イェーガーヴィネット・Side『レーヴクム』
●君も作る
夢の中だった。
まごうことなき夢の中であると理解できるのは彼がいたからだ。
いつもの調子で入ってきて、親しげな雰囲気で手を上げている。
何をしているのかと問いかければ、なんでもプラモデルを手に入れたものだから作っているのだという。
「いやー、お祭りでさぁ? 当たったんだよね」
ほら、と彼が示すパッケージアートは『不思議生物』シリーズと呼ばれるものの一つであった。
自分は麒麟を作ったことがある、と言うと彼――レーヴクム・エニュプニオン(悪夢喰い人・f44161)は、キリン? と首を傾げていた。
違う。
そのキリンじゃない。
同音異義語だから、と言うとレーヴクムは合点がいったようである。
「ああ、あの麒麟ね。はいはい。ボクちゃん、ちょっと勘違いしちゃったよ。ああ、もしかしてあれ?」
レーヴクムが周囲を見回して指差す。
周囲には多くの棚があって、自分の作ったプラモデルが並べられている。
ここは自分の夢の世界だ。精神世界だという説明を以前に受けていたのだが、まあ、夢で間違いはないので特に否定されたこともなかった。
レーヴクムとどうして縁を結ぶに至ったのかと言えば、自分の悪夢を払拭してもらったことがきっかけだった。
棚に飾られているプラモデルたち。
それを勝手に捨てられるという悪夢。
これから解放してもらったのだ。それは幼少期のトラウマと言っていいものであったが、もうその悪夢を見ることはない。
パチパチとランナーからパーツを切り出す音が響いている。
誰かが作っているのを見ていると自分も作りたくなる。
よし、と腰を据える。
「おっ、キミも何か作るのかい?」
頷く。
誰かが作っているのに口出すことはない。
何をどのように作ってもいいのがプラモデルの良いところだ。
こうした方が良い、ああしたほうが良い、なんてことは蛇足にも劣るし、押し付けがましいとも思えた。
だから、どうせなら自分も作ろうという意欲に変換した方が精神的にもよい。
というかもとより、そんなことするつもりもない。
そうこうしているとレーヴクムが伸びをする。
「うん。組み上がった。でも、ちょっと味気ないかなー」
成形色のままだ。
このままだと金型から外された時の微妙な色味の違いだったり、プラスチックが収縮した時に生まれるヒケなどが丸わかりだった。
他にも色々と言うことはあるけれど、彼が気にしていないのなら言うつもりはなかった。
「ねー、これってどうすれば良くなるのかな? こことかさ、なんかへこんでない?」
レーヴクムが示す箇所は確かにヒケっていた。
くぼんでいるのだ。
うん、と頷いてラッカーパテという薄く伸びる補修材を手渡す。
「これ? ああ、このへこんだところに塗り込むのかぁ。なるほどねー。で、その後は? どうするの?」
紙やすりでなだらかにして、下地材を吹き付ける。
「となると色も塗りたいなぁ。道具って貸してもらったり?」
いいよ、と夢の中であるアバウトさで道具を手渡す。
本来なら塗装ブースであるとか、換気だとか問題は山積みなのだけれど、精神世界であるのならば特に問題はない。
「いやー、これ結構楽しいね。なんだか懐かしいような」
レーヴクムは何故か自分の胸に懐かしさが去来していることに首を傾げる。
でもまあ、いっか。
彼は完成したまだら模様の不思議生物『獏』を掲げて笑む。
「なんだかこういうの好きだな」
心が落ち着く気がする。
だよね、と呟く夢の主の言葉にレーヴクムは頷く。
「色々ありがとね! またこういうのやりたいね。プラモデル合宿!」
そりゃもちろん、と夢の中だけの友達は笑うのだった――。
成功
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