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天高く熊肥ゆる秋

#ゴッドゲームオンライン #ノベル #猟兵達の秋祭り2024

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明石・鷲穂



生浦・栴




●キノコ狩り
 それは秋のとある日の事。
 紅と黄。いかにもな秋の色に染まった|GGO《ゴッドゲームオンライン》のとある山岳フィールドに、生浦・栴(calling・f00276)と明石・鷲穂(真朱の薄・f02320)の姿があった。
「栴、山に合わせた服装似合うなぁ」
「お主は、羽織など持っていたのだな」
「いつもの恰好だと半裸だと気づいてなぁ」
 栴は動き易く保温性もある服装で、鷲穂はいつもの恰好の上に羽織を1枚。
「2人とも、似合ってるよ~」
 そしてフィールドの|管理者《ドラゴンプロトコル》の三姉妹も一緒である。とあるクエストを受けたついでのキノコ狩りに来たと伝えたら、2人が毒キノコを採らない様に同行する話になったのだ。
「それは……生だとダメですね」
「焼けば大丈夫~」
 実際、姉妹3人ともキノコに詳しかった。さすが山の管理者と言うべきか。
「正直助かる。山の物は山羊のも詳しいだろうが、管理者の知見に勝るものはなかろう」
「確かに、イカサメキマイラさんは山に詳しそうね」
 栴の言葉に、長女が鷲穂に視線を向ける。
「そうか? おれは生まれが田舎で、ちっこい頃は裏山で山菜取って食ってたってくらいだ。このハナイグチが冷やしておくと美味い、とかは分かるけどなぁ」
 カラカラと笑う鷲穂の足元には、枯葉の下に隠れていたキノコが見えていた。
「ハナイグチを見つけられるのは十分詳しいわよ」
「見慣れないモンも多いぞ? 分かんねぇのは栴に任せようと思ってたしなぁ」
「赤髪のお兄さんも、実はキノコ詳しいの?」
 鷲穂が続けた言葉に、三女が不思議そうな視線を栴に向ける。
「いや。猛毒を持つ種もあるとは知っているが、それを鑑定する術は無いな」
「え、それではどう……」
「とりあえず採っておいて、分からぬものは後で調べるかと」
 訝し気な声音の次女に返しつつ、片膝を着いていた栴はキノコを手に身を起こす。
「「「毒キノコフラグ……」」」
 ものすごく心配そうな視線を向けてる三姉妹の姿があった。

「これは?」
「毒ですね……」
「そっちの美味しいやつ!」
 三姉妹の助けを借りて、栴は安全なキノコを採っていく。
「お。ムカゴ。懐かしいな」
 一方、鷲穂は少し高い位置にある山菜を採っていた。
 森で屈もうとすると、角は低木に引っ掛かるし、翼は嵩張るのだ。
(「……胞子?」)
 平和なキノコ狩りの最中、栴は視界の端に映ったものに気づく。
「ん?」
 ムカゴをプチプチ採っていた鷲穂の表情も、不意に訝し気なものになる。
「山羊の、お出でなさったようだぞ」
「ああ、何か美味そうな香りがしてるなぁ。お前さんたちは下がってな」
 三姉妹に下がるよう告げて、鷲穂は怪しい気配を感じた栴の横に立つ。
 森の奥からは、大きな影がノソノソと現れた。
 キノコだ。人間大で柄に顔と手足が生えているキノコだ。こんなのが人喰いキノコでなくて、なんだと言うのか。
「お待ちかね敵のキノコか!」
 言うが早いか、鷲穂の四肢が地を蹴った。
「火に弱そうだが、流石に森では火気厳禁であろうな」
 魔導書を手に、栴が環境に配慮して選んだ属性は雷。熱を伴わない雷撃が鷲穂を追い越し、人喰いキノコの群れを纏めて撃ち抜いた。
「邪魔するやつは調味料振って食ってやろう!」
 振り上げた鷲穂の手には、いつもの金剛杵ではなくキノコ狩り用のナイフ。狭い山の中では、この方が取り回しが良い。
「コイツらも食えるんじゃないか?」
「イカとサメの時を思えば、食材化しそうではあるな」
 鷲穂は期待を隠さずに短い刃の一撃で人喰いキノコを屠り、栴も範囲を絞った雷撃で、人喰いキノコにトドメを刺していく。

 そして人喰いキノコが消えた後には、同じ数のキノコの缶詰が落ちていた。

「まあ……持ち運びに便利っちゃ便利だけどさぁ」
「確かに便利だが……マッシュルームに、舞茸、木耳になめこ。種類もバラバラとはな」
 鷲穂はちょっと味気なさそうに肩を竦め、栴は半分くらいある解せない気持ちを隠しきれずにいた。

●弱肉強食
「栴。キノコの缶詰、幾つになった?」
「さて。30を超えた所で数えるのを止めた」
 もう何個目かもわからないキノコ缶を冷凍空間に放り込みながら、栴は鷲穂に返す。
「じゃあ、この辺で終了にするか! 良いか?」
「ええ。最低討伐数は余裕でクリアだもの。完了受諾したわ」
 鷲穂の視線に、|管理者《ドラゴンプロトコル》の長女が頷く。
 こうして人喰いキノコ討伐クエストを終えた2人は帰路に――まだ着かなかった。
 そのまま森を抜け、川沿いのエリアに出る。
「では此処をキャンプ地、ではなくキャンプ飯場にするとしようか」
「待ってたぜ!」
 そして栴は焚き火セットを、鷲穂は酒瓶を取り出した。
「キノコの大量に乾杯!」
「手を掛けた料理は帰壁してから考えるか」
 鷲穂が手酌で呑み始めた気配と声に、栴は苦笑しながら焚火を熾していく。
 火が安定したら、その上に焼き網を置いて。冷凍空間から、採ったキノコを適当に取り出して水で洗う。
「山羊の。好きに焼いて喰え」
「おう」
 鷲穂は酒杯を置くと、大きめのキノコを手に取り傘から柄を引っこ抜いて網の上に並べる。
「お主らもどうだ。安全なキノコを見分けてくれた礼だ。此度はキノコしかないが」
「遠慮しないで食ってけ! しっかり食ってるか?」
 栴と鷲穂のそんな誘いに、三姉妹は顔を見合わせる。
「き、キノコなら……」
「そんなに……だよね」
「だと良いね~」
 何かに葛藤しつつも、三姉妹も焚き火の前に腰を下ろした。

