ティタニウム・マキアの跳兎
薄翅・静漓
お世話になっております
ハロウィンの夜に発生したオブリビオン事件に遭遇するお話をお願いしたいです
舞台は『サイバーザナドゥ』
事件や敵の詳細などは、書きやすい形でご自由に
戦闘が行われた際、オブリビオンとの決着はお任せ
倒せそうなら倒しますし、深追いは危険と感じたら引きます
マスターさまのグリモア猟兵やNPCの方の登場や共闘も歓迎です
装備やユーベルコードは公開中のものをお好きに使ってください
■静漓について
気が向けばどこにでもふらっと出向く性格
ただの好奇心、なにか予感がした、感傷や気がかりなことがあって、理由は等々
ハロウィンは好きですが、パーティピーポーのことはよくわかりません
人を守ること、を優先的に考えるタイプなので、事件の気配がすれば向かいます
■
あまり遊びに行ったことのない世界に出かけてみたくなりご依頼しました
お好きなように書いていただけたら嬉しいです!
●蠢動
「どんな巨大な象とて、身を蝕む病はどうしようもないものね」
『ケートス』と呼ばれる電脳ハッカー……それも『殺し屋』と呼ばれる人種である女性は電脳空間に在りて、現実世界にて起こりしことをつぶさに把握する。
いたるところで事件が起こっている。
彼女にとって価値がなくとも、彼女以外の誰かにとって価値があるものというのは当然存在していることを彼女は知っていた。
だからこそ、現実世界の防犯カメラ……この場合は監視カメラ、その一つに気になる影を見たのだ。
「……ん?」
彼女が見つめる一点。
それは巨大企業群『ティタニウム・マキア』の息の掛かったカクテルバーを映し出しているカメラが捉えた映像。
そこに映っていたのは、以前『ヤマラージャ・アイビー』と呼ばれる遅効性思考破壊プログラムを巡る事件にて姿を現した女性の一人だったのだ。
「何よ。あれって……え、まさか? ちょいちょいちょい!」
彼女は電脳空間から画面の中の女性に呼びかける。
当然声が届くわけがない。
今まさに女性が入ろうとしているのは『ティタニウム・マキア』傘下のヤクザ事務所が隠れ蓑にしているドラッグパーティ会場となったカクテルバーなのだ。
なんで?
なんでまたそんな場所にあんな人が?
「え、ヤバくない――?」
●ハロウィン・ドラッグ
薄翅・静漓(水月の巫女・f40688)は物静かな女性である。
容姿端麗。
瞳に映るのは青き月のような美しき色。
色白の肌は、あまりにも透き通っていて天女というものがいるのならば、正しく彼女のことを差すのだと誰もが理解する美貌を持っていた。
揺れる青銀の髪はあまりにも穢れを知らぬようであったし、またそうした彼女の姿が、今まさに足を踏み入れようとしているカクテルバーには似つかわしい容姿であることは語るべくもなかった。
「……」
静漓は、一歩入った店内を見回す。
煙ったような店内の雰囲気。
そこかしこから剣呑なる視線が静漓の体を射抜くようであった。
が、ヒュゥ、とまるで彼女の来店を面白がるような口笛が囃すように響く。
一人のむくつけき男がスツールから腰を上げ、静漓の眼前にやってくる。
「お嬢さん、俺の勘違いでなければ、あんたのような人はこういう店には縁遠いように思えるんだが? 間違えて入ったのなら、今のうちだ。回れ右してすぐに出るっていうのなら、俺も何もしない」
そういう男の言葉に静漓は首を傾げ得る。
「間違えてはいないわ。興味があったの」
いや、静漓は興味本位で、この店の敷居を跨いだのだではない。
ここで何事かが行われている。
その確信があったのだ。それは、彼女が見知った何かがこのバーのある路地へと入り込んでいく背中を認めたからだ。
彼女の視線が店内を走る。
店内はロフトのような構造を取っている。
一階フロアから見上げる先にある二階部分は此処から見通すことができない。
だが、サイケデリックな蛍光ピンクの靄が二階部分にたまっているところを見るに、乱痴気騒ぎが行われていることは容易に想像することができた。
その視線を遮るようにして男が体をずらす。
「初心なお嬢さんには刺激が強すぎる。これが最後だ」
警告は、と言うような男の言葉に静漓は頷く。
