帝都櫻大戰㉑〜未来は赤く燃えているか
帝都全域、いや、このサクラミラージュのどこへ行っても咲き乱れていた幻朧桜は、今や大きく大きく暴走し成長し、伸びに伸びた枝葉はどこまで行っているのか。
ゆえに、そこが天空か、地上の果てなのか、上か下か、それはよくわからない。
ただ、確かなのは、このあまりにも広大な世界型大魔術『スタアラヰトステヱジ』の織りなす華美なまでに彩られた舞台があった。
舞台のような世界。いや、或は、世界のような舞台なのか。
『おのれ、ビームスプリッター……儂の力をこのように使うとはな。だが、これで終わりはせん』
幻朧帝イティハーサの枯れ木のような姿にもスポットが当たる。
卓越した賢人の如く、世を儚む預言者の如く、隻眼の老人は手を広げ仰々しく、それこそ舞台俳優のように大げさな素振りで周囲に目配せする。
『もうよいではないか。あまねく世界に生命はもう、不要ではないか。形有るもの、命あるもの、そのすべては輝きと熱を失い、冷めゆくのだから』
地平線の果てまで続くかのような客席に向かい、それら全てを睥睨するかのような虚ろの視線が、さながらこの世界、この舞台を支配しているかのようですらあった。
過去から世界を創造するという、あまりにも強大な力を持つイティハーサの影響力は、その力を逆利用したこのステージの上でも遺憾なく発揮される事であろう。
「舞台、演劇、ねぇ。冗談をやっている場合ではないと思うんだが、世界も変われば常識も変わるか……むしろ、この|舞台《・・》の上でなら、それが最高の武器となるんだろうな」
グリモアベースはその一角、ファーハットに青灰色の板金コートがトレードマークのリリィ・リリウムが、複雑そうに眉を寄せる。
サクラミラージュを混乱の渦に巻き込む幻朧帝イティハーサは、ついにその姿を現した。
その力は、あらゆる過去を組み合わせて新世界を創造するという、規模の大きなもの。
それは骸の海そのものと言っても過言ではない。オブリビオンとこれほどまで相性のいいものもあるまい。
「創世をしながら未来を否定するとは、実に矛盾しているように感じるが、まぁ、長生きしていると短命の者を無意味に感じるくらいには世を儚むのかもしれないな」
皮肉った物言いに鼻を鳴らしながら、リリィは改めて今度の戦場となる舞台の説明に移る。
戦争中に新たな世界が発見されるというのは前代未聞といってもいいが、これらの新世界はいずれもイティハーサの能力によって創られたものであるようだ。
世界型大魔術『スタアラヰトステヱジ』は、これまでのサクラミラージュの戦争で出現した有力敵と融合することで作り出された新世界の一つと数えられるが、今回のケースでは有力敵の一つだったビームスプリッターが猟兵側につくことになったことで、いくらか有利に働いている。
「この舞台の上では、想像力と表現力が続く限り、猟兵の力は無尽蔵に増大する。最高のステージを演出すると力を発揮するというやつだな。私みたいな大根役者はつらいところだな。
ただ、敵も無力ではない。言ってしまえばビームスプリッターの趣味でこういう世界にはなっているが、舞台製作の材料はイティハーサなのを忘れてはいけない。
舞台装置は、必ずしも君たちを味方するとは限らない。何を見せてくるかわかったものじゃないぞ」
無限に増え続ける過去そのもの。オブリビオンを超越した何か。骸の海そのもの。聞こえてくる噂は、その力の強大さを示すに足る。
立ち向かう猟兵に対し、幸福だった最良の過去をでっちあげてでも見せてくるかもしれないし──、
あまりにも絶望的な未来を見せつけてくるかもしれない。
「世界を創れるほどの相手だ。思い描いてしまったものは、幻想、現実の堺を薄くし、君たちを陥れるだろう。
だが、それこそが攻略ポイントでもある。
幻朧帝は、それらを越えられやしないと思っているのさ。
だから、そこに、隙が生まれるはずだ」
人には過去がある。多くの歴史が礎となり、その上に立てているのなら、越えられない過去などないはずだ。
或は、絶望的な未来を書き換えるヒントにもなるかもしれない。
リリィは気休めと前置きつつも、強大な敵へ立ち向かいに行く猟兵たちにエールを送るのだった。
みろりじ
どうもこんばんは。流浪の文章書き、みろりじと申します。
この姿は北欧の神では? と思わずつぶやいてしまった幻朧帝イティハーサとの決戦シナリオとなっております。
本人の力もさることながら、これまでの有力敵と融合して、どえらい能力で以てやってくるようです。どこまでも過去を再利用してきますね。
ただし、ビームスプリッターは、猟兵のダイモンとなってしまったので、このシナリオでは単身でやってくるようです。
『スタアラヰトステヱジ』は、大きな舞台のような世界……石のような物体みたいな言い回しですね。
それはともかく、舞台が舞台なので、表現と想像が猟兵の力となって手を貸してくれるようです。
ただし、イティハーサも強力な力持っています。
幸福な過去や絶望的な未来を想起させることで、猟兵たちを終わらぬ幻想に取り込もうとしてきます。
それを仮に思い描いてしまったなら、猟兵としては、それを乗り越えない限りイティハーサに大ダメージを与えることは難しくなることでしょう。
要するにまぁ、プレイングボーナスとして、「最良の過去」ないし「絶望的な未来」を描写し、それらを振り払い、乗り越える事ができれば、少なくないダメージを与えることができるかもしれません。
もちろん、プレイングボーナスなんてきょうみないわほー! みたいなノリでも、全然かまいません。
ただよく考えろ。ボス戦もボス戦なので、難易度が設定されているんですよ。気を付けるんじゃぞー!
