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夏色ハッピーバケーション!

#グリードオーシャン #ノベル #猟兵達の夏休み2024

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#猟兵達の夏休み2024


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ニコ・ベルクシュタイン



榎・うさみっち




 見渡す限り続く碧い海と蒼い空は、境界線もわからずにただただ、果てなくずっと続いている。
 白い砂浜には足跡一つなく、今、この浜辺にいるのはニコ・ベルクシュタイン(虹を継ぐ者・f00324)と榎・うさみっち(うさみっちゆたんぽは世界を救う・f01902)の二人だけ。
 燦々と照り付ける太陽の下、時折吹き付ける風を受け、ニコが羽織っている白いシャツの裾が揺れた。シャツの下から見える黒いサーフパンツは、歯車の模様が入っており、左側の腰にちょこんと付いた赤いリボンは最愛の人の髪飾りを思わせる。

「何と美しい海と空なのだ……まるで境目が分からない……」

 この光景を二人占めしているということ、そして、今年もまた最愛の|我が伴侶《うさみっち》と一緒に海に遊びに来ているという事実に感極まって、そっとニコは眼鏡をずらし、目頭を押さえた。左手の薬指にはめた指輪が、水面に煌めく光を受けて、キラリと輝く。
 だが、うさみっちはというと。感動に浸るニコとは裏腹に、青い縞々模様グレコタイプの水着に赤い浮き輪を装着し、いつもと変わらずのんびりぶーんぶーんとニコの周りを飛びながら、「そんなことより」と話しかけた。その言葉に、思わずニコはピクリと眉間に皺を寄せるが、うさみっちの発言に素直に耳を傾ける。

「なぁ、海に来てやることといえば……わかるか、ニコ?」
「何だ? この素晴らしい光景を心に刻み込むことではないのか?」

 真面目な顔で答えるニコに、うさみっちはチッチッチッと大袈裟に口を鳴らし、人差し指を横に振って、彼の返答を否定した。では、答えは何だ? と視線で問いかけるニコに、うさみっちは、ばぁーんと胸を大きく張って口を開く。

「こんな綺麗な海を眺めながらすることといえば……そう、スイカ割りだ!!」
「何!? スイカ割り……!?」

 自信たっぷりに答えるうさみっちの姿に、ニコは思わずヨロリと姿勢を崩した。
(「うさみと二人で海に遊びに来られれば、それで十二分に幸せと思っていたが……!」)

 海で何をして過ごすか、という点について何も考えていなかったという現実を突きつけられ、ニコはガツンと頭を殴られたような気持ちになる。だが、スイカ割りをするというのであれば、主役がここには見当たらない――スイカはどこで手に入れる?
 慌てた素振りでキョロキョロと辺りを見回すニコに、うさみっちは「落ち着けよ」と余裕の表情で語りかける。

「だが、うさみよ。肝心のスイカがなくては、スイカ割りは出来ないぞ」
「安心しろって、スイカなら、ちゃーんとここにあるぜ!」

 ばばーん、と謎の効果音とともに、どこからともなくゴロンと大きなスイカが現れた。うさみっちの体よりも大きなスイカを一体、どうやって取り出したのか。冷静に考えれば疑問が浮かぶはずなのだが、なぜかニコはその点が気にならない。ただ、用意周到なうさみっちに素直に感心するだけだ。

「じゃ、ニコがスイカを割る担当な。指示は俺が出すから安心しろよ!」

 うさみっちはさっさと役割を決めると、てきぱきとスイカ割りの準備を進めていく。スイカを置いた場所から程よく離れた場所までニコを連れていき、スイカを割るための棒を持たせ、ニコに目隠しをさせた。
 うさみっちにされるがまま、素直に応じていたニコだったが、ここで、彼はとある事実に気が付いた。目隠しをされたせいで、何も見えないのだ。

「待って欲しい、スイカ割りをするのは良いが、俺は景色をまるで楽しめないのでは?」

 冷静に、声を荒げることなどなくニコはうさみっちに抗議をする。だが、うさみっちは不思議そうに首を傾げて答えた。

「スイカ割りをするのに、周りが見えていたら意味ないだろ?」

 スイカ割りは、何も見えていない状況で、周囲の音や声だけを頼りにスイカの位置を探り当てて割る、という遊びである。
 コイツはそんなことも知らないのか。うさみっちは、やれやれと肩をすくめ、大きく溜息をついた。
 ――やっぱり、ニコには俺がついていないとダメだな。
 準備万端、さぁスイカ割りを始めよう、としたうさみっちだったが、何かが足りない。うーん、と腕を組んで考え込みながら飛び回るうさみっちの姿は、目隠しをしているニコには見えていない。ぶーんぶーんという彼の羽音が聞こえるだけだ。
 何故始めないのか、もう始めてもよいのか、戸惑うニコを横目にうさみっちは考える。そして、閃いたとばかりにポンと手を叩いた。

