帝都櫻大戰㉕〜翳リガエシ胎動
●
「……そう、最早世界を創るのに、新たな『未来』など必要ない。
新世界は、これまで形作られた『過去の断片』を組み合わせるだけで、容易に作り出せる」
そう告げた幻朧帝イティハーサはエンシェント・レヰスが一人、神王サンサーラと融合し、新世界への意志を得た。
嘆きの神王が広げし|広大無辺の仏国土《サンサーラディーヴァ》は、神王がオブリビオンと化したことで骸の海を無限に広げる能力へと既に変貌している。
故に、融合により幻朧帝が創りし侵略新世界には骸の海が満たされていた。
「既に冷めた時間よ、今世に在る今の生命が憎くはないか? 羨ましくはないか? 同魂たる今時の生命を過去の時へ流したくはないか?
第六猟兵たる彼らへ手を伸ばすが良い」
――そのための力を儂が与えてやろうぞ。
神王の威光のもと、幻朧帝の意で広がり続ける侵略新世界『|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》』。
ここは具現化した骸の海であった。
過去のあなたの手が伸びてくる。まだ猟兵でなかった頃、猟兵であった頃、手繰られた時間はいつのものだろう。
「勝機を得れば、瀑布の如き流転が生じ、今世の魂をせしめることであろう」
●
「サクラミラージュでの大戦、お疲れ様~」
猟兵たちを迎えた檍原・颯汰(ダークネス「シャドウ」のアリスナイト・f44104)は、挨拶もそこそこに「じゃあ早速説明していくね」と話を進めた。
「幻朧帝イティハーサがお出ましになったけど、エンシェント・レヰス『神王サンサーラ』と融合した幻朧帝は侵略新世界『サンサーラナラーカ』を創造したみたいだね。新世界は具現化した骸の海とも言えて、放っておけば他世界を侵略していく世界だ」
借りものの意志とはいえ、仕事がはやいねお爺ちゃん、と颯汰が呟く。
「で、猟兵の皆には幻朧帝と新世界の対処に向かって貰いたいんだよね。ナンサーラナラーカでは幻朧帝は1体の強力なオブリビオンを引きずり出して皆にけしかけてくるよ」
出現するオブリビオンは、相対する猟兵自身の『過去の姿』だ。
外見や思考は、完全に、今の猟兵たちが知る自身の過去のものだが、幻朧帝によって『現在の猟兵』とほぼ同等の力を得ている。
「……そうだなぁ、例えば。過去が厳しく辛いもので、今は比較的平穏に暮らしているとしたら、苛烈だった頃の自身が出てくるだろうし。
過去に幸せで平穏な暮らしを経験していて、今は孤独を感じているのなら、慈悲深くマウントしがちな自身が出てくるかもしれない」
まあ今に至るまでそれぞれ事情はあるだろうから、と颯汰は事もなげに告げた。
「大事なのは、この過去の自分をどうにかして倒すなり消滅させるなりしないとね。じゃないと幻朧帝に一撃を喰らわせることは出来ない。
過去の自分と相対するってなかなか無いことだからね。
過去の自身を受容してもいいし拒否してもいい、はたまた忘れてしまった何かを得る機会になるかもしれない。
とうに過ぎた過去で、しかも幻朧帝に使われてしまっている自身だけど、自分自身と邂逅するひと時は無駄じゃないと思うよ」
向き合う、話し合うって大事なことだよねぇ。
例えそれが物理的、攻撃的な手段でも。
「それじゃ、健闘を祈るよ」
そうさらりと言って颯汰は猟兵たちを送り出すのだった。
ねこあじ
若気の至りが襲来してくる可能性もある、ッてコト……!?
と思いながら、なんかカッコイイタイトル(当社比)を捻りだしました。
ねこあじです。よろしくお願いします。
シリアスもコミカルもどんとこいです。
㉕イティハーサ・サンサーラ戦、👿記憶の涯の戦争シナリオです。
1章のみで完結します。
プレイングボーナスは、
『自身の「過去の姿」を描写し、これに打ち勝つ/過去の自分の性格や思考の裏をかく』
となっています。
それではプレイングお待ちしています。
第1章 ボス戦
『イティハーサ・サンサーラ』
|
POW : 天矢『サンサーラナラーカ』
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【大焦熱地獄の炎を纏った天羽々矢】で包囲攻撃する。
SPD : 神鷹『サンサーラナラーカ』
レベルm半径内を【神鷹の羽ばたきと共に八寒地獄の冷気】で覆い、[神鷹の羽ばたきと共に八寒地獄の冷気]に触れた敵から【生命力や意志の熱】を吸収する。
WIZ : 骸眼『サンサーラナラーカ』
【神王サンサーラの力を再現した姿】に変身する。変身後の強さは自身の持つ【完全性】に比例し、[完全性]が損なわれると急速に弱体化する。
イラスト:炭水化物
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
浅間・千星
これが、『学園』で灼滅者たちを戦場に送っていた時の『わたし』か
与えられた役目のために強がりのフリをした『傍観者』の作り笑顔は、我ながら痛々しい…
おまけに未来予知もできる厄介なやつだ
なら、見せてあげるよ
お前が『あの日』に自分の無力さを心底恨んだ結果、灼滅者と同じ力を得た、わたしの姿を
UCで、過去のわたしの最愛を形取った都市伝説を召喚しよう
向こうの表情が変われば、見えているのは『灼滅者の彼』だ
その一瞬の隙をついて、過去のわたしが見ている『最愛』と共にロッドを構え、サンサーラの力を再現した幻朧帝ともども殴りつける
もうわたしは『傍観者』じゃない
『彼ら』と関わりを持ってしまった以上、『当事者』なんだよ
『骸の海』と呼ばれる無限量の液体の中で新たに創造された世界は『|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》』という。
「名を与えられ、今に在る――然し此処は骸の海に満たされている……か」
世界から排出された『過去』の集積体を呼び寄せる幻朧帝イティハーサの世界。
「夜空の星は滅びても、されども現在のわたしたちに光を届けている」
過去の時間に満たされた骸の海は、丁寧に掬いあげていけば歴史が綴られていくモノなのかもしれない。
|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》へと送りだされた浅間・千星(Stern des himmels・f43876)は蠍の灯の瞳を周囲に巡らせた。
幻朧帝が引きずり出してくる過去――最初は、声だった。
『皆の心にひとつ星が燃えるのなら、どんな逆境でも必ず道は開ける。わたしは信じている』
「……!」
幾度となく灼滅者たちを戦場へと送り出し、しかし、笑みを浮かべることが出来なかった、あの日、あの時、この声。
つと目を眇めそちらを見遣る千星。
骸の海が構築していく世界は武蔵坂学園の教室。エクスブレインだった千星が灼滅者の前に立った、光景。
空は満天が在り、遠くには学園祭の賑やかな光景が山々のように彩っている。
ツギハギだらけの世界。
「……わたしなら、パッチワークはもっと上手くやる」
そう千星呟き零す対象は、今は見えない。
見えるのは――居るのは、
『皆の心の中にある星の輝きで、最良の未来を手繰り寄せて無事に帰還してほしい。健闘を祈る』
学園の冬服を身に纏った千星だ。拳を胸にとんと当てて灼滅者たちを鼓舞している。
頼めるだろうか。信頼しているよ。願わくば。
次々と発され響き渡る、声。そこに笑顔を伴わせていたことを、今の千星は嫌というほどに覚えている。
「これが、『学園』で灼滅者たちを戦場に送っていた時の『わたし』か。――与えられた役目のために、強がりのフリをした『傍観者』の作り笑顔は、我ながら痛々しい……」
千星の言葉に伴うのは自嘲的な笑み。
過去の千星もまた冷めた目で告げる。
『そうするしかなかっただろう? わたしに何が出来た? 誰一人欠けることなく学園へ帰ってくることを祈り、闇に挑む彼らの勇気を称え、あの道がいつか未来拓けることを願った』
全能計算域を脳の一部に所有したエクスブレインの千星。
武蔵坂学園に所属し、サイキックアブソーバーから未来予知を得て、灼滅者を送り出しそして置いていかれる立場だった。
そんな彼女が、猟兵と同等の力を持つ。
彼らを生かすために何も見逃さない、という過去の千星の瞳は意外と鋭く強い――必死なのだ。
『わたしは骸眼を得た。サンサーラの光は未来の「わたし」を消滅させる力がある』
幻朧帝は猟兵と同じくらいの力を、過去の姿に与えている。
「すなわち、骸の海の力ということか」
――なら、見せてあげるよ。
千星は持っていた明星を構えた。
「お前が『あの日』に自分の無力さを心底恨んだ結果、灼滅者と同じ力を得た、わたしの姿を」
千星が浮かべた笑みは、あの頃の作り笑顔ではない。確りと自信を裏打ちさせた笑み。
「鈴蘭。別名、君影草……」
発動するはユーベルコード、七不思議奇譚『君影草のまぼろし』。
毒性を持つ植物が故に都市伝説化してしまった――都市伝説が紡いだひとつを千星が語る『さいあい』の物語。
千星が明星を振らば、青炎が虚空に散って揺蕩っていく。
闇色の髪を、星の色に変化させつつあった『千星』の表情が強張った。
『うそ……どうして……』
いつもの口調と声がすとんと抜けていった、力なき声。
青い炎が形成し召喚されたのは、灼滅者の彼だった。
エクスブレインの彼女に動揺が走る。扱い慣れぬサンサーラの力は容易く彼女から乖離しようとした。
星色の髪がぶれ、闇色が戻ってくる――その一瞬の隙を突くは、君影草のまぼろしである『最愛』と共に一気に距離を詰める今の千星。
「わたしは得たんだ。もうわたしは『傍観者』じゃない」
星屑を従えるヘッドには一等星が輝いている。重厚なロッドを振りかぶった千星が、灼滅者の彼が、過去の自分を殴りつける――そこにはサンサーラの力を再現した幻朧帝の姿。
「『彼ら』と関わりを持ってしまった以上、『当事者』なんだよ」
彼らの隣に立つにふさわしい力を得て、かつての闇を還していく。
ひとつ乗り越えた千星の前には、たくさんの乗り越えるべきものが出来た。
けれども、見送るだけだった、祈り願うだけだった頃よりは全然苦じゃないと感じる。
命燃やし輝く星々だった皆と共に自身もまた夜空に座すことができた。
遠く、未来に光を届けるために。
大成功
🔵🔵🔵
山吹・夕凪
骸の海より浮かび上がる過去の私
それは滅びた故郷を思い、寂しさを抱えて旅を続けた頃の姿
どうして私は独りなのだろう
悲劇より前を向いて『さいわい』を求める旅路の中、ふと心の底に寂しさの影が過ぎったことを否定しません
それは今もかもしれません
けれど、確かに思いと共に話し合い、向き合います
「たとえ悲しみから紡がれたものであれ、それが『さいわい』の光に転じることだってある」
悲しく、寂しいから
幸せになりたいと願い
祈りて求める想いは強まった
「過去の私。同じく『さいわい』を願うのなら、未来への路を譲ってください。悲しみは私が背負い、歩き続けますから」