てなわけで、このシナリオは戦争シナリオですので、ボス戦オンリーの1章完結となっております。
プレイングの募集期間などは特に設けず、お好きなタイミングで送ってくださって大丈夫なはずです。
それでは、長々と書きましたが、皆さんと一緒に楽しいリプレイを作ってまいりましょう。
第1章 ボス戦
『幻朧帝イティハーサ』
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POW : 天羽々矢 undefined arrow
【矢】を非物質化させ、肉体を傷つけずに対象の【生命】のみを攻撃する。
SPD : 征服せし神鷹 undefined falcon
【神鷹】による超音速の【飛翔突撃】で攻撃し、与えたダメージに応じて対象の装甲を破壊する。
WIZ : 歴史を見る骸眼 undefined eye
対象の周りにレベル×1体の【滅びし歴史上の強者達】を召喚する。[滅びし歴史上の強者達]は対象の思念に従い忠実に戦うが、一撃で消滅する。
イラスト:炭水化物
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
長月・紗綾
幸せだった過去として、紗綾の行方不明の恋人(黒髪短髪の明るい元気系イケメン。紗綾と同い年)が「紗綾、愛してる。もう戦わなくていい」と誘惑してくる幻想を見せられます。行方不明の恋人の名前は「仁(じん)」。長く会えていなかったため一瞬ぐらつきますが「仁くんが好きなのは、逃げ出す私じゃない。彼と共に戦う私のはずだ」と、紗綾は幻想に頑張って抗います。紗綾はサウンドソルジャーでもあるので舞台の上で本物の恋人への愛を歌い上げ、エクソシストとしてジャッジメントレイを撃って幻朧帝イティハーサに反撃します。レベルがも攻撃力も低いですが、彼といた温かい思い出があるから、再会できる未来を信じて立ち向かいます。。
ヴィヴ・クロックロック
ビームスプリッツァー!いい仕事をしてくれる!
その力、私も欲しかったがフラれてしまったな…。いやさ、祝福をしよう。
私の最良の過去?そんなものは決まっている、初めて齧ったパンの味だ、初めて鼓膜を震わせた音楽だ、最悪の未来?そんなものは訪れない!私がことごとく潰すからだ!!
お前が無数の強者を呼び起こすなら私はその数だけ光を生み出そう!
来い!!想像の巨人たちよ!光子の光へ向かって!!
これが私のスター…いいやスタアラヰトだ!!
歌って踊って奪い合おうじゃないか
(連携アドリブ歓迎です)
華やかなる、華やかなる、それは地平線の果てまで続く、どこまでどこまでも広い舞台と、そして観客席だった。
おそらく空はない。
|緞帳《どんちょう》も恐らくは降りてくるのかもしれないが、それがやって来るのは、舞台が終わるときだろう。
この世界全てが広大な舞台であるとするならば、カーテンコールはこの世の終わりなのだろう。
だが不思議と、煌きと舞台装置の稼働する音に塗れたこの無機質な世界の中では、胸を押し上げるような高揚だけが猟兵たちを、まるで急かすように背中を押す。
見よ、この舞台に立つ恐ろしい敵の姿を。
死を思わせる白い煙の中に佇む、幽鬼のような虚ろを思わせる老人の姿を。
痩せこけ、骨すら見せる老人の姿は、しかし枯れ木のようでいても威容を放つ。
あれはグールなりや?
長月・紗綾(灼滅者のエクソシスト・f44395)は、修行中のシスター。その実は、エクソシスト。彼の者が、活ける死者であるならば、送り返すが道理。
しかしながら、その威容、人の成り果てた者には到底見えず。
『来たか、六番目の猟兵どもよ。汝らはどうして、諦めてくれぬ。全ては冷え逝く。大宇宙が熱的死を迎えるように』
重苦しい声は、絶望への架け橋。創造する力を持ちながら、まるで全てを諦めているかのような老人そのものにも聞こえるが、駆け出しの猟兵である紗綾とて、その莫大な力の奔流には気圧されそうになる。
「ならば、お帰りなさい。今は骸の海が貴方の褥でございましょう。他者を厭うようなことはないのです」
『──汝も、幸福を覚えておろう。忘れることなどできまい』
破魔の念とロザリオを胸に祈りをささげる紗綾に、重たい声が滑り込んでくる。
距離のある二人の合間を、白い靄が白波のように立ち、赤い修道服と白い老人とで異様な対比となると、それはよく絵になった。
ぼや、と辺りの舞台装置が形を変えて周囲の環境さえも書き換えていくような状況の中で、新たな闖入者が現れる。
「おやおや、聖職者のスカウトとは、感心しないね。それにしても……いい舞台を整えてくれたじゃないか。
ビームスプリッツァー!いい仕事をしてくれる!
