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まんまるお月見、秋の宵

#ダークセイヴァー #ノベル #猟兵達の秋祭り2024

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朧・ユェー



ルーシー・ブルーベル




 ついこの間までは、燦燦と照る太陽が眩しいほどであった空も。
 ふと見上げれば高く澄みわたり、ふわりと金木犀の甘い香を運んでくる風が心地良い。
 いつの間にか色濃く感じられるのはそう、秋の気配。
 そして、朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)がルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)へと掛けたのは、秋ならではなこんなお誘いの声。
「ルーシーちゃんお月見しませんか?」
「なあに? ゆぇパパ、お月見?」
 そうユェー見上げつつも、ふと首を傾けるルーシーであったが。
「そう言えば最近はすっかり秋めいて空のお月さまも綺麗よね、お月見したいわ!」
 今日はまだもう少し時間が経たないと顔をみせない月を思い返してみては、すぐに大きく頷いて返して。
 お月見について、知っていることを口にする。 
「たしかお団子をお供えしたりするのよね?」
「はい、お月見は月を見ながらお団子を食べる秋の風物詩ですね」
 秋は最も月が美しく見える季節だと言われていて。
 そして月見に欠かせないものといえば――そう、団子!
 月を愛でながら団子をお供えして美味しくいただく、まさに秋の醍醐味である。
 というわけで、お月見を楽しむためにも、月が出る前にまずは。
「……のでお団子を作りましょう」
「はーい、ルーシーもお手伝いする!」
 お月見団子作りに、親子で挑戦です!
 そうと決まれば、早速キッチンへと移動して。
「お団子って粉から作るのね」
 もちもちで、つるんとしていて、まあるい……勿論、そんなお団子のことは知っているのだけれど。
 ゆぇパパが用意していく材料に、ルーシーは興味津々。
 そして材料などの必要なものを準備し終われば、ボールに粉を入れて。
 水を少しずつ入れながら、身体を使ってよく捏ねていくユェー。
 結構力がいる作業であるし、綺麗な団子を作るためには、最初のこの工程を確り丁寧にこなすことが肝心だから。
 それから、先程まで粉だったものが、もっちりと纏まってくれば。
「すごい、どんどん塊になっていくわ」
「ルーシーちゃんも捏ねますか?」
「やってみたい!」
 ユェーの声に勿論大きく頷いて返した後、ぐぐっと気合十分腕まくり。
 ルーシーもいざ、こねこねチャレンジ!
 ……なんて、張り切って臨んでみたのだけれど。
「……んんんん、本当に力がいるわ……!」
 思った以上に力をこめないと、上手く捏ねられなくて。
 頑張って力を入れつつも四苦八苦、思わず零れる呟き。
 ……パパはあんなにどんどん捏ねていたのに、って。
 そんな一生懸命な姿を見守りつつ、ユェーは柔く金の瞳を細めて。
「ふふっ、力を入れるのが大変ですが、大丈夫コネコネ上手ですよ」
「え? えへへ、上手に出来てるかしら」
 今度はふたりで仲良く、一緒にこねこね。
 そして、ボロボロしていた粉がきれいにまとまって、ボウルにも手にもくっつきづらくなってきて。
 コネコネ上手な親子の手にかかれば、生地も耳たぶより少し固めのちょうどいい具合に。
 ということで、次の工程は。
「捏ねたこの生地を少しちぎってまーるく丸めます」
 ――ころころころころ。
 こんな風に、と……まずはユェーが生地を丸めるお手本をみせてあげて。
「まーるく、まーるく……こう?」
「うん、まーるくなってますね」
「ふふ、楽しいわ」
 ころころころーっと、ルーシーも上手に楽しくパパの真似っこ。
 そしてふたり並んで、ちぎってはころころと、団子を次々と丸めていけば。
「どんどん丸いお団子が出来ていくのって達成感があるね、パパ」
「では沢山作りましょう」
 出来上がっていくのは、積み上げられたまんまるお団子たちの山。
 そんな作業を夢中でしていれば――ぴぃぴぃ、と。
 聞こえた鳴き声に、ルーシーはふと顔を上げて。
「う? どうしたの、黒ヒナさんと黒コさん」
 何だか困って何かを訴えかけているような、黒雛と黒子の様子に首を傾けるけれど。
「ぴぃ〜」
「お手伝いしたいの? 確かにそのふわふわな羽だと難しいかも……」
 そっくりな二羽が何をやりたがっているのかを察するも、うーんと考えてしまうルーシー。
 コネコネころころするには、ちょっとそのふわふわな羽では無理そうだから。
 でも、コネコネころころは難しいかもしれないけれど。