前へと確かに踏み出し
幻朧帝の冷気を破邪の力で払い退け、UCで一閃
『骸の海』と呼ばれる無限量の液体の中で新たに創られたのは侵略新世界『|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》』。
世界から排出された『過去』の集積体を幻朧帝イティハーサが呼び寄せる。
|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》に降り立った山吹・夕凪(雪色の吐息・f43325)の周囲は、葦原の風景となっていた。――否、直ぐに広がっていた野は夕凪に迫る様に動き収縮し、ぎゅっとした球体となった。
妖刀を振って助けた人里、旅路に立ち寄った宿場では一夜の護衛を頼まれ籠った本陣、峠を越えた先に眺めた海と空の美しき景色。
「……これは……」
どれもが見覚えある景色たち。
それらが広がったかと思えばすぐに収縮して、景色の彩ある球体に変化した。
「過去の私――そうですか。あなたは、あの頃の私」
夕凪が目を遣り呟いた先には、滅びた故郷を思い、寂しさを抱えて旅を続けた頃の『夕凪』がいた。寂しさを押し殺し心におさめて、ふとした景色に立ち止まる時間が長かった頃。
生きるものが寝静まる夜を長く感じてしまい、心におさめた寂しさを取り出して反芻した時間。
温もりを分け与え、温もりを僅かに還してくれるのは濡れたかのように艶やかな黒を称える一振り。
――寂しい。
――どうして私は独りなのだろう。
悲劇より前を向いて『さいわい』を求める旅路。
集積体となった景色の彩りはその旅路で見てきたものばかり。
――悲しい。
この景色を独りで見ることが。この美しさを共有したい、そう願う人がもういないことが。
帰る場所がない、あてなく旅する時間。幾度となく、ふとした瞬間が訪れる。
そんな過去の彼女に呼応しているのか、どこか空しい羽ばたきが空を打ち、周囲では寒さが増していく。
「心の底に寂しさの影が過ぎったことは、否定しません」
静かに、静かに。夕凪は過去の『夕凪』に語りかけた。
「それは、今もなんですよ、私」
柔らかく笑んで、『夕凪』に教える。彼女は一瞬、とても遣る瀬無い表情を浮かべた。
『永き夜に浮上してくる『寂しさ』に覚える悲しさは、時々、痛いのです……』
『夕凪』がそう言って軽く、胸元付近まで手を掲げればそこには故郷の景色の集積球が在った――否、透明な匣の中に在る。
「時間が積まれていない記憶は……恐ろしいくらいに剥き出しなのですね」
ねえ、私。と夕凪は優しく話しかける。
「こう、考えませんか? たとえ悲しみから紡がれたものであれ、それが『さいわい』の光に転じることだってある」
過去の夕凪から、今の自身へとなった夕凪は歩んできた旅路は、すべて過去の夕凪の悲しみから紡がれてきたものだ。
「人助けをした里の様子を、一度見に戻りましたが、今は穏やかな暮らしを得ていました」
零れ漂っていた集積球を寄せて、透明な匣にくっつければ、まるでシールのように匣に貼り付いた。
「本陣では怪異騒ぎが起きましたね。その騒ぎがもう起らぬよう、供養の祭祀は今も続けられているようですよ」
籠った一夜の集積球には数多の提灯が映されて、それもぺたり。
『彼女』の表情は変わらない。
悲しく、寂しいから。
幸せになりたいと願い。
祈りて求める想いは強まった。
「今は、まだ分からないかもしれません。がむしゃらに進んだ先――私が振り返れば、遠く来た道にあなたがいますが、その間にはたくさんの『さいわい』が芽生えたと思います」
大樹となりゆくものもあれば、まだ芽吹いたばかりのものもある。多方向へ育っていくさいわいたち。
見ることは叶わないけれど、きっと今の夕凪の匣は彼女自身が紡いだもので彩られつつあるだろう。
「『私』の透明の匣――私の悲しみを見せてくれてありがとうございます」
夕凪は己の手をそうっと過去の自身の手に添え、そのまま故郷の景色が入った匣を共に包み込んだ。とても冷たい手だった。
羽ばたく響きは吹雪く音色へと変わり、けれども風は二人に影響することなくひたすらに世界を冷やしていく。
「過去の私。同じく『さいわい』を願うのなら、私の先に在る、未来への路を譲ってください。あなたが『今』、教えてくれた悲しみは私が背負い、歩き続けていきますから」
さいわいを探していきましょう。
その道は、可能性は、世界を渡ることで一気に拓いた。
『|あなた《未来》に逢えるよう――私も――』
ふと穏やかな笑みを浮かべた『夕凪』が一気に遠ざかっていく。
一寸先は闇という。
けれども辿り着いてみれば、変わらず『さいわい』を探す旅路の最中。
神鷹の羽ばたきが、夕凪を、帰っていく『夕凪』を足止めしようと周囲を凍りつかせていく。
「奪わせはしません」
思いて願い、求める心を澄み渡る剣として。
黒刀『涙切』を抜き様に放つは白夜の如き剣気を纏った一閃。
音速の抜刀術の斬線に冴え冴えと、月灯りのように淡くて儚い光が共に渡った。
夕凪が放った白夜の無想剣は、幻朧帝と幻朧帝在る世界を破壊へ導く一手となりて。
大成功
🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
過去を引きずり出してくるとは……懺悔でもしろっていうのかね
サンサーラと融合しただけあって随分慈悲深い真似をしてくれるじゃないか……なんて密かに悪態をつきながら
出てくるのは6歳だか7歳だか……そう、実の家族を失った頃の俺だ
刀に触れた事などなかったのに、よく動くもんだ。相手の攻撃を利剣で受け流しながら声をかける
お前は今、絶望している。生きる意味を見いだせず、世界が滅んでも構わないとすら思っている
だが安心しろ。俺は失うばかりじゃない。新しく大切なものを得る事ができる
だから俺は、此処にいるんだ
例え地獄の冷気であっても、この胸に宿る熱は消せはしない
ただ一直線にイティハーサへと踏み込み最速の一太刀を振るう
無限量の液体は骸の海と呼ばれる――そこで新たに創造された侵略新世界『|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》』。
世界から排出された『過去』の集積体――それらに幻朧帝イティハーサが語り掛ける。
「既に冷めた時間よ、今世に在る今の生命が憎くはないか? 羨ましくはないか? 同魂たる今時の生命を過去の時へ流したくはないか?」
呼応するように神鷹が羽ばたき、夜刀神・鏡介(道を貫く一刀・f28122)の周囲を八寒地獄の冷気で覆っていった。
「っ」
鏡介を嬲る冷たき風と共に叩きつけるはサクラミラージュの桜花弁。サクラミラージュで生まれ育った鏡介の近くには、いつだって幻朧桜が在った。
ざりっと、剥き出しの地を強く踏み込む草履の音。
「目前の自身と同等の力を与えよう――」
幻朧帝の言葉と共に空を切る音が鏡介の耳に届いた。
ぶん、と空を叩く、力任せで乱れに乱れた稚い振り方。利剣を抜刀し、下段から中断に向けて軽く受け流す。
一刀の所作は荒く、故に相手をいなしやすい。一瞬姿勢を崩した少年は受け流された衝撃を上半身で放逐し、踏ん張った。
齢にして六か七……荒い呼気を吐いた黒髪の少年の瞳は光を映していない。映しているのは絶望した世界なのだろう。
目前の、未来の自身の力を奪ってやらんと再度刀を構えた。
(「これは、実の家族を失った頃の俺か……」)
あの頃はまだ、刀に触れたことがない時期だ。
突進してくる素直な動線でかつ薙ぐ刃は荒々しい斬線。物打など考えていない間合い。
一魂を籠めたであろう一閃も易々と受け流されて、少年の鏡介は荒い呼気を繰り返した。
『寄越せよ! その力を……!』
渇望するは、何者にも脅かされない力。
(「過去を引きずり出してくるとは……懺悔でもしろっていうのかね」)
鏡介が生きていく世界で、常に傍らに佇んでいた幻朧桜。
傷ついた影朧を呼び寄せて、今も骸の海に根付き、打ち込む少年と受け流す鏡介の頭上に咲き誇っている。
過去の存在だというのなら、ここは過去の景色なのだろう。
鏡介が目を遣れば幻朧桜は鮮やかであるというのに、周囲は墨のようなもので塗り潰されていた。
(「あの頃は、そうだな、何も見えなかった」)
ふと、心に沁みついた墨色が思い出され、鏡介の表情は僅かに翳る。
だが……、
「『鏡介』。お前は今、絶望している。生きる意味を見いだせず、世界が滅んでも構わないとすら思っている」
声は、言葉は届くだろうか。
ぎりっと噛みしめた表情になる少年の鏡介。
力任せに振るった刀を強く弾くも、少年は柄から手を離さなかった。これは彼の矜持なのだろう。ようやく掴めた、力を得る手段。
「だが安心しろ。俺は失うばかりじゃない。新しく大切なものを得る事ができる」
手にした刀で、自己を磨け。鍛錬するといい。
そういった想いを込めて。
まるで稽古のように、繰り出してくる一手一手を受け止める鏡介。
「だから俺は、此処にいるんだ」
歯を喰いしばった少年が鏡介を睨みつける。練度は到底敵わない。しかし、絶望しきっていた瞳に光が戻っていた。苛烈な光だ。
「刀を持ち、歩んでいけ。走っていけ。|未来《さき》は長い」
鏡介がそう言えば、少年がぐっと何かを呑み込み、駆けていく。
熱を持った瞳と、負けじと腕を振るって駆ける挙動。
目的を見据え、確りとした足音。
「――例え地獄の冷気であっても、この胸に宿る熱は消せはしないだろう」
鏡介が灯したもの。
熱あらば、虚空を打つ神鷹の羽ばたきすら鼓舞に聴こえる。
流れるように身体を翻した鏡介はその身の遠心をも利剣を振るう糧にした。
駆けていく少年を追うように冷気が吹き荒び、骸の海の景色が彼我の距離を呑み込み迫ってくる。
「サンサーラと融合しただけあって、幻朧帝も随分慈悲深い真似をしてくれたじゃないか――」
密かな悪態が零れた。
鏡介が踏み込めば迎撃の形――最速の一太刀、澪式・参の型【双影】が|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》に立つイティハーサへと叩き込まれた。
大成功
🔵🔵🔵
ガーネット・グレイローズ
幻朧帝が私の眼前に召喚したのは、赤いオカッパ頭の女兵士。
そう、コロニー船防衛隊時代の私自身だ。
ツンツンした態度でコンバットナイフを構え、襲い掛かってくる!
技のキレは、今の私にも引けを取らないか。
だが……力みすぎだ。まったく、真面目すぎるんだよ。
だからフラフラになってぶっ倒れるまで走ったり、食事ができなくなるまで筋トレしたりするんだ。
……なぜ知ってるのかって?よく知ってるよ、私はお前なんだから。
手から紅剣を発現、【サイキック斬り】で近接戦を。
受け力を5倍、命中力を5倍に配分して《連続コンボ》で斬り結ぶ。
《フェイント》《シャドウパリィ》で隙を作り、私に化けた敵の
真の姿を《心眼》で暴き出す!