その力、私も欲しかったがフラれてしまったな……」
ヴィヴ・クロックロック(世界を救う音(仮)・f04080)は長い髪を泳がせるようにして二人の間に降り立つと、ちかちかと眩しい照明の明かりが眼鏡を怪しく光らせる。
よくて中高生くらいに見える痩身だが、そのお年はよそj……それはいいとして、ちらりと見やる紗綾は、すでに視線も虚ろ、何か幻覚を見せられているらしい。
「爺さんや、若い子をあんまりかどわかすものじゃない! ここはそんな、つまんないことをするところか? 舞台だぞ。スターライトだ。悲劇を演じるって場所かい?」
『消えゆく者には不要。やがてここも、オブリビオンに沈もう。十分ではないか。良き過去、顧みるものがあれば。それを抱いて眠るが好かろう。悪い未来は、永遠に訪れぬぞ』
「ハッ、何を言って……」
しっかりと敵を見据えていた筈だったヴィヴの鼻先をふと掠めた香りが、その集中を突き崩す。
懐かしい。何の匂いだ。いや、知っている。
それを想起してしまっては、戦意はあっというまに抜け落ちてしまう。
半開きの口の端から零れ落ちる涎は、その口腔は、覚えている。
初めて齧ったパンの味を。香りを。
その耳は覚えている。
魂にまで響くサウンドを。音楽を。
ああ、懐かしい。あの感動、忘れるものか。
「ああ、そうだよ……それがあったから、生き延びてきた。生き甲斐を得たんだ」
年若く見える手足は、記憶をたどったかのようにさらに幼くなったようにも幻視する。
わずかな食料と安全。それと引き換えに行われた実験は、なんだったかな。たしかに、今よりも安全ではあったかもしれない。
一人一人、居なくなっていった。今はもう顔も思い出せない奴が、ああ、どうしたんだ。楽器なんて持って。
お前ら、そんな演奏ができたのか。大したもんじゃないか。今の私を見てみろ。お前たちなんて目じゃないくらい……そんな記憶、あったかな。
でも、こういうのも、いいかもしれない。
首を垂れるヴィヴが見ているのは、本物の光景か。理想を夢見た世界なのか。前を向くのが億劫になる。
紗綾もまた、その瞳の中は夢との|間《あわい》に在った。
「仁くん……」
そこには、行方不明になった筈の恋人の姿があった。
あの頃と何一つ変わらない、短く刈り込んだ黒髪と、快活な笑みがよく似合う好青年。
好青年? おかしいな、もう27歳の筈なのに、あの頃のままだなんて、これじゃあ私の方がお姉さんだ。
相変わらず、脳天に甘やかな電気が奔るかのような甘いマスク。それが、もう戦わなくてもいい。愛していると、理想の声で囁いてくるのだ。
禁欲的なはずのシスター。の割に、甘いものにはすぐ屈してしまいそうになるが、頬を桜色に染めているのは、間違いなく目の前の青年の愛の言葉であろう。
幾度となく、甘酸っぱいむつみ合いを交わしたはずなのに、今もなお、血が巡るのを自覚するほど、意識してしまう。
ぐらり、と気が揺れるのを感じる。
違和感がないかと言われれば、それは違和感の塊でしかない。
目の前に立つ男が、敵を前に背を向けるだろうか。
戦場の中でこちらを一心に見つめてくるだろうか。
「仁くん……会いたかった。嬉しいよ。でもね……仁くんが好きなのは、逃げ出す私じゃない。
彼と共に戦う私のはずだ」
幸福な幻想を前に、幸福なはずの紗綾は泣きそうな顔で、首を振る。
「ありがとう。でも、さよなら、私の夢。私は、私の手で、足で、仁くんを見つけて見せる──ハァーッ!!」
優しく微笑みかけるのも最後とばかり、気合一閃、【ジャッジメントレイ】による裁きの光が幻想を突き破った。
その輝きは、いつの間にか靄でいっぱいになった舞台の上で燦然と輝いて、白を洗い流す。
『ヌウッ! 自らの幻想を撃ったのか!』
あらわになる舞台の中で、白い老人が再び現れ、助っ人に入った筈のヴィヴは、膝をついた状態でうなだれていたところを、ようやく立ち上がる。
眼鏡をずらして目元を拭い、再びかけなおす。
「やれやれ……うっかり、いい夢見ちゃったじゃないか。いいモーニングコール、ありがとうよ」
『膝を折らぬか……だが、同じこと。汝らは、強い想いがある。それは、諸刃の刃と知れ。過去は、無限に襲い来るぞ』
幻想を振り払ったヴィヴ達の前に、再び幻朧帝の作り出す靄から無数の敵が出現してくる。
それらがまた、幻想を見せ、或は過去の異形、強者となって襲い来るならば──、
「うるさい! 無数の過去? 最悪の未来? そんなものは訪れない! 私がことごとく潰すからだ!!
お前が無数の強者を呼び起こすなら私はその数だけ光を生み出そう!
来い!! 想像の巨人たちよ! 光子の光へ向かって!!」
びしっと指さすヴィヴの決意は固まった。それがトリガーとなったかのように、光は収束し、巨大な塊となってやって来る。
それは【|彼方よりの光《スターライト》】。勝利を約束する光の巨人。
「これが私のスター…いいやスタアラヰトだ!!」
思わず、でゅわっ! と声を挙げたくなる口上、そして光の巨人の登場。
その応援歌を力いっぱい歌い上げるのは、ヴィヴがサウンドソルジャーであり、音楽を愛する気持ちに目覚めたからでもあるのだが……。だが……!
「う、す、すごい、破壊的な音楽です! 革新的というか、破滅的というか……!」
紗綾は、粗忽者と言われるくらいにはおっちょこちょいではあるが、空気を震わす激しい音域に素直で率直な感想を発音しかねていた。
しかし、音楽を愛する気持ちは痛いほど伝わる歌声には、感じ入るものがある。
自分も乗せよう。恋人への真摯なる思い。忘れ得ぬ愛を。
かくして、異様なセッションと光の巨人の激しい戦いが、舞台の中で踊り狂うのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
日紫樹・蒼
性格:弱気
性質:ヘタレ
*どんな酷い目に遭っても構いません
絶望の未来というか、既に僕の場合、現実の方が絶望な気が
無念無想で挑みますが、碌でもない体験しかしていないので、過去の黒歴史が全て具現化し襲い掛かってくるでしょう
強敵、キワモノ、ナマモノ、変態……あまりのカオスに発狂寸前になったところで悪魔召喚
『あら、これは面白そうなパレードね。でも、現実の苦痛に比べたら大したことないんじゃない?
お約束の如く水の悪魔に捕まって鞭でシバかれます
しかし、その痛みは100倍の苦痛となって幻朧帝含む全ての敵へ伝播して行きます
『辛い過去の幻影は現実の痛みで塗り替えるのよ!
「うわぁぁぁん! 死んじゃうよぉ!
