食欲の秋、バーベキューの秋。
●食欲の秋なのでバーベキューです
「唐突ですがセクレト機関のメンバーほぼ総出でバーベキューすることにしました」
「なんで????」
セクレト機関本部前にて集まった|調査人《エージェント》達は皆揃ってバーベキューの準備をしている。
木炭、バーベキュー用品、食材と並べ立てられ、それぞれグループを作って火を起こして食材を焼き続ける。
風に乗って香ばしい匂いが届けられるせいか、色んなところで食材交換が起きているようだ。
そんな中、エルドレットがヴォルフにツッコミを受けていた。なんでバーベキューやってるんだ?? と。
ヴォルフ曰く、エルドレットは司令官システムの演算をかなぐり捨ててでもバーベキューやりたい! と言い出しており、急遽システム全体でバーベキュー日程が組まれたのだとか。
|調査人《エージェント》達もなんでそんな事になったのかよくわかってないのだが、新しいイベントだろうし、いつもの司令官の突発的な事だしで特に気にしていない様子だった。気にしろお前らそれでも世界を守る者か。
「エルドレットさーん! お肉、もらって、きたー!」
そこへたからはお皿に盛り付けられたお肉とお野菜を手に、とてとてとエルドレットの下へ走ってきた。
まるで戦利品を見せびらかすかのような可愛らしい仕草にヴォルフはちょっと頬が緩んだが、いや、待て待てと理性を取り戻した。
「まさか、彼女が言い出したからとかじゃねェだろうな」
「…………そんなまさかー」
「おい、俺の目を見てから言え。あと無言が長いぞドレット」
そう、このバーベキュー。そもそもはたからが『皆とバーベキューやりたい!』とエルドレットに相談したことがきっかけで予定が組まれたもの。
エスクロやナターシャ、果てはアードラーやアレンハインツまで協力する形で次々に|調査人《エージェント》達の予定がバーベキュー参加に変更されており、現状ほとんどが参加しているのだ。
参加していないのは仕事が忙しくて来れないルナールやゲラルトを始め、敵となったフェルゼン、エーミール、メルヒオールぐらい。それ以外はほぼ参加していると言っても過言ではなかった。
「は~~~助かったマジで。給料前やったから、たからちゃんには感謝せんとな……」
「ヴィオ君、お肉食べれへんって言うとったもんなぁ。あ、このお肉もらい~」
「あ"ぁ"!? コンお前っ、俺の肉取るなぁ!!」
「先に取ったほうがお肉の権利があるんですぅ~~!!」
諜報部隊オルドヌングのメンバーも給料日前なのもあって、ただでバーベキューが食べられるというこのイベントには乗り気も乗り気。
普段たからの前では見せないような素行さえも見せているため、ヴォルフは己が壁となってオルドヌングのメンバーの素行が見えないように隠してあげた。
「んお。やべ、木炭の火がなくなった」
しばらくバーベキューを楽しんだのもつかの間のこと、エルドレット達が用意していた木炭の火がすでに消えてしまっていた。
新たに木炭を追加して火起こしをする必要があったのだが、たからはここでふと約束を思い出した。
『火を使う料理は大人と一緒にやること』という約束。幼いながらに守らねばならないという、一つの約束を。
「火を、使う時は、大人の人と、一緒!」
「よく出来ました。ってことで俺が火起こしするんだけど~……ヴォルフ、ちょっとたからちゃんと一緒に離れててくんない?」
「はいはい、《|火炎《フラム》》で一気にやるんだろ。お前火力調節下手だもんな」
「すまんね」
そう言ってヴォルフはたからと一緒に、燃えてはいけない物――食材や紙皿等と言った必要品を遠くに引き離し、エルドレットから大きく距離を取る。
たからはそれが何を意味するのかはよくわからなかったが、今はエルドレットに近づいてはダメだという雰囲気だけは感じ取ったのか、ヴォルフと一緒に必要品を避難させる手伝いをしておいた。
それから何をするのかと見守っていると、エルドレットが木炭をせっせとバーベキューコンロに詰め込んで、そっと手をかざし《|火炎《フラム》》のコントラ・ソールを起動させる。
が、その火力はコンロから火柱が上がるほどに強力で、他の|調査人《エージェント》が笑ったり驚いたりする声を上げるほど。これが司令官なの? と聞かれたら『そうです』としか答えられないのがもどかしいところだ。
「わぁ~~! 花火、みたい!」
「あァ、うん、そうだな……」
たからが楽しそうにする一方で、ヴォルフは大きなため息をついている。
仮にもセクレト機関というデカい組織の司令官たる存在が、こんなに大雑把な輩で本当にいいのか? と言いたそうなため息。その真意はたからには計り知れないものなのだ。
火柱が収まる頃には、しっかりと木炭には火がついている。あの火力でついてなかったら木炭のほうが異常だが。
網を置いて、食べたい食材を上においてしっかり焼いていくだけ。それだけなのだが、皆で食べると美味しく感じるのは何故かはわからない。
でも、楽しそうな皆の様子を見てたからは『提案してよかった』と感じた。セクレト機関の皆は最近色々とあって大変だったから、少しでも休める時間が出来てよかったな、と。
「父上、食べてます?」
「お、リヒ。食べてる食べてる」
そんな折にやってきた燦斗は購買部で買ってきたであろう飲み物を皆に配っていた。彼はどうやらまだ一口も食べてなかったようで、その話を聞いたたからは燦斗にもお肉を焼いてあげた。
彼が食べられなかったのは、エミーリアと共に情報の洗い出しを行っていたから。そろそろ昼食時だと知って彼はバーベキュー会場にやってきたのだ。
「エミーリアさん、来れないの?」
「はい。なので、このあとお肉を持っていってあげようかなぁと」
「じゃあ、たから、焼いて、あげる!」
「ふふ、ありがとうございます。エミーリアも喜びますよ」
エミーリアはどんなお肉が好きなのか。お野菜はどのお野菜が好きなのか。事細かに燦斗から聴取して焼いてあげたたから。お仕事しながらでも食べられるものをチョイスして、エルドレットと一緒に焼いた。
ちなみにエミーリアは炭火で焼いた焼き椎茸が好きらしく、念入りに焼いてあげてお皿に盛り付ける。醤油をちょっと垂らしてしばらく置いてから食べるのが良いとのことで、事前にほんの少し醤油を垂らしてあげた。
「あとで、エミーリアさん、一緒に、呼ぼ!」
「そうですね。私と入れ替わりでお呼びしておきますよ」
そう言って燦斗は盛り付けられたお皿とともに、本部の中へと入っていく。まだまだお仕事が沢山残っている彼らは、バーベキューを楽しむ時間は少ない。
それでも少しでも楽しんでくれたのなら、たからはそれで十分。皆がこうして楽しんでいるのを見るだけでも、バーベキューをやりたいと声を上げた甲斐があるのだから。
秋。
夏の暑さを過ぎて、冬に入る少し前の季節。
セクレト機関の|調査人《エージェント》達に、小さなお休みが与えられたのは今日この日だけ。
バーベキューが終われば彼らは世界を守る者へとなってエルグランデを、異世界を守っていく。
たからがくれた楽しい思い出を、壊さないために。
成功
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