新たに創造された侵略新世界『|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》』。
無限量の骸の海の中にある世界の中で|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》はより骸の海に近しい世界だともいえるだろう。
骸の海に満ちた世界。幻朧帝イティハーサによって引きずり出されるは『過去』の集積体。
「さあ、新たな過去の時間よ。目前の自身の存在値をせしめるがいい。第六の猟兵は、其方であり。其方は、第六の猟兵なのだから」
ガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)の周囲が変化し、呼び出された過去の時間に満たされていく――そこは見覚えのある宇宙船――配属されたシリンダー型のコロニー船だ。
区画の防壁は厚く、銀河帝国襲撃を誘うために宇宙航行を続けていた。
(「――いや、懐かしむのは後だ」)
ガーネットが身を翻せば、赤い髪を梳くようにコンバットナイフが突き出された。
突然の襲撃に崩れた姿勢を立て直すためガーネットは飛び退く。
彼女の視線の先には赤いオカッパ頭の女兵士。
『お前を倒せば、銀河帝国を打ち倒す力を得ることができると聞いた。悪いが、我らコロニー船防衛隊の糧となってもらうぞ』
瞳を爛々とさせた女兵士は、コロニー船防衛隊時代のガーネットだった。
声の張りも、表情も若々しい――無愛想で強張ったものであったが、思えばこの頃は我武者羅だったな、とガーネットは昔を思い出す。
強くなろうと足掻いていた頃だ。
特務部隊に転属前、仲間と共にこの基地で訓練を受けながら時折掃討段階のオブリビオン戦艦の迎撃任務が回ってきた。
コンバットナイフを構えた女兵士は、ガーネットの懐へと素早く入ってくる。
その時、防御のため既に上げていたガーネットの手から真紅の光一条が伸びる。エナジー体が虚空をヴン! と震わせ、コンバットナイフを弾いた。
『っ!』
腕の振りを持っていかれた女兵士が刹那に目を見開いてバックステップ。
同じく衝撃を受け流すために後退したガーネットは、逆手から順手へと紅剣の放出を変える。
脚をばねのように扱い、伸び迫ってくる女兵士。姿勢を低くしての回転斬り――速度は申し分なく、しかしやや豪快な振り――ガーネットは紅剣を打ち下ろし、衝撃を敢えて受けて自身の身をふわり浮かせた。生まれた斬撃の風を増幅させるように、我が身を乗せる仙術。
「技のキレは、今の私にも引けを取らないか」
だが、と呟いたガーネットは紅剣の冴えを極めさせ、コンバットナイフを叩き斬る。
「力みすぎだ。まったく、真面目すぎるんだよ」
一族の矜持に、任務に、自身を磨くことに。
本当に、あの頃は我武者羅だった。
「だからフラフラになってぶっ倒れるまで走ったり、食事ができなくなるまで筋トレしたりするんだ」
――ルビー、少し休んだらどうだ?
――その状態で来られると任務の邪魔になる。
隊員の言葉にも首を振り、分かりづらい忠告には時に眉を顰めた。
年月が経ち、今のガーネットなら彼らの気遣いも理解できる。
『黙っててくれないか。お前に何が分かる……!』
新たなコンバットナイフを手にした過去のガーネットは、その短い髪を跳ねさせて突撃してくる。
「……分かるさ。よく知っているよ、私はお前なんだから」
その我武者羅だった理由も。
名を偽った理由も。
下段から紅剣を繰り出し、ガーネットは女兵士と斬り結ぶ。サイキックエナジーを漲らせ、華麗なステップから斬りこむ一刀は力強い。
そして振り切る前に刃を戻す――その動きは蜂のように軽やかだ。
僅かに腕を上げてナイフを誘えば、次手は確立された反撃の手となる。
「今の私はな……」
ガーネットは見据える。女兵士の髪は黄金色に染まりゆき、サンサーラの色へと変化しようとしていた。
「そんなお前の努力が成った者だ。誇りに思うよ」
遊びは此処までだ。幻朧帝。
神王サンサーラの光を纏う過去の幻影を、眩き真紅の光条が貫いた。
大成功
🔵🔵🔵
アリス・セカンドカラー
お任せプレ、汝が為したいように為すがよい。
はぁ(クソデカ溜息)
|またコレ《過去の自分と対峙》系?何番煎じよ、慣れるを通り越して飽きてきたわね。
って、アレ|まだねんねだった頃《猟兵に目覚めて『あの子』何ひとつになる前》の私じゃん。まだナニも知らなかった頃の純真な私……へぇ(ニヤリ)
いくら戦闘力が同じでもねぇ、真っ当な戦術しか取れないんじゃねぇ。
はい、堕落に誘う小悪魔達の囁き。頭セカンドカラーな常識と一般的な意味での非常識を|流し込まれる《精神汚染》気分はいかが?ふふ、顔を真っ赤にしちゃってかわいいんだから♪
|えっちなのうみそおいしいです❤《大食い×魔喰×料理×エネルギー充填でエナジードレイン》
侵略新世界『|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》』に降り立ったアリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗の|混沌魔術師《ケイオト》艶魔少女・f05202)は、困ったわ、という風に片頬に手をあてて「はあ~ぁ」と大きめな溜息を零した。
「骸の海の|性質《タチ》とはいえ、|またコレ《過去の自分と対峙》系? 何番煎じよ、慣れるを通り越して飽きてきたわね」
果たして何時の私が出てくるのかしら?
幾度となく骸の海が作用する戦場を越えてきたアリスにとって、幻朧帝イティハーサの|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》は少しばかり物足りないものなのかもしれない。
そう、いわば刺激的じゃない。
継ぎ接ぎだらけの幻朧帝が創りし世界はまるでパッチワーク。
幻朧帝に呼ばれ現れたのは、ぺたんこ娘。
『あなたが私の欲しい物を持ってる、って聞いて――』
真剣な瞳は無垢で、お願いしたらもしかしたら聞いてくれるかしら? という打算があるあどけない表情で、今のアリスを見る、過去の|娘《アリス》。
「って、あらら? アレって|まだねんねだった頃《猟兵に目覚めて『あの子』とひとつになる前》の私じゃん?」
こんにちは、私!
とウインクして艶やかに微笑めば、|娘《アリス》の頬はぱっと染まった。
「ね。あなた。欲しい物の得るにはどうすればいいか知ってる?」
アリスが問えば、どう答えようかと悩む少女の姿。
『あなたを消滅させれば、くれると……あのおじいさんが』
ぽそぽそと呟く少女は、その方法すら知らなそうだ。けれども彼女を中心にサンサーラの光が徐々に増していく。
「やだ~♪ 純・粋! 本当にナニも知らないのねぇ。ふふふ、力づくも良いけれど」
ニヤリと妖艶に笑むアリス。目を細めれば、紅玉のような瞳は翳りを帯びた。
『覚悟、を……!』
祈る様に組んでいた手を開いた|娘《アリス》から放たれるサンサーラの光。それは明滅し周囲を消滅させていくもので、骸の海の循環を促すもの。
「う~ん……いくら戦闘力が同じでもねぇ、真っ当な戦術しか取れないんじゃねぇ」
再び困ったわ、という風にアリスは首を傾げた。
「これ、報告書として残る戦いなんだもの。私に恥じぬ、私となれるように、教育が必要かしら」
そう呟いて、アリスはユーベルコード『堕落に誘う小悪魔達の囁き』を発動した。
――ねえねえ、過去の|娘《アリス》。アリスに勝ちたいなら、あなたのまっさらを捧げなきゃ。それが対価ってモノでしょ?
――ええっ、違うわよぉ。本当は負けたいんでしょ? 未来のアリスが羨ましくて仕方ないんじゃない? だってあなたが欲しい愛を、たくさん得てそう。
アリスは優しいから、あなたが従属を望めば、きっと受け入れてくれる。
アリスが手練手管を教えてくれるわよ。
例えば、そう、こんな感じ……。
と、ひそひそと囁く小悪魔アリスの声は言葉はくすぐったくて、|娘《アリス》の顔はどんどんと赤く染まっていく。今にも爆発しそうなほどに。
「頭セカンドカラーな常識と一般的な意味での非常識を|流し込まれる《精神汚染》気分はいかが? ふふ、顔を真っ赤にしちゃってかわいいんだから♪」
ね♪ |娘《アリス》、|幻朧帝《おじいちゃん》。
「た~っぷり、私に頂戴ね。私、欲しがりなのよ❤」
|えっちなのうみそおいしいです❤《大食い×魔喰×料理×エネルギー充填でエナジードレイン》
骸の海の力すら啜り糧とするアリス。
少しずつ、新世界は崩壊へ導かれてゆく。
大成功
🔵🔵🔵
木元・明莉
未来が不要とか、言ってくれるよな
しかも過去の自分と会わせてくれるとか無駄なサービスまで有難いこった
苦笑まじりに相対する今より少し若い自分の姿
こう見るとまぁ…、色々と子供だよな(目が泳ぐ
あの頃は今よりも笑ってたかな
きちぃな、と思っても笑ってりゃ何とかなると思ってたし、「頼れ」「信用して」と言われるまで無理してる事にも気が付かなかった
今はどうかね?
少なくとも「過去」の為に生きてはいない
「お前」もそうだろ?
なら一番効率的な手段を選ぼうや
大刀「激震」の衝撃波で矢の着弾を弾き火炎耐性で炎に対応
UC発動
過去の自分と共闘し幻朧帝へと攻撃しよう
未来を望む自分が2人いる
ならどう考えてもこれが一番手っ取り早い
「既に冷めた時間よ、今世に在る今の生命が憎くはないか? 羨ましくはないか? 同魂たる今時の生命を過去の時へ流したくはないか?」
侵略新世界『|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》』に声を渡らせる幻朧帝イティハーサ。
無限量といわれている骸の海が満ち、過去の気配はあちらこちらに。
天矢翔ける空は尾を引く炎の煌めき。火の粉と桜花弁が時折入り乱れる――ひと時の|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》は美しささえ感じる。
「新たな『未来』など必要ない。この世界は冷めたいのちが再構築できる世界――」
生命持つ者からすれば歪なイティハーサの言葉。
「未来が不要とか、言ってくれるよな」
サイキックハーツ世界で常に闇を傍に生きてきた木元・明莉(蒼蓮華・f43993)は、自分の未来、誰かの未来のために戦っていた。
歩み、駆け、自然と紡ぐに至ればそこは|未来《いま》。
「しかも過去の自分と会わせてくれるとか無駄なサービスまで……有難いこった」
ほんの少しの呆れまじり、警戒まじり、苦笑まじりに呟き見遣る先には――武蔵坂学園の生徒だった頃の木元明莉がいた。
骸の海から引きずり出された過去の明莉は最初こそ、注意深く|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》に目を向けていたが佇む明莉の姿に気付くと表情をぎょっとさせた。
『俺……?』
「そー、俺」
過去の明莉に向けて、ひらり手を振ってみる。
『……力が欲しいか、みたいな事を夢で言われたから「夢だし」と軽く来てみれば……そうか……俺は詐欺られたのか……』
こくりと頷く神妙な彼の表情に、「言うね、お前」と呆れ応えながら明莉はまじまじと過去の自分を見た。親しみを感じさせる軽妙なやり口。
身体は十代らしく成長途中、サイキックハーツでの大戦を乗り越え、本当の意味での穏やかな日々を刹那過ごした今の明莉に比べて『芯』はまだ無いように思えた。
(「こう見るとまぁ……、色々と子供だよな」)
やや目を泳がせながら明莉は思った。軽口は敢えてだ。自分自身のことなのでよく分かっている。
(「あの頃は今よりも笑ってたかな」)
笑えば周囲も笑ってくれた。僅かながら前を向いてくれた。場を和やかにするのは自身の努めだろうと思っていた時期もある。
死線に立つ戦いは幾度となく。
闇に蝕まれ、未来もどうなるか分からず、先は常に闇に覆われていた気がする。友人や知人が闇堕ちすれば迎えにいった。
(「きちぃな、と思っても笑ってりゃ何とかなると思ってたし、……、……「頼れ」「信用して」と言われるまで無理してる事にも気が付かなかった」)
今も縁を結び続けてくれている『彼ら』を想う。
桜の時期ともなれば自然と集まったり、花見にぴったりな写真を送ってきてくれる。中秋の名月も同じく。節目節目に行われるリモート宴会。
『で、どうする。くれたりするん?』
あくまでも軽く、過去の明莉が問うてくる。にっこりと。
軽快な口調の裏は猜疑があるだろうに。
「力……力なぁ。少なくとも、今の俺の力は、俺一人で築き上げられたわけじゃないからな」
明莉が「過去」に向けるのは、苦笑まじりの穏やかな微笑みだ。
「築いてきたのは「過去」の為ではないし、少なくとも俺は「過去」の為に生きてはいない」
「お前」もそうだろ?