少年は乗り気ではなかった。
なんという輝かしいステージだろう。
視線を投げれば、その及ぶはるか先にまで、無限の舞台と、無限の観客席がどこまでも続いているかのようだった。
これは、そういう世界で、そこにあった所作を行えば無尽蔵に強くなれる。強く在れる。そんなルールがある世界なのである。
これほど猟兵にとって、都合のいいステージなどあろうか。
だがしかし、少年にとってはさほど大きな効果になるとは思えなかった。
日紫樹・蒼(呪われた受難体質・f22709)は、自分で思うほど内向的な性格で、運が悪かった。
気弱だし、意思は決して固くはないだろうし、王の器だとか、勇猛な戦士だとか、そんな者からは縁遠く、どちらかと言えば一人で書籍の世界に浸っている方が好きなタイプの、そんな普通の少年だった。
なんで猟兵になんかなっているかというと、その事情について語り始めれば日が暮れてしまう程ののっぴきならないものがあるのだが、簡単に言ってしまえば、運悪く父の書斎に眠っていた悪魔の封じ込められた禁書に手を出してしまったのが原因であった。
そう、運が悪かったのだ。
そう納得するしかなかった。
「そうでなきゃ、なんだって、こんなところに、しかも制服でっ!」
何故か男女ともに可愛らしいパーラーメイドのお仕着せを着ることを義務付けられている蒼は、かーてしーにも見えるような悲劇のポーズで「これは罠だ!」と言わんばかりに抗議の声を上げる。
のだが、ここに居るのは恐ろしいおじいさんこと、骨のような幻朧帝の姿だけである。
なんでラスボス戦に来ちゃったの?
いや、違うんすよ。直接戦闘ならまだしもね? この舞台は、猟兵の力を無限にパワーアップできる仕掛けがありますし? あの恐ろしい悪魔を呼び出すことも無く、運良く勝ちを拾える可能性だって残されているかもしれないじゃないですか?
それでなくとも、蒼はその件の悪魔に『影朧を倒し続けなければいずれ死ぬ』という呪いをかけられている。
この宿命から逃れる術などはじめから無かったのかもしれない。
「いや、でも、だって……うぅ~ん」
やらない理由を必死に考えるところだが、もう送り出されてしまった以上、覚悟を決めるしかない。
ええとたしか、イティハーサというあの老人は、厄介なことに、こちらの幸福な過去や絶望的な未来の幻想を見せてこちらを戦闘不能に陥らせる魂胆と聞いている。
「絶望的な未来というか……既に僕の場合、現実のほうが絶望な気が……」
美しい記憶が無いではない。心躍る物語に触れて、狭い部屋の中で一人悦に浸っていた時間は、きっと何物にも代えがたい。
が、しかし、今の蒼の胸の内を埋める思い出は、それらよりも濃密で忘れがたい、黒歴史であった。
「んぎぎぎ……だ、ダメだぁ! 思い浮かべちゃダメだぁー! 僕、忘れろォー!」
『おぬし、相当に楽しい過去を持っているようだな。よかろう。最良の思い出の中で眠るがよい』
「ヤメテっ! 全然、よく思ってないから! 本当に眠れると思ってないでしょッ!」
無念無想、仕事の中で編み出した羞恥心を克服するための精神統一もむなしく、周囲の舞台装置が形を変えていく世界は、蒼が想起した脳内をハリガネムシが這いまわるようなおびただしい記憶のあれやこれ。
強敵、まあこれはわかる。
キワモノ、まあこれも、ギリかなぁ。
ナマモノ、何この、何?
変態、……。
面白い事に、脳が理解を拒否するような現象や物事であっても、想起されたものは世界となってちゃんと襲い掛かって来るらしい。まったく、幻想の補完力には感服の至りである。
「あばば……」
目の前で繰り広げられるカオスな情景に、そろそろ正気でいるのにも疲れ始めた蒼は、そろそろ現実を放り投げて楽になりたいなーと泡を吹きながら意識を彼方にまで放り投げようと準備をしていたのだが、しかし彼の肉体が死に近づくと、そいつは嬉々としてやって来るのであった。
【水影の悪魔による天国と地獄】により、水の悪魔ウェパルは、蒼の影の中からまるで水面を這い出る両生類のようにずるりと出現する。
召喚者のピンチに駆けつけたと言えば格好いいかもしれないが、彼女の加虐嗜好を満たすためという前置きが付いたらどうだろうか。
まさに悪魔だな。
色っぽい立ち姿には、蒼でなくとも思わず健全な男子が前かがみしてしまいそうだが、比較的見慣れている蒼は、見慣れているがゆえにちょっとホッとして正気を取り戻してしまった。
絶妙なタイミング。まさに悪魔だな。
『あら、これは面白そうなパレードね。でも、現実の苦痛に比べたら大したことないんじゃない?』
周囲のカオスな幻想の産物に目を向け、つまらなそうに嘆息するウェパルの視線が、まるで下流に流れる水のように蒼を向く。
魂を掴まれたかのような色香を匂わせる流し目に、蒼はもう興奮より恐怖のほうが勝ってしまう。
「あ、あの、僕、君を呼んだつもりはなくて、その……」
『あら、じゃあこの状況をどうにかできる妙案が、その頭の中には詰まっている訳ね? 聞かせてほしいわ』
「あ、う……」
『ん? 代わりに言ってあげたほうがいい? きっと合っていると思うの。ね?』
「いや、たぶんちが」
『大丈夫! 辛い過去の幻影は現実の痛みで塗り替えるのよ!」
「ああぁ、やっぱりぃ!!」
ひゅっ、と空気を割く音が、ウェパルの手元から伸びる水の帯から鳴る。
水流のように見えたそれは、鞭のように撓り、脱兎如く逃げ出そうとする蒼の可愛いお尻を強かに打ち付けた。
ぱあん、と布越しなのに破裂音のような軽快な音が響くと、それはまるで体の芯を突き抜ける電撃のような衝撃だった。
お尻を打ったのに、それが前にまで伝播するって、よくあるよね!
「うぎっ、あっ!」
『おほぉん!? な、なぜ儂まで……!?』
苦痛に身体が痺れ、身動きが取れなくなる蒼はまだしも、その、おそらくは男性にしか知覚できぬ痛みは、蒼の激しい羞恥の心も伴い、呪いとなってイティハーサに伝播する。
なんで? そういうユーベルコードの効果、そして悪魔の呪いなのだから、そうなのである。
なんでそんなややこしい呪いをかけたんだ。
『うふふ、さあさ、痺れは甘くなってきた? 痛みは熱に変わってきた? 苦い過去も、暗い未来も、全部全部、新しく塗り替えてあげる……さあ、痛いの。気持ちいいの。答えないと、わからないわ!』
「うわぁぁぁん! 死んじゃうよぉ!」
激しい痛みと羞恥が間断なく加えられ、もはや受け答えどころではない蒼だが、その顔を紅潮させる理由を問い質さぬ限り、ウェパルの折檻は収まるまい。
びくびくと、身体を震わす、男ども……!
