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ナイトメア・ビフォア・ハロウィン

#シルバーレイン #ファイナルナイトメア #決戦 #モーラット

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●鎌倉某所
「もきゅー!」「きゅぴー!」「きゅきゅぴぴぴぃー!」
「駄目です。ハロウィンは禁止です」
 コウモリの羽や魔女帽子をつけてカボチャに齧り付いている真っ白ふわもこ達を前に、ナイトメアビースト『百目鬼・面影』は説得に悪戦苦闘していた。
 メガリス『ティンカーベル』の奪取と学園や猟兵の反撃を防ぐために、足止め力の高いオブリビオンを呼び出してみたら、やって来たのはモーラットナイトメア達。
 これは好都合。彼らに昭和の古き良き文化を教え込んで、悪夢を具現化する力で鎌倉中を昭和の街並みにしてやろう。
 モーラットナイトメアの力で趣味と実益の両方を取る面影の作戦は完璧のはずだった。
 だが、肝心のモーラットナイトメア達は『はろうぃん』なる祭りをやりたくて、口々にもきゅもきゅ鳴いて、面影の命令に従わない。
「きゅいきゅい? きゅいきゅぴ、きゅきゅー!」
 ――何でダメなの? 昭和ハロウィンにしたらいいじゃん!
 昭和の街並みにハロウィンの飾り付けをしようよと、モーラットナイトメア達が折衷案を出したのだが、それは面影の拘りが許さない。
 ハロウィンが日本で普遍的に行われるようになったのは平成に入ってから。
 一応、日本初のハロウィンパレードが行われたのは昭和58年なのだが、その時の参加者は約100人程度で、しかも殆どが外国人の参加者だったそう。
 その程度の普及率の行事を愛する昭和の町並みに持ち込むわけにはいかない。
 絶対に譲らないと、両手を腰に当てて面影はふわもこ達に向き合う。
「ほら、おいしいお菓子ですよ」
「もきゅきゅー!」
 昭和の良さを彼らのお口に教えてやろうと面影が取り出したのは、栗の形の饅頭、昆布飴、麩菓子、ぼうろ、寒天ゼリー等々、昭和の香り漂う駄菓子達。ご丁寧に木製の菓子鉢に入っていて、気分はすっかりおばあちゃんのお家。
 口いっぱいにお菓子をもきゅもきゅ頬張って、ご満悦の悪夢のふわもこ達。
「じゃあ、分かりましたね? 昭和にはハロウィンはありません」
「もぎゅうっ!」
 ――お菓子は貰うけどそれとこれとは話が別だよ。
 お菓子で釣って言いくるめようとする面影に、ふわもこ達はほっぺを膨らませて抗議する。
 パチパチと火花を散らしながら睨み合うが、どうにも埒が明かない。
「なら仕方ないですね。君達を殺して別のを喚びましょうか」
「「「きゅうううううっ!?」」」
 穏やかな口調も糸目の表情も変えず、手っ取り早く解決しようとする面影。
 学ランから伸びる腕をナイトメアの力を有した紫に変え、鉤爪をギラリと伸ばしてモーラットナイトメア達に向ける。
 悪夢を操る力はあれど能力的には普通のモーラットと大して変わらないふわもこ達は、途端にみんなで身を寄せ合ってぴるぴるぷるぷる震えだす。
「きゅーう! もきゅもきゅきゅ、もきゅーう!」
 おや、一匹だけ震えていない悪夢モラがいるぞ。
 賢そうな丸眼鏡。悪夢王のマントを羽織り、他の者よりも少しだけ大柄で威厳ある姿をしたそいつは、面影の脅しにも動ぜずぴわっと腕を振る。
 するとどうだろう!
 令和の食品衛生法では完全アウトな人工着色料をたっぷり使ったお菓子の入ったケースが並ぶ駄菓子屋。
 手描きの映画看板が並ぶ薄暗い映画館。
 お肉屋さんにお魚屋さん、八百屋さんに雑貨屋さんなどの個人商店。
 みるみるうちに鎌倉の街がオールウェイズな昭和の商店街の風景に変わっていくではないか。
「おや、話がわかりそうなのがいますね」
「きゅー、きゅいぴぴきゅー」
 ――お前達、ハロウィンはいつでもできる。ここは昭和を楽しもうじゃないか。
 モーラットナイトメア達の王、その名もモーラットナイトメア|王《キング》がそう言うと、家来達はしょうがないかと頷く。
「これで昭和の素晴らしさを知らしめることができますね。では、物わかりの良いあなたにこの『錠前屋』の力を預けておきましょう。しっかり守ってくださいね」
 モーラット達を殺そうとしたときと変わらぬ微笑を浮かべた顔のまま、面影は悪夢モラの王へ力を与えるのだった。

●グリモアベース
「きゅっ! きゅぴぴぴぴっ! もぎゅーっ!」
 魔女帽子を被った高崎・カント(夢見るモーラット・f42195)がコウモリ柄の布を振り回しながら叫んでいる。
「大変なのです! またもやナイトメア達が暴れているのです!」
 カントの説明によれば、ナイトメアビースト『百目鬼・面影』配下のオブリビオンが鎌倉に集結し、銀誓館学園からメガリス「ティンカーベル」を奪取しようとしているとのこと。
「これを阻止できなければ、メガリスは奪われ、ナイトメアビースト達は『全盛期の力を永遠に維持できる幻想の軍勢』になっちゃうのです」
 それだけならまだしも、面影はその力を手土産に『書架の王』に合流してしまうのだ。
「そんなの絶対ダメなのです! 何としても阻止するのですー!」
 ぴょんぴょこぴょんと跳ねて大騒ぎするカント。
 カントが騒ぐのには理由がある。

「実は今回もモーラットナイトメアが出たのです。悪モラ達は、鎌倉中を昭和の街並みに変えた後、そこでハロウィンのお祭りを開催しようとしてるのです」
 死者の霊が蘇り、街中に怪物が溢れかえる悪夢の世界は、モーラットナイトメア達の能力と相性が良い。
 お菓子をくれなきゃ悪戯するよ。
 お菓子をくれても悪戯しちゃうぞ。
 まあ所詮はモーラット。その悪戯は、仮装で驚かしたり、両方の靴紐をつなげたり、顔に落書きをしたりする程度。
 彼らは面影に召喚されたのだが、使役ゴーストではないモーラットは他人の言うことなんか聞きやしない。
 ハロウィンを楽しんでいれば出てくるし、その片手間に相手をしてやれば満足して|お家《骸の海》に帰るだろう。それが面倒ならば、出てきたところで攻撃すれば倒すのはそんなに難しくないだろう。
「でも、なんだか初めて見るのがいたのです。とっても悪そうだったのです」
 漆黒のマントを羽織り、丸眼鏡をかけたモーラットナイトメア達の王が、面影に協力しているという。
 この変わったモーラットは他の者よりも好戦的なのと、面影から『錠前屋』の力を授かっているため、こいつだけは倒す必要があるのだ。
 モーラットナイトメア達よりも強い悪夢の力を操る強敵だと、カントは身を震わせる。
 とはいえ、モーラットと同じく遊び好きな性格なので、少々キツめに驚かせてやればよいだろう。

「大変な相手だと思うのですが、皆さんなら大丈夫なのです」
 ハッピーハロウィンなのですと笑うカントに見送られ、猟兵達はシルバーレイン世界へと送られていくのだった。


本緒登里
●MSより
 悪夢モラの王が出ました!
 昭和の香り漂う商店街で悪夢モラ達とハロウィンを楽しみましょう。

●シナリオについて
 こちらは3章構成のシナリオです。

 1章:集団戦『モーラットナイトメア』
 昭和の香り漂う商店街が悪夢のハロウィン会場と化しています。
 ハロウィンを楽しみながら、お菓子も悪戯もと欲張りな悪夢モラ達と遊びます。
 倒しても良いですが、猟兵がハロウィンを楽しまないと彼らは出てきません。

 2章:ボス戦『モーラットナイトメア王』
 たくさんの悪夢モラに傅かれてハロウィンを楽しむ王様モーラットです。
 錠前屋の能力を与えられているので、倒さないと面影への道が開きません。

 3章:ボス戦『百目鬼・面影』
 ラストは面影との純戦になります。
 面影は「昭和の品々から『昭和ゴースト』を生み出す能力」を持ち、『こわいまんじゅう』(おばあちゃんのお家のお菓子バージョン)を呼び出します。

●仮装について
 ハロウィンの仮装を描写することもできます。
 必要な方はプレイングで「南瓜2024」等、イラストを指定して下さい。
 おまかせも歓迎です。

●プレイング受付
 物理的に開いている限り、常時受付中です。
 オバロ、複数、1章のみ参加等、お気軽にどうぞ。
 同行者がいる場合は、同行者の名前とID、もしくはグループ名をお書きください。
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第1章 集団戦 『モーラットナイトメア』

POW   :    もふもふナイトメアイベント!
小さな【もふもふな悪夢 】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【悪夢のイベント会場で、催し物を楽しむこと】で、いつでも外に出られる。
SPD   :    もきゅっとナイトメア祭!
レベルm半径内を【悪夢のお祭り会場 】とする。敵味方全て、範囲内にいる間は【お祭りを楽しむ全ての行動】が強化され、【お祭りを邪魔する全ての行動】が弱体化される。
WIZ   :    きゅぴきゅぴナイトメアパーティー!
戦場内を【悪夢のパーティー 】世界に交換する。この世界は「【パーティーを全力で楽しむこと】の法則」を持ち、違反者は行動成功率が低下する。

イラスト:熊谷狼

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「もーきゅ、きゅきゅぴぴぃぴっぴ! もっきゅー!!」
 ――よし、家来達! まずはハロウィンの飾り付けからだ!!
 昭和商店街の最奥、『錠前屋』の能力で封じられた場所に『百目鬼・面影』が去ってから数秒と経たぬ頃、とっても危険で悪いモーラットナイトメア|王《キング》がハロウィン開催のお知らせを発表する。
「もきゅう? きゅぴぴぃ?」
 ――え、ハロウィンやってもいいの?
 さっきあれだけ脅されて、王自ら昭和を楽しむと言ったばかりではないかと、家来のモーラットナイトメア達がきょとんと首を傾げる。
「もっきゅ! きゅきゅきゅもきゅ、きゅっぴぃ!」
 ――当たり前だ! あいつは錠前の向こうで見えてないんだから、盛大にやろうじゃないか!
 なんたる邪悪! なんたる奸智!
 モーラットナイトメア王は他人の言うことなんか聞きやしないのだ!
「もっきゅ、もきゅーん!」
 さすがは王! 悪夢モラ達はやんややんやと王を讃えて大喝采。
 さあ、モーラットナイトメア達による悪夢の昭和ハロウィンの開催だ!

 何と言うことでしょう。
 昭和レトロ漂う商店街の風景が、悪夢モラ達の手によって昭和の香りを残したハロウィン会場へとリノベーションされていくではありませんか。。
 商店街の石タイルが規則的に並んだ古き良き街路のあちこちジャックオーランタンが飾り付けられ、年代物の手描き看板にはコウモリや幽霊のイラストが飾られ、邪悪な霊魂や怪物達が跳梁跋扈する悪夢の景色に変わっていく。
 精肉店では揚げたてのジャックオーランタン型の南瓜コロッケが山を作る。
 喫茶店はオレンジ色したクリームソーダや、チョコペンで自分で顔を描けるお化けパンケーキ等のハロウィン特製メニューがずらーり。
映画館で上映されるのは、悪夢モラ達によるドタバタコメディホラー。
 八百屋さんの野菜や果物は全て顔つき。ケケケと笑ってお客様をお出迎え。
 駄菓子屋ではトリックオアトリートのかけ声高らかに、集まってきた悪夢モラ達が口いっぱいにお菓子を貪る。

「もきゅー! きゅぴるるもきゅん!」
 ――トリックアンドトリート! お菓子くれても悪戯するよ!
 昭和ハロウィン会場のあちらこちらから、楽しそうなモーラットナイトメア達のもきゅきゅ声が響いてくる。
「もーきゅ、きゅるるぴっぴもきゅう」
 商店街の奥からその様子を睥睨し、悪夢モラ王はハロウィンお菓子を頬張りながら、やってくる猟兵達とどうやって遊ぼうか思いを巡らすのだった。
スイート・シュガーボックス
ハッピ〜〜〜ハロウィ〜〜〜ンッ!!!
(空から昭和ハロウィン会場に舞い降りる【マシュマロ巨人】)

今回はハロウィンという事で仮装代わりにマシュマロ巨人になって来たよ。

トリックオアトリート?答えは勿論お菓子のプレゼントさッ!
さあモーラットナイトメア達、この絶品マシュマロが食べ放題だよ。

このマシュマロボディには秘密が隠されているのさ。
なんとマシュマロボディの中に俺お手製の『美味しいお菓子』が沢山隠されているのさ。
秋らしくモンブラン、お芋タルトやクッキー、昭和っぽいお菓子なら干柿にお饅頭等もバッチリさ。

さあ、モーラットナイトメアの皆は全てのお菓子をトリートできるかな?


【アドリブ歓迎】



 手書書き文字で『悪夢町商店街』と書かれたアーチが古式ゆかしい商店街。
「もきゅぴぴぴ、きゅっぴーー!」
 お菓子を片手に、悪夢のふわもこ――モーラットナイトメア達はハロウィンを満喫中。
「もきゅ? きゅきゅう?」
 ――あれえ、突然辺りが暗くなったよ?
 さっきまで雲一つ無い青空が広がっていたのに、どうしたんだろう?
 無邪気に遊んでいたふわもこ達が首を傾げながら見上げ……。

 その日、モーラットナイトメアは思い出した。
 ヤツに与えられた甘味を……。
 菓子籠の中に入れられる幸福を……。

「ハッピ〜〜〜ハロウィ〜〜〜ンッ!!!」
 アーチの上から上に真っ白でふわふわとした巨大な顔が現れ、古き良き昭和の街並みとそこで遊ぶ悪夢のふわもこたちを覗き込んでいた。
「もきゅぴぴぃーーー!」
 ――何、何? 何なの? あんなの僕達作ってないよ!?
 もふもふ毛皮を数倍の大きさに膨らませて、辺りをクルクル駆け回るふわもこ達だったが、どこからともなく漂う甘ーい香りにふんふんと鼻をひくつかせた。
 この香りはどこから……?
 
「|フワフワの悪夢、マシュマロ巨人だよ《It's the Stay Puft Marshmallow Giant》!」
 モーラットナイトメアの頭上で、巨人がもふっと口を開く!
 驚きに目をぱちくりさせた後、甘い匂い出所に気付いたモーラットナイトメア達が「もきゅーん!」と跳ねて飛んで大喜び!
「うん、ツカミはばっちりだね」
 百メートルもある巨人の中で、スイート・シュガーボックス(おかしなミミック・f41114)はニヤリと笑みを零す。
 今回はハロウィンという事で仮装代わりにマシュマロ巨人に変身してみたのだが、巨大なお菓子でできたユーモラスな姿はモーラットナイトメア達に大ウケだ!
「もきゅっ!」「きゅぴきゅーん!」「もももきゅーん!」
 山のように大きなマシュマロ巨人は商店街のどこからでも見える大きさで、あちこちから甘い匂いに惹かれたモーラットナイトメア達がどんどん集まって来るのが見える!
「もきゅー! きゅぴぴぃもきゅん!」
「トリックオアトリート?」
「もきゅ!」
 マシュマロ巨人を見上げる悪夢のふわもこのお口の端っこからは、たらりと食欲の印が垂れている。
 この腹ぺこで悪戯な悪夢達にスイートが与えるのは!
「答えは勿論お菓子のプレゼントさッ!」
「きゅーっ!!」
 スイートの言葉にふわもこ達は大興奮!
「さあモーラットナイトメア達、この絶品マシュマロが食べ放題だよ」
「もきゅーん!!!」
 巨大な腕を広げて、どこからでも食べていいよとスイートが促すと、モーラットナイトメア達が次々にぴょんぴょーんと飛びついてくる。

 ぽふんぽふんぽふん……ぱくり!
 ふわふわのマシュマロボディに飛びついたふわもこ達が、マシュマロのようにころりん転がって跳ねる。
 落っこちないように慌ててお口で齧り付けば、たちまち口いっぱいに溶け出す砂糖とメレンゲの優しい味わい。
 あの雲がお菓子だったらいいのになあ。
 幼い頃の夢が形になったような巨大なマシュマロに全身包まれて、モーラットナイトメア達は甘い幸せというお布団の中でうっとり目を細める。
 百メートルもある巨人を食べながら進めば……?
「もーきゅ?」
 ふわふわのマシュマロとは違うカリッとした堅い手応え。
 何だろうと首を傾げて、一匹のモーラットナイトメアが鉤爪のおててで掘ってみる。
「も、もきゅきゅきゅーっ!」
 掘り当てたものは、なんとジャックオーランタンの形をした南瓜クッキーだった!!
 思わぬお宝にびっくり! くりくりお目々が丸くなる!
「ふっふっふ、このマシュマロボディには秘密に気付いたようだね」
 好奇心と食欲旺盛なふわもこ達なら絶対に気付くと思っていたが大当たり!
「なんとマシュマロボディの中に俺お手製の『美味しいお菓子』が沢山隠されているのさ」
 マシュマロ巨人のまま胸を張るスイート。
 巨人が動いた拍子に食べ進めた穴の中で転がった別の子の前には?
「きゅっぴ? もきゅーん!」
 なんということでしょう!
 そこには秋の味覚、栗をたっぷり使ったモンブランが埋まっていたのです。
 山を隠すなら山の中。柔らかなクリームの肌を持つお山の頂上にはマロングラッセが鎮座する。
 早速見つけたお宝を頬張れば、しっとりなめらかな口溶けをした秋の味。
 お菓子にうっとりする仲間に負けじと他の子達も勇んでマシュマロを掘れば、出てくる出てくるたくさんのオータムスイーツ達!
 黄金色に輝くスイートポテトのタルトや、ハロウィンにちなんだ可愛いモンスター形のクッキー等の洋菓子の他に、もちろん昔ながらの和菓子もある!
 白い粉が覆っているものほど甘くて美味しい干柿は、中に白あんを隠していてどこか懐かしい味がする。
 紅葉の形をしたお饅頭は、できたての温かさを残していて粒あんがほっくり。
 マシュマロの白から見える温かみのある暖色は、見た目にも嬉しいお宝達。
 スイートが贈った味だけでなく全身を使って楽しむお菓子に、ふわもこ達はもう夢中。

「さあ、モーラットナイトメアの皆は全てのお菓子をトリートできるかな?」
 トリックオアトリート! 楽しいハロウィンの開催だ!

大成功 🔵​🔵​🔵​

龍巳・咲花
まずは一足先にハロウィンを満喫するでござるな!?
配る用のお菓子も持っていくでござる!

まずは喫茶店でハロウィンメニュー(ドリンク&スイーツ)を楽しんでいくでござるかな
こういう季節限定メニューを食べるのはリア充な気がするでござる!
喫茶店を楽しんだら、次はジャックオランタンコロッケを食べ歩きしながら会場を練り歩きモーラットナイトメア達を釣るでござろう!

相手が出て来たら問いかけにはちゃんとお菓子を上げつつ微笑ましい悪戯を受けたり、逆にトリックオアトリートをしてお菓子をくれなかったら落書きしてみたり、一緒にハロウィンを楽しむのでござる!



