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【サポート優先】沈黙の霧

#ダークセイヴァー #戦後 #サポート優先

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#ダークセイヴァー
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#戦後
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●くらやみ
 空のすべてが常夜の世界、ダークセイヴァー――例外なく夜に包まる或る集落は今、夜より深い闇の中で静かに眠りについていた。

「……くそっ、此処も駄目だ! 集落の全滅はこれでもう5つ目だぞ!」

 放たれた言葉の不穏は、それが健やかな日々の営みとしての眠りではないと物語る。
 充ちた黒い霧に包まれての、集落丸ごと永遠の眠り――最近になって起こり始めたこの不可解な現象に、見回りの領民達は今、次々と不安の声をあげていた。

「どうなってんだ? 気味が悪い。全滅した集落には、決まってこの黒い霧だ」
「此処の霧は随分濃いな……灯りが通らない。土地勘が無ければ迷うぞ、これは」
「原因がこの霧なら、僕達も此処に留まるのは危険なんじゃ……?」

 ――いつしか、領内を漂う様になった謎の黒い霧。
 多少視界を曇らせはするものの、吸ったところで無臭。即座に不調を来す、死ぬといった類いのものでもなく。
 首を傾げはしなからも、もとより暗闇に慣れている領民達は静観していた。
 だが、日に日に霧の濃度は濃くなり、ある日遂に事件は起きた。黒霧に呑まれた或る1つの集落の民が一夜にして全滅したのだ。
 寝静まった集落に音もなく霧は迫り、辺りを呑み込み、民は眠るように死んでいく。遺体に苦しんだ形跡が皆無であることが唯一の救いであったが、それからは毎日、何処かの集落が必ず黒霧の闇に包まれる。

「……ねぇ、黒い霧が出始めたの、領主様が変わった頃じゃない?」
「そういえば、領主館の方面は霧が濃いって報告があったな……」
「就任してから見かけたって話があるくらいで一度も顔も見せねぇし、いるのは領主サマじゃなくて毒霧でも吐くバケモノなんじゃねぇの?」
「おい! 滅多なこと言うな!! 殺されるぞ?!」

 何が起こっているのかわからず、どうして良いかもわからない。明日は我が身と、恐れ怯える領民達は、また新たな朝を迎える。
 哀しき弔いの朝ですら、世界のくらやみに包まれながら。

●蓄積
「結論から言うと、パンデムミストっていう花の魔物がこの領地に出現したんだ。つまり、この相次ぐ集落の全滅はオブリビオン案件だよ」

 手上で予知を映し出していた|携帯電話《フィーチャーフォン》――青いグリモアの光を少しずつ閉ざしながら、|荻島《おぎしま》・|宝《たから》(誓心・f44439)の視線は真っ直ぐ猟兵達へと向き直る。

「パンデムミストは、黒い彼岸花みたいな見た目の異形植物なんだけど。この魔物は開花すると、黒い霧を発生させるんだ」

 魔力を帯びたこの黒い霧は、最初は微量、しかし日を重ねて次第に領地内へと広がっていった。
 それは本来その領地で観測される筈のない異常現象ではあったが――濃度の薄い内に問題視されることはなかった。薄い内はまだ良かったのだ。

「この霧はね、触れたり吸ったりした者を蝕みながらパンデムミストを成長させるんだ。わかりやすく言うと、宿り木とかエナジードレイン? だんだんと、時間を掛けて獲物の命を奪う。……まるで遅効性の毒みたいに」

 もう少し早く、予知に掛かって欲しかった――生じた犠牲に悔しさを滲ませながら、しかし宝は俯かない。
 何しろ、既に犠牲が出る程の濃度となった地域もある今、対処には一刻の猶予も許されないからだ。

「さっきの予知映像で、領民が領主の話をしていたね。領主が毒霧を吐く化け物なんじゃないかって。これが実は大当たりで、最近着任した領主っていうのはパンデムミストのことなんだ。植物が領主、っておかしな話と思うかもしれないけど……領主館に一緒にいる配下が人型だから、見間違われたのかもしれないね」

 配下――ガイストクリーガー。このオブリビオンは、元は高名な戦士の成れの果てだという。
 とあるオブリビオンに理不尽な理由で殺され、抱いた憎悪は暴走し生者へと向けられた。領主館で最初に出会うのはこの配下の群れだ。その数は多く、素直に全滅まで戦おうとすればかなりの時間を要してしまう。
 ただでさえ今領主館は、黒い霧が充ちに充ちて、領内一視界不良だというのに。

「環境が味方しないこの状況下で事態の収束を急ぐなら、ガイストクリーガーへ対応して道を拓く猟兵と、パンデムミスト討伐へ向かう猟兵とに分かれるのが一番効率が良い。猟兵である俺達なら、濃い黒霧の中でも戦えるしね。……ただ、魔力を帯びたこの霧を全く吸わずにいることは対策無しでは難しい」

 吸えば吸った量に比例して、パンデムミストを倒すまでダメージを受け続けることになる。だから、求められるのは、出来るだけ早い討伐だ。
 再度灯ったグリモアの青光の中、宝の託す声が響く。

「俺が予知で誰かを見送る日が来るなんて考えたことも無かったけど、……なかなかに悔しいものだね、信じて任せるしか出来ないっていうのは」

 最後に一言、無事で、と。願いが滲んだその声を受け取った猟兵達は、任せろとばかり頷くと、汚染された空気へ触れる前にと深く息を吸い込んだ。



●はじめに
 これはサポート参加者を優先的に採用するシナリオです(通常参加者を採用する場合もあります)。

●蔦より
 蔦(つた)がお送りします。
 よろしくお願いいたします。

 現在、執筆時間の見極めが非常に難しいことから、今回は試験的にサポート優先での運用としました。
 書ける時に書くスタイルです。非常に早い進行となる可能性も、恐ろしく鈍足進行の可能性もあります。
 通常参加の方は、各章断章公開後からプレイング送信可能ですが、タイミングが噛み合えば、程度の採用率となります。
 状況が許せば極力頑張りたい気持ちはあります。但し、二名以上でのご参加の方の採用は今回難しいと思います。

●構成
 ※ 黒霧の影響で、全章通じてスリップダメージが発生します。通常参加の方は、これに対する有効な対策がされていますとプレイングボーナスを得られます。

 全二章。以下の構成でお送りします。

 第一章:『ガイストクリーガー』(対複数/集団戦)
 領主オブリビオンの配下と見られる、黒い瘴気を纏ったガイストクリーガー達との戦闘です。
 この瘴気は、ガイストクリーガーが元から性質として纏うものであり、領地に漂う黒い霧とは異なるものです。
 集団で現れますので、ひたすら倒し、仲間を前進させましょう。
 なお、この章に参加した猟兵は進む道を拓く役割を担ったとして次章への参加は出来ません。

 第二章:『パンデムミスト』(ボス戦)
 黒い霧の発生源である、パンデムミストとの戦闘です。
 詳細は第一章終了後に公開される断章にて。

●期間限定ルール
 闇の救済者戦争⑱『ケルベロス・フェノメノン』で入手した小剣グラディウスの研究が進められています。
 この研究の進行度は、ダークセイヴァー戦後シナリオの成功本数に比例します。
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第1章 集団戦 『ガイストクリーガー』

