幸いにも空は澄み渡っていた。
冴えた冬の夜気が、地上を照らす幽かな灯りを明瞭とさせる。枯れ始めた草を踏みしめながら、北十字・銀河(星空の守り人・f40864)は空を見上げた。
「冷え込んできたな。でもこの時期の星空は本当に綺麗だ」
独り言が白い息に乗って星空に消える。その瞬きの一つさえ捉えられる小高い丘は、初めて訪れたときから銀河の心を捕えてやまない。
マフラーを持ち上げた。初冬の空気はコートの下にも染み入るように冷たい。
土から這い上がる冷気を遮断するシートの上に、柔らかな毛布を敷く。上に寝転がれば満天の光が目に飛び込んだ。
おおいぬ座、小犬座、ぎょしゃ座、ふたご座、牡牛座――そして、ひときわ輝くオリオン座。見慣れた星々の描く絵をなぞりながら、彼の指先は絶えず身に付ける金色の十字架を握り締める。
捧げるのは祈りではない。今年もまたここで空を見上げることが叶った感謝だ。
故郷で戦い続け、ようやく平和を勝ち取った末にここに来た。小さな差異が大きな変容を生んだ、故郷によく似たこの地で新たな仲間を得て、番犬は猟兵となった。
そうまでしても剣を握り続けた理由は一つだ。
命ある限り人々を、生命を守る。剣の師が遺した言葉をまた脳裡に繰り返し、銀河は己に問いかける。
果たして己は、その遺志を遂行出来ているだろうか。
平和を知ったのはほんの僅かのことだ。ヘリポートに現れた異世界へ飛び込み、その先にあった戦禍を目の当たりにして、彼は再び獅子の剣を握ると定めた。
再度重ねた研鑽を以て対峙した敵は数知れない。幾度か身を投じた決戦は嘗て銀河が経験したそれとは勝手が違っていたが、それでも星の加護を受けた剣で未来を切り拓いて来た。
それは、これからも変わりはしないだろう。
浅い息と共に体を起こす。広がる夜空にある狩人を真っ直ぐに見据えた銀の双眸が、星々の光を受けて煌めいた。
――オリオンよ。
美しく均整の取れたその輝きを知らぬ者はないだろう。なればこそ銀河はかの狩猟者に祈るのだ。
誰もの目に留まる彼がまた、地上より彼を見上げ指差す全ての命に祝福を授けるように。
仲間が同胞達が、そして何より生きとし生ける者が憂いなく過ごすことができる様、心から願い申し上げる――。
ゆっくりと伏せられた瞼を風が撫で、白い吐息が凛然とした空気に融けていく。
ひたむきな願いに応じるように、赤青の光が強く瞬いていた。
成功
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