このサイバーザナドゥは彼女があまり訪れたのこと無い世界。
加えて、今はハロウィン期間中だ。
何処もかしこも賑やかで騒々しいお祭り騒ぎ。
「兎の被り物の仮装をした人を追いかけてきたの。見ていない?」
「あ? なんだって?」
「兎のマスコット……の仮装? をした人よ。このバーに入ったのを見たの」
「誂っているのか? どうやら痛い目を見ないと……」
気がすまないようだな、と男が呟いた瞬間、静漓の背後から音もなく近づいてきていた男が彼女の口元へと何かを含ませようと羽交い締めにしようとする。
だが、その目論見はすぐさま破綻する。
静漓は一瞬で、悪魔の加護を纏い、その背後から迫った男の腕を、するりと抜けて軽やかに身を翻す。
あまりにも軽やか。
体重など無いに等しいのではないかというほどの身のこなしで彼女はカクテルバーの一階フロアに立つ。
「穏やかではないわね。何を私に飲ませようとしたの?」
「そりゃ、気持ちよ~くなるお薬ってやつさ。頭がぶっ飛ぶほどのな!」
「ヒャハハ! 折角のパーティだからな。オンナの面子は多ければ多いほど楽しいじゃね?」
「ボスはお楽しみだしな!」
周囲の男たちも立ち上がる。彼等が視線を送るのは蛍光ピンクの靄かかる二階。
どうやら、そこに彼等のボスがいるらしい。
次なる展開など言うまでもない。
不意打ちが通じなかったということは、最早力ずくというわけだ。
それに呼応するように静漓に帰れと言っていた男も、一階フロアに屯していた男たちも一斉に襲いかかる。
女性の身であればどうしようもないほどの多勢に無勢。
だが、一つだけ彼等には誤算があった。
静漓が雰囲気だけの儚げな美女ではないということだ。
先程の不意打ちを躱したのはまぐれではない。
そう、彼女は猟兵である。
ユーベルコードに煌めく輝きは、しるべ(シルベ)。
「そう、そこにいるのね……追いついてみせるわ」
彼女が追っていた兎の被り物をした人物。
この店に入ったことのは間違いない。であるのなら、彼女が求めるのは、二階にしかいない。
そして、男たちがそれを阻むのならば。
「加減はしないわ。それに」
「なんだよ、それにって?」
「……パーティってどんなことか、私はわからないの」
だから、と静漓は迫る男たちを一瞬にして光の矢でもって居抜き無力化する。
あまりにも鮮やかな手並み。
「二階にいるのね」
「いや、もうその必要はないぜ」
二階から階段をゆっくりと降りてきたのは、亜麻色の髪の青年であった。
彼は肩をすくめ、小脇に兎のマスコットの被り物を抱えていた。
「あなた」
「ああ、これ? ちょっと可愛いだろ。兎。今日はハロウィンだからな」
「聞きたいのは」
「わかってるって。二階のボスだろ? もういないよ。アンタが来たってわかった瞬間、トンズラしていたよ」
おかげで、と亜麻色の髪の青年は肩をまたすくめた。
「『ティタニウム・マキア』に繋がる動線が、パァだ」
「それは、ごめんなさい」
「いや、別に謝って欲しいわけじゃあないし、アンタのせいではあるけれど……どの道、遅いか速いかだけの違いでしかない。いずれ、アンタたちみたいなのが来るだろうとは思っていたのさ」
「あなたが代わりにやるつもりだったと?」
「そういうことにしといてもらってもいいけど」
静漓の言葉に彼は笑む。
亜麻色の髪。
黒い瞳。
彼女の知る者と外見的な特徴は一致しているが、年齢が違いすぎる。
「おっと、こうしちゃいられない。アンタも逃げるなら速いほうが良いぜ。ここらの警察機構は巨大企業群とグルだからさ。折角のハロウィン・ナイトを台無しにされたくないだろう?」
それとも、と彼は笑って言う。
「俺にトリック・オア・トリート」とでも言うかい?」
「それもいいかもしれないわ」
「冗談だってば」
じゃあな、と彼は二階の窓に足をかけ飛び出していく。
静漓は、その開け放たれた先に月光が注ぐ様を見やる。この邂逅が何を意味するのか、彼女はまだ知らない。
けれど、あの亜麻色の髪の青年が業界最高峰の殺し屋『メリサ』であると、いずれ気がつくこともあるのかもしれない――。
成功
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