天野・陽輝
ヴァンパイアにプロバンガンダとして音楽をやらされていた悔いから全ての財産と地位を投げ出して世界行脚の旅に出て、元々作詞者で作曲家な為、色んなところをまわって曲を作成し、演奏するのは楽しくあった。
かつて家を出た愛娘は一度対戦後に挨拶にきたが、粋で頼りになる旦那とともに生き生きとした活力に溢れていた。大きい娘と息子がいきなりきてびっくりしたが、とてもいい子たちである。
もう一度会いたいと思いながらふと闇の穴に突っ込むと何故か桜舞う異国の世界に出た。目の前が響の住む家だったのが運命の導きだったのか。
響はこの後小さい女の子と男の子も保護したらしい。太っ腹で世話好きなのは自分に似たのか。相変わらず歌は続けているようで亡き妻の志を継承して嬉しく思う。
孫が一気に四人、状況がおちつけばひ孫も望める状況に自分が幸せで泣きたくなる。故郷の皆の惨状に目を逸らしてたのに。
ああ、まずこの幸せな家庭のために曲を作ろう。娘家族になにもしてやれなかった自分と決別するために。自分はこの家族のために加護と鼓舞の曲を奏でるのだ。これからの人生は、さりげなく照らす太陽のように。
●明ける
歩みは止まらない。
今更止められないというのが正しいのだろうが、天野・陽輝(眩耀の曙光・f44868)にとって音楽とはそういうものだった。
生まれてからずっと音楽と共にあった。
望んでと思っていたことは全てが虚構であったと知った時には、多くのものが掌からこぼれ落ちた後だったけれど、それでも音楽だけは己の掌の中に残っている。
ただ音楽だけがあればよかったと思わない。
人並みに、多くのものがあれば喜ばしいことだと思っていた。
他の人間もそうだと思っていたが、そうではなかったと知ったのは、己の音楽が誰かのためではなく、誰かのせいであったからだ。
「そんな私もおじいちゃんか」
かつて家を出た愛娘が、大いなる戦いの後に挨拶に来たことを思い出す。
生き生きとした活力にみなぎっていた。
体の奥から音楽が鳴り響いているようだった。
何故かもう大きな娘と息子がいて、それなりに驚いた。
いい子たちなのだと思う。
けれど、これまで多くの生命の礎の上に安穏と暮らしていた自分にとって、それは眩しいものだった。
会いたいとは思う。
いつでも。
どの面を下げてとも思う。そんな懊悩を抱えながらも、会いたいという思いだけは募るものだ。我ながら身勝手だと思う。
「そう思っていたんだけどなぁ……まさか、あんなことになっているとは」
悔恨と懺悔。
心にあるものを音にして奏でる。そうやって今までの財産と地位を投げ出した。
贖罪にもならぬだろう。
全て放りだしてしまったとも言える。
身軽になった足取りは、憎らしくもリズムを刻んでしまう。
我が身に染み付いた音楽までもは手放せないらしい。
「まさか孫まで出来てしまっているとはなぁ……どういう運命の導きなのだろうか。あの子らも立派に育ってくれるといいものだけれど」
亡き妻を思う。
彼女のように、その志を受け継いでくれていたらと思う。
自然と涙がでそうになる。
涙を流す資格なんてないのかもしれない。
すべてを放り出した人間が、どうしてこんなにも多くを手にすることができるのだろうか。
何も持っていないからだと誰かが言うからかもしれない。
空の手にあるのは音楽だけ。
なら、他に手にすることができるものもあるかもしれない。
「なら、私は全ての家族のための、仮定のための曲を作ろう。そうだ。これからの私の人生は、そんな彼等の人生をさり気なく照らす太陽になりたい――」
成功
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