「まずは一足先にハロウィンを満喫するでござるな!?」
 気合い充分拳を握り、龍巳・咲花(バビロニア忍者・f37117)は、カランコロンとドアベルの音を鳴らして喫茶店へと入っていく。
 扉を抜ければ、そこはもう昭和とハロウィンが一体化したなんとも奇妙で楽しい空間だった。
 磨りガラスの傘のついた天井灯に、ツヤのあるニス塗りのどっしりした木製家具が、最近のカフェではなかなかお目にかかれない趣ある雰囲気を醸し出していた。
 だが、その落ち着いた店のあちこちには、ケケケと笑う南瓜やぱたぱた飛び回るコウモリ等、見ているだけで楽しくなってしまうようなハロウィンの怪物達がどんちゃかお祭り騒ぎをしているのだ。

 さて、本日のお勧めは、悪戯お化けのパンケーキセット。
「こういう季節限定メニューを食べるのはリア充な気がするでござる!」
 猟兵に憧れて修行に明け暮れていた結果、気付けばいつの間にかぼっち。
 周りの能力者達が青春を謳歌しているのがちょっぴり羨ましくもあったし、可愛い物や美味しい物に憧れもある。
「これも依頼の内でござる。しっかり楽しんでいくでござるよ」
 にっこり笑顔でカウンターへ呼びかけると、店員さんは魔女帽子を被ったモーラットナイトメア。オーダーを受け取ると、お盆にホットケーキとコーヒーを乗せてぴょんぴょんと跳ねてきた。
「もきゅー! きゅぴぴぃもきゅん!」
 ――トリックオアトリート!
 お盆を持ったふわもこが、キラキラお目々で咲花に問いかける。
 しかも、何かを期待するかのように時々チラチラッとお盆の上を見て、ニシシと邪悪な笑みを浮かべているではないか。
(ははーん……これが悪戯でござるな)
 咲花が忍びの観察眼で注意深く観察してみると……おやおや?
 お盆の上のシュガーポットには小さな字で食塩と書いてあるぞ。
「もちろんトリートでござるよ」
 咲花はハロウィンカラーのキャンディケインを懐から取り出し、チップ代わりに悪戯モーラットに渡してやる。
「きゅーっ!」
 可愛いお菓子にモーラットナイトメアは大喜び!
 鉤爪のおててでちんまりとキャンディを受け取ると、魔女帽から本物のシュガーポットを取り出して入れ替える。
「ふむ、なかなか可愛い悪戯でござったな」
 もふっとお辞儀をして帰って行くふわもこを見送った後は、さあリア充タイム!
「わわ、これは……っ!」
 ほかほかと湯気を立てるホットケーキは、可愛らしくデフォルメされた幽霊の形。
「これで顔を描くのでござるな」
 チョコペンと生クリームの絞り袋、そして真っ赤な苺のジャムが入った小皿が添えられており、どんな顔にしようかと期待が高まる。
「むむむ、これは以外と難しいのでござる」
 力を入れすぎると線が歪むし、かといって弱すぎたら線が切れてしまう。
 チョコペンと格闘しながら、できあがったのは?
「ふふふ、こうするとムシュマフも結構可愛いでござるな」
 お皿の上にいるのは、生クリームのお髭と苺ジャムの炎を纏った炎竜ムシュマフのお顔。
「ん~、おいしいでござるなあ!」
 ちょっともったいないけれど、甘いスイーツは熱いうちが一番美味しい。
 しっかりどっしりした舌触りのホットケーキは、なかなか食べ応えがあって、お腹も満足させてくれる。
 にっこり幸せスマイルでスイーツをつつく咲花の姿はなかなかのリア充っぷり!
 あっという間に美味しく食べて、のんびりコーヒーを啜ってから気付く。
「リア充は食べる前に写真を撮るのでござった!」

 さてさて、そんなこんなで喫茶店巡りを終えた咲花。
 次にするのは商店街の食べ歩きだ。
 お肉屋さんの特製南瓜コロッケは、ほくほくな南瓜の甘みに、たっぷりラードで揚げた衣のサクサク感。
 揚げたてコロッケを、はふはふと頬張りながら歩けば気分も上がる。
「もきゅー!」
 そんな咲花の目の前に、布を被ったボール大のものがもふっと現れる。
 布の端からちょろりんとはみ出ているのは、紫がかったモーラットの尻尾。
「もきゅー! きゅぴるるもきゅん!」
 ――トリックアンドトリート!
「両方とは、欲張りなモーラットでござるな」
 とりあえずお菓子を渡してやると、強欲なふわもこは「もきゅっ」と鳴いて口に入れる。
 さてどうするのでござろうかと眺めていると、何やら咲花の足元でごそごそ。
「もっきゅっきゅ!」
 なんと、ふわもこは咲花のブーツにお化けシールをペタペタ貼っている!
「むむむ、やられたのでご~ざ~る~」
 なんとも微笑ましい悪戯。咲花が大げさに驚いたふりをしてやると、とっても悪いふわもこは嬉しそうに跳ね回る。
「じゃあ今度はこっちの番でござる。トリックオアトリートでござるよ!」
「もっ!?」
 まさか自分も言われるとは思ってなかったと、ふわもこが目をぱちくり。
「もきゅ……」
 あちこちごそごそして出してきたのは、さっき咲花から貰ったお菓子の包み紙。
「ほほーう。悪戯が望みでござるな」
 にやっと笑った咲花が取り出したるは、洗えば落ちるスプレー缶。
 逃げようとしたところを、ジリジリ壁際に追い詰めて。いざ悪戯!
「ももももきゅううううっ!」
 咲花の手で毛皮をしましまにされたモーラットナイトメアの悲鳴が商店街に響き渡たるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

儀水・芽亜
はいはい、また出ましたね、ナイトメアモーラット。

とりあえずクッキーを焼いてきましたから、皆で分けて、食べていてくださいね。
そんな風にパーティーに加わりましょう。
パーティーなら、歌をうたうものですよね。竪琴を取り出して、聞いてください、私のヒュプノヴォイス。「歌唱」「楽器演奏」「催眠術」「精神攻撃」眠りの「属性攻撃」「音響攻撃」。これくらいで勘弁してあげましょう。

皆さん、しっかり悪夢にうなされていますね。もう二度と悪い夢を見ることがないようにしてあげますね。
得物を裁断鋏に持ち替えて、一匹ずつじゃっきんと。

よく使う手ですが、一体ずつ切り裂いていかないといけないのが一苦労です。



「はいはい、また出ましたね、モーラットナイトメア」
 道端の電柱に巻かれた電飾や電線から垂れ下がる蜘蛛の巣の飾りを見上げて、儀水・芽亜(共に見る希望の夢/『|夢可有郷《ザナドゥ》』・f35644)は、やれやれとため息をついた。
「悪夢を顕現させる前に倒せれば楽だったのですが……」
 悪夢を操る邪悪なふわもこの相手は、これで四回目だろうか。
 モーラットナイトメアは、見た目や身体能力は野良やプールにいるモーラットとそれほど変わらない。
 だが、ひとたび悪夢を生み出した後は、彼らはその悪夢を利用して身を守る。
 今もあちこちから「もきゅきゅぴ」と可愛らしいもきゅきゅ声が聞こえているが、芽亜を警戒して隠れているのか、どうにも見つからないのだ。
「まずはおびき出さないといけませんね」
 どれほど可愛い姿でも、相手はオブリビオン。
 芽亜は彼らに情けをかけたり、ましてや遊んでやって満足させるつもりなどなかった。
 満足すれば勝手に骸の海へ帰るとはいえ、それが何時になるかはモーラットナイトメアの気分次第。猟兵が遊んでやれば満足まで時間が短縮されるとはいえ、倒した方が手っ取り早いと考える人がいるのも当然のこと。
 そもそも、モーラットというのは好奇心旺盛で遊び好きな性格で、人間社会に潜り込んでは悪さをするもの。ただの野良モラであれば、その悪さは器物破損やおやつの窃盗程度で済むが、モーラットナイトメアの悪夢に巻き込まれれば、場所によっては都市機能の麻痺にまで繋がりかねない。
 現に今、元々この辺りにあった街の住民は、世界決壊の影響で外に出られないでいた。
 無邪気に遊んでいるだけでも、いるだけで迷惑をかけるのがオブリビオンなのだ。

「ここならたくさんいるでしょうね。しかも映画館とは好都合な」
 芽亜がたどり着いたのは、モーラットナイトメアの姿がペンキで描かれた手描き看板が懐かしい映画館。
 中に入れば透明な仕切りで区切られた切符売り場があり、奥の小部屋からしゅっと映画の切符が滑るように飛んできた。
 分厚い両開きのドアを開ければ、中では映画の上映中。
 仮装したふわもこ達がスクリーンの前にもきゅもきゅと集まって、てんでに鳴いたり駆け回ったり。紫色のポップコーンを食べながら昭和ハロウィン映画祭の真っ最中。
「もーきゅ?」
「とりあえずクッキーを焼いてきましたから、皆で分けて、食べていてくださいね」
 いぶかしげに「だあれ?」と首を傾げたふわもこ達だが、芽亜がカラフルなアイシングで彩られたクッキーを差し出したら、もきゅっと警戒心を解いて集まってくる。
「パーティーなら、歌をうたうものですよね?」
 芽亜がそう問いかけながら竪琴を取り出すと、ふわもこ達は大喜び。
 竪琴の旋律に合わせてもきゅきゅぴと好き勝手に合唱していたのだが……。
「もふわぁ~」
 大口を開けて欠伸して、段々まぶたが落ちてきて……。
 もっふんころりん寄り集まって、意識がだんだん遠のいて……。
「私のヒュプノヴォイス、よく利きましたね。シアターの音響のせいでしょうか」
 芽亜の声も聞こえないのか、モーラットナイトメア達は悪夢の中で悪夢を見る。

 ほわんほわんほわんもきゅもきゅ~。

「よくも昭和にハロウィンを持ち込んでくれましたね。殺しますよ」
「もきゅっ? きゅー!」
 夢の中、可哀想なふわもこ達は巨大な鉤爪を振りかざした面影に追いかけられていた。
「そんなに怖いものが好きなら見せてあげますよ。ねえ病垂さん?」
 促す面影の隣にもう一人、同じく鉤爪の手をした陰鬱な顔つきの美少年が立っていた。
「やれやれ……一番怖いのは人間だとでも言うところかい? あまり好きな話の構成じゃないな」
 薄ら笑いを浮かべた少年が持つのは大鋏。その刃は血で赤黒く汚れて錆が浮いている。
「ぴきゅううううっ!!」
 悲鳴を上げるふわもこを一匹ずつ追い詰めて、少年は巨大な鋏の葉を開く。

 ジャキジャキ、ジャッキン!

 映画館の壁に、金属が擦れる音が反響する。
 それはモーラットナイトメア達が悪夢の中で聞いた音と同じもの。
「皆さん、しっかり悪夢にうなされていますね」
 恐怖に引きつったもきゅもきゅ寝言。悪夢にうなされるふわもこ達を見下ろして、芽亜は裁断鋏『Gemeinde』をジャッキンと鳴らす。
「もう二度と悪い夢を見ることがないようにしてあげますね」
 芽亜が細身のクロスシザーを閉じれば、刀のように鋭い二枚の刃がさっくりモーラットナイトメアを両断する。
 芽亜は動けないふわもこ達を一匹ずつジャッキンと仕留めていく。
 悪夢に切られたふわもこは、現実でも芽亜に切られて真っ二つ。
 昭和の映画館は総入れ替え無し二本立ても多い。
 今回の上映はコメディホラーとスプラッター映画。お子様も悪モラも泣きだす特別仕様。

 とりあえず近くにいるのを全滅させてから、芽亜はふうと額の汗を拭う。
 まだ隠れたのがいるかもしれないと見渡せば、座席の下に一匹、階段の上に三匹、そしてスクリーンの裏に四匹……。
「よく使う手ですが、一体ずつ切り裂いていかないといけないのが一苦労です」
 ため息をついて、芽亜は残ったモーラットナイトメアを片付けていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

柿木坂・みる
【羽花音】
仮装:ワイルド系の洋服に耳と尻尾、両手ににくきゅーグローブ装備して狼男をイメージ
配るお菓子も準備してポケットへ

これが昭和レトロな商店街なんだね!?見るものぜーんぶ新鮮ですごい!!!テンション上がってきたー♪

あ!羽柴さん、南瓜コロッケ!
パタパタと走ってお店へ
こんなのあるんだ!美味しそーだよー!!(じゅるり)

あそこの喫茶店のお化けパンケーキも美味しそう!!!
日花ねー!いこいこー♪

だ、だいじょーぶだからっ!悪夢はカロリーゼロだから!

もー!悪戯返しだよー♪
悪戯で幻獣はねうさぎ召喚を使いモラちゃん達を驚かせる
驚いたモラちゃん達を手当たり次第、存分にモフモフ……いっぱいモフモフ最高なんだよ!!!


羽柴・輪音
【羽花音】
仮装:南瓜2022
某ゲームの賢者衣装

昭和レトロとハロウィンって…と思ってたけど
こんなに可愛らしい感じになっちゃうものなのね!

きゃー、柿木坂さんかわいい!モラさん持った時の愛らしさったら!
日花ちゃんも似合ってる!ふふ、お菓子の無限供給もさすがね

わたしもお菓子は持ってきたからぜひもらって♪
(手にしたお菓子いっぱいの籠から出したキャンディを配ってみつつ)

ふふ、こんなにかわいいモラさん達が作ってくれた悪夢なら歓迎よね
食べ歩きも喫茶店でのお茶も思いっきり楽しんじゃいましょ♪

あんまり戦闘な感じしないけど
ハロウィン楽しむ演出も兼ねて、
UCの舞(今回はハロウィン風味)で白燐召喚して回復もしておくわね


天見・日花
【羽花音】
仮装:南瓜2010
魔女です。

お、ハロウィンナイズされてるけどちゃんと昭和の街並みだ。懐かしい。
……なんて言ってると歳がバレそうね。

お菓子は帽子の中に隠し持って来ました。というテイで実はUCで都度生成してます。
ほぼ無限に出せるのでモラ達にもご満足頂けるかと。

モラ達は良いとして、みるちゃんはそんなに食べて大丈夫か。太るぞ。
私は良いのよ。呪剣経由でしか栄養摂れないから直なら食べ放題。

でしょでしょ、押し入れから引っ張り出した甲斐があったわ。
|姉御《輪音さん》のも素敵ね。普段和装だから新鮮な感じ。

悪戯が過ぎるモラがいたら箒でペシペシはたいて懲らしめよう。
UCで作った箒なので当たると痛いぞ多分。



 石タイルが幾何学模様をつくる商店街の道。
 温かみのある看板や昭和の雰囲気たっぷりの木造の建物が並ぶ通りに見えるのは、紫色とオレンジ色が基調の手描き文字で書かれた「ハッピーハロウィン」の文字。
 街灯はデフォルメされた蜘蛛の巣で飾られ、そこからぷらーんと小さな蜘蛛の人形が揺れていた。
 夢のような、悪夢の様な異界の雰囲気。
 それは過去から染み出した|怪物《オブリビオン》によって創られた、本来この世界にあってはならないもの。
 だけど、ただこのハロウィン迎える今だけは、この祭りを楽しんでもよいだろう。

 あちこちからもきゅもきゅと小さな鳴き声が聞こえてくる商店街の通りを、ハロウィンらしく仮装した三人が歩いて行く。
「これが昭和レトロな商店街なんだね!? 見るものぜーんぶ新鮮ですごい!!! テンション上がってきたー♪」
 令和の時代では商店街というのも珍しい。
 初めて見る景色に胸を躍らせて、柿木坂・みる(希望の羽・f44110)は、ぽふんと手を打つ。
 みるの本日の仮装はワイルドな狼男!
 ホットパンツとファーをあしらったレザーの上着。狼耳とふさふさの尻尾に、もちろんにくきゅーグローブだって忘れない!
「お、ハロウィンナイズされてるけどちゃんと昭和の街並みだ。懐かしい」
 対してこちらは、見覚えがあると、思い出の中の景色と重ねて楽しんでいる者。
 紫のリボンで飾られた魔女帽子を揺らして、キョロキョロと商店街の中を見渡しているのは、天見・日花(虹の縁環・f44122)だ。
 見た目は17才の少女にしか見えないが、この姿は運命の糸症候群によるもので実年齢は……ごにょごにょ。
「昭和レトロとハロウィンって……と思ってたけど、こんなに可愛らしい感じになっちゃうものなのね!」
 そして最後は白と赤の法衣に身を包んだ羽柴・輪音(夕映比翼・f35372)だ。ゲームの賢者衣装らしいが、自前の豪奢な金の縦ロールと合わさって、清楚でありながら高貴な雰囲気を醸し出している。

「これ全部モラちゃん達が創ったんだよね! わたし達が能力者だった時のモラちゃんとはぜんぜん違うね」
「そうね。野良モラさんを保護する依頼を受けたことはあるけど、こんなことができるモラさんはいなかったわね」
「オブリビオンは過去の存在だけど、世界結界以前にはこんなモラがいたのかな」
 能力者として思い出す共通体験は、学園で受けた野良モラ保護依頼。
 あちこちに出没する悪戯好きのモーラット達の保護は、銀の雨が降る時代の能力者ならば一度くらいは受けているもの。
 もちろん三人も受けたことがあり、今回のモーラットナイトメアとの違いを確認する。
「えっと、確かハロウィンを楽しめば出てくるって話だったね」
「お菓子を見せたら出てきてくれるかしら?」
「だな。そこら辺は野良モラと同じだろうね」
 日花が辺りの気配を探れば、街のあちこちから視線を感じる。
 仮装をした三人に悪夢のふわもこ達は興味津々なのだろう。
 だけど、まだまだ警戒しているのか出てこない。
 お菓子で釣ってみようかと日花と輪音が相談していた時――。

「あ! 羽柴さん、南瓜コロッケ!」
 言うやいなやパッと駆け出し遠ざかっていく、みるの元気な声!
 パタパタ小走りで精肉店の店先に駆け寄れば、そこにはお肉屋さんの揚げたてコロッケが山のように積まれていた。
「わ、このコロッケ、目と口がついてる! こんなのあるんだ! 美味しそーだよー!!」
 フライヤーの中でジュウジュウと音を立てるラードの香ばしい香りが食欲をくすぐる。
 形は普通のコロッケと同じ楕円形だけど、こんがり狐色に揚げられた衣に、ケケケと笑うジャックオーランタンの顔の形に焦げ目がついたハロウィン仕様。
 じゅるりと、思わず口の中に溢れる涎をこらえ、みるが見つめるコロッケの山の影。
「……って、ああ! モラちゃんいた!」
 そこには、サクサクとコロッケを頬張るふわもこがいた。
 うっすら紫がかった毛とちっちゃな鉤爪。間違いない、モーラットナイトメアだ!
「もきゅ? もぐむきゅ……もぐもぐもぐ……」
 突然の狼男の襲来に、びっくりしたふわもこは慌ててコロッケを口に突っ込みモゴモゴしている。
 この隙に!
 よいしょっと手を伸ばして、みるはモーラットナイトメアの丸い身体を持ち上げる。
 もふもふ……もっふり、もふ!
「うーん、昔と変わらないもふもふ!!」
「もきゅー?」
 ほんわりと掌を包み込むモーラット特有のもふもふ毛皮の感触に、みるはうっとり目を細める。ふわもこの方も抱っこは満更でもないようで、されるがままになっている。
「きゃー、柿木坂さんかわいい! モラさん持った時の愛らしさったら!」
 追いついた輪音が両手を頬に当てて、黄色い声を上げる。
 可愛いふわもこを抱っこする可愛い狼男さん。
 可愛いと可愛いが合わされば、その可愛さは山よりも高く海よりも大きい!
 輪音がスマホのカメラを向ければ、狼男とふわもこが「|がおー《もきゅー》!」とポーズを取ってツーショットを決める。

「もきゅー! きゅぴぴぃもきゅん!」
 ――トリックオアトリート!
 みるに抱っこされたまま、ふわもこは「もきゅん!」と鳴いてお菓子のおねだり。
「よしよし、それじゃあ魔女のお菓子をあげようかな」
 指先で魔女帽子を跳ね上げ、日花が帽子をふわもこに差し出す。
「もきゅ? きゅぴぴぃ、ぴきゅー!」
 ――何も入ってないよ? それじゃあ悪戯だね!
「ふふふ、悪戯には早いぞ。魔女の帽子は魔法の帽子、中に手を入れてみるんだ」
 邪悪なもきゅきゅ笑いをして身を乗り出すふわもこ。日花はその鼻先に指を突きつけ制して、指先くるるん魔法をかける。
「……も? きゅ! きゅぴぴぴーん!」
 ふわもこが帽子の中に手を突っ込んでごそごそすると、出てきたのはカップケーキ!
 チョコレートの目とジャムの口。可愛い粉砂糖が雪のように降り積もって、ハロウィンにぴったりのお化けのケーキだ!
「私の魔法、ご満足頂けたかな?」
「もっきゅ! きゅーん!」
 可愛いトリートに、途端に目を輝かせてお菓子を頬張るふわもこ。
「あ、いいなあ。日花ねー、わたしもトリックオアトリートだよ!」
「はいはい。みるちゃんも手を入れてみなよ」
 素敵なお菓子の魔法に魅せられて!
 ずいっと伸びてきた悪戯な後輩の手の前にも、日花は帽子を差し出してやる。
「わあ、スパイダーグミだ! 日花ねー! ありがとー!!」
 カラフルなグミを口に放り込みもぐもぐ噛むと、さりっとした砂糖の粒が口の中で砕ける甘さとグミの弾力ある歯ごたえ。
 お菓子の魔女からの贈り物を受けてにっこり笑顔の狼男とモーラット。
 その無邪気な表情に、見ている方まで思わず微笑ましくなってしまう。
「日花ちゃんも魔女さんっぷりがよく似合ってる! ふふ、お菓子の無限供給もさすがね」
「でしょでしょ、押し入れから引っ張り出した甲斐があったわ」
 幸せな魔法が生み出す一時に、柔らかい微笑みを浮かべる輪音。
「わたしもお菓子は持ってきたからぜひもらって♪」
 お菓子の魔女が人を幸せにしたなら、賢者の自分も負けてはいられない。
 手にしたお菓子いっぱいの籠から棒付きキャンディを取り出せば、ちょうどお菓子を食べ終えた悪戯狼とふわもこの目が、吸い込まれるようにお菓子へと移る。
 くるんと包み紙を取ると、紫とオレンジの渦巻きがカラフルなロリポップが飛び出す。
「もきゅーん!」
「あまーい! 羽柴さん、ありがとー! ……ってあれ?」
 モラちゃん達を楽しませるつもりが、いつの間にか自分の方が楽しんでいる!?
 いいのかなあと首を傾げて見たけれど、日花ねーも羽柴さんも楽しそう。
 みんな幸せならいいか!
 そう思って、みるはとびっきり弾ける笑顔を浮かべたのだった。

 さて、素敵な魔法で一匹のモーラットナイトメアを幸せにした三人の魔女達。
 次に訪れるのは……?
「あそこの喫茶店のお化けパンケーキも美味しそう!!!」
 魔女達を先導するのは、とびきり元気な狼さん。
 みるが「いこいこー♪」と二人の手を引っ張って駆け出した先。
 きっとそこには愉快な出会いが待っているはずだ!