大成功
🔵🔵🔵
東天・三千六
絶望的な未来、ですか……
ああ、この身が瑞獣であるというのに、守護するための御主人様を見つけられないまま
種族としてのお役目を果たせず生を終える……
そんな未来が浮かびます
まあ、僕に相応しい貴人がなかなか現れないのが悪いのです
幻想の僕はともかく、この僕には御主人様を『つくる』ことができるので問題ありません
さあさ、御主人様……どうか僕の手を取り、このステヱジで共に輝きましょう
僕の御主人様が、最強で最高なんです!
御主人様を召喚し、敵を斬り伏せて貰います
ふふん、僕の喚び出した最高の武人の方があちらの古強者よりも腕がたちますから
舞台上での殺陣や大立ち回りは映えるでしょうね
スタアは僕の御主人様で決まりです!
夜刀神・鏡介
俺にとっての最悪の未来は簡単だ
幻朧帝の野望を阻止できず、奴がサクラミラージュを始めとして複数の世界を滅ぼす事
その時、俺がどうなってるかは……良くて死亡、悪くてオブリビオン化して幻朧帝の手下……って所か?
……こんな光景で俺を止められると本気で思ってるなら、奴は耄碌していると言う他ない
未来を否定するが故に、未来を求める人の意志の強さを見誤った
何故なら俺は、こんな未来を否定する為に此処にいるのだから
まずは手始めに、偽りの破滅を叩き切る
神刀の封印を解いて、眼の前の空間に向けて一閃
幻影を斬ったならば続けて弐の秘剣【金翼閃】
周辺に召喚された強者達を切り払い、幻朧帝への道をこじ開け突進
斬撃を直接叩き込む
静かだった。
物音ひとつ、それこそ風の頬を撫でる音も、捲きあがる桜の花弁もない。
妙な場所であると思った。
たしか、予知を見た限りでは、この場所は、華やかなる舞台。
視界の果てまで続くような舞台と観客席。この世界そのものが、巨大な舞台そのもので、想像と表現力が続く限り猟兵の力が増していくという話を聞いた。
だというのに、その静けさはなんだというのか。
何もない。
立っている事すら、不安になるほどに、何もないのだ。
胸のすくような空虚と言えば聞こえはいいが、間もなくやって来るのは、言い知れぬ不安と、寂寞。
ただの一人。そして、自分自身すら保てなくなるかのような、無。
「あっ……」
声を上げたのが、自分の声だと、最初は気づかなかった。
それほどまでに、それは頼りない色を持っていた。
まさかまさか、自分にこんな感情の色があるなどとは。
喪失感だけが残り、それもやがて失っていく、無力を感じる感情が死んでいくのをむざむざ感じるだけの中で絞り出した声が、我がことながら、なんと情けない。
「……何者か、そこに居るのか──?」
鋭い声がどこかから聞こえてくる。
東天・三千六(|霹靂霊《かみなりおばけ》・f33681)は振り向く素振りと、思わず頬を濡らすものを拭いとる。
ほの暗い虚無の中で目が合ったのは、どうやら同じ猟兵らしい。
「すまない。味方だったようだ」
その男は、一言言ってから背を向けて、腰に帯びた刀の柄から手を離した。
見なかった振りをしてくれた。おそらくは、義理堅い人間に違いない。人間にしてはだいぶ、外れかけているが。
三千六の取り乱した姿を敢えて見ないふりをしたのに気を楽にしたところで、ようやく思い至った。
すでに、攻撃を受けていたのだ。
「なるほど、これは、我々の見た絶望挺な未来……ですか」
「そうらしい。俺もいくつか、見る羽目になった。けっこう、くるものがある」
夜刀神・鏡介(道を貫く一刀・f28122)は、事も無げに一言で飲み下したものだったが。
その胸中は、荒れ狂うものであった。
鏡介にとって最悪の結末。それは、幻朧帝に敗北し、サクラミラージュのカタストロフを防げず、数多の世界をも消滅に追いやってしまうもの。
その結果としてこの静寂が生まれているというなら、気を落ち着けるのに丁度いいのかもしれないが、自分の身に起きたことを疑似体験する段となっては、思わず周囲に険が出るほど動揺したものだ。
滅んだ後に見たものは、自分自身の末路。あまつさえ、骸の海を越えて自分自身が忘れ去られた成り果て、オブリビオンと化して幻朧帝の手となり、滅びの同胞を誘う剣となる……。これを悪夢と言わずしてなんというのか。
「そっちは、どうしてこんな重なり方をしたと思う?」
「さて……私は瑞獣としてのお役目を終ぞ果たせなんだまま、死に絶える未来を見たのみ。高望みをしてしまう者が見る、よくある絶望かと愚考いたします」
「よくある、か。案外そうなのかもな」
どうにも子供らしからぬもって回った言い回しに多少眉を寄せつつも、三千六が抱く思いもなんとなく察する。
夢は大きくていい。ただ、子供の持つ夢は、大概かなわない。
それは経験を積んでいく事で達成を目指すか、どこかで折り合いをつけていく。
ただ、子供はそんな答えを望んではいない。
そして三千六は、様々な宿業を生まれながらに抱えていて、そして、そんなに子供でもない。
鏡介は答えを持っていないし、事情を深く知りもしないものが、おいそれと簡単に示していい道もない。
絶望の未来の姿が重なったのは、ほんの偶然とはいえ、辿り着いたこの虚無感は、忘れるわけにはいかない。
瑞獣として、仕えるべき主を見つけられぬまま、理想を果たせぬまま一人果てるのは寂しい。
でも、それは仕方のない事でもある。
「……こんな光景で俺を止められると本気で思ってるなら、奴は耄碌していると言う他ない。
