美味探訪〜天津が繋ぐ芋煮の絆
霊峰天舞アマツカグラ。
巨大な二本の太刀を頂く火山、霊峰アマツを中心に広がる都市国家である。
エンドブレイカー世界における東方に位置し、その独特の風土から生み出される食文化に興味を示す者も多い。
フェリチェ・リーリエ(嫉妬戦士さんじゅうきゅうさい・f39205)もまた、そうした食通の一人である。
割烹着を纏い、故郷の村で小さなレストランを経営する彼女が働く姿が、今日ばかりはアマツカグラの端、共用炊事場にあった。
「さ、あとは煮るだけべ」
自慢の大包丁を振るってフェリチェが一口大に切った食材が、ざぁ、と順々に大鍋に流し込まれ、湯気に消える。
そのたびに煮え滾る湯からぷかりぷかりと顔を出すのは、里芋、牛蒡、キノコに蒟蒻。全て新鮮なアマツの幸だ。
ただし、これから作る料理の由来は此処ではない。
他世界における日本、東北地方などに伝わる『芋煮』である。
芋煮会──その謂れは多くあれど、親睦を深める行事として現代に至るまで、その命脈を保っている事は疑いようもない。春の花見と双璧を為すと言えば、それだけで親しまれぶりがわかるというものだ。
そうした噂はかねてよりフェリチェの耳に届いていたが、本日ようやく再現の機会を得たという訳だ。
「味付けは……醤油ベースにするべな」
芋煮の味付けは地域によって異なる。今回フェリチェが作るものは、系譜としては山形風に分類されるだろうか。
ただしその最大の特徴である甘めの醤油スープは、アマツカグラの醤油職人が作り出している。
(「そういや、今は醤油の仕込みに適した時期だって聞いたべな」)
他の世界の秋の風物詩を、生まれた世界の、それも異国の材料で作ってみる。これもまた料理人として良い機会と言えよう。
軽く煮立ったところで火加減を弱め、大量に出始めたアクを取り除きつつ、芋が柔らかくなるまで煮ていく。
酒を足せば仄かな米の香りが鼻をくすぐる。さらにかき回してネギと牛肉を入れ、最後は醤油で味を整えた。
と、その時、チンチン、と背後から音がした。
「おっ、来たべな」
四宮・かごめ。すでに畳座敷に座り、箸でお椀を叩いて催促している。
忍者がリア充に含まれるか否かは悩みどころかも知れない。
ただ、「それがしも陰の者にござれば」と答えた瞬間、フェリチェに芋煮会のメンバーに引っ張り出され、今に至っている。
「おつかい完了でござる」
「ご苦労さんだべ!」
そう言ってかごめが包みを取り出し、フェリチェに渡した。
「……さて! そろそろだべな」
おたまを手に取ったフェリチェがお椀に芋煮を注いでいく。
レシピ通りに切った里芋は適度に角が取れ、柔らかくなっている。
「いただきますだべ!」
手を合わせ、箸を取ったフェリチェ。一口啜り、そのまま手近な芋も口へと放り込んだ。
ほくほくとした食感に牛肉の旨味が絡む。同時に煮汁をたっぷり含んだスープが腹へと滑り落ち、二人の体を温めていった。
「はぁー、芋煮ってのは美味ぇもんだなぁ」
ご満悦のフェリチェ。芋煮はどんどん減っていく。
そして半分ほどになった所でフェリチェはかごめから受け取った包みを開いた。
中身は……カレー粉とうどん玉だった。
「……シメはカレーうどんだべ!」
カレー粉を鍋に投入してぐるぐる回せば、醤油が隠し味のカレーベースへと早変わり。
そこへうどん玉をぶち込み、芋煮の余韻を楽しみながら、しばし煮る。
それから再び器によそう。里芋が溶け出したカレーが、とろりとしたうどんに絡み、キラキラと輝いている様を楽しむと、二人は黙々と啜り始めた。
ただひたすらに箸が止まらない。そんなアマツカグラの昼餉であった。
成功
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