祭の光景が見える。
「どうかな。折角のはろうぃんだからね、今年の祭りは百鬼夜行風にしてみたんだ」
「百鬼夜行祭なんて考えたわね、カムイ。今宵の私は桜魔女よ!」
「ふふ、素敵ですねぇ。私はこういった装いにしてみました」
 カムイの言葉に頷いた櫻宵は桜柄の浴衣に魔女帽子をあわせた衣裳。千織桜チョコを思わせるモダンな浴衣に白リボンの肋骨ハーネスを合わせた装いでがしゃ髑髏をイメージしたもの。颯はというと悪魔の角を着けて堕天使猫になっている。
「ふたりとも、可愛らしい仮装をしているね。どちらもなんだか特別感があっていいね」
「そういえばカムイは随分とかぁいらしいわね……ホムラかしら」
「そうだよ、ホムラだ。本物のホムラは友たる子ペンギンの仮装だよ」
 どうやって飛んでいるのかはわからないが、と付け加えたカムイはころころちゅちゅんぴと愛らしいホムラを示す。櫻宵と千織はそちらにも目を向け、くすりと笑んだ。
「櫻宵さんの魔女も可愛らしいですねぇ。どんな魔法を使うのかしら」
「ふふ! ありがと。千織もいつもと違った雰囲気が、グッとくるわ! かぁいらしいホラーな猫ちゃんね」
 互いの仮装を褒めあえば楽しくなっていき、より百鬼夜行祭への気持ちが高まっていくようだ。
「ふふふ、それにホムラさんなカムイさんはよく特徴捉えていますねぇ」
「さすが不死鳥よ! 子ペンギン愛が伝わってくるわ」
「……? ホムラはカラスである」
 歩きながら会話を交わしている中、カムイはどうしてもホムラが不死鳥であることを認めなかった。
「カラス? 不死鳥では……?」
「……なんでそんなに頑ななのかしら」
 カラスだと言い張るのが不思議だと感じながらも、これもカムイらしさだとして櫻宵たちはひとまず納得する。そうして、一行はより賑やかな方へと進んでいった。二人の手を取って燥ぐ櫻宵は本当に楽しげだった。

 そして、カムイは屋台を指差す。
「屋台も色々あってね……」
 たとえば魔女の林檎飴に妖べっこう飴。お化けの人形焼も可愛らしい。先程に子供たちが美味しそうに頬張っていたのだとカムイが語れば、すてき、と櫻宵が笑む。
「どの屋台も、皆、頑張ってくれたんだわ」
 ぱちぱちする綿あめも美味しくて刺激的。そのうえで誘七は米が美味しい土地だ。一反木綿の煎餅におばけ桜餅や酒呑童子の桜甘酒なんかもおすすめであるとカムイが饒舌に話していく。
 その瞳はきらきらしており、彼の横顔を見つめる櫻宵もまた自然と笑顔を満開にしていた。
 愛する故郷が、愛する神に愛されている。
 ただそれだけの当たり前のようなことこそが、幸せを紡ぐ確かな礎になってくれているとわかる。
「チオリが好きなほくほくの和栗や火車の焼き芋も美味しいよ」
「まあ! 和栗に焼き芋も? それはぜひ行かせてくださいな」
「そうだ、和提灯の屋台では、鬼灯や火の玉のような提灯も用意している!」
 カムイは千織にも進んで案内をしていく。その様子を微笑ましく感じた千織もまた、カムイのはりきり具合をよく理解していた。何せ大切な社の自慢の祭り。ついつい力が入るというものだ。
「他にも遊びの屋台も……気になるものはあるかな?」
「そうですねぇ、さてどの屋台から……」
「せっかくだもの! 気になる屋台はぜーんぶまわりましょ!」
 すると櫻宵は迷っていた千織を誘う。当然、彼女はきょとんとするのだが――。
「……え? 全部、ですか?」
「サヨに賛成だ。今日は私が全てご馳走しよう。なに、御祭神特権だよ。好きなものを頼むといい」
