Friend of my Friends
秋、それは祭事の季節。
都内某所に存在する中堅私立大学である刻武館大学も類を漏れず、学生たちは自分たちが主体となって盛り上げる文化祭の準備に青春を捧げている。
だが、秋は就職や進学の内定がほぼ決まる人生の転換点とも言える時期でもある。
そうなれば、何れは決めねばならない今後の身の振り方が自然と話題と上がってくる。
「卒業したらさー、お前らどうすんの?」
「気早くね?」
「いや早めに考えとかねえとさあ」
「真面目~」
などと、展示する資料を纏つつ、研究テーマの中間発表という体で編纂するという地道な作業の息抜きな雑談に花開く。
今まで定期的に顔と名前を変えながら各大学へ入学を繰り返していた柳・依月(ただのオカルト好きの大学生・f43523)にとって、一体何度目の話題となるだろうか。
「依月はどうすんの? 就職先とか」
夏が過ぎても色黒く日に焼けた肌で脱色した金髪頭の学友、だいぶ前にレポートの題材としてなにか面白い都市伝説が無いものかと頼み込んできた|茶来井《ちゃらい》がこちらに話題を振ってきた。
「そうだね……」
好奇心に満ちた目がこちらに向けられる中、依月は暫し思案に耽る。
電子の海より産声を上げた|怪異《ネットロア》は人間の文化に興味を持ち、こうして「|普通《ただ》の大学生」として顕現して興味の赴くまま生活している。
当初は人間の振りをしているだけであったので、電子匿名掲示板で交された情報を元に受け答えしていた。
だが、こうして齢を重ねて経験を積んでいけば自ずと自我とも言うべき感情が芽生え始め、幾度と顔や名前を変えて来ながらも今の顔と名前に愛着が湧いている。
それは人間関係も同じで、顔と名前を変える度に洗脳を用いた記憶の消去を施して赤の他人となり続け来た。
しかしながら、これから先もこの場に居るゼミの友人たちと友好を深めて行きたいという欲求は依月が猟兵として覚醒した頃から日に日に強くなる一方だ。
今まで存在していなかった戸籍もUDC組織の支援で確保してる現状を鑑みれば、もう顔と名前を変える必要はなく、どこかの大学に再入学するという必要も自ずと消える。
「……大学院に進学かな?」
その声に、学友一同は驚きと納得の声を漏らす。
「民俗学で院進とか正気かよ」
「大丈夫だろ、こいつ実家めっちゃ太いし」
そんなやり取りに依月は思わず苦笑いを浮かべる。
UDC組織が用意した戸籍だが、関東近郊に実家があるということになっている。
それだけならよくある話なのだが、ここから先が依月の頭を悩ませている。
用意した住居は高級住宅街に聳え立つハイグレードマンションなのだ。
これには訳があり、このマンションの住民はUDC組織関係者によって固められている。
謂わば現代における絶対的な秘密基地であり、UDC組織の監視も行き届いている安全地帯という訳なのだが、流石に実家を離れてひとり暮らしを送る一介の大学生が住むには訝しむ点が多すぎる。
それに依月という存在の在り方は「調子に乗りやすい普通の若者」というのもあって、UDC組織からの支援を素直に受け取った際に家財道具も青天井に使い放題の予算で自分好みの調度品を買い求めた。
その結果、刻武館大学内では「身分を隠している財閥企業の放蕩息子」だの「仮想通貨取引で一発当てた」だの、謎多き依月にまつわる噂話が今もまことしやかに囁かれ続けている。それだけなら良いのだが、大学内でどう見ても怪しげな儲け話を持ちかけられたり玉の輿を狙ったアプローチを仕掛けられたりなどという面倒事に巻き込まれるのもよくあるので、我ながらもうちょっと身の振り方を弁えるべきだったと反省している。
「別に良いだろ。コイツが選んだ道なら好きにさせようぜ」
しかし、皆が皆そういう訳でもない。
特に茶来井は「大金持ちのお坊ちゃん」という色眼鏡で見ることなく、柳・依月という一個人として接している。
自分以上の遊び人で名前の通りチャラく、家に招くとウェーイと馬鹿騒ぎするのが玉に瑕な男だが、さっきも言ったような面倒な人間を言葉巧みに追い払う要領の良さと言うかプロの詐欺師顔負けな弁舌に何度も助けられたことか。
何故そんな男が民俗学を専攻したかと聞いたことがあるのだが「なんか面白そうだったから」というだけで、自分の見識においても適合するタイプが居ないという出鱈目っぷりである。
とは言え、民俗学とは書物では残っていない口頭で伝わる伝承を住民から聞き取る社交性も求められるので、そういった意味では茶来井は民俗学者向きなのかも知れない。
きっとアレだ。
因習村に迷い込んでも、ハッタリをかまし続けて最後まで生き残るタイプだ。
そんな彼を当初は「友達の友達」と軽んじていたが、今は「友達の中の友達」と認識を変えられている。
「で、具体的に何処に進むんだ?」
「ここの院に進んでも良いんだけど……どうせなら他の大学院。東北に親戚が居るし、それを頼って|赤牟《あかむ》の|御須角《みすか》大学の大学院も良いかな」
赤牟とは平成の大合併により誕生した東北の地方都市であり、古くは北前船の航路として栄えて今も漁業と海運が盛んな|因須磨《いんすま》市に隣り合っている。
近年町興しと称して御須角大学を建て、今や大学を中心とした都市形成によって街中には新しいアパートが立ち並び、他の街に競べて商店街も活気があるとのこと。
御須角大学の見所は敷地の約半分を占める大図書館であり、新興の大学と言えども日本有数の蔵書を誇っている。これらは歴史学術的価値が無く消え行くのみである書物の蒐集と保存を運営財団が掲げたものであって、誰でも図書の閲覧と借りることも可能であるのだが、大学ならびに大学院関係者以外の外部の者には持ち出しや閲覧が禁じられている物も多いと聞く。
つまり、それらの書を閲覧するには御須角大学院への院進が不可欠なのである。
「でもよぉ、そしたら柳はこの辺から居なくなるんだよな?」
しかし、それもいまいち踏み切れないのはコレである。
以前の自分ならば躊躇なく関係をリセット出来ていたが、こうして情が湧いてくると彼らとの思い出を無下にしたくない。
「……だから、迷ってるんだよ。別の大学なんて、ここの大学院を出ても入れる。すぐ行くか、あとに回すかのどっちかさ」
「なら、こっちに院進してもいいだろ。実家は太いんだし?」
茶来井から考えても居なかった言葉を受けて、思わず依月はきょとんとする。
「……くっくっく。はーっはっはっは! そうだ、実家は太いんだっけ」
こみ上げてくる笑いをどうしても抑えられず、遂にはお腹を抱えながら大笑いを上げてしまう。
こんなに笑ったことは何時ぶりだろうか。
ああそうさ、ここの大学院を卒院してから御須角大学に入学したって良い。
なんでそんな簡単なことを思いつかなかったのか、本当に笑えてしまう。
そんな中、依月は初めて気づいた。
毎回別人になって人間関係リセットする度に憶えた言葉に出来ない空虚さ……その正体は「寂しさ」だったのだと。
「よぉーし! それなら今日は依月のマンションで進路相談し合おうぜ!」
「良いな。依月のとこ、防音がしっかりしてるから騒いでも問題ねーし」
普段はまず拒否するが、今日は二つ返事で快諾しよう。
そして、友達と夜通し語り合おう。
夢と希望に満ちた将来を……。
成功
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