と銀の目を向ければ、「明莉」は肩を竦めた。
『自分自身に策を練っても無駄すぎるよな』
明莉が手をかざし、「明莉」がぐるりと腕を回せば、現れた銀色の大刀が虚空を鳴らした。今も昔も変わらぬ重み。
「なら一番効率的な手段を選ぼうや。――ま、ここは力を得る通過点と思えばいい。クリア条件は幻朧帝をぶっ倒すことだな」
そう言った明莉たちへ幻朧帝が声を震わせ響かせる。
「三十六世界に生きるもの……意志が描き残した過去の時間……汝等は儂の創りしものではない――故にその意志は未来へ響く。儂はそれをゆるさぬ」
天に流れていた幻朧帝の天矢、サンサーラナラーカが発動し熱を増し明確に飛翔する。大焦熱地獄の炎を纏った天羽々矢が交差し幾何学模様を描き出す|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》の天。
――明莉が激震を振るう――幅広い銀色の大刀が捉えた場所には骸の海に漂う気脈。
「龍脈に眠る荒神よ」
|ユーベルコード《サイキック》を発動すれば、超弩級の一撃に伴う衝撃波が火炎の矢を吹き飛ばす。その苛烈な荒風に煽られ弾かれた火炎は、遠ざかる光条の如し。
(「未来を望む自分が2人いる」)
「なら、どう考えてもこれが一番手っ取り早い」
繰り出された二刀の激震は骸の海に満ちた地を割り、その斬撃は幻朧帝にも届いた。
大成功
🔵🔵🔵
エリー・マイヤー
このところ、やたらと過去に向き合わされますね。
オブリビオンが相手なら、仕方のないところではあるのでしょう。
はぁ…
げんなりです。
今も昔も、私は大して変わりません。
家族が大好き、自分が大好き、他人が大好き。
そしてそれを表に出すのが苦手。
家族を失ったか。
戦う覚悟があるか。
違いはそこだけです。
【寵姫の瞳】により、過去の私を魅了。
大好きな私を傷つけることを躊躇っている内に、念動力で縊ります。
はぁ…
げんなりです。
敵に対しても寵姫の瞳です。
制御できない欲望は、解脱とは相反する要素。
故に、欲情した時点で、アナタは|サンサーラ《完全》たり得ない。
そうして弱体化した敵を、念動力で曲げて潰して歪めて引き千切ります。
意志を得た幻朧帝イティハーサによって創造された『|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》』。
骸の海の中にある世界の中で|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》はより骸の海に近しい世界だともいえるだろう。
そんな世界に訪れたエリー・マイヤー(被造物・f29376)は物憂げな吐息を零した。
「……このところ、やたらと過去に向き合わされますね。オブリビオンが相手なら、仕方のないところではあるのでしょうが……」
幾度となく死線をくぐる戦いをこなしてきたエリー。オブリビオンに対峙するということは、過去に向き合うこと。時に、辿ったかもしれない未来を見せつけられたこともある。あの罪をなした存在は重い。
げんなりです。と、溜息を吐く。
幻朧帝から引きずり出された過去の時間――過去のエリーもまた物憂げに、今のエリーを見つめ佇んでいた。
『これは夢でしょうか……私がいます。新しい妹でしょうか』
フラスコチャイルドのエリーは作られた存在だ。ゆえにそういった言葉が出てくるであろうことは予想していた。
『こんにちは』
と挨拶してきたエリーは、今よりは多少社交的なのかもしれない。あの頃は、姉が、色々と自身を気遣ってくれていた。
「……こんにちは、|エリー《私》」
相手がいつ牙を剥くのか分からない。いや、牙は元々ないだろう、とエリーは思考する。だって、あれは『私』。
(「今も昔も、私は大して変わりません。家族が大好き、自分が大好き、他人が大好き」)
そしてそれを表に出すのが苦手だ。
骸の海から引きずり出されたエリーは、アポカリプスヘルと呼ばれる前の世界の|時間《存在》。
それなりに充実した平穏な時間を過ごしていた|時間《存在》。
同じ顔をしたエリーを怪しむでもなく、ただ漠然と目の前の|エリー《同じ細胞》を受け入れようとしている。
素直で純粋。
(「家族を失ったか。戦う覚悟があるか。違いはそこだけですね」)
環境が変われば思考も変質してゆく。
エリーが経験したもの、彼女が経験してないもの。
「これを成長、と呼んでもいいものかは分かりませんが」
過去と現在の隔たりはあまりにも大きい。
どこか親しげな目でこちらを見てくる過去のエリー。疑いなんてありもしない。きっと、私自身も、こんな風に家族を見ていたのだろうなとふと思った。
エリーが寵姫の瞳を向ければ、『よろしくお願いします』なんて告げて手を差し伸べようとしてくる過去のエリー。
『他の兄弟姉妹にはもう会いましたか? アナタは私の可愛い姉妹ですから、きっと姉も喜んで――』
雰囲気が幼い身体――愛情をもって呼びかける『エリー』は次の瞬間、ぐしゃりと縊られた。
これは訓練を重ねてきた、エリーに与えられた才能。念動の力。
「はぁ……げんなりです」
倒れ伏し、そのまま骸の海へと沈んでいく過去の自身を見る。まるで廃棄されたかのような惨状だ。
寵姫の瞳はそこかしこにある幻朧帝の気配にも向けられた。
「は、は。心地よい意志を向けられたものだ。儂を篭絡しようとするか。その時間を得て、骸の海におさめるのもまた一興」
「制御できない欲望は、解脱とは相反する要素――故に、欲情した時点で、アナタは|サンサーラ《完全》たり得ない」
神王サンサーラを纏いし幻朧帝へも念動力を放つエリー。
「これも享楽。地獄への切符を持たせるにはふさわしい」
曲げて潰して、歪めて引き千切れば、|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》は崩壊に向けて揺れ動きだした。
大成功
🔵🔵🔵
雨倉・桜木
過去のぼく、桜の精として発生して間もない頃
人間への憎悪がコントロールできず
ぼくの下に虐げた動物たちを埋めに来た犯人たちを殺め周っていた頃
うん、気持ちはわかるけれどね
人はそれだけじゃないと知るべきだ、うん
あはは、憎悪に塗れて本当にもう、鬱々としていて格好悪いな…!
まってキュウダイくん、笑わないで
恥ずかしいのはぼくなんだ、とても見るに堪えない
え、人間への憎しみは今もあるよ
だけれどね、ぼくは人が紡ぐ文芸を愛してしまったんだ
二律背反も上等さ
本当、木の根すら腐り果ててしまいそうなほどジメジメしているなぁ
キュウダイくん、よろしく頼むよ
あのひん曲がってる過去のぼくを物理的にまげておくれ!