「そうよ、神様特権を行使してもらいましょう。神楽で腹を空かせておいたかいがあったわ」
 おもいきり胸を張るカムイの隣、櫻宵は遠慮なく構えている。
「はわ……御祭神特権……すごいわ」
 千織はきょとんとしたまま、二人のある意味での豪快さに感心していた。呆気にとられる彼女の姿もまた愛らしいと感じつつ、櫻宵は先を歩いていく。
「ということで千織〜! まずは焼き芋食べましょう!」
「はい、ぜひ食べましょう!」
「カムイには和栗を剥いて貰おうかしら!」
「わかったよ」
 秋の味覚は旬に味わってこそだという櫻宵に続き、千織とカムイも祭を満喫しにかかる。
「桜いもも桜栗も、ほくほくで甘くて美味しいのよ!」
 誘七の者達も関わっている催しだからこそ、櫻宵も誇らしく感じているようだ。人形焼は一番大きな袋のものを所望しており、煎餅は全部の味を頼むほど。
「ほら、千織も食べてみて! きっと気に入ってくれるはずだわ」
「はぁ……とても香ばしい香り」
 名産品を推すわ櫻宵に対して素直に頷き、勧められたものを味わっていく千織。その中で「あ、あの林檎飴先程見かけたものだわ」と呟いた千織は迷子の原因だったものにも目を奪われていた。
「颯は……そうね、ぱちぱち綿飴食べる? ホムラさんと一緒に食べるのですよ」
 途中で颯たちにも屋台のものを渡した千織もまた、とても楽しそうだ。
 やはり米所となると違うと感じたお煎餅。焼き芋も和栗もほくほくで甘くて美味しく、壺焼きと石焼きもあるのだと聞けば千織の興味が完全にそちらに向く。
「どうかな、チオリ」
「和栗は持ち帰りもぜひ……いくらでも食べられそうな気がします。そういえば――」
「うん?」
「カムイさんの好きな屋台はどちらですか?」
 千織はふと、和栗を渡してくれたカムイのことが気になって問いかけた。
(私の好きな屋台……? 全て、というのは答えにならない……パンケーキの屋台は此処にはなく……ならば)
 カムイは周囲に視線を巡らせながら少しだけ考え、あるひとつの屋台を千織に見せる。
「桜餅かな? 桜苺が入っている変わり種もあるんだ」
 差し入れで貰ったことがあり気に入ったと告げ、カムイは皆にも皆にもご馳走したい意思を示した。
「桜苺入りの桜餅……それもとても美味しそう。せっかくですし、そちらにも行きましょう!」
「まぁ、カムイも桜餅? じゃあ案内してもらいましょ。桜苺も乗ってるなんて、豪華だもの!」
 カムイの返答を聞いた千織がぱっと表情を輝かせ、櫻宵も賛成だと語る。
 お土産に買って帰ろうかしら、と後の事を考える櫻宵は常にわくわくしている様子で、此処に流れていく時間がどれほど嬉しいものなのかがわかった。
 それから皆で桜餅を買って味わい、お土産も買ったところで櫻宵が別の屋台に気付いた。
「あ、この提灯可愛いわ」
「あらほんと、可愛らしい提灯ですねぇ。私もひとつ頂こうかしら」
 櫻宵が桜火の玉の提灯を揺らしたことで千織もほわりと笑った。いいわね、と笑みを返した櫻宵は興味に導かれるまま、あちらこちらの店へ飛び込んでいく。
 何故なら、ひとつずつ屋台を訪ねる度に可愛らしい神様がにこにこになるからだ。
 だが、その当の神様は少しばかり心配になった様子。
「サヨ! あまりはしゃぐと転んでしまう!」
 手を伸ばしたカムイだったが、櫻宵は無邪気な子供のように駆けていき、とびきりの笑顔を見せた。
「ついついね」
「櫻宵さん待ってくださいな」
「ほら、千織もみていてくれるし大丈夫。お祭りはこうでなきゃ!」
「……それなら」
