イェーガーヴィネット・Side『陰海月』
●大好きの形
どんなに大好きな趣味であっても悩みというのは影のようにつきものである。
むしろ、それが思い入れの強いものであれば尚更のこと。
馬県・義透（死天山彷徨う四悪霊・f28057）さんちこと屋敷の一室で巨大なクラゲ『陰海月』は思い悩んでいた。
プラモデル製作趣味というのは、果てのない道のようなものである。
なんでも好きなものを作っていい。
だが、迷うこともあるのだ。
「ぷきゅ……」
だから、『陰海月』は、グリモア猟兵ナイアルテを頼ったのだ。
なんでも彼女に助言を求めれば、すぐさまにその人が作るべきもの、作りたいと思えるプラモデルを選んで手渡してくれるのだという。
それが今眼の前にある。
後は作るだけ。
なのだが。
「ぷきゅ～？」
そのパッケージは一見するとテディベアが描かれている。
間違っていやしないか？
これ本当にプラモデル？
『陰海月』はまずそう思ったに違いない。
だが、箱を開ければそれがプラモデルであるということは間違いない。
シュリンクされたビニール袋の中にはパーツの配されたランナーが見える。説明書を取り出してみると、このプラモデルの説明が書いてある。
説明しましょう！
声が聞こえるのは気の所為である。
ナイアルテのユーベルコードか？ と思ったが違う。気の所為。
「ハイ・クオリティ・モデル、略してHQMシリーズよりの刺客、ぬいぐるみのプラモデル！ その記念すべき第一弾テディベア！」
そう、何を血迷ったのか、テディベアのプラモデルである。
一本一本、テディベアのタオル生地がパーツかされているという設計者の正気を疑う仕様！
誰もが絶句した商品仕様である。
これをナイアルテは『陰海月』に手渡していたのだ。
名品逸品というより、珍品の類！
「ぷきゅ～！！」
だが、『陰海月』は目を輝かせる。
自分の趣味、ぬいぐるみ趣味を覚えていたのだろう。
作るのは大変そうだけれど、自分の好きなものが何かを再確認させてくれる。
一本一本。
ピンセットを持って接着していく。
それは気の遠くなるような時間だったけれど、無心になれた。
迷いなんて生まれもしない。
眼の前に集中すること。
たとえ一本に見たない毛糸パーツであっても。
一つとして無駄にはならないのだ。
それを知って『陰海月』はプラスチックのテディベアという小さいけれど超大作を秋の夜長に作り上げるのだった――。
成功
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