ヴェーダは紡ぎ織り込む、キャレットの影
桐嶋・水之江
●人数
シャリス
水之江
以上2名です。
●水之江について
メサイア経由でシャリスとの接点を持ちました。
シャリスにアリコーンの回収と修理を頼まれています。
シャリスには報酬の支払い能力が無いことを知っていますが、タダ働きするつもりはありません。
代金は身体(労働力)で支払わせるつもりです。
アリコーンを通じて人造竜騎のデータを収集するつもりでもあります。
●シャリスから見た水之江
「あの人からは何か得体の知れない気配を感じるのです」
少なくとも騎士の類の人ではないなと思っています。
キャバリアに詳しいようなので、アリコーンの保護と修理を頼みました。
●アリコーンについて
天馬型のタイタニアキャバリアです。
遥か昔から聖杯の乙女の守護者として旅に付き添っていました。
最初の聖杯の乙女が獣騎となった姿を模して作られたとされています。
自我を持ちます。
人語は喋れませんが馬の鳴き声で鳴きます。
シャリスとは何となく意思疎通が出来ます。
●損傷を受けた理由
適当でOKです。
聖杯を狙う悪党に追い回されたとかでよろしいかと思います。
●最後に出てきたもう一機の人造竜騎
後のハイドラ・クインリィです。
こちらに関してはまた後ほど別にノベルを依頼させていただきたいと思います。
よろしければお願いします。
●悪性
天馬の翼が炎に散る。
舞うは赤き炎。
全天を覆うは水晶の輝き。
注ぐような光景は、光の雨そのものであった。
聖杯の乙女を守護するタイタニアキャバリアは、その嘶くようにして首を振り駆け抜ける。
翼失ったとて、その額には決してぬ折れぬ大尖角がある。
心折れぬ限り敗北はない。
例え翼を失っても、未だ四肢がある。
大地を力強く蹴って飛ぶように疾駆する先にあったのは、赤き獣騎。
天馬型タイタニアキャバリア『アリコーン』は、大地激震せしめるほどの踏み込みでもって赤き獣騎へと突進する。
大尖角『聖闘士ホーン』は、正しく聖剣の如き鋭さと強靭さを持つ。
まごうこと無き必殺の一撃。
しかし、その一撃は赤い獣騎の手にした光の剣と激突して止められてしまう。
力の奔流がほとばしり、周囲に破壊を生み出していく。
衝撃が走り、大地が砕ける。
その最中に先んじて破壊された人造竜騎の残骸が軋むようにして湖面へと吹き飛ばされる。
気に掛ける余裕などない。
眼の前の赤い獣騎は、他者に意識を割いていて対することのできぬ存在であった。
渾身の一撃すらも受け止められ、払われるようにして『アリコーン』の体躯が大地に激突する。
軋むフレームのままに立ち上がろと首をもたげた瞬間、大先角を掴み上げる赤い獣騎のアイセンサーが剣呑に輝く。
「『アリコーン』! いけません!」
声が聞こえる。
だが、意志宿す人造竜騎『アリコーン』は主の言葉を初めて無視した。
眼の前の獣騎は悪性そのもの。
悪心に彩る赤。
完全なる悪性を前にして人の情など無意味。
損壊した翼が無理を推して羽撃く。
推力を得た勢いで大先角を掴み上げる赤い獣騎を押しのける。
蹄鉄が大地を今一度踏みしめ、押しやった。
赤い獣騎はわずかに蹌踉めきながら、大尖角を手放し、再び天に満ちる水晶の輝きを降り注がせる。
無理を推した翼が砕かれていく。
蹄鉄は砕け、四肢は罅割れる。だが、それでも『アリコーン』は嘶く。
赤い獣騎。
これは確実に退けなければならない。
狙いは聖杯の乙女が擁する聖遺物。
湧き出る美酒の杯。
求めるは恐らく浄化と治癒の力であろう。秘された力を知るのならばこそ、悪心持つ存在の手に渡らさせてはならない。
例え、それが正当性を持ち得るのだとしても、だ。
「『アリコーン』! それ以上は! あなたの駆体がもう……!」
悲痛な叫びが聞こえる。
命を賭して、と人は言う。
人造竜騎は人の求めに応えて鍛造されしもの。
であるのならば、人を守るために力を振るう。
それこそが宿命であり、存在意義。
ならば、聖杯の乙女の守護者たるは言うまでもない。守る。守護する。ただそれだけのために唸る炉心から爆発的な力が溢れ出す。
満たされた精霊力の発露。
いや、暴発とも言うべき臨界。
駆体が保たぬかもしれない。だが、それでもやらねばならぬ。
止める声が聞こえても、それが己の役目なのだから悲しむ必要はないのだと意思を伝えながら『アリコーン』は赤い獣騎へと突撃し、炉心より溢れ大先角に集約されし精霊力を解き放つ。