「ふふっ、二人は応援してくださいね」
 そんなユェーの言葉を聞けば、早速張り切って。
「ぴぃ!」
「ぴぃぴぃ!」
「ふふ、ええ! 応援も立派なお手伝いだから頼りにしてるわ」
「ルーシーちゃんも応援を喜んでくれてます、よかったですねぇ」
 黒雛と黒子もしっかりと、応援のお手伝い!
 そして、ぴぃぴぃと可愛い応援を受けながらも。
 後は、鍋に水を入れて沸騰させて、丸めた団子を入れて茹でれば完成だから。
「ルーシーちゃん、浮いたらとって氷水で冷やしてください。僕はお団子を作りますので」
 残りの生地を丸めるのは、ゆぇパパにお任せして。
 はーい! とお返事した後、お玉をしゃきん。
「……わ! 本当に浮かんできた! 不思議ね」
 ぷかっと浮いてきた団子をそっと掬って、言われた通りに氷水の中へ。
 それから再度、鍋へと目を向ければ。
「わわわ、どんどん浮いてきたわ!?」
 いつの間にか次々とぷかぷかいっぱい団子が浮かんできたから、慌ててまた掬って。
 せっせと熱心にルーシーが作業に勤しんでいれば……ふいにゆらりと揺れるのは、ユェーの身体。
 ユェー自身も、少しくらりとした感覚を覚えれば――次の瞬間。
「あぁ? また変なの作ってるな」
 ルーシーの耳に聞こえるのは、同じ声なのだけれど、先程とはちょっぴり違う響きの声。
 そして……あら? もしや? と顔を上げて、ルーシーはご挨拶。
「黒パパ、ごきげんよう!」
 勝手に表に出てきたらしい黒の性格のユェー、黒パパに。
 それからルーシーは、黒パパにもお誘いの声を向けて。
「今はお月見の準備でお団子作ってるのよ。黒パパもご一緒にいかが?」
「団子? そんな、めんどくさい」
 帰ってきた返事は案の定、いつもの調子だけれど。
「む、メンドウを一緒にするのがステキなのよ」
 面倒臭がっている黒パパに、そう続けるルーシー。
 でもやはり面倒そうに視線を巡らせてみた黒ユェーはふと、その目を或るのものにとめて。
 ルーシーも自然とその視線を追えば、瞬間、瞳を見開く。
 黒パパが何を見つけたのか、そして何をしようとしているのかが、わかったから。
 ――でも。
「……はっ、ふたりとも逃げ、」
「団子なら此処にあるじゃないか?」
「ぴぃ!? ぴぃ!!!?」
「あーー! 真っ白に!?」
 刹那その手を伸ばして、ガシッとユェーが鷲掴みしたのは――二つの黒い物体。
 それからもふもふと粉を塗されるのはそう、黒雛と黒子……!?
 そして真っ白なまん丸が二つ、出来上がれば。
「おい、ちびっこいのコレも茹でろ」
 黒雛と黒子……いや、今は白雛と白子になってしまった二羽を今度は、ぐつぐつ沸騰するお湯の中へ!?
 けれども勿論、そんなことをされるわけにはいかないと。
「ぴぃーー!!!」
「ぴぃーーー!!!」
 逃亡をはかる、白雛と白子!
 そして、そんな二つの白い物体を捕まえんと追う黒ユェー。
 さらに、二羽を助けんとルーシーも追いかければ……キッチンで繰り広げられるのは、ドタバタの鬼ごっこ!?
 それから暫く黒パパと追いかけっこの後、ルーシーはぎゅうっと、鳴いている黒雛と黒子を無事に奪還して。
「確かにまん丸だけど! もちもちもしてるけど! 黒ヒナさん達はお団子じゃないわ!」
 ぷんすか怒っていれば、めんどくさそうに……はいはい、と。
 返る声が聞こえたかと思えば、頭をわしゃわしゃとされて。
「……もう! 次はなあに? パパ!」
「おやおや、コレはまた派手に」
 黒雛と黒子についた粉を落としてあげている最中に顔を上げれば、瞳をぱちり。
「……あら? パパがゆぇパパに戻ってる」
 またいつの間にか、白の性格のゆぇパパに戻っていることに気づいて。
 そして、ドタバタ粉塗れな周囲を見回している彼に、ルーシーは先程の追いかけっこのことを告げれば。
「今パパが黒パパになってて大変だったのよ」
「ルーシーちゃんは大丈夫ですか?」
 状況を把握したユェーは、そう声を掛けつつも。
 白と黒という二面性があるが、記憶もそのままだし、どちらも自分ではあるものの。
「はぁ、構ってほしいなら素直に言えば……」
 娘の様に親馬鹿溺愛しているルーシーに、何だかんだで構っている黒の自分に、盛大に溜息を落とすユェー。
 いや、今の彼は間違いなく、白の性格……である、はずなのだけれど。
「黒パパはルーシーには何もしないわ、……多分」
「多分??」
 ぴくりと反応を示した後、にこにこ笑顔で続ける。
「何かしたら僕がお仕置きしておきますからね?」
 白パパなのに――後ろからのオーラが、とてもすごく黒いです!?
 そんな黒パパよりも黒くなっているかもしれない白パパに、ルーシーは目を向けて。
「もう、黒パパも白パパもパパじゃない」
 それから、まだ黒な白ユェーへこう続ける。
