帝都櫻大戰㉕〜美しき病
●|歴史《イティハーサ》
サクラミラージュの帝城地下『新世界の|虚《うろ》』にて、『幻朧帝イティハーサ』は滔々と語る。
己は世界を創造するものであり、望むのであればこれまでの|歴史《イティハーサ》から、如何なる世界も創り上げることができると。
世界を創るのに新たな『未来』など必要ないと。
新世界は、これまで形作られた『過去の断片』を組み合わせるだけで、容易に作り出せるのだと。
――生命の役目はとうに終わっている、最早生命など不要である、と。
●グリモアベースにて
「戦況は第三戦線へと移ったね、ここが正念場ってところかな」
集まった猟兵達を見回し、そう言ったのは深山・鴇(黒花鳥・f22925)で、サクラミラージュでの戦争が佳境を迎えている事を告げる。
「幻朧帝イティハーサがエンシェント・レヰス『神王サンサーラ』と融合し「意志」を獲得し、侵略新世界『サンサーラナラーカ』を創造している……相も変わらず規格外の敵ばかりだね」
その規格外の敵を倒してきて欲しいんだけれどね、と鴇が少し困ったように笑い、すぐに表情を引き締めて戦場となる場がどういったものかと口を開いた。
「この侵略世界は既に『骸の海』に満たされていてね、猟兵といえど無事でいられる保証はないと思って欲しい」
この世界に一歩踏み込めば、たちまちに溢れ返る骸の海に飲み込まれるだろう。
「心身を急速に蝕む……それと同時に、お前さん方の『真の姿』も引きずり出してくるようなんだ」
骸の海がもたらす強烈な苦痛と狂気、それに耐えながら真の姿を晒し全力で敵に挑むしかないのだと鴇は言う。
「これ以外の方法では、神王サンサーラと融合したイティハーサに攻撃は通じないと思ってくれていい」
たとえそれが、誰の目にも晒したくない姿であったとしても。
「しかし……世界を創り出すのに未来も生命も必要ない、とはね」
望むがままに世界が造り出せる、それは望む者には美しい世界なのかもしれないけれど。
「まるで未来と生命に巣食おうとする病のようだね」
美しき、虚構の病――。なんてね、と言いながら鴇は手の中に煙のようなグリモアを喚び出してゲートを開く。
「武運を祈っているよ」
死地へ赴く猟兵達の背に、そう声を掛けて――。
波多蜜花
閲覧ありがとうございます、波多蜜花です。
一本でも出したい、サクミラだもの! の気持ちで出しております。内容的にシリアスバトルって感じですが、コメディしてても大丈夫です。
●プレイングボーナス
苦痛と狂気に耐え、真の姿を晒して戦う。
●苦痛と狂気について
どのような苦痛や狂気に苛まれるのか、指定があればどうぞ。なければ身体的な苦痛をメインにするかと思います。
●真の姿について
真の姿のイラストを複数持っている方はどの姿か指定をお願いします。
真の姿のイラストがない方はこんな感じ! とプレに軽くでも書いてくださると助かります。
●プレイング受付期間について
公開されてからすぐの受付となります。〆切は特に設けませんが、受付終了予定の目処が立ったらタグにてお知らせします。プレイングが送れる間は送ってくださって大丈夫です。
できるだけ早く完結させたいと思いますので、〆切が早いかも&全採用できるかはわかりません。頑張りたいとは思いますが、その点だけご了承くださいませ。
●同行者について
共通のグループ名か相手の名前を冒頭にお願いします。
プレイングの失効日を統一してください、失効日が同じであれば送信時刻は問いません。朝8:31~翌朝8:29迄は失効日が同じになります(プレイング受付締切日はこの限りではありません、受付時間内に送信してください)
未成年者の飲酒喫煙、公序良俗に反するプレイングなどは一律不採用となりますのでご理解よろしくお願いいたします。
それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております!
第1章 ボス戦
『イティハーサ・サンサーラ』
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POW : 天矢『サンサーラナラーカ』
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【大焦熱地獄の炎を纏った天羽々矢】で包囲攻撃する。
SPD : 神鷹『サンサーラナラーカ』
レベルm半径内を【神鷹の羽ばたきと共に八寒地獄の冷気】で覆い、[神鷹の羽ばたきと共に八寒地獄の冷気]に触れた敵から【生命力や意志の熱】を吸収する。
WIZ : 骸眼『サンサーラナラーカ』
【神王サンサーラの力を再現した姿】に変身する。変身後の強さは自身の持つ【完全性】に比例し、[完全性]が損なわれると急速に弱体化する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
森宮・陽太
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎
俺の身体は既に骸の海に侵されている
サイバーザナドゥで過去を思い出した際
骸の海を含む違法薬物を大量に投与されちまっているからな
だからこの程度の苦痛、短時間ならどうってことねぇ…!
