出会いの秋、はじまりの一歩
似ているようだけれど、全く違うものなのだという、ふたつの世界。
自分達以外にもあちら側――「ケルベロスブレイド」からやってきたケルベロスが多い中で。
たまたま偶然出会えたのは、知り合いと同じ存在の猟兵。
だから、ステラ・フォーサイス(帰ってきた嵐を呼ぶ風雲ガール・f40844)は気になっていたのだ。
一部異なるものの、よく似ている世界であれば――同姓同名の知り合いや自分と同等の存在が居るかという事を。
いや、ステラ自身も、ブレイド世界で外宇宙へと旅立った後、何やかんやディバイド世界からやってきたナノナノに導かれて、猟兵として覚醒して。
そして、ケルベロスディバイドの世界へとやってきたものの、一回りどころか二回りも年の離れている若々しい姿になっていて。
そのような相違点はあるのだけれど……でも、それはそれでまた新鮮なもので。
ある秋の日、休暇でステラが足を運んでみたのは、賑やかな祭りの会場であった。
ケルベロスブレイドと、このケルベロスディバイドは、異なる世界だとはいえ。
夏の暑さも過ぎ、涼しくて過ごしやすい行楽の秋になれば、お祭り日和。
どちらの世界も同じように、毎年各地では秋祭りが開催されていて。
今回訪れたのも、人々の声で賑やかな、そんな祭り会場のひとつ。
そして、屋台が沢山並ぶ中を歩いていれば――ふと、ステラのアホ毛がぴこぴこ。
おやおやと思わずアホ毛を揺らしながらもステラが訝しむのは、見知った姿が目に入ったから。
その視線の先にあるのは、甘い香りが漂うお菓子の屋台。
それからそんな屋台の前で、ぱたぱたと焦茶色の尻尾を楽し気に振っている、ゴールデン・レトリバー犬ベースのウェアライダーの姿。
ステラはその姿を改めて、じいと見つめてみて。
(「どう見てもシルヴィアちゃんだよね?」)
そう確信すれば、お祭りを自分なりに楽しんでいる様子の彼女――シルヴィア・アンバーロン(魔犬で駄犬で怒れば猛犬・f40852)へと。
間違いないだろうと心の中では思いつつも取り合えず、まずは。
「もしかしてシルヴィア……ちゃん?」
フレンドリーさを心掛けつつ、ファーストコンタクトをかけてみるステラ。
そして自分の名前を呼んだその声を耳にすれば、ふいに顔を上げてから。
……なんで自分の名前知ってるんだろう、と。
友好的につとめようとするステラとは真逆の、警戒した視線を向けるシルヴィア。
だが、そう彼女が思うのも無理はないかもしれない。
うきうきと秋祭りの屋台を巡りつつ、楽しく遊んだり美味しくて甘いものをたくさん満喫していたところ……急に見知らぬ人が自分の名前を呼んで、声を掛けてきたのだから。
でも、シルヴィアちゃんかと訊かれれば、それはその通りだから。
警戒しながらも辿々しく、ばう、とシルヴィアは短く答えて。
そんな彼女の鳴き声は、自分が向けた質問を肯定するものであるということがわかったステラなのだけれど。
同時に、その様子を見て、すぐにこうも察する。
(「あっ、警戒される」)
眼前のシルヴィアは、どうやら自分に対して警戒心MAXな状態であるということを。
それはもう、ママ達の言いなりかと煽られたりなんてしたらきっと、自分の意思で警戒するよとなるぐらいに。
だから、その警戒を解きほぐそうと、軽く自己紹介をするステラ。
「あたしは、ステラ・フォーサイス。ケルベロスブレイドの世界からやってきたケルベロスだよ! 急に驚いちゃったよね、あっちの世界に居るシルヴィアちゃん……自分の知り合いとそっくりだったから」
自分のことと、それに嘘偽りなく素性も打ち明けて。
声を掛けた理由まで、警戒している様子のシルヴィアに喋ったステラなのだけれど。
だが逆にそれを聞けば、内心イラッとするシルヴィア。
だって、平行世界の自分の事を言われても、ピンと来ないし。他人のことでしょ? なんて思ったし。
それに、何よりもイラついたのは。
「……ばう」
ステラが、自分のことを。
(「こいつ 垢の他人の代わりを オレにさせる つもりなんだ」)
あっちの世界の自分とやらの、赤の他人の代替えにしようとしていると、そう思ったのだ。
だから……しつこい、と。
「あ、せっかく出会えたんだし、連絡先とか教えて欲しいな!」
顔面に今にもぐーぱんを入れそうになるレベルで嫌悪するシルヴィア。
この時のふたりは何せ、出会ったばかり。
きっと今後の付き合いで、またその気持ちや態度も変わってくるとは思うのだけれど。
今回はそんなふたりの、最初の一歩な出会いの時のお話であり――そう、初対面はこんな感じで、最悪であったのだ。
そしてステラは、その後もめげずにフレンドリーに話しかけるも、それでも警戒され続けて。
連絡先交換をあの手この手で、シルヴィアに避けようとされるけれど。
「何か困ったこととかいざということがあったら、連絡先を知っていたら安心じゃない? あ、それに、連絡先を交換したら……」
でもそこは、ケルチューバーとして活動するまでの社交性を発揮して、諦めずに声を掛け続けるステラ。
そして。
「ばぅ……」
もうわかったよぉ……と言わんばかりに鳴いた後。
ステラの言葉に結局折れ、連絡先を教えることにしたシルヴィアであった。
というわけで、交換するまで苦労したものの。
無事に連絡先をシルヴィアに教えて貰い、交換こしたステラなのだけれど。
これでふたりの距離も急接近?? すぐにぐぐっと距離が縮まった――なんていうことは、実はなくて。
秋祭り自体は楽しかったシルヴィアの記憶から、ステラと連絡先を交換したこと自体、しばらく忘れ去られていたのである。
そして、ようやく。
「ばう」
(「あ 交換していたこと忘れてた」)
シルヴィアがそう、やっとそのことを思い出して。
ふたりがまともに連絡を取れるようになるまで数日かかったなんてことは、また別のお話。
ということでまさに、初対面は最悪――対応が軟化する前の反応は、これくらいに酷いものであったのだけれど。
でもその後の、今のふたりの関係があるのは。
連絡先を交換できたと言っても、すぐに連絡はこなかったにも関わらず。
気長に待つのも女子力のひとつだと――そんなステラの、ある意味粘り勝ちであったのである。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