●夏が過ぎて始まるのは
「さてさてこれから始まりますは、季節外れの怪談劇……」
誰もいない舞台で、一人声を上げる女。
「主役となるのはある女。数多の男を手玉に取り、悦楽と破滅を齎しては次から次へと相手を変えて、女はいつしか傾国の女狐と呼ばれるようになりました」
女は無人の客席に語り掛けるように続ける。
「女の周りにはいつも九の尾を持つ黒い狐が侍っておりました。それ故に、人は彼女を那須の玉藻、殷の蘇妲己の再来かと噂しておりました」
その言葉通り、女の周囲を黒い毛並みに九本の尾を持った狐が取り囲んでいた。
「なれど悪因は巡るもの。女はやがて悪果として、己が破滅させた男たちの子孫に討たれることとなりました。そしてその名が怪奇談の一つとして記され、偉大なる幻朧の帝すら倒れるほどの時が経った時……」
そう言ってから女は狐の面を取り出し、それを顔に着ける。
「女は、帰ってまいりました」
●季節通りの|怪談ショウ《ハロウィーン》
「ごきげんよう皆様。依頼の時間ですわ」
ゾンビーヌ・ロッテンローズ(元カルト組織「リビング・デッド魔導会」の腐薔薇姫・f40316)が集まった猟兵たちに告げる。
「本日は戦争の終わったサクラミラージュで、古い劇場に巣食った影朧を退治してきていただきますわ」
戦争が終わっても影朧が消えたわけではない。幻朧桜の下に、影朧は生まれ続けているのだ。
「相手となるのは『黒天金星の九尾狐』と『十六夜姫』。こいつらは『幻朧怪狐録』という物語の登場人物ですわね」
狐を主題とした怪談集。それを元にして生まれた影朧か、はたまた記された本人なのかは定かではないが、その伝承に沿ってこの劇場を拠点に活動を開始したという。
「敵は新興の劇団を装って自分たちの物語を演じながら人を呼び、狐の餌にしたり、十六夜姫のパトロンにしたりして少しずつ世の中を浸食しようとしているみたいで」
配下の狐たちも人に化けられるし、十六夜姫はその美しさで権力者を籠絡し意のままにする女狐という存在。美しく才ある新人スタアを囲いたがる者は多いだろう。
「というわけでこいつらを討伐して欲しいのですけど、今回帝都桜學府より『スタア甲冑』なるものが貸し出されますわ」
先にあった帝都櫻大戰にて帝都桜學府は多数の影朧甲冑を鹵獲、また「王笏甲冑」との交戦データの蓄積もあって、「搭乗者の心身に負担をかけず、いつでも降りることのできる影朧甲冑」……人呼んで「スタア甲冑」を開発するに至った。
これを使用する条件は『多くの人に認識された有名人』であること。桜學府には国民的スタアやハイカラさんも多く協力しているし、もちろん猟兵ならば無条件に使えると言ってもいいだろう。
今回の依頼でも、多くのスタアたちがスタア甲冑に乗り手伝ってくれるという。
「まずは劇場に乗り込み、脇役担当の『黒天金星の九尾狐』を蹴散らしてくださいませ。こいつらは分身や妖怪変化、人間に化けての精神攻撃など多彩な妖術を使います。獣ですが知能も人並み以上なのでお気を付けを」
一体の黒狐が多数に分身した存在故その見た目に反して戦闘力は集団型相応だが、幻朧怪狐録全般に登場し多くの怪異に手を貸す影の主役、あるいは黒幕とも言える存在らしい。またそれ故に意思は完全に統一されているし、何ならここで全滅しても本人が滅びるわけでもないので命を捨てることにも躊躇はないだろう。
「で、九尾狐を全滅させたらボスにして主役の『十六夜姫』との決戦。彼女は相手を誘惑する術に長けておりその分戦闘力は低いのですが、ここで一つ面倒がありまして」
そう言うとゾンビーヌはふぅと息をつく。
「この女、どうにも彼女の登場する物語に沿った行動をとることで行動を制限できるようで。『魂鎮メ歌劇ノ儀』とかいうらしいですわね」
そう言いながらゾンビーヌは『幻朧怪狐録』と題された本を取り出し、ページを開く。
「『十六夜姫は男を籠絡する傾国の美女。だけど本当に心を許していたのは配下の狐のみ。やがて破滅させた男の子孫たちが結集し彼女を討つが、その最期の時彼女は思い至る。己が抱かれた男の係累ということは、彼らは自らの子孫でもないかと。初めて覚える感情の名を知らぬまま、彼女は息絶えた』……というお話ですわ」
最後の感情が何なのか、それは具体的には記されていないようだ。
「このストーリーに沿う役を演じながら呼びかけることで、敵の感情を揺さぶり動きを制限させることができるようですわね」
細かなストーリーの整合性は気にしなくていい。彼女を討った者やかつて籠絡された男、あるいは親しいものを彼女に滅ぼされていたり、正体を知らずただ憧れていただけなどでもいいだろう。自分が演じたい役を演じそれに沿って高らかにメッセージを伝えれば、十六夜姫もそれに答え自分の思いを歌い隙をさらしてくれるということだ。
「ちなみにこの戦いでは、櫻学府の援軍たちがモブ役も務めてくれます。エキストラが欲しければお使いくださいませ」
何しろ今をときめくスタアたちだ。どんな役も完璧にこなしてくれるだろう。
「ハロウィンにかこつけたわけでもないでしょうけど、こんな時期に怪談なんてお呼びでもないですわね。どうか皆様、さっさとこの女狐どもを倒してきてきださいませ」
ハロウィンにも女にも興味がないらしいゾンビーヌはそう言うと、転移を開き猟兵たちを桜の劇場へ送り出した。
鳴声海矢
こんにちは、鳴声海矢です。今回はサクラミラージュでの依頼です。
今回は『スタア甲冑』という影朧兵器に乗り、敵と戦っていただきます。これは内部の影朧と心を通わせることでノーリスクで使えるようになった影朧甲冑です。外見は歴代の影朧甲冑に似ていても、全くのオリジナルでも何でもいいです。サイズは人間大くらいまで。キャバリアよりは大分小さいです。具体的な性能は基礎能力上昇とか感知範囲拡大とか補助的なものです。
中にいる影朧と心を通わせることで無害化している兵器なので、そちらに何か設定をつけても構いません。
第一章では『『幻朧怪狐録』黒天金星の九尾狐』との集団戦。様々なものに変身したり分身するなど妖術を駆使して攻撃してきます。やること自体は普通の集団戦と変わりません。スタア甲冑の試運転に使ってもいいでしょう。
第二章では『『幻朧怪狐録』傾国の女狐・十六夜姫』とのボス戦。直接戦闘力は低いですが、誘惑、洗脳系の攻撃が得意です。
大きな注意点として、第二章では、影朧の発生理由にまつわる歌劇を演じながら戦う儀式魔術「魂鎮メ歌劇ノ儀」として、敵の来歴に関わる演劇をしながら戦うことでプレイングボーナスとなります。
ストーリーはOP参照、役は自由に決めてくれて構いません。迫真の演技なほど相手も強く反応してくれます。ストーリーを覆すような演技も歓迎。
エキストラが欲しければ同行しているモブスタア甲冑をご利用ください。一方彼らは敵の誘惑対象に使われることもあるので、メイン戦力にするのは危険です。
明確なボーナスはありませんが、何なら第一章から役に入っていてもOKです。
それでは、プレイングをお待ちしています。
第1章 集団戦
『『幻朧怪狐録』黒天金星の九尾狐』
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POW : 千変万化・天
