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魔穿鐵剣外伝 ~無尽心炎~

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百海・胡麦
●魔穿鐵剣外伝
●今回の件の紹介者・イージー殿【f24563】との
 立ち合い。試し斬りや手合わせを
 二本立てでお願いできたら幸いです。
 文章量の配分はお任せします。

 御相手様が新しく刀を作らない分、また
 剣術のセンセでもあります旦那様ゆえ
 イージー殿の活躍を存っ分に描いて戴けると
 大変、喜びます!!!

 『負傷OK』
 UCや服装・アイテムは公開してあるもの御自由に。


【魔穿鐵剣外伝】

初めまして。百海と申します。
此度は刀鍛冶殿に、
――是非、己の為の一刀をお願いしたく存じます。

侍の刀らしい長物を欲しく感じています。
普段、
身長を超える重く丈夫な鉄塊剣を扱いますゆえ
太刀くらい丈夫で重いものでも結構ですし、
『焔を武器や切先に纏わせる闘い方』も
よく致しますゆえ。
おんなが扱う、
鞘から抜きやすい長さの刀でも面白く感じます。

剣術のセンセであり、伴侶である硝子剣士。
イージー・ブロークンハート殿より
噂と刀鍛冶様の腕前を聞いて来訪。
依頼した形になります。

アタシ、百海・胡麦は焔の妖。
道具遣い。
西洋の泉と森が美しいちいさな島国で
血みどろのなか、狼に似た大妖に育てられました。

育て親のその人は、戦の中で命を落としましたが、彼の犠牲によって戦が鎮まり、
生き永らえ――何のために生きたらよいかわからず、復讐を避けるため遠くへ渡った。

着いた先がちょうど侍のいなくなった頃の、
東国の港町。
そこで癒やされ、
使命として見つけたのが『古道具の修復と持ち主を見つける事』です。


仔細はお任せいたします。
思うままにどうか。

妖の焔に耐え、力を引き出す逸品を。
お願い申し上げまする。



【立ち合い】

●イージー殿について
大変うつくしい剣筋、
自由で柔軟な身のこなし。楽しむことの天才。
明るくも昏くも、鋭く艶のある戦い方をする御方。
そして泣いてもめげません。
次の瞬間、笑顔で喉元を狙ってくるひと。不意を打つとかでなくただ貪欲に、相手への尊敬と闘いへの渇望・ひりつき。
その真っ直ぐさが生み出す剣と思っています。

普段やさしい彼の、
ぞくりとするほどの輝き。
その強さが好きですし、惚れたきっかけですし。同じ猟兵として彼を尊敬しています。

●闘い方
形や性質を自在に変えられる焔『息名』と魔術が基本。
刀については
鉄塊剣は盾にしながら振り回していたので
しっかり刃筋を立てた斬り方は、イージーセンセに習ってから覚えました。
アタシから願い出て、
実戦形式、いのちの取り合いの形で習っています。

今回も彼が刀を持てば、同じ心持ちでしょう。

その艶やかな強さが大好きですし、
近くで見たいが為に、剣の腕を磨き始めた節があります。

●妖刀に対して
念願の自分の刀!
サムライの刀!
焔に耐えるうつくしい刃筋……うっとりと見惚れると思います。
はじめましての手探りと
すうっと馴染む手触りへの驚き。
好い子なところと聞かん坊なところ――両方を見つけ喜び、楽しむ。
対話しながら大事にする。時をかけて仲良くなろうね。
そんな心構えです。


●やり取り
基本お任せ。
念願の自分の刀を手に、此度、貴重な機会に導いてくれた愛しいひと。
憧れの剣士の前に立てる。
血湧き肉踊る。
期待と白地図を色づける喜びにある思います。
イージー殿を主眼に組み立てて戴けると嬉しいです。

「はいな、艶やかな侍の御方」
「――喜んで」
「刀を振るうは、あなたが煌めきを近く浴びたいが為」
「ふふ。まあね。けど――だいぶ本気よ」

術師の癖で、あたまでっかちな面もあります。
身体能力と勘でぎりぎりカバーする感じ。
彼の攻撃を予測しながら、意表をつかれれば驚き、喜び
琥珀の瞳と口元を笑みに染めて
負けず嫌いに迷いなく向かっていきます。
相手は緩急をうまく使うひとです、力の競い合いだけでなく身体も使って隙を狙います。
強くいなして欲しい気持ちと
一矢報いたい気持ちが常にない混ぜに。

全力でぶつけ合える相手と思っています。


煙MS様の筆で描かれる
活き活きと格好いい、イージー殿の姿を見たいです!!!


