ウィリアム・バークリー
妻のオリビア(f28150)と。
浴衣コンテストが終わって、そのまま近場の海浜へ下りてきたところです。
草履で砂地に踏み込む感覚も心地よく。
月光と星明かりの下で、夜のデートを楽しみます。
遠くには、どこかの決戦都市のシルエットなども。
浴衣は地の色だけ藍白で合わせて、柄はそれぞれ別に頼みました。
オリビアの月下に泳ぐ金魚柄がとても可愛く。
夜になれば昼間の酷暑も忘れられるくらいに涼しく。
オリビアを抱き寄せて、夜の砂浜をそぞろ歩きます。
オリビア・ドースティン
夫であるウィリアム様(f01788)と秋の海辺へ浴衣コンテストが終わった足で向かいます
「暑さも和らぎ風も心地よいですね」
二人きりの海を過ごしましょう
海辺は綺麗で空は綺麗な星々が輝き大自然のキャンパスが目と心を満たしてくれます
「残暑も厳しく忙しない日々も流石にこの時期では落ち着いてきましたね、おかげでまったりとできます」
浴衣はお揃いながらも柄違いでウィリアム様の落ち着いた感じによく似合っています
「何時もの洋装も似合ってますが浴衣姿も様になっています」
そして褒められたことには嬉しそうに微笑みます
その後はウィリアム様に抱き寄せられて、夜の砂浜を一緒に散策します
●そぞろ歩き
ゆっくりとした歩みは心地よいものだった。
ともすれば、歩みの遅さは苛立ちにつながるものであったかもしれないが、今はそのような感情が湧き上がることもない。
もっとゆっくりでもいいかもしれない。
自分の肩に感じる熱がそう言っているような気がしたし、時間の歩みこそが遅くなってくれてもいいとさえ思ったのだ。
それほどまでに自分と彼女の間に流れる空気が愛おしいと思える。
ウィリアム・バークリー(“聖願”/氷聖・f01788)はオリビア・ドースティン(ウィリアム様専属メイド・f28150)と共にケルベロスディバイド世界にて行われた浴衣コンテストが終わった秋の海辺へと歩き出していた。
草履で踏みしめる砂地は思った以上に沈み込むし、歩きづらいと思えた。
けれど、それさえも愛おしく思えてしまうのは、隣にいるオリビアのためであろう。
「夜になれば暑さも和らぎ風も心地よいですね」
「そうだね。とは言え、浴衣で正解だったよ」
ウィリアムは閉じた扇子を軽く振る。
軽い音を立てて扇子の骨が扇状に広がる。互いの間を軽く往復させれば、柔らかな風が熱を退けるようだった。
「ふふ、薄暗くなってはいるけれどオリビアの金魚……よく映えているね。見ているだけで涼し気な気分になるよ」
ウィリアムは改めてオリビアの浴衣を見やる。
髪飾りもよく似合っているし、手にした巾着の色合いもいい。
トータルコーディネートとはよく言ったものだ。
一つ一つが優れているのではなくて、彼女の着こなしの調和が取れているとも思えた。赤い帯も鮮やかでいい。
何より、彼女の金色の髪と緑の瞳が鮮やかに浮かび上がる。
夜の海辺であっても、彼女という灯火があれば迷うことないようにウィリアムには思えたことだろう。
「ウィリアム様もよくお似合いになっております。いつもの装いも好ましく、似合っていますが、浴衣姿も様になっています」
浴衣を褒められたこと。それが嬉しいのだろう。
オリビアがうっすらと笑む。
その表情の柔らかさ、視線の優しさにウィリアムは胸が高鳴るようであった。
月光照らす浜辺にあって、あの月よりも彼女は一等輝いている。
「ありがとう。とても嬉しいよ、オリビア」
名前を呼ぶ。
特に理由はない。
ないけれど、呼んではならないということもないだろう。
「はい、ウィリアム様」
名前を呼べば答えてくれる。
それが嬉しいと思うし、共に歩む道のりが重なっていることが喜ばしいことだった。
「残暑も厳しく忙しない日々も流石に落ち着いてきましたね」
「おかげでね」
「まったり、してしまいますね?」
