O'zapft is!
ヴィヴ・クロックロック
【コンセプト・大まかな流れ】
参加者に準ずる。あゝ祭りかな。
【個人分記載】
【出演者】として参加
何やら秋祭りをすると言うのでふらふらとついてくればそこにあるのはお立ち台、これはなにやら一曲やらねば無作法というもの…
しかし一人で引き語りというのも…ふむ。せめてボーカルをほかに募るか…?ゾンビバンド…はまだハロウィンにゃまだまだ早い。
とりあえず舞台があいてれば乱入してギターをかき鳴らしてから考えるとしよう。
そして舞台が終われば補給の時間だ!これだけの食事をスルーするのはそれこそ無礼千万だからな!
暁・アカネ
ノベルリクエスト致します
【大まかな流れ】
全体は庚さん(f30104)の物に準じます
【個人分記載】
・個性
元気いっぱいな感じです。知識はあるもののちょっと間違って覚えていたり言い間違い等の細かいポンコツを発揮するタイプのアホの子です
カタカナは平仮名で喋ります
・行動
参加者
初めての祭りに興味津々と言った状態で何でも食べてみようと手を伸ばします。食べ方自体はがっつかず上品です。
英語等は全然読めませんが直感で注文をし、頼んだものでテーブルを埋め尽くすタイプです。
今回始めてお酒を飲みますが酒への耐性がなく、ちょっと飲むとすぐふにゃふにゃになります。妖狐っぽさ色っぽさが増して距離感がかなり近くなります。
・台詞例
|奥《おく》と|馬圧《ばへ》す?とは何かしら…?馬追のような催しなのかしら?違う?
洋の国のお肉の詰め合わせとお酒のお祭り!これがおくとぉばぁへす!面白そうでいいわね!なんて書いてあるかよくわからない…まあいいか!どんどん頼んじゃいましょ!
これはそうせいじ?と言うのかしら?豚のお肉の腸詰なんだ!美味い!赤いのとか白いのとか色々あるのね!
これがお酒かぁ…ちょっと苦かったけどさっぱりしててお肉と合ってる?ような…こゃぁ…
なんだかポカポカして来たわね…ふぅ…うふふっ
みんな可愛いわねぇ…
フォー・トラン
【コンセプト】
お月見オクトーバーフェスト!
【大まかな流れ】
庚さん(f30104)と同じです!
【個人分記載】
■やりたいこと
【運営者】の立場で臼と杵を使って餅をつきます。
使用する餅米は今年の秋にとれたばかりの新米です。
月見団子は餅粉、つまり乾燥させた餅米の粉末で作るものです。
では月のウサギはなぜ餅をついているのでしょう。
いくらウサギがせっかちだからって秋につくのは正月用の餅じゃありませんよね。
せいぜいハロウィン用の餅のはず、あたしはそう思うんです。
実際のところ、彼らは何のために、何を考えて餅をついているのか。
ウサギの思い、それを知りたくてあたしは彼らと同じ行動を取ることにしたんです。
杵を振り下ろすタイミングは【出演者】の皆さんの中に音楽系の出し物をする方がいればそのリズムに合わせます。
ノッて来ました!
このグルーヴ感!
これがオクトーバーフェスト、これが月見なんですね!?
食事は折を見て頂きます。
美味いのう、姉さん! ワハハ!
■服装
服装はいつも通りですが、長い袖が調理の邪魔にならないように上着を脱ぎ、髪は三角巾で包んでいます。
■性格と口調
ふざけています。
もしかしたら登場時点で既にビールを浴びるように飲んで出来上がっているのかもしれません。
口調は口語っぽい感じであれば何でも大丈夫です。プレイングでもよくブレます。
それではよろしくお願い致します。
●10月祭in
秋と言えば。
そう問われればなんと応えただろうか。
三十六世界を知る猟兵たちであるのならば、様々な答えが返ってくるだろう。
夜の月を眺め一句詠む。
色気より食い気であるというものもいる。
もしくは季節限定メニューに、これでもかと半熟卵が使われる季節であると応えるものだっているだろう。
いずれかにしても、知らぬ者からすれば極端であるような催しに思えたかもしれない。
オクトーバーフェストもまたその一つだ。
UDCアースにおいてはドイツ地方の祭であり、世界最大規模のものであるということは知られるところであるだろう。
開催期間は16日間。
ただ、祝日が曜日と重なるときだけは、最長で18日も続けて行われる祭である。
世界最大規模というのは開催期間だけを差すものではない。
巨大なテント、移動式遊園地、そうしたものが設置され観覧車や遊園地アトラクション、お化け屋敷や食べもの屋台が出揃うことから見ても、世界最大規模の祭という触れ込みに一つ足りとて大げさな虚飾はないことを示すものであるだろう。
そんな祭を知る猟兵の誰かが宇宙船・イモータル級二号艦艇――通称『芋煮艇』にて呟いたのだ。
『お月見がしたい』と。
そして、また誰かが呟く。
『秋祭りやりたい』と。
となれば、イベント大好き芋煮挺のクルーたちの答えはいつだって一つだ。
『じゃあやるか!』
あまりにも話しが早い。
意気投合というレベルでは片付けられないほどの速度で芋煮挺のクルーたちは、せっせとUDCアースにて自分たちのオクトーバーフェストを開催しようではないかといつも以上の行動力で持って動き出す。
「ふむ……」
試作機・庚(盾いらず・f30104)は秋祭り開催のお知らせを見て首を捻っていた。
それはUDCアースの都心部にて開催される催しのお知らせであった。
広大な敷地が都心にあるのかと問われたら、イベント広場などを想像する。
だが、それは人の流れを意識したものであるからだ。
何せ催しをしたとして、人の流れが遮断されていては意味がない。
交通機関各所との連携は必須であるし、アクセスしやすくなければ、人は行ってみようかという重い腰を上げるために必要な感情に栓をされているようなものであるからだ。
だからこそ、庚は考えた。
確かに芋煮挺のクルーたちであれば会場を抑えることは容易いだろう。
開催すること事態も簡単なはずだ。
けれど、折角祭を自主的に開催しようというのならば、やはり現地の人々……この場合はUDCアースの一般人たちも開催する祭にやってきて欲しいと思うのが人情であった。
「会場は……この時期ですと何処も抑えられているデスね……ですが」
庚には宛があったのだ。
そう、確かにこの時期はイベント目白押しである。
けれど、庚は都心部より離れた郊外の駐車場に目をつける。
郊外とは言え、空港がほど近い。
そして、イベントが盛りだくさんの季節であれば、郊外よりも都心のイベントに足を運ぶのが人の常である。
であるのならば。
「郊外の広い駐車場はもぬけの殻、デスよね?」
なら、そこを借りれば良い。
目算通りであるのならば、そこそこ広い駐車場が候補煮上がってくるだろう。だが、もう一つ考えなければならないことがある。
そう、アクセスの方法である。
だが、そこも問題ない。
都心部の郊外ということは、つまり交通機関が発展しているということ。
であるのならば、アクセスは公共の交通機関……例えば電車であるとか、シャトルバスなんかも運行できるはずだ。
そうした概算を庚は即座に打ち立て、計画を立てていく。
今回庚は運営として携わるつもりだった。
無論、コンセプトは秋祭りであるが、お月見しながらオクトーバーフェストもどきを開催し、みんなで大騒ぎしようというもの。
やらねばならないことは多い。
手伝ってくれる芋煮挺のクルーたちは多いだろうが、それでも人的資源は圧迫されている。
「ですが、大体のことは技能インストールすれば問題ないデスね」
庚らしい思考の仕方であるとも言える。
だが、やっぱり問題はあるのだ。
それも割りと致命的な。
「問題は……体力持つデスかね……?」
不安要素が思わず声にでてしまっていた。
そこにキリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)がやってくる。
「何、案ずることはないよ。私も運営側のクルーとして参加させてもらおう」
「いいのデスか?」
「食べ物関連であれば、任せて欲しい。料理技能には自身があってね。加えてユーベルコードもある。オクトーバーフェスト、となれば相応しい料理のレシピはいくつか此処にあるのでね」
コンコン、とキリカは己の頭を指先で軽く叩く。
それは頼もしいことである。
彼女の技能とユーベルコードがあれば、お祭りの食糧事情は一気に解決すると言えた。
「だが、食べ物だけではないだろう?」
「そうなんデスよね。お祭り、というからには、イベントも欲しいところです。会場は抑えられましたし、ステージを組むのも」
「じゃあさ、折角のお月見なんだし、会場で餅つきしたいな!」
そう言って二人の間に顔を突っ込んできたのは、フォー・トラン(精霊術士・f12608)だった。
彼女は既に杵を肩に担いでいた。
やる気が満ち溢れている。
「餅つきデス?」
「そう! 折角秋だしね。それに秋と言えば収穫の季節。ならさ、とれたての新米で餅をつくってもんでしょう」
そういってフォーは笑っている。
けれど、月見団子、というのであれば、材料が違うのではないかとキリカと庚は思う。
その疑問を察したのか、フォーはうんうんと頷く。
「わかってますよ。月見団子は餅粉。つまり乾燥させた餅米の粉末で作るものだっていいたいんでしょ」
「ああ。団子というのならな」
「でも、月のウサギさんは何故餅を突いているのでしょう?」
「言われてみれば」
庚もキリカも頷く。
秋の夜長、その満月に浮かぶクレーターの影。
その模様が見せるのは、ウサギ。
よく見かけるのは、餅つきをするウサギたちの姿である。
「いくらウサギがせっかちだからって秋につくのは正月用の餅じゃありませんよね。精々ハロウィン用の餅のはず、あたしはそう思うんです」
フォーの語る言葉は、確かに、と二人を納得させるものであった。
月見団子って、杵臼で作るものではない。
イメージとして杵臼を挟むウサギはあるけれど、よく考えたら、とフォーの言葉に同意してしまうのだ。
でも、ハロウィン用の餅ってなんだ?