 良い、と頷いたカムイの頬は緩んでいた。己の巫女はどこまでも愛らしいと改めて実感したからだろう。
 自然に笑みが浮かんでしまうのは愛しさで溢れているゆえ。
 千織も櫻宵に振り回されているように見えるが、彼女も似たような思いを抱いていた。こうして追うのもまた楽しいわ、と。そうして櫻宵を見失わぬように千織もまた駆けてゆく。

 それから暫しの時間が経った。
 賑から少し離れた小高いの丘の上。桜甘酒で一息をつき、櫻宵はこれまでの楽しかった時間を思い返していた。
「はぁ〜! 食べた食べた……」
「皆さんと一緒だといつも以上に美味しく感じて、ついつい食べ過ぎてしまいますねぇ」
 千織は桜冷茶でほっとひといきついており、ゆっくりとしたひとときが流れている。カムイはのんびりしている二人を眺めた後、あちらを、と夜空に顔を向けた。
「此処はとっておきの場所なんだ……ほら、みて! 華火があがるよ! サヨ、チオリ!」
 そのとき、カムイの言葉通りに天空に大輪の華火が上がる。
 花火。それは誘七では華火とも記す大切な光。
「きれいね!」
「ふふふ、色とりどりの花で夜空が埋め尽くされて……とても美しいですねぇ」
「今年は夜空を花畑にする計画かしら? 千織の好きな花も咲くといいわね。ほら、私の好きな花は桜花絢爛に咲きまくってるからね」
「彼岸花に桜、桔梗もあるよ。様々な華が夜空に彩るように、と頼んだんだ」
「あら、桔梗も? 素敵な花畑だわ」
 櫻宵と千織は美しい花火が上がっていく光景に癒されている。カムイも満面の笑みで空を見上げていた。
「今頃、イザナと神斬も同じ光景を眺めているかな?」
 カムイは花火の元へ飛んでいこうとするホムラを捕まえてから、少ししんみりとそんなことを考えた
 誘七に連なる者とって花火は、とても思い入れがあるもの。
 全てのはじまりであり、おしまいでもある。
「きっと見ているわ」
 あれこそが自分たちを導いてくれた華なのだと改めて感じている櫻宵は、カムイの楽しそうな笑顔を瞳に映してから双眸をとじる。花火の音が耳に届く度、感慨深い気持ちになった。
「あれから、四年……」
「この地に還り、四年がたったな……今年も私は、しあわせだ」
 カムイも櫻宵に倣って目を瞑り、幸福を胸に抱く。
 千織も一緒に花火を見上げ続けており、自分たちが紡いできた時を想う。
「これまでも色んな花火ががありましたねぇ……もう四年ですか、時の流れは早いものね」
 二人が並んで幸せそうな姿を見ることができて私も嬉しい。そのように語った千織は、そっと願った。
 ――これからもその笑みを咲かせ、歩んでゆけますように。
 幸せとは間違いなく、今という時のこと。
 カムイはこれまでを考え、続けてこれからの時間についても思いを馳せていった。
「来年もその次も……こんなふうに過ごしていきたいな」
「しあわせを編んで紡いでいきましょう、これからもずっとね」
「……これからも、」
 櫻宵からしかと答えが返ってきたが、カムイは少しだけ考え込む。先の戦にて己の恐怖を識った今、いつかその未来が来ることを理解していてしまった。だが、それでも――。
 そんな願いを、夜天を彩る華火に託したい。
「……叶えるのだ。私の、この手で」

 夜空かざした掌に花火の彩が重なるように咲く。
 其処には強き想いと願い、そして――未来への誓いが宿っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年12月10日


挿絵イラスト