 令和の時代には懐かしくもある、半円状のオーニングがつけられた喫茶店の店先。
「いかにも昭和って感じの看板だね」
 斜体の手書き文字で、純喫茶『ナイトメア』と書かれている看板ライト。それを見て、日花が感心したように頷く。
「モラさん達、オブリビオンなのに詳しいのね」
 オブリビオンであるモーラットナイトメア達がどうして昭和の街並みを再現できるのか、輪音は不思議に思って首を傾げる。
 だが、看板の上にある回転灯は、南瓜型のパトランプが灯るハロウィン仕様。
 昭和とハロウィンという異なる世界観を無理矢理くっつけた奇妙な悪夢の世界。
 今のところ自分には楽しいだけだが、この光景は昭和を愛する百目鬼・面影から見れば確実に悪夢でしょうねと思いながら、輪音は瞳を瞬かせて扉をくぐる。

 木製のしっかりしたドアをくぐれば、そこはもう悪戯な悪夢の世界。
 店の奥のにある四人がけのテーブル席の周りは、紫のリボンやおもちゃ南瓜で作った不気味で神秘的なガーランドで囲まれ、ちょっとした異界気分が味わえる。
 ちょうどモーラットナイトメア達もおやつタイムなのか、喫茶店の席のあちこちにふわもこ達が腰掛けて、もきゅきゅぴとクリームソーダやハロウィンケーキを喫したりしているのが見える。
 注文を取りに来たのは、包帯でぐるぐる巻きになったモーラットナイトメア。多分ミイラ男の仮装のつもりだろうが、上手く巻けずに垂れ下がった包帯が、床の上でリボンのように揺れていた。
 
 注文を済ませれば、ほどなくハロウィンスイーツ達がずらりとテーブルの上に並ぶ。
「わあ……っ!」
 目の前に広がる甘い幸せに、三人揃って目を輝かせる。
 自分で顔を描けるお化けパンケーキには、たっぷりの生クリームと苺ジャム、それと顔を描くためのチョコペンがつけられていて、味や見た目だけでなく作って遊ぶ楽しみも用意されている。
 クリームソーダはハロウィン風。夜の闇の中を彷徨うジャックオーランタンがモチーフのソーダは、下がオレンジ、上はグレープジュースの二層構造で、くるりとストローでかき混ぜれば溶けて混ざった色が渦を巻く。その上に鎮座するのは黒猫風アイス。猫耳はウエハースでできていて可愛さ満点だ。
 これだけでなく十字架型のチョコレートが可愛い墓場ロールケーキに、紫芋と南瓜を練り込んだスポンジが層を創るしましまハロウィンケーキも!
「もきゅ!」
 ごゆっくりと一礼する代わりにぴょんと跳ねたふわもこ。
 ちらっと他のモーラットナイトメア達に目配せするその口元に、なにやら邪悪な笑みが浮かんでいたような気がするが、今は三人は目の前の甘味に夢中。
「結構本格的だね。悪夢なのにこれだけできるんだ」
「ふふ、こんなにかわいいモラさん達が作ってくれた悪夢なら歓迎よね」
「そうだね! すっごく美味しそう!!」
 待ちきれないとフォークを片手に、みるが取り皿を引き寄せる。
 ぱくりと一口頬張れば、甘い幸せに口元緩めてうっとり喜びを顔いっぱいに表す。
 フォークを動かす手を休めず、まろやかな甘みをぱくぱく味わっていく。
 幸せいっぱい、夢いっぱいと、スイーツを口に運ぶみるだったが……。
「みるちゃんはそんなに食べて大丈夫か。太るぞ」
 さっきコロッケも食べてただろと、日花からの痛恨の一言!
 どんなに美味しい甘味でも、永遠の18才としてはカロリーを気にせずにはいられない。
「だ、だいじょーぶだからっ! 悪夢はカロリーゼロだから!」
 店中のふわもこが「もーきゅ?」と首を傾げているが見ない振りして……。
「そんなことより日花ねーこそ! さっきから私よりも食べてない?」
 矛先を相手に向けて共倒れを狙う、みる渾身の作戦だが……?
「私は良いのよ。呪剣経由でしか栄養摂れないから直なら食べ放題」
 ひらひら手を振ってあっさり否定された上に、ダイエットの心配などない身体というアピールをされてしまって、みるはむむむ……と唸る。
「まあまあ、今日位いいんじゃないかしら? 食べ歩きも喫茶店でのお茶も思いっきり楽しんじゃいましょ♪」
 そこへ出てくるおネエさんからの助け船。
 ハロウィンなのだから少しくらい羽目を外しても大丈夫だと、スイーツよりも甘い言葉。
 それにこれから戦いもあるのだから、ね?
 英気を養いましょうという提案に、二人揃って頷いて。
 
 進むよ進む、悪夢のお茶会。美味しいケーキに気心しれた大切な友人達との会話。
 そして悪戯なふわもこ達!
 
 ぴょんぴょんぴょいーん!
 一匹のモーラットナイトメアが、包帯をひらめかせて机に飛び乗ってきた。さっき注文を取りに来たふわもこだ!
「もきゅー! きゅぴるるもきゅん!」
 ――トリックアンドトリート! お菓子くれても悪戯するよ!
 くりくりお目々をキラキラさせて、チョコペン構えてホールドアップ!
 モーラット山賊団だ! お菓子をあげても止まらない、極悪非道の邪悪モラだ!
「もきゅ!」「きゅっきゅぴ!」「ぴっきゅー!」
「か、囲まれてるー!!」
 気が付けば、三人は喫茶店の中にいたふわもこ達に取り囲まれているではないか。
 一応トリートをあげてみたが、悪モラ達は「もきゅん!」と嬉しそうな声を上げてお菓子を受け取った後は、すぐにジワジワと躙り寄ってくる。
「わっ、何をするのかな?」
「あらあら、悪戯っ子のモラさん達ね」
 三人がそう言っている間にも、悪い悪いふわもこ達は包囲網を狭めて近寄ってくる。
「もっきゅきゅぴぴー!」「きゅー!」「きゅー!」「きゅぴー!」
 ミイラモラが突撃の号令代わりにピシッと手を振り下ろせば、全軍突撃と飛びかかってくるモーラット山賊達。
「わ、くすぐった! こら、やめなさいって!」
 悪モラ達、ふわふわの毛を活かした、もふもふくすぐり攻撃を仕掛けてきたぞ!
 顔の真ん前でくすぐるように弾けて転がられれば、柔らかな毛が鼻先をくすぐってクシャミを一つ。

「もっきゅっきゅ! きゅきゅぴ……ぴいいいいっ!?」
 多大な戦果にもっふり胸を張って勝ち誇ろうとした、悪夢のふわもこ達。
 だが、その目の前で淡い光が瞬いて……そして突如、たくさんの『幻獣はねうさぎ』が振ってくる!
 その数なんと132匹! 悪夢モラを埋め尽くしてもっふりぴょんぴょん。
「もー! 悪戯返しだよー♪」
 みるの呼び出したはねうさぎにびっくり仰天!
 慌てて喫茶店の入口から逃げようとする悪夢モラ達だが、慌てすぎて右往左往。
「あまり戦闘な感じしないけど、ハロウィンの演出ですよ」
 そこを輪音が呼び出した蝶の形をした白燐蟲に追いかけられて、「ぴいっ!?」っと悲鳴を上げてウロウロわたわた。
「モフモフ……いっぱいモフモフ最高なんだよ!!!」
 更に、みるにぐわしと捕まえられて、手当たり次第にもふられてはポイ、もふられてはポイ!
「悪戯が過ぎるモラは、箒でペシペシだぞ」
 更に更に、日花が百葉箱から取り出した魔法の箒でペシンとはたいて懲らしめる。
 最後には箒で掃き散らされて、入口からぽいっと外に掃き出されてしまう。
 お菓子も悪戯もと欲張ったモーラットナイトメア達は、どことなく楽しそうに「もきゅきゅのきゅー!」と鳴きながら逃げていく。

「ちょっと可哀想だったかしら?」
「いいんじゃない? お菓子はあげたんだし。それに、モラ達結構楽しそうだったよ」
「日花ねー、羽柴さん! それよりお茶会の続きしよ!!」
 色々あったけど、ハロウィンパーティーはこれからが本番!
 この一度きりの今日という日がとびっきりの思い出になるように!
 顔を見合わせて、三人は笑みを交わし合うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳥羽・白夜
八坂(f37720)と。

【南瓜2023】の吸血鬼姿。なお真の姿ではないため瞳は青のまま、コウモリの羽もなし。
はぁ…今年もまたこの仮装か…真の姿思い出すから嫌だってんのに。

うわ美味そう!早くくれ!
え、あー…ト、トリックオアトリート…?(小声)

やった!いただきます!
…あ、俺も一応菓子あるぞ。ピザ味のポテチにトマト味のプリッ…プレッツェル。

お、こっちにもトマトあるじゃん。
八百屋のトマトに近づいたらトマトが笑い出して思わずビクっと。

なんだよ脅かすなよ…
こうなりゃ仕返しだ、コウモリ変身で吸血コウモリに変身。血は吸わないけどコウモリ姿でモーラットナイトメアを驚かし追いたてる。
これに凝りて帰ってくれよな。


八坂・詩織
【南瓜2023】の星座柄の黒ドレス姿。

仕方ないじゃないですか、ハロウィン楽しまないと出てきてくれないんですから。
それにこれらのお菓子にはその仮装が合うと思いますよ?
トマトゼリーにトマトジュースで作った琥珀糖…
違うでしょ白夜さん、トリックオアトリートって言わないと。

よくできました、お菓子をどうぞ。
ほらモーラットさん達も、お菓子をあげますから悪戯しないでくださいね。

…ってやっぱりトマトなんですね…きゃっ!?
笑い出した南瓜にびっくり。

もう、お菓子をあげても悪戯しちゃうなんて仕方ないですね…
悪い子にはキノコが生えちゃいますよ?
強制共生弾でテレパシー、『ハロウィン楽しんだならお家へお帰り、またいつか』



 十月の終わりは、日が落ちるのも早い。
 夕暮れ時を迎えてうっすら橙に染まる空の色合いが、昭和という現代から見ればノスタルジックさを感じる街並みに彩りを添えていく。
 木製やタイル張りの小さな個人商店が建ち並ぶ街に飾られた南瓜のランタンには温かみのある光が灯され、薄ぼんやりと周囲を照らし出して幻想的な雰囲気を醸し出す。
 通りのあちこちに吊されたコウモリや蜘蛛の巣の飾りが、光を受けて揺れる。
 そんなハロウィンの祭り会場の中で――。

「はぁ……今年もまたこの仮装か」
 摘まんだマントの裾を青い瞳で見つめてため息を零すのは、鳥羽・白夜(夜に生きる紅い三日月・f37728)だ。赤い裏地も鮮やかな漆黒のマントにゴシックな文様が描かれたベストは、何処から見ても吸血鬼をイメージしたもの。
「……真の姿思い出すから嫌だってんのに」
 さすがに三十路越えでコウモリ羽根はイタい気がする。赤い目も、いかにもそういうお年頃の子供が考えた最強の姿みたいで、少し恥ずかしくもある。
「仕方ないじゃないですか、ハロウィン楽しまないと出てきてくれないんですから」
 白夜の隣を歩くのは、八坂・詩織(銀誓館学園中学理科教師・f37720)が宥めるように言う。こちらは気品のあるゴシック風味の黒ドレス。夜空を思わせる濃紺に星座の光を映してしとやかに煌めく。
 ゴシックな吸血鬼姿の横に古風な星空ドレスが並ぶのは、まるで揃いであつらえたようで、詩織としては満更でもないのだが……。
 そもそもこんな祭り自体恥ずかしいのだろう。
 去年と似たような反応に、「格好いい」と伝えても、かえって拗ねるだろうなと思う。
 しかし、もう付き合いも大分長いのだ。拗ねる先輩の扱いはちゃんと分かっている。

「これらのお菓子にはその仮装が合うと思いますよ?」
 悪戯っぽく微笑む詩織が取り出してみせたのは――。
「トマトゼリー!」
 新鮮トマト果汁をたっぷり使った真っ赤なトマトゼリーが、小さな硝子瓶に入っている。
 瓶には吸血鬼のお供のコウモリも添えられていて、ハロウィンらしさもたっぷりだ。
「おお、うまそう! ん、こっちは……?」
 さっきまでの不平不満も嘘のよう。詩織が取り出したトマトづくしのお菓子に目を輝かした白夜だが、その視線が別の物を捉える。
 宝石のように煌めく薄紅の欠片が入った小箱。中に入っているのは確か……。
「はい。トマトジュースで作った琥珀糖……前に作るって約束してたでしょう?」
「あー、前にモラ捕まえた時に言ってたな」
 そういえばあの時もモーラットナイトメア絡みの依頼だったなと思い出す。
 依頼途中で交わした会話の中で、そんな話題になったような気がする。
 モーラットを誘い出すという目的で八坂が出した琥珀糖。
 そこにトマト味はないのかと聞けば、あるわけないと言われたけれど……。
 今度作るという約束。自分はすっかり忘れていたけれど、八坂は覚えていてくれたのか。
 後輩の心遣いに、ふっと頬を緩めて……。
「うわ美味そう! 早くくれ!」
 次の瞬間はもういつもの白夜。
 くれくれと琥珀糖の箱に手を伸ばすが、その箱を詩織がひゅっと引っ込めた。
「なんでー! 俺に作ってきてくれたんだろー?」
 ほっぺぷっくり、口を尖らせて抗議する白夜に、詩織は小さくため息。
「違うでしょ白夜さん。トリックオアトリートって言わないと」
 ハロウィンでお菓子を貰う作法は何でしたっけ?
 教師という職業柄か、詩織は正解を促すように言い聞かせる。
 トリックオアトリート――お菓子くれなきゃ悪戯するぞ。
 お菓子をあげるから、少しくらい意地悪をしてもいいですよね?
 ちょっぴりそんな気持ちになりながら、詩織は白夜の言葉を待つ。
「え、あー……ト、トリックオアトリート……?」
 しばしの逡巡の後、返ってきたのは恥ずかしそうな小さな声。
「よくできました、お菓子をどうぞ」
 よほど気恥ずかしいのかぽりぽりと頬を掻き目を逸らしているけれど、それでもちゃんと言ってくれたことにほんのり嬉しくなりながら、詩織は小箱を白夜に渡す。
「やった! いただきます!」
 早速ぱくりと口に放り込んで、「うまっ!」と喜びの声を上げる白夜。
 少し遅くなったけど、これだけ喜んでくれるなら作る練習をして良かった。
 心の中で小さくガッツポーズをして、詩織も顔をほころばせて、琥珀糖を一つ摘まむ。
 ほんのり甘酸っぱいトマトの香りが、ふわり。半年前の約束と共に口の中を抜けて行く。

「きゅきゅっ……きゅぴぴー」
 おや、足元で小さく可愛らしい鳴き声が。
 足元に視線を向ければ、くりぬいた南瓜を頭に被ったふわもこが三匹。鉤爪のおててで詩織のドレスや白夜のマントの裾を引っ張っている。
 じゅるりと食欲の証を垂らし、彼らの視線はトマトのお菓子にすっかり釘付け。
「お、モーラットナイトメア。さっそく出てきたな」
「あらら、お菓子が欲しくなっちゃったんですね」
 二人が問いかければ、こくこく頷いてお口を開けるふわもこ。
「ぴきゅー! きゅぴぴぃもきゅん!」
 ――トリックオアトリート!
 お菓子をねだるふわもこは、わきわきと鉤爪を揺らして催促。お菓子が欲しくて欲しくて、たまらないといった表情。
「はいはい。モーラットさん達も、お菓子をあげますから悪戯しないでくださいね」
「あ、俺も一応菓子あるぞ。ピザ味のポテチにトマト味のプリッ……プレッツェル」
 詩織がゼリーの入った瓶を、白夜がポテチとプレッツェルを与えると、ふわもこは「もきゅー!」と喜び、さっそくむしゃむしゃ食べ始める。
 さくさく音を立ててポテチを囓るもの、琥珀糖を手に持ってペロペロ舐めるもの、トマトゼリーをスプーンでしゃくしゃく掬うもの。
 どの子もハロウィンのお菓子に夢中で、ふわふわの毛を揺らして楽しんでいる。
 これがナイトメアビースト『百目鬼・面影』によるメガリス奪取を阻止する依頼の途中でなければ一緒に楽しんでいきたいところだが、そういうわけにもいかない。
「もきゅ!」「ぴぴーい!」「きゅっぴー!」
 お菓子を貰って満足したふわもこ達がピョンピョン跳ねて去って行った後、二人は再び街を歩く。
 先程、お菓子をあげたことでハロウィンを楽しむ人と認識されたのか、時折仮装したモーラットナイトメアが次々現れてお菓子をねだってくる。
 彼らにも渡してあげながら進むと……。

「もきゅー! きゅぴるるもきゅん!」
 ――トリックアンドトリート! お菓子くれても悪戯しちゃうぞ!
 悪魔の羽根と尻尾をつけた悪夢のふわもこが、一匹。
 ニシシとちょっぴり邪悪な笑みを浮かべて、二人の目の前に飛び出してきた!
「おっと? こいつは?」
「今までのモーラットさんとはちょっと雰囲気が違いますね」
 顔を見合わせる二人。
 時々チラチラと周囲に視線を送っては、「きゅーきゅー!」と鳴いている。
 その様子を見れば、どうやら辺りに仲間が潜んでいるようだと思う。
「どうしたもんかな」
「そうですね、ここは悪戯に乗ってあげましょうか」
「そーするか。こいつらの王も探さないといけないしな」
 どうしたものかとやり取りし、ここは成り行き任せで!
「ほれ、トマト味のポテチだぞ」
「琥珀糖もどうぞ」
 お菓子を貰ったふわもこは、「きゅっぴ!」と一声鳴くと、後ろを向いてぴょんぴょん跳んで駆けて行く。時々振り返っては、二人の方を見て「きゅーん!」と鳴く。
「着いてきてほしいんですかね?」
「だろうな」
 多分罠があるのだろうなと思いながら、近づいて行く先にあるものは?

 こぢんまりした店構えの、昔ながらの八百屋さん。
 かけられた手描きの木の看板。店頭に並ぶ木製の台の上にはたくさんの竹や木の籠に、こんもりと色とりどりの野菜や果物が盛られていた。
 さてこんな場所にあるものと言えば?
「お、こっちにもトマトあるじゃん!」
 案の定、白夜が見つけたのは、竹かごの上に並んだ真っ赤なトマト!
「そうだよなー。八百屋と言えばやっぱりトマトだよな!」
「……やっぱりトマトなんですね」
 言葉は同じだけど「やっぱり」が指すものは白夜と詩織で違う。
 呆れ顔の詩織の前で、どれどんなお味かなと、白夜はいそいそと近付いてトマトを手に取り……。
『ウケケケケケ!』
 くるり振り向いたトマトには、つり上がった目とケタケタ笑う大きな口が!
「うおっ!?」
 思わずビクッとした白夜は、わたわたとトマトをお手玉。
 顔がついていても大好きなトマト。これを地面に落とすのも気が引けるし、だからといって大笑いするトマトを手に持ち続けるのも嫌だ。
 やっとのことでトマトを籠に戻し、ふうと一息。
 その時だ!
「もーきゅっきゅっきゅっきゅー! きゅっぴー!」
 邪悪なもきゅきゅ笑いが響き渡る。
 レジの代わりにお金を入れておくザル。その中にさっきの悪魔モラがちょこんと入って、高笑いを上げているではないか。
「きゃっ!?」
 詩織が小さく悲鳴を上げる。なんと、店中の野菜や果物達も悪魔モラに呼応してケラケラ笑いだした。
「もきゅ~っぴきゅぴるるぴ、きゅっぴ~♪」
 何故かいきなり歌い出す邪悪な悪魔モラ!
 それに続いて、店のあちこちから隠れていた悪モラ達が続々と現れる!
「「「もきゅ~っぴきゅぴるるぴ、きゅっぴ~♪」」」
 邪悪な悪夢トマトの歌をコーラスで歌い出すモーラットナイトメア達。
 歌に合わせてトマト達がコロコロ転がって、人食いトマトのように店中を駆け回る。
 気が弱い一般人なら失神必須のホラー展開(?)だが……。

「なんだよ脅かすなよ……」
「もう、お菓子をあげても悪戯しちゃうなんて仕方ないですね……」
 真顔で見ればどことなくユーモラスな光景は、歴戦の能力者であり猟兵の二人には効くわけがなくて。
「こうなりゃ仕返しだ」
 そう言うと音も無く白夜の身体が揺らぎ、変身して吸血コウモリの群れとなった。
 小さな牙でトマトにかぶりつき、血の代わりにチュウチュウとトマト汁を啜る。
 あっという間にカラカラになったトマトを置くと、白夜の変身したコウモリはぺろりと舌なめずりして、悪モラ達にターゲットを移すフリをする。
「きゅっ!? ぴいいいいっ!」
 口からトマト汁を滴らせるコウモリに追いかけられれば怖い。
 逃げる悪モラは台の下や戸棚の隙間に隠れるが、小さな隙間にも潜れるコウモリ達につつかれて追い出されて逃げ惑う。
 ころりん、ぽふん!
 逃げる悪モラがぶつかったのは、詩織のドレスの裾。
「悪い子にはキノコが生えちゃいますよ?」
「もっ!?」
 えりんぎ、まいたけ、ぶなしめじ。
 頭からキノコがにょきにょき生えてきて、悪モラ達はびっくり仰天!
 まっしろふわふわの毛の中からキノコが伸びる姿はとってもシュール。
『悪いモーラットはキノコになれー』
 しかも頭の中に呼びかける声が響くのだから、「ぴゃー!」とみんな揃って逃げていく。

「これに凝りて帰ってくれよな」
 コウモリから戻った白夜が、落ちたトマトを拾い上げながら見送る。

『ハロウィン楽しんだならお家へお帰り、またいつか』
 詩織の送るテレパシーに、どこからか「もっきゅ!」と鳴く声が聞こえて……。

 ハロウィンの夜はこれからだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『モーラットナイトメア王』

POW   :    ファイナルモーラットナイトメア!
戦場が【モーラットナイトメア達の悪夢の世界 】の場合のみ発動可能。【召喚した配下達と共に最終悪夢戦争】形態に変身し、推進力・探知力・隠密力・破壊力が5倍になる。
SPD   :    もきゅきゅんハート!
自身が装備する【道具、または配下や自分自身 】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    もきゅきゅぴナイトメアワールド!
戦場内を【モーラットナイトメア達が楽しむ悪夢の 】世界に交換する。この世界は「【キングが決めた悪夢のルールに服従すること】の法則」を持ち、違反者は行動成功率が低下する。

イラスト:熊谷狼

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠高崎・カントです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「もきゅー!」「きゅっぴぴー!」「きゅー!」
 お菓子も悪戯もと欲張ったモーラットナイトメア達が、猟兵に追い払われて昭和の商店街の中をぴょんぴょんと逃げていく。
 逃げるふわもこを追った先は、路地裏にひっそりと店を構える場末の喫茶店。
 どこかうらびれた雰囲気の店のドアが薄く開いており、モーラットナイトメア達が店内に入っていくのが見えた。
 猟兵達がドアを開けると、室内は電子音が喧しく鳴り響き、濛々と立ちこめる白い煙が見える。
 今でこそ禁煙の店が殆どだが、昭和の頃は禁煙どころか分煙という概念すらない。
 とはいえ、モーラットが煙草を吸うという話も聞かず、おそらく昭和という次代の雰囲気作りのために焚かれた見せかけなのだろう。
「もきゅーう、きゅぴぴもきゅるぴぴ……もきゅ!」
 店の奥、煙の間からもきゅもきゅと鳴き声が聞こえてきた。
 一般的なモーラットの「きゅー!」という声よりもやや低めの音。
 ピコピコと電子音を鳴らすゲームテーブルは、家庭用コンピューターゲーム機が普及する前に一世を風靡したブロック崩しの台。
 シガレットチョコが盛られた灰皿と、ハロウィン仕様のパンプキンパイの皿を台の上に置いて一心不乱にゲーム機を操作している、一匹のやや大きめのモーラットナイトメアがいた。
 威厳あるマントにベストという偉そうな姿。
 間違いない。こいつがモーラットナイトメア|王《キング》だ!
「もきゅーう? きゅっきゅーう?」
 ――猟兵だな? 俺達の邪魔をしに来たのか?
 何故か煙を上げているシガレットチョコを灰皿に放り投げ、|王《キング》は猟兵達に問いかける。
「きゅぴぴもきゅぴぴ、もきゅぴぃぴきゅー」
 ――我らはハロウィンを楽しんでいるのだ。貴様らが邪魔をしないならそれで良し。
 モーラットナイトメア達は、今日いっぱい祭りを楽しんだ後は骸の海に帰ると言う。
 どうやら『百目鬼・面影』に従っているわけではなさそうだ。
 この分なら戦わずとも通してくれるかもしれないが……。
 
「もーきゅ? きゅっぴ、ぴぴぴもきゅ……もきゅ?」
 ――錠前が無いとヤツの所に行けない? 何だそんな鍵くらいくれて……あれれ?
 ふわもこの毛皮をごそごそし、こてんと身体を傾ける|王《キング》。
「きゅうううっ!? もきゅ、きゅぴるぴぃぴ! もぎゅうううう!」
 ――錠前が出せないぞ! おのれ、最初から我らを利用するつもりだったな!
 三倍くらいに毛を逆立てた毛玉ボールが、ちっちゃい牙を剥きだして唸る。
 どうやら面影が与えた『錠前屋』の力は、|王《キング》には解除できないもののようだ。
 面影の元に行くのであれば、|王《キング》を倒すか、ハロウィンが終わるまで待つかだ。
 だが、待っている暇はない。ここは戦闘しかあるまい!

