イェーガーヴィネット・Side『コノネ』
●君が思う
「困ったわ!!」
此原・コノネ(精神殺人遊び・f43838)は珍しく武蔵坂学園の寮の自室で頭を抱えていた。
眼の前には秋祭りのくじびきで景品としてもらったプラモデルの箱がある。
初めて手にしたそれは、艦船プラモデルであった。
パッケージには勇壮に海の波間を切り裂いて進む艦船の姿が描かれている。
なんだかパッケージを見ているだけで嬉しくなってしまうのだ。
だが、問題がある。
コノネは殺人鬼である。何かをバラすのはちょっと得意であると言ってもいい。
「でも、これはどうしたらいいのかしら?」
箱の中身。
ランナーと呼ばれるパーツを配されたプラスチックの部品達。
説明書を見れば、パーツが揃っているかどうかを確認するようにと書かれている。
コノネは律儀であった。
そう書いてあったのなら、そのとおりにする。
殺人鬼、それもダークネスであっても、その精神性はまだ8歳のままなのだ。
故に彼女は説明書を吟味する。
そして、パーツを見やる。
わからない。
説明書にはパーツに割り振られた番号と形が描かれているが、何がどうなっているのかさっぱりわからない。
「これで、箱の絵みたいなお船ができるのかしら?」
いそいそと寮内を箱を抱えてコノネは歩く。
おにーさんやおねーさんならわかるかもしれないと思ったのだ。
だが、不幸なことにオブリビオン事件が発生したとかで彼らは不在だった。
なら、彼女はよく一緒にいる兄的存在を頼ろうと思ったが、こういう時に限って遭遇することはなかったのだ。
「どうしようかしら……あ、そうだわ!」
思い出したのだ。
確かグリモアベースという所でグリモア猟兵の一人が『こういうこと』に詳しそうだったのだ――。
●君が作る
コノネが訪れたのは、グリモア猟兵ナイアルテから紹介されたアスリートアースのとある商店街、その片隅にある『五月雨模型店』であった。
「こんにちは。あの、この子を作りたいのだけれど」
コノネはそう言って店長らしき男性に己の手にした艦船プラモデルを見せる。
ふむ、と店長らしき男性『皐月』は頷く。
「これはまた君みたいな……いや、それは関係ないね。ごめん。早速だけれど、この子を作るのはちょっと難しい」
「そうなの?」
「まず接着剤がいる。パーツとパーツをあわせて、はいおしまい、とも行かない。根気強さだけじゃないけれど、そうしたものが必要なんだけれど、がんばれるかい?」
コノネは頷く。
むしろ、望む所であった。
だって何かを作るってなんだか楽しそうなのだ。
「そうか。それじゃあ、あっちに行こう」
示される制作スペース。
そこで作っていいということだろうか。
「道具は一式、貸し出すから。この接着剤の代金だけはあるかな?」
もちろんお小遣いはちゃんともらっている。
そうこうしていると学校帰りなのだろうか、コノネより年長であろう小学生たちがやってくる。
「こんにちは!」
「ん? 知らない子がいる」
彼等は興味深げに制作スペースにいるコノネを見つけて寄ってくるのだ。
「お船を作っているのよ」
コノネの言葉に彼等は目を丸くする。
彼等からすればロボットなどのキャラクターものが流行りなのだろう。
「船!? すげぇ……難しいぜ、それ?」
「うん、でもやってみたら楽しいのよ」
ほら、とコノネは接着剤で張り合わせたパーツを見せる。
乾燥を待っているのだが、よい話し相手が出来た。同じ年代の子らとの違いはある。
けれど、それは個性とも呼べる差異でしかないのだ。
違いは作るものだけ。
たったそれだけなのだ。
故にコノネは年相応の笑顔でもって、己が抱える殺人衝動をお留守番させるのであった――。
成功
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