POW   :    亡霊の剣撃
【亡霊が持つ剣】が命中した対象を切断する。
SPD   :    亡霊の瘴気
レベルm半径内を【黒い霧状のなにか】で覆い、[黒い霧状のなにか]に触れた敵から【闘志や生きる気力】を吸収する。
WIZ   :    亡霊の厭忌
自身が装備する【剣】から【嫌悪と怨嗟と呪いを込めた斬撃】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【恐怖】の状態異常を与える。

イラスト:すねいる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●道を拓く
 閉ざした瞼の向こう、転移の青い光がゆらゆらと少しずつ薄らいでいく。
 猟兵達が目を開くと、そこはくらやみであった。転移したのは確かに、空に陽の差さぬダークセイヴァー下層。……だが、この景色はどういうことか?
 夜には違いない。しかし、それにしても暗いのだ。少なくとも猟兵達の知るこの世界は、いかにか細くあろうとも、精一杯生きる人々の営みの灯火に照らされていた筈だ。
 おかしい。猟兵達は目を細めると、冷静に辺りを見回してみる。
 足元は、土の大地。屋外だ。何かないかと背後を見遣れば、手の届く距離に背の高い鉄柵があった。
 民家というよりは、大きな屋敷を囲うような厳重で豪奢な柵だ。……ならば此処は、恐らく既に目的の領主館の敷地内か。
 視界は、手元の灯りをかざしても3メートル先の視認がやっとだ。

「――成る程」

 ぽつり、と呟いた猟兵は、目の焦点を近い位置に合わせた。見方を変える。するとどうだろう。周囲空間を充たして蠢く、魔力帯びる黒い靄が見えた。
 暗くなったわけではない。光絶えたわけではない。言うなれば揺れる壁。|蠢《うごめ》く壁。大気中に散るきめ細かな黒い粒子が、視界を遮っているだけなのだ。
 これが此度多くの領民の命を奪った、オブリビオン・パンデムミストの毒。
 その濃度を目の当たりにすれば、猟兵達の理解も深まる。猶予は無い。一刻も早く、原因たるパンデムミストを倒さねば。
 だがそこへ行き着くためには、避けられない前哨戦がある。
 先ほどから、無数、次第に近付いてくる。黒霧の魔力の気配に紛れて無数の嫌悪、憎悪、何より殺気。

「……っ!」

 不意に――ガキン! くらやみの中で突如剣戟音が鳴り響いた。
 ひとたび鳴れば、各所から似たような音と威勢の声が次々上がる。……くらやみに隠れ接近したガイストクリーガーが、猟兵達へと仕掛けたのだ。
 殺気の気配はまだまだ無数、同じ方向から近付いてきている。つまりは、殺気の方向を目指せば、視覚に頼らずとも自ずと領主館へたどり着くことだろう。
 ならば、突き進むだけ。このくらやみの世界に平穏の夜を取り戻すべく、猟兵達は魔の闇中を駆け出した。
バルタン・ノーヴェ(サポート)
「バトルの時間デース!」
雇われメイド、バルタン! 参上デース!
アドリブ連携歓迎デース!

普段の口調:片言口調(ワタシor我輩、アナタ&~殿、デス、マス、デショーカ? デース!)

戦闘スタイルは物理系!
遠距離ならば、銃火器類の一斉発射が有効デース!
近距離ならば、武器を展開して白兵戦を挑みマース!
敵の数が多いor護衛対象がいるならば、バルタンズの使用もお勧めしマース!

状況に応じて行動して、他の猟兵のサポートに回っても大丈夫デス!
迎撃、防衛、襲撃、撤退戦。どのような戦場でも参戦OKデース!

指定ユーベルコードが使いづらいなら、公開している他のものを使用しても問題はありマセーン!
勝利のために頑張りマース!



 視界3メートルの闇中でも、剣の閃きは見逃さない――ガイストクリーガーからの突然の初撃を翠の瞳に捉えたバルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)は、即座取り回した刀によってその斬線を全て受け止めた。

「HAHAHA! なるほど、目指すべきはそちらデスネ!」

 受けきったなら次は此方の番とばかり、バルタンは前へ力強く踏み込む。突き進むべき先を把握し、肉切り包丁の様な無骨な刀がぶぉん、と激しく風を切った。
 その刃は斬る、というより弾き飛ばすといった様相だ。事実、応じたガイストクリーガーは3メートルどころではなく黒霧の中へ飛ばされ今は見えない。
 ――だが、バルタンには仮に目を閉じても位置が解る。
 気付いている。巧く黒霧の中に紛れてはいるが、向かって来るまるで心当たりの無い怨念。肌にどろりと纏わり付く様な瘴気。
 それも、多数だ。今吹き飛ばした者だけではなく迫り来るそれは、嘗て幾多の戦場で感じてきた、己が敵とみなした全てへと向かう理不尽な憎悪、殺気。

「この現場……断罪しなければならない方が多いようデスネ!!」

 翠の瞳が見開かれると、ぶわりと魔力を帯びて輝いた。
 バルタンが放出した膨大な魔力が、中空で枝分かれして無数の刃の形を取る。その数100、200……まだ増える。
 その間にも接近してくるガイストクリーガーを、ひらりと柔らかなメイド服の裾からのびる健脚で蹴り飛ばしながら。刃が800に及ぶまで、バルタンは魔力を放出し続けた。
 標的は、射程内でこの理不尽な殺気を持つ者全て。断罪すべき対象を刃の雨で殲滅するその力の名は、ユーベルコード『|断罪者《シュトレーフィング》』。

「さァ!! まとめてお掃除の時間デース!!!」

 それは、優しい雨ではない。これまで数多の戦場で敵方を屠り滅ぼしてきた歴戦兵が巻き起こす苛烈なる嵐。
 勝利を確信するかの様に、強者の笑みを浮かべる|バルタン《メイド》――ドドド、と刃突き立つ激しい音が止んだ頃、降雨範囲の内側の瘴気は綺麗に一掃されていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

サエ・キルフィバオム(サポート)
アドリブ歓迎

基本的には情報収集が得意かな
相手が何かの組織だったら、その組織の一員になり切って潜入して、内側から根こそぎ情報を頂いちゃうよ
そうじゃなければ、無害で魅力的な少女を演じて、上手く油断させて情報を引き出したいね
効きそうな相手なら煽てて誘惑するのも手段かな♪

戦いになったら、直接力比べの類は苦手だから、口先で丸め込んだりして相手を妨害したり、糸を利用した罠を張ったり、誘惑してだまし討ちしちゃうかな
上手く相手の技を逆に利用して、手痛いしっぺ返しが出来ると最高♪
敢えて相手の術中に陥ったふりをして、大逆転とかも良く狙うよ



 くらやみから首元へ突如伸びたガイストクリーガーの白い脚を、咄嗟に差し出した腕で受け止め、払って。適度に間合いを取りながら、サエ・キルフィバオム(突撃!社会の裏事情特派員・f01091)は瞳を細める。

(「ふぅん。何も見えない黒い霧、ね」)

 眼前の霧立ち込めるくらやみの景色に、今は振り払われうつ伏せに倒れたガイストクリーガーが薄ら見えるのみ。即座身を起こせば向かってくるだろう――直接の力比べは苦手だ。思えば、サエの判断は早かった。
 サエの女性らしい妖艶なる肢体に巡らせた魔力が馴染めば、すぅ、とその姿は闇に溶ける。