二人は、その疑問を挟むことはなかった。フォーの語る言葉にあまりにも説得力があったし、続く言説というものに興味があったのかもしれない。
「実際の所、彼等は何のために、何を考えて餅をついているのか」
「ふむ。確かに気になる」
「デスネ」
「それはあたしもわかりません」
わからんのかい。
いや、だからこそである。わからないから知ろうと思う。それは自然なことであった。
「ウサギの思い、それを知りたくてあたしは彼等と同じ行動を取ることにしたんです。ステージがあるのなら、きっと壇上に上がる出演者の皆さんは音楽だって奏でることでしょう。なら、あたしがリズムにのって、えっちらおっちらと餅つきをすれば?」
「盛り上がるかもしれん」
「オクトーバーフェスト、というのはちょっと違うかもデスが……」
「折角のお祭り、おふざけしないでどうします!」
くわ!
フォーの力説に頷く。
お祭りだから騒ぐ。馬鹿騒ぎこそが祭の醍醐味であるし、これが秋祭りであるというのならば、これより訪れる冬を吹き飛ばす熱気がなければならない。
であるのならばフォーの語るところの餅つきは、なんで? という疑問よりも体感によって突き動かす衝動の塊のようにも思えたのだ。
「それもパフォーマンスの一つとしてプログラムに加えておこう」
「会場、設営、パフォーマーの招致……考えられるべきことは多く在りますが、折角ですから多くの人々に楽しんでいただきたいデス」
そうなのだ。
お祭りを楽しめるのが、一部の人たちだけだなんて、そんな寂しいことはないだろう。
共に楽しみ、共に飲み、共に騒ぐ。
この一体感こそが必要なことなのだ。
「となれば、こうしては居られませんネ!」
「ああ、なるべく早く当日の運営に携わってくれるクルーを募らねばならない。どうあっても人手というのは必要だからな」
「みんなお祭り大好きですからね。お知らせすれば、みんな寄ってくるはず」
三人は互いに顔を見合わせ、頷く。
そう、芋煮挺のクルーたちはいつもノリがよいのだ――。
●お酒が来るぞ!
会場の設営は滞りなく進んだ。
業者などの手配は庚がUDCアースのネットワークやツテといったものを介して、イベントが目白押しの季節であっても、隙間を縫うようにして発注できたことは幸いであった。
確保した郊外の巨大駐車場は、すでに跡形もない。
眼の前に広がるのは芋煮挺プレゼンツの巨大お月見オクトーバーフェスト会場。
時は昼前。
であるのに、人がごった返している。
本番はお月見の出来る夜なのであるが、こうしたイベントがあると耳ざといのもまた人である。
お知らせは、そこまで大々的ではなかったが、今のUDCアースは情報化社会である。
SNSを介せば、瞬く間にイベントごとは知れ渡り、集客が倍増する。
だからこそ、芋煮挺プレゼンツお月見オクトーバーフェストは人々の知るところとなり、この会場のごった返した様相を作り上げたのだ。
「やっほーい祭だ祭だ!」
そんなごった返す中にて、ルエリラ・ルエラ(芋煮ハンター・f01185)は喜びの声を上げていた。
テンションが上がっている。
わかりやすい。
「祭といえば、この美少女エルフ、ルエリラちゃんがいないと始まらないからね!」
初耳である。
当然だ。今適当に言っただけのことであるのだから。
彼女は運営側として芋煮挺名物、芋煮を来場者の人々に無償で振る舞っていた。
SNSにて惹かれてやってきた来場者の目的の一つに芋煮があったのだ。
何故かわからないが、UDCアースの日本という土地柄、芋煮というのは非常に大きなウェイトを占めているようだった。
軽く調べるだけでそれなりの歴史があるように思えるし、時には芋煮をするためだけの巨大なショベルカーすら存在しているのだという。
流石にそこまでは用意できなかったが、ルエリラは完璧なエルフとしての隙のなさを見せ、ディアンドル……UDCアースにおけるイタリア、アルプス地方にかけて見れられる女性の民族衣装に身を包んで、それっぽく芋煮を振る舞い続けている。
前開きで襟ぐりの深い短い袖なしの民族衣装からしか摂取できない栄養素がある。
諸説異論あるとは思うが、今回ばかりは、それを封殺させていただく。
論ずるまでもない。
ディアンドル最高なのである。
しかも芋煮挺のクルーたちは猟兵ばかりである。
言うまでもなく美男美女の集団であるとも言える。そんな女性クルーたちがディアンドルに身を包んだのなら?
