いつもはお喋りな花たちさえ息を潜め、ひそりこそりと囁きあう此処は素敵な素敵な|お茶会会場《断罪劇のシーン》。
数日楽しく世界と遊び、|可愛らしいテディベアの友人《ゆかいな仲間たち》を作り、大きな川をみんなで作った舟で渡ったり、花のなくしものを見つけてあげたり、気難しやの青虫の悩み事を大図書館の本で解決したり、努力の報われない王子様を冒険譚と優しさで励まし笑顔にできたり――……沢山の冒険を経て、やっと扉を見つけた|アリス《迷子の“███”》。
扉を見つければこの世界は卒業だ。なら、祝いをしよう! と笑った王子を中心に、盛大に開かれたはずの幸福な茶会は反転した。
『アリス――いや、お前などアリスなどと呼ぶことさえ烏滸がましい!!』
『え……な、ど、どうしたの? ライオネル……』
|アリス《迷子の“███”》が瞳を瞬かせ王子の名を呼べば、ついさっきまで笑っていた王子は舌打ちし。向ける視線は心底嫌なものを見るようなものへとまるで“反転”してた。
全く理解が追い付かない|アリス《迷子の“███”》が隣の席のテディベアを見れば、彼もまた黒いビーズの眸をきょろきょろさせて困り顔。
『お前は僕に隠し事をしていたな!』
『え!?』
『お前は冒険の最中、本来僕が持ち揮うべきであったこの一対の魔剣を隠し訓練に足搔く僕を笑っていたと聞いたぞ!』
『……そんな!』
“その女を押えろ!”と叫んだライオネルによってお茶会のテーブルへ叩きつけられた|アリス《迷子の“███”》は動揺より何より、悲しみに暮れていた。
何せライオネルが掲げた魔剣——……それは青虫も花々も、大図書館の長老梟さえ眉を顰め忌避した“殺戮剣 ダインスレイヴ”と“勇者殺しの魔鏡剣 アンサラー”。
——たしかに、|アリス《迷子の“███”》が大図書館の本棚の裏で見つけた古地図の冒険を経て封印の綻びかけていた一対の魔剣を発見していた物だ。しかし、危険な魔剣をこの世界に出してはならないと共に冒険の旅に来てくれた青虫と長老梟、知恵者の花々、魔法使いのテディの力を借り、封印した――はずだった。
『なんで……なんで、ライオネルが持ってるの!? 梟のおじいちゃんが、それは危ない剣だって……世界を壊しちゃう剣だって言ってたの! お願い、やめて!』
『……——世界を壊す? あぁ、またお得意の嘘か。いいだろう、最期に教えてやる。恥ずかしがりやな僕だけのアリスが、僕に全ての|真実《虚偽》と|愛《嘘》を教えてくれたんだ! お前も偽物だと!!』
いつからおかしくなってしまったの? なんて、誰にもわからない。
ほんの一瞬ライオネルの後ろに見えた黒い靄めいた影が笑うと、|アリス《迷子の“███”》の首が飛ぶのを見届け掻き消えた。
●真実を述べよ
「——ってぇワケでとんだクソ事件ってぇ話なんだけどぉ」
証拠もねぇのかよと鼻で笑った都嘴・梓(|嘯笑罪《ぎしょうざい》・f42753)が大きくため息を一つつくと手にしていた煙草を灰皿で潰し、書類を掲げうっそりと猫のように笑む。
「こぉんな証拠もねぇ妄想野郎の裁判、ひっくり返してくんない? みんなはアリスちゃんと最後の冒険——“魔剣封印譚”に滑り込んで“|もらっていた《真実を知っている》”ことになってるから」
魔剣の地図発見から魔剣を発見、封印の儀——へ、同行した生き証人。
魔剣が封印されたことも、封印の儀が実は命がけであったことも、知っている。世界を守りたいと願った仲間たちの心も知っている。
「お茶会なんてかこつけた断罪劇、ぶっ潰そ! ちなみに青虫と梟、魔法使いと花はお城の地下牢。だから救出へ行く人と、“異議あり!”って時間稼ぎをする人に分かれるとスムーズかも!」
“遅くなったり行かなければ、地下牢の彼らも殺されるよ”と添えた梓の言葉が、時間のなさを示す。
「お茶会なんてかこつけた断罪劇をひっくり返して、トチ狂った王子をぶん殴るオシゴト、よろしくね!」
再び梓が手にした煙草から煙を吐く。ふわりと踊った白きそれば騒めくお茶会会場へ猟兵を導いた。
皆川皐月
お世話になっております、皆川皐月(みながわ・さつき)です。
急増捏造悪役物語。本当のジョーカーとは誰なのか。
●現場
お城の薔薇庭園で開かれた|アリス《迷子の“███”》を送るティーパーティ――だった会場。
●第一章:『首切り裁判』⛺
|アリス《迷子の“███”》に着せられた濡れ衣を吹き飛ばしましょう!
“原作”を塗り潰された王子様は反転し、お茶会は断罪劇の舞台となりました。
ここからの逆転劇を演じ、|アリス《迷子の“███”》、地下牢の仲間たちを救出を!
●第二章:『悪の王子ライオネル』👿
優秀であろうと努力していた輝ける王子は、何者かによって|物語は塗り潰され《嘘塗れの黒塗りにされ》てしましました。
魔剣と力に呑まれた王子を打倒さねば、この物語は終われない……!