「………!?」

 身を起こしたガイストクリーガーが振り向いた先に、既に女の姿は無かった。
 もとより3メートル先がやっとの視界だ。それ以上離れれば見えなくなるのは|ガイストクリーガーとて同じ《お互い様》。ならば闇中に潜み奇襲を仕掛けることとて、ガイストクリーガーに出来て猟兵に出来ない道理もない。
 そして、サエは潜入や誘惑、だまし討ちで敵の不意を突くのは元々得意な性質だ。

「――ど~こに目を付けてるのかなッ!」

 キョロキョロと辺りを見回しサエを探すガイストクリーガーが突如、声と共に打ち鳴らされたパァン!! と力強い打撃音ののち、真横へ吹き飛んだ。
 声の主は勿論、闇より姿を現したサエだ。ユーベルコード『|暗影舞踏《ハイディング・ステップ》』――初撃狙われた頸部を狙い、白い太腿も露わに長い脚を高く上げて不意打つ回し蹴りを見舞った女は、赤く妖しく瞳を細めて妖艶に笑み立っていた。
 どさり、とほどなくガイストクリーガーは地へ墜ちる。ぐったりと力なく地に横たわるその体は、蹴打の激しさを物語るかの様に頸部があり得ない方向に曲がり、既に事切れていた。

「ふっふ~ん、大逆転♪」

 決着はついた。だが、まだまだ敵は数知れない――次なる敵を探して、サエは再び闇中へ消える。
 索敵は容易ではない、それでも。今日ここからのサエは、この暗がりを味方に進むのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

鳳凰院・ひりょ(サポート)
アドリブ・連携〇

同伴者がいる場合は同伴者をサポートするよう行動
戦い方は遠近両用
接近戦→【破魔】を付与した破魔刀
遠距離→精霊の護符の【乱れ撃ち】
同伴者が苦手な方を受け持つ動きを取ります

単独で戦う場合は敵の苦手とする方での戦い方を主軸に
護衛対象がいる場合は自分の身を挺して【かばう】
負傷した者がいれば護符に【治療属性攻撃】を付与し、対象に貼り付けて応急手当を試み

仲間達に危害を加えるような行動は取らず
誰かを傷付けるくらいならば自分が傷付く方を選ぶ性格
(意外と熱血系の性格)

UCは味方の援護を主体に、戦況の維持・好転へと尽力

他に状況に合うUCへの変更及び演出としての複数UC使用可
MS様の判断にお任せます



 二つの刃が交差する。黒い景色に火花が散る。霧の中に突如振り下ろされた剣と、破魔刀で鍔迫り合いする鳳凰院・ひりょ(天然系精霊術使いの腹ぺこ聖者・f27864)は、一度体勢整えるべく重ねた刃を強く弾いた。
 土煙を上げガイストクリーガーが踏みとどまる一瞬の間に、刀を構え、呼吸を整える。心落ち着かせるためである筈の吸気に不快を伴うのは、視界を充たす黒霧が孕む濃い魔力のせいだろう。

(「こんなものが、領内全域に広がってるのか……」)

 規格外の能力を持つ猟兵は除外するとしても。呼吸は人の生存には不可欠なものの一つだ。だから、意識せずとも体は勝手にその営みを繰り返す。不足すれば勝手に息は上がる。そういう風に出来ている。
 その吸気が、大気が。黒霧という目に見える形ではあったとはいえ汚染され、危険性を知らぬままに取り込み、命を落とした領民達がいる。
 表情こそ冷静だが、ひりょはその理不尽が許せない。ぎり、と構える破魔刀の柄を強く握ると、ひりょの魔力がより伝わって、刀身から白く破魔の光が滲み出た。
 そこで――気付いた。

(「破魔刀の周囲だけ、霧が薄くなってる? ……そうか、魔力の霧だから……!」)

 僅かに光が通ったそこへ、再びガイストクリーガーが飛び込んで来る。一旦思考を止め、上段から振り下ろされる剣を今度は受け止めようとせずにギリギリまで引き付けたひりょは、距離30センチと見た瞬間に身を躱して刀を振った。
 渾身の力を乗せた、超高速、大威力のその斬撃。ユーベルコード『|灰燼一閃《カイジンイッセン》』。

「全力全開! 一撃必殺っ、喰らえっ!」

 切れ味鋭い破魔の刃が、ガイストクリーガーの腰を通過し体を上下に両断した。同時に、放出された破魔の力が周囲の黒霧を晴らしていく。

「中和したのか。この霧は魔力で出来ているから」

 敵の気配はまだ無数。この霧を全て晴らすのは難しくとも、ひりょが戦場を駆け回ることで部分的でも視界が拓けば、仲間も戦いやすくなるかもしれない。
 少しでも、戦況を有利に進めるべく――ひりょは破魔刀へ更に白く輝く魔力を注ぐと、次なる敵へと対峙すべくくらやみの中へ駆け出した。

成功 🔵​🔵​🔴​

シン・ドレッドノート(サポート)
実年齢はアラフィフですが、外見は20代前後。
行動パターンは落ち着いた大人の振舞い。
口調は丁寧。時折、奇術師らしい芝居がかった言い回しをします。
「さぁ、ショウの始まりです!」等。

技能、ユーベルコードは状況に応じたものを使用。
身軽で素早い動き、器用さを活かした行動をとります。
主にビットを展開、ビームシールドで防御しつつ、銃器による攻撃を行います。
効果があるなら破魔の力を込めて。

依頼成功のために積極的に行動しますが、他の猟兵や住民の迷惑になるような行動は避けるようにします。

女性には年齢関係なく優しく。
但し、奥さんがいるので女性からの誘惑には動じません。
失礼のない程度に丁寧に辞退します。



「さぁ、ショウの始まりです!」

 声高らかに、シン・ドレッドノート(真紅の奇術師・f05130)は宣言する。
 くらやみからの奇襲をひらりと躱し、振り向き様に構えたのは|真紅銃《スカーレット・ブラスター》だ。
 トリガーを引けばたちまち射出された光の線がガイストクリーガーの右太腿を捉える。間髪入れずに二射、三射と続けて放てば、全て狙い通り左太腿、剣持つ右肩へと命中した。
 撃った射線上の黒霧の濃度が薄まっていることにも、もう気付いている。

(「成る程。黒い霧はパンデムミストの魔力を多分に含んでいます。私が破魔の力を込めたことで、その魔力が相殺されたということですね」)

 シンは此処まで既に何体かのガイストクリーガーと交戦し、モノクル越しに敵と戦場を具に観察し続けてきた。
 射線を遮る黒霧の中、愛用する銃器で狙いを定めるシンの紅瞳は、破魔の力を込めた弾丸や光線射出後の視界がクリアなことに早い段階で気付くことが出来たのだ。

「撃てば撃つだけ、他の猟兵や領民の力になるということですね。……ならば少々、派手に行きましょうか」

 呟く声音こそ穏やかで落ち着いた大人のそれだが――パチン。顔の横でシンが軽やかに指を鳴らした瞬間、周囲空中に155もの強い魔力反応が現れた。
 それは、全てシンの生み出したもの。その全てに破魔の力を纏わせ、複製した無数の|真紅銃《スカーレット・ブラスター》――シンが個別に制御するそれは、ユーベルコード『|乱舞する弾丸の嵐《ハンドレット・ガンズ》』。