未来を否定するが故に、未来を求める人の意志の強さを見誤った」
「ええ、まったく。僕に相応しい貴人がなかなか現れないのが悪いのです。
幻想の僕はともかく、この僕には御主人様を『つくる』ことができるので問題ありません」
うん? 妙な事を言うなあ、と鏡介は思いつつも、普段使いの刀ではなく、神刀の方に手を伸ばす。
人ならざる者が作り上げたとしか思えぬその刃は、斬ると決めたものを遍く斬り裂く。
絶望。果てにある虚無を切り開くと、ようやく予知で見たような煌びやかな舞台が現れた。
『破滅を乗り越えた……か。恐るべきものよ、六番目の……。しかし、破滅への道が一つだけとは限らぬぞ』
絶望的な未来に捕えたかに思われた二人の猟兵が、その堤を切り開いてやってきた。
その事実に、幻朧帝は眉をひそめただけに見えたが、明らかに一歩引いたのを見逃さなかった。
気圧された。その事実のみが、攻め入る隙となった。
枯れ木のような老人の纏う靄が次々と過去に勇名を馳せたであろう強者どもの形をとるが──、
「神刀解放。我が剣戟は空を翔ける――弐の秘剣【金翼閃】」
目にも留まらぬ二の太刀が、黄金色の斬撃波となって靄を斬り裂く。
「すごい。あの猟兵さん、すごい強さをもっていますね。だからこそ、僕は思い浮かべる事ができます。
さあさ、御主人様……どうか僕の手を取り、このステヱジで共に輝きましょう。
僕の御主人様が、最強で最高なんです!」
間髪を入れられぬほどの剣豪、鏡介の立ち回りを目をキラキラさせて見つめていた三千六は、その凄腕っぷりを見てもなお、自身の仕えるべき人の理想を思い描くのを止められない。
鏡介はすごい人だ。だが、我が仕えるべきご主人様は、まさしく【一騎当千古今無双】なり。
あどけない少年の姿をした瑞兆の獣が手を取るのは、彼の想像する最高最強の武人。
豪傑が三人がかりで抱えるような偃月刀を担ぎ、20人力の強弓を背負う。まさしく、夢に思い描いたかのような武人であった。
恍惚の眼差しのまま、少年は雷を纏う龍のような姿をとり、恭しく武人をその背に乗せ、そして、戦場を蹂躙すべく駆け抜けていく。
「やあやあ、遠からん者は音に聞けい! 近くば寄って、目にも視よ!」
並みいる強敵の影をものともせず、蹴散らすようにして切り払うと、上機嫌で三千六は見得を切る。
想像と表現。これほど、彼を目立たせるものはあるまい。
多くのものが目を奪われる中で、気圧されたように佇む幻朧帝の前に、鏡介は立つ。
その手には、仄かに黄金色の輝きを帯びる刃を手に。
『恐れぬのか、汝自身の破滅を。畏れぬのか、甘美なるかつての様を』
「人間、生まれた時から未来を見ているものさ。絶望があろうと、なかろうと……そして、滅びの未来のネタがあるなら、今のうちに吐いておけよ。
何故なら俺は、そんな未来を否定する為に此処にいるのだから」
『いずれ全ては、過去になろうに』
金色が、息を吸うようにして、加速する。
命の息吹を絶やすまいとする、それは、魂の輝きのように。
大成功
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此原・コノネ
あら、あらあらあら。お爺ちゃんの遊び相手をすればいいのね?わかった!
最良の過去って、何かしら?
決まってる!六六六人衆なんだから、殺人階位(ランキング)1位になったのよ!
そうすれば…同じ六六六人衆も、隙あればどんどん挑んでくるんだし!
でっちあげの過去!でもね、お爺ちゃんに誤算があるとすれば。
1位を保つためには、側にいる者たちと遊び(殺し)続けるの!
そうよ、何も変わらない!あたしはナイフを使っての遊び(殺人)を続けるのよ!
だからね、お爺ちゃん。【殺意の切っ先】は、向けられたままなの!
餓血ナイフで、グッサリなの!
うふふ、楽しい!此のあとのオレンジジュースもきっときっと、美味しいわ!
何もかもが煌びやかで、作り物の偽りの舞台。
この世界全ては催し物で、花道で、見世物で、かといって観客席に誰かがいるわけでもない。
いいや、誰もが観客であり、演者なのだ。
つまりは、自分自身を最も表現できたものが勝ちだ。
「あら、あらあらあら。お爺ちゃんの遊び相手をすればいいのね? わかった!」
厳かに着飾った舞台の上を、踊るように駆ける少女が一人。
コツコツと大げさに鳴る木板の舞台が、高揚感と緊張感を煽り立てるが、そんなものは幼い少女には無縁のものだ。
此原・コノネ(|精神殺人遊び《マインドマーダーゲーム》・f43838)に気負いはない。
少女のあどけなさを帯びながらも、少女らしからぬ落ち着きだけが、眩いばかりの照明に当てられて、異様に濃い影を長く伸ばす。
『臭うな。猟兵の中にも、儂にすら臭う死の気配をこうも引きずるものが居ろうとは。しかし、ならば、死にも飽いておろう』
「退屈なお話、あたしは嫌いだな」
異様に色気を感じさせる笑みを浮かべるコノネだったが、その表情はすぐさま意外そうに固まる。
あろうことか、目の前に佇む枯れ木のような老人の姿を、ひと時だけ見失ったのだ。
いや、目に見えているものを見失う経験など、ほとんどなかった。
かの世界における『六六六人衆』に数えられるコノネの日常は、殺し合いだった。
ランキング争いは熾烈を極め、上を目指せば常に付け狙われる。
名声、力、理由は数あれど、高みを目指す猛者の中には、尋常ではない能力で以て目の前に居ながら消えるような達人も居たように思う。
それと同じようなものか?