●約束
公序良俗に反する行為、未成年の飲酒喫煙、その他問題行為は描写しません。
●同伴人数
いずれも冒頭に【ID+呼び名】または【団体名】をご明記下さい。
・オーバーロード使用なし:ご自身含め2名まで。
・オーバーロード使用あり:人数上限無し。
※同伴者全員オーバーロード適用必須でお願いいたします。
皆様のご参加、心よりお待ちしております。
第1章 冒険
『首切り裁判』
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POW : ハッタリも辞さずに、理不尽な求刑に真っ向から勢いで対抗する
SPD : スマートな尋問で、「アリス」や証人役をあてがわれた疑似生物達の証言を引き出す
WIZ : 情や思想に訴えかけて、裁判員役をあてがわれた疑似生物達を味方につける
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
儀水・芽亜
この小世界は、もうお終いのようですね。とにかくアリスを助けませんと。
ライオネル王子、最早ことの理非も分かりませんか? アリスはこの世界のためにその二振りの魔剣を封印したのです。
そんなもの、誰であろうと持つべきではありません。きちんとアリスが封印したことは、供に冒険の旅を乗り越えた私たちが知っています。
あなたは、ただ側にいるだけの何者かから、都合のいい話を吹き込まれているだけではありませんか?
あなたの迷妄、既に手遅れのようですね。
アリスを抑え付けているものたちを引き剥がし、私たちの背後へ匿います。
サイコフィールド展開。
ここで時間を稼いでいるうちに、アリスの仲間達を他の方が助け出してくれれば。
優雅にカップを傾けかけた手を置いた儀水・芽亜(共に見る希望の夢/『|夢可有郷《ザナドゥ》』・f35644)は、アリスを糾弾する王子に困惑する周囲のぬいぐるみや花々には気付かれぬようにそっと溜息をついた。
実に滑稽な王子の姿に、この小世界の行く末を憂いたくなるのも無理からぬというものだ。
「(……こんなことでは、この小世界はもうお終いの様相ではないですか)」
“世界を滅ぼす魔剣”など、誰が喜んで授かるものか。
寧ろそれを災厄と気付けず、世界を救おうと“無関係”の世界に恩を感じ命かけたアリスを責めるなんて——。
「(さすがは魔剣に選ばれし者——などと嫌味を言っている暇もありませんか。とにかく、アリスを助けませんと)」
“猶予はないからね”と前置いていたグリモア猟兵の言い口を思い出した芽亜が敢えてわざとらしく椅子をガタン!と鳴らして席を立てば、一気に周囲の注意を引くことに成功する!
「——ライオネル王子! 最早ことの理非も分かりませんか?」
『……貴様、今何と言った』
ギロリと芽亜を睨むライオネルの視線だが、銀の雨降る戦線を幾度も超えた経験のある芽亜からすれば退くほどの恐怖も感じない。
「“異議あり”、と申しております。アリスはこの世界のためにその二振りの魔剣を封印したのです。その魔剣のお力、もうご存じなのでしょう?」
視線と言葉を返せば、怯みもしない芽亜に笑ったライオネルが一本の魔剣を抜く恍惚とした表情で鈍く光る刃に頬を寄せて囁いた。
『|██《殺戮》の——そう、俺を|███《殺戮者》へと変える魔剣、だろう? これさえあれば……! 俺はもう、誰にも負けることなどない!』
「(……彼は今、なんと? どういうことですか、聞き取れないなんて……!)」
きっと、もうとっくにこのお話は狂っている。
破り棄てられたページはポットの茶を沸かす炎へくべられ、|本来の祝福《本当に書いてあった言葉》は閲覧禁止の黒塗りに! 赤ペンで“王子は傍若無人に”と書き入れた悪魔は一体誰!?
「っ! そんなもの、誰であろうと持つべきではありません。きちんとアリスが封印した意味も、理由も、供に冒険の旅を乗り越えた私たちが知っているのですから!」
芽亜がそう叫んだ瞬間、王子の目から色が抜け落ち殺意が増した。
悲鳴すら上げられぬほど怯えた招待客たちがすすり泣く中、王子がぽつりと呟き獣のようにニヤリとわらう。
『……——なら、貴様の首も飛ばさねば』
「そろそろ正気に戻ってはいかがでしょう? あなたは、ただ側にいるだけの何者かから都合のいい話を吹き込まれているだけではありませんか?」
『だまれ』
「いいえ」
『黙れ!』
「いいえ、例えあなたの迷妄が既に手遅れだとしても——」
カツンと芽亜の槍 アリスランス ディヴァイン・ユニコーンが床を突いた瞬間それは花開く。
UC—サイコフィールド—!
「アリスとアリスの心をも救うと、決めていますから」
『……そんな、だめ! あなたは逃げなきゃ!』
UCでアリスを押える兵士を眠らせ引き剥がした芽亜が凛然とアリスを庇えば、庇われたアリスが悲痛な声で叫んでいた。
——兵士が迫っている。
「(……皆さま、どうか)」
アリスの仲間をも、残らず救える優しき未来を願いながら芽亜はただUCを展開させ迫る武器の群れを捌き続けてゆく。
大成功
🔵🔵🔵
一ノ瀬・漣
現代日本の流行りがこんなとこまで波及してるとはねぇ…
単なる偶然かもだけど
なんにしても、これエンタメだったらお粗末過ぎ
てか、胸糞悪すぎ
さーてと、オレは仲間の救出に行こーかな
UC発動
【The Seeker】で地下牢までの最短距離を探す
途中、牢番や巡回兵とかの敵陣営に遭遇したら
【Whole Lotta Love】発動して視線と声で懐柔しちゃおう♪
ごめーん、地下牢ってどこかな?
鍵も持ってたらちょーっと貸して欲しいなー
あ、キミ達は休んでていいよー
ここで会った事は内緒ね?