イージー・ブロークンハート
●魔穿鐵剣外伝

●胡麦【f31137】さんの刀の完成後の登場
 隠れ里の付近などで、試し切りの立ち合いノベルをお願いします。
 胡麦さんの妖刀の試し切りなので、
 普段装備している硝子剣ではなく、壊れても良い刀などをお借りできたらと思います。
 勿論、いつも戦いに使用している硝子剣の描写でも構いません。
 筆の進むままにアドリブいただければ嬉しいです。

●今回経緯について
 胡麦さんがかねてから刀を探していると知り、妖刀匠『永海』の一派を知り彼女に勧めました。
 知った経緯は自身でも構いませんし、
 以前お世話になったグリモア猟兵さんから教えてもらったのでも構いません。

●胡麦さんについて
 基本呼び捨てですが、ふざていたり明るい時はこむたんと呼んだりします。
 口調もいつも通りですが、ふざけているときなどに「ござる」をつけたりなどします。
 しなやかで美しいながら、炎のような苛烈さを煌めかせる戦い方をすると感じています。

 胡麦さんの普段の戦い方は主に術や炎がメインで、
 鉄塊剣は力任せに振るっているだけとご本人からは聞いていましたが、
 飲み込みのはやさや術などを使用するときの身のこなし、
 妖であることや出自からの動体視力など
 刀、もとい剣術に対する素質は十分にあると感じていました。
 今回妖刀を得たことでその才能が一気に開くのではと感じます。
 彼女なりの剣が得られたのだと。

●立ち合いについて
 妖刀が無事できたのならよかったな、と笑い
「しからば」「妖刀刷かれたそこな剣士殿」
「其方大層な腕前とお見受けし、手前と死合をば願いたく候」
「ほら、試し切りは要るだろ?」
 と軽い調子で仕合を申し出ます。
 ただし戦闘はほとんど殺すつもりです。
 負傷等は厭いません。
 胡麦さんの苛烈なところも、惚れた要素の一つです。
 妖刀には不意を打たれて驚きや関心を大きく示します。
 何度か打ち合ったら満足し「参った!」と武器を先に納めます。
 オレだってこむたんが新しい妖刀を得るところと妖刀でかっこいいところが見たい!!!!!(大声)

●戦い方について
 サムライエンパイアで人斬りを仕事にしていた流れの老人に師事、
 旅に同行していたので刀の扱いは勿論、人を斬ることに慣れています。
 また、胡麦さんにも「自分から贈れるもの」のいちばん最初にその技を教えています。当時…さしあげられる手持ちがこれしか…なくて……。

 由緒正しい道場剣術というよりは、蹴りや砂掛けも厭わない殺法の戦い方をします。

 通常使用する武器である硝子剣を使用する場合は、
 くだけたり割れたり破片が散る性質を利用して目眩しや散弾式の攻撃、
 真っ二つに折れた硝子剣を利用した双刀などでの攻撃を行います。
 ユーベルコードのような呪いの力や術などは使わず、剣の者としての技術のみです。

もしよろしければ、お願いします。



 サムライエンパイア広しといえど、二度大規模にオブリビオンの標的となり、猟兵によって助けられたむらというのもなかなか無い。その中の一つ、|永海隠里《ながみのかくれざと》とくれば、一部の猟兵には『ああ、あそこか』と名の知れた、鍛冶師の里である。
 かつて数々の難事件を予知したというグリモア猟兵が案内したうち、二件ばかりの舞台となった村だ、と――その難事件のうちひとつの当事者であるところの、イージー・ブロークンハート(硝子剣士・f24563)は語ったものだ。