新たに創り出した侵略新世界『|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》』にて、幻朧帝イティハーサの声が渡っていく。遮蔽なき場所では風の様に。
「既に冷めた時間よ、今世に在る今の生命が憎くはないか? 羨ましくはないか? 同魂たる今時の生命を過去の時へ流したくはないか?」
そう言って施行され引きずり出されるは過去の時間。
骸の海に満たされた世界で発生した桜吹雪の『気配』は、雨倉・桜木(花残華・f35324)がよく知るものであった。
(「いや、知るというよりは……」)
『わざわざ埋めてやったんだから、恩返しにきてもいいぞ』
『また一匹。あんまもたないな……』
『次はどう遊んでやろうかな』
引きずり出されゆく過去に引っ張られ、数多の声が辺りに響き渡る。
トリオ・ザ・けもデビルズがわちゃわちゃと桜木にくっついた。
人間の声に伴う姿――咲き誇る八重紅枝垂桜の下に埋められた動物たちの状態を、桜木はよく覚えていた。
脳裏に過るは飢えを与えられた仔、轢かれた仔、快楽のために殺された仔、実験や興味に殺された仔。
「ああ、この頃のぼくかぁ」
そう言って桜木が見遣った先には、眉を顰め目を据わらせた過去の雨倉桜木の姿。桜花色の髪や、桜の根色の手も今と同じもの。
『……ああ、憎いな。どうして殺した。どうしてぼくの下に埋めた。転生に怯える仔もいた。どうして、こわい、にくい、と魂が告げていた――』
過去の桜木自身が音響であるかのように呟くは彼らの悲鳴、嘆き、怨嗟。
彼らは、言葉は扱えずとも魂はそう訴えていた。
(「人間への憎悪がコントロールできず、|八重紅枝垂桜《ぼく》の下に虐げた動物たちを埋めに来た犯人たちを殺め周っていた頃の、ぼく」)
「――うん、気持ちはわかるけれどね。人はそれだけじゃないと知るべきだ、うん」
耳を傾ければ命乞いをする人間がほとんどだった。
はらり、はらりと涙をこぼす人間の姿は、埋められた仔のために自身が枝から舞い落とす桜花弁よりも醜悪だった。
「人間を庇う? 未来のぼくは醜悪だなぁ」
醜悪だなぁ。みっともない。
嫌悪に満たした声で呟かれた過去の言葉は、よく、人を殺めた時にうっかり呟いたものばかり。
「あはは、憎悪に塗れて本当にもう、鬱々としていて格好悪いな……!」
桜木がそう言うも相手は聞く耳をもたないのだろう。大振りのナイフを手にし、今にも襲撃せんという姿勢だ。
(「そういえば、殺し方をそっくりそのまま返してやろうと思ってた時期もあったっけ」)
やだなぁと桜木は笑んだ。なんて生温い。
「って、まってキュウダイくん、笑わないで」
接敵される前に手を打つべきだろう。
三味線を持ちながら、桜木は横で笑っているキュウダイに言う。
「恥ずかしいのはぼくなんだ、とても見るに堪えない」
そう言う桜木に、キュウダイはキジ尻尾を振った。キュウダイの問いかけに桜木はにこりと応える。
「え、人間への憎しみは今もあるよ? だけれどね、ぼくは人が紡ぐ文芸を愛してしまったんだ」
二律背反も上等さ。
例えば、そう。『彼』の鬱々とした状態も作家によって紡ぎ方は違ってくる。
今、過去の桜木が紡ぐ怨嗟は――誰かの借り物。
骸の海から引きずり出した恨みつらみを言の葉にのせれば、桜花色の髪が神王サンサーラと同じ黄金へと染まっていく。
強い呪詛だ。
「はは、本当、木の根すら腐り果ててしまいそうなほどジメジメしているなぁ」
三味線に撥をあて、弾く一音。続けて二音、三音と弾けば放たれた音の波が呪詛を相殺していく。途切れた音波を新たな旋律で補うようにすれば、読み切れない、見えない波状が周囲に拡がっていく。
「キュウダイくん、よろしく頼むよ。あのひん曲がってる過去のぼくを物理的にまげておくれ!」
呼ばれた一角猫キュウダイが猫の肉球模様をくぐり抜けてくる。
桜木の語りに力を満たし、折り曲げの術を過去の桜木へと放った。
人間への憎悪をどうすることもできず、真っ直ぐに、暴虐に力を振るった。
キュウダイの術は強い風で黄金色の髪を吹き散らし、彼の幹を衝撃にたわませた。上に、横にと揺さぶった折り曲げの術に過去の桜木――サンサーラへと変貌しゆく幻朧帝の身体を軋ませる。
樹木が折れる破壊音とともに、過去の桜木と幻朧帝が乖離する。
ざぁ! と枝葉を揺らし、骸の海に還っていく『桜木』。その姿は頭を垂れた枝垂桜の姿だ。
慰めの花弁を還る骸の海へと浸して。
『ここに、い、て』
『おか、えり』
周囲に在る動物たちの骸が、沈む彼を迎え入れていった。
大成功
🔵🔵🔵
桂・卯月
アドリブ連携歓迎
基本無表情・動じない
『!』は殆ど使わない
・過去の姿
9歳で予備として封印された
予備扱い諸々を『そうか』と受け入れた登山用ロープの神経
喋る理由がないので今以上に無口無表情
今の状況も、つまり戦うのか、と受け入れている
過去の自分との対面、か……
…………まずいな。互いに間がもたん
「戦場で言葉は不要。いざ参る」……よし、乗ってきた。喋らんが
やはり使い慣れた月の魔力での攻撃を主力にしてくるか
月がない分、出力の調整に難があるようだな
長期戦になると厄介だ
ブロッケン・ミラーで防ぎ、UCで防御力低下
神火と紫煙銃に全火力を載せて幻朧帝も纏めて撃ち抜く
あの俺は、倒れる時、勝者に敬意を払うのか
……そうか
意志を得た幻朧帝イティハーサが新たに創った地に君臨する。
そこは『骸の海』に満たされた侵略新世界『|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》』。
「既に冷めた時間よ、今世に在る今の生命が憎くはないか? 羨ましくはないか? 同魂たる今時の生命を過去の時へ流したくはないか?」
そう言って呼び寄せ、引きずり出す過去の時間――桂・卯月(ルナエンプレスのブロッケン・f37506)は、ふと、静寂なる懐かしき気配が漂ってきたことに気付く。
幽閉されていた時間が、ここには在った。「なよ竹の牢獄」だ。
一度だけの、静かな瞬きの間に卯月の過去が顕現する。
卯月に視界に映るのは、童水干を着た黒髪の少年だ。
卯月は『予備』として封印されていた過去を持つ。
封印されたことに対しては、『何故』『酷い』などの言葉はない。予備の扱いから、一時期は無い者として認識されていた過去に関しては、粛々と「そうか」と受け入れ続けてきたものだ。
世の風に煽られても靡くこともなく、刃を入れられても存外切れることはなく、今思えば登山用ロープのような神経だったな、とすら思う。
あの頃は今よりも情緒が育っていなかったのだ。……否、今も育った、とは自身では言い切り難いが……。
喜怒哀楽はあまりなく、卯月の日常に触れてくるのは僅かな出来事。
平淡な日々のなか、琴線に触れてくるちょっとした出来事は、小さなものだったけれど何だか冒険をしている気持ちになった。
なよ竹の牢獄では喋る必要もなかった。
つまり……。
今の卯月と、過去の卯月少年は向き合っている。淡々と。無言で。
ぷらり、と下がった幼い手は、どんな対応もできるように受けの姿勢だ。
……つまり……戦うのか、という認識は持っている様子。
(「互いに相手の様子を窺い、出方を探っている――……感じではないな。受け身だ」)
ぷらぷらと、今は風にそよぐなよ竹のように僅かに腕を揺らしている。まずい。飽きているんじゃないか?
(「…………まずいな。互いに間がもたん」)
と、思う辺り、卯月も成長したのだろう。これは相手に対する気遣いだ。少年の卯月は当然持ち得ていない大人しぐさ。
「戦場で言葉は不要。いざ参る」
無表情で卯月がそう言えば、少年の卯月はこくりと頷いた。
(「……よし、乗ってきた。変わらず、喋らんが」)
蓬莱の玉枝の宝玉をひとつ持った少年の卯月は、骸の海に満ちる翳りを利用し、宝玉に陰影をもたらした。
(「やはり使い慣れた月の魔力での攻撃を主力にしてくるか」)
弱弱しい月光が周囲を照らし出し、作り出されたなよ竹林の如き細き影は卯月の精神を刺してくる――だけではなかった。猟兵と同じ力を持った少年の卯月は、地から飛び出すように月の魔力と翳りでなよ竹を構築していく。
(「月がない分、出力の調整に難があるようだが――」)
自分自身だからこそ分かる。この場で同調できる月の魔力が、徐々に帯びる翳りに浸食されていくことが。
長方形のミラーを複数枚展開させる卯月。ブロッケン・ミラーで月の光に紛れ刺突してくる影を防ぐ。
「眼を編み、魔を喰い、神秘を阻め」
原初の霧で構築したレンズは――発生した霞は途端にキラキラと光り始める。明滅の源は少年の魔力。
散光させた少年の力は、盾となり卯月の身を刹那に隠してくれる。
反射する力に身を守る態勢となり、集中や防御が崩れた少年の卯月。
武装外套の袖から掌へアイドウロンを滑らせて。
狙いをつける動作は鋭く、ブレがない。
撃てば、その衝撃に蒼焔が光条のように発生し、過去の卯月とこの地に蔓延る幻朧帝を撃ち抜いた。
「み、ごと……」
倒れ伏す少年が零した言葉に、卯月はやはり一度目を瞬く。
(「あの俺は、倒れる時、勝者に敬意を払うのか」)
苦しいだろうに。
「……そうか」
意識していなかったが、恐らくは、幽閉されたという事実は予想以上に少年を蝕んでいたのかもしれない。
大人の気配に敏く、身構え、窺っていたのかもしれない。
そういった日常は、心が疲弊してくる。
心身を守るために。
鈍く、鈍く、そうやって彼は生き延びてきたのだ。
大成功
🔵🔵🔵
青梅・仁
おーおー、一番嫌な時期のモノ見ちまったな
俺、こんなに暴れてたのか。嫌な海龍だなあ
ここで倒したところで過去が清算できるとは思っていないが……
いい機会だ、説教だ説教
人を信じられず、魂達の声も聞く気もない
人間への恨み怒りで暴れる海龍――邪龍そのものを見ていると溜息が出る
呆れ、恥、色々あるが――これで数多の人間に、そして海の魂達に迷惑を掛けたことを思うと、な
その体内ともいえる海へ飛び込み、刀を振るって『浄化』『神罰』
憎悪を弱めてやる
聞けよ、過去の俺
もうちょっと早く聞いてれば、後で悔いることは少なかったはずなんだ
……そうなんだろ、小吉(UC)
『そーだぜ仁。……ま、怒りてえ気持ちもわかっけどさ?オレ達確かに龍神サマに救われてたんだよ。恨みで暴れるお前なんか見たくなかった。オレ達の為に怒ってるんだとしても……嫌だった』
ほらな、最古参がこう言ってる
“俺”は聞けなかった、だがお前は今聞けた
もう暴れる必要なんてない
海水の身体であろうと斬り、幻朧帝にも『斬撃波』を届かせる
それが出来るのが今の俺だからな
「既に冷めた時間よ、今世に在る今の生命が憎くはないか? 羨ましくはないか? 同魂たる今時の生命を過去の時へ流したくはないか?」
幻朧帝イティハーサの言葉が世界にかつての時間を呼び起こす。
過去が再現されては還っていくを繰り返す侵略新世界『|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》』。
自身の過去を振り返る猟兵たちにとっては、改めて新たな意を抱く者もいるだろう。新しい未来への時間が生まれる刹那の邂逅は、ある意味精神的な輪廻と呼べるものかもしれない。
そんな中、青梅・仁(鎮魂の龍・f31913)は|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》に満ちる骸の海の気配が違った海のものに変化していることに気付いた。
罪人や忌物、不要とされたモノが棄てられる海――人の世界での澱みが流れ沈んで――沈殿したものが残留し年月と共に色濃くなっていく『怨嗟の海』の気配だ。
『――私の行いは正当なものである。無下に扱い、認めない者は生きてる価値などなし』