ファンサ的な笑顔もつけちゃう
時間食いそうなら眠らせとこ
焦りはしないけど急ぐよ
ゲットした鍵で牢を解錠して救出
みんな、アリスを助けに急ごう!
大きな溜息を一つ、同法が時間を稼いでいるのを薔薇の生垣の隙間から確認した一ノ瀬・漣(Pour une infante défunte・f44080)は、アリスと同胞を糾弾する王子 ライオネルの視線が向く前に踵を返す。
「……さーてと、オレは仲間の救出に行こーかな」
UC—I Want It All—with UC—The Seeker—!
愛器を爪弾き成した音符のソナーがシャボンのように弾け遊び、茨に遮られる次々に安全な道を見つけてゆく。
「(紅い薔薇の生垣は、此処が抜け道!)」
茨の生垣へ飛び込む恐怖は身を包む柔くも堅い音色の守護が奏で紡ぐ主を守り、次の音符ソナーの見つけた白薔薇の生垣は弾む音色でホップ、ステップ、ジャンプ!
「(白を越えた、らっ!?)」
『てきにゃ!てきにゃ!』
『しんにゅーしゃにゃ!』
わあわあと騒ぐ積み木猫の兵隊とタイミング悪く遭遇した漣は即座にネックを押える指を変え、爪弾く音を変化させる。
「カワイイお客さん、きみたちに一流の音ってヤツを聴かせてあげるよ」
UC—I Want It All—with UC— Whole Lotta Love—!
「——ね、ぶつかっちゃってごめんね。ごめんねついでにさ、“地下牢”って……どこ?」
『はにゃ?』
『ほにゃ?』
積み木の猫兵隊はこてんと首を傾げてお互いを見つめ、またぐるぐる眼で漣を見るとこてんと首を傾げて尻尾を振り振り。まん丸のお手てで指さしたのは、大輪のオレンジの薔薇の生垣で。
『あそこ、ぴょんしちゃだめにゃ』
『にゃーたちいがいがぴょんすると、ぐさーってにゃるにゃ』
つまり、積み木の兵隊がワザワザ薔薇園に配置されているのには理由があるということだ。
「……——で、そのあとはどっちへ行ったらいいのかな?」
『『ん-と』』
『みずいろにょばら、ぴょんするにゃ!』
『あおいばらに、どーんてするにょ!』
『にゃ?!』
『にょ!?』
漣が優しく目的地への続きを促せばあら不思議、微妙に異なる回答が返ってきてしまった。
「えっ」
『うそつくにゃ!』
『おみゃえこそ!』
わーわーにゃーにゃー喧嘩を始めたおチビさんたちを避けた漣は“またね”と笑ってオレンジの薔薇の生垣を抜けた先で漣を待ち構えていたのは、積み木の猫兵の言う通り水色の薔薇と青の薔薇!
「なら、見抜くまででしょ!」
ィン――と弾いた弦の生み出す音波が爆ぜた先、続くのは神の奇跡とうたわれる青薔薇の方!
「どうにでもなーれ! ……っと、ふぅ」
先があるのならば抜けるまで! と飛び込んだ先、暗くも巨大な兎穴を抜けた先にはひんやりとした石畳が待っていた。
「それにしても……驚いたな、現代日本の流行りがまさかこんなとこまで波及してるとは」
服を払いながら道中考えていたことをつい口に出せば、漣の声が緩やかに反響する。その具合ですぐに環境の変化を感じながら漣が油断なく愛器を構えれば、茶会のような騒めきも警戒していた牢番の気配もない。
「……静かすぎて逆に怪しい、けど」
昨今のインターネットノベルやそこから漫画になり人気になる作品のジャンルとして増えたのが、所謂“悪役令嬢もの”や“実は正義と思われたヒロインこそが真の悪役!”なんていう、今までの王道視点から少々趣向を変えた作品は、元悪役の主人公が過酷な環境に巧みな手腕を発揮するほど人気が高い。
漣にもアニメ化が決定した作品のOPやED曲る候補にノミネートされているとマネージャーから聞いたことがある——なんて余計なことまで思い出す余裕があるほど、この場—地下牢—は静寂に包まれていた。
「……異世界ヒロインをどうにかすればお終いなんて、これがエンタメだったらお粗末過ぎ。——てか、胸糞悪すぎ。でも、こーいうメインストーリー外の警備が雑っていうのも、まぁ、」
普通では入れない地下牢は、秘密の入り口。
まるで夢見るストーリーにこんな乱暴なものはいらない、とでもいうかのように“世界から切り離されている”空気さえ漂っているのだから始末が悪い。
ジメジメとした地下牢には黒い鉄格子がずらりと並び、長い廊下は——……。
「ん?」
奥から弱々しく悲し気な、聞いているこちらも悲しい歌声が反響している。高所からひょいと取った炎弾ける蝋燭を燭台に差し、苔塗れのカギを拾った漣は走った。
焦りはない、だがあまりに——あまりに、声が寂しくて。
「お待たせ! ——さぁみんな、アリスを助けに急ごう!」
ヒーローのように躍り出た舞台へ明かりを差そう。
あの時救われた自身へ、相棒が光の差し方を教えてくれた時みたいに。
大成功
🔵🔵🔵
ラップトップ・アイヴァー
◎
《あらまあっ大変っ!
王子様が反転してしまいましたわ!?
突然過ぎて何もかもが――このままアリスの思い、冒険を踏み躙らせるわけにはいきませんわ。
正々堂々と、あなたに突きつけてみせましょう……!