戦闘力が増加する【様々な武具を装備した『鬼神』の群れ】、飛翔力が増加する【翼を持った『応龍』の群れ 】、驚かせ力が増加する【闇に潜み多様な獣の能力を操る『鵺』の群れ】のいずれかに変身する。
SPD : 千変万化・地
戦場の地形や壁、元から置かれた物品や建造物を利用して戦うと、【分身できる数と、回避率と、技能名「化術」】の威力と攻撃回数が3倍になる。
WIZ : 千変万化・人
【レベル×1体に分身し】【相手を油断させる弱者、相手を威圧する強者】【相手を誘惑する美人のいずれかに変身する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
イラスト:TK
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
辺鄙な場所にある古びた劇場。営業しているかどうかも分からないような見た目のそこには、『幻朧怪狐録』というのぼりが立てられていた。
そしてそこに群れ集う者たち。
彼らは演劇を観に来た観客ではない。その証拠に、その体は異形の甲冑に包まれていた。
彼らは帝都櫻學府に所属する国民スタアやハイカラさんたち。
あるも者は大儀のため、ある者はスタアとしてのキャリアを積むため、新兵器『スタア甲冑』を纏い戦場に赴く義勇兵だ。
そしてその甲冑は猟兵にも貸与されている。
それを纏い劇場へ踏み込めば、そこはまさに上演中であったかのように舞台に役者が上がっていた。
「あらあら、熱心すぎるファンでしょうか。どうかお鎮まりを。どうしてもというなら公演のあとで……」
その中心にたつ主演の女が笑う。そしてその周りを、黒い毛並みの狐が取り囲んだ。
「これより始まりますは第一幕。黒き狐は主を守るべく、暴徒の前に勇敢に立ち塞がりました。果たしてこの戦いの行方はどうなるか……それでは皆様、ご照覧あれ」
そう言って女は舞台袖へ消える。
さあ、帝都最大のスタアたる猟兵よ。己もスタア甲冑を纏い、黒き九尾狐相手に存分に殺陣を繰り広げよ!
夢ヶ枝・るこる
■方針
・アド/絡◎
■行動
おや、凄い品が開発されましたねぇ。
『甲冑』は『反動』に備え胸元の開いた意匠、扱い易い様『虚音』と融合させ『祭器』化しておきますぅ。
『FAS』で足元の影から離れ浮遊、『FPS』の探査と共に、全方位に『FLS』の空間歪曲と『FMS』のバリアを重複展開しまして。
【天】の変化は多様且つ強力ですが『【UC】による継続効果』という性質は共通、【乳壓覃】を発動し広域へ『乳白色の光』を放射、極大化した|重力《重量攻撃》による[範囲攻撃]を行いますぅ。
これで、範囲内の敵方の『UC解除』を行うことが出来ますので、後は回復の早い個体を探知、『FRS』『FSS』の[砲撃]で順に仕留めますねぇ。
劇場に乗り込んだ桜學府のスタアたちが身に纏うのは、新兵器『スタア甲冑』だ。
本人のスタア性をもって影朧と通じ合い搭乗者に一切の負担を駆けず自由に着脱可能というそれは、既存の影朧兵器の概念を覆す画期的存在。
「おや、凄い品が開発されましたねぇ」
さすがの夢ヶ枝・るこる(豊饒の使徒・夢・f10980)も、この新発明には驚きの声を上げる。
そしてかくいう彼女もスタア甲冑装着済み。その形状は胸元の開いたビキニアーマーのようなもの。扱いやすいように自身の装備と融合させてあるそれの中にどんな影朧が入っており、どんな形で心を通わせているかは謎だ。
そしてるこるは、その格好で浮遊しながらゆっくりと舞台に上がる。劇場なだけあり高さもそれなりに取られているそこだが、るこるの巨体はその舞台に小さくない影を落とす。
それを下方に見ると、その影からぬらりと猿の顔が突き出て来た。
そしてそれに続いて出てくるのは虎の体に蛇の尾。正体不明の和製合成獣『鵺』に化けた敵が、いつの間にかるこるの陰に潜んでいたのだ。
既に戦いは始まっていた。その出現を合図にしたように、舞台上の黒狐、『黒天金星の九尾狐』たちが散る。
「大いなる豊饒の女神の象徴せし欠片、その裁きの徴標をここに」
それに対しるこるも【豊乳女神の加護・乳壓覃】を発動し、広域へ『乳白色の光』を放射。極大の重力空間と周囲に配置したバリアと結界で身を守る形をとる。
その領域に包まれた瞬間、黒狐たちの体が一斉に潰れた。だがそれはまるで溶けるような自壊であり、その体が次々別のものへと変わっていく。
まず変わるのは、武器を持った鬼神。大金棒や剣、独鈷杵や錫杖など様々な武器を持った剛毅な鬼人たちがるこるに襲い掛かろうとした。
しかし、その鬼人たちは立ち上がる間もなくその場に崩れ落ち、武器を取り落とし倒れていく。UC解除と装備破壊、二つの効果がもろに刺さるこの形態は、るこるの放ったUCとはとりわけ相性が悪かった。
その隣では、毛皮が鱗に変わり背には羽の生えた四つ足の応龍が立ち上がる。
それは翅をはばたかせ飛ぼうとするが、高重力の中では思うように飛びあがることもできない。
それでも元々は高位の怪異である故か、何体かはゆっくりと飛びあがってきてゆらゆらとるこるに突撃してくる。しかしそれもバリアと結界に阻まれ、簡単な迎撃で跳ね返されるにとどまった。
これで敵の動きはほとんど封じ、後は回復の早い個体を探知、撃破。これで完封、完全勝利か。
そう思いるこるが高度を少し下げた瞬間、ふとした違和感がその動きを止めた。
自分の下にある影が、ほんの少し揺らいだ気がしたのだ。
念のため探知機能を持つ『FPS』をそちらに差し向けるるこる。すると、影に近づいた瞬間そこから出た爪が兵装をなぎ払い、深い爪痕を刻んだ。
そこにいたのは未だに顔を見せず影の中に留まり続けた鵺の姿。影の中という一種の異空間に逃げることで、UC解除効果を免れていたのだろう。
ならば、影ごと失くせばいい。バリアを光源としてそこに隠れられぬよう照らし、さらに砲撃をかけることで出てきた鵺たちを倒していく。
やがてそれも終わり、今度こそ本当に全てを倒したか。それを確認しつつ、るこるは油断なく高度を下げていく。
やがてその大きな体、大きな胸が舞台につくような位置に下降した時、突如として|奈落《舞台に空いた穴》が開き蛇が飛び出してきた。それは真上にあったるこるの大きな胸に、まるで吸い付くかの如くかぶりつく。
「なるほど、こうきましたかぁ」
その牙は、胸についたスタア甲冑部分に阻まれていた。敵は猿の如く賢しい。それが叩き落とされる前にFPSが探知した情報だった。それ故、るこるは今回の新たな武装に守られた部位を先に差し出しておいたのだ。
「芝居には転や急がなければなぁ」
しわがれた声が聞こえる穴の中に、るこるは砲撃を叩き込んだ。黒狐たちは獣らしく口などきかなかったが、恐らくわざと喋らなかっただけ。驚かし力を高める鵺を伏せて本命としたことも合わせて、聞いていた通り実際の知能は高いのだろう。
なれど、るこるは力だけでなく探知兵装を用いることでそれを看破し打ち破った。力でなく|知恵比べ《情報戦》にての勝利こそ勝因として、るこるは今度こそ安全となった舞台に降りるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
サエ・キルフィバオム
アドリブ歓迎
人を化かす女狐、ねぇ?
