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クソ聖者との取引

#ダークセイヴァー #ノベル

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ジン・エラー




●過去の再演
「結論から入るが、ジン。俺と取引しな」
「それは別にいいけどよォ。なァ~~ンでこうなってんだァ?」
 二人の猟兵が落ちている。
 ここはキマイラフューチャーで、街並みはUDCアースの街並みのそれに近しい。
「前に派手なドンパチにお前らを誘った時があったろ」
「あァ。超高性能VR世界による『第二の現実』ってヤツなァ」
 二人が落ちているのは、ジンと呼ばれた男の口にする、『VR世界』とやらの空である。
 街のはるか上空に突如として二人の猟兵が現れて、そしていまは落下を続けていると、そういうわけだ。
「あの残骸がな、オブリビオンに乗っ取られたのさ」
「読めてきたぜ、段々とよォ。具体的に、何が乗っ取られたんだァ?」
 落下地点には、彼らを待ち受けるようにしてうごめく影がある。
 よく見ると人型であることが分かり、それぞれが武器を持っていることも分かった。
 ――オブリビオンだ。二人の猟兵に対して、並々ならぬ殺意を感じる。
「あの時、世界設定として入力したお前らのデータさ。本物に比べれば雑魚も雑魚だが、俺一人じゃ手に余る」
「クク……ヒャハハ……ウッヒャラハハ!!! オッケーオッケー上等じゃねえか、あの時の再現やれってんだろ!?」
 『アレら』は過去に猟兵たちがこの世界で戦った際のデータの名残――キャッシュのようなものに骸の海が宿ったモノ、ということらしい。
 無論、その実力は本物の猟兵たちと比較することすら烏滸がましいそれだ。
「その通り。ただしよ、今回は死んだら本当に死んじまうぜ」
「そいつはスリルがあるってモンだ、笑いが止まンねェなァ~~!」
 たしかに、今回はいつかとは違う。世界がオブリビオンの影響を受けている。
 肉体的にも精神的にも、受けたダメージは現実のものとしてフィードバックされるはずだ。
 うるせえ。それが何だって言うんだ、クソボケども。
「そいつは何よりだ。取引は成立とみなしてよろしいかな?」
「言うまでもねェ~~っつの。正純、見とけ。テメエも含めてよォ、全部まとめて――オレが救ってやるよ」
 テメエらみたいな猿真似のクズカスどもに――本物と戦い、本物と並び立った猟兵が負けるかよ。
 わざわざ集まってくれて助かるぜ、掃き捨てられる塵芥ども。見た目じゃなく、中身にこそ価値があるのさ。分かったかい、ハリボテくんたち。
「ヘッ、言うじゃねえか。好きに暴れな、ジン・エラー(我済和泥・f08098)。俺が合わせる」
「最初ッからそのつもりだよ、行くぜ正純ィ! ギャハハハ!」
 