「もきゅぴ! もきゅぴっ! もきゅううううっ!!」
 |王《キング》がマントを広げて手を広げる。
 みるみるうちにその手がちっちゃな鉤爪へと変わり、戦闘態勢を整える。
「きゅっ!」「もきゅ!」「きゅっきゅー!」
 王の号令で喫茶店のあちこちから集まってきたモーラットナイトメア達が、もっふんころりん壁となって立ち塞がる。
「もーきゅ!」
 また|王《キング》が鳴く。
「もきゅ!」
 なんと! |王《キング》が二匹に増えた!
「もきゅ!」「もきゅ!」
「もきゅ!」「もきゅ!」「もきゅ!」「もきゅ!」「もきゅ!」

「「「「「もきゅーっ!」」」
 悪夢の力で分身を生み出したモーラットナイトメア|王《キング》が一斉に雄叫びを上げる!
 さあ、悪夢のふわもこ達の王を倒し、面影への道を開こう!
儀水・芽亜
現れましたね、モーラットキング……いえ、そんなのはいないんでした。改めて、出ましたね、ナイトメアモーラット王!
どれだけ進化しようと、悪夢の世界に浸っている時点で滅ぶのは確実と教えて差し上げましょう。

さて、派手に色々飛ばしてきましたね。ですが、この程度ではまだまだ。

他の皆さんはちょっと離れていてくださいね。
竪琴で「楽器演奏」「歌唱」「衝撃波」「音響攻撃」「全力魔法」振動の「属性攻撃」でブラストヴォイス。
全周囲への無差別攻撃です。どれだけ複製体を飛ばしてこようと、全て粉砕しますよ。本体ごと。

さあ、この先への道を開いてもらいましょうか。

やれやれ、やっとモーラットの世話係から解放されそうですね。



 喫茶店を埋め尽くすほどのふわもこ毛玉の群れが、ぴょんぴょんきゅぴきゅぴと囀りながら飛び跳ねる。
 ふわもこ達は店内に飾り付けられたハロウィンのガーランドを伝って滑り降りたり、もっふり引っ付き合ってじゃれ合ったり。とても無邪気で愛らしい姿だが、これでも立派なオブリビオン。
 しかもふわもこ達の中央にずいと偉そうに胸を張って構えるのは……。
「現れましたね、モーラットキング」
 儀水・芽亜(共に見る希望の夢/『|夢可有郷《ザナドゥ》』・f35644)は、キッと視線鋭く、ふわもこ達の|王《キング》へ言い放つ。
「きゅっ! もきゅきゅるる、きゅぴい!」
 芽亜の言葉に、モーラットは指?を一本立てて、ちっちっちと振ってみせる。
 どうやら正しく呼んで欲しいようだ。
 オブリビオンのくせに贅沢なと芽亜は呆れたが、ここは付き合ってやらないと話が進まないだろう。
「……いえ、そんなのはいないんでした」
 芽亜が訂正すると、ふわもこはまん丸ボディに手を当てて「もきゅん」と頷く。
「改めて、出ましたね、モーラットナイトメア王!」
「もーきゅ、もきゅぴもきゅぴぴ! きゅぴーい!」
「どれだけ進化しようと、悪夢の世界に浸っている時点で滅ぶのは確実と教えて差し上げましょう」
「きゅー! ぴぴいもっきゅ! もきゅうううううっ!」
 にらみ合う芽亜と|王《キング》、おそらく両者とも真剣に戦闘前の舌戦をしているのだろうが、片方が「もきゅ」としか鳴かないので、若干緊迫感に欠けるような気もする。

「もきゅ! きゅうきゅきゅいっ!」
「もーきゅ!?」
 家来のモーラットナイトメアがぴょんと近寄ってきて、ひそひそと王に耳打ち。
 すると、たちまち激怒したモーラットナイトメア王は、栗のようにもふぁっと毛を逆立てて威嚇!
「もきゅもぎゅうううううっっ!!」
 ――俺の家来共をジャッキンしたのか!!
「ええ、あなたもすぐに骸の海へ送ってやりますよ」
 対する芽亜は冷静に、声楽杖『Traumerei』の先端を|王《キング》に突きつける。
 両者共に戦闘態勢を取り、身構える。

「もきゅぴぴっ! もきゅ!」「もきゅ!」「もきゅ!」「もきゅ!」「もきゅ!」
 大量の白毛玉がちっちゃい鉤爪をふりふり、芽亜に向かって飛びかかってくる!
 モーラットナイトメアは一匹一匹はモーラットと同じくらいの力しかないが、大勢に押し潰されれば無事では済まないだろう。
「はいはい、毛玉は引っ込んでくださいね」
 芽亜は声楽杖を振り回して飛びかかってくる白毛玉の群れをパッカーンと打つ。
 真芯を捉えたスイングがふわもこにナイスヒット!
 吹っ飛ばされたふわもこが別のものにぶつかってころりん。「きゅー?」と目を回して、ぱたぱたと倒れていく。
「もぎゅーう! きゅいっ!」
 家来を蹴散らされて、モーラットナイトメア王が怒りの鳴き声を上げる。
 自身の複製を大量に生み出して、ぴゃーっと牙を剥きだす。
 すると周囲にあったハロウィンの悪夢が、|王《キング》の念動力に操られて動き出す。
 大きなジャックオーランタンがゴロンゴロンと転がって、蜘蛛の巣の飾りからデフォルメされた小さな蜘蛛がびゅーんと飛んでくる。
「派手に色々飛ばしてきましたね。ですが、この程度ではまだまだ」
 数は多いが、所詮は作り物の玩具。この程度大したことは無いと、芽亜は声楽杖で増幅した衝撃波で襲ってくるハロウィンの悪夢達をあしらっていく。

「しかし、数が多いですね」
 結構倒したと思ったのに、まだまだ毛玉達のハロウィンが終わる気配を見せないことに、芽亜はため息をつく。
「もきゅ!」「もきゅ!」「もきゅ!」「もきゅ!」
 元の数が多い上に、モーラットナイトメア王が生み出す悪夢の複製体が加わって、倒しても倒しても切りが無い。確かにこれは足止めに向いたオブリビオンだ。
「それなら……他の皆さんはちょっと離れていてくださいね」
 周囲に味方がいないことを確認し、芽亜はすぅと息を吸って声楽杖を握りしめる。

「――コワレロ、悪夢!!」

 芽亜の魂の力は人の身では出せないほどの絶唱となり、世界を揺さぶる。
 空気を揺らす力ある歌が、芽亜の周りに群がる悪夢を吹き飛ばしていく。
「も、もきゅうううううっっ!?」
 モーラットナイトメアのもふもふの柔らかな毛は全身で音波を伝える媒体。衝撃波にその身体を粉砕されて、次々に骸の海へ送られていく。
 もちろんモーラットナイトメア王の本体も例外ではない。
 自慢のもふもふ毛皮を衝撃波と音波の渦にもみくちゃにされ、「きゅう?」と目を回してしまう。
「さあ、この先への道を開いてもらいましょうか」
 倒れたモーラットナイトメア王にとどめを刺し、錠前屋の能力を解除する。
「やれやれ、やっとモーラットの世話係から解放されそうですね」
 この先に待つ百目鬼・面影との戦いは、モーラット達との相手ほど甘くはないだろう。
 次の戦いに備え、芽亜は気合いを入れ直すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

龍巳・咲花
世界の為に致し方ないとはいえ、可愛いものに手を掛けるのは心苦しいでござるな
いやでもこのモーラットナイトメア王なるオブリビオンモーラットはあのジャックに似てるでござるな……
なんか倒して良い気がしてきたでござる

お店を壊すわけにはいかぬでござるからな
ここは忍びとしてスマートにいくでござろう!
囲まれぬように周囲から生やし張り巡らせた龍脈鎖の防壁結界で相手を分断しつつ、戦場を駆け抜け一体一体龍牙葬爪を叩き込んでいくでござる!
また駆け抜ける際に目立たなく変化させた龍糸銕線を鎖に引っ掛け引き回せば、凄い推進力で突っ込んでくる相手への鋭刃な糸の攻勢結界にもなるでござるぞ!



「世界の為に致し方ないとはいえ、可愛いものに手を掛けるのは心苦しいでござるな」
 眼前に広がる視界いっぱいのふわもこを見つめ、龍巳・咲花(バビロニア忍者・f37117)はきゅっと拳を握ってやるせない気持ちをかみ殺す。
「もきゅー!」「きゅぴっぴー!」「もきゅん!」
 王の号令で集まってきたモーラットナイトメア達は昭和ハロウィンの真っ最中。
 白い布を被ってお化けに変身したり小悪魔の羽根をつけたり、各々仮装をしてもきゅもきゅと駆け回っている姿は可愛いの一言。
 オブリビオンとして復活した『百目鬼・面影』の元に行くためには、彼らを倒さねばならないのだが、無邪気に楽しむ白毛玉達に刃を向けるのは気が引ける。
 ちらり、視線を向ければ、一回り大きな毛玉――モーラットナイトメア|王《キング》の姿。悪夢の力を利用して分身を作り出した彼もまた、とってもふわふわで愛らしくて……。
「いやでもこのモーラットナイトメア王なるオブリビオンモーラットはあのジャックに似てるでござるな……」
 なんとなく既視感を覚えて咲花がちらりと視線を向ければ、ふわもこの王は自ら創りだした分身と何故かお菓子の争奪戦を始めていた。
「きゅぴぴっぴぴきゅー、もっきゅ!」
「もきゅぴるぴきゅいきゅぴぴー、もっきゅ!」
「きゅるぴぃぴももももきゅーい、もーっきゅ!」
 しょうもない話題で自分同士で言い争い、もっふんと体当たりの喧嘩を始めて、騒がしいことこの上ない。
 しかも、特徴的な尖った襟のマントに、丸眼鏡。
 悪夢を操るという共通点もあり、その姿を見ていると、かつての銀の雨降る時代にいた厄介な敵を連想してしまう。

「うるさーーーーーーーーーーーーいでござるよ!」
 咲花が叫ぶと、無数のモーラットナイトメア王達がぴたっと静まりかえる。
 丸眼鏡をかけたお目々をぱちくり、「もきゅ?」とふわふわの身体を傾けたが、すぐにまたもっふもっふと自分達同士で不毛な喧嘩を始める。
「……なんか倒して良い気がしてきたでござる」
 欲望のままどんちゃかと馬鹿騒ぎする悪夢のふわもこ達の王には、話し合いも通じそうもない。
 ともあれ、彼らを倒さなければ道は開かないのだ。
「誰かに似ているのが運の尽き。ここは遠慮無くいかせてもらうでござるよ」
 ちょっぴり疲れた気分で、咲花は得物を構えて戦闘態勢を取る!

「もきゅ! もきゅきゅぴぴ、もきゅううううっ!」
 悪夢モラ王のマントを翻したふわもこが雄叫びを上げる!
 王の声に家来達が続々と集結し、その内の一匹が、恭しく王にハロウィンのお菓子を差し出す。
 |王《キング》は蜘蛛の形をした砂糖菓子を受け取ると、高々と持ち上げ――!
「もっきゅ! きゅぴぴぴ、もーきゅっぴ!」
 モーラットナイトメア王によるモーラットナイトメア達の悪夢の世界!
 悪夢を生み出す力を最大まで練り上げ、自身と家来達を強化する!

 巨大化した鉤爪を振り上げ、悪夢のふわもこ達がぴょんぴょんと飛びかかってくる。
 王によって強化された彼らの力は侮れず、案外勇敢に立ち向かってくる。
「おっと、これは中々厄介そうな力でござるな。モーラットとは言え、油断は禁物でござる」
 振り下ろされた鉤爪を、身体を捻って紙一重で躱し、次の体当たりは横に飛んで避け、咲花は彼らの実力を見極める。
 大技で一気に吹き飛ばすという手もあるが、お店を壊す訳にはいかない。
「ここは忍びとしてスマートにいくでござろう!」
 ニンニンと咲花が印を組むと、周囲の地面から無数の龍脈鎖が伸び上がり、防壁結界となってモーラットナイトメア達を捕らえ、分断する。
 咲花の創りだした龍脈鎖に阻まれ、モーラットナイトメア達は思うように動けない!
 その間を、咲花は忍び走りで風のように駆け抜けて行く。
 壁を蹴り上げて飛び上がり、天井に吊り下げられたライトを振り子代わりにスイング!
 素早い動きでふわもこ達を翻弄する。
「龍陣忍者の力の一端、見せるでござるよ! 龍陣忍法『龍牙葬爪』!」
 駆け抜けざまに、咲花は龍陣手甲での一撃を叩き込む!
「もきゅ? もきゅーっ!?」
 軽く触れただけのように見えても、そこに込められるは龍脈より流れ込む破壊的な力の奔流。
 いかに強化されていても、身体の内側で暴れ狂う魔力に抵抗することはできず、ふわもこ達は次々に倒れて骸の海へ強制送還されていく。

「もぎゅー! きゅぴもぎゅうううっ!」
 家来達を倒され、怒りのモーラットナイトメア王が毛を膨らませて咲花の背後に迫る。
 小さい身体の機動力と隠密性を活かした死角からの攻撃は必中必殺の一撃。
 鉤爪を振りかざした王が自身の勝利を確信した時――!
「も? きゅううううっ!?」
 王の身体に細く鋭いものが絡みつく!
 あっという間にグルグル巻きにされて、逆さ吊りでぷらーんぷらーんと左右に揺れる。
「拙者の龍糸銕線でござるよ」
 何が起こったか分からずジタバタする王に向かって、咲花は鎖を引っ張ってみせる。
 すると鎖に絡んだ銕線が照明に照らされて鈍い光を放つ。
 咲花が駆け抜けざまに仕掛けた糸の罠が王を捕らえたのだ。
「これにておさらば……でござるよ!」
 もふっと撫でるついでに龍脈の力をたたき込み、咲花は見事に王を撃破するのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スイート・シュガーボックス
君がモーラットナイトメア達の親玉だね。
勿論、君の分のお菓子も用意してあるさ。さあ、トリックオアトリートの時間だよ。

わわッ、モーラットナイトメア王が分身してきた。
そんな君達に【心に届け、素晴らしきお菓子】ッ!
秋の極上スイーツをモーラットナイトメア王達の口の中に次々シュート。
モンブラン、お芋タルト、柿のケーキ等々…全部会心の出来のスイーツさ。
きっとふわもこキングのいたずらごごろも口に入れたお菓子みたいにフワッと蕩けて消えてくよ。
足りないならまだまだ用意するから、満足するまでお食べッ!


【アドリブ歓迎】



 スイート・シュガーボックス(おかしなミミック・f41114)が店の前に着いた時、自動ドアではないはずのドアがひとりでに開いた。
「きゅい! もっきゅん、もきゅーう!」
「きゅぴるる、もきゅーん」
「きゅーん! きゅぴーん!」
 いや、中から食いしん坊のふわもこ達が内側からドアを押し開け、こぞってスイートをお出迎えしていたのだ。
 モーラットナイトメア達の間で最近噂のお菓子の宝箱。
 どこからともなくやって来たその箱は、夢ですら見たこともないような素敵なお菓子を振る舞ってくれるという。
 そして今、そのお菓子箱――スイートがこのハロウィンのお祭り世界に現れたのだから、モーラットナイトメア達はそれはもう総出でお出迎えするしかないのだ!

「君がモーラットナイトメア達の親玉だね」
 スイートは店の中央にちょこんと鎮座するモーラットナイトメア|王《キング》に問いかける。
「もーきゅ、きゅぴぴもきゅっぴ! もきゅーう!」
 ――家来達が世話になったようだな。とってもおいしそうな菓子箱よ!
 悪夢のふわもこ達の王は、王らしくマントをバサリと翻しながら、しげしげスイートを検分する。威厳たっぷりに振る舞おうとしているのだが、キラキラお目々はスイートの箱の中のクッキーに釘付けで、時々ぺろりと舌なめずりをして食欲を隠しきれずにいた。
 なんだかもう戦う前から勝敗が決まっていそうな雰囲気だが……。
「勿論、君の分のお菓子も用意してあるさ。さあ、トリックオアトリートの時間だよ」
「きゅっぴー!」
 シュルリとリボンを伸ばして、トリートがコウモリショコラクッキーを差し出すと、|王《キング》がもふっと飛びついてきてぱくり!
 しっとりショコラ生地の口溶け、ちょっぴりビターで上品な味わいがたちまち口いっぱいに広がる!
「俺のトリートのお味はどうだい?」
 あっという間にクッキーをいただいて、手についたクッキーの欠片までぺろりと舐め取って「もきゅーん!」となっている|王《キング》に、スイートは問いかける。
「……もっ!? きゅきゅもきゅぴぃぴっぴ! もっきゅ!」
 スイートのお菓子のおいしさにうっかり骸の海に還りかけた|王《キング》がプルプル首を振って強がり、その最大の力を解放する!
「わわッ、モーラットナイトメア王が分身してきた」
 スイートの目の前にたちまち無数の毛玉の群れが現れ、一斉に口を開く!
「「「もきゅー! きゅぴぴぃもきゅん!」」」
 ――トリックオアトリート! 俺達をもてなすには相応のお菓子が必要だぞ!

「うんうん、たった一枚じゃ満足しないよね」
 大量の強欲な毛玉達に囲まれたスイートだが、その程度では動じない。
 元よりお菓子を振る舞うつもりで来たのだ。たった一枚で還られては拍子抜けもいいところだ。
 スイートはパカッとミミックの箱を全開にして、中のお菓子を見せつける。
「「「ももも……もきゅーっ!!」」」
 たちまち寄って来るモーラットナイトメア王達。早く食べたくて食べたくて、自分達自身で押し合いへし合いもっきゅもきゅ!
「喧嘩しなくてもたっぷりあるよ。さあッ! そんな君達に『|心に届け、素晴らしきお菓子《デリシャススイーツシュート》』ッ!」
 スイートは、菓子箱の中から秋の極上スイーツを掴んではモーラットナイトメア王達の口の中に次々シュート!
 狙い違わず飛んできたお菓子を、|王《キング》達はぱくりもぐもぐ!
 さて本日のお品書きは?