……いやー、悪い存在だからやっつけないとねー(棒)
ここは何も知らず巻き込まれたファンを装って、化かしあいの勝負!
きっと「同じように巻き込まれた人」「強そうな警備員」「優しそうな保護してくれる人」に化けてくると思うから、素直に近づいていこう
保護されたらそのまま様子を見るけど……、きっと他の人の攻撃で劣勢になってきたらどこかで化けの皮が剥がれるよね
化けの皮が剥がれたらきっと、あたしは人質にされるだろうから、そうなったら最後の仕上げに私の分にスタア甲冑に仕込んでおいた糸を手繰り寄せて、装着!
もうこうなったら、力勝負になっても負けないんだからね!
この舞台の主役であり、今回のボスでもある影朧十六夜姫は『傾国の女狐』と呼ばれる悪女であった。
「人を化かす女狐、ねぇ? ……いやー、悪い存在だからやっつけないとねー」
サエ・キルフィバオム(突撃!社会の裏事情特派員・f01091)の言うことは全く持って正論なのであるが、棒読みに言っている通りサエ自身が誘惑や色仕掛けを得意とする妖狐であった。
さて、そんなサエが今何をしているかというと、客席に座り込んで怯えた表情で辺りを見回していた。
(ここは何も知らず巻き込まれたファンを装って、化かしあいの勝負!)
ここは劇場、かつ公演中ののぼりも立っており、敵もそれを餌にして人を呼び込むつもりであった。ならば一般の人間がいてもおかしくないだろうと思い、サエは迷い込んだ観客を装って場内へと潜入したのである。
既にそこかしこでスタア甲冑を着た桜學府の兵と黒狐たちの戦闘は始まっている。新兵器というだけあってぶつかり合いでは互角以上の勝負を繰り広げているものの、様々な変化術を駆使する黒狐たちに手玉に取られ、翻弄されている者も多い状態だ。
その状態でサエは手助けすることはなく、ただその場に留まり続ける。そのサエに、声をかける者が現れた。
「た、助けてください……」
怯えた表情の女性。逃げ遅れた観客と見えるその女性は、青い顔をしてサエに縋りつく。だがサエもそれに言葉では答えず、彼女と同じような表情を作ってただ抱き合って震えるだけに留めた。
「こちらです。急いでください」
しばらくそうしていると、また別の声がかかる。その声に顔を上げると、そこにいたのは屈強な警備員の男であった。警備員は二人を立ち上がらせると、扉側へと連れていく。
そして扉前につくと、そこにはスタア甲冑を着た桜學府のスタアらしき人物がいた。その女性は甲冑から優しげな顔をのぞかせると、二人に優しく囁く。
「まあ、まだ一般の方がいたなんて……もう安心です。どうぞこちらへ」
彼女はそう言ってサエの手を取り、扉を開け一方を指し示す。
その瞬間、巨大な砲撃音が劇場を揺らした。
それは別の猟兵が、黒狐の群れを撃破した時に出した音であった。サエも一瞬その方を向くが、その時他の三人が異様に揃った動きでそちらを見たこと、そして全員が僅かに舌打ちするような仕草を見せていたことを見逃さなかった。
「え、皆……?」
そこを突くようなことを言うと、三人の表情が能面のような無表情に変わる。そしてサエの手を取るスタア甲冑の女の力が、手を握り潰さんばかりに強くなった。
「気づかなければ楽に死ねたものを……」
それと同時に警備員がサエの体を抑え込み拘束する。そして観客の女が、サエの腹に手を当てた。
「私は臓を貰うわ」
「俺は肉を」
「ではわたくしは脳髄をいただきましょう」
後ろに黒い狐の尾を見せ、三人が言う。警備員の力は強く筋力に劣るサエでは振りほどけそうにもない。
だが、サエの顔は笑っていた。
「その慢心、付け入らせてもらうよ」
敵が捕食を確信したその瞬間、その心の隙をつき、サエは【因果速報】を発動させた。増強された速さで手を手繰れば、そこに繋いだ見えない糸に引っ張られいくつもの金属片が座席の下から飛び出して来る。
それはこの時に備え仕込んでおいたサエのスタア甲冑。これに備え手、脚、胸、肩とパーツ別に分けられる高露出な分解型の鎧を選んだそれが、瞬時に手繰り寄せられサエの体に纏われた。
「もうこうなったら、力勝負になっても負けないんだからね!」
甲冑の力を得たサエは、こともなげに警備員の拘束を振りほどきその首を一閃する。さらに自身の手を掴んでいたスタアの手を握り返し、そのまま振り回して床に叩きつけて甲冑諸共踏み抜いた。
「ひ……!?」
そして今度は本当に怯えたような表情を見せる観客役の女。あるいは相手の出自からすればこれも演技なのかもしれないが、それでもこの個体は自身の負けを自覚しているのは間違いない。
「い、いやっ、お願い、助けて、何でもするから……」
「残念、今回はホラーじゃなくてアクションだったんだよね」
彼女の行ったことを返すかのように、命乞いする女の|腹部《臓》を貫き消滅させる。
一瞬の逆転劇は、この|戦い《劇》が如何なる種類のものかを示すかのようであった。
大成功
🔵🔵🔵
ドゥルール・ブラッドティアーズ
共闘×
グロ×
WIZ
