熾火は白銀に昌盛・クレッシェンド
●『セラフィム』
縁というものは不思議なものである。
生命は糸。
運命というものが紡ぐのならば、撚り合わせられるものである。糸は機織られ、様々な模様を描くだろう。
そして、鋏は運命を断ち切り、完結させる。
けれど、絆ぐことができる。
『セラフィム』――『絆ぐ者』と青空だけの世界で呼ばれた鋼鉄の巨人は、青き熾火でもって人の心を繋いだ。
故郷を失いたくない。
大切な人を失いたくない。
生命を失いたくない。
失いたくないという願いが、人の心をつなぎ合わせ、増幅させた。
その光景を見た者もいるだろう。
故に『セラフィム』とは星の海征く世界にて生まれながら、正しく多くを繋いできた。
生命が糸であるというのならば、紡がれた織物の描く模様は如何なるものであっただろうか。
ヴェーダが長き時を経て伝えられてきたものであるというのなら、きっと人と人とが織りなすものこそが物語となるのだろう。
故に縁は、また一つの結実の時を見せる。
青い瞳が見上げるのは、バハムートキャバリアの辺境にて擱座した鋼鉄の巨人であった。
青き装甲を持つ人造竜騎。
激しい戦いの痕が残っている。
痛々しいまでの戦いの痕だと薄翅・静漓(水月の巫女・f40688)は思ったかもしれない。
「あなたも」
呼びかける言葉に擱座した青い鋼鉄の巨人は応えない。
乗り手……辺境伯『ラーズグリーズ』は、狂気に囚われ多くを傷つけた。
事件の顛末は彼女の知る通りである。
眼の前の朽ちゆく定めの人造竜騎は応えない。
すでにそこに意志はない。
あるのは狂気の残骸のみ。
「人造竜騎『エイル』……あなたも、壊れてしまったのね」
悲しみは涙で全てを圧壊する。
自身も周囲も壊す。
そういうものだと静漓は知っている。
だからこそ、人は奇蹟に縋ってしまう。けれど、越えてはならない一線もある。
「けれど、本当にあなたは終わりなの? 本当に断ち切られてしまったの?」
答えはない。
けれど、それでもと静漓は思う。
炉を失った青い鎧の巨人は、もはや生きているとも言えないだろう。そもそもが生まれてすいないのかもしれない。
静漓は青い瞳を一度伏して、意気を吸い込む。
己が身に宿る力がある。
悪魔召喚士としての力。
決然たる意志があった。運命の糸が断ち切られたというのならば、絆げばいい。
「私は薄翅・静漓」
名を告げる。
満ちる力は、彼女の眼前で水球となって媒介となす。
周囲の大気が揺れ動き、さざなみのように広がっていく。生まれながらにして纏う羽衣が風に遊ばれるようにしてたなびき、水と月の魔力を宿した宝珠が光を湛えていく。
心の撃鉄を起こす。
想いが形になることを静漓は知った。
教えてもらった。
誰かと共に過ごした時間が、彼女に縁というものを育む。
『君が思い描く』
それは桜舞い散る世界の海と空。
白銀装甲の巨人。
鋼鉄の人型戦術兵器『はじまりの』『セラフィム』が静漓の眼前に召喚される。
その煌きは、まばゆいものであったことだろう。
聖堂戦艦『アギア・ソフィア』に配されていた一騎。
そのアイセンサーが静漓を見下ろしている。
「水月の巫女にして悪魔召喚士。探求と願いを心に宿し、光を求めるもの」
召喚された『はじまりの』『セラフィム』は、その白銀の背を静漓に向け、朽ちゆく定めの人造竜騎『エイル』へと向き直る。
『君が作る』
静漓は不思議な想いであった。
己の中にこんなにも多くの感情が渦巻いている。
感情の奔流は何処か温かなものだったように思えてならなかった。人というものは、いつだって自分の想像を越えていく。
幼き子たちが自分の手を取ったあの日のように。
「あなたもそうなのね。『はじまりの』『セラフィム』。己の目で真実を見極め、成すべきことを成す為に。たとえそれが、茨の道であっても」
静漓は理解した。
己の召喚の力によって何故、『はじまりの』『セラフィム』が現れたのかを。
何故、『はじまりの』なのか。
単純に戦術兵器としての第一世代だからというだけではない。
『はじまりは』いつだって、生命の手の中にある。
数多の生命が織りなす、果てなき無限の物語。
それを知るからこそ、『はじまりの』『セラフィム』は人造竜騎『エイル』の駆体に手を伸ばす。
傷ついた駆体に溶け合うようにして白銀が混ざり合っていく。
融合していく。
混ざり合うようにして、二つが一つになり、そしてまた二つに分かたれる。
一つは青い光となって世界の外に飛び出す。
炉を失い、それでも戦いの記憶を内包するままに。
そして、一つが静漓の前に残された。
「あなたは往かないの?」
応える言葉はない。
けれど、その白銀の光は静漓の眼の前に佇むようであった。
「形がほしいのね」
『はじまりは』いつだって、己の心のなかにある。
なら、と静漓は己の手にある『青のダイモン』を見つめる。
どうしてこれがここにあるのか、などと言うまでもない。
この時のために、あの出会いはあったのだと思えたのだ。
「……わかったわ」
きっとそれが『青のダイモン』を作った縁であるのだろう。
「二本の足は進むためのもの。二本の腕は明日を掴むためのもの。なら、あなたは」
『青のダイモン』が静漓の手から浮かび上がって白銀の光の中に溶け込んでいく。
残された一つの光は、静漓が思い描き作ったものと再び合わさっていく。
それは撚り合わせられるようでもあり、また同時に織りなされるものであもあった。
静漓は己の手に鋏があることを知っている。
契約とは、そういうものだ。
「あなたは形がほしい。私は、倒れずに……進むための力がほしいの」
静漓の瞳が白銀の光を見上げる。
「私と魂の契約を結びましょう『セラフィム』。あなたにも果てなき無限の物語があるように、私も進みたいの」
だから、応えて。
想いは熾火。
白銀の光は昌盛する。
徐々に大きくなっていく光。
膨れ上がった光が炸裂するようにして晴れた時、静漓の眼前に立つのは、一騎の白銀の鋼鉄の巨人だった。
いや、装甲に乗る色は白銀のみにて非ず。
青い色のラインが装甲の上に走るようにして引かれている。アイセンサーが煌き、静漓ヘと手を差し伸べる。
コクピットハッチが開き、彼女を認めるようだった。
「ええ、往きましょう。共に」
静漓は乗り込み、眼前にサイキックロードが開かれるのを見ただろう。
機体に満ちる熾火は未だ小さくとも、徐々に大きくなっていくだろう。運命というものが撚り合わされ、織りなされ、紡がれていくというのならば。
頭部の額に刻まれている、その名は『セラフィム・クレセント』。
どの世代にも属さぬ『セラフィム』は『今』、誕生した――。
――――
形状:サイキックキャバリア
アイテム名:セラフィム・クレセント
アイテム説明:白銀の装甲に走る青色を持つサイキックキャバリア。世代分類されぬ当代のみの機体。
――――
成功
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