ジャック・コーデ
●トイツオック地方
イベントクエストに必須なもの。
それは言うまでもなくイベントアイテムである。
イベントアイテム、と一括りにするには味気ない。
だからこそゴッドゲームオンライン上にて活動するNPCたちは頭を悩ませ続け、潤沢とは言い難いトリリオンをやりくりして運営していくのだ。
マッチポンプと言えばそうである。
が、ゲームプレイヤーたちを楽しませることこそが存在義であるノンプレイヤーキャラクターたちは、必死である。
ヌグエン・トラングタン(欲望城主・f42331)もその一人だ。
だが、今回彼は慌てていなかった。
季節ごとのイベントが始まる前は、それはもう猫の手を借りたいほどの忙しさである。
12人の妻たちの手を借りても毎度ギリギリなのだ。
だが、今回は違う。
「そう、今回は違ぇのさ。ひと味な!」
ヌグエンと12人の妻たちは不敵な笑みを浮かべる。
そう、今回は秋。
となれば、来るイベントはハロウィンである。
ハロウィンと言えばジャック・オー・ランタン。南瓜の被り物。
モンスター達は、皆カボチャモンスターに扮して迫るゲームプレイヤーたちと、ドタバタと騒々しい戦いを繰り広げている。
「よっしゃ、これで! 終わりだぁぁぁ!!」
勢いよくゲームプレイヤーの一撃がカボチャモンスターを切り捨てる。
経験値とドロップアイテムが眼の前に表示されて、ゲームプレイヤーはガッツポーズする。
表示されているのは南瓜饅頭である。
「……なんで、この地方のドロップアイテムは饅頭なんだ?」
「春の時のイベクエのドロップアイテムは花見団子だったぜ。そういうもんなんじゃないのか?」
「花見団子!?」
「そう、花見団子。だから多分、今回のドロップアイテムの団子……えっと、中身がほら、カボチャ色してるだろ」
ほれ、とゲームプレイヤーの一人が饅頭を割って中の餡を見せるのだ。
はえーとゲームプレイヤーは安心したようだった。
「こういうのって、運営が決めてんのかね? 他の地方じゃあんまり聞かないけど」
「そうなんじゃねーの? でもまあ、オレもゲーム始めるまで餡ってなんだ? って思ってたんだよ」
「あんこ知らねーの!?」
「いやだって、人生設計図にねーもん。うち、洋食基本だし」
「そういうもんか。だったら、せっかくだし、此処で気分だけでも味わってけよ」
そう言ってゲームプレイヤーたちはヌグエンたちが用意したイベントクエストを楽しんでいるようだった。
「概ね好評みてーだな」
ヌグエンの言葉に妻たちが頷く。
彼女たちはドロップアイテムを作り出すのにかかりきりだった。
それが報われた瞬間なのだ。
よかったねーと互いに顔を見合わせたり、抱き合ったりしている。
そうしているとギルドの受付にゲームプレイヤーたちがやってくる。
「これ、ドロップアイテムなんだけど何と交換してくれんの?」
「あ、はい。こちらですね」
ヌグエンは組合員としての顔をすぐさま作って、愛想よくゲームプレイヤーの持ち込んだドロップアイテムを集計していく。
集めたドロップアイテムの数だけ景品が貰えることになっているのだ。
「総数が200個を越えておりますので、こちらですね」
そう言ってヌグエンが手渡したのは、ジャック・オー・ランタンのヘッドパーツだった。
分類としては頭部用防具である。
「兜? お面? どっちだこれ」
「うお、視界が塞がれる!」
「そりゃそうだろ。でも、ステータス微妙に上がるな……まあ、あんがとな」
「いえ、善き冒険を」
そう言ってヌグエンは笑顔を張り付かせて、ゲームプレイヤーたちがゲットしたアイテムの性能について語り合う背中を見送るのだった――。
成功
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