「ターゲット、マルチロック。……暗闇を一瞬で払う|奇術《イリュージョン》など如何ですか?』

 紅瞳が妖しく笑んだその瞬間、155の真紅銃から光線が全方位へと一斉に解き放たれた。
 光通さぬ筈のくらやみが、眩い光に包まれた。視界が拓け、射線上に居たガイストクリーガーは次々と撃ち抜かれていく。射線の外にいたガイストクリーガーとて、一度黒霧に潜むその姿が晒されたならシンの次なる|照準の先《ターゲット》。
 無論、シンに逃す気など毛頭無い。

「女性をもてなすこともまた、紳士の心得。どうぞ、存分にショウをお楽しみくださいね」

 黒霧が薄れていく視界の中、次々と倒れては消えていくガイストクリーガーを見送ってシンは上品に一礼する。
 やがて身を起こし穏やかな笑みを見せた男は、霧無き領域を広げるべく、くらやみへと身を翻した。

成功 🔵​🔵​🔴​

クロッツ・エルバート
風で吹き飛ぶ、ってモンでもねぇな
辺り一帯覆ってるようだし
日常にするりと入り込むってか
空気なんて、なきゃ生きらんねぇ最たるモンだってのに

魔影で見えない進路前方を探りながら進む
敵に触れたら『影追』
足でも掴んで的固定して、影突き刺すかハルバードで攻撃
見えない分聴力、嗅覚使って異変には即対応
向こうの攻撃は避けるか魔影やハルバードで防御
恐怖には打ち勝てるように、予め全身に破魔の力を纏っとく

出来るだけ接近戦だな
距離詰めたら逃さねぇ
射程攻撃する時には味方への被弾に注意

ここは暗くて、人の命が脆い世界だが、
必死に生にしがみついて、息潜めて生きてる奴らがごまんといるんだ
これ以上は奪わせねぇ
こんなんでも故郷なんでね



 全身に破魔の力を纏い、黒霧との接触回避に成功しているクロッツ・エルバート(憧憬の黒・f28930)は、進路前方に|Eintagsfliege《スプーキーシャドウ》を先行させ、視界不良の先を探る。

(「風で吹き飛ぶ、ってモンでもねぇな。辺り一帯覆ってるようだし」)

 濃く、仮に照らしても光を通さぬくらやみ。到着時は3メートル先までであった視界は、仲間の猟兵達の手によって、少しずつだが黒霧が薄まってきている様に感じられる。
 だが、霧の大本であるパンデムミストを倒さなければ根本的な解決にはならないこともクロッツは解っていた。薄まったとて霧が放出され続ける以上、対症療法でしかない。
 仮に風魔法で霧を吹き飛ばせたとしても、別の何処かで霧の濃度が上がってしまう。それは黒霧の危険性を知らず抗う力も持たない領民達が、日々の呼吸で取り込むことにしかならない。

「日常にするりと入り込むってか。……空気なんて、なきゃ生きらんねぇ最たるモンだってのに」

 吐き捨てる様に呟いた瞬間、クロッツは前方の魔影に何かが触れたのを察知した。
 瞬時、前方へ手をかざし、に全力の魔力を送り込む。がばりと地表から這い上がった己が魔影が、シュルシュルと伸びて何かをしかと捕えたのを感じた。

「――さァ楽しい楽しい食事の時間だ。一片たりとも逃がすなよ?」

 ユーベルコード『|影追《シャドウシャーク》』。対象を捕縛・拘束するクロッツの魔影は、捕えたガイストクリーガーの全身を包み込むと、逃さぬとばかりに締め上げる。その間に距離を詰め、手に馴染んだ|Sternennacht《ハルバード》を真横に振るえば、スパッと軽い手応えで影の塊が両断された。
 見えない場所を魔影で補い、敵を捕え次第的を固定し、ハルバードで切り伏せる。今自身に出来ることを淡々と着実にこなしていく今日のクロッツは、眼前で塵と消えたガイストクリーガーを見送りながら、胸中にただただこの世界に生きる人々を思っていた。

(「ここは暗くて、人の命が脆い世界だが。それでも必死に生にしがみついて、息潜めて生きてる奴らがごまんといる」)

 知らず知らず息絶えていった人々も、きっと必死に毎日を生きていた。クロッツは知っている。だから、そんな人々の日常へ静かに入り込み蝕んだ黒霧の毒を、クロッツは決して許さない。

「これ以上は奪わせねぇ。……こんなんでも故郷なんでね」

 例え今日、この刃がパンデムミストへは届かずとも。道を拓くが自身の役目と、クロッツは繰り返し、何度でも魔影を手繰る。
 暗い常夜の世界でも、明日を迎える眠りくらいは穏やかなものであるよう願いながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『パンデムミスト』

POW   :    血肉を啜る
【黒い霧】でダメージを与えた対象を【根】で捕縛し、レベル秒間、締め付けによる継続ダメージを与える。
SPD   :    魂を啜る
【黒い霧】に映し出された【失ってきたものの残影】を見た対象全てに【強烈な罪悪感と自己否定の感情】を与え、行動を阻害する。
WIZ   :    そして咲き誇る
自身が【赤く色づいて】いる間、レベルm半径内の対象全てに【黒い霧】によるダメージか【赤い花粉】による治癒を与え続ける。

イラスト:イツクシ

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠フィリオ・グラースラムです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●禍根を断つ
 目を覆われでもした様な視界不良。領主館の敷地内そこかしこでガイストクリーガーに対峙する猟兵達がいる中で、敢えて闘いを避け、戦場の隙間を擦り抜け、殺気の方向だけを頼りに進んだ幾人かの猟兵達は、やがて辿り着いた大きな扉の前で遂に駆ける足を止めた。
 殺気と闘気にヒリヒリとした此処までの道が領主館の中庭であったなら、この巨大で豪奢な扉は正に館内部への入り口だ。その扉の大きさからも、巨大な建物であるとは知れるが、全容は黒霧のせいで見えない。
 ただ確かなのは、この中に今日の惨事の諸悪の根源、オブリビオン・パンデムミストが居るということ。
 此処へ到達した猟兵達は、仲間の戦いの気配が色濃い中庭を、断腸の思いで戦わずに突破してきた者達だ。全ては、一刻も早くパンデムミストを倒すため。
 中庭に残る猟兵達も、それを理解して前哨戦を担ってくれている。彼らの分も背負っているのだ。
 猶予はない、一刻も早く領民の命を奪う黒い霧の根源を消し去らんと、決意のもと、猟兵達はぐっと重い扉を引いた。

 ――……ゴゴゴ、ゴォン………。

 鈍重な音を鳴らして、両開きの扉はゆっくりと開いた。
 先ずは数歩、中に踏み入ってみる。するとどうだろう、黒い霧の不明瞭な景色は変わらず、何なら吸気から感じたその濃度は更に高くも思えた中――足元は、ゴツゴツと何かの根に覆われていた。
 当然、これはパンデムミストの根であろう。絨毯やフローリングは在ったのだろうが、根と根の間に残骸となって顔を覗かせているようだ。
 巨大な領主館の中を、縦横無尽に根が這い回る程に大きく成長したということか――考察しながら気配を探れば、最中に辺りから響く、がさがさりと何かが蠢く音。
 見遣れば、根の太い部分が音を立てて何やらもぞもぞと揺れていた。と思えば直後、突如根の先が凄まじい勢いで地面から飛び出し、猟兵達へ襲いかかった。