●全員ぶっ飛ばす
「ジン、着地任せて良いか?」
「任せろォ。つゥ~~ワケでよォ……まずはお前らだァ!」
 全身から聖者の光を放ち続けるジンの身体能力は、現在を以て最高潮に達している。
 上空何千メートルからの落下であっても問題はない。彼は正純の身体をかつぐようにして空中で救急箱を振り回し、空中制動を当然のように行ってみせる。
 落下地点に待っているのは、改造戦車がひとつと二振りの槍を構える人型のそれ。
 風が唸る。ジンの振るう鎖が、世界を裂いている。
「あ~~らよォッ!」
「ナイスだジン、助かるぜッ!」
 落ちていくままの二人に飛び掛かってきた人型のオブリビオンへ、ジンは空中制動のために用いていた鎖をそのまま敵に振り回し、絡め捕ってみせる。
 敵は諦めずに槍を用いて二人を刺そうと試みるが、どうにも遅い。
「生温ィ~~なァ!? ニセモンちゃんはよォ~~!」
 技も力も意思も熱さも足らず、稚拙に槍を振り回すばかりの過去の残滓に怯える必要など存在しない。
 ジンは至近で顔面に向かって繰り出された槍を自らの歯で受け止め、そのまま槍を齧り折ってみせる。
 ついでに落下の衝撃はそいつをクッションにしていこう。
「改造戦車もだぜ。本物が見たら泣いちまうな」
 お粗末な機動力にお粗末な弾。正純はジンに抱えられながらの不安定な姿勢のままで、敵の改造戦車から発射された鉛玉を全て狙い撃ち、叩き落していく。
 そのまま砲塔に銃撃を喰らわせてやると、運転していたらしいオブリビオンはそのまま戦車の中でくたばっちまったらしい。ナンセンスだ。
「次はなんだァ?」
「銃手が二体、問題ねえよ。アイツらのに比べりゃ――」
 ジンと正純が無事に着地を行った瞬間、しかしてオブリビオンはそれを隙と見立てたか同時に攻撃を仕掛けてきた。
 短機関銃にシングルアクション式6連装リボルバー持ち。それぞれが猟兵を狙って射撃を行うが――。
「お遊びだな」
「違いねェ!」
 ただ狙って撃つだけの射撃など、歴戦の猟兵にとっては怖くもなんともない。
 更なる思慮が、更なる思い切りが、更なる悪辣さが、更なる技術が、オブリビオンの攻撃からは感じられぬ。
 ジンは正純を守るように体を張って前に出ると、敵の銃弾を全てその身で受け止めてみせた。
 工夫も何も必要ない、貴様らなどこの身だけで十分だと言わんばかりに。
「鴨撃ちだぜ、ベイビーども」
 ジンが生んだ時間を正純が使い、そしてオブリビオンに止めを刺していく。
 問題はない、まったく。盛り上がりに欠けるくらいか。
「まだまだいるぜェ~~、今度はオレにやらせろよォ!」
「まあそう言うな、俺もムカついてンのさ。アイツらの偽物ってヤツにな。競争といこう!」
 更に現れるのはガジェット装備、陰陽師装備、ヘビに蜘蛛。四人まとめてご登場というわけだ。
 ロープワークで無策のままジンに飛び込んでくる蜘蛛型のオブリビオンへ、ジンは救急箱で衝撃を受け止めてから、ハイキックで敵の顎を見事に捉えてみせた。
「粘りが足りねえなァ~~! オラオラァ!」
 ジンはそのままノックアウトしてしまったオブリビオンには目もくれず、遠くから強風を吹かせて様々なガジェットや工具を投擲するオブリビオンに対してさらに追撃していく。
「同感だね。本物に会いたくなってきちまうな――ジン! 光量増してくれ!」
「良いィィぜェェ~~!!」
 陰陽師装備とヘビのオブリビオンが徒党を組んで正純を襲う。
 敵の麻痺毒と霊符によって正純の動きが鈍るが、哀しいかな――偽物のそれでは効きもいまいち乗れないってモンだ。
 合図を受けて自身の光をさらに増していくジンの動きによって、辺り一面は救いの光に満たされていく。
 事前に目を閉じていた正純は無事だが、オブリビオンはその光に眩んでしまう。
「良い救いじゃねえか、聖者殿」
「ギャァ~~ハッハァ! そいつはどうもォ!」
 BLAM! BLAM!
 そして生まれた一瞬の隙をついて、正純は二人の敵を沈め――光と力を増したジンも、最後に残ったオブリビオンに止めを刺してみせた。
 ……いや、最後ではないな。
「オイ正純ィ!」
「何だ!」
「終わったら飯ィ。奢りだぜェ、テメエのよォ!」
「もちろん、こいつは取引だからよ……上等だ、ぶっ倒れるまで食わせてやらァ!」
「ウヒャラハギャハ! 良いのかよォ、テメエの財布に入ってる札、全部救っちまってもよォ!」
「やれるもんならやってみな! アレを倒して、さっさと喰いに行くぜ!」
「上等ォ! オイオイ、どうにもしけた光だなァ~~!? もっと笑えよ、こうすンだよォ~! ギャハハハ!!」
 最後に残った敵の光――いや、敵の影に向かって二人は駆けていく。
 そしてこのあと、正純はジンに財布が空になるほど飲み食いを要求されたとか、されなかったとか――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年10月18日


挿絵イラスト