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槐よりも咲うと良い

#ダークセイヴァー #ノベル #家族の絆

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アウグスト・アルトナー




 小さな花弁に集られて、
 誰かに出逢う為ならば、
 自分はずっと共にある。
 腐った林檎と頭蓋骨の違いについて、疾く説明せよと命じたとしても、嗚呼、何故に彼が『それ』を可能と出来るのか。善と悪の狭間で生き抜く事すらも出来なかった、何者かの、暴力的な正義への盲目の所為で、さて、いくつの生命が犠牲となって終ったか。問うても問うても、掘り進めても、只、疲弊するだけの現実。埋葬される事すらも無くなった、其処等の蛆虫、唯一許された思考とはいったい何だったか。イーリス……嗚呼……イーリス。会いたいと謂うのに、逢いたいと謂うのに、方法がまったく思いつかない。仮に、想像する事が容易かったとしても行動に移す事など不可能だ。うごうご、うごうご、ようやく腐った林檎から、がらんどうの頭蓋から這い出る事に成功した。イーリス……嗚呼……イーリス……。まるで転がされた蚕だ。繭の作り方も忘れてしまった、哀れな哀れな蠕動。
 探しましたよ、父さん。戸口を叩くかのように、扉を除くかのように、その、ちっぽけな寄生虫を猟兵は覗き込んだ。どんな姿であろうと、どんな心であろうと、ぼくには判りますよ。成程、確かに、猟兵にとっては――アウグスト・アルトナーにとっては――地獄で咲う沙汰よりかはマシな状況だろう。だが、当人にとっては……寄生虫にとってはまったく『知らない』大きさだ。イーリス……嗚呼……イーリス……違う……これじゃない……。息子に微笑まれても、男に微笑まれても、精神は隅々まで不動だと謂うワケか。さあ、父さん。準備は出来ています。ぼくの中へ、如何か。露出した右腕には果たして如何様な過去が刻み込まれていたのか。赤くて、黒くて、途轍もなく醜い傷の痕。かつて、オマエが『つけた』ものだと謂うのに、見境なく、寄生虫は地中へと還っていくかのように。よじ登る。悪くない。この、肌のツルツルとした感覚こそ、肉の感覚こそ、誰かが欲していた鎖なのではないか。ぐわりと噛み付いた右手首、ゆっくりと、体内へと侵入していく心地は『お互い』に悦ばしい状況であったか。そう、暖かくて、たまらない。父親は、自分が父親である事も失くしていたが、声だけはしっかりと咀嚼してみせた。これからは一緒ですよ、父さん……。
 辛い時には笑え……辛い時には咲え……そんな事を、父さんは何度も何度も口にしていた。今ではすっかり、口も鼻も耳も『ひとのそれ』では無くなっていたが、もう、ぼくの中にいますので問題も解消された事でしょう。彼方、ずらりと並んでいるのは、雑音をこぼしているのはオブリビオンの群れであったか。ええ、父さん。父さんにはこれから、ぼくと一緒に彼等を倒していただきます。大丈夫、父さんなら、この困難にも笑って立ち向かえる筈です。喪失したのは傷痕か、或いは聖痕か、その両方。代わりに浮かんでいるのは『絆』の紋章。描写するならば赫々とした鎖。鎖が、蛇の如くに、寄生虫の如くに、尺取りをしている。心臓が如くに脈動したのならば、嗚々、視よ。全身を廻っていく細長いものの塊……それが立派な騎士めいた姿を孕むなど誰が想像出来るだろうか。まるで|槐《エンジュ》の化身、咲いている、咲いている、咲いている……。
 敵対している彼等にとって戦況は悪夢であった。装着変身を遂げた猟兵の右腕より『鎖』が自在に揮われたのだ。触れた存在から徐々に徐々に感情の変化が起こっていく。目の前の騎士は私達の友だ。友達を攻撃するなど、殺そうとするなど、まったく可笑しな事なのではないか。そうだ。お花畑の中心で、皆で、楽しい歌をうたおう。大団円と共に嗤ったのは、業、良い夜を迎える為の鉛であった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年10月09日


挿絵イラスト