「! 来たぞ、躱せ!」

 最大の警戒を敷いていた猟兵達は、難なくこれを回避しながら各々手慣れた武器を構えた。侵入者だと認識されたか――ならばここからはもう遠慮は不要。
 この根を裁ち切り、花があれば手折り、一片も残さず刈り尽くし、黒霧消えるまで戦うのみ。
 初撃こそ回避したが、根の動きはかなり柔軟だ。単純な殴打だけではない、一度捕縛されれば締め付けなどにも注意が必要だろう。
 黒い霧も、この濃度は無視出来ない。此処に到るまでも、こうしている間にも多少なり吸い込んでしまってはいる。今何か症状がある訳ではないが、吸った影響が今後何もないとも限らない。
 単純に体力的なダメージならば回復や、例えば幻覚などにも対策が必要かもしれない。いずれ、極力吸わないことが一番ではある。
 そもそも視界不良であるだけでも神経を磨り減らすことにはなろうが――此処を訪れた猟兵達は、それも覚悟の上のこと。

「……行こう!」

 死のくらやみを解き放つパンデムミストを討伐すべく。一人の猟兵の声を合図に、全容不明の広い広い領主館の中へと猟兵達は散開する。
ハル・エーヴィヒカイト(サポート)
▼心情
手の届く範囲であれば助けになろう
悪逆には刃を振り下ろそう

▼戦闘
殺界を起点とした[結界術]により戦場に自身の領域を作り出し
内包された無数の刀剣を[念動力]で操り[乱れ撃ち]斬り刻む戦闘スタイル
敵からの攻撃は[気配感知]と[心眼]により[見切り]
[霊的防護]を備えた刀剣で[受け流し]、[カウンター]を叩き込む



 随分と霧が濃い――その足下から縦横無尽に蠢く根を、黒霧ごと退魔の刃・祓魔刀"|黒陽《コクヨウ》"で斬り祓いながら奥へと進むハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣聖・f40781)は、今一度迫った根を跳躍で躱し叩き斬ると、とん、と間合いの外へ降りた。

「随分と勝手をしたな。悪逆は疾く斬り伏せよう」

 構えた刃先を軽く揺らせば、その周囲の黒霧が薄まるのが解る。恐らくはハルを汚染せんとパンデムミストも必死なのかもしれないが――幾つもある刀剣からこの場に最も相応しい|一振《黒陽》を選んだハルに、黒陽も応える様に振るうだけ周囲の黒霧を祓い、ハルを護ってくれていた。
 だが、そもそも敵に優位と知れた黒霧の中で戦い続ける必要もない。如何に不利な戦場も、技ひとつで覆す。それが猟兵の戦いだから。
 ハルが殺気を放てば、それを起点にぶわり、と結界が起動する。

「『我が眼前に集え世界。降りそそげ破邪の光塵、……|白蓮雪華《びゃくれんせっか》』」

 ハルを中心に、まるで黒霧やパンデムミストを根こそぎ祓うかの様に清浄な空気が拡がっていく。否、拡がった世界が内包する無数の剣が、或いは発生した幾億の微細な白刃が、領域の拡がりと共に黒霧も蔓延るパンデムミストも全て斬り刻んでいるのだ。
 ユーベルコード『|境界《きょうかい》・|白蓮雪華《びゃくれんせっか》』。この先領域が拡がる限り、ハルが操り続ける刀剣達によって領域内の猟兵には黒霧の害が及ぶことはない。

「塵も残さない。手の届く範囲であれば、助けになろう」

 空間もろとも、優位な場へ作り替えて。ハルは更に領界を拡げるべく、黒陽を手に前へと進む。

成功 🔵​🔵​🔴​

ミランダ・モニカ(サポート)
『アタシに任せな!』
『アンタの人生を面白おかしくしてやるよ!』
煙管(仕込み銃)のヤドリガミ
戦場傭兵×クレリック、71歳の女
口調は「アタシ、呼び捨て、だね、だよ、~かい?」

あらゆる世界に関わり人脈とコネを結ぶ事を目的に突撃猟兵してるよ
傭兵として闘い、シスターとして祈り、義賊としてお宝を奪う
一番大事なのは義理人情さ
何事もプライド持ってやるよ

戦闘は徒手空拳メイン
銃で補う
カードは不意打ち

UCは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動するよ
一般人にも他の猟兵にも迷惑をかける行為はしない
依頼成功のためでも公序良俗に反する行動はしない

後はお任せ
アレンジ連携歓迎
宜しく頼むよ



 視界を奪う黒霧の中の索敵も見事に、ミランダ・モニカ(マザーズロザリオ・f05823)は全方位から襲うパンデムミストの根に対し、手刀、蹴り、時には銃も駆使して大立ち回りを魅せていた。

「吸った人を蝕む霧、ねぇ……」

 戦場に生き、多くの出会いと人の情に触れて生きてきた|傭兵の女《モニカ》には、此度起きた悲劇は癇に障った。

「悲劇? ただの虐殺さね。……で? こうしてる間にも領民達やアタシの体も黒い霧が蝕んでるってことかい?」

 怒りを、隠そうともせず吐き捨てる。それは、植物にしては頭を使った生き延び方だったのかもしれないが。

「どうせならもう少し面白いことしたらどうだい!」

 声を張るモニカは、再び迫った一際大きな根の襲撃に、躱したその身を翻して廻し蹴りを見舞った。スパン! と小気味良い音がして根は両断されるけれど、瞬間ちり、と喉に微かな違和感を感じれば、黒い霧の効果と気付き、ち、と小さく舌打ちした。
 多少の怪我は厭わない|性質《タチ》だが――一度根の間合いの外へと退避し、準備するは琥珀色の香気が浮かぶユーベルコード『至高の一杯』。
 この香気に包まれると、一息の安らぎと共に24時間は自動回復し続ける。さらに苦痛や状態異常、呪詛への耐性が生まれるのだ。
 戦場はいつだって死と隣り合わせ。それでも、ほんの一時の休息があるかないかで戦況が覆ることもある。

「アタシに任せな! 必ず全部、綺麗さっぱり片付けてやるよ!」

 |強化《バフ》を纏い、再びモニカはパンデムミストが根を張る領主館を奥へと進む。
 傭兵として闘い、シスターとして祈り、義賊としてお宝を奪う。何事もプライドを持ってやるモニカだからこそ。
 この黒い霧が晴れるまで――殴り、千切り、蹴り、撃つ。パンデムミストを追い詰めるまで、モニカの前進は止まらない。

成功 🔵​🔵​🔴​

シェーラ・ミレディ(サポート)
※OK:シリアス
※NG:エロ、ネタ、コメディ、心情系
※傭兵的なスポット参戦

称号通り、僕の身体を維持するための金儲けと、弱者をいたぶる醜い行いが許せぬ義侠心が行動指針だ。
美しいものは愛でるべきだが、恋愛には結びつかないなぁ。
性格ブスは醜い。見るに堪えん。

複数の精霊銃をジャグリングのように駆使する、彩色銃技という技(UC)を使って、敵を攻撃しようか。
敵からの攻撃は基本的に回避する。が、護衛対象がいるならかばうのも検討しよう。
……嗚呼、僕を傷付けたなら、代償は高くつくぞ!