まったり、という言葉にウィリアムは笑む。彼女の口からそういう言葉を聞けたのは、日々が喜びに満ちているからだろう。
忙しなくても、喜びを見いだせているからこそ、そんな言葉が口から出てくる。
彼女は自覚していないかもしれないが、それはウィリアムにとって幸せを示すものであったのだ。
「そうだね」
「ですが、少しばかり肌寒くもあります」
その言葉にウィリアムは、そうなのかと思った。
酷暑続きの連日連夜。
和らいだとは言え、じっとりと汗ばむ肌。
彼女の瞳を見てウィリアムは漸くに思い至る。一歩、いや、半歩。
横にずれるようにしてウィリアムはオリビアの肩に手を回す。
彼女が言わんとしていることはわかっている。
だからこそ、肩を抱き寄せて、互いの熱を溶け合わせるのだ。
浴衣の生地は薄い。
だから熱が伝わる。けれど、その薄生地すらも互いに邪魔だと思ったかもしれない。
「ありがとうございます」
何に対しての礼だったのか。
高鳴る胸は答えてはくれなかったけれど、それでも喜びだけが胸にある。
「ぼくの方こそ」
「そうですか?」
「そうだとも」
二人の視線はまだ交わらない。
互いに見ているものがある。
月光は星あかりを遠ざけるものであったけれど、地上の星を遮るものではなかった。
照らし出すわけでもなかったし、闇夜は徐々に色濃くなっていく。
ウィリアムとオリビアが見ているのはケルベロスディバイドの決戦都市。
月光が浮かび上がらせるのは、そうした都市のシルエットだった。
あそこにも多くの生命が息づいている。
守らなければならないのが猟兵の戦いであることは言うまでもない。
この歩みもありきたりなものなのだろう。
それでも得難いと思う。
あの決戦都市の向こうには、そうしたありきたりだけれど、かけがえのないものが多く存在しているのだ。
「特別な夜ですね。とても得難いものです」
「ぼくだってそうさ」
寄せた身の熱さを言葉にする必要はない。
互いに身を寄せ合っていれば、当然起こり得ることであっただろう。
言葉は必要なかったし、それ以上を言うのも野暮であった。
秋風を知らせるような波の音に、触れ合う音がかき消される。
「……少し、熱く」
オリビアの頬の色をウィリアムは知るだろう。
でも、月光にさえ照らしてやりたくないと思ってしまう。その頬の色、熱。そうしたものは自分だけが知っていればいいと思えたのだ。
だから、抱いた肩に力が籠もる。
柔らかな、折れそうな。
そういう感想が掌から伝わるようであったけれど、ウィリアムは己の宝物を腕の中に収めていたかった。
「熱いのはきっと僕の頬だと思う」
そう告げるとオリビアの掌がウィリアムの頬に伸ばされる。
この熱も、誰かに与えていいものではない。
オリビアは自分の、と思っていいのかと思ったかも知れない。
それでも嬉しさが勝つ。
浴衣を褒めてくれた。
抱き寄せてくれた。
熱を分かち合ってくれた。
ただそれだけで伝わるものがあるのだ。
だからこそ、その掌に伝わる熱は手放したくない。
夏は残すばかり。
迫る秋の気配は、あまりにも足早であるかもしれない。それがすぎれば直ぐに冬がやってくる。
実りを蓄え、暗闇の冬が来るのだとしても。
この日の熱を覚えておくのならば、二人はきっと大丈夫だと互いに思えただろう。
「そう、ですね……」
「もう一度?」
「……はい」
言葉短く告げられる言葉。
言葉は不要とは、目と目で通じ合うとは。
そうよく言うけれど、今日ほど如実に感じられたこともないだろう。
触れ合う熱は影の重なりに溶けて消える。
離れてもまたつながればいいだけのこと。
月光は何も言わない。
けれど、その二つの影の重なりだけは、示す。
それがきっと夜のデート。
二人だけの逢瀬。
何よりも、幾年経つのだとしても、仕舞われた浴衣の柄を見るたびに思い出すものとなるだろうから――。
成功
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