どうなるのかなど言うまでもない。
ルエリラのような完璧美少女エルフがディアンドルしているのだ。
何はなくとも殺到するってもんである。
「はいはい、押さない押さないでー。芋煮はまだあるよー」
「いや写真を一緒に撮って欲しくて」
「えー? どしよっかなー?」
そんなやり取りまで発生するってもんである。
しかも、それはオクトーバーフェスト会場のあちこちで散見されるものであった。
「お触り禁止だよー……」
盛大な騒ぎになっている箇所がある。
そう、レン・ランフォード(近接忍術師・f00762)の人格の一人、『れん』である。
彼女もまたディアンドル衣装に身を包んだ猟兵の一人である。
はっきり言って、魅力的である。
忍者らしい素早い動きであったが、衣装を見せびらかしたいという気持ちがそこかしこに溢れていたので、いつもの機敏さはなかった。
加えて、彼女たちは人格それぞれにて役割分担をし、オクトーバーフェスト会場にて給仕を行っていたのだ。
人格の一人、『錬』はキリカが仕切る厨房にてソーセージを茹でたり、キャベツを切ったりと忙しくなく働いている。
切るのは彼女役割であり、適材適所であると言えるだろう。
だが、彼女はちょっと心配だったのだ。
先ほど聞こえてきたのんびりとした、間延びしたような声の主……『れん』が何かをしでかしたのだと理解できてしまったのだ。
言うまでもないが、ディアンドルを着込んだ彼女たちは大変に魅力的である。
そして、オクトーバーフェスト。
当然、アルコールが振る舞われることになる。
祭の陽気、熱気、そうしたものが加われば、悪い酔い方をするものだっているだろう。
男性であれば仕方のないことであるのかも知れないが、給仕をしている者たちからすればたまったものではない。
『蓮』と共に給仕をしていた『れん』は、人混みと酔に任せて『蓮』にセクハラまがいなことをしようとした不埒者を蹴っ飛ばしていたのだ。
わあ、と歓声が上がる。
「れ、『れん』、そんな思いっきり蹴飛ばしては……」
「関係ない……お触り禁止。セクハラ禁止」
『蓮』はまだ何もされてない、と訴えるが関係ない。
そういうことをしようとしたことが問題なのだ。そして、それを一度許してしまえば、この祭の雰囲気が緩んでしまう。
別に締め付けたいわけではないが、まだ笑って済ませる程度であるのならば、お灸をすえるのが筋ってもんである。
「だ、だいじょうぶですよ。私だって、ちゃんとセクハラには対応できますよ。何も蹴っ飛ばさなくても」
「もしかして、その氷?」
「はい。お触り程度の可愛げのあるものなら、これで十分です」
「えー……」
それはちょっとやさしすぎないか、と『蓮』の言葉に抗議の声を向ける『れん』。
「おいおい、給仕止めるなってば。こっちはまだ大忙しなんだから!」
『錬』の言葉に二人は、はぁい、と笑顔で返事をする。
セクハラをしかけた者に軽く注意して、蹴飛ばしたことを詫びる。
けれど、そんなに強く蹴っていなかったのか、大した怪我はない。むしろ、来場者の中には、蹴っ飛ばされることを望んでいる者さえいるように思えた。
不思議なものである。
こうした騒ぎもまた祭の一興として受け入れられているのだろう。
三人の人格、そのディアンドル三姉妹の場を収める姿にキリカは忙しなく手を動かしながら嘆息する。
「ソーセージ各種盛り、上がったぞ。そら、給仕を頼む」
「はいはい、おまかせッス。これはあっちのテーブルでよかったスかね?」
キリカの作ったソーセージの三種盛りの皿を手にして有坂・紗良(天性のトリガーハッピー人間・f42661)は伝票を確認する。
「ああ、14番のテーブルだ。ごった返しているから気を付けてな」
「わかったッス」
「さっきの騒ぎは大したことはないから、その物騒なものは仕舞っておくように」
キリカが指さしたのは、紗良がストラップで肩に掛けたショットガンであった。
「アハハ、これがあった方が重心が安定して動きやすいンスよ」
「そういうものか?」
「そッス」
にこやかに笑う紗良。
確かに物騒と言えば物騒である。
けれど彼女の人懐っこそうな笑みにごまかされてしまいそうになる。
「おーい、こっちまだー?」
「ハイハイ、すぐ行くんでちょーっと待っててもらえないッスかねー?」
来場者の声に振り返って紗良は笑顔を振りまく。
彼女もディアンドル姿である。
健康的な、と表現すればいいのだろうか。彼女の笑顔は周囲を自然と笑顔にしてくれるものであった。
するするっと紗良は人混みの中を泳ぐようにすり抜けて、テーブルへと注文された品を運び込む。
途中で『蓮』たちの騒動に出くわし、笑む。
こういうのは祭ならではだな、と思うのだ。
「おおっと、おイタはそのへんにしといた方がいいっスよ?」
ほら、これ、と紗良はストラップで下げたガトリングガンがフェイクではないことを示すように己に手を伸ばしてきた手に銃身をぶつけて笑む。
硬い感触に笑むしかない。
むしろ、その程度で済ませてくれたことを喜ぶべきであったことだろう。
「さてさて、そろそろこういう、おイタをしちゃうくらいには皆さん酔いが回ってきたと見るべきッスかねー?」
紗良は周囲を見回す。
誰も彼もが笑顔になっている。
祭の席であるということ。大騒ぎしていい席であるということ。
それはたしかに無礼講という言葉で片付けられてしまうものであったが、しかし節度というものは必要なのだ。
そういう意味でも紗良は所謂、治安維持機構そのものとして機能すべきなのだという自負があった。
「せっかくのお祭りなんだ。馬鹿騒ぎの内にセクハラっていうのが混じってる連中もいるんだろうさ」
数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)またディアンドルに身を包んだ芋煮挺のクルーの一人だった。
彼女にとって、これは猟兵としてのではない、健全な稼ぎの場であるということから、普段い以上に全力で給仕に勤しんでいる。
厨房のキリカの手腕も見事であったが、多喜の給仕の速度も見事なものだった。
『れん』たちのような超常の如き速度はないが、その身のこなしは只者ではないことがわかるだろう。
酔っ払いたちのふらつく足取りさえも彼女の肩一つにさえ触れることは許されない。
重心移動というものがしっかりできているのだろう。
足のバネを使うのではなく、インナーマッスルの根幹たる重心を横に引っこ抜くようにして柔らかい股関節の動きで持ってビールの一滴すらこぼさずに多喜は給仕を続けているのだ。
「はいよ、おまたせ!」
ドスン、とテーブルにおいたビールの白泡が揺れる。
豪快でありながら、緻密な重心移動に寄って彼女は三段重ねにしたビールジョッキを軽々とサーブしている。
その光景はちょっとした芸のように思えただろう。
「すげーな、ねーちゃん!」
「ほら、これチップな」
「おっと。そこはチップ入れじゃないよ?」
胸元にお札をねじ込もうとする酔っぱらいの手を弾いてお札だけを多喜はポケットに収める。見事なあしらい方だった。
ある種の芸を見せられているようにも思えたことだろう。
『5番、8番、10番はサーブ完了だ』
更に彼女はテレパスによって厨房のキリカに滞りなく伝票通りに品を届けたことを告げる。
そう、彼女はこの芋煮挺クルー給仕の要である。
テレパスによってキリカが切り盛りする厨房と他の給仕である『レン』たち、紗良、ルエリラといったクルーたちを統括しているのだ。
「助かるよ。空中分解せずに済んでいるな、これは」
「バイト代、しっかり弾んでもらえるんなら、喜んでってね」
さらに多喜はオーダーを受け取って厨房にテレパスで飛ばす。
間断なく襲い来る波のような来場者たちのオーダー。
これを全て受け止めることができるのは、芋煮挺クルーたちの弛みない努力と圧倒的な個人のポテンシャルに寄る所が大きいだろう。
キリカは、厨房でオーブンからローストビーフとチーズの乗ったリゾット風ピラフやジャーマンチキンといった大物料理を作り上げる。
おそらくユーベルコードなしには、一人で厨房を切り盛りすることなどできないだろう。
しかも、今の彼女は紫のディアンドル衣装に身を包んでいるのだ。
動きやすい、とは言い難い。
けれど、彼女の働く姿は厨房越しでも美しく見えただろう。
散る汗。
けれど、汗拭う彼女は笑む。
「まったく、息つく暇もないな……だが、やってみると楽しいものだ。さあ、料理はすぐに上がるぞ。『お嬢さん』たち、頼んだぞ」
そう言って、ディアンドルの語源である『お嬢さん』たちクルーにキリカは声をかけ、忙しない厨房の激戦を戦うのだった――。
●来場者は押しては寄せる波ではなくて
空を見上げれば、その色は夕日の色に染まりゆく。
そうした色合いが見せる時間というものは、僅かな時でしかない。面を天に向けていた時は、確かにそこにあった空の色は、少しでも視線を外せば移ろいゆくものである。
それは儚いものであったし、どこか物悲しいものでもあった。
変化することは常にそういうものであろう。
夜空に浮かぶ月の見せる表情さえ、一日とて同じ輝きはない。
「何処の世界でも月は同じ見え方をしているのですね」
ソフィア・ガーランド(月光の魔女・f37563)は、己の世界で見上げる月の輝きを知る。
ルナエンプレスである彼女にとって月とは故郷である。
この世界の月にあっても、同じように己達と似通った種族が息づくことがあるのかもしれないと、夜空に変わりゆく天を見上げて思う。
星が瞬くように地にはオクトーバーフェストにやってきた来場者である人々が行き交う。
人混みと言っていいほどの固形ではあるのだが、どうしても見上げる月に故郷を思ってしまう。
「この世界の月にもどなたか住んでいらっしゃるのでしょうか」
誰も応えることはできなかったかもしれない。
けれど、そうした郷愁の念を抱き続けても仕方ない。
月を見上げて思う心はそれぞれ。
なら、ソフィアはお祭りを楽しむことこそが、主催してくれた芋煮挺のクルーたちに対する感謝の仕方だと思ったのだ。
「お酒は飲めないのですけれど……」
何か飲めそうなものはないかと居並ぶ屋台を眺める。
「「そふとどりんく」」
声が重なったことに気がついてソフィアは隣に藍色の瞳を持つオニバス・ビロウ(花冠・f19687)を見上げた。
彼もまた芋煮挺のクルーである。
「む……」
「あら」
お互いに軽く頭を下げ合う。
オニバスはいつもあまり表情が変わらない男だ。愛想がないと言われたらそれまでであるが、そういう性分であるのだから仕方ない。
何処か侍めいた雰囲気があるが、基本的にそれは外面の話である。
内面……性格でいうのならば比較的穏やかな部類に入るだろう。
ソフィアとともに発した言葉は、どこか間延びした雰囲気があった。
どうやら彼は横文字、というものに馴染みがないようだった。いや、苦手というのが正しい。
「芋煮挺のくるーが催した祭とあらば、出くわすやもと思っていたが、存外早くも、だな」
「ええ。何か飲み物をと思っていたのですが、オニバスさんも?」
「ああ。しかし、この世界の横文字はどうにも慣れない。そふとどりんく、なるものとは」
「アルコールの含まれない飲み物ですね。オニバスさんは酒類がよろしいのでは?」
そうだ、とオニバスは頷く。
聞けば、彼はこのUDCアースを始めとする『アース』と冠される世界には、オクトーバーフェストの名が示す通り、10月の祭が在るらしいということを見知ったのだという。
なんでも酒を呑み、酒に合う料理を食べ、賑やかに謳い踊るものだというざっくりとした情報だけを頼りにやってきていたのだ。
「故郷ではこのようなお祭りは?」
「いや、確かにあった。ゆえに、しんぱしー、というものを感じずには居られない。いや、あるいはどんなに世界が異なったとしても、そこに生きる者は何等かの喜びを得た際に祭を行うものであるのかもしれないな」
「そうですね……でも、たくさんあって選び難いですね?」
ソフィアの言うことも尤もであった。
こういう場においてどのように振る舞うのが正解なのか。
未だ二人は正答を引き出すことができていなかった。
そんな二人が何を飲むか、何を食べるのかを決めあぐねていると、通りの向こうから騒々しい声が響いてくる。
「すげぇ……どうなってんだ、あの子ら……」
「さっきからとんでもない勢いで注文してるよな……?」
「あんなに小さな子なのに……」
どよめき。
その先にあるのは、二人の見知った芋煮挺のクルーの姿であった。
「ワーッハッハッハ!|ワンモア《おかわり》!」
イヌだけにね、なんつって! とイヌイ・イヌバシリ(飴色の弾丸・f43704)は、まるで老齢の男性のようなオヤジギャグを叫び、給仕であるクルーたちに呼びかけていた。
酔っているのか?