そう主張した極悪首領が断罪され、死体は晒されたあと海に棄てられた。連座となった一族の者も一緒に。
『ほかのきょうだいがいきていくために棄てられた。……どうして』
口減らしに棄てられた赤子。
『呪い殺す呪い殺す呪い殺す』
理性を失った者が呪詛を放ち、殺意に塗れた手を伸ばそうとする。
海波でもある龍がその怨嗟をさらっていくのが常ではあるが――この時、海に満ちる声をかき消すように襲ったのは龍の咆哮であった。
大音声の起点を中心に、ざん! と高波が広がっていく。海底に鎮め眠らせていたものすら浮上してきて、仁の知る怨嗟の海はあっという間に阿鼻叫喚をきわめた。
渦巻く海は円を描き、やがて海龍のような輪郭が浮き上がってくる。速度の差異が発生し、それでも周囲に及ぼす影響は龍脈の如く。かの魂たちが寄ることも赦さぬように海は渦巻き続けた。
「おーおー、一番嫌な時期のモノ見ちまったな」
激流を受け流し、宙へ逃れる仁。
焚き染めた梅香が羽織から完全に飛んでしまった。それぐらいの暴風と鋭く伴う水飛沫をかつての海龍は起こしている。
「俺、こんなに暴れてたのか。嫌な海龍だなあ」
猛威を振るう過去の海龍は、構築していたもの――海に揺蕩う怨霊と人間の境界すら破壊せんばかりだ。
海の波力は非常に大きく、防波堤の役割をしていた境界が壊れてしまえば、彼らの呪詛は容易く生きる人間に届いてしまうだろう。
(「人を信じられず、魂達の声も聞く気もない、か」)
縋りつこうとした魂が波に流されていくのをこの目で見た。弾かれた忌物が混ざり合い、強い呪と成長していくのを見た。
『何と身勝手な!』
『人の善あるを見て、憎嫉してこれを悪む。ほとほと下らない』
妬み辛み、嫉み僻み、恨み。
事を起こした人間たちの感情が、たくさんの物と共に流れ込んでくる海。
人間への恨み怒りが増幅し暴れる海龍の咆哮は、自身の言葉だったからこそ、仁には聞き取れた。
邪龍そのものを見ていると溜息が出る。
「ここで倒したところで過去が清算できるとは思っていないが……」
呆れ、恥、色々あるが既に起こしてしまったことだ。数多の人間や海の魂たちに掛けた迷惑――起こした災禍は現の龍に悔過を刻んだ。
「いい機会だ、説教だ説教」
この海に棄てられた鋼たちで強化した太刀、銀ノ波を抜いた仁は尾で宙を叩きその身を重力に任せた。
構えは一の太刀を疑わぬもの。頭まで振りかぶった大上段からの一刀。その風切り音はすぐに波に呑まれてしまったが、銀ノ波と共に鍛錬してきた仁の龍神の力が渦巻く怨嗟の海を叩き割った。
自身の力を渡らせていた『邪龍』としては不快なものだろう。
斬り込みは二度、三度。異なる斬線、清廉で清涼な連撃は周囲の濁流を弱めていく。
「聞けよ、過去の俺。もうちょっと早く聞いてれば、後で悔いることは少なかったはずなんだ」
拓けた空間で太刀をもう一度振るえば、軽やかな風切り音。
「……そうなんだろ、小吉」
と声掛けた仁の視線は先に。
斬撃波は、暗く冷たい波だった。なのに次の瞬間渡った声はどこか明るく、あたたかい。
『そーだぜ仁。……ま、怒りてえ気持ちもわかっけどさ? オレ達、確かに龍神サマに救われてたんだよ』
仁が放った怨嗟の海波に乗って現れたのは霊魂体たち。声を発したのは先頭に立つ少年、『小吉』。
彼は仁と、そして目前に迫る怨嗟の海の龍に向けて言う。
『恨みで暴れるお前なんか見たくなかった。オレ達の為に怒ってるんだとしても……嫌だった』
過去に満たされた海を薙ぎ払う小吉たち。少しずつ海水量が減っていく――骸の海へと還っていく、過去の怨嗟の海に満ちた魂たち。
「ほらな、最古参がこう言ってる。“俺”は聞けなかった、だがお前は、今、聞けた」
――ここは、事を起こした人間たちの感情が、たくさんの物と共に流れ込んでくる海だ。流れてくる善なるものを、稀に見つけた時は大事にした。
そう在れるようになったのも、怨嗟の海の最古参である小吉のおかげだ。
「もう暴れる必要なんてないだろ?」
銀ノ波振らば、|自身《仁》の海は白波を立て、過去の|海《龍》と|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》を浸食する斬撃波。
言い聞かせるように告げた仁の声は、風なき大海原であるかのように、静かで穏やかなものだった。
大成功
🔵🔵🔵
ルインク・クゼ
過去のあたしは、赤い蜘蛛童……幼少のあたしやね(とヒナスミちゃんもおる)、集落で姫と言われとって、将来土蜘蛛になった時は、集落の長に……名前は緋角(ひすみ)やったんか
オブリビオンの土蜘蛛達が攻めて来なければ(7thKING WAR⑩〜想いは異世界で煌めいて 湊ゆうきMS様参照)
性格は余り違いはなさそうやね
本の少しお転婆な所があちらにはあるけど、怪力もオーラ防御の練度も互角(隣でヒナスミ同士も)
属性攻撃の練度はあちらが上かぁ
でも、あたしには【ご当地パワー】がある、緋角ちゃんが調子に乗ってきたタイミングを【第六感】で【見切り】
【グラップル&怪力】でぶん投げ
《ヒナスミ》ちゃんに騎乗し【動物使い&操縦】し【空中戦&空中機動&推力移動】で翻弄、仕上げに【ご当地パワー】込めた【早業】UCを《ヒナスミ》ちゃんから
あたしも《明石焼きビームキャノン》これにも【ご当地パワー&地元愛】を込めた明石焼き【砲撃&一斉発射&2回攻撃】をそれぞれ緋角ちゃんらと幻朧帝に、ゴメンな緋角ちゃん
[アドリブ絡み掛け合い大歓迎]
「既に冷めた時間よ、今世に在る今の生命が憎くはないか? 羨ましくはないか? 同魂たる今時の生命を過去の時へ流したくはないか?」
幻朧帝イティハーサの声と共に|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》で流れ始めるは、炎纏い輝く天羽々矢の群れだった。
ルインク・クゼ(蛸蜘蛛のシーアクオン参號・f35911)の頭上を通り過ぎていく、雨矢の硬い音。
骸の海が満ちる地には意識すれば数多の時間がそこら中にあった。
記憶に残る大地の匂いに気付いて、ルインクは周囲に目を凝らした。
『姫さま、姫さま』
『|緋角《ひすみ》姫様、おはようございます』
浮上してくる過去の時間。巣穴――小さき赤蜘蛛にとっては土蜘蛛の集落――では、しずしずとした声が発されていく。
幻朧帝イティハーサに呼び出された過去の時間たち。そのなかにルインクの幼少期の姿があった。
赤い蜘蛛童と、その傍らにはヒナスミの姿がある。
ルインクに視線を向けた緋角は、不思議そうにルインクに問う。
『なんであたしは長になってないんやろか?』
ルインクはぎくりとする。脳裏によみがえるはいつしか追った記憶。
真っ先に過ったのはルインクを囲う、集落を襲撃してきた土蜘蛛たちの姿。目の届くところでは鋏角衆のおじさんが倒れていた。
緋角は、否、ルインクは、外部の土蜘蛛たちの襲撃がなかったら集落の長となる運命だったのだろう。
「緋角ちゃん……」
集落の将来を思えば、そう問いたくなるのも道理だろう。ヒナスミは傍らの少女たちの味方なこともあり、それぞれに寄り添っている。
赤蜘蛛の少女に、もう少ししたら訪れる出来事を語ってもいいだろうか。そこまで思考を巡らせて、ルインクは軽く頭を振った。
きっと緋角は絶望する。幻朧帝は彼女の絶望と骸の海の力を重ねて、広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》に渡らせて今の時間を浸食していくこととなるだろう。
「緋角ちゃん、あたしは、あたしたちの未来のために今も戦ってるんよ」
『う~ん、何があったのかわからへんけども……あたしも、あたしたちの未来のために』
あたしの猟兵の力をいただくよっ。
そう言った緋角が周囲の土を盛り上がらせて礫をルインクへと放った。
飛んでくる礫を見切り、クローガントレットで打ち払ったルインクはその礫に重力の属性が重ねられていることに気付いた。
『わぁい、当たった! どんどんいくんよ!』
幼さ故か、緋角にはお転婆なところがあるようだ。はしゃいだ声が上がると同時に、オーラを駆使しさらに礫の群れを放っくる。
本来防御として纏うオーラは瞬時に拡大し、礫に瞬発力を与えた。
(「オーラの練度は互角……力任せなこの技も互角……」)
セキシュドライバークローからレーザーを撃ち出し、ルインクは次々と礫を相殺していく。
「属性攻撃の練度はあちらが上かぁ。――でも、あたしにはご当地パワーがあるんよ」
礫が砂塵となり視界が悪くなってくる。
『こんどは風のちからをまとった礫!』
緋角が新たな礫を放てば、それは風塊を纏う礫。砂塵に風穴を開け、それはルインクの元へ飛来してくる。
(「――今!」)
風圧に押され下に向かってきた塵群を遮蔽に、身を低く駆けたルインクは砂塵の壁を抜けて一気に緋角へと接敵した。
慌てて飛び退こうとした赤蜘蛛を掴み、空中へと投げる。
「緋角ちゃんはお転婆やったんやね」
ルインクは、緋角を通して過去へ想い馳せる。
明石焼きを作ってくれた鋏角衆のおじさんは、美味しそうに食べる緋角を見て、表情を綻ばせていた。
よく巣穴を抜け出していた蜘蛛童に手を焼いていたお付きのおねえさんは、苦笑しながらも出会ったヒナスミの話を聞いてくれて、ヒナスミの名前を一緒に考えてくれた。
あいされていたんやなぁ、といつか追って見た景色を思う。
無邪気で、お転婆で。
投げられて空中を飛ぶ緋角を追いかけるように、ヒナスミに騎乗するルインクが空へ躍り出た。
重力属性のビームを放ち、緋角の周囲を無重力状態にする。
『わわっ』
緋角が肢をばたばたさせて暴れても、赤蜘蛛の少女はくるんくるんと動くだけ。
その場から動けなくなった緋角を援護するためか、大焦熱地獄の炎を纏った天羽々矢が幾何学模様を描きながら飛来してくる。
熱を持つ空気が迫ってくるも、彼我の距離があるため調理用銅板よりはまだ熱くない。
虚空でヒナスミが得た推進力――「ヒナスミちゃん!」とルインクが声掛ければ、ヒナスミは呼応した。
「蛸墨の大地の力の毒性を増幅した……この一撃で……戦況を変えるんよっ!」
蛸墨咆哮――「オクトポイズニックブラスト」っ! ルインクの言葉でユーベルコードが発動し、ヒナスミは敵の嗅覚と感覚と動きを狂わす黒いビームを複数放った。
黒いビームは天羽々矢を阻害する誘導弾ともなる。
そして緋角の嗅覚と感覚が遮断された赤蜘蛛の少女からすれば、そこには刹那の夜や宇宙空間のように思えたことだろう。
「ゴメンなぁ、緋角ちゃん」
きっとこの頃の緋角とヒナスミは、明石焼きにハマり始めた時期のはず。
ご当地の力を味わって欲しいと、ルインクは願う。
明石焼きビームキャノンから放たれた明石焼きは二発。何もつけずに味わう焼きたてと、出汁を纏ったもの。
ふわふわな明石焼きが虚空を漂う緋角と、|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》に座する幻朧帝イティハーサへと撃ち込まれた。
大成功
🔵🔵🔵
島江・なが
過去の自分ですかぁ……
なが、今も昔も戦ってるのでそう変わらないんですよねえ
変わったことは毎日死の危険に怯えなくて済むようになったことですねい……
だから敵対するのはきっと毎日“本当の命のやりとり”をしてた頃のながですね
そんなことわかっ――
はああああ!?!?
腑抜けって言ったです!!!?
うっせーです腰抜けぇ!!!!
確かに今のながは自分も味方もそう簡単には死にません!
でも守るべき人がたーくさんたくさん増えました!
鋭さがなくなった?平和ボケ?
ぅ、確かに多少はあるかもですけどぉ……
故郷で戦ってる頃のながは怒りだけじゃなくて
苦しく悲しくもあったんですね
でも!昔も今も変わらねぇです
守りたいって気持ちは!