『そのうち行ってみたいと思ってたんだ、……できたら事件のないときに! だってマジでキツかったんだよあの時!』

 此度そこを訪れたは、琥珀の瞳美しく、しゃらり鳴るよな銀糸を戴く、若く麗しい女が一人。|百海・胡麦《ももみ・こむぎ》(遺失物取扱・f31137)と名乗った女は、出迎えた鍛刀総代――“十代永海” 永海・|鋭春《えいしゅん》の案内で鍛冶場に通され、鎚音騒ぐ中で、その鍛冶と引き合わされた。
「んん? 総代、儂の出番か?」
「ああ。頼めるか、|頑鉄《がんてつ》翁」
「うはは、儂が猟兵殿の頼みを断るわけがなかろうて!」
 小柄だ。ともすれば胡麦と同じほどの背丈しかないかも知れぬ。しかし、老いて尚盛んを地で行くかのよう、最早かなりの高齢であろうに、身に纏う筋肉はまさしく巌の如し。腕の太さときたらそれこそ胡麦の胴回りといい勝負だ。西洋の伝承にあるドワーフか何かのような体躯をしたその老人は、にかりと笑って胡麦に頭を下げた。
「初に目に掛かる、猟兵殿。儂はこの里の筆頭鍛冶……そうさな、一〇余人ほどいる、『|妖刀地金《ようとうじがね》』の扱いを極めた鍛冶衆をそう呼ぶんじゃが……その一人。緋迅鉄筆頭、永海・頑鉄と申す」
「これは丁寧に……初めまして、頑鉄殿。アタシは百海・胡麦と申します。此度は是非、己のための一刀をお願いしたく参じました」
「ははっ、丁寧というならお前さんも大概なもんじゃて! して――儂に用命ということは、炎の刀が欲しいとお見受けするが、いかがかね?」
「!」
 ここに来て胸中を言い当てられ、星のような瞳を丸く瞠る胡麦、「何故、お解りに?」と問い返すが、頑鉄は笑って鋭春を顎で示した。
「総代は格別に鼻が良くてなあ、大抵、適した地金の遣い手の元に猟兵殿を案内してくれるのよ。……まあ、言われてみりゃあ儂にも分かる。お前さんが、|炎気《えんき》を帯びているということは。我ら永海が扱う妖刀地金は、あやかしの血肉を鋳込めた金属。それを使って刀を打つのが仕事故、あやかし由来の属性――『気』というものには、格別鋭くなるものなのよ」
「なるほど、それは、また――凄まじい。そうなるまで、並大抵の修練では無かったでしょうに」
 胡麦とて古道具に|所縁《ゆかり》あり、その修復に腐心する身である。『作り手』がモノに込める思いは並々ならぬと知ってはいたが、この里の鍛冶師もまた――深い洞察と理解、そして献身を以て刃を|鍛造《つく》っているのだと、容易に知れた。
「鉄と遊んでいるときが何より楽しいゆえな、苦労のことなど忘れたわ! それで――胡麦殿、じゃったか。此度はどのような刀をご所望で?」
「今回は……そうですね。侍の刀らしい、長物をお願いしたく」
「長物。そうじゃな、猟兵殿の刀は、常人のような理で長さを決めずともいいとは知っているが――どの程度のものが良かろうか?」
「普段、身の丈よりも長く重い物を扱いますゆえ、その程度までならば自在に」
「作りがいのある事を言いよるわい!」
 胡麦の答えに呵々と笑って、頑鉄は矢継ぎ早に胡麦に質問を投げかけた。
「では、普段の戦い方は?」
「魔術を少々嗜みます。剣を使ってのことであれば……焔を鋒に纏わせる闘い方もよく致しますね」
「ふむ、では、こちらに。――支障がなければ、実際に振るうところを少しばかり見せて戴けるかな。儂ら、|量産品《かずうち》はどうあれ、猟兵殿の握る一本ものは、成る|可《べ》く遣い手の腕に合わせて打つようにしておっての。……道すがら、胡麦殿、今までどのように生きてきたか、話せる範囲でいい、教えてはくれんか?」
「……私の話を?」
 戸惑うように目を瞬いた胡麦に、しかし、沈黙を守っていた鋭春が口を開く。
「剣とは、生き様だ」
 上背の高い男だ。胡麦からすれば声は上から響く。頤を上げた胡麦と目を合わせ、鋭春は静かに続けた。
「逃げてきたもの。戦いに明け暮れたもの。誰かを守ったもの、或いは失ったもの。思いの、感情の数にだけ、寄り添うやいばの形がある。――面倒と思うかもしれんが、我らの流儀に付き合うと思って、話を聞かせてくれはしまいか」
 仏頂面のその男が、けれども真摯に頭を下げるものだから、胡麦は恐縮を通り越し、笑い声を弾ませてしまった。
「っふふ……ええ。勿論。アタシの話でいいのなら、幾らでも」