こういうロボット的なのは
私のヤり方と合わないのよねぇ……
と言って甲冑から降り
【化術】で狐耳と尻尾を生やし
【脱衣】からのウィンクと投げキッスで狐達を【誘惑】
狐達もイケメンに化けて魅了対決に。
私の容姿を褒めながら髪や体を撫でてくるけど
それは次第に演技ではなくなる。
狐の優れた嗅覚と聴覚には『ベルベットパフューム』も
【催眠術】を籠めた嬌声も効果覿面でしょ♥
魅了に耐えた子が居ても
無人の甲冑が動き出し【怪力・捕縛】
私の守護霊を憑依【ハッキング】させ
感知範囲の拡大した【第六感・索敵・見切り】で警戒させてたの
悪い子ね。貴方は最後にシてあげる♥
逆ハーレムを堪能しつつ
【慰め・生命力吸収・大食い】
帝都桜學府の新兵器、スタア甲冑。それは着用者の能力を大幅に上げる画期的装備だ。
「こういうロボット的なのは私のヤり方と合わないのよねぇ……」
だが何とドゥルール・ブラッドティアーズ(狂愛の吸血姫・f10671)は自らに貸与されたスタア甲冑を脱ぎ、生にのまま黒狐たちに向かっていった。
その代わりの様に自身に狐耳と尻尾を生やしているが、これはただの化術、実用性は一切ない。
その状態で服を脱ぎ、狐たちに投げキスを向けるドゥルール。それに対し狐たちはその場でトンボを切って人に変わり、さらに複数体に分身してドゥルールを取り囲んだ。
「何だ、俺たちにそういう勝負を挑む気か?」
変身したのは見眼麗しい男たち。その中でもまずいかにも男性的と言った正統派イケメンがドゥルールを軽く睨む。
「望むところじゃないか。向こうからこちらのステージに上がってきてくれるんだ」
涼やかな青年が余裕たっぷりに言い、ドゥルールの髪に手を伸ばした。
「きちんと手入れしているようだね。髪は女の命だ」
気障ったらしい台詞が様になるその男だが、その間に挟まるように小柄な少年が潜り込んだ。
「……僕の」
言葉少なに言ってドゥルールに抱き着き、その胸に顔を埋める。その目は敵であるドゥルールではなく、仲間であり自分自身でもあるはずの他の男たちの方を見上げ、近づくのを拒むように睨みつけていた。
もちろんこれらはすべて演技。他者を魅了して忘我の内に命を奪うのは黒狐たちの常套手段だ。
そしてドゥルールもそれは承知の上。相手の魅了に対抗すべく、ドゥルールもその身から【ベルベットパフューム】を撒き、相手の演技を本気に変える誘惑の香気をその身から放出していた。
「そんなにがっつかなくてもいいのよ、坊や」
抱き着く少年を最初の対戦相手として、抱き寄せて自身の胸に顔を深く埋めさせる。心臓近くを相手に曝け出す危険な行為だが、同時にその胸の間から出す香りと至近での囁きに乗せた催眠術が相手の意識を乱し、急所を抉る動きを起こさせない。
その胸の上から、青年の方がドゥルールの顔を覗き込む口づけした。もちろん目的はそのまま舌を食いちぎること。しかしその口からはドゥルールの方から相手の生命力を吸い上げ、相手の噛む力を抜けさせる。
懐に潜り込んでからの生命と魅了のせめぎ合いは膠着状態に陥っている。その状況を後ろから見ていた男が、一艘顔を険しくした。
「ち……まあいい、元から俺は|こっち《攻撃力》の役だ」
指を鳴らしてドゥルールたちに近づき、拳を振り上げる。|状態異常《魅了》を強化した他二人とは違う攻撃力強化の施された拳を打ち下ろそうとした時、その腕が何かに掴み取られた。
「なっ……!?」
それをしたのは、ドゥルールが脱ぎ捨てた無人のスタア甲冑。中に影朧を憑依しておくことにより、分離状態での操作さえ可能となったそれが伏兵として男を止めたのだ。
影朧もオブリビオンの一種である以上死霊術での操作は容易。そしてこれの為に、好みに合わない全身鎧型のスタア甲冑を用意しておいたのだ。
無機物である以上反撃も気にしない甲冑が力尽くで男をその場に抑え込む。
「悪い子ね。貴方は最後にシてあげる♥」
組み伏せられて歯噛みする男にそう告げ、ドゥルールは少年を抱き潰さんばかりに胸を寄せ、より強く青年の|唇《生命力》を貪る。
そうして食う側と食われる側、どちらがどちらか決定づいた魅了合戦の終わりまで、ドゥルールは逆ハーレムを堪能するのであった。
大成功
🔵🔵🔵
バルタン・ノーヴェ(サポート)
「バトルの時間デース!」
雇われメイド、バルタン! 参上デース!
アドリブ連携歓迎デース!
普段の口調:片言口調(ワタシor我輩、アナタ&~殿、デス、マス、デショーカ? デース!)
戦闘スタイルは物理系!
遠距離ならば、銃火器類の一斉発射が有効デース!
近距離ならば、武器を展開して白兵戦を挑みマース!
敵の数が多いor護衛対象がいるならば、バルタンズの使用もお勧めしマース!
状況に応じて行動して、他の猟兵のサポートに回っても大丈夫デス!
迎撃、防衛、襲撃、撤退戦。どのような戦場でも参戦OKデース!
指定ユーベルコードが使いづらいなら、公開している他のものを使用しても問題はありマセーン!
勝利のために頑張りマース!
