●五行
シャナ・コリガン(どこまでも白く・f44820)は仮面をつけている。
怪しさ満点である。
最近越してきた村落の人々は、そんな彼女の仮面に特に言及はしなかった。
もしかしたら、ひどい傷を顔に負っているのかもしれない。
他に事情もあるのかもしれない。
どれもが事実ではないかもしれないが、しかし、人には人の事情ってものがある。そういう意味では村人たちはわきまえたもの達であったのだ。
「怪しくないですよ!?」
そんな村人たちの雰囲気を感じ取ってシャナは頭を振った。
が、そりゃ無理ってもんである。
「いや、それは無理」
「本当に」
「むしろ、どの口がって感じ」
散々である。
「そんなー」
「むしろ、その感じで越してきて皆に挨拶回ってる度胸がすごい」
「いやぁ」
褒めてないからね、と村人たちは結構あけすけであった。
が、それも気を使わないでいい、と言外に言っているようなものであった。
気兼ねがない、というのはよいことだ。
気さくな人たちの言葉にシャナは頷く。
「そう言えば、噂で聞いたんですけど」
「ああ、あれ?『洞窟には幻の人造竜騎が眠っている』っていう」
「そう、それです」
シャナはちょっとわくわくしていた。
人造竜騎とは、人類最強の力。
架空の生物『バハムート』を信仰することで、嘗て百獣族を滅ぼすに至った力でもある。
今では、その非道なる行いを悔いて、人々は騎士道を持って内なる凶暴性を律しているのだ。
シャナは妖精である。
聖なる決闘に参加できぬ人類を哀れに思って、人造竜騎の鍛造を手助けした妖精族。
その咎によって妖精族は百獣族の地位を剥奪され、獣騎への変形能力も失ってしまった。
けれど、彼女は永遠の時の中でも寂しさを感じない。
なぜなら、見えぬ精霊たちがいるからだ。
「噂だし、村のじいさまたちが酒飲んで、たま~に語るくらいの寝物語にもならねぇやつね」
「そうなんですか?」
「そういうもん」
「でもでも、もしかしたら本当って話も」
「あるかもしんないけど、多分ない」
「そんな――」
●邂逅
シャナは越してきた村に馴染んでいた。
依頼されれば、様々な模造品を作って見せた。思いの外、これが村人に大ウケであった。
何も作るのは人造竜騎ばかりではない。
生活必需品だって作れてしまう。
となれば、あっちやこっちから引く手あまた。
日々の忙しさは心地よいものであったし、そういう仕事は好きだった。
今日も納品ついでにしこたま飲んできた。
「あ~月が綺麗ですね~」
となれば、寄り道回り道ってものはするものである。
「あれは……? あんなところに洞窟ってありましたっけ?」
なかったよね? あれ? 酔いが回り過ぎている?
なんか二重に洞窟が見える。其れは酔っているせい。
「まあ、いいや! なんか気になります!」
シャナは月明かりを頼りに洞窟の中を進む。
洞窟の中は、所々が崩落していた。崩れていないのが不思議なくらいであったが、それはどうでもよかった。
酔い任せの足取りとは言え、自分がどうしてこんなに迷いなく進めるのか不思議であった。
『――』
「え……?」
精霊たちが囁く声が聞こえる。
いや、違う。これは。
『――』
男性の声。
月明かりに誘われるままに見上げれば、そこに鎮座していたのは一騎の人造竜騎であった。
『――聳孤』
「それが、あなたの名前?」
頭に響く声にシャナは驚いを隠せないが、震える声でそう問いかける。
然り。
彼女の目をしても、眼の前の人造竜騎は構造が読み込めないものであった。つまり、普通の人造竜騎ではないということだ。
鍛造できない。
模造品が生み出せない。
それはシャナにとっては存在意義を奪われるような出来事であったし、己の足元が瓦解するような現実でもあった。
しかし、彼女はタダでは転ばない。
「呼びかけた、ということは、私を選んだってことですよね? 悔しいですけど、それは喜んでもいいってことですよね?」
勢いよくまくし立てるシャナ。
そう、自らに模造品が作れぬということがあってはならない。
眼の前の人造竜騎――麒麟キャバリア『聳孤』は鍛造できぬ。されど、自らを認めるのならば、調べまくっていいということ。
何故、鍛造できないのか。
何故、この場に座すのか。
何故、自分を選んだのか。
多くの謎が彼女の知的好奇心を刺激して止まないのだ。
「どれだけ此処にいたのですか? ああ、メンテナンスがいらないとか、そんなの嘘ですからね! 作られたものだっていうのなら、なおさら調べないと!」
まくし立てる彼女に王の資質を見たのは、何事にも全力で挑むからだ。
今もそうだ。
彼女は止まらない。
己が知的好奇心に突き動かされるままに、べたべたと『聳孤』の駆体を弄り回している。
「さあ、忙しくなりますよ! 鍛造できぬ最後の人造竜騎、麒麟キャバリア! その謎を私が絶対に解き明かしてみせますからね――!」
成功
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