否である。
酔っていない。
そう、彼女は未だ未成年。ジュースで乾杯しているのは、東天・三千六(霹靂霊・f33681)である。
「乾杯、です……ふふ」
お互いに未成年な二人。
飲んでいるのはジュースばかりであるのに、ああも酔っ払いのような雰囲気が出るのは如何なることであっただろうか。
言うまでもない。
場酔いというやつである。
周囲の酔っぱらいたちの楽しげな雰囲気に当てられて、イヌイは酩酊の如き気分の高揚を抑えることができなかったのだ。
そこであのギャグである。
いつもならば、滑ってもおかしくないギャグである。
だが、此処はお祭り。オクトーバーフェスト。酔っ払いたちの祭典とも言うべきお祭りなのだ。
酔っ払いたちの中に笑い上戸がいるのならば、ケタケタ笑い転げてしまうし、そんな雰囲気に当てられてほろ酔い気分の者たちは一層楽しくなってしまう。
「はい、おまちどうさま。あんまり飲んだらダメだよ」
『れん』たちが給仕してくれたジュースジョッキを片手にイヌイは、ビシッと敬礼して見せる。が、すぐにフニャっとなってしまう。
「イヌイ、一番、イッキいくでありますよ~!」
その声にやんややんやと声が上がる。
彼女のジョッキを傾ける姿に周囲の酔っ払いたちが囃し立て、イッキコールが響き渡る。
いや、アルコールでもなんでもないただのリンゴジュースである。
だが、そんなの関係ない。
周囲の酔っ払いたちはみんな笑い上戸。
箸が転んでもおかしい酔い加減なのである。
「ぷあー! ウィンナーとソーセージの違いとは一体なんなのでしょうね?」
おんなじである。
厳密に言えば、ウィンナーソーセージということで、ウィンナーはソーセージの一種という分類に当てはめる事ができると言えばできるのである。
なので、そこに厳密な違いはない。
「ふふ、どちらも美味で嬉しいです」
楚々とした雰囲気のまま三千六の眼の前から従事されるソーセージの盛り合わせが消えていく。
良い食べっぷりであると言えばそうであるのだが、いつのまに消えている。
びっくりするくらいの速度であった。
「お次は骨付きソーセージね」
はい、と紗良が注文の品を眼の前に置いてくれると三千六の目が輝く。
あくまで上品に食事は楽しむものである。
が、三千六はソーセージの美味しさに羽目が徐々に外れていく。
普段ならばちゃんとしたカトラリーを使って食するものであるが、しかし、こうした場において格式張ったことはむしろ逆に無作法であるようにも思えた。
周囲を見回してみれば、誰も彼もが作法というものを気にしていない。
いや、強いて言うのならばこのような馬鹿騒ぎに乗ずるほうが作法に則っているとも言えるだろう。
「美味そうだな」
「ああ、オニバスさん、それにソフィアさんも」
声をかけられて見上げれば、そこにはオニバスとソフィアがテーブル席に近づいてきていた。
見知った顔をみれば、近くに寄ってしまうものである。
「どうぞ、お席がなければ。よろしかったらですが……」
「相伴預かろう。それと、済まないがまずは麦酒を」
オニバスが多喜を捕まえて注文を告げる。
なにはともあれ、まずは乾杯からである。ソフィアも頷く。
「私はソフトドリンクをいただければ……」
「はいよ。ああ、ビールっていっても、黒いのと白いのがあるし、辛口甘口ってあるんだけど」
「では、両方を。いや、四種全て所望しよう」
「だいじょうぶかいって言うまでもないか。後は?」
「腸詰めと、このふらいどぽてとなるものを。せっと、で」
「私はヴルストシュネッケとプレッツェルを」
「オーダーありがとね。そんじゃ、ちょいと待っといて」
「ぷれっつぇる?」
「先ほど頂きましたが、焼き菓子ですよ。小麦の茶色い。甘いです」
オニバスの言葉に三千六が応える。
「食べやすいものですからね。それにしてもオニバスさんは、よくお飲みになられるのですね?」
その言葉にオニバスは頷く。
その隣ではイヌイがジョッキに注がれたアップルジュースをぐいぐい飲んでいる。
「ぷはー!」
「彼女のように良い飲みっぷりではないかもしれないがな」
オニバスはイヌイの飲みっぷりに感心しているようであった。ジュースだけど。
「いやいや、お酒とジュースとでは勝手が違いますでありますし!」
「そうか?」
そんなやり取りをしていると、あれ? という声がする。
見上げれば、そこにいたのは暁・アカネ(アホの狐・f06756)であった。
彼女もまた芋煮挺のクルーである。
「みんな此処にいたんだ?」
「アカネさん。お席はお決まりですか?」
ソフィアが手招きすれば、そのままにアカネは寄ってくる。
少し窮屈になってしまったけれど、同じクルー達同士で気心も知れている。これくらいで丁度いいのかも知れない距離感でアカネはソフィアの隣に座る。
「|奥《おく》と|馬圧《ばへ》す? ってこんな感じなのね? 馬追のような催しと思っていたのだけれど、違うみたいね?」
「馬追でありますか?」
「そう、字面からしてそんな感じでしょ、おくとぉばぁへす!」
彼女の言葉にソフィアは笑む。
なんだか勘違いしているところもあるかもしれないが、そういう間違いすらアカネらしいし、可愛らしいものであった。
「はい、お待ちどうさまッスよー」
紗良がビールジョッキとソーセージとフライドポテトのセット、そしてぐるりと渦巻くヴルストシュネッケ、プレッツェルを運んでくる。
その光景にアカネは目を輝かせる。
「わぁ! なにこれ?!」
「腸詰め……ここではそーせーじ、というらしい」
「ウィンナーとも言うでありますよ!」
目新しい食べ物にアカネは驚きながらも、メニューらしきものと見比べる。
とは言え、ちょっと文字の意味がわからない。けれど、注文の品を持ってきた紗良に、直感的にこれとこれ! と指さしてオーダーする。
「豚の腸詰めって面白そうね。この赤いのとか白いのもね! あと、このビールも! よくわかんないから、これ!」
アカネはよくわからないなりに注文を繰り返す。
なんでも多いほうがたのしいだろうし、みんなで食べれば大抵のものは美味しいと思っているのかも知れない。
五人が一同に会したテーブルには料理が所狭しと並べ立てられている。
だが、それよりも早く三千六が、ぺろりと平らげてしまうのだ。
「ひと噛みで肉汁がぶわりと溢れてくる……西洋の肉料理、初めてでしたが、香り高く、香辛料の風味を感じられます」
「そうだな。うむ、こちらの麦酒も……よく合う。苦いと聞いていたが味わい深い」
オニバスの言葉にアカネは興味津々だ。
まだ自分の注文したものが来ないのでソワソワしていると、ソフィアが自分の注文したヴルストシュネッケを切り分けてフォークに刺す。
「よろしかったら、いかがですか?」
「え、いいの!?」
「ええ、ご注文の品が届くまでお腹が空くでしょうから……」
「ありがとう!」
にこやかにアカネがフォークに食らいつく。
なんとも可愛らしいものだとソフィアは思ったかも知れない。
その隣でオニバスはジョッキを傾ける。
泡立ちがクリーミーである、ということは伝え聞くところであったが、舌の上、そして喉に落ちるまではなかなか想像し難いものであった。
しかし、実際に味わってみるとよくわかる。
「これは……うむ。こちらも大変美味い」
「そうなの!? うー、早く来ないかなぁ、びーる!」
「慌てずともやってきますよー。でも、確かにビール、お酒、飲めない身からすれば興味ありますな!」
「僕も。ふふ、龍の端くれですから、興味がないと言えば嘘になりますが、決まりですからね」
イヌイと三千六、ソフィアは年齢を見れば未だ飲酒に適した年齢ではない。
この席にあって飲むことができるのはオニバスとアカネだけである。
だから興味あるのだ。
「オニバスさんは大変美味しそうに飲まれておりますし、他のお客様たちも楽しそう。苦いと聞いたことがありますが、わたくしも将来、同じように楽しめるのでしょうか?」
「こればかりは好み、個人の嗜好というものがあるからな」
好みというのは如何ともし難いものがある。
誰かにとっては好ましいものであっても、誰かにとってはそうではないものなどいくらでもあるものだ。
「きっとお酒の席、味わい、楽しめてこその大人なのかもしれませんね」
「大人って大変でありますなー」
そう話しているとアカネの注文したものも到着する。
「わ! すごい! これがそうせいじ? というのかしら?」
「熱々の内にどうぞッスよー」
紗良がサーブを追えて、また忙しなく厨房にとんぼ返りしていく。
大変な賑わいであるから、給仕をしているクルーたちは忙しそうだ。それでも、なんだかんだで楽しそうにしているのだから、お祭りというものは良いものであると思えただろう。
「んんっ! おいしい! いろんな酒類があるのね、腸詰めって一言でいっても! あとこれ……んぐんぐっ」
アカネはソーセージを食べて、ビールジョッキを傾ける。
舌先に苦みが走る。
「んっ!?」
苦い!