冷えていく思考の中で、ふと鋭いものを感じる。
「あはっ」
脳髄を擽るような殺意に思わず歓喜の声を上げ、コノネはそれを振り払う。
手の内にはいつの間にか血の色をした刀身のナイフが握られ、降りかかる敵意を弾いていた。
覚えのある圧力。身震いするほどの技の冴え。拙く柔らかさの残る指先が痺れを覚える。
失禁しそうなほどの興奮は、コノネの肉体からして過去を想起させる。
「みんな、どこにいってたの? すっかり遊んでくれなくなってたのに!」
襲い来るのは、在りし日の『六六六人衆』の強者たち。
もちろんこんなところに居る筈はない。或は、幻朧帝がその創造の力で以て呼び起こした影なのかもしれないが、コノネは本能的に悟っていた。
こんなものは、
こんな喜ばしい|でっちあげ《・・・・・》は、噂の最良の過去に違いない。
「だって、こんなことは無かったんだもん。そうだよね? みんな、どこへ行っちゃったの?」
目の前に死力を尽くさんと襲い来る強者たちの攻撃を受け、或は躱し、流しながら、目の前に居ない誰かへと呼びかける。
打ち鳴らされるナイフの音色は乾いている。
いつしか、コノネは上を目指すことを止めていたのを思い出す。
ランキングに興味が無かったのには違いないが、仮にこのでっちあげの過去のように自分自身が殺人階位の頂点に立っていたとしても、このような状況に陥っていたかどうかは、疑わしい。
最初こそ、張り切って上を目指していたコノネが、終ぞ興味を失ってしまった背景には、彼らがそれぞれ別の方向へ向かい出したことがあった。
お互いを潰し合って殺戮の頂点に、などとシンプルな話ではなくなった時点で、コノネは考えるのが億劫になってしまったのだ。
だから、コノネが最良の過去を望むとすれば、こんなにも彼らが必死になって向かってきてくれると信じていた。
「でもね、やっぱり、こういう嘘、よくないと思う。所詮、でっちあげ……ねえ、お爺ちゃん。あなた誤解してるよ。
1位を保つためには、側にいる者たちと|遊び《殺し》続けるの!
そうよ、何も変わらない!あたしはナイフを使っての|遊び《殺人》を続けるのよ!」
自分で最良の過去を夢見ておきながら、少女の身体は並みいる強敵を前に劣勢を強いられてきた。
しかし、それも徐々に、動きが洗練されていき、動きに対応していく。
なんということはない。
過去に見たものに嬉しくなってついつい付き合ってしまったが、子供成長は速い。
驚きと歓喜に満ちた戦いも、二度目三度目と付き合えば見えてくるものもある。
いつまでも過去のままでなんていられない。
皮を裂き、肉を断ち、腑分けする程に鋭く研ぎ澄まされた技は、一合ごとに殺しに長けるべく最適化されていく。
幻影が一つ、また一つと、斬り伏せられていく。
餓血のナイフの切っ先が、【殺意の切っ先】がイティハーサへと向く。
「うふふ、楽しい! 此のあとのオレンジジュースもきっときっと、美味しいわ!」
『惜しい。汝の業は、容易く世界を冷やかして行こうに……何故に、その目は未来を見ているのか』
「わからないでしょうね。お爺ちゃん、返り血だって、温かいのはほんの一時なのよ?」
赤い軌跡が、狂暴な笑みを伴って白い老人へと伸びていく。
大成功
🔵🔵🔵
儀水・芽亜
一世一代の大舞台。フリッカースペードにとっては願ってもないステヱジではありませんか!
この舞台を用意してくれたこと、感謝しますよ、幻朧帝。
竪琴で「楽器演奏」し高らかに「歌唱」するは、私たち“生命使い”の根源たる生命賛歌!
さあ、生命の輝きを共に謳歌しましょう。
たとえ『メガリス』の破壊効果が無くとも、私たちは世界の輝きを全身で感じ取ることが出来ます。
「最良の過去」から続く「最高の現在」、そしてその先「共に見る希望の夢という名の未来」へと!
あら、何か出されましたか、幻朧帝? 朧気な影が形も取れず滅びたようですが。
幻朧帝イティハーサ、この生命の輝きを感じてみてください。遠慮はいりません。さあ、どうぞ。
栗花落・澪
不要かどうかは自分達で決める事
他人が口出すものじゃないよ、イティハーサさん
例え刹那の命でも
ううん…短い命だからこそ
今この瞬間も、1秒1秒が大切なんだ
最良の過去
そもそも僕が攫われたりしなければ
両親も村の人達も死なずに済んだし
囚われの僕のために手を伸ばしてくれた人々も
見せしめなんてもので殺されずに済んだ
けれど
あの酷い過去があったからこそ、今の僕がいる
出会えなかった人達がいて、作れなかった思い出がある
だから、僕の覚悟は揺らがない
未来だって変えられる
絶望じゃない、希望へ
僕はそう信じてるから
指定UCを発動
破魔の光を、更に高速詠唱、属性、範囲攻撃で拡大、強化
召喚された強者達も含め
イティハーサさんに浄化攻撃
何もかもが煌びやかに彩られた、それは作り物の世界であった。
幻朧帝イティハーサとの融合を拒否したビームスプリッター。彼、ないし彼女が、世界を創造するイティハーサの凄まじい力を利用して作り出したのは舞台の世界。
おおよそ、この世界の果ての果てまで、それは舞台であり観客席であるという。
そこに立てば、大げさなほど足音は響くし、見上げればそこには星空ではなく見通せない暗黒が広がっている。
きっと、どこからともなく、暗幕が下りる事もあれば、きっとこの世界が終わるときに、世界に緞帳が下りるのだろう。
照明の当たる煌びやかな世界とは異なり、派手な書割とは異なり、言うなれば第四の壁とも言うべき場所は、この期に及んでは見えない造りとなっているのだ。
なんでもかんでも、でっちあげることができる世界。
そう、この『スタアラヰトステヱジ』の上では、事実すらもでっちあげる。
あらゆる過去を踏破し、未来を確定してきた猟兵たちならば、その力のすさまじさを感じる事だろう。
『ゆえに、未来はもうよかろう。十分であろう。汝らの中に、最良のものがあろう。それで十分であろう。過ぎたる未来は不要なり』