「花だというなら、美しく咲く様にと力尽くせば良かったものを」

 造作も美しいミレナリィドールが、淡々とこう呟いた。鈴なる声のシェーラ・ミレディ(金と正義と・f00296)――美しいものや上質なものをよく知るこの美しい男は、足下の視認がやっとの黒霧の世界に、す、と紫晶石の様な瞳を細める。
 唯一見える足下ですら、整然とはほど遠く、敷き詰めたような無数の根が床を乱してひしめくばかり。パンデムミストのこのたくましい生命力が、もしもただ美しく咲くことへのみ注がれていたのなら、常夜で野に咲く花すら珍しいこの世界では大きな癒しとなっただろうに。
 だが即座、その思考は破棄される。無数の民の命を奪った末に得た生命力では、いかに見目取り繕ったとて、醜いものにしかなり得まい。

「――おいで。僕に手を貸してくれ」

 真に美しいものを招かんと、シェーラはしなやかな指を眼前へ差し出した。
 ひとつ。またひとつ。醜く床を埋め尽くす根の隙間から、ふわりと無数の柔らかな光が浮かび上がった。それらは視界覆う黒霧の中に一度隠れてしまうけれど、シェーラが指をくいと引けば、直後、|術者《シェーラ》を囲うように集結し、ふわふわと浮遊し布陣する。
 ユーベルコード『|彩色銃技・口寄せ・艶言浮詞《アトラクティブガンアーツ・フラート》』――周辺に存在する無機物が、様々な属性の精霊へと変換されてこれよりシェーラの指示に従う。場の力の動きに漸く気付いたか、床面に蠢くばかりであったパンデムミストの根が、浮かんだ光を追うように突如シェーラ目掛けて迫るけれど。

「……醜いな。見るに堪えん」

 即座、シェーラが右手に握る精霊銃から放たれたのは激しき風の弾丸だ。
 竜巻の様な風が直撃した根が、弾痕から弾け飛ぶ様に霧散した。すると、精霊銃には新たな光が踊る様に近寄り、水染むようにほわりと宿った。
 まるで精霊は遊び、戯れるかの様だ。代わる代わる、精霊達はシェーラの銃――気付けば両の手、更に中空にも無数展開されたそのひとつひとつへと宿り、離れてはまた宿り、シェーラに解き放たれるのを待つ。
 幾度根が迫ろうとも、軽やかに躱しながらジャグリングのように銃を掴み、弾尽きず撃ち続ける圧倒的銃術――自らの義侠心に従うシェーラは、多少黒霧の毒に侵されても、それを上回る速度で精霊達と共に進軍する。

成功 🔵​🔵​🔴​

シン・クレスケンス(サポート)
◆人物像
落ち着いた雰囲気を持つ穏やかな青年。
窮地でも動じず冷静な状況判断で切り抜ける。

◆戦闘
射撃(愛用は詠唱銃だが、様々な銃器を使い分けている)と魔術による広範囲攻撃が主。
魔力の操作に長け、射撃の腕も確か。
作戦次第では、闇色の武器を召喚(UC【異界の剣の召喚】)して前衛を務めることもある。

◆特技
・情報収集
・機械の扱いにも魔術知識にも精通している

◆UDC『ツキ』
闇色の狼の姿をしており、魂や魔力の匂いを嗅ぎ分けての追跡や索敵が得意。
戦闘は鋭い牙や爪で敵を引き裂き、喰らう。

◆口調
・シン→ステータス参照
(※使役は呼び捨て)
・ツキ→俺/お前、呼び捨て
だぜ、だろ、じゃないか?等男性的な話し方



「見つけましたか、ツキ。お手柄です」

 従えし|闇色の狼《UDC》・ツキへと笑んで、顔を上げたシン・クレスケンス(真理を探求する眼・f09866)が見据えるはパンデムミスト、その開花した花だ。
 数多の根を掻い潜り、或いは撃ち倒して進んできたシンは、今、パンデムミストの本体たる花へと対峙していた。ツキが得意とする魂や魔力の匂いの嗅ぎ分けは、いかに魔力の濃い黒霧撒かれた世界の中であろうとも、的確に本体位置を追跡出来たようだ。

「『解りやすく随分と蓄えてやがる。喰い出があるのはいいが、あの花、此処で全部じゃねぇぞ』」
「そうですか。では早めに次へ進むとしましょう」

 ツキの助言に早々の移動を決めたシンは、その肩の高さまで掲げた左手に【名も無き古書】を顕現させた。
 シンの魔力の揺らぎに敵性を感知してか、地表から次々と巨大な根が高く伸びる。シンを捕えようとして――一斉に動き出したそれらを前へ飛び出したツキが爪や牙でいなす間に、光を灯してパラパラと勝手に捲られていく【名も無き古書】は、やがてある頁で止まった。
 一面が、黒ずんだ赤。乾いた血で塗り潰されたその頁が見開かれた瞬間、古書、いやシンを中心に強い魔力の波が立った。波が過ぎ去った後には次々、ぱた、ぱたりとパンデムミストの根が倒れて力無く地表に項垂れる。
 ユーベルコード『|大食らいな頁《グラトニー・コーデックス》』。襲い来る無数の根から魔力を奪い捕食した血塗られた頁はしかし、ただ奪うには留まらない。

「残念ながら目的の術では無いようですので、お返しします」

 穏やかな声音でシンが告げると、仄かに光を帯びた足元から闇色の蔦のようなものがパンデムミストへ襲い掛かった。
 これは、捕らえたものの血肉を啜るパンデムミストの根、その力のコピーだ。捕食した対象を能力ごと吸収し、模倣するまでがユーベルコード。シン自身に根は当然無いため、蔦は魔力で練ったものだ。
 魔力操作や知識に精通しているシンには、容易いことであっただろう――ミシミシと締め付ける闇色の蔦の責めに、パンデムミストはその茎を折り、花弁と溜め込んだ魔力を散らして萎れていく。同時にツキも残る根と漂う黒霧の魔力を喰らい、視界は次第に晴れていった。
 荒れ果てた部屋の全貌が全て見える様になった頃。パンデムミストの花や根は、まるで始めから存在しなかったかのように綺麗に消え去っていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

セリオス・アリス
【双星】アドリブ◎
ああ、やってやろうぜアレス
意気込むけど…俺に相当デバフの状況なのは変わらねぇんだよな
さて、どうすっか…
考えてたらアレスから優しい浄化のオーラをつけられた
息がしやすい
なら、この間にやってやる!
歌で身体強化して
アレスと共に風の属性を込めた『光閃』を放ちつつ
薄まったところを先に駆ける
その先に、霧の中に見えるのは
失った故郷の人たち
優しかった彼らが死体になる様を、何度繰り返し夢に見たか
あの時の…ずっと抱えてる罪悪感がブワッと一気に蓋を開ける
それでも…
ずっとそれに浸って、自分のせいだって言ってる時間は
もう、終わったんだ
指輪が光を放つ
【明星は夜を超えて】
——そうだ、俺には|俺の導きの星《アレス》がいる
もう、迷わないって決めたから
まっすぐ、ありったけの魔力を込めて
花を、ぶった斬る…!