……バカ姉がまた散々バカやらかしたのでこんな感じで今日はずっとお姉ちゃんの真似をしながらお姉ちゃんに内緒で冒険をしてました。というかみんなにも内緒だけど……
ただ急すぎて粗があるんだよね、この反転具合。
そこを潰す勢いを作りたいから……Levelかなあ?
瞬間思考力で勝負すれば、向こうがどんな求刑や無茶苦茶を言ってきたって、シャッと丸めこめる気がするんだよね。
優しさは置き去りにしないよ。物怖じもどもりもせずに立ち向かう姿を、仲間のみんなや裁判員役の子たちにも見せて……勇気を与えることで、ちょっとでも理不尽を減らせていけたらいいな。
そもそも魔剣を隠すことなど彼女には出来やしないのですわ。命をかけることさえ必要だったというのに、どうして悪意に身を任せる時間があったのでしょうね!?
後は救出は、他の人にお任せかな》
白は黒へ——染まれば二度と戻ることは無いのが“現世の常”だ。
「あら、まぁ」
“大変!”やら“突然すぎて……!”なんて慌てた風に言葉を発したラップトップ・アイヴァー(動く姫君・f37972)だが、|内心《みき》は冷静だった。
先んじている同胞がアリスを後ろに隠し王子と問答を繰り広げているが、にじり寄る兵隊の槍の切っ先が迫っている。あまりに多勢に無勢となれば後ろのアリスとてあの至近距離では類が及ぶ可能性も——……。
「(……——まぁ、お姉ちゃんの真似っこは一旦いいとして。まず、)」
——いつからこの王子は反転した?
封印されたはずの魔剣を手にしてから?
“本物のアリス”とやらに逢ってから?
「(……ううん、きっとそんなのじゃない。まず王子側に|不和の芽《付け入られる隙》があったんだよね。きっと、アリスも気付かないような……それこそ、ちょっとずつの)」
綻びが生んだ崩壊は、粗の目立つ急拵え。あまりの雑さに演劇というものに精通しているほどではないみきだって、思わず溜息をつくレベルだ。
反転、というより騙されて正道ではない道を正道と“信じ込まされている”ような——……?
「(まぁ……みきも、お姉ちゃんがバカしたからってお姉ちゃんの真似しながら戦ってたけど、)」
みきとシエルの内情は、あくまで“入れ替わり”。決してこんな“素人の塗り替え”たような風体ではい。
既に発動しているUC—Level—、瞬間思考力、の会話から|ラップトップ《シエル》の見出した違和感——それは、王子の言葉の端々から感じる“焦り”だ。
「(すっごく、急かされてる……何に? 魔剣? アリス? んん~……まだ情報が足りない、よね)」
なら情報を得なくては。
姉の如く堂々と伸ばした背筋をまっすぐに、鳴らした踵と瞳に炎を燈し|ラップトップ《みき》はアリスの前へ出る!
「——私も異議がありましてよ!」
『ええい、まだいるか!!』
「ええ。私、|あの道程《封印の旅》を知る一人として閉じる口はございません! そも、その魔剣は世界を壊すもの……たった一人の力で封印は成し得ない、この世の異物!」
ビシリとライオネルがアリスへ向けた魔剣を指さした|ラップトップ《みき》は|姉《シエル》の如く——しかし、みきの思考力を以って言葉を紡ぐ。
『……ハハ。この力が異物? あぁ、弱小の力無きものばかりのこの国ではそうだろうなぁ!!』
「まぁ品性の足りないご回答ですのね」
『! きっさま……!!』
「あら失礼……命を懸けてでもその魔を封じ、この世を救おうと身を尽くす——その懸命さの最中に、いつ悪意に実を任せる時間がございまして?」
王子の言葉を鼻で笑ってやれば、カッと顔を赤くしい怒った王子が吼えようとしたのを片手を前に出し制しながら|ラップトップ《みき》は思考する。
王子の、アリスだけではない国民諸共——……ひいては王子自身さえ罵倒するような言葉に思わず|ラップトップ《みき》は片眉を跳ねさせた。
「(|力無きものばかりのこの国《・・・・・・・・・・・・》? 待ってよ、なんでそんな他人行儀な、……——まさか!)」
違和感どころではない。王子は、|おかしい《狂っている》なんてものではないのなら。
王子は——|ライオネルは、もうライオネルではない《・・・・・・・・・・・・・・・・・・》!!
「っあなた、まさか!」
『……あぁ、全く。どいつもこいつもウルサイ! どうせ、この世界諸共死ぬくせに! 元々こんな弱い奴ら、いらないんだ!!』
違和感なくシエルの真似をし続ける|ラップトップ《みき》の言葉を遮り、王子 ライオネルが暴言を吐いたその時——!