黒狐とスタア甲冑たち、そして猟兵が入り乱れる舞台。
そこにまた一人の|役者《猟兵》があがる。
「雇われメイド、バルタン! 参上デース!」
バルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)のその姿は、帝都おなじみの和メイドではなく一般的な洋メイド。ただし、その身体には重武装とスタア甲冑つきだ。
「ギャアアアア!!」
そのバルタンに、叫び声を上げながら応龍が飛び掛かった。それに対してガトリングガンを撃ちかけ、相手を易々と撃ち落としていく。
「小賢しいわ!」
その後ろから、巨大な七支刀を構えた鬼神が踏み込んできた。その重い一撃をファルシオン風サムライソードを抜き、バルタンは正面から受け止める。
「ほう、やるな!」
巨体の体重をかけ、鬼神はバルタンをそのまま押し潰そうとする。だがバルタンの力も見た目以上に強く、体格差をものともせず相手の体を押し返し始めた。
しかし、突如としてバルタンは身を引く。そのまま相手の力に押し切られるように後ろへ体を動かすが、そのまま倒れることはなく床を蹴り軽やかに後ろ宙がえりを決めた。
バルタンの体が舞うその下。そこにある彼女の影から、猿の顔と虎の体を持つ獣が飛び出してきた。バルタンは空中で武器を切り替え、隠れる影ごと焼き尽くしてくれんと火炎放射器を下に向けて放った。
炎に炙られ、獣が焼け落ちる。その残骸を踏むように、バルタンは華麗に着地した。
「一人ずつの見せ場をありがとう」
「だがそろそろ幕間に入る時間でな」
それを出迎えるように、三種の変身をした黒狐たちがずらりと並んだ。一体ずつかかったのは演劇を意識したのと、相手の手を見るというのもあったのだろう。結果として単純な数押しで潰すべく、黒狐たちは残りの戦力全てをそこに投入していた。
「迎撃、防衛、襲撃、撤退戦。どのような戦場でも参戦OKデース! ただ……全部一度にやるのは確かに厳しいデスネ」
相手は決して弱くない。的確に一つずつの武装を使うことで一体ずついなすことは出来るが、この数だけそれを一度にやるのはどう考えても困難だ。
しかし、バルタンはいくつもの武器を取り出した。
「なので、こいつを使いマース!!」
スタア甲冑が変形し、フックやレバーのようなものがいくつも飛び出した。そして武器の持ち手やトリガー部分を全てそこに接続すると、甲冑を通じて複数の武器が体のように自在に動かせるようになった。
「それでは、デストローイ!」
脳内でトリガーを引くだけで、全ての武器が【フルバースト・マキシマム】となって周囲にばらまかれた。反動を甲冑が受け止め、脚部を通して地面に逃がす。さらに銃器の保持を全て甲冑に任せておくことで両手が自由になり、剣やチェインハンマーなどの手持ち武器も自由に振り回すことさえできた。
嵐のような武器攻撃が、周囲の黒狐を全て消し飛ばしていく。やがて、その場に動く者はなくなった。
「The rest is silence……デース」
悲劇の主人公最期の言葉と共に、弾幕が終わる。この舞台の主役が怪狐であるなら、その結末もそうあるべしと。
そして端役の出番は終わり、主演が舞台に上がる時が来る……
成功
🔵🔵🔴
第2章 ボス戦
『『幻朧怪狐録』傾国の女狐・十六夜姫』
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POW : 国をも傾ける毒婦
指定した対象を【魅了状態】にする。対象が[魅了状態]でないならば、死角から【欲情を煽る毒】を召喚して対象に粘着させる。
SPD : 女狐の閨
自身と武装を【淫靡な帳】で覆い、視聴嗅覚での感知を不可能にする。また、[淫靡な帳]に触れた敵からは【快楽を与える代わりに精気】を奪う。
WIZ : オマージュ・傾世元禳
【万物を魅了する香気】が命中した生命体・無機物・自然現象は、レベル秒間、無意識に友好的な行動を行う(抵抗は可能)。
イラスト:作
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠田抜・ユウナ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
黒狐は全て倒され、幻朧怪狐録第一幕は終わった。その瞬間、劇場の明かりが一瞬全て落ちる。
そして周囲にいくつもの狐火が灯り、舞台を再び明るく照らし出した。その明かりの中、音もなく現れていたのは狐の面を被った一人の女。
「大変長らくお待たせいたしました。これより始まりますは、『幻朧怪狐録』傾国の女狐の章第二幕……」
女が穏やかに、しかし一番奥の客席まではっきりと通る声で口上を始めた。
「主を守ろうと牙を剥いた黒狐たちは、哀れ|戦場《いくさば》の露と消えました。血風止んだ舞台の上に、取り残されたは一人の女」
女は芝居がかった調子で続ける。
「女の爪は綺麗で脆く、女の牙は白くて丸い。ああ斯様な女が万夫不当の大スタアたちに、どうして抗しうることできましょうか」
その身の弱さを謳う女。確かにその言葉通り、女の体は頑健には見えない。
「なれど、女は武器を持ちます。荒武者、豪商、名君、聖人。都鄙貴賤如何な男をも己が虜にし、盾とし傘とする魔性が」
その言葉通り、女の体からは妖気とすら言える色気が立ち上る。それは余りに強く濃く、スタア甲冑を乗りこなす桜學府のスタア達さえその場に棒立ちの大根役者にさせてしまうほどのもの。
「女はそれで全てを思うままにしました。たった一つそれの効かぬもの。男たちの血と想念を継ぐ者が己の元にたどり着くまで」
そう言って女は面に手をかける。
「たった一つの武器を折られ容易く屠り去られたこの女。この舞台の上で果たして同じ運命を辿るのでしょうか」
面を外した女は、その美貌に笑みを浮かべていた。
「いいえ、女が帰るまでの時はその血が絶えるに十分すぎるもの。今度こそ、恐れを失くした女は歌います……男を喰らい、国を傾げる艶歌を」
その言葉通り、女の声と居住まいから溢れるのは妖気、色気、恐怖……そして哀しみ。
この全てを表す名優を沈める方法を、しかし大スタアは知っているはず。
粗筋はたった今女が騙ったばかりだ。それに倣い、あるいは覆し、彼女の物語に乱れ入り「魂鎮メ歌劇ノ儀」を演じ切ることこそ、この歌劇を大団円に終わらせる唯一の方法。
さあ、煌びやかなる|舞台衣装《スタア甲冑》纏いし|大スタア《猟兵》よ。己の役と筋書きを定めよ。そしてそれを演じ戦い切ることで、傾国の女狐・十六夜姫の物語を幕とせよ!
サエ・キルフィバオム
アドリブ歓迎!
”男たちの血と想念を継ぐ者”ねぇ
あたしに演じれるとすれば……
演ずる役は十六夜姫の娘!