『零』、俺に力を貸してくれ!(真の姿解放)
短期決戦必至なら、暗殺者の権能より悪魔召喚で戦おう
ダイモンデバイス改を構え、指定UCでスパーダ召喚
召喚と同時に俺の全魔力をスパーダに注ぎ込み、全能力を底上げする
スパーダには破魔の魔力を帯びた聖なる光を纏わせた紅剣を限度いっぱいまで召喚させた上で
周囲の骸の海ごと制圧し蹂躙する勢いで、幻朧帝に紅剣の雨を降らせるよう命じよう
幻朧帝…これが未来を求める力だ!
●未来を求める者
侵略新世界『サンサーラナラーカ』、そこは骸の海が広がる広大無辺の無間地獄である。生命など不要であるという『幻朧帝イティハーサ』が造り出す世界。命あるものを拒み、死に等しき苦痛を与えんとするその世界に森宮・陽太(未来を見据える元暗殺者・f23693)足を踏み入れる。
「骸の海、か」
広がるその海は陽太の全身に絡みつく様にしてその身に苦痛を与えていく。けれど。
「生憎だが、俺の身体は既に骸の海に侵されていてな」
自身の過去をサイバーザナドゥで思い出したあの時の事を思い浮かべ、優し気な青年の唇が皮肉気に歪む。
「骸の海を含む違法薬物を大量に投与されちまっているからな」
それがここにきて、功を奏すなど思ってもみなかったけれど。
「だからこの程度の苦痛、短時間ならどうってことねぇ……!」
裏を返せば、時間が掛かれば掛かるほど不利になると陽太は知っている。骸の海が真の姿を引き摺りだすというのなら、それより先に真の姿を開放するまでだと陽太は白のマスケラを手に、叫ぶ。
「俺に力を貸してくれ、『零』!」
呼び掛けに応えるは自身の過去たる暗殺者『零』の人格、それと共に陽太の姿も『零』の頃の自分へと変容する。鍛えた身体にぴったりと添った光すら吸い込む様な漆黒のボディスーツに身を包み、白のマスケラを装着した陽太の瞳はただ冷たく『イティハーサ・サンサーラ』を射抜く様に見つめ、ダイモンデバイス改を構える。
「紅き剣を司りし悪魔の剣士よ、我が声に応え顕現せよ。そして己が紅き剣を無数の雨として解き放て!」
現れたのは捻じれたふたつの角を持つ漆黒と紅の悪魔、スパーダ。かの悪魔の獲物たる紅き短剣は幾何学的な模様を描き空を舞う。召喚と同時に陽太の持つ全魔力をスパーダへと注ぎ、更には破魔の魔力を帯びた聖なる光を纏わせたその短剣は禍々しさの中に命を寿ぐような輝きを放っていた。
『聖と魔を混在させるか』
まるで死の中に、生を見出すかのように。
「そうだとも、幻朧帝……これが未来を求める力だ!」
雨が降る如く、紅剣を降らせ――陽太の命じるままに、スパーダが操る紅剣が周囲の骸の海ごとイティーハーサとサンサーラを貫く様に降り注ぐ。
それはまるで、希望をもたらす一条の光のようでもあった。
大成功
🔵🔵🔵
山吹・夕凪
望むままに美しい世界を作り出す
それは夢で紡いだ理想郷なのかもしれません
ですが、それは誰かの見た過去の欠片
虚構であり、まだ見ぬ未来へと進まない悲しき不変
移ろう無常さは残酷であっても、私は変わりゆく未来を選びたい
心身を苛む骸の海を堪え、むしろその苦痛を糧に限界突破
「ええ。過去の大切な人達は、『さいわい』になれと言ってくださった」
ならば何を怯もうかと真の姿に
それは夜の姫君の如く、艶やかな黒髪に
月のように白い肌と相まって、危ういコントラストを映えさせる姿
一時しかないのであれば
迫る八寒地獄の冷気には守らず、浄化の力を乗せて風を操って払い
あらゆる防御を捨てUC『紫電清霜』
「未来を望む心にて、斬り拓きます」
●未来を望む心
「望むままに美しい世界を創り出す……」
イティーハーサの言葉に、山吹・夕凪(雪色の吐息・f43325)は口の中で言葉を転がす様に呟く。それはきっと夢で紡いだ理想郷、確かに美しい世界なのだろうけれど。はたして、本当に誰かにとっての『さいわい』なのであろうか。
「ですが、それは誰かの見た過去の欠片。虚構であり、まだ見ぬ未来へと進まない悲しき不変」
どれほどに移ろう無常さが残酷なものであったとしても、夕凪は変わりゆく未来を選びたいと骸の海が待つ世界へと飛び込んだ。
「……っ!」
心と身体を蝕むような、想像を絶するほどの苦痛が去来する。けれど、一歩を踏み出すことさえままならぬ痛みを糧にして、夕凪は前へと進む。
「ええ。過去の大切な人達は、『さいわい』になれと言ってくださった」
それがどれ程に夕凪の支えとなってきたであろうか、と夕凪が苦痛の中で微笑む。
「ならば、何を怯むことがあるのでしょうか」
引き摺りだされる真の姿こそが、力となるならば!