『~~~~っ、おうじさま ひどい!』
テディベアの中でも一際小さなぬいぐるみが、震えながら叫ぶ。
円らな瞳に硝子粒の涙を溜めて、力一杯叫んだのを皮切りに誰も彼もが次々に声を上げて。
『おうじさま こわい!』 騒めいていた時に誰かが言った“こわい”の真似。
『おうじさま ひどい!』 アリスの叫びの真似。
『『『『おうじさま いらない!』』』』 王子 ライオネルの言葉の——真似。
テディベアたちの大合唱にアリスも猟兵も、そして言われているライオネルさえ呆然として……そして、ぼんやりと瞳の色を元に戻していたライオネルが唇を震わせ泣きそうな顔で呟いた。
『……なんだ、僕は“やっぱり”不要なんじゃないか』
『ライオネル……? 待って、』
「アリス、いけませんわ!」
「お待ちください、アリス!」
猟兵たちが止めるのも振り切ろうと暴れながら、|アリス《迷子の███》は|ライオネル《本当の王子様》へ手を伸ばす。
『やだよ、いかないでライオネル!!』
虚しく空を切り届かなかったその手は風に吹き飛ばされ、猟兵もアリスもテディベアたちも兵士さえライオネルを中心に巻き起こされた風に吹き飛ばされていた。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『悪の王子ライオネル』
|
POW : 殺戮の魔剣
自身の【魔剣】が輝く間、【魔剣ダインスレイヴ】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
SPD : ワールド・エンド
レベル×5本の【切断】属性の【空間の断裂】を放つ。
WIZ : 魔鏡剣アンサラー
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【魔法を反射し、術者へと返す剣】で包囲攻撃する。
イラスト:うにび
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ヒューベリオン・アルカトラズ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
儀水・芽亜
全く、気分の悪くなる話です。虚栄心だけ膨れ上がらせたエゴイストに、引導を渡してくれましょう。
「先制攻撃」で状況を把握します。
「全力魔法」「範囲攻撃」「魔力吸収」「結界術」「呪詛」で蝶霊跋蠱。
それと同時に真の姿へと変身。さあ、揚羽蝶たち、あの偽物王子に集ってあげなさい。
反撃は揚羽蝶の渦が全て受け止めます。この結界、破れるものなら破ってみなさい。
魔剣に集った黒揚羽を通して「封印術」を施します。それはあってはならない忌避の魔剣。次はしっかり封印しなくては。
戦いはこれからですよ。一応「逃亡阻止」も意識しておきますか。
あなたはここで確実に討滅します。
※二倍になるのは芽亜の身長ではなく揚羽蝶の群の数と体長
「(……テディベアの住民たちは、あまりにも無垢で幼さすぎますね)」
大合唱に盛り上がっていた彼らは今やライオネルの巻き起こした暴風に吹き飛ばされ転がったまま“いたいよ”と幼い声で泣いている。
そんな姿を横目に、儀水・芽亜(共に見る希望の夢/『|夢可有郷《ザナドゥ》』・f35644)は内心で溜息をつきながら呻く王子 ライオネルを見据え、油断なく構え直していた。
「(このボタンの掛け違えのような今を生んだのが真の黒幕ならば、)」
同胞が揺さぶりをかけたことで起きたぬいぐるみたちの怒りによって垣間見えた、王子の弱さの片鱗——それはおそらく、芽亜たちが静止した|アリス《迷子の███》が本当に守りたかったものなのだろう。
つまり、アリスも——そして王子も、互いを想いあっていた。そしておそらく、住民だって二人のことは好きだろう。
「……全く、気分の悪くなる話です」
『何だと……?』
そこまで思考を巡らせた芽亜がわざとらしく肩を竦め溜息をついてやれば、ライオネルの視線が吊り上がる。
「あら、教えて差し上げましょうか。——虚栄心だけ膨れ上がらせたエゴイストな魔剣に、“もう一度”引導を渡してくれましょうと言ったのです!」
連綿の気合と共に踏み出した芽亜の繰り出すディヴァイン・ユニコーンの一撃を魔剣でギリギリ往なしたライオネルが吼えようとした時、至近距離に迫った芽亜の唇が紡ぐはユーベルコードを放つ合図!
『っ、グ』
「あ、揚羽蝶たち、あの偽物王子に集ってあげなさい!」
UC—蝶霊跋蠱—!
真の姿へと変じた芽亜の呼び出す揚羽蝶が羽搏き王子へ襲い掛かるのをよそに、素早くライオネルから|アリス《迷子の███》と住民たちを隔てる結界を紡ぎあげた芽亜は切り払おうとも襲い続ける蝶の群れに苛立ちの声を上げていた。
『おのれっ、おのれおのれおのれ!! えぇい、邪魔をするな!!』
「反撃しようとて無駄なこと……私の揚羽蝶が、貴方の攻撃の全手を受け止める。その蝶の結界、破れるものなら破ってみなさい」
更に魔剣へ黒揚羽を集わせた芽亜は黒揚羽を通し織り成す“封印術”を|今度こそ《・・・・》完成させんと気を張りながらも、王子の動きを補足し続ける!
「——それは決してこの国……いえ、世にあってはならない忌避の魔剣。次はしっかり封印しましょう。魔剣、あなたはここで確実に討滅します!」
『されてっ、たまるかぁぁあああ!!!!』
絶叫しながら蝶を切り払い続けるライオネル——否、魔剣と芽亜の攻防は凄まじくもその背と結界に庇われたアリスは泣きながら神に祈るように手を組み、小さく“おねがい”と呟いたことに芽亜は気が付いていた。
「なにせ私、あなたと違って無垢な願いを背負っていますから——!」
訳も分からぬ異国の危機に命を掛けようと思ったアリスは、きっととびっきりのお人好しだ。
誰もが好きになってしまうような、夢のような女の子。そんな子が人らしく、歳相応にした小さな恋心に祈るというのなら。
「(青春も死と隣り合わせの冒険もしてきた先輩として一肌脱ごうではありませんか!)」
●銀の雨降る世界より、とある|夢見の国《ワンダーランド》の迷子へ
大成功
🔵🔵🔵
ミーヤ・ロロルド(サポート)
『ご飯をくれる人には、悪い人はいないのにゃ!』
楽しいお祭りやイベント、面白そうな所に野生の勘発動させてくるのにゃ!