 かくして、胡麦の話は始まった。演武を行うための|試斬場《しざんじょう》に歩き、着いて尚しばらく、続きをせがむ頑鉄に語ったものだ。
 焔の妖として生まれ、大妖に育てられ、守られて、けれども親代わりの妖を失い、失意の儘に東に渡った。行き場を失った古道具を生まれ変わらせ、新たな――或いは、元の持ち主を見つけることを今生の使命、生業と定めたその生き様。そうして生きる末に、いとしく優しい硝子剣士と巡り会い、その導きで今この場に立っているのだということ。
「――うはは、熱い熱い! 愛の話じゃなあ」
「あら、そんなにのろけたつもりはないのですけど」
「独りモンには聞かせられん話じゃったよ、剣士殿の下りはな。――どれ、儂の打つ緋迅鉄とどちらが熱いか、比べて見るも一興か!」

 頑鉄が見聞いたはたしかに、胡麦の人生という砂海、その一握に過ぎぬものかも知れぬ。
 それで十二分とは決して言えぬ。胡麦にも、話せぬ事、死ぬまで秘しておくべき、己ただ独りのためだけの想いがあったろう。
 しかしそれでも構うまい。足りぬ所は、鎚で補うべし。永海の鍛冶は今までそのようにし、猟兵のことを想って刀を打ってきた。
 此度も同じ。彼女の生き様、その焔、熱より、ただ一刀を導き出すべく――

「緋迅鉄筆頭、永海・頑鉄。――謹んで、一鎚献上奉る」




◆永海・頑鉄作 緋迅鉄 純打
   刃渡四尺 大太刀 |無尽心炎《むじんしんえん》『|赫麗《せきれい》』◆
 鮫皮巻を施された実戦本意の柄を持つ、朱く明滅する乱刃を持った大太刀。赤漆塗りで仕上げられた拵の、四尺(一二〇センチメートル)の長尺の刀である。身幅尋常ならず鎬高い剛刀ながら、遠目に見れば優美ささえ感じさせる美しい刀身。気品さえ感じさせる佇まいは、流石の永海の技と言ったところか。
 頑鉄の提案で、鍛える際の焔には、胡麦がその魔力で焚いた焔が使われた。それが使われた妖の血肉と共鳴したか、自らの意思持つかのように刃紋が明滅し続ける、まさに妖刀といった見目を備える。
 当然見た目ばかりではなく、今までは魔術、ひいてはユーベルコードを用いることで焔を熾し武器に纏わせていたものだが、胡麦が意念を込めるのみですぐさま刀身が焔を纏う。妖刀地金『緋迅鉄』とは意念を熱に換える鉄。それも、頑鉄の打った最上級のもの。意思と熱の変換効率は至上に近い。無論、ここに魔術を乗せ、熱を倍加することも叶おう。緋迅鉄は炎の鉄、幾ら熱そうとも鈍ることを知らぬ。

 胡麦の意思一つで、麗しきこの刃は、うつくしいほど真ッ赤に燃えて、対する敵を焼き断つことだろう!

 彼女が胸に抱くは、尽きること無き心の炎。|字《あざな》して、無尽心炎『赫麗』。
 この先も決して絶えじと、鍛冶が祈りを込めたもの也。




 そうして、そろそろできたものかと――イージーが里を訪ねたその日だ。
 果たして彼が案内されたのは、里の外れも外れ、万一にも何も壊すことのないよう設えられた、里の民のための訓練場だった。
 遠くから見ていてさえ、まるで龍の息吹のような赤々とした炎が幾度も空へと吹き上がっているのが見えた。それが、不思議と愛する彼女が放ったものだと理解できてしまい、自分の惚れ込みぶりに頬を掻く。