閃光と共に周囲を満たすのは凄まじき破壊。
その破壊の中心に『アリコーン』は膝崩れ落ちた。
だが、そこにはもう赤い獣騎はいなかった。
身命を賭してというのならば、正しく『アリコーン』は最期の時まで守護者だったのだ――。
●善性
夢。
夢のようなものを見ていたように思えた。
シャリス・ルミエール(聖杯の乙女・f44837)は自分が一瞬眠りに落ちていたことを知る。
「ねーぇ、此処でいいの?」
彼女の隣から声が聞こえて顔を向けると、そこには桐嶋・水之江(機巧の魔女・f15226)が座していた。
今シャリスが座しているのはワダツミ級強襲揚陸艦『ワダツミ』の艦橋シートだった。
隣にいる水之江もまた同様である。
どうして彼女と行動を共にしているのか。
「はい、此処で間違いありません」
「ただの森っぽいけど? 本当に此処に目的のブツがあるっていうの?」
「ええ、確かに一見すれば森にしか見えませんが……精霊の力によって隠蔽されているのです」
「ほーん、精霊の力ねぇ。あんまりピンとは来ないんだけれど」
水之江の言葉にシャリスは言葉を返さなかった。
聖杯の乙女としての直感からか、水之江が悪人ではないことはわかる。だが、善人でもない。得体の知れない何かを直感的に感じ取っているのだろう。
だからこそ、彼女の横にあって一瞬でも意識を手放してしまったことは、シャリスにとっては己を戒める出来事であったのだ。
「行きましょう。私から離れないでくださいね?」
「まあ、そのつもりだけど。でも、そんなに大げさなことかしら?」
水之江からすれば、ただの森だ。
科学技術、知識を持ってすれば森に足を踏み入れた程度で迷うことなどない。
無用な心配ではないかと彼女は思っているのだろう。
シャリスは頭を振る。
「この森は精霊の力が強いと言いました。つまりは森全体を覆っているということです。迷ってしまえば、もう二度とでられなくなってしまいますよ」
彼女の手元にぼんやりとした光が灯る。
それが精霊というやつのなのかと水之江は興味を持ったようであるが、それよりも科学的検証のほうが先であるようだった。
彼女の手元に浮遊コンソールが浮かぶ。
パネルを操作して、水之江は眉根を寄せる。
「レーダーが効かないようね。上空からの位置情報も狂いに狂っちゃってまぁ……これが精霊の仕業ってことかしら?」
水之江はレーダーのみならず『ワダツミ』との通信も途絶していることを知る。
視界には強襲揚陸艦の姿が見える。
それほどに至近距離だというのに通信ができない。
つまりは、精霊の力を使えばジャミングができるということだ。これは面白い。そして、シャリスはどうやら精霊に干渉する力を有しているようだ。
技術大系がある。
その事実に水之江は内心ほくそ笑む。
魔法であれ何であれ、それが技術であるというのならば解明することができる。
ましてや大系があるのならば、その原理を知ることもまた可能だということだ。
そして、もう一つ水之江には打算があった。
見たところ、シャリスは無一文である。
バハムートキャバリアにも貨幣の概念はあるだろう。当然と言えば当然だ。
盗賊騎士が悪徳領主を相手取って人質の身代金を要求するくらいだ。当然ある。であるのならばこそ、人の善意、情だけで世の中が回っているわけがない。
仕事には報酬を。
水之江にとっては当然であるが、他世界の人間全てが彼女と同じ価値観を有しているとは思えない。
であるからこそ、水之江はタダ働きはしない。
彼女の信条にも悖る。
だからこそ、普段の彼女を知る者からすれば、この行動は解せない。
無一文であろうシャリスの願いを二つ返事で引き受けたこと。
そして、聡い彼女がシャリスに仕事の対価を支払う能力がないことに気がついていないわけがない。
水之江博士の辞書に慈善事業という言葉はない。
つまり、彼女が求めているのはシャリスの体である。
語弊がある言い方であることは言うまでもない。というか語弊しかない。
そう、彼女はシャリスの願いを聞き届ける代わり、体、即ち労働力でもって対価を頂こうというわけだ。
今回、彼女の人造竜騎を修復しつつ、そのデータを収集しようと言うのだ。
つまりシャリスは知らずの内に自身を担保に入れてしまったというわけなのである。
これはボロい。
水之江は内心笑むしかない。