UCは、ショータイムの方が使うのが多いのにゃ。でもおやつのUCも使ってみたいのにゃ。
戦いの時は得意のSPDで、ジャンプや早業で、相手を翻弄させる戦い方が好きなのにゃよ。
口調だけど、基本は文末に「にゃ」が多いのにゃ。たまににゃよとか、にゃんねとかを使うのにゃ。
食べるの大好きにゃ! 食べるシナリオなら、大食い使って、沢山食べたいのにゃ♪ でも、極端に辛すぎたり、見るからに虫とかゲテモノは……泣いちゃうのにゃ。
皆と楽しく参加できると嬉しいのにゃ☆
※アドリブ、絡み大歓迎♪ エッチはNGで。
「……ひどいにゃ」
怯えながらも幼く反抗するテディベアの住民たちを宥めることに奔走していたミーヤ・ロロルド(にゃんにゃん元気っ娘・f13185)は、その耳が捉えた王子の本音に思わず眉を下げていた。
どうして、なんて。
なんで、なんて。
世界を救うという冒険に一生懸命になりすぎたアリスは決して悪ではなく、その輝ける姿に気後れした王子も決して悪ではない。
……本当に、純粋に、ただのボタンの掛け違えだ。
些細なことの積み重ねが、王子を描き替えた|真の悪《オビリビオン》に付け入る隙を与えたに過ぎない。
「みんながみんな、お話しする時間が無かっただけなのにゃ……」
アリスを助けた仲間だって、王子を守り支えていた兵士たちだって、きっとどこかで分かっているはずなのだ。王子が悪くないことなど、ちゃんと。
……——何しろ先程からずっと、王子を糾弾した国民たるテディベアたちはつぶらな瞳をうるうるさせてぽろぽろ硝子粒の涙を溢しているのがその証拠。
『どうしよう』
『王子様、泣いてたよ』
『ぼくらひどいことしちゃった』
ひそひそ。こそこそ。ぐすんぐすん。
相談しては困り顔になり、囁き合ってはまた泣いての繰り返しだ。あまりに憐れな姿とその幼さと愛らしさに涙を誘われそうになりながら、ぎゅっと勇気を振り絞ったミーヤがけほんこほんと咳払い。
猫型デザインの愛らしく、空色に輝く肉球マークがチャーミングなシンフォニックデバイスを装着したミーヤがすっくと立ちあがり、ぐっと拳を突き上げる!
「みんな! 泣いている場合じゃないにゃ、王子様を怪我させずに助けるためのお手伝いをぜひしてほしいにゃ!」
戦いは決してダメージを与えることだけに在らず!
『どうするの?』
『ほんと? できるの?』
騒めく国民たちへ、ティーパーティのスイーツで元気のチャージ満タンなミーヤは告げる。猟兵諸共王子を癒し、今真に斃すべきは一対の魔剣であると。
その言葉にひそひそと不安気に話し合っていたテディベアだが、一際大きなテディベアがゆっくりと立ち上がると、大きな声で“ぼくやるよ!”と一番に声を上げていた。曰く、誰よりも大きく生まれてしまった自分を心配し、遠い森へ王都から一番に駆けつけてくれたのは王子だったこと。仲間外れにされていた自身を救い、今日だけではなくお茶会にはいつでも呼んでいてくれたことも。
『王子様は、本当は優しい! あんないじわるな、変な奴じゃない!』
「——うん! 良いお返事にゃ! じゃあみんな、ミーヤの歌に合わせていっくにゃー!」
UC—シンフォニック・キュア—!
●君の分けた優しさがいつか君を救いに来るものさ
成功
🔵🔵🔴
ラップトップ・アイヴァー
◎
《うっわ、
丸め込むとかそういう話じゃないかも。
もう全く、王子の全部が別物に書き換えられて。
まるで最初から要らない子扱いさせるみたいに。
考える暇も、元の物語も全く尊重させずに、とか。
酷いにも程があるったら。
……無茶苦茶。
なら美希だって、無茶苦茶していいよね?
お姉ちゃんを引き続き再現したって、何も文句ないよねっ?
風で今吹き飛ばされてるこの体勢は根性で立て直して、瞬間思考力とクイックドロウで優雅に素早くエアをぶっ放して射撃してくの。
でもこっちがUCを入れるタイミングで向こうのも来るってことは……9倍の攻撃回数、避けるのが中々大変っ。
避けきれない分は激痛耐性と継戦能力で我慢。それから、向こうに何も傷つけさせない勢いでそのまま。向こうが何か生命を害そうとしたら、それは優先して庇い防御していくの。
こんな風に書き換えたのは、誰なんだろう。
後できっちりと突き止めたい、アリスの想いにも応えたい。
でも、今は、ちょっと、これしかないかな。
UCで精一杯、優しさに溢れた一撃を。
……少し、休みなさいな》
なんてヘドの出るような物語か。
「(……うっわ、なにこれ)」
みきだってシエルだって、苦虫を嚙み潰したくなるような……いっそ、ダークリーガーの方がまだ潔いと感じられるような醜悪な“|書き換え《改悪》”に怖気が奔る。
——まず、オブリビオンは元より“王子”なんて駒の一つとしてしか見ていなかったのだろう。だから途中まで見目さえ同じなら、それで良かったのだ。
「……ことが起これば、いくらめちゃくちゃにしたって壊したってエンディングになる――ってこと?」
随分とナメた真似をしてくれる。
|オブリビオン《アリス騙り》は猟兵諸共この|物語《世界》を破棄し、それで済むとでも思っているのだろうか。
「|みきたち《猟兵》もこの国も、馬鹿にしないでよ……!」
腹の奥から燃え上がるような感覚がする。決してここで引いてはならぬと、ラップトップ・アイヴァー(動く姫君・f37972)という|一人《二人で一人》の人間の魂が叫んでいる!