「果たしてそうでしょうか。不要かどうかは自分達で決める事。
他人が口出すものじゃないよ、イティハーサさん」
枯れ木のような白い老人にスポットが当たる中で、もう一人の登場人物が、精一杯に声を張り上げて物申す。
地平線のような舞台の上で、その声は散り散りになることはなく、壁もないのに反響したかのようによく響く。
栗花落・澪(泡沫の花・f03165)の可憐な少女にしか見えないような立ち姿にスポットが当たる。
強い照明の光の中ですら、際立って美しく見える、というよりかは儚く散るか弱い花を思わせる繊細さを持っている彼の声は、その実は芯のあるものであった。
一目でそれを敵と認識した幻朧帝は、すぐさま戦場となるその場に、自身の纏う骸の海、白い靄のようなものを充満させる。
幾つもの強者の影を象るそれらが質量を得る頃に、澪の視界に靄がかかると共に懐かしい気配を感じる。
何かをされた。そう警戒する頃には、自身が幻想の中に居ることを納得せざるを得なくなる。
「う、これ、は……」
花の匂いにも似た甘く優しい、それは懐かしい記憶を想起させるものだった。
痛みを覚えるほどのノイズ交じりの記憶が、認識をかき乱す。
記憶の奥底に、薄ぼんやりと残っている筈のモノが、明確に色を伴って視界を支配し始める。それは、彼の持っていない、存在しない記憶。
懐かしいとすら思わない筈のそれが、存在しないと認識できるのは、きっとそれが、後悔してやまぬものから起因する願望だったからだろう。
即ち、澪が奴隷として連れ去られなかった場合の、優しい情景だったのだ。
「は、あ……ううぅ……!!」
暖かな陽光のような情景を前に、激しい頭痛と胸の痛みで、身体が悲鳴を上げているようだった。
いや、物理的に苦しく感じるのは、激しい動悸のせいだけだろう。苛むのは、激しい後悔だった。
──そもそも僕が攫われたりしなければ、
両親も村の人達も死なずに済んだし、
囚われの僕のために手を伸ばしてくれた人々も、
見せしめなんてもので殺されずに済んだ。
みんな死んだぞ。みんな、居なくなったぞ。それは過去に消えた可能性なのだ。
望めば、いくらでも夢を見ていられる。
なんと、甘美で胸を焼くような光景だろうか。
ああ、そんな世界が在ったらよかったのに。
望まずにはいられない。しかし、どう足掻いても澪には手の届かぬ世界。
見つめながら、少年はその膝を折るしか、道はないのかもしれない。
素敵で幸福で、触れ得ざる世界。
優しい絶望が澪の心を覆いつくさんとするその時に、ふと別のところから、ポロンと楽器を奏でる音がする。
「一世一代の大舞台。フリッカースペードにとっては願ってもないステヱジではありませんか!
この舞台を用意してくれたこと、感謝しますよ、幻朧帝」
竪琴を奏でながら、しっかりと敵を見据える凛とした立ち姿が、新たにスポットされる。
儀水・芽亜(共に見る希望の夢/『|夢可有郷《ザナドゥ》』・f35644)は、数小節の短いインターリュードから手を止めて、恭しく舞台挨拶のように一礼する。
感謝と歓喜、そして礼を忘れぬ演者の礼節で以て、一瞬にしてこの場を掌握してしまう。
そして続けて奏でる音楽と、歌唱が、周囲に蔓延する骸の海、その死の気配を瞬く間に退けていく。
「さあ、お立ち合い! さあさあ、生命の輝きを共に謳歌しましょう。
たとえ『メガリス』の破壊効果が無くとも、私たちは世界の輝きを全身で感じ取ることが出来ます。
「最良の過去」から続く「最高の現在」、そしてその先「共に見る希望の夢という名の未来」へと!」
命の芽吹き、命を糧に大地に生きるもの、それら全てを賛美するかのような【生命賛歌】は、芽亜自身も命を燃やすかのように魂を震わせる。
どんなに良くとも、人は過去に戻ることはできない。時が不可逆でなくとも、歩んだ道のりは否定することはできない。
諦観に傾き始めていた澪の耳に、生命を謳う声が響くと、その目にも活力が戻ってくる。
全身に力を入れようとすると、苦々しい現実の過去が蘇ってくるようだったが、それは何よりも実感となって我が身に返ってくる。
「そうだ……あの酷い過去があったからこそ、今の僕がいる。
出会えなかった人達がいて、作れなかった思い出がある」
羨む涙、幸福の涙、しかしそれは過去に見ることができなかった『彼ら』の分で、もう打ち止めとしよう。
胸の痛みも、身体が軋むような心の傷も、自分だけが経験してきたもので、自分にしか抱えられないものの筈だ。
否定などできない。
「そうだね。例え刹那の命でも、ううん……短い命だからこそ、
今この瞬間も、1秒1秒が大切なんだ……!」
花を咲かすオラトリオの髪が、自身の中に生じた、傷だらけの精神の中に育まれた暖かいものを表現していく。
破魔の光、そして生み出されていく芽吹き。それは心に咲いた未知の花。
【心に灯す希望の輝き】に促されるまま、ユーベルコードを発現させれば、暗闇の空から美しい花弁が舞い降りてくる。
この世のものとは思えぬ天上世界の花は、悪を浄化する。
「幻朧帝イティハーサ、この生命の輝きを感じてみてください。遠慮はいりません。さあ、どうぞ!」
高らかな声で歌いあげられる希望のメロディ。それは、福音のように舞い降りる花々を祝福しているかのようだった。
命の誕生、命の躍動、その奔流は、過去ではなく、今に生きている。未来を迎えるために。
「だから、僕の覚悟は揺らがない。
未来だって変えられる!
絶望じゃない、希望へ……。
僕はそう信じてるから」
『ぬう、未来、未知……何故、汝らは……命を、諦めぬ……!! 多くを失ったろうに!』
浄化の輝きに照らされ、舞台すら飲み込まん勢いで広がっていく、それは演出過剰なのではないかともクレームが入りそうな光にその身を焼きながら、冷めて枯れ衰えたその骨身に温かさを感じていく。
それは、命の輝き。
幻朧帝が、終ぞ諦めた光であった。
大成功
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