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剣と狐の限定めぐり――カフェバー秋季メニュー編

#ヒーローズアース #ノベル #猟兵達の秋祭り2024

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火狸・さつま



ジャック・スペード




 季節が巡れば味覚も巡る。
 日差しが秋風に変わった頃、ジャック・スペード(J♠️・f16475)が火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)を連れて来たのは、繁華街の一角だった。
 夏の露店とは違い、落ち着いた店内に人は疎らだ。拠点とするヒーローズアースの中でも、ジャックが太鼓判を押した店である。
「今回はオススメの店をあんたに紹介したい」
「じゃくさんの、おすすめっ?」
 道すがら告げられて顔を輝かせて以降、さつまの口許は緩んだままだ。それまで保っていたきりりとした面持ちと歩調はどこへやら、絶えず揺れる尻尾と同じように楽しさと嬉しさを堪え切れない。
「着いたぞ。カフェバーだ」
「かふぇばー!」
 復唱するさつまを連れて予約席に腰掛ける。人をゆうに越える長躯を難なく受け入れるソファに身を沈め、ジャックは机上のメニューを一瞥した。
 目的の決まっている鐡に対し、妖狐の視線と尾は迷うように揺れた。どれもこれも美味しそうだが、はたと目を留めたのは大好物の写真の上だ。ぴんと立った耳で指を差せば、ジャックが手慣れた調子で注文を入れてくれる。
 ややあって、二人の前に出揃ったのは、ワイルドバーガーに勝るとも劣らぬボリュームの品物だった。
 洒落た雰囲気とオーガニックな印象の盛り付けだが、ここはヒーローズアースである。ジャックの前に置かれた看板メニューは典型的だ。たっぷり挟まれた新鮮な野菜が彩を添えるが、ジビエのパティにはジャンクフードらしさを失わないポルチーニのクリームソースが絡んでいる。
 対して店の空気を好ましく見渡していたさつまの前には、より菜食的なバーガーが置かれている。はみ出すほどに盛り沢山のキノコは彼の大好物だ。醤油ベースのソースが立てる香りが食欲をそそったか、目を輝かせた彼は、しかし一度は耐えてぱちりと手を合わせた。
「いただきます!」
「イタダキマス」
 倣うジャックがすぐに口を付けることはない。左右からバーガーを検分した後、こちらをきりりとした表情で見詰めるさつまの無垢な眼差しを見守るためだ。
「きのこたっぷり! おいしそ!!」
「気に入ったのなら何よりだ」
「ん! 食べよ食べよ! いただき、ます!」
 言うが早いかかぶりついた妖狐の口から感嘆の悲鳴が漏れる。先から輝かせていた満面の笑みを蕩けるように崩して、両手でしかと握った秋の味覚に絡む濃厚な醤油の味に尻尾が揺れる。
 だが礼を失するわけにはいかない。行儀よくしっかり噛み砕き、飲み込んでようやく、さつまは声を上げた。
「きのこにしっかりお味ついてて、凄く美味し! ぱても、じゅーしー!」
「さつまは旨そうに食べるな」
 こころがあることと、表に出すことの巧拙は別問題だ。機械ゆえに見目に感情の乗りにくいジャックに対し、さつまが全身で現わす喜びは微笑ましい。
 ――連れて来て良かった。
 感慨を噛み締めてから、彼も用意されたバーガーへ豪快に齧りつく。
 鹿肉の硬めの食感が食べ応えを生み出す。クリームソースは独特の香りを吞み込むほどに濃厚だ。余韻をコーラで流し込む、健康に悪影響を与える味は、成程何となく爽快である。
 後味を堪能しているジャックがふと視線を感じて顔を上げる。果たして青い双眸が、じっと彼を見詰めていた。
 いたく気に入っているらしいマスクの開閉で遊びたかったろうか。しかし一度物を口に入れてしまうと憚られる。食べる前に察してやれれば良かったか――。
 考えながら再びコーラに手を掛けたジャックへと、ずずいと寄せられる皿。
「じゃくさん! こっちも、食べる? 食べる?」
 以前と同じ誘いを受け、瞬くように双眸が明滅する。
 さつまは眼前の鐡が大好きだ。ただバーガーを食べているだけでさまになる格好良さの彼と分け合いたい思いは当然湧き上がるものである。
「俺にもくれるのか? じゃあ、お言葉に甘えようか――」
 今度は遠慮はしない。一口をもらえれば、先程とは違った趣の濃厚なソースが口中に満ちる。
「ああ、こっちのも旨いな。良ければ、俺のもひと口ドウゾ」
「わぁい! いただきます!」
 こちらも遠慮なくかぶりつく。途端に尾が左右に大きく揺れるのは隠せない。
「俺、今度から、ぽるちーに見掛けたら食べよ……!」
「旨いだろう? さつまも気に入ったか」
 幾度も頷く妖狐と満足げな機械音を立てた鐡は、勢いそのままバーガーを完食した。
 美食を味わえば帰り道の足取りも軽くなろうというものだ。振り返るさつまの顔も今日一番の笑みを描く。
「凄く美味しかた! 連れて来てくれて、ありがと!!」
「それは良かった。あんたさえ良ければ、またこの世界の店に連れて行こう」
 喜びのあまり小躍りに近くなる足取りを機械の双眸が見る。ふと浮かんだ提案は、口中に留まることなく自然と零れる。
「次はさつまのオススメも知りたい所だな」
「俺の?」
 誘いに瞬いた狐は、目を輝かせて大きく頷いたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年10月30日


挿絵イラスト