走り出す体に合わせるように|ラップトップ《みき》は思考を回す。まず一つ目、断言できるのは“決して、王子は要らない子なんかじゃない”ということ。
泣き叫び、王子に“いかないで”と言ったアリスが本当に心から願ったのは“王子の無事”じゃないだろうかという乙女の勘は、きっと当たっているはずだから!
「——ねぇ、ご本も読んだことない魔剣さん? みきが教えてあげる――この素晴らしい|国《物語》の“|本当のエンディング《ハッピーエンド》”を!」
『何を小癪な——!』
酷い話なんかじゃ終わらない。これから始まるのは世にも眩いどんでん返し! 猟兵お得意のハッピーなエンディングってやつを見せてやる!!
「そう、小癪でおしゃまでおしゃれな素敵なお姫様のみきが、|お姉ちゃん《シエル》の代わりに教えてあげるっ」
反論は聞かない。このアリスラビリンスとは異なる世界において原初の法典と呼ばれし法にはこうあった。目には目を、歯には歯を!
なら、お話を滅茶苦茶にしようとした奴には滅茶苦茶を!
「(ユーベルコードを放てば返しが来る。でも、9倍ってちょっと多すぎなの!)」
内心悪態をつきながらもエアを抜き打ち放つクイックドロウで抜き打たれた魔剣の柄頭を撃ち重心をズラし躱して一撃。
『っ、まだ!』
「みきだって、負けないのっ!」
振るった蹴りを殴り落され踏み込むライオネルの突きに腹を抉られようと、みきに引く気はない。祈るようなテディベアの国民とアリスが待っている。兵士だって、どこか怯え、救いを待っているのだから!
「(ここは絶対——引けないの!)」
エアの銃床でライオネルの肘を殴り上げ、突き飛ばすような当身で体勢を崩そうと負けじと踏み込むライオネルの動きは訓練されたもの。つまり、真の王子 ライオネルが少しずつでも積み重ねた鍛錬の賜物がその体には残っている。ゆえに、まだライオネルは芯まで乗っ取られてはいない!
ハッピーエンドをもぎ取る為に、お姫様はただ|光《ほんとう》を呼び覚ます!
「ねえ、王子様。強がることだけが強さじゃなくて、誰かを踏みつけることだけが強さじゃない」
『……~~~~貴様に、何が分かる!!』
「——分かるよ。すっごく優秀な人が近くにいると、辛いよね。でも、世界には沢山の強さがあって」
数多のオブリビオンにも同胞たる数多の猟兵にも形の違う強さがあることを、アリスとは異なる数多の冒険をしてきた|みき《ラップトップ》は知っている。
己の弱さを突き付けられて、沢山の苦い涙を呑んだ。
痛みに泣き叫べればどれほど良いかと苦しみ、打ち勝てぬ相手の才能と機微に閉口したこともある。
「この温かい世界を、ずっと守ってきたんでしょ? なら、今|こんなもの《一対の魔剣》なんかに負けてる場合じゃないの。そろそろ起きる時間なのよ!」
UC—R2@: Flash—!
抉るような右ストレートは|姉《シエル》直伝の下から回転するように打ちだされるバレットパンチ!
輝ける拳を頬に捻じ込まれた王子から、まとわりつく悪意の片手が剥がれ落ちてゆく。
●スパイスの効いた一撃には甘いお菓子がよく合うの
大成功
🔵🔵🔵
一ノ瀬・漣
魔剣がライオネルを操ってた…ってトコ?
王子様の自我、まだ残ってそうだったけど…
救えるなら救いたいよね
…ふふ。また梓に「優しいね」って言われちゃうかな
さぁてと王子様――いや、魔剣様、かな?
是非オレと一手お相手いただきたい…んだけど
ちょーっとここ、ギャラリー多くない?場所変えない?
みんなに飛び火したら危ないし…
――なーんて焦ると思った?ざんねーん♪UC
アリスを含む極力多人数の住人達を囲える位置で【Fix You】
みんな、この空間から出ないでね?
空間を断絶?やれるもんならやってみなよ
オレの歌唱と楽器演奏への情熱は、そんな簡単に敗れないよ?
【Highway Star】の歌に託すのは本物のライオネルへの言葉
誰も彼も|自分《王子》のことなんて二の次で
大したこともできやしなくて
親の七光り 権力財力 王子であれば誰でもいい
でも、お前がお前を棄てるなよ
自分で自分を信じないで、誰がお前を信じるんだ?