 訓練場で、玉の汗を浮かべ大太刀を振るっていた胡麦に、イージーは後ろから無造作に声を掛けた。
「そこな麗しき女剣士殿。その大太刀、尋常ならざる業物とお見受けした」
「!」
 虚を衝かれた風に振り返る胡麦。芝居がかったイージーの声にくすぐったそうに笑い、けれど意を汲んで颯爽と返す。
「はいな、艶やかな侍の御方。――是なるは永海の妖刀、銘を『赫麗』と申しまする」
「しからば、我が自慢の硝子剣とも打ち合えましょうな。――その大太刀を易々振るう業前、実に|御美事《おんみごと》。是非に手前と死合をば願いたく候」
 すらすらと、イージーの口から言葉がまろびでる。要は、試し斬りは要るだろ? と問うているのだ。
 イージーには確信があった。彼女は、「己は術理を持たず、鉄塊剣も力任せに振るっているだけ」と謙遜するが、そんなことはあるまい。少なくとも胡麦には、かつてイージーが教えた技があり、それに妖としての目の良さ、要領の良さ、身のこなしがあるはずだ。
 吹き上がる朱く美しい炎を見た瞬間に、それらが結びついて開花したのだ、という確信があった。彼女はここで、一振りの答えを得たのだと。
 それを一等早く、一等近くで見たいと思うのは――恋人として、いち剣士として、あまりに当然のことではないか?


 ――あのやいばと打ち合うならば、これを持って往かれなさい、猟兵殿。
 そう、永海・頑鉄と名乗ったあの老人が差し出した刀は、|炎羅葬送《えんらそうそう》『|紅影《べにかげ》』という名刀であった。
 最低でもこれがなくば、太刀打ちなど出来はすまいと、頑鉄が気を利かせ貸しだそうとしたものだったが、生憎イージーにも思い遣りと、そして矜持というものがある。
 ――出来た刀ごと、|オレ《・・》が、抱きしめてあげたいんだよ。それにそんな名のある刀を|毀《こわ》したら、弁償なんて出来ないからさ!


「是か、否か、いかに!」
 果たして謳うようなイージーの問いに、美麗なる炎のあやかしは、蕩けそうなほど熱い笑みで応えた。
「是非に及ばず。――アタシが刀を振るうのは、あなたが煌めきを近く浴びたいが為」
 ちろり、吐息に、陽炎の揺らめく。
「踊りましょ。あなたのやいばで、|命《アタシ》に触れて?」

 ああ、なんと眩く、炎の芯のように鮮やかな目よ。殺し文句とはこうしたものか。

「応とも。ならば、いざ、尋常に」
「尋常に――」

「「勝負!」」

 熱に浮かされるよう、狂騒に乗せられた如く。
 二者は己が刃を抜いて、一気呵成と踏み込んだ。


 イージーの剣は、凍てつくほどに冴える。
 かつて、『戦争卿』を名乗る悪魔と対峙した彼は、最終的に百メートルを超える“龍”の巨体を得たその悪魔を、手に握った脆くも鋭い硝子剣で断ってのけた。
 その時の技に、いささかの曇りもない。――否、かの時よりも遙かに鋭い!
 ガッ、が、キンッ、きき、ぎん、ぎりィッ! 刃と硝子が軋る軋る! まさかまさか、透明な、脆く儚いはずの硝子剣が、胡麦の剛刀と、互角真面に剣戟を奏で合う!
 単純な硝子の硬度はよくて鋼鉄程度、靱性を考えるならばその強度は比ぶるべくもない。鋼鉄は撓るが、硝子は折れ割れるのみなのだから! 
 どの一合で砕けても不思議はない、だのに決して砕けぬ折れぬ! いかなる術理か?! 遠間に見る里の民すら戦慄した、それは狂気の所業! イージーが繰る硝子の刃は、固くありながら、あまりにも|柔らかい《・・・・》!
「あッは、……!」
 上がる息のあわいで、胡麦は笑う。
 ――嗚呼、この剣に憧れた。
 刃筋を立てる、という基本を、何万打打ち込もうと決して崩さぬ。故に何より美しい剣筋。そうでありながら、硝子剣を決して砕かぬよう|太刀廻《たちまわ》る、柔軟な力遣い。手首と、肘、肩、その全てを柔らかく撓らせ――流すこと柳の如く、打ち込むこと雷の如く! 千変万化と姿を変える剣は、彼そのものを写し取ったかのようだ。柔らかいかと思えば鋭く。明るく優しいかと思えば、冷たく昏い。
 はて、硝子とは、あのように固くありながら、物質としては液体だという。だとするならば、この業前も道理というもの。
 優しく甘く、明るく朗らかで、けれども身につけた殺しの業は一級品。人を斬るために生まれてきたかのような技を、あのあまりにやさしいかおかたちの下に隠している――戀したおとこの有り様は、まさに明るく光る硝子そのものなのだ。
 撃剣凄まじい。細かく力加減を変えながら、しかし押し返して隙を作ろうとすれば舞うように避ける! 胡麦の、そして彼女に馴染んだ大剣を用いての闘い方を手玉に取る、硝子の剣の妙技が冴える!
 打ち合って数十合、しかして此度仕掛けるは、優位を取ったイージーだ!
「しィっ!!」
 肺を縮めるほどの呼気、放たれるは大振りの一閃。声とも言えぬ、声帯を掠めた息が奏でる殺意の音が宙を裂いた。鋭い響きと共に繰り出された一撃を、胡麦は辛うじて受けるが、受け太刀に合わせて硝子剣の刃が半ばまで砕ける。
 イージーが刃筋を過つ訳もない。――つまりそれは狙った損壊!!
「!!」
 胡麦が息を呑む間もない。
「穿て!!」
 イージーが命じた瞬間、砕けて宙に滞留した硝子剣の破片が、意思持つように胡麦の顔を目がけ降り注いだ。
 目を失えばこの剣鬼を前に応じる手なし! 片手で顔を庇い凌ぐも、手を穿った破片、飛び散った血が、刹那の間目を塞ぐ!
「っう……!」
 呻くも、イージーは止まらない。次の一閃が首を討ちに来るのが見える。本気で命を獲りに来ている。――本気で、アタシに、触れに来ている!
 はああっ、
 胡麦が吐く息は既に|焔《ほむら》。熱く揺らめく恋慕の吐息。
 いとしい男が、全力で、|殺《あい》しにくればこそ――本気で応えねば、無礼というもの。
 愛するあなたに、この|一刀《おもい》、いざいざご披露仕る。