 両面に軽く焦げ目が付くまで焼けたキノコの傘。そこに塩をちょんとつけて。
「いやぁ、うめぇ!」
 熱々の所にかぶりついた鷲穂が破願した。
「採れ立てだと、塩だけでも充分美味いものだな」
「焼き立てが美味くないわけないよなぁ」
 しみじみする栴に笑いかける鷲穂。
「でもな。今日はバターも持参しているんだ」
「「「え、待」」」
「ほう。バターは良いな。此方もチーズとツナ缶は用意がある」
 互いに持って来ていた食材を出し合い、鷲穂と栴は三姉妹を他所にニマリと笑みを交わす。
「バター焼きにするなら、小さいキノコだな」
 栴はたっぷりのバターを鉄板の上に溶かすと、網で焼きにくいサイズのキノコとムカゴを炒めていく。全体に火が通った所で、チーズをかけて。
「あとはまあ、採れ立てに対し冒涜やもしれぬが……」
 言いながら小鍋を出した栴は、そこにオリーブオイルとバター、ツナ缶もオイルごと入れたら、キノコも加えて火にかける。
「キノコのチーズソテーとアヒージョ擬き、と言った所か」
「こ、これは……」
「カロリーが増え……」
「でも絶対美味しいやつ~」
 栴がササッと増やした2品に、三姉妹は何故か慄いていた。

「うん。どっちもうめぇ。栴って特に料理好きとは聞いてないけど、色々作れるよな?」
 キノコ料理に舌鼓を打ちながら、鷲穂がふと浮かんだ疑問を口にした。
「料理は趣味ではなかったが、機会が増えれば出来るようになるものよな」
 ハナイグチも茹でようと別の小鍋を火にかけながら、栴は事も無げに返す。
「長年の経験の賜物かぁ。じゃ、こっちも経験しとくか?」
 感心していた鷲穂が、またニマリとした笑みを浮かべて酒瓶を掲げる。
「日本酒、結構合うぞ」
「貰おう――闖入者を排した後でな」
 鍋を脇に置いて栴が立ち上がる。
「ん? おぉ獣か」
 一瞬遅れて緩んでいた表情を一変させた鷲穂も、栴と共に森に視線を向ける。
 紅と黄の葉を全身につけた巨大な影が、森を飛び出した勢いそのままに飛び掛かって来て――。
「此れだけ良い匂いをさせて居れば釣られるモノも出るか」
 問答無用の一撃はしかし、栴の結界に阻まれた。
「……クマ、か?」
「…………冬篭り前のクマだな?」
 ぽて、ぽてん――と跳ねて転がったその姿に、2人とも顔を見合わせる。
 クマと言い切れないのは、やたら丸々と肥えているからだ。クマ色の毛玉にクマの頭と手足が生えてると言えば良いか。
「でけ~! 笑えてくるな!」
「笑っている場合でもなさそうだがな。中々にラスボス感があるし、まだ食い足りぬと見える」
 破願する鷲穂の横で、栴が油断なく視線を向ける。
 だがそこは2人とも歴戦の猟兵。クマの放つ捕食者の敵意など柳に風。
「なあ山羊の。あれを倒して毛皮を剥いだら、丁度良い冬支度になるのではないか?」
「良いなそれ!」
 それどころか、毛皮に目を付ける余裕ぶりだ。
「なればあまり傷は付けない方が良かろう」
 そして栴が、紅く闇い宝珠から呪詛を放つ。
「あとは任せた」
「応!」
 茨棘に絡まれ歯車に巻き上げられたクマに向けて、鷲穂が一気に突っ込んだ。
「これは慈悲だ……多分!」
 業を内に硬く握った拳の一撃が、クマの巨大を高々と打ち上げる。ズドンッと背中から地に落ちたクマは、ピクリとも動かなかった。
「よっしゃ、毛皮剥ぐぞ!」
 しかし意気揚々と鷲穂がナイフを手にした所で、クマは消滅し始めた。
「……おれの襟巻が」
「まあこうなったら、毛皮のドロップを期待しようではないか」
 残念そうな鷲穂の山羊の背を、栴がポンと叩く。そして見守る2人の前に現れたのは――。
「魚?」
「……この色、多分、鮭だな?」
 それは、確かに鮭だ。立派な鮭だ。
 しかも内臓を処理して塩漬けになっているようだ。
「此れはクマだと認識していたのに何故新巻き鮭がドロップするのか……」
 毛皮やクマの肉どころか、種族すら変わったドロップに栴は困惑を隠しきれない。
「…………美味いツマミをありがとうな、栴!」
「喰う気か。まあ喰うのは良いが、この場で調理しても流石に喰い切れまい」
 鷲穂が笑顔で掴み上げるなり差し出して来た鮭を、栴は取り敢えず冷凍空間に放り込む。
「なら、帰りにルシルのとこ寄ろうぜ。鮫が好きなら鮭も好きだろ!」
「そうだな。魚ならフューラーのか」
 こうして鮭の事は一旦置いて、2人はキノコを肴に飲む酒に戻るのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年11月17日


挿絵イラスト