 まず一匹目のお口に飛び込んできたのは、ハロウィンらしい南瓜のモンブラン。ドーム状に盛り上げられた南瓜クリームに、チョコで作った飾りの目と口がケケケと笑う一品だ。メレンゲで作ったお化けやコウモリの飾りも賑やかで、見た目も楽しみながらパクつく。
 そして二匹目は、紫とオレンジのハロウィンカラーが眩しいお芋のタルト。二種類の芋を使ったクリームの層を上から下からぺろぺろ囓って味の変化を楽しみながらサクサク食べ進む。
 さらに続くよ三匹目。こちらには薄くスライスした甘柿がふんだんにあしらわれた柿のケーキ。秋の落ち葉を象った飾り切りも美しく、ちょっぴりおセンチな気分になってポエムの一つも詠んでみたり。
 スイートが贈る会心の出来のスイーツに、食いしん坊なふわもこ達の闘争本能は食欲に上書きされて、いたずらごころもお菓子の口溶けと一緒にフワッと蕩けて消えていく。
 
 甘いものでお腹いっぱい幸せいっぱいなモーラットナイトメア王だったが……。
「もーきゅ? きゅうもきゅんきゅぴ……?」
 ――今、複製の力を本体にフィードバックしたら……?
 おいしさが複製の数だけ増幅されて、とびきり幸せな味になるのではないか?
 だが、それは下手を打てば骸の海へ強制送還されかねない危険な味。
 危険な考えにもっきゅと頭を抱えて葛藤する|王《キング》だが、とびきりの甘みの誘惑にモーラットが抵抗できるはずもない!
 ついつい複製達がぴょんぴょんもっふり集まって……。

「ももももももももきゅーーーーん!!!」

「うんうん、お腹いっぱいですっかり満足したようだね」
 彼を見送り、スイートは腕代わりのリボンをひらりと振って満足気に頷く。
 あまりのおいしさに感激の言葉を一つ残して骸の海へ還っていったモーラットナイトメア王。
 モーラットナイトメア王すら抵抗できない至高の甘味。
 また一つ伝説を作ったスイートは、残ったモーラットナイトメア達にもお菓子を振る舞い去って行くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

羽柴・輪音
【羽花音】

あんまり戦う気にはなれないんだけど…
(一瞬悩むも、柿木坂さんの言葉にくすりと笑み)
そうよね、モラさん達もハロウイン楽しみたいって気持ちは変わりない訳だし
まずは思いっきり楽しむところからかしら

日花ちゃんも楽しむつもりでしょ…って
(ナイトメア王に苦笑し)あー、それは仕方ないわね

柿木坂さんとモラさんのもふもふ2ショットのお手伝いしたり
引き続きお菓子あげたりして楽しむわね

最終的には倒す必要あるようだし
柿木坂さんと日花ちゃんにはUCで効果付与させておくわね
モラ王様にモラさん達の悪戯が過ぎるようなら悪戯(不幸な事故誘発)のお返しあるでしょうし

あとは様子見て必要なら蟲笛で白燐を操って通常攻撃するわ


天見・日花
【羽花音】
他のモラ達が遊んでたのに王だけ何もなしじゃあんまりか。
少しくらいなら良いんじゃないかな。
こういう時の「少しくらい」が少しの範疇に収まった例って記憶にないけど。

いや、私も楽しむ気だったんだけどね。
さっきから|ジャック《ナイトメア王》の顔が瞼にチラついてね。
素直に愛でられそうにないから、モフるのはみるちゃんにお任せしようか。
私は姉御と共に引き続きお菓子で餌付けしてます。

遊び終えたらお仕事を。
みるちゃんは本意じゃなさそうだし、代わりに私がUCで増えて倍燃やそう。
分身は君らの専売特許じゃないんだぜ。
可哀そうではあるけど、|プール《学園黙示録》で散々いたいけなモラ達を虐めてきたんだから今更よ。


柿木坂・みる
【羽花音】
「なに|この子《王》、かわいすぎるでしょ!?」
格好から雰囲気から元々のモラちゃんが持ってるかわいさを更に上の次元へと引き上げていて尊い!
王のモフモフを思う存分堪能したい
それほど好戦的ってわけじゃなさそうだし、少しくらい遊んでもいいでしょ?
と二人に許可を求める
まだ遊び足りないから、モラちゃん達が集まるのも王が増えるのもご褒美だよ!
ほーら、お菓子だよー♪美味しいよー?こっちおいでー!
近寄ってくる子にお菓子を配りつつ、隙をみてモフモフを楽しむ。
羽柴さんにお願いして王とのツーショットも撮ってもらおう

ホントは戦いたくなかったけどゴメンね!また遊ぼうね!
最後は優しく黒影剣で
楽しい時間をありがとう



 昭和の香り漂うゲーム喫茶に足を踏み入れれば、目の前に広がるのは悪夢のもふもふ達のお祭り会場だった。
 店の中には墓石の形をした飾りやオレンジの炎をゆらゆらさせるジャックオーランタンが置かれて、雰囲気抜群。
 店のあちこちには、ハロウィンの仮装をしたモーラットナイトメア達がころころ転がってお菓子を囓ったり、ペロペロ舐めて毛繕いをし合ったりと、思い思いに過ごしていた。
 仮装をして飛び込んできた三人のことをハロウィンを楽しむ人と認識しているようで、白毛玉達は警戒心なく「もきゅ!」とご挨拶。
 寄ってくるふわもこ達にお菓子を与えながら進めば、戦場の筈なのになんだかモーラットとふれあえるモーラットカフェといった気分になってくる。
  そして……。

「なに|この子《王》、かわいすぎるでしょ!?」
 悪夢のふわもこ達の王の姿に、柿木坂・みる(希望の羽・f44110)は瞳をキラキラ輝かせて歓声を上げる。
「ね、ね! 日花ねーも羽柴さんもそう思うよね!」
「確かに、あんまり戦う気にはなれないわね……」
 隣に立つ友人――羽柴・輪音(夕映比翼・f35372)の法衣の裾を引っ張って同意を求めれば、こちらは「あらあら」と苦笑しつつも同意する。
「んー、うう……ん?」
 さらにその反対側では、もう一人の友人――天見・日花(虹の縁環・f44122)が首を捻って微妙な顔をしているが、みるを止めるつもりはないようだ。
 なにせ、みるは可愛いものが大好き。
 モーラットナイトメア達のたまり場になっている喫茶店は言うに及ばず。
 そして、もふもふの中心にいるモーラットナイトメアの王は、ぴょんとテーブルの上に飛び乗ってぐいっと胸を張っていて……。
 本人ならぬ本モラは威厳たっぷり睥睨しているつもりだが、如何せんモーラットの身長では高さが足りず、上目遣いで見つめているようにしか見えないのだ。
 みるに「格好から雰囲気から元々のモラちゃんが持ってるかわいさを更に上の次元へと引き上げていて尊い!」とか、「王のモフモフを思う存分堪能したい」と褒められれば、モーラットナイトメア王の方も満更ではない。
 苦しゅうないぞと頷いて、耳を後ろに倒して「もきゅん」とモフられ待ちをしている。
 その愛くるしい仕草に、「きゃー!」と、みるのテンションも右肩上がりの爆上がり。
「それほど好戦的ってわけじゃなさそうだし、少しくらい遊んでもいいでしょ?」
 小首を傾げて許可を求めているが、その心は「モラちゃんをモフりたい!」という気持ちでいっぱい。今にも駆けだしていきそうだ。
 あれは最終的には倒さないといけない相手なのだけど……。
 一瞬だけ悩んだ輪音が日花の方を見ると、向こうも同じ気持ちだったよう。
 目を合わせて、二人して苦笑して……。
「他のモラ達が遊んでたのに王だけ何もなしじゃあんまりか。少しくらいなら良いんじゃないかな」
「そうよね、モラさん達もハロウイン楽しみたいって気持ちは変わりない訳だし、まずは思いっきり楽しむところからかしら」
 輪音がくすりと柔らかく微笑んで「いってらっしゃい」と促せば、みるは「やったー!」と飛び出していく。
「……こういう時の『少しくらい』が少しの範疇に収まった例って記憶にないけど」
 鉄砲玉のように飛び出して行ったみるを見つめ、頬を掻いて苦笑するのは日花。
 だけど、「わあ、モフモフだー!!」と満喫している姿を見れば……。
「まあいっか。楽しそうだし」
 危険は無いようだし、みるの元気いっぱいな姿に青春時代を思い出して懐かしさが溢れ出す。
 ゆるーく頷いて見守ることにすると……?

「ほーら、お菓子だよー♪ 美味しいよー? こっちおいでー!」
「もきゅー、きゅぴぴぴっ!」「もきゅー」「もきゅー」「もきゅー」「もきゅー」
「わわ! 分身した!? みんなお菓子欲しいの?」
 お菓子を食べている隙にモフモフを楽しもうという、みるの作戦だったが、思った以上に食いついてきた悪夢のふわもこの王達。
「もっきゅ、きゅっぴぴきゅいきゅい!」
「もっきゅ、もーきゅぴきゅいぴぴっ!」
「ももーっきゅ、ぴぴぴもきゅっぴぴっきゅぴー!」
「ああ、待ってー! お菓子を取り合って喧嘩しないでー!」
 お菓子の奪い合いで言い争いになり、もふんもふんと体当たりしたり、ぺちぺちゲームテーブルを叩き合ったりして喧嘩を始めだしたぞ。
 複製を作る能力があるのだから奪い合わなくても良いはずなのに、他人から貰いたくて仕方が無いのか、みるを挟んでもきゅもきゅ鳴いて罵り合っている。
 
「あらあら、大変なことになってるわね。日花ちゃんも楽しまなくていいの……って?」
「あー、いや……私も楽しむ気だったんだけどね」
 なんだか困ったような顔をしているけれど?
 そう思いながら輪音が尋ねると、日花はチラとモーラットナイトメア王に視線を向けて魔女帽のつばを傾けた。
「さっきから|ジャック《ナイトメア王》の顔が瞼にチラついてね」
「あー……それは仕方ないわね」
 言われてみれば確かにその通りだと、輪音は苦笑する。
 尖った襟のマントや丸眼鏡、ドヤッと笑うその表情に先ほどから既視感を覚えていたのだが、その正体はまさかのジャック・マキシマムだったとは。
 分身を消せばいいのに、それもせずにどうしようもなく下らないことで言い争う様子も、あの騒々しいナイトメアビーストを彷彿とさせる。
 モーラットナイトメアは銀の雨が降る時代にはいなかったのだから、あのモーラットがジャックと何か関係があるわけではないだろう。だが、それにしてはあちこち似すぎていて、いったん気になりだしたらその既視感を消すことはできなかった。
「能力が似てると性格も似てくるのかしら? あのマントはナイトメアの正装?」
「どーだろ? あんなのがたくさんいるとか、正直勘弁して欲しいな」
 ため息ついて吐き出すそれは日花の本心だった。
 ただでさえジャックは1人見たら11人もいるのに、そこら中に似たようなのがいたら、もうそれは悪夢でしかないのだ。

「日花ねー! 羽柴さーん! たーすーけーてー!!」
 かつての戦いの思い出トークにふけっていた二人を現実に引き戻したのは、みるからのヘルプコールだった。
「わあ、みるちゃん凄いことになってるな。何かの儀式か?」
「本当ね、ええと……モラさん達に群がられて毛玉タワーみたい」
 無数のモーラットナイトメア王は、限られたお菓子を奪い合って喧嘩をするのではなく、みるからもっと引き出そうという結論になったようだ。
「「「もきゅー! きゅぴぴぃもきゅん!」」」
 ――トリックオアトリート! お菓子をいっぱい献上するのだ!
 ふわもこ達は、みるによじよじとよじ登ってポケットの中をまさぐったりと、ありったけのお菓子を奪おうと傍若無人の限りを尽くしている。
「……事案かな?」
「日花ちゃん、ダメ! あれはモラさんよ」
 18才(外見年齢)の少女に群がるモーラットにヤツの影がチラつく。
 教師という職業柄、二人とも不審者対応は慣れたものだが、さすがにそれはモーラットナイトメア王には風評被害だろう。
 日花はブンブン首を振って脳裏に浮かんだあのドヤ顔を振り払う。
 
「ほら、モラ達。こっちにもお菓子あるぞ」
「たくさんあるから慌てなくていいのよ」
 とにかくまずは強欲な王達を引き剥がさないと話にならない。
 日花は魔女帽子を逆さにしてクラウンの部分をポンと軽く叩く。するとハロウィンカラーのスティックキャンディが1つ、ころりんと落ちてきた。
 叩いてみる度お菓子は増える。
 ころころころりんとあふれだす、お菓子の魔法は幸せの味。
「もきゅ!」「もきゅ!」「もきゅ!」「もきゅー!」
 みるに纏わり付いていたモーラットナイトメア王は、たちまち日花と輪音の周りにぴゃっと大集合!
「並んだ子からあげるわよ。一列に、前倣えで並んでちょうだいね」
 また喧嘩が始まらないように輪音が一匹ずつ順番にお菓子を配っていけば、今度は大人しくお菓子を受け取って幸せそうに頬張りだす。
「こういうところは、モーラットだね」
「ええ。とっても愛らしくって!」
 じゅるりと食欲の証を口の端から垂らしながらお菓子に釘付けになる姿は、野良モーラットとほとんど変わらない可愛らしさ。
 材料の詠唱銀なら持ちきれないほどあるのだから、食べたいだけ出してやろう。
 そう思いながら、日花は王達の上にお菓子の雨を降らせていく。
「もきゅー! きゅぴぴぴぴぃ! もきゅっぴ!」
 そうこうしていると、一匹の王がおててをぴっと上げて日花の帽子を指差した。
 どうやら自分にもお菓子の魔法をやらせて欲しいと言っているようだ。
「いいけど、汚すなよ」
「もきゅーう!」
 自信満々で帽子を受け取った王は、後ろ向きになって何やらごそごそし始める。
「あら……? うふふ、何をするのかしらね?」
 身長差のせいで輪音には実は全部見えているのだが、ここは知らない振りをしてにっこり笑顔で見守ってみる。
「もっきゅ! きゅきゅぴるるる……もきゅん!」
 王がポンポンと逆さにした帽子を叩くと、どんどん出てくるたくさんのお菓子達。
 実はこっそり帽子の中に入れたお菓子の複製を悪夢の力で出しているだけなのだが、それを知らない家来のモーラット達は目をまん丸にして王の技に見入っている。
「まあ、すごいわ! さすがモラさんの王様ね」
 輪音がパチパチと手を叩いて讃えてあげると、ふわもこはドヤヤヤヤヤと反っくり返って胸を張り、張りすぎてころりと後ろに倒れて腕をバタつかせる。
 みんなの視線が王に向いている隙に、日花がさっと帽子とみるを回収だ。

「ふぃー、大変な目にあっちゃったよ」
 群がられた結果モーラットの毛だらけになったみるは、ぱたぱたと狼男の衣装をはたく。
「おつかれさん。今は姉御が相手してるから、今のうちにモフったら?」
「うん! 日花ねーはモフらないの?」
「ああ……うん、私はいいよ」
「ふえ? なんでー?」
「なんでも。ほら、今なら隙だらけだぞ」
 みるの前で、ジャックを思い出すから愛でるのは無理とは言いにくい。視線を逸らして言葉も濁し、モフりに行っておいでよと、みるの背を押して促す。
 おかしいなあ、日花ねーもモラちゃんモフるの好きだったよね。
 みるは首を傾げてみたけれど、大人しくお座りしてお菓子を食べるふわもこ達の姿を見ると、そんな疑問も吹き飛んでしまう。
 そーっと後ろから近付いて……もふん!
「さっすが、王様! 半端ないモフモフ!!」
 モーラットナイトメア王を抱っこで捕まえて、そのもふもふを存分に堪能する。
 さすがは王のモフモフ。毛繕いを欠かさないそのふわもこボディは、指を包み込むような柔らかさとなめらかさ。
 額の角の周りや耳の付け根を中心にもみもみと優しく撫でてやれば、王も満足そうに「もきゅーん」と鳴く。
「ねえねえ、羽柴さん! 写真! 王とツーショットで写真撮ってー!」
「ええ、もちろん! みんなで撮りましょ!」
「もきゅ! きゅきゅぴーん!!」
 輪音が手招きをすると、モーラットナイトメア王と家来達がぴょんぴょん跳んで集まってくる。
 みるの頭の上に陣取り、狼男の耳の間からもふっと顔を出す者。
 肩の上に乗って、ほっぺをもふっとくっつける者。
 抱っこされた状態で、にぱっとお口を開けて満面の笑顔を作る者。
 家来達は悪夢のモーラット組体操を披露して、左右に分かれてもふもふピラミッドになる。
 可愛さに可愛さを掛ければ夢よりも大きく広がって、その可愛さは無限大!
「みんな。もっと寄ってちょうだい。きゃー、モラさんも柿木坂さんもかわいい!」
 その愛らしさに胸ときめかせ、瞳を煌めかせて、輪音がスマホを片手に歓声を上げる。
 可愛いはテンションを上げる魔法。輪音の心と共に金の縦ロールもご機嫌に跳ねる。
「はーい、みんなこっち見て! 一足す一は?」
「|にー《ぴぃー》!」
 とびっきりの笑顔で手を振る輪音に、みんなそろってハイチーズ!
 ピロリンとシャッター音が鳴り、今日という日の思い出を画面の中に切り取り、心と写真に刻み込んでいく。

 みんなで楽しむハロウィンのお祭りも、そろそろ終わりの鐘が鳴る。
「もーきゅ!」
「……え? どうしたの?」
 みるの腕の中から、ぴょんとふわもこの王が飛び降りた。
「遊び終えたらお仕事を」
「そうね。これ以上時間をかけたら、メガリスが奪われてしまうもの」
 イグニッションカードを取り出した日花と、蟲笛を構えた輪音がすっと前に進み出る。
 モーラットナイトメア王も、「きゅっぴ!」と鳴いて家来達を呼び寄せる。
 互いに憎しみあうわけではないけれど、今を生きる者と過去を繰り返す者は戦わなければならない。
 それが分かっているから、モーラットナイトメア達も逃げずに留まっている。
「みるちゃんはどうするの? わたし達に任せてもいいのよ」
「本意じゃないなら、代わりに私が倍戦うよ」
 みるに問いかける二人の声は優しい。
 戦うことが辛いなら無理しなくてもいいと、そう語りかけている。
 二人の気持ちが伝わるからこそ、みるは――。
「ホントは戦いたくなかったけどゴメンね!」
 長剣を手に、二人の隣に並んで立つ。

「もっきゅ! きゅぴぴぴ! もきゅーう……ッ!」
 モーラットナイトメア王がその悪夢の力を最大まで高め、自身や家来を強化する。
 そして創り上げた複製達が、鉤爪を振り上げて飛びかかってくる。
「白燐よ、みんなを守って」
 輪音が蟲笛に口づけして調べを放てば、白燐蟲が辺りに柔らかな燐光を放つ。
「|姉御《輪音さん》、ありがと!」
 呪剣に纏った白燐蟲の効果で鉤爪を受け止め、日花はモーラットナイトメア王達を押し戻す。
「もっ!?」
 後ろに下がって体勢を立て直そうとした王だったが、不運なことにその足元にキャンディの包み紙が落ちていた。ツルツル滑る紙を踏んですってんころりん!
「あら? 食べたらお片付けをしないとだめよ?」
 輪音の白燐蟲が呼び寄せた不幸な事故でジタバタ転がる王達。
 そしてその隙を見逃す日花ではない。
「分身は君らの専売特許じゃないんだぜ」
 左手にフレイムソードを構える日花と、右手に赤手を嵌めた日花。
 二人に分かれた日花は、左右からその身体を両断していく!
 あっという間にその数を減らしていく悪魔のふわもこ達だが、まだ本体は残っている。
「きゅっ! もきゅぴっ! きゅいきゅっぴー!」
 ――|王《キング》の命令だ! もふもふは愛でなければならない!
 モーラットナイトメア達が創る悪夢の世界の中では、王の命令は絶対だ!
 そのルールは悪夢の世界にいる全ての者に適用される。
 これが『攻撃してはならない』だと、モーラットナイトメア達も動けない。
 だが、『もふもふを愛でなければならない』のであれば、モーラットと敵対する者の行動のみ阻害される!
 この狡猾さがモーラットナイトメア王が|王《キング》と呼ばれる所以だ。
 だが――。
 勝利を確信した王の頭に、もふりと当たる優しい感触。
「楽しい時間をありがとう」
 闇のオーラを纏ったみるが伸ばした手が、王の頭を優しく撫でていたのだ。
 みるが放つ黒影剣は、当たった相手の生命力を奪う技。
 だが、これはもふもふを愛でる行動。故に、その行動は阻害されることはなかったのだ。

「また遊ぼうね!」

 再会の約束に、ふわもこの王が「もきゅ」と鳴き、そして……。
 いっぱい遊んで戦ったもふもふ達は、満足して|お家《骸の海》へと還っていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

八坂・詩織
白夜さん(f37728)と

大丈夫ですよ、あれシガレットチョコですし単なる演出です。
それよりもあのモーラットナイトメア|王《キング》をなんとかしないと。
…言われてみれば…どっかのナイトメア王のコスプレみたいな…

先輩に合わせ|起動《イグニッション》!
髪を解き瞳は青く変化、防具『雪月風花』を纏う。

そうですね、少し可哀想な気はしますが…
白夜さんが見せる『悪夢』の演出の手伝いも兼ねて極月煌光発動。白夜さんのUCを破れたとしてもこの赤い月の光からは逃れられません。

まあ白夜さん吸血鬼の格好ですしね…あちらからどう見えてるのかは分かりませんけど。
(赤い月光と紅い大鎌と吸血鬼、我ながらすごい演出になりました…)


鳥羽・白夜
八坂(f37720)と。

うわ、煙たっ…昭和の喫茶店ってこんなだったのか?(平成生まれ&大の煙草嫌い)
分かってるって…しかしなんとなく誰かに似てる気がするんだよなあのモーラットナイトメア王。持ち物11倍に増やしてきそうな…

まあ何でもいいや、|起動《イグニッション》!
紅い刃の大鎌を手に。

悪夢の世界ってんならこっちも悪夢で悪戯してやるか。
『ブロッケンの魔物』で幻影を自身に纏いUC封じを狙う。さてアイツには何が見えてるんだろうな?