 ――|謡《うた》え、赫麗。|御前《おまえ》に出来る一番の……晴れに相応しい、朱き炎で!!


 閃光!!


 その爆風ときたら、遠く永海の里のなかばにすら、熱く荒れる熱風として至ったものだ。
 無精髭を焦がすような熱い風に、嬉しげに、永海・頑鉄が顎を撫でた。


 凄まじい炎と熱風孕む一刀は、打ち合った瞬間に破滅的な爆風を撒き散らし、イージーを吹き飛ばして、覆いの柵に背中から叩き付けた。
 無論イージーとて、それを抜け一閃を打ち込むことは不可能ではなかった。オブリビオンが相手ならばそうしていたろう。――しかして、これが惚れた弱みというやつか。
 流れた血をぺろり舌で拭い、剛刀を両手に構えて身を捲いて振り被る。まさにほむらの化身の如き、猛くも美しいその姿に、瞬刻、見蕩れてしまったのだ。
 逆さになってずるり、べしゃ、前転の途中のような姿勢で倒れながら、イージーはおどけたように喚いた。
「――っはぁ、とんでもないな! 参った! こむたんの勝ち! オレの負け!」
「っふふ! イージー殿の刃が、あまりに|ひやり《・・・》と熱いものだから」

 ――心の一番奥に、冷たく刺さって、けれど何より熱く胸の奥を温めた、あなたのやいばが。

「つい、赫麗と|二人《・・》で、ムキになってしまいました。御免遊ばせ」
 照れたように笑う彼女は、いつもの通りにあまりに綺麗で――その刀と、深い縁で結ばれたのだと、イージーは身を以て知った。
 少し妬ましいくらいに、強い結びつき。――でもまあ、それも許してこその男ってものだろ。何より、彼女がこんなに嬉しそうなんだ。
 オレだって嬉しい。この里を案内したかいがあったって、そう思えるくらいの笑顔だったさ。
「ね、イージー殿。この里は山菜うどんが名物なのですって。帰り道すがら、一緒に食べとうございまする」
「はは、いいね。これだけ動くと、オレもちょっぴり腹が空いたかも」
 歩み寄り、胡麦が差し伸べた手を、イージーは確りと取った。
 立ち上がり、彼女の手を取り直す。……五指を絡めて、きゅうと握ったその手を、柔らかな力で彼女が握り返した。
 こそばゆい笑みで見つめ合って、歩き出す。

 かくして、彼女は新たな刃を得た。――屹度、稀代の硝子剣士にも劣るまい、無上の|刃金《ハガネ》を。
 ――往け、三十六の世界の涯てまで! 心に炎の燃える限り、赫麗は汝と共にある!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年11月19日


挿絵イラスト