だが、口の中で弾ける泡がソーセージの肉、その油を浮かせて喉に流し込まれていく。
シュワシュワとした音。
そして口中がさっぱりして、またソーセージにフォークが伸びてしまう。
「これがお酒かぁ……ちょっと苦かったけど、さっぱりしていてお肉と合ってる? ような?」
「そうなんですか? あら? アカネさん、お顔が……」
ソフィアの言葉にアカネは、顔が? と自分の顔をペタペタと触る。
よくわからない。
自分では顔が赤くなっているなんてわからないものなのかもしれない。けれど、体の芯からぽかぽかしてきていることだけはわかるのだ。
「こゃぁ……なんだかぽかぽかしてくたわね……ふふ……うふふ」
その姿にソフィアは、酩酊というものがこのような状態を引き出すものなのかと思っただろう。
そして、その背中……向う側にはオクトーバーフェストを催した企画主でもある庚が組み上げられたステージに立っていた。
「さあ、宴もたけなわデスが……お月見オクトーバーフェストはお酒飲んで騒いで、お月見するだけではありませんヨ!」
その声に五人はステージを見やる。
「あれ……庚さんですか?」
「そうみたいですね」
ぶどうジュースをストローで啜りながら三千六は頷く。
空を見上げれば、もうとっぷりと夜の帳が下りてきている。
オクトーバーフェストの会場は煌々と明かりが焚かれているので、テーブル席だけ見ていれば、夜だとは思えないほどであった。
そう、このお祭りはお月見オクトーバーフェスト。
秋の夜長に夜空に浮かぶ月の美しさを愛でながら、大騒ぎしてしまおうという趣旨の元に行われている。
であれば、むしろ、ここからが本番でもあるのだ。
庚の声に会場中から声援が飛ぶ。
「ヒューヒューなのであります!」
イヌイが席に立ち上がって口笛を鳴らす。
ヤジというよりは、大騒ぎの雰囲気に当てられたようにヤジを飛ばすのだ。
そのヤジに庚は手で上げて答えている。
会場の準備から設営、そして当日のスケジュール管理。
そうしたタスクの積み重なりに寄って庚の体力は限界近くまで来ている。だが、ここで倒れるわけにはいかないのだ。
「それではステージにて、手始めに一曲奏でて頂きマショウ!」
庚の言葉と共にステージ上にスモークが焚かれる。
白く濃いスモークは濛々とステージを包みこんでいく。スポットライトの光は、そのスモークによって拡散され、同時にその中に三つの影を生み出す。
見慣れたような。見慣れていないような。
謎のシルエット。
その三つの影を芋煮挺のクルーたちは知っていたかも知れない――。
●催しはこれくらい騒々しいのが
楽しめること、というのは人によって異なるものであるだろう。
だが、そこに誰かを楽しませたいという気持ちがあるのならば、また異なる表情を見せるのがエンターテイメントの妙であるとも言えただろう。
「あゝ祭りかな」
なんか急に古風な雰囲気にである。
だが、ヴィヴ・クロックロック(世界を救う音(仮)・f04080)は、そんな古風な雰囲気をいきなりギターかき鳴らしぶち壊すのだ。
いや、ていうか、それ以前にである。
そう、ヴィヴのシルエットがなんかおかしい。
まるできぐるみを着ているような……白煙のとスポットライトに寄る光の乱反射によって影しか見えない。
だが、そのシルエットを芋煮挺のクルーたちは知っている!
そう!
それは!
サメ!!!
サメである。
ヴィヴはサメのきぐるみを来て、何故かギターをかき鳴らしている。
いや、どう考えてもきぐるみ……そのサメのヒレではどうあってもギタープレイは無理であろう。
なのに。
「なんでこんに魂震わせるサウンドが……!?」
思わうイヌイはツッコんでいた。
こういう場合、ツッコむのは野暮だって解っている。だが、それでもヴィヴの演奏は所々おかしかった。
っていうか、もっとおかしい場所がある!
そう、ヴィヴの見事なギターソロ……マジでどうやってかき鳴らしているのかさっぱりわからんサメきぐるみによる超絶ギタープレイの最中、フォーはぺったんぺったんと杵と臼戸で餅つきをリズムに乗せて敢行しているのだ。
「お餅、振る舞ってもらえるですかね?」
問題はそこじゃなくないかな、とイヌイは三千六のつぶやきにツッコミそうになったが、それよりも早くステージに何処からともなく飛び込んできたルエリラの姿に身を見開く。
「勝手に餅つき始めるなんて、天が許しても、この超絶美少女エルフのルエリラちゃんが許さないよ!」
「それぺったん!」
フォーの掛け声とともにかき鳴らされるギターの音色、そのリズムに乗ってルエリラはフォーと完璧なタイミングで高速餅つきを演じる。
ぺったんぺったん。
裏返してまたぺったん。
それがフォーとルエリラによって高速で行われているのだ。
しかも、ヴィヴのギターソロのリズムに完璧に乗っているのだ。
「ノッて来ました!」
「いい感じだよね!」
イヌイはそうかな!? と思ったが、周囲を見回してみると来場者たちは大喜びである。
「どこにこんなにウケる要素あったでありますか!?」
尤もである。
冷静になれば、どこにもウケる要素などない。
だが、此処にはノリと勢いがあったのだ。
ヴィヴのギターの苛烈なる技巧。それによって生み出されるリズム。
さながら、餅つきはドラムのようであった。
となれば、ルエリラは?