真っ直ぐにイティーハーサを見つめる瞳はそのままに、初雪の如き真白な髪は闇夜を映す艶やかな黒髪へと変わっていく。月のような白い肌と相まって、まるで夜を具現化したかのような夕凪が黒刀『涙切』を鞘から解き放つ。
「これは悲しみより紡がれ、悲しみを断つ刃」
希望を導く一太刀とならんことを。
祈りをのせて、夕凪はイティハーサに向かって刃を振るう。
「一時しかないのであれば守りは不要」
夕凪を怯ませんと迫る八寒地獄の冷気を防ぐ動きはひとつも見せず、ただ浄化の力をのせて風を操るその姿は美しい舞を踊っているようにも見えた。
「――恐れぬからこそ、刃も澄み渡る」
研ぎ澄まされた刃は、夕凪の力となって。
「未来を望む心にて、斬り拓きます」
『望むのならば、思うがままの世界を創り出せるとしてもか』
「未来は誰にも分らないからこそでしょう。過去を繋ぎ合わせた世界ならば、そこには過去しかないのです」
自分達が求める未来を、誰かの手で創られた虚構のない世界を!
骸の海の中、舞うような夕凪の清らに輝く剣風は確かにイティハーサへと届いていた。
大成功
🔵🔵🔵
早乙女・翼
ナラーカ…奈落の語源らしいさね
地獄と同意なら生命ある者が立ち入る場所じゃないってか
決意固めて世界に飛び込み
身を蝕む痛みと共に記憶より心傷抉られる感覚
首と手首の傷より炎滴り
髪も羽も黒く
耐えるさよ…今の俺は、愛した人の分まで主に生かされたんだから
射程圏内入ったとこで堕天使の独奏を
過去の断片ったってそれ全部作り上げて来たのも命だろ!
いいとこ取り継ぎ接ぎパクリで何か「新」世界だ!
過去に頼らなきゃ何も出来ねぇ不完全な老害はこの世界にすら不要なんだよ
…と暴言なの自覚しつつ
攻撃音波の催眠効果で少しは精神的に不完全になれば僥倖
ジジイに向けて耳塞ぎたくなる勢いで即興ギターソロかき鳴らす
これが命の音だ、覚えとけ!
●奈落の底より羽ばたいて
侵略新世界『サンサーラナラーカ』、その名を耳にして早乙女・翼(彼岸の柘榴・f15830)は柘榴紅の瞳を軽く細める。
「ナラーカ……奈落の語源らしいさね」
そう独り言ちてから、サンサーラは輪廻という意味を持っていたなと思い出す。ならば、サンサーラナラーカとは輪廻の奈落という意味を持つのだろう。まさしく骸の海で満たされた世界に相応しい名だと翼は思う。
「地獄と同意とするならば、生命ある者が立ち入る場所じゃないってか」
覚悟を持って挑めとイティハーサが言っているようにも思え、中途半端な覚悟では駄目ということか、と無造作に髪を掻き上げるとそのままゲートへと飛び込んだ。
「……っ」
途端、身を蝕む痛みと共に、記憶を暴くような、心の傷が鋭い矢で射抜かれ抉られる感覚に翼が眉根を寄せた。
じくり、じくりと首と手首の切断痕が痛み、炎が滴り落ちる。それと同時に真っ赤な髪は漆黒へ、血染めされたような翼は濡羽色へと塗り変えられていく。
「耐えるさよ……今の俺は、愛した人の分まで主に生かされたんだから」
それに比べれば、この程度の痛みなんて軽いもんさね、と笑う翼の表情に嘘はない。どれほど痛かろうが苦しかろうが、それよりも痛いことはあるのだと、イティハーサへと翼が駆けた。
イティハーサの姿が射程圏内に入ると同時に、手にしたエレキギターを掻き鳴らす。
「過去の断片ったってそれ全部作り上げて来たのも命だろ!」
『それが充分に満ちた、それ故に不要である』
「ハッ、ふざけたことを抜かすなよ! いいとこ取り継ぎ接ぎパクリで何か『新』世界だ!」
イティハーサに向かって、翼が叫ぶ。
「過去に頼らなきゃ何も出来ねぇ不完全な老害はこの世界にすら不要なんだよ」
だから、ここでお前を倒す。
多少の暴言なのは自覚しつつ、翼がイティーハーサに向けて耳を塞ぎたくなる程の勢いで、未来を、命を軽んじるなと、全身全霊で弦を掻き鳴らした。
その激しい音色はイティハーサの聴覚を揺さぶり、精神的に僅かながらも不完全な状態を齎す。それはつまり、神王サンサーラの力を再現した姿における強さを弱体化させることに繋がる。
「まだまだ聞きたりねぇだろ?」
『ぬぅ……!』
「これが命の音だ、覚えとけジジイ!」
そして、これが猟兵達の未来を求める輝きなのだと、一層強くエレキギターの音色が骸の海に響かせた。
大成功
🔵🔵🔵
水澤・怜
苦痛と狂気は滅ぼされる故郷の惨状の幻影
燃え盛る炎と鉄の臭いの中…駆けた
父母を…生存者を探して
結局…己だけが助かった
絶望に打ちひしがれる
俺は…無力だ
遠く女性の声が響く
--違う
故郷を救えなかった俺は復讐鬼と化し罪なき多くの影朧を斬った
掌から数多の命が溢れ落ちる
また俺は…命を…
--違う!