ブラッディサイズの攻撃で【恐怖を与え】続けUC効果を引き伸ばし。
…なんか俺らの方が悪役みてーな絵面になってる気がするんだが。
いや思い出させんなよ…(自らの格好に頭を抱える)



 硝子板がはめ込まれた木製のドアを引くと、ドアの隙間からもわっと白い煙が流れ出す。
 スモーキーさの中にバニラに似た微かな甘ったるさが混じる癖のある独特な匂いは、令和の時代となっては敢えて近寄らなければ嗅ぐことはないだろう、煙草の煙のもの。
 その匂いに顔をしかめながら鳥羽・白夜(夜に生きる紅い三日月・f37728)が店の中に入ると、漂う煙で店内はうっすら白く霞んでいた。
「うわ、煙たっ……昭和の喫茶店ってこんなだったのか?」
 背の低い木製のテーブル、そのどれもに当たり前のようにステンレス製の灰皿が置かれ、煙草の吸い殻がうずたかく山を築いていた。
 顔に手を当てて煙を吸い込まないようにしたくても、これだけ濛々と立ちこめていればそういうわけにもいかない。
「俺、帰ってもいいかな?」
 平成生まれかつ大の煙草嫌いの白夜がくるりと向きを変える。
 今くぐったばかりの扉を引き返して店を出ようとしたところで、続いて入ろうとした八坂・詩織(銀誓館学園中学理科教師・f37720)とぶつかりそうになって立ち止まり……。
「白夜さん、何やってるんですか?」
「だって、アレ……」
 白夜が指差すのは、店内に立ちこめる煙と、部屋の奥で「もふわっ」と煙草を吹かしているやや大きめのモーラットナイトメア。
 額にV字の角、長い耳、そして尖った襟飾りの漆黒のマントを羽織った偉大な王の姿で、どっかりソファーに腰掛けると手に持った煙草をくゆらせている。
「モーラットが煙草?」
 他の世界ならいざ知らず、少なくともこのシルバーレイン世界のモーラットが煙草を吸うなんて聞いたことがないと思いながら、詩織がドアの隙間から観察していると……。
「もきゅー!」
 なんと煙草を口に放り込み、パクッと食べてしまったではないか。
「た、食べたー!?」
「大丈夫ですよ、あれシガレットチョコですし」
 びっくり仰天、目を丸くする白夜とは対照的に、詩織は冷静そのもの。
「火も付いてませんし、単なる演出です」
 よく見れば灰皿の上の吸い殻に見えた物はチョコの包み紙。
 煙草の煙は昭和という時代の雰囲気作り。ちょい悪な昭和の大人の象徴と、霧立ち込める墓場をイメージしたハロウィンの演出のためなのだろう。
「それよりも、あのモーラットナイトメア|王《キング》をなんとかしないと」
「分かってるって……」
 こそこそと話をしながら、作戦を立てる。
 百目鬼・面影に『錠前屋』の力を与えられたオブリビオンを倒さねば、道が開かない。
 そして、あの悪夢のふわもこ達の王の力は未知数なのだ。

 まずは相手の出方を窺おうと白煙が立ちこめる店の中を静かに進めば、そこかしらで悪夢のふわもこ達がお菓子をカジカジと囓る音が聞こえてくる。
「しかしなんとなく誰かに似てる気がするんだよなあのモーラットナイトメア王」
「言われてみれば、どっかのナイトメア王のコスプレみたいな……」
 マントのふわもこを指差して、白夜が小さく呟いた。
 尖った襟飾りのマントに、ベスト。遊んでいる家来達に命令を下しては、ドヤッと笑みを浮かべるその顔。
 モーラットの筈なのだが、どことなく既視感を抱く姿。
 銀の雨が降る時代に能力者をやっていれば一度はその名を聞いたことがあるだろう強敵――ナイトメアビーストの王『ジャック・マキシマム』の姿を重ねてしまい、二人揃って見つめ合い、首を傾げてみる。
「持ち物11倍に増やしてきそうな……」
「うーん、さすがに……」
 そこまで似ていたら出来過ぎだと、詩織が否定しようとした時だ。

「もっきゅぴぴ、きゅいきゅぴもきゅ!」
 煙草(チョコ)を噴かすのに飽きたのか、|王《キング》が、ゲームテーブルに百円玉を入れて遊び出す。ピコピコと電子音が響き、令和のゲームでは中々お目にかかれないシンプルなドット絵が画面の中を動く。
 熱中してレバーとボタンをガチャガチャやっている|王《キング》の周りに……。
「もきゅ!」「もきゅ」「もきゅ!」「もきゅ!」「もきゅ!」
 ポンポンポンと全く同じマントをつけた|王《キング》の分身が現れた!
 彼らは皆、ゲームセンターで他人のプレイを覗き込むギャラリーのごとく、食い入るように画面を見つめて「もきゅもきゅ」とヤジを飛ばして鳴く。

「増えましたね」
「そうだな。うわ、自分同士で喧嘩してる……」
 自分ならもっと上手くできるから代われと、ゲームの取り合いでつかみ合いの喧嘩まで始める始末。
 そんなところまで似なくていいのにと呆れ顔で見つめていると……。

 もふもふぽふん、ころころ……もきゅ?
 押し合いへし合いゲーム機から落ちた王の一匹が、まん丸ボディを弾ませて転がってきて白夜の足にぶつかった。
 しばし、じーっと見つめ合う二人と一匹だったが……。

「きゅぴいいいいいいっ!!」
 耳がキーンとなりそうな大きな悲鳴。
 耳を押さえている間に、二人がいることに気付いたふわもこ達がどんどん集まってくる。
「これは戦闘は避けられなさそうだが……まあ何でもいいや」
 どうせ倒さなければいけないのだからと、白夜が――それに続けて詩織もイグニッションカードを取り出す。
「「|起動《イグニッション》!」」
 かつての強敵と似たモーラット。それに対峙するのはかつてと同じかけ声!
 能力を解放した二人の手に武器が現れ、その姿を変えていく。
 白夜は紅い刃の大鎌『ブラッディサイズ-Red moon-』を手にし、貴種ヴァンパイアの紅い瞳とゴシックな吸血鬼のマントとが相まって、夜に浮かぶ紅い三日月の如く佇む。
 対する詩織は、濃紺のドレスにかかる黒いリボンを解き、その瞳に氷晶の蒼を彩らせる。はらりと流れる黒髪が落ちるのは、薄桃の花が浮かぶ和装。
 背中合わせに紅と蒼が並び、それぞれ得物を構えて立つ。

「もぎゅうううっ! きゅっぴ! きゅいきゅい!」
 マントを翻したモーラットナイトメア王が小さい牙を剥きだして雄叫びを上げる。
 分身を吸収して自身の力を高めると、悪夢の力を増幅させていく。
 するとたちまち周囲の景色が歪み、喫茶店の中が霧立ち込める墓場の光景へ変わっていく。
「もーきゅー!」「きゅーぴぃー!」
 墓石の下から家来のモーラットナイトメア達が這い出してきて、ぴょんぴょん飛び跳ね鉤爪を右に左にふりふりゾンビダンスを踊る。
「もっきゅっぴ、きゅっぴー♪ きゅうきゅいぴぴぴっ♪」
「もーきゅー♪」
 その中心で王も一緒にダンシング!
 遊んでいるように見えるが、これも立派な戦闘。
 現に、王の決めたルール『ハロウィンの雰囲気を乱すことは禁止』の効果が発動していて、単純な攻撃は通らないようになっている。
「これは、思ったよりも厄介ですね」
 悪戯代わりに鉤爪で引っ掻いてくるふわもこ達。詩織が結晶輪『風花』を投げてなぎ払おうとしても、もきゅっとフリスビーのようにキャッチされて投げ返される。
「ああ、誰かさんに似てるわりには変なことしてくるよなー」
 白夜が大鎌をいくら全力で振るえどもそのスピードは超スロー、ふわもこが縄跳びのようにぴょんとその上を飛び越えた。
 向こうもあまり積極的に攻撃を仕掛けてくるわけではないが、このままでは時間がかかりすぎてメガリスを奪われてしまうかもしれない。

「悪夢の世界ってんならこっちも悪夢で悪戯してやるか。脅かすならハロウィンらしいだろ」
 その手から濃い白色をした『原初の霧』を溢れさせながら、白夜がニヤリと笑みを浮かべる。
「そうですね、少し可哀想な気はしますが……」
 遊んでいるだけのように見えるふわもこ達を苛めるようで気が引けるが、このまま手をこまねいているよりはと詩織も頷き返す。
 さあ、今度はこちらの番。ハロウィンの本当の恐怖を見せてやろう。

「……もきゅ?」
 周りの空気が冷たく湿って、もふもふ毛皮をじっとり濡らしていく。
 ご機嫌でダンスをしていたモーラットナイトメア王が、踊りを止めた。
「きゅー? きゅいぴぴーい?」
 さっきまで一緒に踊っていた家来達の姿も見えず、ひとりぼっちになった王は、首を傾げて霧の中をウロウロと歩き回る。
 空を見上げれば紅い月。血のように紅い光が冷たい空気を照らしては、立ちこめる霧に輪郭を滲ませて世界を不気味に映し出す。
 自分が創りだした世界の筈なのに、自分のものではないような不穏な気配。
 古びてひび割れた墓標が霧の中で息を潜めて待ち伏せる子鬼のように蹲り、迷路のように逃げ場を塞いでいく。
 霧は紅く光る月を移し、小さな水の粒が悪魔の目のようにギラギラと煌めく。
 ふとその霧の中に、白く丸いもの達が幾つも浮かび上がる。
「きゅ……もきゅう……?」
 ――あれは……家来達?
 誰でもいいからと、ぴょんぴょん駆けて行く王だったが……。
「ばあっ!」
「きゅぴいいいいいいいっ!?」
 墓場を覆う濃霧に突如浮かびあがる冷たい気配。
 見上げると、真白な霧の中に浮かび上がる暗い人影があった。高貴なる黒いマントが微かに揺らめき、闇に光る燃えるような紅い双眸が可哀想なふわもこを睨みつける。
 その姿はまさしく原初の吸血鬼のもの。
「ぴぃ、きゅぴぃ……」
 恐怖に震えたふわもこが後ずさろうとしたが、じっとり絡みつく霧に濡れた毛皮は重く、紅い月の光が視界を歪ませ、身体が思うように動かない。
 原初の吸血鬼が血に濡れた大鎌を振り上げる。
 血塗られし刃が三日月のように弧を描き、その背後に禍々しい紅い月が浮かび上がり……。

「もきゅうううううううっ!!」
 風を切る音と共に、霧の中にモーラットナイトメア王の甲高い悲鳴が響き渡った。

「……なんか俺らの方が悪役みてーな絵面になってる気がするんだが」
 幻影に囚われひっくり返ってじたばた手足をばたつかせるふわもこを大鎌の柄でつつきながら、やりすぎたかと白夜は頭を掻いた。
 二人の視点では、ここはまだ煙草の煙立ちこめるハロウィン仕様の喫茶店の中。
 霧の中に現れた原初の吸血鬼は、白夜が操る霧が生み出すブロッケンの魔物。
 そして禍々しき紅い月は、詩織の魔力が見せる|極月煌光《ウルティメイトルナ》。
「まあ白夜さん吸血鬼の格好ですしね……あちらからどう見えてるのかは分かりませんけど」
 恐怖に引きつり「ぴぃ」と鳴くふわもこは、はてさて何を見ているのでしょうか。
 白夜の衣装を示して、悪戯っぽくくすりと小さな笑みを浮かべる詩織。
「いや思い出させんなよ……」
 対して白夜は、自分の格好を思い出す。
 多分だけど、めちゃくちゃ仰々しくて格好つけた感じになってそうだ……。
 思い出してしまえば羞恥心に瞳をすがめて、隣に立つ後輩の顔を見るのも気恥ずかしい。
 頭を抱えて大きなため息。そんな白夜の足元ではモーラットナイトメア王が恐怖に目を回しているのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『百目鬼・面影』

POW   :    黄金昭和時代
【昭和時代の物品】から1体の強力な【黄金の昭和ゴースト】を召喚する。[黄金の昭和ゴースト]はレベル秒間戦場に留まり、【元の物品にちなんだ手段】で攻撃し続ける。
SPD   :    リメンバー昭和
【昭和時代の物品】から【半透明の昭和ゴースト】を放つ。ダメージは与えないが、命中した対象の感情から【未来への意志】を奪う。
WIZ   :    遥か遠き昭和
【昭和時代の物品】からレベル×6体の【朧げな昭和ゴースト】を召喚する。[朧げな昭和ゴースト]は弱いが、破壊されるまで敵を自動追尾・自動攻撃する。

イラスト:秋田なお

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 秋の日はつるべ落とし。
 モーラットナイトメアを骸の海へと還したことで、鎌倉の街中を覆い隠していた昭和とハロウィンの悪夢が緩やかに薄れて消えていく。
 そしてその後に残されたのは、歴史と自然を感じさせる閑静な街。
 かつて――昭和と呼ばれた時代には都心部へ通勤するサラリーマンとその家族が住んでいたのだろう。
 だが、それも今は昔。退職と世代交代に伴い、緩やかに高齢化が進んでいくその街は、まるで時の流れに置いて行かれるかのようにも見える。
 とはいえ、それは決してただ消えていくだけの場所ではない。
 街の中心部にある商店街。そのいくつかの店はシャッターが降りていたが、それでもその場所のいくつかには真新しい飲食店やカフェなどが設えられており、街に住む多様な年齢の人々が今なお日常をおくる場であることが窺える。
 過去は消えゆくだけのものではなく、現在と混じり合い、そして未来へと繋がるものだ。
 
 さて、そんな街の片隅。廃業しているはずの店のシャッターが開いていた。
 リサイクルショップを営んでいたのだろうその店の中には、厚みのあるブラウン管テレビ、窓に取り付けるタイプの縦型のエアコン、鉄製の扇風機、花柄の魔法瓶のポット、パンを焼く機能だけのトースター等の古い電化製品が整然と並べられていた。
 一応、店内にはDVDプレイヤーや中古パソコンなどの比較的新しい品々もあるのだが、それらはまるでゴミのように片隅に押しやられていた。
 これを行ったのは、おそらく……。

 そう思いながら店の奥に進めば、そこには在庫を収めておく倉庫に繋がる扉があった。
 鉄製のドアの隙間からは細く灯りが漏れており、中から人の気配がする。
 間違いない。ナイトメアビースト『百目鬼・面影』はこの場所にいる。

 倉庫の中は時が止まってしまったかのような過去で埋め尽くされていた。
 いや、それは『かのような』という比喩ではなく、本当に時が止まっているのだろう。
 部屋の中央に佇み、生活感を無くした昭和の道具達を愛おしむように撫でる少年は、過去から染み出したオブリビオンなのだから。
「貴方達がいるということは、あいつらは役に立たなかったというわけですか。あの昭和の街並みは惜しいですが、まあ所詮は作り物ということ」
 猟兵達の気配に振り向いた少年、百目鬼・面影が薄らと笑みを浮かべる。
 モーラットナイトメア達がどうなったかには興味が無いようで、淡々と言葉を続ける。
「あともう少しなんですが……どうですか、少しゆっくりしていきませんか?」
 お菓子もありますよと傍らのちゃぶ台を指差せば、そこには木製の菓子鉢。
 中に入っているのは昭和の香り漂うお菓子達だ。
 だが、面影の言に乗って時間を無為にすれば、メガリス『ティンカーベル』は奪われてしまうだろう。
「……拒否、ですか。まあそれで構いません。貴方達を殺せばいいだけのことですから」
 その方が好都合だと、穏やかな口調の裏に隠しきれない剣呑な殺意が混ざる。
 昭和の品々を愛でていた指先が硬質化し、巨大な鉤爪へと変わっていく。

――令和なんて現実は要りません。僕は昭和の夢だけを見ていたいのです。

●MSより
 面影は『リメンバー昭和』の能力で新しい妖怪の骸魂を召喚します。
 通常の面影のUCの他に、以下の敵が加わり襲いかかってきます。

『こわいまんじゅう(おばあちゃんちのお菓子バージョン)』
 見た者が「おばあちゃんちのお菓子だ!」と畏怖せずにはいられない骸魂です。

 この恐ろしいお菓子の攻撃方法は3つ。
 1:「おばあちゃんちのお菓子だ!」と思う者に、高命中力の餡やぼうろを飛ばす。
 2:昆布飴や寒天ゼリーを包むオブラートで締め付けてUCを封じる。
 3:戦闘不能になった者をおばあちゃんちのお菓子に変えて操る。

 見た目に反して中々厄介な能力を持つ昭和ゴーストですが、面影ほどの強さはありません。
 そこそこの数入るのですが、猟兵が本気で攻撃を行えば崩れて消えていきます。
儀水・芽亜
“リメンバー昭和”、あなたは要するに、この現在を昭和のサ○エさん時空に塗り替えたいのですね。
夢を見る。大いに結構。他人に迷惑をかけなければの話ですが。
過去の夢に耽るとは、いかにもナイトメアビーストのオブリビオン。そんな悪夢は私が討滅いたします。

「先制攻撃」「全力魔法」「受け流し」で、先手を取って胡蝶の盾を展開します。
この防御、そう簡単に崩せるとは思わないでください。
黒揚羽の群れをどんどん厚くして、昭和ゴーストや骸魂、そして“リメンバー昭和”も巻き込みましょう。
蝶たちの生命力吸収能力にいつまで耐えていられますか。

夢というのは逃げ込むための場所ではないんですよ。次の現実へ向かうための一休みです。



 家電というものは日常と密接に結びついたものである。
 それは家電販売店やリサイクルショップ等の、それら家電が実際に使われているわけでもない場所でも同じ。これから人に使われるために並べられた品々の未来には、誰かの生活を窺うことができる。
 だが、ここに置かれた品々は、ただ昭和という過去にあったからという理由だけで集められたもの。性能でもデザインでもなく、ただその時代の物を懐かしむためだけに消費される物達。
 そしてそこに佇む少年もまた、過去のものに過ぎなかった。

「要するに……」
 儀水・芽亜(共に見る希望の夢/『|夢可有郷《ザナドゥ》』・f35644)は、そのノスタルジアを一笑に付した。
「『リメンバー昭和』、あなたはこの現在を時の止まった時空に塗り替えたいのですね」
 ナイトメアビースト『百目鬼・面影』が望む物は、幾ら時を重ねようとそこにある物と人は決して変わることがない夢。
 成長も衰退もない、終わることなき永遠の物語。
「夢を見る。大いに結構」
 他人に迷惑をかけなければの話ですがと付け加える芽亜。
 彼女自身の視点では、今ここに在る物は分岐した仮初め。本来なら激動の時代を迎えていたであろう銀の雨降る時代の先とは異なる分岐を辿る世界。
 だがそうであっても――。
「過去の夢に耽るとは、いかにもナイトメアビーストのオブリビオン。そんな悪夢は私が討滅いたします」
 それでも今のこの世界を精一杯生きようと決意し、芽亜は面影に鋭い視線を向ける。
 今を生きる人達の世界を自分勝手な理想で壊そうとする彼の暴挙を許すことはできなかったのだ。

「話したいことはそれだけですか?」
 彼の殺意を表したかのような巨大な鉤爪を無造作にぶら下げたまま、面影は穏やかに、そして退屈そうに尋ねる。
「時間稼ぎができるのであればお話をしても良いのですが、仮にも銀誓館がそこまで甘くはないでしょう?」
「ええ、そんな素振りをみせれば遠慮無く攻撃させていただきます」
 その左手に美しい鴇色の槍を構え、芽亜は冷静に告げる。
 歴戦の能力者として戦い抜いた青春の日々。それは芽亜にとっては今に続く過去の夢であり、面影にとっては断ち切られた過去の悪夢。
「それはいい。互いに手っ取り早い方法で終わらせましょう」
 問答は無意味だと言外に匂わせつつ、面影はちゃぶ台の上にあった菓子鉢を愛おしそうに持ち上げると、黄金色の輝きが中に入っていた菓子を包み込み、そこから骸魂が形を為す。

「さあ、可愛い私の分身たち。私を否むその感情を喰らってしまいなさい」
 面影と骸魂が体勢を整えるのに先んじて芽亜が動く。
 芽亜が掲げる槍の穂先近くに現れたのは、一匹の黒揚羽蝶。
 薄くたおやかな羽根を開いた黒揚羽蝶はひらり、ふわりと羽ばたき、次第にその数を増していく。
 蝶達が向かうのは、薄く笑みを浮かべる面影。
 彼の内に潜む隠しきれない殺意に反応し、その身体にたかって生命力を吸収しようとする。
「くっ、思ったよりも堅いですね」
 面影の振るう鉤爪は蝶のいくつかを地に叩き落とすが、その殺気に当てられた蝶達がさらに集まり、その腕を覆っていく。
 蝶にたかられながら、面影も反撃を試みる。
 地面に落ちて動かなくなった蝶に骸魂が取り憑き、その羽根を毟り取る。胴だけになった蝶は花林糖のような黒く細長い棒になり、芽亜に飛びかかって蜜の代わりに血を吸い取ろうとしてくる。
「わたしの蝶達の防御、そう簡単に崩せるとは思わないでください」
 だが、その攻撃は黒揚羽の硬質な羽根によって悉く払い落とされ、砕かれていく。
 芽亜が全力で行使する黒揚羽の群れが、骸魂と面影を覆い尽くしていく。
 相手より早く攻防一体の蝶達を展開し戦況を有利に進める芽亜の策が決まり、面影に攻撃する隙を与えず攻め立てていく。

「ああ、またこうなりますか……」
 黒い蝶の群れに覆い尽くされ、生命力を吸い尽くされた面影が膝を突く。
 頼みの綱の昭和の品々へ伸ばした彼の手を、芽亜の槍が払いのける。
「夢というのは逃げ込むための場所ではないんですよ。次の現実へ向かうための一休みです」
 過ぎ去った昭和に拘泥したこと、それが面影の敗因であると芽亜は告げる。
 それは芽亜にとっては事実であり、信念であった。
 そして、それは今を生きる人々にとっては当たり前で、おそらく正しいことなのだろう。
 だが――。
「次など……その現実を貴方達は奪ったのではありませんか? 僕の、父の、そしてナイトメアビーストの未来を」
 黒揚羽が覆い尽くす面影の顔。黒い羽根の隙間から垣間見える穏やかな表情はそのままに、その声が冷えていく。
 一言、呟くのは恨み言。
 だが、それだけだ。そんな問答は今更無意味なのだと、過去は理解しているのだから。

 三度目の死を向かえ黒い塵と化してゆく面影が消えた後。
 そこはただ過去の物品だけが、寒々とした夜の空気に包まれて残されていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スイート・シュガーボックス
ゆっくりしていかないか、だなんて…とてもいい案だねッ!
「うぇ~い、オヤツの時間と聞いて、ウチ参☆上ッ!」
(ミミックの箱の中からドバンッ!と現れる幻惑神機『ディオニュソス』男の娘形態)
俺、ディオちゃん、そして面影さん。3人で仲良くちゃぶ台を囲んでオヤツの時間の始まりだッ!【懐かしき思い出時間】ッ!物騒な殺意もお菓子で浄化さ。

昭和のノスタルジックなお菓子の数々が面影さんの優しい思い出だね。
3人分の湯呑みに『不思議なティーポット』で美味しい緑茶を淹れるよ。
「昭和のお菓子もエモいしちょー美味だし☆」

(ちなみにこわいまんじゅうは、ディオちゃんの『豊穣葡萄』から放たれるお酒レーザーで撃退)


【アドリブ歓迎】



 様々な品々が雑多に置かれる倉庫の中央。
 4畳半の祝儀敷に置き畳が敷かれ、その上にぽつんと置かれたちゃぶ台の横。そこに『百目鬼・面影』は胡座で座っていた。
 穏やかな糸目の表情で勧めてくるのは、菓子鉢に入れられた懐かしい駄菓子。
 それらは天井から吊された傘付き裸電球の光に照らされ、温かみのあるオレンジ色を映して昭和の居間の風景を完璧に表していた。
 しかし、それは倉庫の殺風景な金属パネルの壁や雑多に置かれた品々とは不釣り合いで、どこかちぐはぐで歪み、そこに座っている少年の不自然に歪な心象を表しているかのようだった。

「ゆっくりしていかないか、だなんて……」
スイート・シュガーボックス(おかしなミミック・f41114)は、リボンを揺らして面影の誘いに考える素振りを見せた。
 かつて面影が属する組織と戦ったことがあるグリモア猟兵の言葉によれば、この穏やかそうな少年の内にあるのは強い破壊衝動と攻撃性。そしてそれを隠すだけの狡猾さ。
 おそらくこの誘いは策。
 夢に属するメガリス『ティンカーベル』は、同じく夢に属するナイトメアビーストが近くにいる場合、一定時間が経過すれば奪取されてしまう。
 今回モーラットナイトメアという現実改変と足止めに特化した戦力を使ったことからも、面影が狙っているのはメガリス奪取までの時間を稼ぐことだろう。
 ……ということを読み取っていたスイートだが。

「とてもいい案だねッ!」
 菓子箱の中に光る瞳をはうっとさせて、スイートは勧められた座布団にズサーッと滑り込む。
 そして、スイートの箱の中からドバンッ!
「うぇ~い、オヤツの時間と聞いて、ウチ参☆上ッ!」
 飛び出してきたのは、スイートの|相棒《ズッ友》、幻惑神機『ディオニュソス』。今回は人型、それも水色のボブとアホ毛が可愛い男の娘の姿で登場だ!
「お、おばあちゃんちのお菓子だ! 懐かし~☆」
 ディオニュソスはくるんと回転して空いている座布団に座ると、さっそく菓子鉢のお菓子に手を伸ばす。
 これでもクロムキャバリアの神機。しかも数百年間封じられていた筈なので、シルバーレイン世界の昔ながらのお菓子に本当に懐かしさを感じているのかはわからないが、まあそういうものはお約束というものなのかも知れない。
「昭和のお菓子もエモいしちょー美味だし☆」
「おや、この良さがわかりますか。存分に召し上がってくださいね」
 突然の乱入者だが、面影に動じた様子はない。
 少なくとも攻撃の意思はなさそうだということを見て取り、スイートとディオニソスはくつろぎポーズで座布団に落ち着く。

「さあッ! 三人で仲良くちゃぶ台を囲んでオヤツの時間の始まりだッ!」
 スイート、ディオニソス、そして面影。
 急須仕様にした『不思議なティーポット』から温かな緑茶を注げば、三人の間に『おかしな』時間が流れ出す。
「面影さんはどんなお菓子が好きかなッ? やっぱり昭和のノスタルジックなお菓子が面影さんの優しい思い出のおやつなのかい?」
「とても残念なことに僕は昭和生まれではありませんよ。昭和は愛し愛でるものですが、僕自身の思い出とは言えないでしょうね」
 ミミックの菓子箱をぱかりと開け閉めしながらスイートが尋ねれば、面影が残念そうにそう答えた。
 ちゃぶ台の周囲には、緑色の冷蔵庫や洗濯と脱水が別の二層式洗濯機などの昭和の家電がずらりと並べられ、首を廻らせれば席についたままそれらの品が眺められるようになっていた。
 だが、昭和の品々がそうでないのだとすれば、彼の思い出はどこにあるのだろう?

