ルシェラ・マーレボルジェ
こンばんは!ルシぇラだヨ!コんば゛んハ!
あタらしいおトうさんをみツけたおはなしヲおねがいしマす!
もウいなクなっちゃッタんだけド……。
だーくセいヴぁーで、ヤさしいやさシイおとうサんをみつけタんだよー。
すゴくすごーくやさしクてかわイがってくレるんだよ。
でモ、おとウさんはおブりびおんナんだって!
ダから、ぼくトはずッとはいっしョにいらレないんだってー……。
ソれはどうデもいイんだけど、
オとウさんはぼクをおいテていなくなろウとしたんだよ……さびシいよ……。
だかラね、いただキますヲしタんだよ。
ゴちそうさマでした!
アたらしイお父さンをさがサないといケないねー。
あトはおまかセ。
よロしくおねガいいタシます!
捻子り斬られる寸前で止められた、留められた嚢の底、足のつかない状態は維持出来ないものだ。宙ぶらりんに溶けだした体温などとっくの昔に、過去に、失くして終ったと謂うのに。何故に私は涙を流しているのか。これが滂沱の地獄なのだと、情念に引き摺られた化け物の末路なのだと嗤うならば、嗚呼、勝手に嗤ってくれないか。ひどい紅の色に染められて、染めさせて、私は如何して私なのかと久方振りに後悔する。悉くは自業自得だ。因果の波に攫われて、応報の焔に舐られて、あらゆる動物の、牛どもの体内を巡っていく。世界を滅ぼす愛こそが真実なのだとしたら、愛こそが、愛でる事こそが、オブリビオンたる私の『役目』なのかもしれない。私の心臓と呼ばれるものは、既に、掲げられている。
最初は――絆される前の私は――狂える神よりも、欠落した『闇』よりも、おぞましいほどに人間を支配していた。いや、今思えば私など中途半端な、落ちぶれた吸血鬼のような名状する事すらも出来ない『なにか』ではあったか。兎も角、今日も今日とて私は串刺しの真似事をしていたのだろう。血を浴び、肉を喰い、魂を啜る、極めて超自然的な行為をしていた。そんな冒涜の最中、私は、そう、あの生き物を発見したのだ。印象的な、毛玉のような下半身は置いておいて問題なのは『生き物』の上半身である。嗚呼、まるで、人間ではないか。国を傾けたかのような、人を脅かすかのような、凄まじいほどの可愛らしさ。そうとも、私はこの瞬間から『私』を殺されたのだ。私は直感した。目と鼻の先で蠢動をしている、蠕動をしている、天使を彷彿とさせる生き物……違う。生き物らしき『なにか』は自分の居場所を探しているのだと。君は、私のような化け物を見ても怖がったりしないのかい……? 野獣と野獣の組み合わせとは中々に、傷の舐め合いとやらがお上手そうだが、返答は如何に。ウん、ぼくハおとうサんをさがシてルんだ。ねエ、おとうサんをシってル? 怖がってなどいない、恐れる筈もない。この生き物は、そう、寂しがっているのだ。死んでも尚、生きているのであれば、嗚呼、こんな私よりも『凄惨な』思いを抱えているのであろう。そうか、君が大丈夫ならば、私が君の『お父さん』になっても構わないが……。私こそが愚か者だ。私こそが寂しがり屋だ。先程までの筆舌に尽くし難い行為も忘れて『愛らしい』に手を伸ばすなど莫迦げていた……! おとうサん? おとうサん! 生き物はコロコロと転がった。コロコロと転がって、コロコロと笑った。私は父親でも、優しい飼い主でもないと謂うのに、心の底から自らを袋詰めにしてやりたいと思った。
生き物は様々な事柄を吸収していった。私の日課である串に刺す行為など、嗚呼、最初から知っていたかのように、お上手に手伝ってくれている。おにんギョう! おにンぎょウ! 私の想像だがおそらく『探している父親』とやらも私と似たような沙汰をしていたに違いない。ならば、嗚呼、一言忠告してやるべきだ。自身の眷属を、自身の子供を、蔑ろにするなど度し難い奴だと! 度し難いのは私も同じなのだろうが、だからと謂って、この放置は狂気の沙汰すらも逸脱していると――キョウのごハんだネ! 鮮度良好なご飯だ。食事にはしっかりと感謝を伝えなければならない。たとえ食事を痛めつけていたとしても、それが、美味の為なのであれば彼等彼女等も赦してくれる筈なのだ。いタだきマす! いただきます。それと、ルシェラに伝えなくてはならない事が……。
おとウさんはおブりびおんで、ずっトいっしョにいらレない……? 本当に賢い子だ。賢くて賢くて、私には勿体ないほどの『仔』だ。そう、口にしたら私の事を口にしてくれたと、その程度の地獄の話だ。ソれはどうデもいイんだけど、ぼクをおいテいなくなろウとするなんて……さびシいよ……。嗚呼、寂しいだろう。寂しいだろうとも。だから、君は私の事をちゃんと口にしようとして挨拶を返したんだ。いただキます! 私こそが魔術師だ。魔術師なのだから、この最期こそが、滂沱の列に並ぶ事こそが、子供の血肉になる事こそが至上の歓喜に違いない! ルシェラ……そうだ、君がそれを望んでいるのなら、賢い選択だと私は思って逝けるよ。捻子り斬られる寸前で止められる事など、留まる事など、最早ない。牛の体内を巡るのではなく子供の胃袋の中で回転するのだ。これは骸の海よりもあたたかい、素敵な素敵なものだ。私はようやく、私が欲していた体温の交換に出逢っただけの事である。背中を濡らした臓腑の行方、大粒の蜜までも君のものだ……。
ゴちそうさマでした!
髪の毛ひとつと残っていない。お城から這い出た生き物は――天使のなり損ないは――膨れた腹を愛でるかのように擦った。お父さんはお腹の中だ。優しいお父さんを消化している最中だ。……アたらしイお父さンをさがサないといケないねー。
成功
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