自暴自棄にはまだ早い
一度くらい腹の内ぶちまけろ
オラオラ良いとこなんだから魔剣様は邪魔しなーい
麻痺付与しとこっと
「(——なるほど)」
判然としていなかった何かが一ノ瀬・漣(Pour une infante défunte・f44080)の中でピタリと嵌まり込む。
茶会も何もかもが完璧に茶番で、全ては魔剣が真に王子を落とし世界を壊すための物語——……。
ゆえに、“薔薇は|塗り替えられた《・・・・・・・》”のだ。
「……魔剣がライオネルを操っていた。ってワケだ」
細い指先が弦を爪弾き、微かな音を奏で始める。
確かにこの依頼を託した|グリモア猟兵《都嘴 梓》は“王子を斃して”などとは一言もいいやしなかった。ただ“ぶん殴ってきてくれる?”と言ったのだ。
「(王子様の自我は……たぶん、まだ残ってる。それに、このアリスは……)」
アリスはきっとこの国——いや、“王子がいるこの国”を守りたかったのだ。恋する少女の精一杯の背伸びは命を懸けてもいいくらい純粋すぎて、必死過ぎて言わなきゃいけないことも言えないまま走り出した女の子の背中しか、王子は見えていなかったということ。
恋の歌も愛の歌も知ってはいるが、生で見るのはまた違うな——なんて思いながら、漣は梓が言った言葉の意味をしっかりと理解した。
「ふふ……オレ、まぁた梓に“優しいね”って言われちゃうってことなワケ? けど、こういうの切ないエンドっていうのはオレ、エンタメだけで十分」
生憎、漣は救えるものを指の間から取り溢す趣味を持ち合わせていない。
全て分かったうえで自身の背中を押し“一人だけど気をつけてね”なんて笑ったのかと思うと、漣とてちょっとばかり梓が小憎たらしいと思ってしまうけれど、この事件を梓の想定通りに成功させれば相棒は飛び切りの笑顔になると分かれば、相棒としての答えはただ一つ。
「梓って、人使い……っていうか、オレ使いが上手いよね。ま、お礼はきっちり貰おっかな」
いっそクリスマスと合わせて強請ってやろうかなどと子供染みたことを呟いた漣が笑みを深める一方、クシュンとくしゃみをした梓が“風邪かなぁ”などと的外れな呟きをしていたのは此処だけの話だ。
「さぁて王子様——いや、|魔剣様《・・・》かな。是非オレのお相手もしてもらおうかな」
『楽師を読んだ覚えはないが』
「へぇ? 生憎オレも遊びに来たわけじゃないよ。けど……みんなに飛び火したら危ない——」
『ならば貴様の大事な|役立たずなぬいぐるみ共《国民》から斬り殺してくれる!』
漣が嘯けば、ニヤリと笑った王子が他の猟兵のUCから逃れるように地を蹴り駆け出し、その刃を無慈悲に振り下ろす! だが漣とて策ナシではない。静かに爪弾き続けていた一曲を手始めに!
「あぁソレ、空間を斬れるんだっけ? やってみなよ——オレの|歌唱《うた》と|演奏《おと》への情熱は、そんな簡単には破れないから!」
UC—Fix You—!
『!?』
席に着いたまま怯えていたテディベア達の位置はすでに把握済み。更に救出した仲間たちによって極力中心まで集められていたことで漣の織り成すユーベルコードが、空間ごとアリス諸共住民たちを守り切る!
振り下ろした刃が弾かれ、何一つ傷つくことなく押し返された事実に魔剣は慄き口が引き攣り、王子の瞳が優しく安堵していた。
「(やっぱり、あの魔剣は王子の全部を掌握しきれてない——!)」
空間断絶などという埒外の力を持つ剣が人心掌握の能力まで持ち合わせれば、それはもうどんな世でもあるべきではない狂った神造品……銀の雨降る世界で言うならば、所謂メガリス級となってしまう。
「(あれはただ意志を持った攻撃全振りの剣。アレを扱えるのは王子の能力が高いってこと……と、すれば!)」
振るう者なければただの剣という、ならば。
「——誰も彼も|自分《王子》のことなんて二の次で、大したこともできやしない」
『何を、』
「親の七光り」
眉間に皺寄せていたはずの魔剣——否、ライオネルが漣の言葉にピクリと反応した。
魔剣が王子の声帯を使って“おい”やら“こっちを見ろ!”と声を発しようと、その瞳だけは爛々と漣を捉え続ける。
「権力財力——王子であれば、誰でもいい」
『おい貴様——っ、……そう、なのか』
苛立っていた声が呑み込まれ、戦慄く唇が発した蚊の鳴くような声にニッと笑った漣が一際大きな音を奏で、ピック摘まんだ指先でライオネルを差し強気に微笑んだ。
「——違う。でも、まずお前がお前を棄てるなよ」
『そ、れは……』
紅蓮の瞳で曇ったラオネルの|青《瞳》に火を燈す。
「自分で自分を信じないで、誰がお前を信じるんだ?」
UC—Highway Star—!
それは漣だからこそ為せる至極の音楽が生み出す全て。魔剣に苛まれる王子だけを味方と判じ、旋律に内包した慈愛と祈りでライオネルへ届ける言葉を紡ぎ続ける!
燻った経験あればこそ漣は言葉に乗せられるだけの“想い”を持って奏で、一度は音楽に扉を開かれ導かれたのは武蔵坂学園。二度目は今回の事件を託した相棒によって、今のステージへ引き上げられた。
『っ、うっ……! やめろ、やめろやめろ! 役立たずなお前はもうこの世を——』
「オラオラ今いいとこなんだから、|魔剣様《・・・》は邪魔しなーい! その邪魔な口、閉じてなよ!」
どうせ生まれてこの方口なんて上等なものを持ったことのない人生なんだから! と思い籠め旋律を激しく、最後の一押し!
「それと王子様、自暴自棄にはまだ早いって分かったでしょ? ——一度くらい、腹の裡ぶちまけろ!」
誰だって彼だってどこの世界でも利己主義だ。
他を思いやるほど擦り切れてしまう優しい人が一度や二度怒ったところで。どうにかなる世界など在りはしない!
『僕だって! 僕だって、きみとこの国を、きみを守りたかったんだ!!』
罅入った魔剣が全力で叫んだ王子によって叩きつけられ、真っ二つに圧し折られた。
まだ“ごめんなさい”が言えるなら、カーテンコールは早すぎる。
じっと薔薇の生垣から覗いていた何かが、つまらなそうに踵を返す。
●居心地のいい毎日も悪くはないけれど、クラクラするほど刺激的な今日も偶にはいいじゃない
大成功
🔵🔵🔵