彼女に狂わされた男を父に持つ、愛を与えられなかった娘の役をするよ
「ああ母上、父上は晩年まで私を見る事はありませんでした」
「母上までそのように狂うてしまっては、私は誰に愛されればよいのでしょう?」
「きっと母上の中にも、全てを慈しむ心が残っておられるのでしょう?」
そう言って香気に呑まれたように振舞って近づきながら、逆にそれを【インビジブル・タトゥー】で奪い取っていくよ
魅了の力がメインだと言うのなら、その元を吸いつくしてやれば国を傾ける事もできなくなるよね
ついに幕が上がった十六夜姫との戦い。だがこれはただ戦って相手を倒せばいいのではない。彼女の魂を鎮めるためにも、「魂鎮メ歌劇ノ儀」として彼女の舞台に演者として上がらなければならないのだ。
彼女自身のストーリーは自らが高らかに語ってくれた。サエ・キルフィバオム(突撃!社会の裏事情特派員・f01091)はその中に置いて、自身は如何な役回りとなるべきかを考える。
「”男たちの血と想念を継ぐ者”ねぇ。あたしに演じれるとすれば……」
サエは自身の特徴、そして話の中で彼女を討ったという存在を考え、舞台へと上がった。
そして相手の顔が自身へ向いた時、まず声を張り上げる。
「母上!」
サエが選んだ役どころ、それは彼女に狂わされた男を父に持つ、愛を与えられなかった娘の役であった。
突如母と呼ばれた十六夜姫だが、それに驚くでも訝るでもなく、まるで元から台本でもあったかのように堂々と答える。
「母、と? さて、どの子の事やらもう忘れました」
子に愛情を持たぬ悪女を堂々と演じる彼女に、サエもまた娘として返す。
「ああ母上、父上は晩年まで私を見る事はありませんでした」
十六夜姫に狂わされた男は彼女以外の全てを顧みなくなる。例えそれが彼女との間に出来た子供であろうと、彼女自身でないのならば何も変わらないのだろう。
「母上までそのように狂うてしまっては、私は誰に愛されればよいのでしょう?」
「ならばあなたも私と同じく生きるがよい。その耳、その尾、そしてあの頃より永らえる命。あなたは私と同じ化け狐、元より人の愛など求めたのが間違いなのです」
妖狐であるサエの耳や尾を見て己の係累であることは信じたとし、そしてならば己と同じ傾国の姫となれと言う十六夜姫。それは嘲ってる風にも見えて、しかし確かに相手に生き方を示している。
それを感じ取ったサエは、力を込めて彼女の前に膝をついた。
「きっと母上の中にも、全てを慈しむ心が残っておられるのでしょう?」
縋るように手を伸ばし、哀れな娘を全身全霊で演じる。
「この娘を哀れと思うなら、どうか、どうか……!」
全てから捨てられ、ようやく出会えた母の慈悲に縋りたいと願う娘。少しずつ近づいてくるサエに十六夜姫は手を差し伸べることなく、しかし避けもせずにじっと待っていた。
無論十六夜姫も分かっている。これは演劇の体を取った戦い。十六夜姫のその身からは常に【 オマージュ・傾世元禳】が溢れ出し、最終的にはそれで籠絡した相手の命を奪うつもりである。
しかし同時にこの舞台は魂を賭けたもう一つの現実。全てはその上、その中で行われるべし。ここに『演技』はあっても『嘘』はないのだ。
やがてサエは十六夜姫の胸に飛びつく。彼女の身から放たれる香気は深くサエの体に刻み込まれ、演技を忘れ彼女を母として甘えそうになった。
そして自身に抱き着くサエに、十六夜姫はそっと手を回す。それは彼女が最後に見せる娘への愛。
この状態ならば力ない自分でも手早く、苦しませずに手の中のものの命を奪えよう。そうして十六夜姫がこの舞台を悲劇で終わらせようとするが、その手はサエの首を斬ることを中々しない。
「刻み刻まれ……って感じかな!」
客席に漏れぬよう、サエが小さく呟く。その瞬間、サエの体から同じように香気が噴き出し、十六夜姫を包んだ。
それは【インビジブル・タトゥー】で己の身に刻み、反射した十六夜姫の香気。だが話の上では同じ色気を纏うそれは、まさしく母娘の証か。
そして魅了と共に吸い上げられるのは十六夜姫の魔性。彼女の真の力はその魔性であるが故に、それは存在を奪い取ると同じ。
「母上、どうか私を愛してくださいませ」
「娘よ……あなたは私さえ喰らおうというのですか。傾国の女狐として」
母娘の抱擁は、母の命と傾国の女狐の名を受け継ぐ継承の義。怪談劇から活劇、そして悲哀劇となったそれは、最後に恐怖に戻るそれを示唆し暗転するのであった。
大成功
🔵🔵🔵
夢ヶ枝・るこる
■方針
・アド/絡◎
■行動
さて、劇も山場ですねぇ。
それでは一言。
我が演ずる役は『人』に非ず、子孫達が討伐に用いた『武具』の化身也。
唯々殺意を持ちて、戦の音は我が声として皆の怨嗟を纏い、敵対者を討たんと欲す。
『FAS』により飛行、『FPS』の探査に加え『FXS』の精神干渉遮断を発動、嘗て妲己さんの魅了を防いだこの品なら、彼女への対応も可能でしょう。
更に【彁閠】を発動し『幽巫』に変異、【毒婦】の力は何れも『対象を指定する』もの、「対象に選べない『摂理』」を纏えば対象不適切として効果は発揮されません。
後は『衛星祭器』を『祭器』強化に使用、『FRS』『FSS』の[砲撃]と『FBS』の斬撃で叩きますねぇ。
堂々と主演として立ち、猟兵の即興劇にも負けず一幕演じ切った十六夜姫。まさに主役の貫禄、どのような大舞台でも演じ切る名女優の姿であった。
「さて、劇も山場ですねぇ。それでは一言」
そんな彼女のいる舞台へ次は夢ヶ枝・るこる(豊饒の使徒・夢・f10980)が上がる。
「我が演ずる役は『人』に非ず、子孫達が討伐に用いた『武具』の化身也。唯々殺意を持ちて、戦の音は我が声として皆の怨嗟を纏い、敵対者を討たんと欲す」
彼女が演じるのは人でも狐でもない。かつて彼女を殺すために使われた武器。
「私の血を吸いそなたも魔と成り果てたか。最早振るう手もいらぬと」
冷淡に言うるこるに、十六夜姫も冷たく返す。それに対してるこるは言葉は返さず、ただその場に浮き上がった。
それは図らずも十六夜姫が言った、魔のものとしての演出にも見える。そのるこるを、十六夜姫は妖の目で睨みつけた。
それは甘い香りさえ漂うかの如き粘つく視線。命なきものさえ魅了しそうなその目を前に、るこるは『FXS』を使い結界を張った。
これはかつて封神武侠界にて、傾世元禳を防ぐために桃月桃源郷にて作ったもの。十六夜姫が例えられた傾国の美女の本家本元に抗するために作られたそれは、当然のようにその紛い物にも効果はあるのは探査をかけてみて察せたところ。