気づけば故郷のご神木の前に立っていた
唯一無事だった一枝に俺と同じ色の花が揺れる
あぁ…命だ
俺が今まで…そしてこれからも救うべき命
…白い犬耳の女性が微笑んだ気がした
真の姿で指定UCを放ち、神鷹の羽ばたきを鈍らせつつ
月白を握りしめ重ねて放つは『闇御津羽』
護らねばならぬものがあるから
やるべき事があるから
俺はまだ…諦めない…!
●後悔すら抱いて切り拓くのは
骸の海に満たされし世界、侵略新世界『サンサーラナラーカ』の真っ只中に水澤・怜(春宵花影・f27330)は立っていた。
「ここが……サンサーラナラーカ……」
今すぐにでもイティハーサのもとへ、と怜が駆けだそうとした瞬間、骸の海が牙を剥く。齎される苦痛と狂気、それは猟兵達によって違うもの。
「これ、は――」
怜が見たものは滅ぼされる故郷の惨状、その幻影。しかし幻影といえども、怜を苦しめ苛む痛みは本物。痛みは記憶を呼び起こし、記憶は痛みを呼び起こす。
「そう、だ。俺は燃え盛る炎と鉄の匂いの中……駆けて……」
父母の姿を、せめて誰か一人でも生き残った者がいないかと、それだけを|縁《よすが》として炎と血によって真っ赤に染まった郷を走り回ったあの日を――忘れたことなどない。けれど、現実はどこまでも残酷で。
「結局……己だけが助かった、助かってしまった」
絶望、深い暗闇に捕らわれたような感覚。
「俺は……無力だ」
何ひとつ救えないと、怜が己の胸を押さえ、目を閉じようとした瞬間に遠く響く声。
『――――違う』
か細い声は、怜に僅かに届かない。
骸の海は怜を引き摺り込もうと、更に深く苦しめるように過去を引き摺りだす。
「そうだ……故郷を掬えなかった俺は復讐鬼となって」
救えたかもしれない影朧や、罪なき多くの影朧を斬った。
そうしなければ、己が壊れてしまいそうだったから。
「あ……ああ……!」
血に染まった掌から、また多くの命が溢れ落ちていく。
「また俺は……命を……」
怜が絶望に飲み込まれるその瀬戸際、再び声が響いた。
『――――違う!』
違う? 何が、と怜が顔を上げると、そこは故郷にあった御神木の前で。
「これは……」
視線の先には唯一無事だった一枝、そこに揺れる怜と同じ色の花。命だと、怜の瞳に生気が宿る。
「俺が今まで……そしてこれからも救うべき命」
猟兵として、医療に携わる一人の男として。そう、前を向いた怜に白い犬耳の女性が微笑んだ気がした。
「待たせたな、イティハーサ」
白い犬耳と尻尾、そして真っ白な衣装に身を包んだ怜が太刀型の軍刀を抜く。
「一撃で済むなどとは……思わぬことだ!」
神鷹の羽ばたきを鈍らせるように神経毒が塗られた無数のメスを放ち、重ねるように衝撃波を放った。
「護らねばならぬものがあるから、やるべき事があるから、俺はまだ……諦めない……!」
『悪あがきを……!』
「ならばその悪あがき、止められるものなら……止めてみろ!」
高まる霊力を刃に宿し、怜がありったけの力を込めて未来を切り拓く一撃を叩き入れた。
大成功
🔵🔵🔵
空桐・清導
POW
苦痛:常人であれば幾度となく狂死する激痛
狂気:ヒーローとしての自分の否定
幾多の苦痛と狂気の囁きを晒されながらも全く意にも介さない
痛い?苦しい?
たかがその程度でオレを止められると?
空前絶後の[気合い]と[根性]でねじ伏せる
「随分と舐められたもんだな、イティハーサ。
ブレイザインを止めるには全く足りねえんだよ。」
骸の海を平然と思える程に歩いて行く
UC発動
「アンタが骸の海そのものなら相手が悪かったな!