「もちろん、超絶美少女エルフとくれば、ボーカルだよね!」
ルエリラはマイクを握りしめ、あそれ、とまた餅をひっくり返す。いや、それはもうよくないかな、とイヌイは思ったが誰もツッコまない。
え、本当にだれも突っ込まないのか!? とイヌイは思った。
むしろ、ツッコむ方がおかしいのではないかという祭りの雰囲気であった。
そんな謎の喧騒を背にしながら、武富・昇永(昇鯉・f42970)は異世界の夜空を見上げていた。
彼の出身世界であるアヤカシエンパイアは平安結界による偽りの空しかない。
夜空の先にあるものさえも、作り上げられたものであるのならば、この世界で見上げる月は本物である。
「ほぉ……これが」
昇永は感嘆の息を漏らす。
月の輝きは間近に感じることができるが、月は空のはるか先にあるのだという。
ただ己の視界に映るものは、アヤカシエンパイアで見上げるものと変わりないように思えた。
もしも、異世界の月がアヤカシエンパイアのものと異なっていたのならば、宮中での集まりの際にて語る噺としてもってこいではないかと思ったのだが、当てが外れてしまった。
とは言え、むしろ、安堵の感情のほうが強いように思えた。
他世界を知るとは言え、それは己の知る世界との違いを様々と見せつけられるものである。
それは少なからず衝撃として心を揺らすだろう。
揺らされた心、その衝撃は肉体にまで伝播する。
肉体と心は乖離しているように見えて、乖離していない。
心が傷を得れば、肉体もどこかしらにか影響を及ぼすものである。
心は液体であり、器は肉体。
そう語られる所が多々として見受けられるが、肉体という器が傷つけば、その傷から液体たる心が滲み出し、目減りする。
目減りした液体は戻らない。
であるのならば、と昇永は思うのだ。
自らが揺れ動くことなければ、肉体もまた揺れ動くことはない。
「きっと禍津妖大戦が起きる前の夜空に浮かぶ月もあのような姿をしていたんだろう」
そう思えば、他世界であるのだとしても心が安らぐような気がした。
月光は、変わらず己に降り注ぐ。
平安結界の中という限られた世界であっても、今の世も変わることなく受け継がれていることへの安堵を感じながら昇永は気を取り直す。
しんみりとしてしまったが、背後に聞こえる騒々しくも、体が踊りだしそうになる旋律に興味が惹かれているのだ。
「さて! 月も愛でたことだ! ここからは宴を大いに盛り上げ……」
盛り上げる。
つもりだったのだ。壇上に駆け上がる様こそ青天井の昇り鯉! そう大勢の観客たちに知らしめるつもりだったのだ。
だが、昇永の視界に飛び込んできたのは、想像を絶する光景であった。
サメのきぐるみを来たヴィヴのギターソロにノッてフォーが杵で餅をぺったんとつき、ルエリラはマイクを握りしめたまま、餅をひっくり返している。
歌わないのかい! というツッコミはイヌイだけであったし、そのステージの催しを大勢の来場者たちは不思議な一体感でもって堪能しているのだ。
シラフばかりとは言わないし、かといって来場者の全員が酔っているとは言い難い。
それでも、この場の雰囲気は特異なものであった。
正直に言って、馬鹿騒ぎを越えたトンチキな騒ぎであった。
到底、己の世界……アヤカシエンパイアの妖たちであっても、これだけの奇異なる宴を執り行うことなどできやしないだろう。
それほどまでにヴィヴの奏でるリズムは人々を一体にさせ、さらにはフォーとルエリラの生み出す不思議なノリは会場中に伝播していくのだ。
「……なんということだ! これが他世界の宴会芸というものか!」
素晴らしい! と昇永は感激しきりであった。
いや、己がこの宴を盛り上げてみせようという気概があったことは事実である。
しかし、ここまで独特なものであるとは思いもしなかったのだ。
「いや、同考えてもおかしくないでありますか!?」
イヌイだけがツッコミに回っていた。
「いいや!これこそが宴である! おお! 俺は今感動している! 他世界の宴会芸! これを習得して故郷に持ち帰り、披露しなければ!」
「絶対止めたほうがいいと思うであります! 気が触れたって思われるであります!」
イヌイの制止。
だが、昇永は頭を振る。
「これこそが宴会芸の真髄! これを習得し、さらに立身出世への足がかりにしたい!」
昇永は正一位である。
貴族階級でいうのならば、天井である。
もうこれ以上に立身出世ともなれば、如何なるか、と言われうrほどである。
だが、彼の意欲は止まらない。
「よし! 決めたぞ! コラボだ!」
その言葉にヴィヴはサメのヒレをクイクイっと器用に動かす。
「セッションとも言うよ」
「せっしょん!」
「これがオクトーバーフェスト、これが月見なんですよ!」
フォーが杵をぺったんぺったんと打ち鳴らしながら笑む。
もう理屈じゃない。
このグルーヴは言葉では言い表せない。
酔いと場の雰囲気。
高揚感が多幸感に変わるようにヴィヴたちステージ上のクルーたちの演奏は、さらなる高みに至る。
いや、イヌイは思った。
「なんで!? であります!」
そう、いくらなんでもこれはおかしすぎる。
いや、芋煮挺のクルーたちは破茶滅茶な所があるっていうことは承知している。
いつも馬鹿騒ぎをしているであろうし、イベントごとになれば、それはもうスタートダッシュがロケットダッシュになるくらいにはカッ飛んで、ぶっ飛んでいるものだということも理解している。
だが、このお祭り騒ぎの大騒動。
すでに混沌の如きカオスな状況なのだ。
そもそも。
「何故、餅つきなのだろうか?」
オニバスの言葉にソフィアは苦笑するしかない。
「秋の夜長、だから、でしょうか。きっとお月様の影がウサギさんに見える、というのと同じなのかもしれませんね?」
「ウサギちゃんも可愛いけれど、ソフィアちゃんも、みんなも可愛いね~」
ぽやぽやしたアカネが赤ら顔のまま呟く。
大騒ぎの馬鹿騒ぎであっても、心がどうにも落ち着かない。
地に足が突いていないような浮遊感。
高揚感と感じ間違えても仕方がないといえるほどの感覚の中で、アカネは指差す。
その先にあったのは、『れん』たちであった。
「あははは! お祭り最高ですね! あ! 多喜さんじゃないですか! 楽しんでますか!?」
何故か給仕をしていた『蓮』が普段の彼女からは及びも付かぬほどのハイテンションでもって、同じ給仕の多喜や紗良に絡んでいるのだ。
「いや、給仕してんだよ!?」
「えー! 楽しんでますね! どんどんいきましょう! かんぱーい!」
もはやハイテンションと呼ぶには勢いが有りすぎる。
「多喜さん、多喜さん、かんぱーい! いえーい!」
『蓮』が呼びかけているのは、多喜ではない。
さっきセクハラしかけていた来場者である。だが、お互いにそんな過去のことはアルコールに流してしまっていた。
ジョッキがガッチャンコして盛大な音を立てて、白泡が飛び散る。
一気に飲み干して、息を吐き出せば、もうごきげんな『蓮』の出来上がりである。
「って、あー?! なんで『蓮』が飲んでるんだよ! なんかおかしいと思ったら!」
厨房でキリカの手伝いをしていた『錬』が駆け寄ってくる。
彼女たちは人格が違うが、今はこうして分かたれている。
さっきから給仕が回っていないと思えば、こんな所で! と漸く気がついたのだ。
「えへへ、だってオススメされちゃったんですもん」
「断りきれなかったのかよ!」
だって、お酒美味しんですもん! アハハハハハ! 楽しんでくださいね! あ! 紗良さーん、楽しんでますか!!」
「うえっ!? ボクっスか!?」
「そうでーす!」
「待て待て! ちょっとまてってば!」
もう給仕回りもしっちゃかめっちゃかである。
はっきり言ってステージの混沌具合が給仕にまで伝播したとしか思えない有り様であった。
収拾が付かない状況にあって、ステージ上では更に昇永が混沌を加速させるように魚をもした式神、モジャコの群れを生み出す。
「これなるは出世魚モジャコ! 触れれば立身出世思いのまま! 斯様なご利益ありし、大層縁起の良いもの! さあ、さあさあ、皆、尾にヒレに、鱗に振れてご利益賜るのは今しか!」
空を舞うモジャコの群れ。
その光景は正しく幻想的であった。
現代的に言い直すのならば、きっとそれはプロジェクションマッピングのような技術を使ったものであったが、これは正真正銘、昇永の力に寄るもの。
式神を操り、ヴィヴたちの生み出したグルーヴ感をもって、盛り上がりに寄与しているのだ。
「ところで、そろそろボーカル……」
ヴィヴはさっきからずっとギターをかき鳴らしているが、マイクを握りしめたルエリラが一向に歌おうとしないのだ。
「ていうか、無理!」
そう、ルエリラはフォーとの餅つきにかかりっきりであった。
フォーが餅つきを高速でやらなければ、まだ歌いようはあったかもしれない。だが、フォーの餅つきは高速がすぎる。
餅をひっくり返してやらねば、美味しいお餅は付けない。
お餅に対して人一倍真摯なクルー。
それがフォーとルエリラだった。
なんで?