そしてるこるは『武具』としての|演出《攻撃》を始める。
「大いなる豊饒の女神、あなたの使徒に『不明の加護』をお与え下さいませ」
るこるが発動した【豊乳女神の加護・彁閠】により、その体は『幽巫』と化す。文字通りに人ならぬ身となったそれは魅了の対象から逃れ、毒婦の視線からも外れることとなる。
目線が外れると同時に、その後ろから粘ついた液体が降りかかる。それは実際にむせ返るほどの甘い匂いを立ち上らせており、同時に浴びたものを心身ともに焼くほどの猛毒を孕んだ媚毒であった。
しかし、それもただその場に出鱈目にまき散らされるのみ。対象にされない体となったるこるは、ただ相手を殺すためにのみ進軍する。
黒狐たちを倒した砲撃型兵装に加え、浮遊戦輪『FBS』を飛ばす。十六夜姫は跳ね転がってそれを避けるが、地を吹き飛ばされたところで足を切られその場に倒れ込む。
「そこまで怨みと血を喰らわば、最早どちらが化生でしょうか。いいえ、もしかしたら底なしに他を恨める人こそが真なる魔。それに獣如きが及ぶわけもなし」
るこるに、そして客席に向けて声を上げる十六夜姫。たとえ劣勢にあろうと、彼女は劇を続けることだけはやめはしない。
それに対しるこるは台詞を返すこともなく、ただ攻撃だけを浴びせ続けた。
それは人を演じるならば甚だ大根。しかし、彼女は怨みと殺意だけで動く『武具』なのだ。
武器は相手を殺すためのもの。そこに一切の情緒は必要ない。殺意を持つ手にただ繰られ、それが尽きし後も染みついた怨嗟が動かし続ける。
死ね、ただ死ねと、るこるは武器としての役を全うし続ける。それは女の撒いた怨みを乗せて振るわれた武器が彼女を討ち、そしてその後もただ殺戮の魔と成り果てたかの如くに。
やがて血濡れとなりて舞台上に伏せる十六夜姫。そしてその前で無表情になお攻撃を加え続けるるこるの姿。恐怖の終わりは次の恐怖の始まり。怪奇譚の最後の約束を示すかの如く、次なる魔となった武器は振るわれ続けるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
フィーナ・シェフィールド(サポート)
純白の翼を持つ彼岸桜のオラトリオ、サクラミラージュの国民的スタア(歌手・演奏家・女優)です。
一人称:わたし、二人称:~さん、語尾:よ、わ、ね、なの?、かな?
相手の肉体を傷つけるような戦いはせず、魂や存在そのものに破魔の力を込めた歌唱、演奏で働きかけ、浄化するように戦います。
味方の支援が必要な時は治癒の効果を持つUCを使用します。
防御はドローンにオーラを纏わせた結界を張ります。
負傷は厭いませんが、他の猟兵の迷惑や公序良俗に反した行動はしません。
あとはお任せします♪
スタア甲冑を着用する条件は誰もに名を知られたスタアであること。そのような条件が付くのも、多くのハイカラさんやスタアが鎬を削るサクラミラージュならではだ。
猟兵ならば無条件でその条件を満たすと言っても良いが、当然その猟兵の中にもスタアを生業とする者もいた。
フィーナ・シェフィールド(天上の演奏家・f22932)もその一人である。サクラミラージュのとある貿易都市で生まれ育った純白の翼を持つ少女であり、高名な音楽家を両親に持つ彼女は世界を巡る歌手であった。
甲冑を纏って舞台に上がり、フィーナはその美声を張り上げる。
「昔語りの女狐よ! 帝都を傾げんと迷い出たか!」
「私を超える魅を持たぬ世が悪い。それともあなたがそうなりますか?」
堂々と答える十六夜姫の姿はまさに大女優。その妖しい魅力に負けじと、フィーナはその身を見せつけた。
「否、わたしが歌うは信と義! 帝都を守る英雄たちよ、我が歌声に続きませい!」
そうして声を張り上げ勇ましき行進曲を歌う。するとそれに応えるが如く、甲冑を纏った桜學府のスタアたちが次々と舞台に上がった。
それぞれに武器を構え十六夜姫に向かうスタアたち。だが、十六夜姫がその豊かな胸を張り、自らも歌声を上げるとその動きは途端に鈍る。
優しく妖しいその歌は美声なれどただの歌。だが同時に発された【オマージュ・傾世元禳】の香気がそれを全てを魅了する魔曲へと変える。
「縁なき私になぜ刃を向けるのです。私の胸の中で眠りなさい」
「わたしたちは血より濃い魂の絆で結ばれた勇士! 帝都のため立ち上がった義士にそのような甘言通じませぬ!」
ここにある者たちは彼女の係累ではない。しかしそれ以上に帝都の平和を守るという大義に燃えた勇士たちなのだと、現実と舞台をリンクさせた歌と台詞で仲間たちを鼓舞する。ドローンから放たれる防御用オーラもまるで一人一人を輝かせるライトの如し。
相手の肉体を傷つけるような戦いはせず、魂や存在そのものに破魔の力を込めた歌唱、演奏で働きかけ、浄化するように戦うことを得意とするフィーナにとって、この歌劇の戦いはまさに本領とも言える舞台であった。
歌と演技がぶつかり合うこの舞台。そこでフィーナはさらに高く声を張り上げた。
「わたしの歌声、舞い散る花となって、みんなに届け!」
その声に呼ばれるように、彼岸桜の花びらが舞台上に舞った。それは彼岸桜のエンブレムを描き、輝きで客席までもを照らす。
その輝きに清められるようにスタアたちの動きに精彩が戻り、一斉に十六夜姫に攻撃を加えていく。【戦場に描くは彼岸の桜】の歌が、十六夜姫の魅了から勇士たちを回復させたのだ。フィーナの纏うスタア甲冑にも共鳴し、その歌は帝都全てに届かんばかりに高らかになる。
そして、輝きは十六夜姫をも照らしていく。
「怪狐よ、彼岸桜の輝きの下、安らぎに眠るがよい!」
エンブレムから大きく花弁が舞い、それが十六夜姫を取り巻いた。それは浄化の力となって、十六夜姫の魔性を払って|浄化を齎す《ダメージを与える》。
「貴女にも、桜の救いがあるように……」
最後の一節を歌い、フィーナは自身の歌劇を締める。世界渡す歌姫の歌は、多くのスタアを従え高らかに歌い上げられたのであった。
成功
🔵🔵🔴
ドゥルール・ブラッドティアーズ
共闘グロ×
WIZ
守護霊の憑依【ハッキング】した甲冑が
火の【属性攻撃・矢弾の雨】を放つも
それが女狐を焼くより早く彼女を抱きしめ
二人きりの空間に隔離【ダッシュ・怪力・捕縛・結界術】
こうして貴女を庇うのは何百年ぶりかしら
演じるは
かつて十六夜姫を匿おうとした女。
女狐に恋した蝙蝠娘
のらりくらりと躱されてばかりだったけど
もう逃がさない。二度と貴女を死なせない
結界の外で見守る守護霊の中には
先ほど救済した狐達の姿も
貴女のお友達を魅了できなきゃ
貴女と釣り合わないでしょ?