アンタに対するジョーカーは、無敵のヒーローは此処にいる!」
骸の海が全て消失して無限距離が無くなる
天矢は並行世界のオレが防いでくれる
「超必殺!ワールド・ウィル・パニッシャー!!」
全力の光焔を叩き込む!
●痛みも狂気も乗り越えて英雄は進む
骸の海が広がる世界に向かう――猟兵であっても心身に苦痛を伴うことはすでに明言されている。それにも怯むことなく空桐・清導(ブレイザイン・f28542)は侵略新世界『サンサーラナラーカ』へと続くゲートを潜り抜けた。
即座に襲い来る骸の海がもたらす苦痛を感じながらも、清導が苦痛の声を上げることはない。痛みを感じないのか、精神を蝕まれてないのか――否、そんな事はない。清導はイティハーサへと向かう一歩を踏み出す間にも、常人であれば幾度となく狂い死ぬような激痛と心を蝕む責め苦を感じていた。
幾重にも重なるかのような苦痛も、ヒーローとしての自分を否定する呪詛のような声も、彼の歩みを止めることはできない。
「痛い? 苦しい? たかがその程度でオレを止められると?」
随分と舐められたものだと、清導が笑う。
こんなものでは、オレだけではなく猟兵の誰一人止めることはできねえよ、と。
『愚かな』
「愚かなのはアンタの方だ、イティハーサ。ブレイザインを止めるには全く足りねえんだよ」
痛みに屈するような根性は持ち合わせてはいない、呪詛のように延々と紡がれる言葉に挫けるような生き方も。その矜持こそが、清導を死に満ちた骸の海の中を真っ直ぐに進ませる力であった。
「アンタが骸の海そのものなら相手が悪かったな! アンタに対するジョーカーは、無敵のヒーローは此処にいる!」
引き摺りだされた真の姿を露わにし、清導が己の力を開放する。
「骸の海よ!今一度時となって世界を巡れ! そして、世界を守る灯火となれ!!」
清導の放つ力は骸の海を代償に発言する力、今この場においてこの世界を満たす骸の海を代償としたならば、それは――。
『生命はもはや不要であるというのに』
イティハーサが放った無数の大焦熱地獄の炎を纏った天羽々矢を並行世界から呼んだ清導が防ぎ、その中を光焔を纏った清導が駆けた。
「受けろよ、オレの全力! 超必殺! ワールド・ウィル・パニッシャー!!」
小細工など一切ない、清導の意志力そのものともいえる光焔がサンサーラナラーカの全てを覆い尽くし、消し飛ばすかのように真白に光り輝いた。
大成功
🔵🔵🔵
ヌグエン・トラングタン
真の姿:青白い『凍れる炎』を纏った、黒のドラゴン
本来の名:デスペラティオ(絶望)・ヴァニタス(虚無)
世界を創り出せるとして、そこには欲望なんざないだろうな。
なら、俺様は否定するってんだよ。俺様は…『欲望竜』にして『盈たされぬ欲望の主』だからな!
身体的にくる苦痛が苦しいが、欲望のためにここで止まるかってんだよ。
まあ、真の姿になるのは、ちと嫌だけどな。嫌いなんだよ、この姿。
UCは『大厄災の竜』のどれか…はは、俺様に戻れ、凍炎不死鳥!
ああ、この状態の俺様に見られたら最後。俺様にさえ制御の効かねぇ魔眼の効果、思い知れってんだ!