変わらねぇのはながなんだから一番わかってるはずです
幻朧帝とやらを放っておいたら嫌な結果になるのもわかってるはずです
それに誰かの命だけじゃなくて、心も守りたい――
そこについては昔より強くなったんでぇ!
過去のながも受け入れて前に進んでやります!
力貸せですよ!
過去のながの想いも乗せて――幻朧帝に突撃でぇす!!
「既に冷めた時間よ、今世に在る今の生命が憎くはないか? 羨ましくはないか?」
|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》に幻朧帝イティハーサの声が幾度となく渡り続けている。
侵略世界に転送された時、島江・なが(超弾丸シマエナガ・f42700)の身は空中にあり、彼女は真白の翼をすぐに広げた。
骸の海から浮上するように現れる数多の過去の時間は、新しき侵略世界に風を起こす。
「やな風ですねい……」
いつの間にかながの視界に広がる地上の景色はアポカリプスヘルに広がる荒野のものとなっていた。崩れ落ちた町の残骸があり、コンクリートから突き出した鉄棒に止まり、ながは羽を休める。
「過去の時間……過去の自分ですかぁ……なが、今も昔も戦ってるのでそう変わらないんですよねえ」
幼くして既にアポカリプスヘルでの戦いに身を投じていたながだが、今はUDC組織に保護され、猟兵として戦う日々だ。
けれども変わったこともある。頼りになる仲間や、あたたかな寝床がながの過ごす日々に加わった。しまふらいの看板娘としての仕事もある。
戦いに身を投じることは変わらないけれども、昔とは確かに違う日々。特に顕著な面は、
(「まいにち死の危険におびえなくて済むようになったことですねい……」)
「ちゅりりり」
過去の時間――故郷の景色の中、久々にシマエナガの声を渡らせてみる。
その時、「同魂たる今時の生命を過去の時へ流したくはないか?」という幻朧帝の声が響き渡り、元気に応じる声がながに届く。
『はぁーいっ、流したいですぅ!!』
「…………じゅりり……」
……完全に自分自身の声だ。ながは警戒しつつ、尾を振りながら周囲を探った。
過去の自分は、戦いの中に。故に、敵対するのは毎日“本当の命のやりとり”をしていた頃のながだろう。
(「そんなことわかっ――」)
『猟兵? のながはとんだ腑抜けになっちまったですからねい! おキュウをすえねばですよ!!!』
「――はああああ!?!? 腑抜けって言ったです!!!? うっせーです腰抜けぇ!!!!」
『腑抜け!!!!!!』
「腰抜け!!!!!!!!」
会話を書き起こす機械がここにあればどんどん感嘆符が多くなっていくやり取りだ。
『死ととなりあわせに生きてるながは、とっても強いんですからぁ! ばりばりに尖ってるんですよぉ!! 気を抜ければやられる。腑抜けたながはもう|群れ《故郷》にもどる資格はありません! 腑抜けがいれば、全滅しちゃう可能性だってあるんですよぅ」
そうでしょ? ながは賢いから分かるですよー。
ドヤドヤしながら言う過去のなが。
『猟兵のながは、ぬるま湯に浸っているのがお似合いですよ! 馴れ合いからのゆだんは死をまねくのみですが、ながの仲間は強いんでしょぉ? だからながは鋭さもなくなってますし、平和ボケしてるんでしょぉ?』
そんな風に頭を傾げながら、過去のながは挑発してくる。
「ふっ……くっ……。……ぅ、ながは……鋭さがなくなったり、平和ボケしたり……多少はあるかもですけどぉ……」
ぷるぷると震えながら、ながは反論する。
「でもでもっ、守るべき人がたーくさんたくさん増えました!」
だから死の危険が遠ざかったことは良いことなのだ。
「守りたい人がいるのなら、みずからに死の危険を呼び寄せてはいけないんですよ。今のながや、みんなは、簡単には死なないです。死なないことはだいじなんです!」
それだけは変わらない。
過去のながは、じっとながを見つめてくる。
『守りたい人たちがいるです? ながは、守りたかった人たちを覚えているです?』
「おっ……覚えているですよぉ……」
さっきまで怒っていた過去のながが、突然怒りを静めた。
同胞たちを喪った時のことは覚えている。
(「故郷で戦ってる頃のながは怒りだけじゃなくて、苦しく悲しくもあったんですね」)
『なが、今も昔も、守りたい人たちがいるんですねぇ!』
「!! ですよぉ! 昔も今も変わらねぇです! ながたちの、守りたいって気持ちは!」
にこぉ! っと二体のシマエナガが笑顔になった。
喜怒哀楽の感情は激しいのは変わらない。
腰抜けであっても、腑抜けとなっても、ながはながだった。
(「いやいや腑抜けじゃねぇですけどもー……」)
「ながはながなので、げんろーていとやらを放っておいたら嫌な結果になるのもわかってるはずです」
『ちゅりりり……』
「それに『守る』といっても、なが、知ったんですよ。思ったんですよ。誰かの命だけじゃなくて、心も守りたい――って」
『こころ』
「大変なことがいっぱい起こると、心壊れちゃうです。美味しいものを食べても、美味しいって思わなくなっちゃうです。嬉しいことも、嬉しいって感じなくなっちゃうです」
それって、とても悲しいことで。
何も感じなくなった人の、冷たい指先をあたためるように、ながは寄り添うことを覚えた。
「ながはね、昔より強くなったんですよぉ! だからながも、これから強くなるですよー! そのためにもながたち、この世界をぶっ壊して帰らなきゃですよねぇ!??」
力貸せですよ!
ながが発破をかけると「ぢゅりりりり!!!!」と過去のながの力強い同意。
過去のながが翼を広げると、その姿はすうっと黄金色の靄となり、ながの身体を覆った。
「行くですよ!」
バッと力強く飛び立ち空高い位置で、発射台よろしくはっぱボードに乗ったながは急旋回した。
炎を纏った天羽々矢がながを追ってくる。だがはっぱボードで得た遠心、風に乗ったながの翼はそれをゆるさない速度へと。
「突撃でぇーす! ぶっとばすです! 目指すはげんろーてい!!!」
黄金のオーラを纏い、|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》から吹き流れる嫌な風を、自身の風で圧し。
最高速度、675km/hにも到達するシマエナ|噴進撃《ロケットアタック》が、幻朧帝イティハーサへと炸裂した。
大成功
🔵🔵🔵
箒星・仄々
猟兵として命満ちる世界を守り抜いて見せましょう
過去の自分…
まだ本格的に音楽を学び始める前
手に取った竪琴の弦が生み出す様々な音色が
只々嬉しくて愉しくて
我流でひたすら日がな一日爪弾いていた
嘗ての幼い自分のようですね
自分との協奏なんて
中々出来ない体験です
その歳の私ではとても成し得なかった演奏で
これが幻朧帝さんのお力なのですね
けれど決定的な違いがあります
様々な世界での大勢の人々との触れ合いを通じて
沢山の経験を積んだ私と
それがまだない過去の私とでは
音色の深みや豊穣さが違うのです
幼き私を導くように演奏していけば
生きている命だからこそ生まれる力を感じた
過去の私は
帝の支配から解放されて
消えていくでしょう
お疲れ様
初心を思い出させてくれてありがとう♪
そのまま演奏を続けて
周囲へと光り輝く🎼や🎶を広げて
天矢や骸の海を吹き飛ばし
幻朧帝さんにぶつけます
更に幻朧帝さん自身を矢の軌道上へと吹き飛ばして
矢襖になっていただきます
融合も吹き飛ばせるといいですね
戦闘後も演奏を続けて鎮魂とします
安らかにお休み出来ますように
幻朧帝イティハーサの言葉によってよみがえってくる過去の時間――骸の海が満ちた|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》に転送された箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)は、懐かしい匂いに猫のハナをひくひくとさせた。
草原の匂いだ。
遠く、地平の果てには山影が見え、草葉は風に吹かれ優雅に波模様を描いている。
「懐かしいですね……」
幻朧帝が引きずり出した過去の時間は、仄々がまだ幼かった故郷の頃。自然溢れる故郷の地で、純血を保つ遊牧民の一族に仄々は生まれた。
身近な音楽は一族に伝わる歌、楽器、草笛、木笛で奏でるもの。
そして意外と多彩な自然の音色たちだ。天高く飛び鳴く鳥、夜の虫の声、川のせせらぎ、魚が跳ねる水音は刹那のセッション。
自身よりも大きくてふわふわな家畜を放牧している家畜番のお兄さん。
彼の仕事に着いてきた時のことだ、と仄々は思い出す。
放牧地の方から駆けて来た幼い仄々は、大きな竪琴を抱えていた。その姿を見て、仄々はくすりと微笑んだ。
(「あの頃の竪琴は、とても大きな物に感じられたものです」)
休憩のために建てられていた簡易的な野外テントの影に入り、弦を弾いて、音で遊ぶ。
ポン。ポロン。ピン。
楽譜なんて知らない、気ままに出し続ける音色。
「本格的に音楽を学び始める前ですねぇ」
一族の者が持っていた楽器がとても羨ましく、自分だけの竪琴が欲しかった頃だ。
(「竪琴の弦が生み出す様々な音色が、ただ、ただ嬉しくて愉しくて」)
我流で、ひたすら日がな一日爪弾いていた。
(「あの竪琴はおにいさんの物で、日中の暇つぶしにと与えられていた物ですね」)
「こんにちは、ぼく。お兄さんも休んでいいですか?」
カッツェンリートを抱えてテントに近付いた仄々は、子猫の仄々に声をかけた。
子猫の仄々はびっくりした顔で仄々を見上げた。
「良い竪琴ですね。私は竪琴を弾きながら旅をしている楽士です。一緒に弾きませんか?」
優しくそう誘えば、幼い仄々はおずおずと頷きを返した。
安心させるように、仄々はにっこりと笑みを浮かべ「ありがとうございます」と告げる。
座り、竪琴を弾く姿勢を取る。
ポロン、ポロロン♪ と流麗な音色を奏で始めた仄々に倣い、幼い仄々も懸命に目の前の竪琴を爪弾いた。
ポン。ポロロロン、ポロン♪
「おや、お上手ですね。上達が早いですよ」
そういえば、と思い出すのは、猟兵と同等の力を持つ過去の時間だという言葉。
(「その歳の私ではとても成し得なかった演奏です――これが幻朧帝さんのお力なのですね」)
自分自身との協奏なんて、なかなか出来ない体験だろう。
同じ音色を、異なる音色を、指先は弾いた弦でゆっくり跳ぶように、または急いで弦の上に走らせて。
そういえば、と、またまた思い出すのは仄々が経験してきたここ数年の過去の時間だ。
アックス&ウィザーズの祭りでは楽団と一緒に演奏し、ダークセイヴァー上層部では彼らの故郷の音楽を。
ヒーローズアースでは選手も観戦者も盛り上がる演奏を。
仄々が音色と共に脳裏を過ぎらせるものは、彼の演奏を聴いた人々の表情だ。喜び、懐かしく想い馳せて泣き、皆からいただいたお礼は言葉や夜ご飯やちょっとしたお土産や。
様々な世界で、大勢の人々との触れ合いを通じて、仄々はたくさんの経験を積んできた。
幼い仄々の巧みになってきた演奏には、その経験を感じない、音色は深みのないものだ。……そして、黒い猫の毛並み少しずつ幻朧帝イティハーサの灰の色へと褪せていく。
灰色の幼いケットシーは虚しい高い音色を響かせて――それもまた、演奏者としては一方的に情緒を感じるものであったが――仄々は上澄みの音色を補助するように豊かな低音を響かせた。
(「音色の深みや豊穣さが違いますねぇ……」)
色んな世界を歩んできた仄々。
まだこの遊牧民の地から出たことのない幼い仄々。
アルダワ魔法学園に渡るのは、カッツェンリートと出会うのは、まだ先の話。
底上げるような指運び。そこから放たれる豊かな二重三重となる音色は、まだ幼い仄々にはない技術。導くような彼の演奏を懸命に追う過去の仄々の音は、少しずつ変化していった。
――走った草原で息弾ませた時のように。
――夜に焚火を囲って弾くギターの音色はより温かみあるもので、竪琴のおにいさんも負けじと演奏している。
――その様子がおかしくて、子供の仄々たち笑い転げた。あの楽しさ。
「演奏、楽しいですね」
にこりと仄々が声を掛ければ、
『はい!』
と、幼い仄々が笑った。
『楽しかったです……! ガクシさん、ありがとうございました』
おーい、という声が草原の――|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》の地の下から聞こえてきた。
ふと周囲を見渡せば、夕暮れの空。
「――ああ、もうこんな時間なんですね。ぼく、また会いましょうね」
竪琴を抱えて立ち上がった仄々が幼い仄々に向かってゆっくりと手を振れば、同じようにゆっくりと手を振って、少年は駆けていった。
すぐに夜が訪れ、満天では赤く輝く天羽々矢が流星群となって翔けている。
「お疲れ様です、ぼく。いえ、幼い頃の私。――初心を思い出させてくれてありがとう♪」
仄々はぴょこりぴょこりと尻尾を揺らして。
ポロロロン! と力強く竪琴を爪弾けば、周囲に広がっていた夜の草原が掻き消える。残るのは骸の海が満ちる|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》の天矢翔ける空。
「さあ、行きましょう!」
初心を思い出して、軽快な音楽を!