「そうだ! やきゅみっちも喚ぼう!!」
「何!?」
「いでよ、やきゅみっちファイターズ!」

 ニコが理由を問う間もなく、うさみっちの周りに野球服姿のやきゅみっちたちが現れる。途端に、静かだったビーチは喧騒に包まれた。

『おー、めっちゃキレイな海じゃん!』
『何? 泳いでいいの? それとも魚捕まえる?』
『キレイな貝殻やサンゴとか採ったら、もしかして高値で売れるんじゃねーか!?』
『腹減ったなー、今年は肉ないのかー』
『なーんだ、今年も肉が食えると思ったのに』
『あ、スイカだ! あのスイカ食ってもいい?』
『いや、スイカといえばスイカ割りだろ!?』
『もしかして、ニコがスイカ割ってくれるってこと!?』
『早く早くー!』
「おまえたち、静かに!五月蝿いぞっ!」

 好き勝手に喋るやきゅみっちに向かって、|うさみっち《監督》が一喝。途端にやきゅみっちたちは口をつぐみ、行儀よく一列に並び、うさみっちの次の言葉を待つ。
 ……なお、ニコにはこの一連の遣り取りも声しか聞こえていないので、何かよくわからんが、やきゅみっちたちがうさみっちに怒られて静かになったな……くらいしかわかっていない。でも、殆どあっている。

「見ての通り、今からオレとニコはスイカ割りをする。……だが、見ての通り、今、ニコは何も見えていない」

 厳かに話すうさみっちの声に真剣な表情で耳を傾けるやきゅみっちたち。
 まだ始まらないことを察したニコはうさみっちにバレないように小さく欠伸をする。
 ちょっと座ってもいいだろうか。何も見えず、ただ待っているだけというのは思った以上に暇を感じるものだということに、彼は気づいたのだ。

「そこで、だ。諸君らに頼みたいことは、ニコが見事スイカを割れるように、スイカまで導いてあげてほしい。――もちろん、オレも全力を尽くす」

 やきゅみっちたちは、互いに顔を見合わせ、ひそひそと小声で何かを話しつつ、視線を交わす。そして、うさみっちの意図を理解した彼らは、大きく胸を張って『はい!』と元気よく答えた。
 その姿を見て、うさみっちも満足そうな笑みを浮かべて「うむ」と大袈裟に頷いて見せる。うさみっちのサングラスがキラリと怪しく煌めいた。

「ニコが無事にスイカを割れるかどうかは、我々の助言に掛かっていると言っても過言ではないッ! ――みんな、スイカを食べたいか!?」
『『『『『『『『『はいっ!!!』』』』』』』』』

 ビシッと背筋を伸ばし、元気よく答えるやきゅみっちたち。
 茶番のような遣り取りを聞かされていたニコは、ぼんやりと心の内でうさみっちの言葉を反芻した。
(「そうか、せっかくだし、俺もスイカが食いたいな……」)
 だが、続いてニコの耳に届いたうさみっちの台詞で、彼のスイカ割りモチベーションが急上昇することとなる。

「皆、いい返事だ――俺も、絶対にスイカを食いたい」

 愛する我が伴侶のためならば、全身全霊を捧げ、このスイカを必ず割って見せよう――。
 ニコは密かに誓い、手に持っていた棒をぎゅっと握り直す。
 こうして、ニコとうさみっちの楽しいスイカ割りがようやく始まった。

「おーい、ニコ! もっと右、右だってば!」
『え? 右じゃねーだろ、左だろ?』
『あー、残念、行き過ぎ!』

 目隠しをして、棒を起点にクルクルクル……と10回まわってから歩き出したニコの方向感覚は、残念ながら回復に時間を要している。その上、スイカまでの道のりを指示してくれるのは、うさみっちとやきゅみっちたち。あれこれ指示を出す人が多すぎな上に、やきゅみっちたちの指示は中身もめちゃくちゃすぎて、正直なところ彼らには黙っていて貰いたい。
(「これは……うさみ一人で指示してくれれば、わかりやすく、かつ、すぐにスイカも割ることが出来たのではないか?」)
 目隠しの奥、眉間に皺を深く刻み、ニコは無言で砂浜を歩いていた。時折、足元に波が当たると、海に寄りすぎていることに気づき、向き先を調整する。やきゅみっちたちの指示よりも、波の方が数倍役立っている。
 ニコは、聴覚を研ぎ澄まし、意識を集中させて周りの気配を探り、スイカへと近づいていった。確実にスイカとの距離をつめていく彼の様子を見て、やきゅみっちたちは、それはツマラナイとばかりにテキトーな指示を飛ばす。

