紅茶とモンブランは素敵の魔法
閑静な住宅街をひそりと賑わす青い屋根の館は、童話に出てくる魔法使いの家のよう。
榛名・真秀は大好きなスイーツで飾られたスマホを構え、『Nursery Rhymes』と看板に書かれた店の外観を写真に残す。最近ネットの口コミで話題のその店は、武蔵坂学園の先輩魔法使いであるイヴ・エルフィンストーンが開いた占いの館だ。
異国情緒ある扉をくぐれば、花と紅茶のいい香りが漂う。そして、青いドレス姿の店主が嬉しそうに真秀を出迎えた。
「イヴ先輩、お久しぶりです。お店をやってるって聞いて遊びに来ちゃいました」
「わあ真秀さん! ようこそですっ。学生の頃はなかなかのんびりお茶をできる機会もありませんでしたものね、すごく嬉しいです」
「本当ですか!? よーし、じゃあ今日は熱く語っちゃいますよ! スイーツを!」
久しぶりに会いたくなって占いの予約を取ってみたところ、イヴの方から「カフェのほうでスイーツパーティーもしませんか?」との誘いがあったのだ。この店では彼女の趣味で英国風カフェも一緒にやっているらしく、真秀としては勿論見逃せない。
「お店では大人の姿なんですね」
「そうなんです。ちょっぴり恥ずかしいです」
「いえ、どっちにしてもイヴ先輩はいつも可愛くて綺麗で素敵です!」
「真秀さんだって大人っぽいし可愛いじゃないですか! そのクッキーのバッグどちらで買われたんですか? 実は前から真秀さんのスイーツアクセ気になっていて……」
ファッションの話題にも花咲かせつつ、中庭の方へ移動すればカフェで紅茶とスイーツを楽しむ女性達が多く見られた。予約のプレートが置かれた席につくと、清楚な身なりの店員たちが紅茶とアフタヌーンティースタンドを運んでくる。
「すごいです、本格的ですね! これがイギリス式なんですか?」
「いえいえ、英国『風』ですから。リラックスして雰囲気を楽しんでもらえたら嬉しいです」
秋ということで、スタンドに乗ったお菓子も南瓜のスコーンや旬のフルーツを使った一口サンド、モンブランやキャロットケーキなど季節のデザートが中心らしい。わたしモンブラン好きなんです、と真秀は大きな瞳を輝かせる。ごろりと大きな栗が乗った茶色いモンブランは、西洋でよく見るクラシックスタイルだ。
「んー、黄色いモンブランも甘くて美味しいですけど、やっぱりこっちもいいですよね。栗の味が濃くて、いかにも秋って感じです」
「コメントが流石です……! 今は栄養士をされているんでしたっけ」
「はい! 秋のスイーツレシピも考えようかなって。イヴ先輩はスイーツ何が好きですか?」
「私もケーキが好きです! 秋の紅茶にはこのジンジャーブレッドケーキが合うんですよ。真秀さんもぜひ召し上がってください」
イヴに勧められたのは、生姜とシナモンが効いた少し大人っぽい味わいで、しっとりした食感のケーキだ。身体も温まるし、何よりカロリー控えめな所が真秀的にも嬉しい。葡萄や梨のフルーツサンドは果肉が瑞々しく、のんびり紅茶を楽しみながら食べれば話も弾むというもの。
「猟兵のお仕事にはもう慣れましたか?」
「全然です! イヴ、いえ私、遊んでばかりいるような……」
「ふふ、わたしだって少しずつですよ。スイーツ食べ放題な依頼に行って楽しんでます♪」
「どちらへ行かれたのですか?」
「ゴッドゲームオンラインとか、シルバーレインとか……アリスラビリンスやアスリートアースも気になってます」
「あっ、お茶会とキャンプですよね! そちらの世界なら行ったことがあります」
武蔵坂学園にいた頃は想像すらしていなかった別世界。そこで食べた珍しいスイーツの話や、再会した友人達の近況を語りあう。懐かしさと新鮮さが混ざりあうような不思議な感覚だ。
「妖精さんがお菓子をドロップするんですか? 争い事は苦手ですが、それは楽しそうかもしれません」
「わたしもキャンピーくんと一緒に遊んでみたかったです。キャンプでスイーツパーティーもいいですね!」
まるで魔法の世界のような話。けれど、これが今の灼滅者たちの日常だ。色んな世界の美味しいものを巡る旅――今までたくさん戦ったぶん、そんな風に捉えて過ごしてもきっと素敵な毎日が待っている。
「創良先輩が言ってました。わたしたちなんだかんだ変わらないよねって」
「ふふ、かもしれません。また一緒にスイーツ食べに行きましょう」
「あ、このマロンパフェ美味しそう! 追加注文していいですか?」
「栗、お好きなんですね……! では私はマスカットパフェを追加で。よかったらシェアもしましょう♪」
中庭を彩る秋の花々を背に、美味しそうな季節のスイーツを前に。真秀のスマホで撮影した一枚の写真には、青春の続きを楽しむようなふたりの無邪気な笑顔が映っている。
皆の幸せを願う魔法使いたちが描く未来は、占うまでもなく。
いくつ四季が巡っても、いつでも最高に幸せな時間が続いていくだろう。
成功
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