断片継ぎ合わせて作るのは、GGOも似たようなもんだが。
そこに、生命はいる。
●欲望なき世界に意味はなく
「ははぁ」
未来も生命もなき、新世界。その話を聞いたヌグエン・トラングタン(欲望城主・f42331)の反応と言えばそのくらいのものであった。つまらない話を聞いた、という顔で、つまらない世界をぶっ潰しに行く為に、ヌグエンはグリモアが作り出したゲートをひょいっと潜り抜けたのだ。
「世界を創り出せるってのはおもしろいかもしれねぇが、お前の創り出した世界には欲望なんざないんだろう?」
骸の海が広がる侵略新世界『サンサーラナラーカ』の主たるイティハーサに向かって、問い掛けるともなくそう言うといつものように歩き出す。
「なら、俺様は否定するってんだよ。俺様は……『欲望竜』にして『盈たされぬ欲望の主』だからな!」
飄々と言ってのけるが、ヌグエンは身体を蝕む痛みを耐えていた。何の為に? と聞かれたならば、ヌグエンはこう答えるだろう。『欲望のために』、と。
「まったく、つまんねぇ世界だな。殺風景だし痛みしかねぇ」
苦しい、辛い、つまんねぇ。けれど、立ち止まることはない。
「真の姿になるのも、ちと嫌だけどな。嫌いなんだよ、この姿」
引き摺りだされる真の姿によって、ヌグエンの姿が変わっていく。人の姿から、青白い『凍れる炎』を纏った、黒のドラゴンへと。
「人の姿の方が小回りが利くし、便利なんだよな」
ぶつくさと文句を言いつつも、ヌグエンはいつの間にか姿を現したイティハーサを見て笑い声を上げた。
「お前がイティハーサか、こんなつまんねぇ世界を創りやがって」
欲望なき世界など、停滞した世界だ。
様々な欲望があるからこそ、世界は進化していくというのにとヌグエンが零すとイティハーサが口を開く。
『否、必要ないのだ。生命も未来もな』
「だからつまんねぇって言ってんだ。断片継ぎ合わせて作るのは、GGOも似たようなもんだが。そこに、生命はいる」
だからこそ、世界は面白いのだとヌグエンが笑い、ユーベルコードの力を開放する。
「はは、俺様に戻れ、凍炎不死鳥!」
主の呼び掛けに応え、青白い浄化炎を纏い不死鳥がヌグエンのもとへ舞い戻る。不死鳥と同化したヌグエンが視線を向ける、ただそれだけでイティーハーサの身が凍れる炎に包まれた。
「この状態の俺様に見られたら最後だぜ、俺様にさえ制御の効かねぇ魔眼の効果、思い知れってんだ!」
絶望と虚無を謳う黒竜の咆哮がサンサーラナラーカへと響き渡り、ヌグエンの視線を受けた世界を凍炎が埋め尽くした。
大成功
🔵🔵🔵
煙草・火花
世界の未来を……小生の全力にて切り拓くであります!
全身を蝕む痛み、己が忌み嫌う怪奇人間としての姿に対する狂おしいほどの嫌悪と怒りを世界を守らんとする覚悟で耐え抜き、真の姿へと変貌します
ふーっ、ふーっ……世界の未来のためならば、この姿と力を揮うことにも躊躇しないであります!
世界すべてを覆わんとするのならば、そのすべてを吹き飛ばす……!
可燃性ガスと化した肉体を戦場内にありったけ広げていきます
その炎の矢……それが貴公の命取りであります!
ガスに矢が触れれば爆発と共にガスは燃え広がり、その状態でも己の体であることには変わらず
爆発と炎を広げていきながら迫っていき、周囲を諸共吹き飛ばします!
●死をも焦がせよ、舞い散る火花
サクラミラージュの危機なれば、今立ち上がらずしていつ立ち上がるのか。影朧救済機関「帝都桜學府」の學徒兵として、この世界に生きる一人の猟兵として、煙草・火花(ゴシップモダンガァル・f22624)は骸の海が広がる侵略新世界『サンサーラナラーカ』へと赴いた。
「世界の未来を……小生の全力にて切り拓くであります!」
覚悟を持って挑んだサンサーラナラーカに広がる骸の海、それは火花の覚悟を嘲笑うように彼女を苦痛で覆う。
「ぎ、ぁ……っ!」
全身を蝕む痛み――それだけならばまだしも、火花が忌み嫌う怪奇人間としての自身の姿に対する、狂おしいまでの嫌悪と怒りが全身を駆け巡る。痛い、苦しい、辛い、どうして、湧き上がるそれらを、火花はただ一心に世界を守らんとする覚悟だけで耐えていた。
「ふーっ、ふーっ……世界の未来のためならば、この姿と力を揮うことにも躊躇しないであります!」
手袋と包帯で覆った両腕から、包帯が解かれていく。引き摺りだされた真の姿、それは身体がガス状になったガス人間としての火花であった。
人としての姿は掻き消え、火花は戦場たるサンサーラナラーカに可燃性ガスと化したその身を広げていく。
「世界すべてを覆わんとするのならば、そのすべてを吹き飛ばす……! 小生のありったけ、見せてやるであります!」
『猟兵とは、なんと愚かな』
未来も生命も必要ないとわかったであろうに、とイティハーサがガスとなった火花に向かって大焦熱地獄の炎を纏った天羽々矢を無数に降り注ぐ。
『燃えて尽きよ』
「ふ……っその炎の矢……それが貴公の命取りであります!」
ガスに矢が触れた瞬間、爆発と共に骸の海を舐めるように炎が広がっていく。普通のガスであれば燃え尽きたかもしれない、けれど。
「小生は、小生でありますがゆえに!」
この状態になろうとも、己の身体である事には変わらず、そして火花であることにも変わりはなかった。
爆発と炎を広げながら、火花はイティハーサへと迫る。
「ゼロ距離での爆発、耐えられるでありますか?」
ただの爆発ではない、火花のユーベルコードによる火花自身の生命の煌き。
「吹き飛ぶであります! イティハーサ!」
塵ひとつたりとも残さず燃えるのはお前だといわんばかりに、炎が高く噴きあがった。
大成功
🔵🔵🔵
紫・藍
今日の藍ちゃんくんのステージは、な、なんと、骸の海なのでっす!