蝙蝠娘は今や『救済の黒朱雀』
女狐と自身の香気【誘惑・催眠術】を媚毒【呪詛】の黒炎で
更に香り高く燃え上がらせる。
無限に増す強さ。万物を魅了する魔性。確固たる信念【気合い】
【鼓舞】してくれる友。全てを持ちながら飢えている
が、乳頭を弄ぶ指も鍵穴をなぞる舌も
生娘を愛でるように
じれったいと思える程に優しく
それは娼婦や淫魔も恋焦がれさせる純愛の【慰め】
愛してるわ、十六夜姫
囁いて耳を舐め【化術】で竿を生やし
【串刺し・乱れ撃ち】ながら【生命力吸収・大食い】
舞台の上で繰り広げられる十六夜姫の劇。それは怪奇譚から活劇へと変わり、その結末は十六夜姫の討伐と定められたかのような展開で進んでいた。
その筋書きをなぞるが如く、巨躯のスタア甲冑がその手を機関銃の如くに変え、そこから燃え盛る矢玉を十六夜姫へ向けて滅多打ちにした。
元々頑健ではない十六夜姫は既にそれを避ける力もない。炎の雨が十六夜姫を包み込み、舞台の上が赤に染まった。
そしてその炎が晴れた時、そこは黒い光に包まれていた。その中にいるのは炎を逃れた十六夜姫。そしてドゥルール・ブラッドティアーズ(狂愛の吸血姫・f10671)であった。
「こうして貴女を庇うのは何百年ぶりかしら」
そうして闇の中でドゥルールは十六夜姫に告げる。
帝都に蔓延る怪異は狐だけではない。狗、狸、蛇、獣が変じた化け物だけでも数多くおり、今のドゥルールはかつて十六夜姫を匿おうとした女。女狐に恋した蝙蝠娘を演じていた。
そしてそうとして舞台に上がれば十六夜姫もそうとして答える。
「さて、どれくらいでしょうね。頼んだ覚えは一度もないけど」
それは男に見せる妖艶な媚態でも、敵に見せる恐ろしい怪異の姿でもない。そっけなく、しかしどこか親しげでもある、同類にだけ見せる顔をした彼女にドゥルールは向き合う。
「のらりくらりと躱されてばかりだったけど、もう逃がさない。二度と貴女を死なせない」
闇の中でドゥルールは彼女を見つめる。客席からは二人のいる闇も見通せるが、舞台の上ではこれは常人の認識から遮られた結界の内。違う色で塗られたその場所は、他と切り離された真の異界なのである。
その外にいるスタア甲冑はまるで二人を見失ったかのように何もしない。たとえ同じ舞台の上にいようと、その世界からは二人の姿は完全に消えてしまったのだから当然である。
元よりこれはドゥルールが中の陽炎を遠隔操作している無人の甲冑。先の攻撃も庇うためにドゥルールが放たせたもの。しかしこれはマッチポンプなどという下世話なものではない。彼もまた、この舞台に役目を負って上がった役者である。敵対者を演じろと命じられその役を演じ切った見事な脇役なのだ。
その周囲を、黒い狐たちが守るように取り巻いている。それは敵である甲冑を先に行かせず、主を見守るという表現か。
「貴女のお友達を魅了できなきゃ貴女と釣り合わないでしょ?」
それは先に戦った黒狐たち。伝承の中、十六夜姫が唯一心を許したとされる者たち。
それを従えた証というかのように、ドゥルールは背に|黒い炎《真の姿》の翼を広げた。
蝙蝠娘は今や『救済の黒朱雀』。長く生きた獣は妖となり、やがては神にもなる。伝承に謳われる十六夜姫が倒され消えていた時の間に己もそれに至ったと、ドゥルールは十六夜姫を抱きしめる。
だがこれは演劇であるとともに猟兵と影朧の戦い。十六夜姫の体からは常に【オマージュ・傾世元禳】が溢れ出している。
その香気をドゥルールは自身の黒炎で焼き、さらに香り高い媚毒で闇の世界を満たしていく。黒翼の中には誘惑と催眠の呪い。猟兵として、友の妖怪として、十六夜姫が最も得意とするそれで彼女と渡り合う。
「無限に増す強さ。万物を魅了する魔性。確固たる|信念《気合い》。鼓舞してくれる友。全てを持ちながら飢えている」
それは自分のことか、相手のことか。かつて倒される前の時から彼女の本質はそうであったと告げているのか。
あるいは己もそうであるといいつつも、彼女の胸や下半身を慰める舌や手は生娘を愛でるようにじれったいと思える程に優しく。それは娼婦や淫魔も恋焦がれさせる純愛。
舞台に年齢制限が尽きそうであるが、それでなくては示せない思いを彼女に注ぐ。
「愛してるわ、十六夜姫」
囁いて耳を舐めながら彼女を貫き囁くと、彼女からの返礼もある。
「あらあら……うふふ、ありがとう、我が友」
愛に友誼で答えるのは相手を手玉に取る女狐故か。あるいは配下以外は友と呼べる存在を持たなかった彼女の最大の『特別』の証なのか。
魅了を交換し合い、吸い合い、奪い合う。魅了することに全てを賭けた女狐は、その魅惑の力こそが己の存在そのもの。
そして、劇終の時は訪れる。
「此度も傾国の女狐は世から消える……だけど、世が世である限り、女は帰ってきます。隆盛とは、人が欲で築いたもの。繁栄の光は欲の闇を土台として立っているのです。それを喰らって世を傾げるその時まで……それでは皆様、しばしのお別れを」
ドゥルールの腕の中、十六夜姫は劇の終わりを告げ消えた。そして周囲を守る黒狐が闇に飛び込み、それは中にいたドゥルールとともに溶けて消えた。
それと同時に場内の全ての灯りが落ち、舞台に幕が落ちる。舞台を支えていた妖の力がすべて消え、舞台は元の幕開かぬ廃劇場へと戻ったのだ。
こうして、現代に蘇った幻朧怪狐録の舞台は今日が千秋楽となった。
帝都の新兵器スタア甲冑のお披露目と、帝都櫻大戰が終わっても変わらず現れ続ける影朧の存在。
|桜舞う大舞台《サクラミラージュ》での大活劇は、700年を超えて未だ終わりは見えてはこない。
大成功
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