仄々のユーベルコード『喝采のファンファーレ』が発動すれば、流星の如き赫灼とした矢の光群を弾きとばすように、光の五線譜が広げられた。
その光景は大地から昇っていくオーロラのように。
ケットシーの小さな身から溢れる膨大な魔力の光。
竪琴弾けば五線譜から音符が現れては、曲に合わせて虚空を流れていく。
「幻朧帝さん、その『意志』は神王さんにお還しくださいな♪」
今、天翔ける矢の如く、指で強く、まとめて弦を弾けば強き強き、多重の音。
ドン! と光の五線譜が|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》を突き上げれば、世界から吐き出される幻朧帝。
幾何学模様を描いて仄々に到達しようしていた矢が幻朧帝を貫き、彼が世界を創り内包していた骸の海が排出された。
その光景はまさに瀑布。
「安らかにお休みできますよう、今しばし、ここで演奏させてくださいね」
次の猟兵の力となれるように――。
仄々は鎮魂の曲を奏で続けた。
大成功
🔵🔵🔵
鵯村・若葉
――思えば。猟兵になってからまだ日は浅いですが……
前よりも少し、息がしやすい気はしているんです
過去の自分は営業らしくスーツをきちんと着ている
多忙すぎて目が死んでますね
今は私服勤務可の事務員をしつつ読み聞かせに行き
そして怪異を殺す日々
……今の方が忙しいな?まあいいか
|邪神《あの方》への信仰が強まりだした頃でしょうか
――都合がいい
猟兵になったことに信仰が関係あったかは定かではなくとも
『呪詛』を乗せて信仰故に力を得たと語れば充分な『挑発』になるはず
暴力には『暴力』を
昔の自分は完全我流の暴力
勢いこそあれ防御なんて考えられていない
勢いのある一撃を躱し『穢剣』で突き刺す
――間違いなく、あの頃の自分には死は救いに見えていたから
……大丈夫
おまえは無意味ではなかった
過去の経験が自分が紡ぐ言の葉を作っている
今も尚、価値を見出せない自分に言われても嬉しくはないでしょうが……
でも、慰め程度は言えるようになりました
だから……大丈夫だよ
幻朧帝、良い機会をくださり感謝いたします
礼に――あなたも正しく過去へ還しましょう
|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》を満たす骸の海の気配は、少しずつ薄まっていく。
先陣を切った猟兵、または異なる時間に呑まれ戦っているであろう猟兵。
(「あともう一押し、でしょうか」)
|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》に降り立ち、戦況の把握に刹那努めた鵯村・若葉(無価値の肖像・f42715)はそう思考する。
その間にもこの地に座している幻朧帝イティハーサは神王サンサーラの力を再現した姿となり、骸の海から過去の時間を誘う。
「既に冷めた時間よ、今世に在る今の生命が憎くはないか?」
『憎い。今も昔も……』
幻朧帝の呼びかけに応えたのは、鬱々とした頃の若葉自身の声であった。
「…………」
やや目を眇めて声がした方を見遣る。
「羨ましくはないか?」
『羨ましい』
どこぞで見かけるあたたかな家族の光景が。
友人同士で遊びに連れ立つ子供たちが。
平穏を纏う世が。
若葉の周囲に次々と映し出されては還っていく過去の時間。すべてが過去の彼の視点。
かつては陰鬱とした思いで視界におさめていた光景たちは、今見れば、ありのままの彼らを認めている気がする。そんなことに若葉は気付いた。
「――思えば。猟兵になってからまだ日は浅いですが……」
過去の自身は彼らの平穏纏う時間を撥ねつけては、その余波で起きる衝動を片付けていた。……そう、昔はもっと息苦しかった。……だが今は、
「前よりも少し……、息がしやすい気はしているんですよね」
『――そうですか』
若葉の言葉に応えたのは、骸の海から出て来た過去の若葉だ。しかしその声色は同意のものではなかった。『おまえもあちら側か』という憾み節。
「解せませんね。改善されたとは考えないのでしょうか」
若葉の問いに、過去の若葉は「はい」と端的に答えた。
過去の彼は営業らしくスーツをきちんと着ていて、そして目が死んでいる。
顔色は悪いし、目の下の隈は濃い。
(「あの頃は多忙でしたからね……」)
あの頃に受け重くのしかかったものは今も若葉の中に残留物としてあるけども。
(「今は、」)
私服勤務可の事務員をしつつ読み聞かせに行き、そして怪異を殺す日々だ。そこまで考えて心の中で首を傾げた。
「……今の方が忙しいな? ――まあいいか」
身を置く環境が合っているのだろう。今の方が多忙だが、息を吐ける場所が少しばかりある。
『何をぶつぶつと仰っているのですか』
「ああ、いえ、すみません。少々今の自分と環境を振り返っていました」
にこりともしない淡々とした受け答えだったが、若葉の声はやや前向きなものだった。羨ましいだろう? と促すように『呪詛』の力を籠めている。
「あなたは先程、改善されていないと考えそう答えました。それは何故ですか?」
『言葉から察するに、あなたはあの方への|想い《信仰》を捨てたのでしょう? あの方は自分の唯一。|想い《信仰》遂げなかったあなたの存在は、それが力を得るためであっても、赦し難いものです』
言葉の裏で、「臆病者」と言われた気がした。
この頃は、まだ『あの方』と純粋に呼んでいた。今よりも慕う心を籠めて。
(「|邪神《あの方》への信仰が強まりだした頃でしょうか」)
あの頃の彼はまだ、|邪神《あの方》について知らないことが多い。
――都合がいい。
「おや、逆には考えないのでしょうか。自分は、信仰を推し進めた。故に力を得たのですよ」
そう言って星銀の光を放つ。
孤独を極めて。
絶望を極めて。
死を救いとして。
刃を砥ぎ、剣を救い求める者に与え、救いを齎す代わりに穢れを得て、贄としての自身を極めて。
若葉の言葉は呪詛に歪み、相手には傲岸であるかのように届くことだろう。
信仰が強まりだした頃ということは、世間に歪んだ懸想を抱いていた頃だということは、つまりまだ何らかの望みを抱えているということ。
若葉が告げる信仰の道の過酷さを、彼は既に理解している。
|彼《過去》が相対する今の若葉は、きっと先へ向かうために足踏みしていた彼の背を押す悪魔みたいなものだろう。――絶望の海は深い。深みに怯え竦むのも当然のこと。
過去の若葉は少しばかり狼狽した様子。
ああ、若いなとふと思った。
『…………ならば、自分は、与えられた声に従い、あなたからすべてを奪いましょう』
そう決断したらしき過去の自分――若葉は「そうですか」と端的に答えた。「臆病者」という言葉が今度はあちらに届いたことだろう。
営業職というだけあってこの頃は体力がある。
猟兵と同等の力を与えられているせいか、迫ってくる彼の速度は一瞬。振りかぶった拳に剣は無い。完全我流の暴力だ。
勢いを糧にした踏み込みは荒く身体の芯はぶれている。
力任せに放たれた拳を寸前に躱せば、彼は容易く姿勢を崩した――前のめりに。
下から突き上げた穢剣が|若葉《過去》の胴に刺し込まれる。刺した感触は人間のものだ。
若葉の腕に縋るように身を屈める、過去の自分。背に手を当てて僅かに力を籠めてやる。
「……大丈夫。おまえは無意味ではなかった――|過去の経験《おまえ》が、自分が紡ぐ言の葉を作っている」
ナイフを抜く時は、やや斜めに切り裂きながら。
広がった傷、それから抜けたナイフを追うように、やや赤い――骸の海水が両者の間を染めていく。
「今も尚、価値を見出せない自分に言われても嬉しくはないでしょうが……でも、慰め程度は言えるようになりましたよ」
崩れ落ちそうになる過去の自分を抱き留め、ゆっくりと仰向けに倒した。広がる骸の水溜まりはそのまま|骸の海が満ちる地《サンサーラナラーカ》に滲みて還っていく。
「だから……大丈夫だよ」
閉じられていく灰色の瞳は光を映さず――否、若葉が纏う星銀の光がひとつ、宿るように。
彼が最期に瞼奥で見る景色は何だろう。
眠る様に事切れた鵯村若葉が|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》の地に沈んでいく。
彼の身体に手を置き、彼が棺の中に在るかのように、周囲を星銀神光で彩っていく若葉。
「幻朧帝、良い機会をくださり感謝いたします」
骸の海に還っていく彼と共に星銀の光が|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》に瞬き広がっていく。此処が満天であるかのように。
「礼に――あなたも正しく過去へ還しましょう」
幻朧帝イティハーサが創りし|広大無辺の無限地獄《サンサーラナラーカ》。
若葉の中に今も響き渡る過去――地獄の日々はまだ胸の中にあるけども。
いつしかこのように、還っていくことをふと願った。
●
鎮魂の曲に彩られて、星銀の光に導かれて。
最期にほんの少し、賑やかな、美しき調べを現の時に残して。
創られた侵略世界は崩れていった。
大成功
🔵🔵🔵