他世界の文明、技術に触れる事ができた上に、恩が売れて、妖精族が鍛造に関わったという人造竜騎の真髄に迫ることができるのだ。
一挙両得どころではない。
そんな水之江の内心を知ってか知らずシャリスは森の奥へと進んでいく。
「これ全部が精霊の力に寄る隠蔽だっていうんなら、大掛かりが過ぎない? だって――」
水之江がこの森にやってきた目的を告げようとして、差し込む光に顔をしかめる。
光は森が拓けたことによって差し込むものであった。
そこは湖面広がる美しい畔。
光は湖面に反射したものであろう。
「あれがそうなの?」
「はい、あれこそが我が人造竜騎『アリコーン』です」
シャリスが示す先にあったのは、大地に蹲る鋼鉄の馬のごとき人造竜騎であった。
酷く損壊している。装甲のうちで無事な部分はなく、完全な形状を保っているのは額に装備された大尖角のみであった。
「『アリコーン』……」
「――!」
瞬間、蹲っていた『アリコーン』が嘶きと共に立ち上がり、水之江を威嚇する。
「あらら」
「大丈夫、この人は悪い人ではありません……善い人でもないけど」
「聞こえてるけどー?」
水之江の抗議の声が聞こえたが、シャリスは無理に立ち上がった『アリコーン』を再び大地へと横たえさせると彼女に振り返る。
「申し訳在りません。こうでも言わないと『アリコーン』は大人しくしてくれないのです」
「そ? なら早速、どれどれっと……」
水之江は大人しくなった鋼鉄の天馬に近づく。
端から見ただけで、損壊していない箇所を探すのが難しいと理解する。
まるで弾幕兵器を一身に浴びたような傷跡だった。
「手ひどくやられてるわね。翼も脚も……フレームまでいっちゃってるわ」
見立てでは、フレームじたいは外部からの衝撃というより、内部からの力によって歪みながら破損しているように思えた。
相当な無茶な出力を出した弊害であるとも言えるだろう。
「如何ですか」
「だめね。これは研究所に持って帰らないと手のつけようがないわね」
とは言っても、と水之江は肩を竦める。
「肝心の私に人造竜騎を触った経験はないんだけど」
実際に見てわかった。
人造竜騎は確かに鋼鉄の兵器である。
しかし、その走行の内部や動力といった部分に関しては、シャリスの語る所の精霊力が応用されているように思える。
これまで水之江は多くの世界の文明に触れてきた。
だからこそわかる。
天馬型タイタニアキャバリア。
装甲や形作るフレームなどはいくらでも修復する事ができるし、できるという確信がある。
だが、精霊力に関してはどうか。
「それでは……」
「まあ、私は天才だからなんとかするわよ。それじゃあ、『ワダツミ』に回収するけどよろしい?」
「お願いします。どうか『アリコーン』を頼みます」
「はい、お任せあれ」
水之江の瞳がユーベルコードに輝き、光が『アリコーン』に照射される。
みるみるまに『アリコーン』の巨体が眼前から消え去ったことにシャリスは目を丸くする。
「いまのはユーベルコード、ですか?」
「そう、水之江式万能回収術(ダイソン)ってね。便利でしょ。はい、回収完了」
「そうなのですか……」
シャリスは世の中にはまだまだ自分の知らぬことがあるのだと思ったかも知れない。
とは言え、傷ついた『アリコーン』が修復もできぬまま、此処に放置しなければならなかった現状を打破することはできた。
一先ずは、と胸を撫で下ろしシャリスは精霊たちに長きに渡る秘匿を助けてくれた礼を告げる。
「さっさと帰って仕事に取り掛かりましょうか……と言いたいところだけれど」
「何か問題でも?」
水之江の言葉にシャリスは首を傾げる。
「あちらはシャリスさんのお知り合い?」
水之江が示したのは『アリコーン』が蹲っていた湖の畔の先。
そこには苔生すようにして擱座した一騎の人造竜騎の姿があった。
打ち捨てられている、というのが正しいのだろう。
だが、苔むしているだけではないほどに、その形が判然としない。ハッキリ言って異形と呼ぶに相応しい姿であった。
かろうじて苔の合間から鋼鉄の装甲が除いているので、人造竜騎なのではないかと水之江が理解できるほどであった。
「あれは」
シャリスは呟く。
打ち捨てられた異形の人造竜騎。
その謂れは――。
成功
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