物憂げな視線を窓の外へ向けるのは九尾の白狐姫、夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)である。その物腰の美しさ、艶やかな毛並み、全てを見透かすかのような宙の瞳――その全てが白狐一族の至宝と呼ばれるに相応しいと、人々は囁き合う。けれど、どんな賛美の言葉も藍の心を動かすことはなかった。
藍が望むのはたったひとつ、息苦しいこの城から抜け出して自由に世界を旅してまわること。けれど、一族の姫として生まれた彼女のたったひとつの願いは今まで叶うことはなかった。
そんな彼女の楽しみは、この窓から城下町を眺めること。藍の瞳は見ようと思えば遠くの景色も目の前の出来事のように見ることができる、神秘の瞳。千里眼とも呼ばれるその瞳で、町の人々がどのように過ごしているのかを垣間見るのだ。
折しも今日は秋の豊作を祝う祭りの日、人々の笑い声が聞こえてきそうなほど笑顔に満ち溢れている。
「あら……? あれは何をしているのかしら」
人々が手に持っているのはランタン、その形は様々で花の形をしたものから星を模したものまでと多種多様。それらを手にした人々が願いを書いた紙をランタンの中に入れて燃やし、ランタンを川に流していく。それは遠目からでも美しく見えて、藍は千里眼を使わぬまま暫しの間その光景に見惚れていた。
「そうだわ」
ランタンなら、確かあったはずだと藍が部屋の隅に高く積まれた贈り物の箱をひっくり返す。
「確か……ああ、ありました」
南瓜の形をしたランタン、火を点けて手を離せば空を飛んでいくのだと言っていたはず。
「彼らのように川に流すことはできませんが」
真似事ならできるはずと、紙に願いをしたためて。
「いい風も吹いていますね」
部屋から通じるバルコニーへと出ると、藍がランタンに火を点けてそっと願いを書いた紙を忍ばせて燃やす。そして、煌々と光るランタンを両手に持ち空へと掲げ――。
「どこまでも高く、自由に飛んでいきなさい」
羽ばたく様に、と手を離せば藍の願いをのせたランタンが夜空へと舞い上がった。
それは川でランタンを流していた人々にも見えたのだろう、たったひとつ煌めく灯りが高く飛んでいく姿は気高くも美しく、まるで姫様のようだと歓声が上がった。
「いつか、私も」
あの光のように、高く自由に飛んでいく日がくるのかもしれない。
願いが叶う日を夢見て、藍はランタンの灯りが見えなくなるまで空を見上げたのだった。
成功
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