「お仕置きってどうするのか分からないけど、ルーシーに対しての事はしなくていいわ?」
 だって、ルーシーにとっては、白黒どちらも大切な父親だと思っているから。
 でも、それはそれとして。
「黒ヒナさん達にはもう少し優しくして欲しい所だけど!」
 意地悪もする黒パパには、ぷんすか物申したいこともある娘なのだった。
 そんな黒雛と黒子が危うく団子になっちゃうところだった、白黒パパと娘のちょっとドタバタな展開があったりもしたけれど。
 月見団子もばっちり完成して、夜空にぽっかりと月が顔を出せば。
 作ったお団子とお揃いのまん丸お月様が見下ろしているような、月光降る縁側に、ふたり並んで座って。
「わあ……お月様があんなに高い所に! 今日は特によく見えるわね」
 飾ったススキの穂が秋風に揺れる中、お月見のはじまり。
 勿論、見上げる月もうっとりとしてしまうほどに心惹かれるのだけれど。
「ルーシーちゃん、色んな味を楽しめる様に、餡子やみたらしを用意しました」
「わわ、餡子にみたらし、いつの間に用意して下さったの? うれしいわ」
 ユェーが用意してくれた餡子やみたらしで食べるお団子も、とっても魅力的。
 だから月を眺めながら早速、両手を合わせて――頂きます!
 そしてわくわく、はむりとルーシーが月見団子を口にしてみれば。
「おいしい……パパと一緒に作ったお団子、とても美味しいわ」
「美味しいですか? 良かった」
 ぱっと咲いた幸せそうな笑顔に、ユェーも笑み返した後。
 ぱくりとひとつ、娘と共に作った団子を食べてみて。
「ん、もちもちですね」
 やはりさすがのコネコネ上手、団子のもちもち食感に瞳を細める。
 それから、二羽用にも作っておいた小さめ団子をつんつんする黒雛と黒子とも一緒に、餡子もみたらしも両方の味の団子を楽しみつつ。
 ふと、小さく首を傾げるルーシー。
「そう言えばお月様とウサギってよくセットで聞くけれど、どうしてかしら」
 月といって思い浮かべるのは、団子やススキ……そして、ウサギ。
 でも、なんでウサギなのかまでは、分からなくて。
 そしてそんな姿を見遣りながらも、ユェーは娘の疑問にこう答えて返す。
「ルーシーちゃんお月様にはうさぎさんが住んでるのですよ」
「お月様にウサギが住んでるの?」
 その思いがけない言葉に、お団子のようにくるりと瞳を丸めたルーシーだけれど。
 ユェーは空に浮かぶまんまるい月をさしつつも、続ける。
「ほら月に模様がうさぎさんに見えるでしょ? うさぎが餅つきをしてるって誰かが言ったんです」
 ウサギがぺったん、餅つきをしているように見える月を指してあげれば。
「あの、少し黒っぽい所の形かしら。あそこが耳で……本当! ウサギさんに見えてくる」
 それからじいと、月の餅つきウサギさんたちを見上げながら。
 ルーシーが、ふふーと思わず笑みを零してしまうのは。
「お月様のウサギさんも今、美味しいお団子食べてるかしらね?」
 はむりとまたひとつ頬張った美味しいお団子を、自分達のように。
 月ウサギさんもいっぱい作って食べてるかもって、そう思ったから。
 それから美味しく楽しく、お月見をしていれば。
 ひゅるり吹き抜けるのは、すっかり涼しくなった秋の夜風。
 太陽が沈んだ夜は特に、寒さも感じるようになってきたから。
「肌寒くなりましたね、そろそろ、おや?」
 そう声を掛けたユェーの瞳に飛び込んできたのは――うとうとするルーシーの姿。
 もうお月様も空の真上にまでのぼって、いつもより夜更かしな時間になってきたから、目もしょぼしょぼと。
 でも、楽しいお月見は終わってほしくない気持ちもあって。
「寝たくないのに眠い……」
 そう必死に眠気に抗わんとするルーシーだけれど。
「ふふっ、今日は沢山頑張りましたからね」
 微笑みながらもユェーは甘やかす。
 眠そうな娘に、そっと膝まくらをして。
 睡魔に必死に抵抗していたルーシーも、こてんと身をゆだねてしまった膝枕の温みには敵わなくて。
 黒雛と黒子も、とてとてもふりと一緒に寝ころべば、もう時間の問題。
 だから、おやすみのかわりに、ユェーは告げる――月が綺麗ですね、って。
 そんな夢見心地の中、聞こえた言葉に、ルーシーは紡いで返す。
「パパと見る月だからよ」
 ――安心する場所、幸せな場所で見るからこそ、と。
 穏やかに意識を手放すその前に、何とか最後にそう応えて。
 それから、すややかに寝息を立て始めた姿と返ってきた言葉に、ふふっと笑って。
 ユェーは温かくて大きな手でそっと、彼女の頭を優しく撫でる。
 こんな穏やかに見られる月を、幸せな秋の時間を、噛み締めながら――『僕もですよ』って。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年11月07日


挿絵イラスト