お目々くらくら足元ふらふらすっごく痛いのでっすがー!
藍ドルはステージを選ばないものなのでっしてー!
むしろ、ええ。燃えるというやつなのでっす!
この気持ち、分かりまっせんかー?
でしたらええ。歌にしてお伝えするのでっすよー!
綺羅星の如き真の姿に変身なのでっす!
藍ちゃんくんでっすよー!
完全性とは何か。過不足無い完成された様、永久不変のことでしょう。
不変だからこそ未来も生命もない!
でっすが、ええ。
藍ちゃんくんは変革を歌うのでっすよー?
世界に己に胸を張り、笑って終われる完結を目指し、変わり続ける藍ちゃんくんは謂わばイティハーサ・サンサーラの対極なのでっす!
そして対極だからこそその完全性を超えてけるのでっす!
完全性が損なわれるとは変わるということ!
変わるということは何も傷つき欠けることだけではないのでっしてー。
弱体化してくださったのなら即ち、藍ちゃんくんの魂の歌に感情を呼び起こされ、冷めたままではいられなかった。
そういうことなのでっすよー!
●骸の海にて変革を歌う者
紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)にとって、歌える場所は全てがステージだ。それが屋内であろうと、屋外であろうと、たとえ宇宙であったとしても変わらない。そして、敵の目の前だったとしても、だ。
「今日の藍ちゃんくんのステージは、な、なんと、骸の海なのでっす!」
イティハーサが創り出した侵略新世界『サンサーラナラーカ』、それは骸の海に満たされた世界。溢れかえる骸の海はイティハーサを倒すべく足を踏み入れた猟兵達に、過たず牙を剥く。それは勿論、藍にもであった。
「聞いていた通りでっすがー、聞いていた通りなのでっすがー! お目々くらくら足元ふらふらすっごく痛いのでっすがー!」
気を抜けば倒れてしまいそうになる痛みと、狂ってしまってもおかしくない精神的苦痛。けれど藍は、アイドルは不敵に笑う。
「でっすがー? 藍ドルはステージを選ばないものなのでっしてー!」
ステージの上は戦場、それはどんなアイドルだって変わらない。地下アイドルであっても、トップアイドルであってもだと、藍ドルは笑うのだ。
「むしろ、ええ。燃えるというやつなのでっす!」
『未来も生命も必要としない時が来たというのに、愚かな』
「おやおやっ? この気持ち、分かりまっせんかー?」
愚かだと言われて、藍は笑う。だって、笑うのはこちらなのだから。
「でしたらええ。愚かさも何もかも、歌にしてお伝えするのでっすよー!」
真の姿が引き摺りだされるというのなら、それすらも力に変えてみせるのでっす! と、藍がマイクを掲げれば、煌めく星のような輝きを放ちながら、藍が骸の海を瞬く間に自分のステージにしてしまう。
「藍ちゃんくんでっすよー! 綺羅星の如き藍ちゃんくんなっのでっすよー!」
『ならば知るがいい、完全なる世界を、己の愚かさを』
「完全性とは何か!」
藍がマイクを手にし、イティーハーサへと問い掛ける。
『生命も未来も不要な、儂が創り出す世界のことだ』
「ええ、ええ。過不足ない完成された様、永久不変のことでしょう」
そして、神王サンサーラの力を再現した姿となったイティハーサの。
「そう! 不変だからこそ未来も生命もない!」
何ひとつ変わらぬ世界、いつまでも、永遠に美しい世界。それは人々の理想かもしれない、けれど。
「でっすが、ええ。でっすがー! 藍ちゃんくんは変革を歌うのでっすよー?」
何ひとつ変わらぬ世界など、藍には必要ない。
「世界に、己に胸を張り! 笑って終われる完結を目指し、変わり続ける藍ちゃんくんは!」
たとえ伴奏がなくったって、この歌声ひとつで世界は変わる。
「謂わばイティハーサ・サンサーラの対極なのでっす!」
『猟兵が儂と対極とは、大きく出たものだ』
「事実なのでっす、事実なのでっすよー!」
藍の声は歌うようにサンサーラナラーカへ響く、それはまるでイティハーサに揺さぶりをかけるかのように。
「そして対極だからこそ、その完全性を超えてけるのでっす!」
アイドルとは高みを目指す者、限界を突破していく者!