「うむ! さすがは絆の力であるな! 素晴らしい! いや、それにしても」
昇永は会場を見やる。
己の生み出した式神によって会場内はしっちゃかめっちゃかとなっていた。
それもそうである。
立身出世のご利益のある式神と触れ込めば、酔に任せて人々は、モジャコを追い立てる。
一つ撫でればよいものを、欲を再現なく持つ人々であるのならば、一度でご利益があるとなれば、二度。二度より三度。三度より四度……とまあ、他者よりもご利益ありますようにと追い立て続けるのだ。
最初は興味がなくとも、誰かが得をしたと感じれば、自分が損をしたように感じてしまうのもまた人の性というものである。
であるのならばこそ、人々は昇永のモジャコに群がり、大騒ぎなのでる。
これほどまでに人の心を尽き動かせる発想。
自身の発想に彼は惚れ惚れしてしまっていた。
「もしかして、これって射的大会ッスかね!? そうっスよね!?」
宙に浮かび飛ぶモジャコを前に紗良は肩に掛けたガトリングガンを構える。
もうさっきからずっとセクハラであったり、給仕の忙しさであったり、さらには『蓮』が断りきれずにお酒を頂戴してあっちこっちで逃走したりでてんてこまいなのだ。
そうなればもう、紗良も、ちょっと様子がおかしくなってしまうものである。
モジャコ、出世魚型の式神たちは、さながらスラッグアウト……に見えなくもない。
治安維持のためにと持ち込んでいたガトリングガンに詰め込まれていたのは、スポンジダーツ。
そう、仮にトリガーハッピーになったとしても、放たれるのはスポンジダーツなのだ。
あたってもちょっと痛い位である。
「い、いや、違うが」
「いえ、射的大会だとボク、おもうッス!」
「……うむ、それほどまでに見事な的に見えてしまったというのなら是非もない!」
なくもなくない?
昇永は頷く。
思わず紗良がガトリングガンを向けたくなるほどに妙技たる佇まいで己が式神が操れていしまった弊害であるとも言えた。
なら、それを受け入れるのもまた演者の役目というもの。
むしろ、喜ぶべきところであるのだろう。
「ならば、逃げるモジャコを撃ち抜いた方に、俺から奢らせてもらおう!」
その一言で、さらなる混沌は加速していく。
酔っている者もシラフの者も。
みんなみんなを巻き込んだ大射的大会へと変貌を遂げたオクトーバーフェストは、月光降り注ぐ月夜のもと、さらなる大騒ぎへと発展してくのだ。
そんな混沌極まるステージ上から広がっていく大騒ぎを眺め、オニバスはジョッキを傾ける。
「うむ、うまい」
むっしゃむっしゃとソーセージを頬張ってはジョッキを煽る。
止まらない永久機関である。
それはアカネも同様であったことだろう。
彼女自身、そこまでアルコールに対して強くはないようであるが、こゃぁんと笑いながらジョッキをこれまた傾けているのだ。
笑い上戸なのかもしれない。
いや、笑い上戸と言えば『蓮』である。
彼女はいつのまにか給仕なのに、こちらの席に合流して散々に騒ぎ立てている。
「オニバスさーん、飲んでますかー!」
「ああ。堪能している。善き演目は酒と食が更に上手くなるな……」
「いえーい!」
周囲の状況をオニバスは一瞥する。
誰も彼もが酔いしれて、酔いつぶれていっている。
帰りは大丈夫なのだろうかと他人事ながら心配してしまう。
「だ、大丈夫なんでしょうか……?」
ソフィアの言葉に三千六はにこやかに笑む。
「大丈夫なんじゃないですか? もう秋とは言え、まだまだ夜の気温もそこまで底冷えするようなものではありませんから」
「つまり、それはこのまま酔っ払いたちは放置していい……ってコトでありますか!?」
イヌイが、え!? と驚愕する。
「酒を呑む、ということはこうした責任も付きまとう、ということだな」
うむ、とオニバスは頷く。
だが、わからないでもないのだ。
あれほどまで酔いつぶれてしまう気持ち。
程々にしなければ、と常々思って入るが、酒の誘惑は耐え難いものがある。
己の体躯は毒への耐性が在るゆえに呑みすぎてもどうにかなるものである。もしも、それがなかったのならば……。
「アハハハハハ!! たのしー!」
『蓮』は向こう見ずであった。
彼女は、彼女の人格たちと共に明日の朝に地獄を見ることになるだろう。
二日酔いのとばっちりなんて笑えない話である。
故に『錬』も『れん』もなんとかして彼女を止めようとしたのだろう。だが『蓮』は、するりと来場者の席を移動していくのだ。
捕まらない彼女にやきもきしてしまう気持ちはわからんでもない。
だが、もはや彼女の有り様を見れば、二日酔いという地獄は確定したようなものである。
「……明日は覚悟するより他あるまい」
「え、何言いましたかー!?」
あははは! とまた笑い声が聞こえて、『蓮』は会場の中を泳ぐようにして、二人の追撃を免れてしまう。
その背中を見送りながらオニバスは本当に毒耐性があってよかったと安堵し、遠い目をしているイヌイを見やる。
「月が、綺麗でありますなぁ……」
「そうだな」
もうどうにでもなーれ。
そんな気持ちであることはうかがえる。
ソフィアは苦笑いするしかなかったし、この状況をどうにか出来るものでもなかった。
だって、赤ら顔になったアカネがずっと、ぽやぽやした様子で腕を組んで離してくれなかったから――。
●祭りの後は訪れる
それは死屍累々と呼べるものであったかもしれない。
オクトーバーフェストが長期間行われうる祭りであったとしても、世を徹するものではないことは言うまでもない。
無論、帰途のことも在るがゆえに、大抵の大人というものは己の酒量というものをわきまえている。
だが、芋煮挺のクルーたちはどうであっただろうか?
まあ、言うまでもない。
わきまえても、わきまえなくても、どっちにしたって、この騒ぎである。
テンションが上がれば楽しくなってしまう。
楽しくなってしまえば別れ難くなり、また眠気というものも吹き飛んでしまう。
ヴィヴは長時間にわたるギタープレイに額の汗を拭って、騒ぎ疲れてテーブルに突っ伏す来場者たちの合間を縫って厨房へと向かう。
まだキリカは潰れていないだろう。
何せ彼女は体力超人である。多く屋台があっても、その殆どが世を徹して働くことはできないが、彼女のいる厨房だけはいつまでも飛び込むオーダーに対応していたのだ。
「とは言え、疲れたがね」
「お疲れ様。でも、もう少しがんばって」
「ふ、ステージでの活躍、音に聞こえるものであったよ」
キリカの言葉にヴィヴは頷く。
「これだけのメニューを前にしてスルーするのはそれこそ無礼千万だからな!」
そう、ヴィヴは楽しみにしていたのだ。
キリカの作る料理を。
夏の時も思ったが、キリカの料理の腕は確かなものであった。
ユーベルコードを使っているとは言え、凄まじい技量であるように思えた。それにこなすオーダーの量だってとんでもないものであった。
庚ですらあまりのスケジュールの過密さと重なるタスクによって疲労困憊している。
「もう、タスクを積み上げるのはやめてください……うう」
唸るようにして突っ伏している庚を見て、ヴィヴは肩を揺すって起こそうとする。
寝かせるわけがないのである。
「うう、やめてください」
「夜はこれからだから!」
「えぇ……」
体力を振り絞って寝ぼけ眼を開く庚。
ずんむ、とその口にソーセージをぶち込んでヴィヴは頷く。
美味しい料理を食べれば、体力が回復するってもんである。
「いや、まいったまいった……」
そんな二人のところに多喜は汗を拭って戻って来る。
すでに祭りの会場は、先程の大騒ぎから落ち着きを取り戻している。彼女はそんな大騒ぎの後始末に奔走させられていたのだ。
オーダーがあっちこちに飛んだりしていたし、それに片付けも待っている。
明日も続くというのならば、この有り様を放置することなどできようはずもない。
であるからこそ、多喜は空いたテーブルを片付けたりと大変だったのだ。
「すまないな、片付けを頼んでしまって」
キリカの言葉に多喜は笑う。
「バイト代、もらえるんだからしっかり働くさ」
「そう言ってもらえると助かる」
「それにしても……」
多喜たちの視線の先にあったのは、芋煮挺クルーたちのテーブル席であった。
あれだけ騒いだというのに、まだ彼等はお酒をしこたま飲んでいる。
特にオニバスの酒量がすごかったように思える。
「美味い料理、良い観劇。これらがあって酒が進まぬという方が無礼だ」
うん、と頷く彼の言葉にキリカは笑う。
美味いと言われる料理を提供する、その自負が合ったことは間違いない。だからこそ、そう言われるのは面映ゆくも感じるし、また素直に嬉しいとも感じるものであった。
「いやはや、美味いのう、姉さん! ワハハハ!」
「うん、本当にな」
フォーが餅つきの疲れとテンションの高さから、ヴィヴと肩を組みながら上機嫌にビールジョッキを煽る。
良い飲みっぷりである。
というか、と庚は思った。
彼女は諸々準備から手伝ってもらっていたが、実はすでにステージに上がった時点で出来上がっていたのではないだろうか?