『違う、違う! そっちじゃねぇっ、逆!』
『もっと左! 左に行けって!』
『よしよし、そこでバク転!』
「何!? バク転だと!?」

 思っても見なかった指示に、ニコは慌てて足を止めた。……ということは、行き過ぎたということか。ニコはくるりと振り返り、逆方向に向きを変えて、ゆっくりと慎重に歩く。目の前に、何かの気配を感じ、そのまま振り被っていた棒を振り下ろした。
 ――すると。

『『『ぴゃあああ!』』』

 情けない声をあげ、やきゅみっちが必死にニコから逃げ回る。だが、ニコもそこに何か気配を感じるのか、なぜか正確にやきゅみっちを追いかけている。
 ニコの威嚇行動(?)に恐れをなしたのか、やきゅみっちたちが大人しくなったおかげで、スイカ割りは、今までが嘘のように快適になった。
 
『あいつ、絶対に俺達のこと見えていたよな!?』
『絶対に、わざと追いかけて来たんだぜ!?』

 ……陰でこそこそと言葉を交わすやきゅみっちたちの台詞も全部ニコに聞こえているが、今は反論はせず、スイカを割ることに集中する。
 やきゅみっちが怯えながら見守る中、うさみっちの指示に従い、ニコが再びスイカに近付く。

「もう少し右! それで一歩前出て……あー、行き過ぎ! ちょっと後ろ下がって!」
「難しいな……この辺でどうだ?」
「おー、いいんじゃね?」

 うさみっちのお墨付きをもらい、ニコは意識を集中させると、気合一閃、勢いよく棒を正面に向かって振り下ろす。
 棒が何か硬いものにあたった感触と同時に、周囲がおぉっとどよめく声が聞こえた。
 ニコが目隠しを外しながら、足元に視線を向けると、そこには見事まっぷたつに割れたスイカが転がっている。
 ひと仕事を終えた後の男の顔で、ニコは額を汗を拭うと、傍らを飛び回るうさみっちに声をかけた。

「どうだ、うさみよ?」
「俺様の指示が上手かったってことだな!」

 ドヤるうさみっちを横目に、ニコはまぁいいか、と口元を緩める。
 ――うさみっちの笑顔が見れれば、それでニコは満足なのだ。

「いや~ひと仕事終えたあとのスイカは格別だぜ!」
「お前はただ飛び回りながら指示をしていただけではないか……」

 ニコが割ったスイカを皆で仲良く食べながら、うさみっちは満面の笑みを浮かべた。
 スイカのご相伴に預かったやきゅみっちたちもまた、各々幸せそうな表情でスイカに貪るように食べている。
 甘いスイカを食べながら眺める海というのも悪くはない。ニコはシャリリと音を立てて一口スイカを齧った。溶けるように口の中で甘いジュースに代わるスイカの味を噛み締めながら、寄せては返す波の音に耳を傾ける。
(「こうして、我が伴侶と共に穏やかな時を過ごすのも良いものだな……」)
 背後では、残ったスイカを巡ってやきゅみっちたちが死闘を繰り広げているが、ニコはそれらを聞こえなかったことにする。今、隣にいるのはうさみっちだけ、うさみっちだけなのだ。

「よーし、それじゃぁスイカのおかわりを賭けたビーチバレー大会をするぞ!」
『『『『『『『『『望むところだぁぁぁ!』』』』』』』』』
「ん? というか、このスイカは割った俺のものではないのか……?」

 首を傾げるニコをよそに、うさみっちとやきゅみっちたちは勝手にうさちゃん模様のビーチボールを取り出し、早速、勝負を始めている。ピーっという笛の音と共に、青い空の下、赤いボールがポーンと宙を舞った。
 ニコと、うさみ(と、やきゅみっちたち)の楽しい夏休みは、まだまだ終わらない――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年10月12日


挿絵イラスト