 ――もしかして……これが優しい時間に包まれた君の思い出じゃないかい?

 考えた末にスイートが菓子箱から取り出したのは、お皿にのった串団子。
「…………」
 3つ並んで醤油が塗られたシンプルな串団子が置かれた皿を差し出すと、面影は無言でそれを口に運ぶ。
 これが本当に彼の思い出なのか、スイートには判別できなかった。
 面影は表情を崩さなかったし、それにこの『|懐かしき思い出時間《ノスタルジーオヤツタイム》』は存在しない記憶すら創り上げてしまうものなのだから。

 無言で食べ終え「ごちそうさま」と一言呟いてから、面影がスイートに向き直った。
「……仲間が来るまでの足止め。貴方の狙いはそれでしょう?」
「んー、まあね。それもあるよ」
 急須から緑茶のおかわりを注ぐスイートは、その問いに頷きつつ、それだけではないと付け加えた。
「それ以外に何があるんですか?」
「簡単さ。面影さんとオヤツの時間を一緒に過ごしたかったからね」
 事もなげに言うスイートの横で、ディオニソスが湯飲みの中に浮かぶ茶柱を見つけて「超アガるし!」と喜びの声を上げていた。
 思ってもみない答えが返ってきたことに、面影がしばし戸惑い……。
「……懐柔しようというのなら無駄ですよ。僕は『壊し屋』、|ジャックさん《ハビタント・フォーミュラ》が僕を蘇らせたのは、世界を壊すためです」
「別にそんなつもりないよ。俺は今、お菓子の思い出を作りにきたのさ」
 それはスイートの本心だった。
 あらゆる所に現れ、人々においしい物を届けるおかしなミミックは、今回もお菓子を振る舞うために来たのだから。

 過去の道具が積み上げられた部屋の中、かけられた古い掛け時計がカチコチと時を刻む音が聞こえる。
 絶えず時は運び、過去はその中に埋もれていく。
 倉庫の外から他の猟兵のものだろう足音が聞こえ――。

「もう一本食べるかい?」
「いいえ、お気持ちだけで」

 ――『おかしな』時間は終わりを告げる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

龍巳・咲花
過去や夢に浸ることは悪い事ではないでござろう
しかしどちらも|今《現実》があるからこそなのだと拙者は思うでござる
故に拙者はお主を討つでござる!
過去の先輩方が今を作る為に過去のお主を討った様に!

問答をしながら、面影自身と昭和ゴーストと骸魂の攻撃を倉庫内に張り巡らせた龍脈鎖と自身から出す龍脈鎖による急制動を利用し躱し、クナイや手裏剣の投擲で反撃するでござる
立場が変われば矜持も正義も変わるものでござる故、平行線でござろうからな
拙者は世界を守るという正義を力で押し通すまででござる!
龍脈を十分に活性化させた後は印を結び敵を特殊空間に引き摺り込み、遠い昔誰かが受けた致命傷を発現させるでござるぞ!



「過去や夢に浸ることは悪い事ではないでござろう」
 倉庫中に置かれた過ぎ去った時代の道具達に視線を向け、龍巳・咲花(バビロニア忍者・f37117)は、静かにそう評した。
 咲花自身が形から入るタイプだ。立派な龍陣忍者となるべく修行を続けた結果、自身の口調までステレオタイプな忍者言葉となったくらいなのだから、古い物や伝統を愛し懐かしむことは理解できる。
「貴方のその口調もなかなか悪くないですよ。チクワでもいかがですか?」
 ござる口調で話す忍者と言えば、昭和の時代に描かれた漫画のキャラクターが有名だ。
 昭和を愛する『百目鬼・面影』がそれを知らないわけもなく、なんだか心なしかワクワクした様子で緑色の旧型冷蔵庫を開けてパック詰めされた練り物を取り出そうとする。
「いや、結構でござる」
「どさくさに紛れて鉄アレイなど投げませんが……まあ、いいでしょう」
 忍者たる者、いや忍者でなくとも平成生まれの防犯教育をしっかり受けた者は、不審者から無闇に物を貰ったりなどしない。咲花がひらっと手を振って断ると、面影は少し残念そうに冷蔵庫の扉を閉めた。
「忍者は昔から愛されているのでござるなあ」
 面影が語るものをリアルタイムで体験したことはないが、時を超えて連綿と続くものに思いをはせ、咲花は感慨深げに呟く。
「故に拙者は現代の忍者としてお主を討つでござる! 過去の先輩方が今を作る為に過去のお主を討った様に!」
 忍者マフラーに炎竜ムシュマフの焔を映し、咲花は懐にしまった暗器に手をかける。
 面影の能力は昭和の品から昭和ゴーストを生み出すもの。手駒を増やす隙など与えぬと咲花が投擲した奇襲の一撃が面影へと飛ぶ。
 咲花が放った手裏剣が面影の背後にあった冷蔵庫を貫き、バチバチと火花を散らせる。
「流石は忍者。ですが奇襲は一度きり。二度目は通用しません」
 使い物にならなくなった冷蔵庫を惜しそうに見やり、面影は冷蔵庫の扉を開けた。
 骸魂を宿した懐かしの駄菓子達がふわりと袋の中から飛び出し、咲花の周りに広がっていく!

 素早い相手は物量で攻めると言わんばかりに飛びかかってくるお菓子の波状攻撃。
 蟻すら漏らさぬ菓子の群れに、咲花は地面を蹴って突っ込んでいく。
「過去のものが素晴らしいのは事実」
 どこか懐かしく、そして恐ろしいお菓子の群れを、咲花は地面より飛び出す龍脈鎖で巻き取って動きを止め、攻撃に隙間を作り出す。
「しかしそれは|今《現実》があるからこそなのだと拙者は思うでござる」
 その隙間に向かって自身の右手から放つ龍脈鎖を放てば、勢いよく地面から飛び出し天井へ伸びる鎖と絡み、その勢いも利用して咲花は速度を上げる。
「銀誓館が|今《現実》などと! 僕達から奪ったものを振りかざしますか!」
 咲花が進むその先には、お菓子達が作り出す弾幕に紛れて強襲する面影の姿。
 振り下ろされる面影の鉤爪が咲花へと迫る!
「そうくると思っていたでござる!」
 そう言うやいなや咲花が伸ばすのはその左手!
 またも暗器を放つかと予想した面影が、もう片方の手で防御しようとしたその時――。

 面影の目の前、突っ込んでくる咲花の姿が忽然とかき消えた!

 標的を見失い、鉤爪が空を切った。
「まさか、忍法とでも!?」
 渾身の一撃を外され、面影が体勢を崩す。
 だが忍法で姿を消したとしてもまだ近くにいるはず。出てきたところで菓子をけしかけ、動きを封じれば。
 そう思った時だ!
「ニンニン!」
 いかにも忍者らしい咲花の声が倉庫の中に響く!
 その声は弧を描き、疾風の如き勢いで近付いてくる!
 張り巡らせた龍脈鎖を次々に繋ぎ替えた咲花は、その急制動を利用して方向を変え、倉庫の中を縦横無尽に飛び回り――。
 そして、その勢いのまま鎖を切り離しスライディング!
 面影と交錯する一瞬の間に、手に握る鋼を鈍く輝かせる――!

「やってくれますね……」
 憎々しげに呟く面影の手、そこには咲花が放ったクナイが深く突き刺さっていた。
「大人しく退け……とは言わぬでござる。立場が変われば矜持も正義も変わるものでござる故」
 鎖から手を放さぬまま、咲花は油断なく面影の状態を見定めていく。致命傷ではないが、クナイは腕の腱を切り裂いており、その動きを確実に鈍らせていた。
「ええ、僕が蘇った理由は『仇討ち』ですからね。止まりはしませんよ」
「これ以上は平行線でござろうな」
 それは最後の問答。
 いや、それはただの確認なのだろう。
 どちらも譲れぬものの為に戦うのだから――。

「それならば、拙者は世界を守るという正義を力で押し通すまででござる!」
 咲花は倉庫中に張り巡らされた龍脈鎖を辿って跳ぶ!
 龍陣ノ楔を打ち込んで活性化させた龍脈の流れを龍脈鎖によって導き、陣の中央へ。
 面影がいる一点へと集めていく。

「龍陣忍者の神髄受けてみよ、でござる! 龍陣忍法『禍福糾纆』!」

 咲花が結ぶ印に応え、迸る龍脈が作り出す特殊空間が面影を捕らえ引き摺り込む。

 それはかつての戦争の記憶。
 透明城壁によって覆われ、外界と隔絶された江ノ島電鉄沿線一帯。
 無数のナイトメアビーストと、彼らが創りだした悪夢の中。
 百目鬼・面影は、かつてそこにいた。

 龍脈は覚えていた。
 かつてこの鎌倉という土地で起こった、かつてのファイナルナイトメアを。
 その戦いで16人の能力者達が命を落としたことを――。

 龍脈に眠る戦争の記憶が、面影の身体に16の傷を穿つ。
 奇しくも同じ状況故、龍脈が再現した傷はそのどれもが致命傷。
「これ、だけ? たったこれだけ……? 僕達は全て失ったのに、貴方達は……」
 慟哭と怨嗟を残し、面影が崩れ――。

 特殊空間が消えた時には、もう過去の怪物はどこにもいなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

柿木坂・みる
【羽花音】
昭和を愛する気持ちは否定しないよ
でもその先の素敵を見逃すのはもったいないと思う

おばあちゃんちのがわからない
過去の記憶がなくて寂しい
|こいつ《こわいまんじゅう》との相性が良さそうだからなるべくわたしが引き受けよう
武装に黒影剣のオーラを纏わせて長剣と日本刀で斬りまくるよ!
剣の間合いから外れた敵にはレッグギロチンの脚で回し蹴りだ!
「残りはわたしだけで大丈夫だから2人は先に面影をお願い!」

羽柴さんに回復をもらい、日花ねーとタイミングを合わせて攻撃
花柄の魔法瓶のポットも素敵だけど、今は想像できないようなモノだって現れるかも
わたしは未来を信じてる!
全力全開の黒影剣でぶつかって面影に思いを伝える


天見・日花
【羽花音】
うわ懐かし。食べて良い? え、UCを封じる?
じゃあ久々に詠唱兵器とアビリティで頑張るか。
呪剣と蹴りと心を合わせたコンビネーションでボコボコにしてやろう。

このように令和の我々は平成の遺産を活かしつつ更なる進化を遂げている訳だけど。
君はどうだい“リメンバー昭和”? 何もかも昭和のまま?
と言うか今日“優勝請負人”いないの?
前に負けた時より戦力減ってんじゃねーか出直してこい馬鹿者。

昭和だって大正や明治や慶応が去ってくれたから生まれたんだよ。
引き際が肝心だって事、分かるでしょう?
去りゆく時代を惜しむ気持ちは分かるけどね。
悲しむ事はない。オール電化になろうとも婆ちゃんちは今も変わらず良いトコだ。


羽柴・輪音
【羽花音】
おまんじゅう…そういえば、うちのおじいちゃん達が勧めてたわね
とはいえ対策だって怠らないわよ

柿木坂さんと日花ちゃんには
わたしがUCで淹れたお茶を飲んでもらって
さらに[オーラ防御]で守りを固めていくつもり
あとは[破魔、蟲使い]で二人の攻撃を援護していくわね

昭和に限らず、古い時代のもの、わたしは好きよ
うちの実家が旧家だから色々残ってるし
大切にしてるから今も現役なのよね

昭和の時代も過去も大切にするのはいいことよ
でも、それが過ぎて誰かを傷つけるのは違うんじゃないかしら

過去がなければ今のわたしはいないから否定はしない
でも、未来だって悪くないものよ

あなたが今わからなくても
何度甦っても伝えてあげる



 ナイトメアビースト『百目鬼・面影』がいる倉庫の中は、その入口から数々の昭和の品々で埋め尽くされていた。
 細い通路に大切そうに置かれているのは、今ではめっきりお目にかかることもない厚手のブラウン管テレビ。
「そういえば、あの時もテレビだったわね」
 通りすがりにそれを眺めた羽柴・輪音(夕映比翼・f35372)は、ふぅとため息を一つつき、青い瞳を懐旧の念に細める。
 ――あの時見たのはもっと古い品だったかしら。
 能力者として青春を駆け抜けた銀の雨降る時代。
 あの懐かしい過去に、輪音は面影と一戦交えた経験があった。
 昭和という時代に理解を示さぬ人々を無差別に殺傷しようとした面影の殺意と攻撃性は、オブリビオンとして蘇った今でも変わらぬのだろうかと思考を巡らす。
 とはいえ、面影の性質がどうであれ共存の可能性は皆無と言って良いだろう。
 面影は――そして彼の同族であるナイトメアビーストと銀誓館学園とは、最初から敵同士だったのだから。
「|姉御《輪音さん》、大丈夫だよ」
 物思いにふける輪音の肩がポンと叩かれた。
 振り向いたそこには昔からの友人、天見・日花(虹の縁環・f44122)の顔。これから面影との決戦に臨むことへの緊張感をほぐすように、ゆるく微笑みながら輪音の顔を覗き込んでいた。
「そうだよ。わたし達も昔よりずっと強くなったんだし!」
 日花の隣から、柿木坂・みる(希望の羽・f44110)も仮装の狼耳を揺らして入ってくる。
「ええ、そうね。何度でも止めてやらなきゃね」
 大切な友人達へ頷き返し、輪音はもう一度古いテレビに視線を向ける。
 あれから十年以上の時が流れ、テレビも全て地上波デジタル放送対応の物に置き換わってしまった。
 山と積まれた過去の品々に思いを馳せれば、そこにあるのは古き物への追想の念。
 そして、過去と同じ姿で笑う友人達に向ける思慕の念。
 だが、大切なのは変わらないことではない。
 変わっていく大切なもの達を、新しくできた大切なものを愛し続けられるか。
 それはきっと今を生きる者にしかできないことだろう。
 肩を並べて歩きながら、三人は過去へと対峙する。

 倉庫の中央には四畳半に敷かれた置き畳と丸いちゃぶ台。
 今ではもうテレビや映画の中でしか見ることはなくなった昭和の居間。殺風景な倉庫の中にその光景が無理矢理作りだされていた。
 そのどこか歪な場所に置かれた座布団の上に座っていたのは、あの時と変わらぬ学生服の少年の姿。
「銀誓館の方ですか?」
 お茶の入った湯飲みを片手に、面影が穏やかな笑みを浮かべて三人を出迎えた。
 殺意は……あるのだろう。だが、面影の内に潜む殺意は彼の日常と隣り合わせ。
 それはかつて運命予報士から聞いた内容と同じで変わらない。
 決して油断できる相手ではないと、日花はそっと拳を握って面影の動きに備える。
「せっかくここまで来たのですから、貴方達も昭和を堪能していきませんか? お菓子もありますよ」
 面影が片手で空いた座布団を指し、三人にも座るように勧めてきた。
 ちゃぶ台の上には、面影チョイスの昔ながらの菓子を詰めた木製の菓子鉢。
「おまんじゅう……そういえば、うちのおじいちゃん達が勧めてたわね」
 菓子鉢のラインナップに輪音がむむと唸る。
 栗の形をした小さなお饅頭は、袋に入った和菓子アソートの常連。
 令和の世でも菓子売り場に行けば今も現役で、買う人もそれなりにいるのだが、友人との交流でこれをチョイスする若者はあまりいない。
「うわ懐かし。食べて良い?」
「ええ。この良さが分かる方なら歓迎です」
 昔はよく食べたような気がするが最近はご無沙汰だなと思いながら、日花は菓子鉢に手を伸ばしかけ……。
「毒とか入ってないよね?」
「その必要はありませんよ。昭和を味わっていただいた後で、僕がこの手で殺しますので」
「あっそ……」
 昭和への慕情と銀誓館への殺意が同居する面影に、ジト目を送りつつ日花は伸ばしかけていた手を引っ込めようとして……。
「あれ? |姉御《輪音さん》?」
 輪音が座布団に腰を下ろして、ちゃぶ台の脇に置かれていた魔法瓶のポットからお湯を出してお茶を淹れているのが見えた。
「わあ、こういうレトロな魔法瓶、初めて見たけど素敵だね!」
「本当ね。昭和に限らず、古い時代のもの、わたしは好きよ」
 その隣では、みるも物珍しそうにポットの花柄を眺めているではないか。
「うちの実家が旧家だから色々残ってるし、大切にしてるから今も現役なのよね」
「ああ、それは素晴らしいことです。どうかいつまでも大切に使ってくださいね」
 輪音とみるの二人に昭和の物品を褒められて照れる面影の隙を突いて、どういうつもりかと日花が目で問いかけると、輪音がそっと目配せを返してきた。
 何か考えがあるのなら、ここは輪音に合わせておこう。
 そう考えた日花は、自分も座布団に腰を下ろして菓子鉢のお菓子をつまみ上げる。
 まず手に取ったのは、袋入りの小さな|最中《もなか》。餅粉を焼き上げたパリパリの皮と餡子の強い甘み。
 口の中に残る粘り気の強い砂糖の味を懐かしんでいると、そこに差し出されたのは輪音が淹れたハーブティーだ。丁度お茶が欲しかったところと一口飲めば、カモミールの爽やかな香りが湯気と共に広がる。
 お口をさっぱりさせたところで、日花が次につまんだのは白地に緑の線が入ったビニール包装で包まれたこんぶ飴。
 きゅっと包み紙を捻って中の飴を取り出し、そのままパクッと口に放り込む。
 柔らかな水飴と昆布の風味。懐かしい味を日花が噛みしめていると……。
「日花ねー! ビニールまで食べちゃったの!」
 みるが目を丸くして素っ頓狂な声を上げた。
「……ん? ああ、これはオブラートだ。このまま食べられるよ」
 日花は二つ目の飴を包み紙から取り出し、薄いビニールのようにも見えるオブラートを示す。
「そーなんだ。なんか不思議だね!」
 封印の眠りについていたみるは、おばあちゃんの家のお菓子を食べた幼少の思い出はない。当然、お菓子をオブラートで包むという発想もなく、ハーブティーのカップを持ちながら、首を傾げている。
「粘り気のある飴が手や包み紙にくっつかないようにするための工夫です。適度に水分を吸って乾燥や湿気も防ぐという、昭和の時代の素晴らしい心遣いですね」
 すかさず面影が昭和の蘊蓄を嬉しそうに披露する。
「本当に……素晴らしい時代です。この時代が永遠に続けば良い。そうは思いませんか?」
 愛おしそうに昆布飴を撫でる面影の手の中。そこに収められた昆布飴が黄金色の光を放ち、うぞりと震えた。それをぽんと軽く放ると、昆布飴は菓子鉢の中に落ち、黄金色を他の菓子にも伝えながら蠢き続ける。

「去りゆく時代を惜しむ気持ちは分かるけどね」
 ただならぬ気配を察知した日花が立ち上がり、イグニッションカードを取り出す。
「昭和を愛する気持ちは否定しないよ。でもその先の素敵を見逃すのはもったいないと思う」
「昭和の時代も過去も大切にするのはいいことよ。でも、それが過ぎて誰かを傷つけるのは違うんじゃないかしら」
 それに続いて、みるが、そして輪音も戦闘に備えて距離を取る。
「昭和だって大正や明治や慶応が去ってくれたから生まれたんだよ。引き際が肝心だって事、分かるでしょう?」
 過去の良きものを愛することは、決して今と未来を否定し、壊してまで行うべきことではない。
 それは日花だけのものではなく、染み出した過去から世界を守る猟兵の想いなのだろう。

「僕に現在など必要ない。僕達のその先は失われた。だから……そろそろ僕は貴方達を殺したくて堪らなくなりました」
 そう言いながら面影が立ち上がる。
 口調こそ変わらねど、そこに混ざるのは明確な殺意。学生服に覆われていた腕が肥大化し、みるみるうちに巨大な鉤爪へと変わっていく。
 その周囲を取り囲むように懐かしき菓子達が立ち塞がり、面影への道を閉ざす。
 そして染み出した過去は世界への殺意を滲ませる。