アレクシス・ミラ
【双星】アドリブ◎

一刻も早くこの霧と…悲劇の運命を終わらせよう
魔力の霧なら…
破魔と浄化を込めた光のオーラでセリオスを包もう
我が星に加護を。少しでも君が歌えるように、ね
僕も鎧に同じ光を充填
剣から放つ『光閃』で花を探りつつ
盾で庇うように援護を

…映し出される
失った故郷の人達
この手が届かなかった、零れ落ちてしまったもの達
亡骸を、残骸を、絶望を見てきた
何度嘆き悔いただろう
痛みはきっと消える事はない
…だけど
忘れようとも、なかった事にしようとも思わない
【例え夜が明けずとも】
迷わず、歩いていく
護りたい光を、重ねた手を
もう二度と失わないと誓ったんだ!
ひとりではない、とセリオスや味方に癒しを
残影には見送るように光で晴らそう
彼の傍で共に駆け
剣と盾と光を以って…花へと導こう
まっすぐ飛んでくれ、|僕の導きの星《セリオス》



 迫り来る無数の根をただの一閃で全て切り伏せ、一つ息を落としたアレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)は、セリオス・アリス(青宵の剣・f09573)へと振り向いた。

「一刻も早くこの霧と……悲劇の運命を終わらせよう」

 自身を映したアレクシスの蒼穹の瞳は、黒霧の視界にあっても決意の輝きを帯びている。その今日の強いまなざしが、生来彼が持つ優しさや強い正義感に由来するだけのものではないことを、セリオスは知っていた。

「ああ、やってやろうぜアレス」

 ――|この世界《ダークセイヴァー》が、特別だから。その想いは自分も同じと力強く答えたセリオスの夜空を閉じ込めた様な瞳もまた、アレクシス同様に強い意気込みを覗かせた。
 しかし、直ぐに思索に視線が逸れれば、アレクシスは一度構えた剣を下ろしてセリオスへと歩み寄る。

(「……俺に相当デバフの状況なのは変わらねぇんだよな……さて、どうすっか……」)

 セリオスの脳内を巡るは、この先の戦い方について。セリオスが最も得意とするのは歌だった。攻撃、強化、支援、回復、多彩な歌を使い分けて戦うセリオスにとって、パンデムミストの黒霧は非常に相性が悪いと言わざるを得ない。
 歌の力を最大限発揮するには、肺充たす十分な吸気が必要不可欠であるからだ。此処までどの程度防げているかは解らないが、微量であっても吸い続けた場合の危険性は予知やグリモア猟兵の説明からも十分に理解している。
 もっとも、構わず歌ったところで、猟兵である自分ならしばらくは耐えるだろう。しかし、結果途中で倒れる様なことがあれば、同行するアレクシスにまで危険が及ぶのは想像に難くない――。

 ――ポン。

 不意に頭の上に降りた大きくも仄かな温もりに、セリオスの意識は思索から現実へと引き戻された。
 目を丸くして見上げれば、そこには少し困った様に微笑んでいるアレクシス。

「………アレス?」
「また君は。一人で抱え込み過ぎだ、セリオス。霧のことだろう? 魔力の霧なら……」

 苦笑しながら言ったアレクシスの全身から、仄かな白い光が溢れた。
 光は頭上に触れる手からじわり、優しくセリオスの全身へと伝わり、体へ馴染んで消えていく。そのさまを不思議そうに眺めていたセリオスは――直ぐに気付いた。
 息がしやすい。これは、破魔、或いは浄化のオーラ?

「我が星に加護を。少しでも君が歌えるように、ね」

 セリオスへ、そして同時に自身の白銀の鎧へも付与を施したアレクシスは、手を戻しながら柔く笑む。その微笑みを見たセリオスは、離れ行く手の温もりを少し惜しく思いながらも破顔した。
 何も言わなかったのに、見透かされた。勝てないなと思えば悔しくも、解ってくれたことは嬉しくて。

「さんきゅ、アレス! ……息がしやすいこの間にやってやる!」
「ああ、行こう!」

 再び駆け出した二人の手。握る|揃いの剣《赤星と青星》が剣身に淡い光を纏った。
 アレクシスが付与した破魔のオーラ。纏わせた剣身が、空間を割くように振るわれていく。光閃がくらやみを貫く。すると次第に黒霧が祓われ、領主館内の景色が露わとなった。
 黒霧が破魔の力によって薄まることで、部分的に視界が晴れているのだ。この状態で迫り来る根の動きを捉えることなど二人には造作もなかった。根は斬り落とし、黒霧は切り拓いて。極力黒霧の薄まった場所を選びながら、二人は館の奥へと進んでいく。
 薄めたところで絶対にこの黒霧は無くならない。消し去る手段はたった一つ。パンデムミストを討ち倒すことだけ――。

「……なあ、アレス。あれって……」

 気付いたのは、セリオスだった。
 有事に盾となるべく、やや先行するアレクシスが光閃で霧を祓った視界の先。長い廊下の突き当たりに、一つ大きな扉が見えた。
 金属で補強された木製の扉だが、木材部分は腐食して、虫喰いと例えるにはあまりに大きな穴が幾つも空いている。しかし、穴の向こうの視界は黒一色。幾分距離があるとはいえ、中の様子は全く見えない。
 そして見えていた筈の扉も直ぐに、漂う黒霧に覆われて見えなくなった。これは此処までの道中には無かったことだ。
 つまり、あの部屋付近は恐らく黒霧の濃度が高く――霧の発生源であるパンデムミストが居る可能性が高い。

「……セリオス、少し下がって」

 構造的にもあの部屋はこの館の最奥に当たる。ならばと推測ではなく確信して、アレクシスはセリオスを背に庇うように前へ立った。
 一際強い破魔のオーラを纏わせた|愛剣《赤星》を、上段から力強く振り下ろす。長い廊下を二度目の光の刃が奔ると、今度は拓けた視界の向こう、扉がガシャン! と激しい音を立てて砕け散った。
 その向こう、扉の奥の景色も垣間見えた。直ぐに黒霧に覆われこそしたが、あれはパンデムミストの開花した花。とはいえ、此処まで各所で見てきた小さな花ではなく――明らかに中枢、いわば心臓部といえる巨大花だ。

「――見えた! 行くぜアレス!!」
「ああ! これまで通り、視界を確保しながら……っ!?」
「うわっ!!?」

 意気込んで駆け、扉を失った部屋へと突入する瞬間、光閃を放つよりも速く突如部屋の中からぶわりと眼前に溢れた黒霧に包まれたアレクシスとセリオスは、くらやみに覆われて――。

「……、………?」

 アレクシスは、不思議な感覚を覚えた。立っているのに、戦っていた筈なのに、一瞬意識が途切れていた様な、まるで夢の中の様な。一面くらやみしかない世界に独り佇むアレクシスは、背に庇っていた筈のセリオスの無事を確かめようと、振り向いて。
 瞬間、言葉を失った。