そうでなければ、あのテンションの高さは異様……いやまあ、いつも以上に巫山戯ていたように思えたのは、これがお祭りだったからだろう。
楽しい時というのは一瞬だ。
刹那の時とも言っていいほどだ。
辛く険しい現実があるのだとしても、それでも祭りという非日常があるからこそ、歩むことができる。
10月の祭。
それは冬を思う祭りでもあるだろう。
時に収穫祭であるとも言えるし、一年の締めくくりを示すものであっただろう。
古来から続く連綿たる人の営み。
それが形を変えてオクトーバーフェストや、収穫祭、またはハロウィンといったものに変容していく。
けれど、その根底に在るものは変わらない。
いつだってそうなのだ。
人の心に喜びがある。
生きる喜び。
そうした物があるからこそ、人は前に進んでいける。
人生は辛く険しいことの連続だと知りながらも、それでも、その辛さ厳しさを忘れるような馬鹿騒ぎに興じることができる。
「あー……月が綺麗ですねー……」
『蓮』がそんなことを思ったかはわからない。
けれど、彼女の瞳に映る月の美しさは変わらないものだった。
開いていた瞼は徐々に落ちていく。
彼女が見上げる空は、少し地上より高い。
彼女が枕にしているのは、死屍累々たる酔いつぶれた来場者たち。
なんとも凄まじ光景であるが、彼女が会場内にてハイテンションのままに飲み比べで潰してきた猛者たちであることは言うまでもない。
普段の彼女からすれば、とんでもない醜態であるとも言えただろう。
明日は二日酔いと醜態を思い出すことで、それはもう死体と紛うかのような有り様になってしまうことは言うまでもない。
彼女の無茶によって『錬』と『れん』もまた影響を受けて大変な目に合うのだが、それはもう少し先のことである。
「ワァ……」
その光景を遠巻きに見ていた。
「生き残った……でありますか?
そんな凄まじい光景を見やりイヌイは呟く。
いや、生き残ったと言ってもいいだろう。とんでもない修羅場であった。
戦場の砲火の中を駆け抜けるよりも凄まじい戦いであったと言えるだろう。シラフの者が酔っ払いを相手にするとは、かくも恐ろしく、手間の係るものであるということを身を以て実感してしまっていた。
今度から気をつけよう。
それか、もしくは早くお酒が飲める年齢になりますようにと願うのだ。
酔いつぶれる側と、シラフ側。
どっちが良いかと言われたら、イヌイはきっと酔いつぶれる側が良いと断言するかもしれない。
「でも、皆さん楽しそうでしたね」
「三千六さんも、すごかったであります」
「そうですか? まだ、腹八分目……というのは、お恥ずかしいですね」
なんとも可愛らしく照れた顔をする三千六。
蓮とオニバスがとんでもない酒量を消費したクルーであるというのならば、三千六はとんでもない量を食べたクルーであった。
次から次にオーダーするキリカの料理をぺろりと平らげていた。
他の屋台の店主たちから、在庫がないから勘弁してくれと言われても、三千六の食欲はとどまるところを知らなかった。
祭りの陽気に当てられてハメを外しすぎたかもしれないな、と少しだけ反省する。
けれど、料理が美味しかったことは確かなのだ。
「キリカさんもありがとうございます。とても満足できました。特にローストしたお肉とチーズ……あのピラフは濃厚でお腹にズシンと来ました」
満足、というように彼はお腹を撫でる。
所作がいちいち可愛いのはずるいな、と思わないでもない。
「それは作り甲斐があったというものだ」
「芋煮もしっかりばっちり売り切れちゃったもんね!」
ルエリラはあれだけ作った来場者に振る舞った芋煮がすっからかんになったことを確認して胸を張る。
いやーがんばったがんばった。
そう言わんばかりであった。
「芋煮ばっかりでしたのに」
「楽しければ万事オッケーでしょ! んね!」
完璧美少女エルフは、どんな時だって笑顔でいるのだ。
楽しいねって笑うと、笑いかけられた者は楽しい気持ちになる。
いつだって笑顔でいられるのは、誰かが一緒にいてくれるからなのだ。
そういう意味ではルエリラにとって、今日のような馬鹿騒ぎのようなお祭りが一緒にできるクルーたちは得難い者たちであったかもしれない。
「今日は何点でした?」
「うーん?」
少し考える。
本当は考えるまでもないことなのだけれど、ちょっと勿体ぶってみたいものなのだ。
言うのは簡単だから。
「5000兆億点かな!」
ちょっとフザてしまう。
「桁!」
フォーが思わず笑ってしまう。
でも、そんな点数がでてしまうのも理解できてしまっていた。
掛け値なしに楽しいお祭だったのだ。
「これだけふざけまくったから。それもそうかもしんない」
ぐい、とまだ呑むのかフォーはジョッキを傾ける。
明日もお祭りは続くのだけれど、本当に大丈夫だろうか?
庚の体力は果たして朝日が登り切るまでに回復するのだろうか? 多くの疑問が渦巻く中、キリカは困ったように笑う。
「毎日がお祭り騒ぎであるというのも考えものかもしれないが……」
それでも楽しんでくれたものたちがいるというのは、充足感を与えてくれるものであったかもしれない。
「でも、堪能できたのは皆さんのおかげ様です」
ソフィアは酔いつぶれて眠ってしまったアカネの頭を膝に預けさせながら笑む。
月からの使者として地上にやってきた彼女にとって、このような祭りは大変興味深いものであった。
多くの者達が酔いつぶれ、夢心地である雰囲気が伝わってくる。
それがどれだけ大切なことかを彼女は知ったのだ。
「こゃぁん……」
ずぴーとアカネの寝息を聞いて笑む。
なんとも幸せそうだ。
アルコールのことはまだわからない。けれど、こんなに幸せそうな寝顔を見ていれば、何時かは自分も同じように酒の席を楽しむことができるかもしれない。
ときにはアルコールの怖さも知るだろう。
失敗だってするだろう。
それは怖さにつながるものであったかもしれない。
「もがもが……でも、やってよかったデス」
庚が口にぶち込まれたソーセージを漸く飲み込んで、息を吐きだす。
なんとか回復はしているのかもしれない。
空を見上げれば月。
忙しない一日であったし、忙殺と呼べる過密スケジュールであった。
でも、楽しい。
「であるな! 俺も多く学ぶことができた! 宮中への良い土産話ができたと思う!」
昇永もまた満足げだ。
この場に居た誰もが今日という日の馬鹿騒ぎを忘れることはない。
ともすれば、数年後にまた思い出すかもしれない。
あの時は大変だったね、であるとか。
あの時はみんな酔いつぶれてて、とか。
あの時の料理は、とか。
そんな他愛のない毎日の中の特別を思い出す。
その特別に思い焦がれることもあるかもしれない。かけがえのない、というのは、そんな凡庸なる毎日の中にこそ埋没している。
それを思いながら芋煮挺のクルーたちは、酔いつぶれた者たちを解放し、さらに続く月見オクトーバーフェストの日程を確認する。
それは一週間のデスマーチ。
一体全体誰がこんな強行軍を敢行しようと言ったのか。
もとより、こんな大変なことを思いつきでやってしまおうという行動力の有り余った者が悪い!
だが、最初に『月見がしたい』、『秋祭りがしたい』と言ったのは誰だったのか思い出せない。
もしかしたら、とクルーたちは思ったかも知れない。
誰でもないのかもしれない、と。
「なんかちょっと怖い感じにするの止めてもらえます!? いや、誰かいいましたよ、『月見がしたいって!」
秋の夜長は、まだ続く――。
成功
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