 菓子鉢の中の菓子達が、ぐにゃりと蠢きながら宙を舞う。
「おばあちゃんちのがわからないのに、わからなくて寂しいはずなのに……何でか懐かしい気がする!」
 目の前を漂いながら存在しない懐かしさを振りまく菓子に、みるが驚愕の声を上げる。
 みるが振り回した長剣の先を一口羊羹の袋がすり抜け、そちらに目を奪われた隙にぼうろが弾丸のように飛びついてくる。
「柿木坂さん、気をしっかり保って!」
 そこに飛び込んできたのは薙刀を構えた輪音。
 かつての青春の日々。そこでの輪音の役割は仲間を護り、癒やすこと。
 飛んでくるぼうろを薙刀で一閃して振り払い、それでも噛みついてくるものに小さな傷を作られても、それは身体に廻らせた力で乗り越える。
「……羽柴さん!」
「平気よ。これでも前線を張るのには慣れてるわ」
 返す刀で突き出された輪音の薙刀の刃が閃き、逃げようとする一口羊羹を突き刺して地面に叩き落とす。クルリと薙刀を回転させて、ウインク一つ、みるに投げかけて、輪音が菓子の群れが蠢く戦場へと飛び込んでいく。
 その後を追って、みるも続く。
 だが、尚も続く不気味な懐かしさ。それに戸惑っていたみるだったが、ふとその鼻先を横切る柔らかで甘い香りに気付く。
 それはちゃぶ台に置かれたままになっていたハーブティーのカップから漂うもの。
 輪音が淹れたお茶から立ち上るリラックス効果のあるその香りが、みるの心をふっと優しく落ち着かせてくれる。
「……ッ! 知らない記憶に負けてたまるか!」
 キッと睨んでみれば、目の前に漂うのはただのお菓子の群れ。こんなのスーパーのお菓子売り場で幾らでも見たと気合いを入れてみれば、昭和の悪夢が生み出す根拠のない感情なんてあっという間に追い払える!
「こいつはわたしが引き受けるよ!」
 その手に長剣と日本刀を構え、みるは菓子達のただ中へ飛び出す。
 1つ、2つ、3つ――!
 すれ違いざまに刀を振れば、白銀の輝きが菓子達の包装を破り取り、中身を切り飛ばして砕く!
 辛くもその一撃を逃れた栗饅頭が中身の餡を飛ばして襲いかかってきたが、猛烈な勢いに畏れることなく、みるはくるりと前転してやり過ごす。
「お返しだ!!」
 みるの振るう刃が闇のオーラに包まれ、黒く染まっていく。
 前転の勢いも利用して、みるは倉庫の床を蹴る!
 不可視の刃が、逃げようと高度を上げた栗饅頭を下から切り飛ばし、餡子を闇に包んでは使い物にならなくさせていく。
 みるの勢いに押され、菓子達は人を畏れさせるどころか、自分達の方が恐怖に飲み込まれてしまう。
 後退した菓子に襲いかかるのは、伸び上がるように放たれたみるの長い脚!
 レッグギロチンでの回し蹴りに菓子が吹き散らされた後に開くは、面影への道だ。
「残りはわたしだけで大丈夫だから2人は先に面影をお願い!」

 みるが切り開いた道を、駆けて行く日花と輪音。
 その先にいるのは、過去の時代の残骸だ――。
「おや、ここまで来ましたか。それでは僕が殺してあげますね」
 笑みを浮かべる面影、その手元にあるのは積み上げられた昭和の思い出達。
 かつて家族の団らんの中心にあり、日夜進歩する時代の栄光を華々しく伝えたテレビ。
 今はもう映ることのないはずの画面に、ザザッと砂嵐のようなノイズが走り、昭和ゴーストが次々と生み出されていく。
「前に倒したのと似てるわね。そんなのじゃわたし達の相手にはならないわ」
 日花と輪音はかつて面影が繰り出す昭和ゴーストと戦ったことがある。
 一度戦って勝った相手なら、その手の内はわかりきっている。
 ビカビカと点滅する光で目を眩ませた隙に巨体で押し潰そうと目論むテレビ型昭和ゴーストだったが、薙刀の穂先で画面を叩き破られて、ザザ……と耳障りな音を立てて動かなくなる。
 それと同時に日花も動く。
 日輪を戴く大蛇、呪剣『オージェ』を振るおうとしたときだ――。
「え、ユーベルコードを封じる?」
 積まれたテレビの隙間から飛び出してきたのは、昆布飴。オブラートで日花の上半身を包み込み、その動きを阻害しようとする。
 動きが止まれば仕留めるのは簡単だと飛びかかってくるテレビ達だったが。
「じゃあ久々に詠唱兵器とアビリティで頑張るか」
 そう言った直後、日花がぐっとスピードを上げる。激しく回転しながら真っ直ぐテレビゴーストに向かって突撃し、連続の蹴りを食らわす。胴体を砕かれプラスチックにヒビを入れたテレビがよろける暇すら与えず、猛烈な炎の闘気が、大地を揺るがす衝撃波が繰り出される。
 日花のコンビネーションによって、周囲の昭和ゴースト達の群れは中の部品をバラバラに引きちぎられてどうと倒れる。
「このように令和の我々は平成の遺産を活かしつつ更なる進化を遂げている訳だけど……」
 くいっと脚を引き寄せて、日花は挑発するように武術のポーズをとって構える。
「君はどうだい『リメンバー昭和』? 何もかも昭和のまま?」
 日花が目を眇めて見やるその視線の先には、だらりと鉤爪を垂らしたままの面影の姿。
 その姿は、かつて戦った時と何も変わらないように見えた。
「と言うか今日、『優勝請負人』いないの? 前に負けた時より戦力減ってんじゃねーか出直してこい馬鹿者」
 散らばった昭和ゴーストの残骸を蹴り飛ばして、日花が疾走する!
 腰を落とし円を描くように滑り込めば、繰り出される蹴りが鋭く面影へと迫る。
 猟兵に覚醒して進化した力は、かつての面影よりも格段に上回る――!

 躱すことなど不可能だと思われた日花の連撃。
 それを面影は片方の鉤爪で無理矢理受け止め、押しとどめる。
「いいえ。変わりましたよ。残念なことにね……」
 すぅと細められた面影の言葉。その声に混ざるのは凍るように固まった殺意。
 とっさに身を反らせた日花の鼻先スレスレを、もう片方の鉤爪が通り抜けていく。
 風圧に煽られて切り裂かれた日花の前髪が数本、スローモーションのように宙を舞う。
「僕の目的は『仇討ち』です。だからジャックさんは僕を最後にした。そして……僕は最後になりました」
 尚も振りかざした面影の鉤爪が、倉庫の電球に照らされて影を作り――。
「日花ちゃん! 下がって!」
 そこに白燐蟲の魔を払う力で自己強化した輪音が割って入る。
 薙刀の柄で面影の力を流し、それでも受けきれなかった衝撃に膝を突きながらも、決して倒れず歯を食いしばる。
「過去がなければ今のわたしはいないから、あなた達と戦った過去も否定はしない」
 相容れぬ敵として出会い、無差別に人を害するナイトメアビースト達を認めることはできない。
 だがそれでも、命でもあった彼らを全滅させたのは銀誓館学園なのだ。
 その|重み《過去》を受け止めながら、守るべき世界と大切な人のために輪音は|前《未来》を見据える。

 お菓子達を倒しきり、みるが駆けてくるのが見える。
 体勢を立て直し、日花が呪剣を構えるのが見える。

「あなたが今わからなくても、何度甦っても伝えてあげる!」
 渾身の力で攻撃を押し返しながら、輪音は今の自分の想いを面影へとぶつける。

「日花ねー、タイミングを合わせるよ!」
「ああ、心を合わせたコンビネーションでボコボコにしてやろう」
 輪音に押されてよろめいた面影に向かい、みると日花が全力で飛び出していく!

 わたしは未来を信じてる――。
 悲しむ事はない――。

 みるの長剣に纏う黒影が。
 日花の呪剣に宿す劫火が。
 彼女らの想いと共に、吹き上がり、燃え広がり、左右から同時に面影の身体を飲み込み、灼き尽くしていく。

 最後のナイトメアが消えた後、そこには壊れた過去の品々だけが残されていた。
 開きっぱなしになっていた扉から、風が新しい空気を室内へと運んでくる。
 
 過去の物も素敵だけど、未来には今では想像できないようなモノだって現れるかも。
 オール電化になろうとも婆ちゃんちは今も変わらず良いトコだ。
 倉庫を後にする三人が交わす言葉は、今を生きる人の想い。

 変わりゆくものの中でも、変わらないものがある。
 変わることは避けられず、その全てが良いものとも限らない。
 だけど――。

 それでも、未来だって悪くないものだ。
 そう信じて、三人は笑いあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

八坂・詩織
白夜さん(f37728)と。

そうですね、たしかに今昭和レトロブームだったりしますけど…ノスタルジーに浸るのと未来を否定するのは違います。昔より良くなったことだってたくさんあるんですから。

今を、未来を生きる子供達に過去の悪夢は必要ありません。悪い夢はここで凍てつかせてしまいましょう。
氷雪地獄発動。UCの吹雪で【凍結攻撃】昭和ゴーストも骸魂も纏めて凍らせます。どこか懐かしいお菓子ですが、カチコチに凍ってしまっては美味しく食べられませんので。食べるのは遠慮させてもらいますよ。

雪だるまアーマーで防御力も上がってますし、一気に決めちゃってください白夜さん。

わぁ、その仮装でヴァンパイアクロスは映えますね!


鳥羽・白夜
八坂(f37720)と。

お前いつまで昭和にしがみついてるんだよ…もう令和になって5年以上経つぜ?(…ってもうそんな経つっけ、時の流れ速いな…)
そうそう、分煙すらされてねーような喫茶店でコーヒー飲むのは遠慮したいよ俺は。

だな、いつまでも過去の夢に付き合ってらんねーし。
ばーちゃん家で団らんとかの経験ないにも関わらず何故か懐かしい感じのするお菓子に内心びびりつつも大鎌で【なぎ払い】。もてなしてくれる気があるならこんな古臭い菓子じゃなくてミニトマトとかにしてくれよな。

分かった、纏めて喰らいつくしてやれ、ヴァンパイアクロス!
…って、だからそういうのやめてくれよ…何か急に恥ずかしくなってきたんだが。



 大量の過去の品々がうずたかく並べられた倉庫内。それは時が戻ったというよりも、時の流れを必死に押しとどめようといった様子で、どこか物悲しくも滑稽なものだった。
「お前いつまで昭和にしがみついてるんだよ……」
 うんざりといった顔で、鳥羽・白夜(夜に生きる紅い三日月・f37728)は眉根を寄せてため息をついた。
 白夜の視線の先にあるのは学生服を着た少年――ナイトメアビースト『百目鬼・面影』の姿。彼の姿もまた、過ぎた記憶にあるものと変わらない。
「もう令和になって5年以上経つぜ?」
 そうぼやいてみて、もうそんなに経つっけと驚愕に目を瞬かせる。
 能力者を引退した後に一般人として平凡な生活を送り、また猟兵として戦いの日々を送る白夜も、気付けば三十路を越えていた。
「時の流れ早いな……」
 遠い目をして視線を宙に彷徨わせれば、倉庫の天井に備え付けの灯りは青白いLEDのものだと気付く。おそらく面影が後からつけたのであろう倉庫の中心に垂れる裸電球とは違う、時の流れがもたらした変化だった。
「そうですね、たしかに今昭和レトロブームだったりしますけど……」
 白夜の隣で、八坂・詩織(銀誓館学園中学理科教師・f37720)が頷く。詩織自身はそれ程でもないが、教え子の中には昭和の物品が一周回って新しくエモいと楽しむ者がいることを知っていた。
「おや、あの温かみのある優美なデザインを理解する人がいるとは、素晴らしいことですね」
 昭和を愛する者がいると聞いて、面影が口を挟んできた。
 穏やかな口調から推し量ることは難しいが、その内に強い敵意を宿しており、たとえ昭和を愛する者であっても銀誓館学園の生徒へ攻撃を仕掛けることを躊躇うことはないだろう。
「ノスタルジーに浸るのと未来を否定するのは違います」
 ここで面影を逃せば教え子達に危険が及ぶ。それを理解している詩織は、面影の懐古趣味をきっぱりと拒絶する。
「昔より良くなったことだってたくさんあるんですから」
「そうそう、分煙すらされてねーような喫茶店でコーヒー飲むのは遠慮したいよ俺は」
 そう告げる詩織の言葉に続けて、白夜が肩をすくめて付け加える。
 テクノロジーの進化は言うに及ばず。
 元々銀誓館学園は元より児童生徒の自主性を重んじる校風だったが、多様性の尊重や個に応じた教育が一般化し、より質の高い教育を行えるようになった。もちろん、白夜の言うように健康を考慮した禁煙や分煙が常識になったこともそうだろう。
 令和の時代にも問題はあるだろうが、それでも少しずつ進歩しているのだと、今の人間である二人はそう信じている。
「僕はそうは思いませんね。効率、改善、進歩……そんな題目は聞き飽きました」
 それに対して面影が返してきたのは、冷ややかな拒絶だった。
 面影が伸ばす腕が肥大化し、紫色をした巨大な鉤爪に変わっていく。
 他のナイトメアビーストと比べると無骨で大きいその腕は、面影の破壊衝動と憎悪がそのまま形になったもの。それをちゃぶ台に置かれた菓子に差し伸べれば、時の流れに忘れ去られた骸魂がゆらと蠢いた。
「まあ話が通じる相手じゃねーよな」
 かつての戦いでもそうだったが、ナイトメアビースト達との交渉など不可能だ。
 靴の先で軽く床を叩きながら、白夜はやれやれと息を吐き出す。
「そうですね。あまり時間をかけるとティンカーベルが奪われてしまうかもしれません」
 示す詩織の指先、壁に掛けられた古い振り子時計の短針が上を向きかけていた。
 大量のモーラットナイトメアを使った悪夢に加え、錠前屋の能力で籠城を決めた以上、相手の狙いはメガリスを手に入れるまでの時間稼ぎだろう。
 薄い笑みを崩さぬまま鉤爪を翳す面影から視線を外さず、二人は戦闘態勢を取る。

「過ぎた良き時代の夢だけで充分です。未来など、もう僕達にはないのですから」
 裸電球に照らされた面影の鉤爪がギラつく光を反射し、黄金色の光がたぐり寄せた古びたカセットデッキ型の昭和ゴーストを呼び寄せる。
 青いランプを灯した年代物のカセットデッキが、キュルキュルと音を立てながらテープを巻き上げていく。巻き戻しが終わるカチャリという音の後、スピーカーから流れ出すのは当時のヒットナンバー。
 戦闘の始まりに、白夜と詩織もイグニッションカードを掲げて力を解放する。
「「|起動《イグニッション》!」」
 すり切れたテープからの歌声が物悲しく退廃的に流れるのとは対照的に、今を生きる者達の声が高らかに響く。
「今を、未来を生きる子供達に過去の悪夢は必要ありません」
「だな、いつまでも過去の夢に付き合ってらんねーし」
 周囲を取り囲もうとする菓子の群れに死角をつかれないよう、二人が背中を預けるようにすれば、紅の三日月と薄桃の雪が並び立つ。

 菓子鉢の中のぼうろや花林糖達が面影への道を塞ぎ、孫が来たからと盛んにお菓子を食べさせようとする祖母のように、優しいがどこか押しつけがましく辺りを飛び回っていた。
「俺、ばーちゃん家で団らんとかの経験ないんだけど!?」
 幽世で忘れられた妖怪の成れの果てがこの世界の誰かが忘れた記憶と結びつき、記憶や思い出までも塗り替えられるような暴力的な哀愁となって見た者に襲いかかる。
 存在しない懐かしさに、前に出ていた思わず白夜が驚愕の声を上げる。
 昔の品々は、直接体験していなくてもノスタルジーを覚えるものだが、いくら何でも自分の感情まで思い通りにされる謂れはない。
 後輩の前で格好悪い姿は見せたくないからと表情にこそ出さないが、内心慄然しながら、白夜は飛び回る菓子達を大鎌の刃で振り払っていくが……。
「……っと、いっけね!?」
 存在しない懐かしさに気を取られて、敵陣深く踏み込みすぎたことに気付く。
 菓子の群れに紛れて、カセットデッキゴーストが白夜の目の前まで迫っていた。
 慌てて白夜は大鎌でなぎ払おうとしたが、菓子から放たれるぼうろの牽制射撃によってその攻撃は押しとどめられる。
 その隙にカセットデッキゴーストは自身のボリュームつまみを最大まで回し――。
「そうはさせません! 悪い夢はここで凍てつかせてしまいましょう」
 その間を飛ぶのは詩織が投擲する結晶輪。
 回転して飛翔する輪が、周囲に薄桃の花の如くちらちらと光る粉雪を降らせる。
 粉雪は瞬時に花びらのように大きくなり、そして氷混じりの猛烈な吹雪となって荒れ狂い、みるみるうちに辺りを雪景色へと変えていく。
 それは空気までしんしんと凍てつかせる美しき極寒の地獄。
 詩織が作りだした白き地獄が生み出す冷気が、飛び回る菓子達の水分を凍り付かせて地面へ落としていく。
 渾身の音波攻撃を放とうとしたカセットデッキゴーストだったが、そのスピーカーにも雪は容赦なく襲いかかる。
 デッキの内側に入り込んだ雪が機械部品に触れてショートを起こし、動けなくなるカセットデッキゴースト。
「うるせーのは苦手なんだよ……大人しく壊れてろ!」
 そこにすかさず白夜が踏み込む。
 大鎌を両手に持ち替えて渾身の力でなぎ払えば、弧を描いた紅がカセットデッキゴーストを真っ二つにする。

「おや、ぼうろは苦手ですか? それならお饅頭はいかがです?」
 昭和ゴーストを倒されても、面影はまだ昭和への執着と殺意を失ってはいなかった。
 菓子鉢の中に残っているお菓子から新たな骸魂を呼び寄せようとする。
 だが、面影が菓子鉢に手を差し伸べる前に、それは詩織が放った結晶輪によって弾き飛ばされる。
「懐かしいお菓子ですが、カチコチに凍ってしまっては美味しく食べられませんので。食べるのは遠慮させてもらいますよ」
 食べ物を粗末にするのは気が引けるが、これも依頼の達成のため。
 いたって真面目な詩織だが……。

「もてなしてくれる気があるなら、こんな古臭い菓子じゃなくてミニトマトとかにしてくれよな」
 白夜の方はいつものトマト好きを存分に発揮してぼやく。
 すると古臭いと言われた面影の方が眉を顰める。
「もてなしにトマトはおかしいですよ。今はそんな非常識がまかり通るので?」
「なんだと! トマトの美味しさがわからないなんて、頭の中まで時代遅れだな!」
「そちらこそ。昭和の素晴らしさがわからないとは、気の毒な人ですね」
 喧々諤々。依頼とはあまり関係なさそうなところで罵り合いだしたことに、詩織は頭痛をこらえるように手で額を押さえた。
 そうしていると、がばっと白夜が振り返る。
「なあ八坂もトマトの方がいいよな! な!」
「ううん……」
 矛先がこちらに向いてきて、詩織は曖昧に口を濁す。
 おもてなしにトマトは不向き。
 こればかりは面影の方が正しいような気も……?
 いやいや、おばあちゃんちの畑の朝取れトマトが籠に入って出てきたら、ありかも?
 意外と答えにくい問いに、詩織はしばし頭を捻り……。
「それなら勝った方が正しいということにしませんか?」
「そうだなぶっ飛ばしてやる!」
「いいですね殺しますよ」
 詩織が言うやいなや二人とも即座に戦闘態勢を取り、白夜はやる気を漲らせ大鎌を振るい、面影は殺意も露わに鉤爪から黒い瘴気を迸らせる。
 今のは何だったのでしょうとため息をつく詩織だが、ともあれ戦闘再開だ!

 大上段から面影が振り下ろす鉤爪を、白夜は大鎌の背で受けとめる。
 この鍔迫り合いには、互いの意地と執着がかかっている。
 押し合う力はほぼ互角、火花を散らすほどの距離で睨み合う二人だったが――。
「……なっ!?」
 面影の足元パキッという軋む音がした。
「私もいること、忘れちゃ駄目ですよ」
 白夜と面影が競り合う間に、詩織の放つ氷雪地獄が周囲の気温を下げていた。
 猛烈な吹雪が面影の腕に纏わり付き、固まった氷がその足を取り、動きを鈍らせる。
「一気に決めちゃってください白夜さん」
 今のうちだと詩織が雪を舞わせれば、柔らかい布団のような新雪が白夜の身体を包み、雪の武具となって覆っていく。
「分かった――!」
 詩織の氷雪は味方に力を与え、敵を凍らせる特別なもの。
 均衡が崩れた今、白夜の方が圧倒的に有利だ。腕に力を込めて面影を突き飛ばす。
 吹っ飛んでいった面影が、山積みになった昭和の品々を崩して倒れる。
「纏めて喰らいつくしてやれ、ヴァンパイアクロス!」
 ちらと雪を零しながら、白夜が洗練された動作でマントを翻す。
 その身に宿した貴種ヴァンパイアの血を昂ぶらせれば、血塗られた巨大な逆十字架が現れ、倒れた面影の身体をそこにあった昭和の物品ごと貫く!
「ああ、また……また過去が繰り返すのか……」
 衝撃に粉々に砕けていく過去の残骸。それらに埋もれた面影の身体もまた同じように先から崩れて黒い塵と化していく。
 ――――。
 最後のナイトメアビーストが発する、音にならない過去からの声。
 それは誰にも聞かれることなく時の流れに溶けて消えていった。

「終わったな」
 崩れゆく面影に背を向け、白夜は後輩へと振り返ると……。
「わぁ、その仮装でヴァンパイアクロスは映えますね!」
 詩織が目を輝かせて手を打っていた。
 詩織から見ると、深紅の逆十字架を背景に、窓から垣間見える夜空の月が一筆の銀の刃のように白夜を照らしていた。貴族風なゴシックな装いに漆黒のマントを纏った彼の姿は、まさしく高貴なる闇の一族に連なる者の様相を呈しており、それは映画の一幕と言っても良いくらい絵になる光景だった。
「……って、だからそういうのやめてくれよ……何か急に恥ずかしくなってきたんだが」
 自分がやらかしたことに気付いて、白夜は「うへぇ……」と顔をしかめる。
 戦っている間はそれどころではなかったが、この歳で「深紅の」、それも「逆十字架」なんて、厨二っぽくて恥ずかしい限り。
「ええー。私はいいと思うんですけど」
「よくないっての……」

 倉庫を後にする二人が続けるのは、今を往く者達の他愛ない会話。
 彼らが去った後、深紅の逆十字が過去に手向ける墓標のように倉庫の床に突き刺さっていた。
 だがそれも間もなく消えるだろう。
 時は常に過去を置いて流れていくものなのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年11月23日


挿絵イラスト