「……どうして………」

 そこに居たのは、セリオスではなかった。代わりに居たのは、今は亡き故郷の人たち。
 今正に立つ、この世界。花すら簡単には咲かない、暗くて、灯火にしか照らされることを知らないダークセイヴァー。それでも、その暗がりの中で懸命に生きていた、優しかった故郷の人たち。
 幼い自分を確かな愛情で育んでくれた彼らの亡骸を、残骸を、絶望を見て何度嘆き悔いただろう。この手が届かず、零れ落ちてしまった大切な人たちが、今、手の届きそうな場所に居る。
 意図せず前へと伸びた、籠手に包まれた大きな手。自分の手であるのに強烈な違和感を憶えた。だって今笑いかける彼らの姿は、時が止まった様に変わっていない。
 自分はこんなに大きくなったのに、彼らは成長も老いもせず、あの頃のまま。
 遠くから聞こえてくるのは、今は失われてしまった故郷の歌。彼らが、歌っている――。

「……違う」

 アレクシスは、目の前の光景を否定した。今、あの歌を歌えるのは自分以外には一人だけだ。目の前の大切な人たちは、確かにあの頃あの歌を口ずさんでいたけれどもういない。失った現実が覆ることはないのだ。
 そして今、こんなにも胸に響く、胸を打つこの歌を紡げるのはたった一人。あの惨劇の絶望の中、ただ一人生きていた。生きていてくれた、たった一人の|大切な幼馴染み《セリオス》――。

「この痛みはきっと、生涯消えることはない……だけど。忘れようとも、なかった事にしようとも思わない!!」

 いつしか頬を滑っていた一筋の涙をそのままに、アレクシスは|愛剣《赤星》に破魔の力を込めて振るった。目の前の彼らは消えない。だが、自分の周囲だけくらやみが晴れる。
 すると、遠かった歌声が傍らからはっきりと聞こえた。

「――セリオス!」

 膝を折り、地に両手と長く艶めく黒髪を落としたセリオスが、自分の直ぐ傍らで一人高らかに歌っていた。顔色は蒼白で、頬を涙に濡らしていても、そのよく通る歌声と夜空を内包する瞳の強い輝きはさらに強く、くらやみの向こう、パンデムミストの花の方向を真っ直ぐに見つめている。

「セリオス……!」
「――大丈夫。大丈夫だ、アレス」

 差し出されたアレクシスの手を取り、歌い上げたセリオスはゆっくりと立ち上がる。
 今アレクシスが見る故郷の人々の姿を、セリオスも今くらやみの中に見ていた。だが、セリオスが見ているのはより凄惨な光景だ。嘗ての現実がそのままに。悪夢の全てがそのままに。
 目の前で人々が蹂躙され次々に息絶えていく様を、何度夢に見たか知れない。あの頃の……あの時からずっとずっと抱え続けてきた罪悪感が、くらやみに覆われた一瞬で、一気に蓋をこじ開けて溢れ今もセリオスを責め立てていた。吐きそうだった。叫びそうだった。
 でも、解っていた。目の前の光景は、黒霧が内包する魔力が見せた失ってきたものの残影だと。

「――ずっと罪悪感に浸って、自分のせいだって言ってる時間は、もう、終わったんだ!!」

 目の前の残影をセリオスが否定した瞬間、セリオスの指を小さく彩る|一等星と翼を宿す指輪《聖翼の指輪》が力強く明滅した。
 ユーベルコード『|明星は夜を超えて《デイブレイク・アンティフォナ》』。指輪から溢れだした金にも輝く眩い光は聖なる守護光だ。
 主たるセリオスを守る様に包み込むと、アレクシスには見えないセリオスの過去の凄惨な残影は一瞬にして視界から消える。
 同時に、くらやみの向こうで強い魔力の乱れを感知した。守護光が持つ対異常・行動制限効果反射能力により、恐らくはパンデムミストに同等の苦痛が生じたのだろう。
 この機を逃さず即座に動いたのはアレクシスだ。

「セリオス、ひとりではないよ。君も、……それから僕も」

 セリオスの隣に並び立ち、アレクシスは騎士の誓いを掛ける様に右手の|愛剣《赤星》を眼前に掲げ、瞳を閉じた。すると剣身が金の光を帯び、アレクシスの真横、同じ高さの中空にも、同様の金の光が集束し始める。
 現れたのは、これも|愛剣《赤星》。ゆっくりと蒼穹の瞳を開いて、次に告げた言葉こそは、今日の決意であると同時に、|解放する力《ユーベルコード》の名であった。

「『|例え夜が明けずとも《アストロフェンギア》』。僕は、……僕たちは迷わず、歩いていく」

 言葉に応じて、中空に浮くもうひとつの赤星が眩い聖なる光を放った。光遮断する黒霧も、領主館の壁も屋根も何もかもを貫通し、戦場と呼べる全ての地を照らしたそれは、敵には痛みを齎す光の矢となり、味方には柔らかな星明かりの癒やしと、誰もが心に抱くほんの僅かな勇気と覚悟を後押しする温みの輝き。
 アレクシスの眼前から、くらやみに浮かんでいた優しい笑顔が消えていく。祝福の光に包まれる様に。幸せな旅路へと導かれるかの様に。また浮かんだ涙の膜に景色が揺らぐのを感じたけれど、アレクシスは構わなかった。

「……護りたい光を、重ねた手を! もう二度と失わないと誓ったんだ!!」

 駆け出すアレクシスと、セリオスの足音が重なった。
 視界は、既に黒霧が消え去り鮮明。この世界には明るすぎる程だ。まるで恒星にでも照らされているみたいだ、とセリオスはふと思った。
 そして光の下、目指す先には不似合いな容姿醜悪な巨大花がある。苦しそうにぐねぐねと体を揺らすそこを、真っ直ぐ見つめて駆けるアレクシスの瞳――そこにいつもと異なる温みの光が揺れるのを見て、セリオスの瞳にも再び涙の膜が浮かんだ。

(「——そうだ、俺にはアレスがいる」)

 辛く、苦しかったのはアレクシスも同じと知っている。道行きが再び重なった日から、この痛みは自分ひとりのものではなくなったのだ。
 折れそうな時は、彼が導いてくれる。だから、もう迷わない。

「ありったけの魔力でぶった斬る……! 行くぜ|俺の導きの星《アレス》!!」
「まっすぐ飛んでくれ、|僕の導きの星《セリオス》!」

 辛い過去は全て背負い、未来切り拓く二人の|揃いの剣《赤星と青星》は巨大花へ振り下ろされた――……。


  ***


 充満し視界を完全に覆いつつある黒霧。その正体がわからぬまま、領民達はまた新たな夜を迎えていた。
 何が起こっているのかわからず、どうして良いかもわからぬくらやみ。自分はいつ呑まれるものかと不安を抱く人々に、しかしもう弔いの朝は訪れなかった。

 その夜、黒霧が突然晴れたのだ。

 死を恐れながら眠った者は、その寝息が次第に穏やかなものへと代わり。
 眠りの先の死を恐れた者は、酷い睡魔と戦いながら空を見上げ、その変化を目の当たりにした。
 広がるのは結局厚い雲に覆われた暗い空。だが、当たり前の風景を、当たり前の空を取り戻したことに、翌朝の領民達は歓喜し、等しくこう声を上げたという。

 ――ああ、遂に。|恐ろしい霧は晴れたのだ《The fog is silence is over.》。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2025年02月13日


挿絵イラスト