「ご存じでっすかー? ご存じでっすよねー? 完全性が損なわれるとは変わるということ! 変わるということは何も傷つき欠けることだけではないのでっしてー」
今ここで、それを見せて、感じさせてあげるのでっす! そう、藍が揺るぎない笑みを浮かべ、愛用のマイクスタンドをくるりと回し。マイクヘと唇を近付けた。
「藍ちゃんくんでっすよー! 天を覆う闇も障害も吹き飛ばして! 青空に藍ちゃんくんの歌を響かせるのでっす!」
骸の海もなんのその、天高く届け歌声よ!
青空の如く澄んだ歌声が、サンサーラナラーカに響き渡る。愛よりも藍に満ちた歌声は、心無きものにすら感情を呼び起こす魂の歌声。それは神王サンサーラの力を再現した姿となったイティハーサにも、例外ではなかった。
『なんだ、これは……!』
「ご存じなかったのでっすかー? ご存じなかったのでっすねー? これが藍ちゃんくんの魂の歌なのでっす! この歌に感情を呼び起こされ、冷めたままではいられなかった――」
『馬鹿な……!』
「――そういうことなのでっすよー!」
だから、藍はどこまでも藍ドルで。
歌声でこの世界を終わらせる為に、高らかに歌を響かせ続けたのである。
大成功
🔵🔵🔵
御簾森・藍夜
【朱雨】◎
真
真か
俺にはきっと、(イラスト参照
…—足りないのは心音、お前だけだ
アレは一人で—…“まほうつかい”に成りたかった俺だから
真の姿:“たった一人で”魔法使いに“成った”自分自身
自身に満ち溢れ、けれど吸うのは所謂麻薬めいた魔力増強剤といわれるマジカルリーフの煙草
臓器も意思も薬で壊しかけで夢の涯で死にたかった思い描いた俺の姿
あの葉はな、研究の最中に見つけたんだ
一度食って死にかけてな
ふふ
知ってるさ
俺はやはり雨を降らせるしかなく焦れた月は輝かない
死にたいから
弾道には“自ら飛び込んでくる”だろう
分かってるんだ
魔法なんてごっこ遊びだと思いながら諦められず
一人で追って
一人で夢見て
猟兵になっても、心音に出会うまでずっと
—だから、俺が俺を殺してやらないと
“先があった”と、示してやらないとUC
雨は降りされど月の昇る夜へ
恐れるな
“俺”の後は俺が継ぐ【スナイパー【妖魔殺し【覚悟
—心音、“何も怖いことなんてない”だろ?
一緒に行こう、と手を繋ぐ
イティハーサへ心音と同時に踏み込み全力の電撃交じりの一撃を捻じ込む
楊・暁
【朱雨】◎
…ふふ、そういやお互い
真の姿を見せるのは初めてだな
真の姿:JC参照
実年齢の外見
吉祥を運ぶ黒狐の能力開花した九尾の狐
一人で…
過去知るからこそ言葉一つが重くて淋しく悲しい
成りたかった姿ってんなら俺も同じだ
…みんなが俺に求めたもんを持ってる“俺”になりたかった
吉祥なんざ微塵ももたらせねぇって、知られる度落胆される俺じゃなく
えっ!?死にかけたって…
ったく…笑い事じゃねぇだろ…
呆れ苦笑しながら
お前の苦痛と狂気は俺にとっても同じだ
あんな藍夜…見てたくねぇ
ああ。一緒に討とう
手にあるのは藍夜がくれた風水盤
かつて妖狐軍として能力者達と闘った後
俺を庇い消えた4人の少女の地縛霊(=四つ花)を切欠に
霊を道具の様に扱う事に疑問覚え
それ以降、霊媒士の力は未使用
使うのが、怖ぇ
だから今は御守り代わりに懐へ
愛刀手に敵見据え
藍夜へ頷き手を繋ぎUC
思考読まれても完全でいられるか…!?
早業で俺達にオーラ防御
ダッシュで切り込み
藍夜と同時に鎧無視攻撃&軽業での2回攻撃
もう過去に焦がれなくていい
俺達は互いを見つけたんだ…!
●過去よりも、未来を
その世界、侵略新世界『サンサーラナラーカ』には骸の海が広がっていて、痛みと狂気に苛まれる。それと共に真の姿が引き摺りだされるだろう――戦場に向かう前に聞いたその言葉に、御簾森・藍夜(雨の濫觴・f35359)は成る程、と思う。それから、隣に立つ楊・暁(うたかたの花・f36185)の手を軽く握る。
「どうした?」
「いや、苦痛に耐えられそうになかったら、握りしめてくれと思ってな」
「はは、それなら藍夜もそうしていいぜ」
きっとそれなら耐えられる、苦痛も狂気も、それ以外の全てにも。
だから二人は手を繋いだまま、侵略新世界『サンサーラナラーカ』へ足を踏み入れた。
「……っ、これは、なかなか」
「趣味の悪い敵だな……っ」
即座に襲い来る激痛、それから精神を苛む狂気。互いに握る手に、少しの力を込める。それは耐えられないからではなく、まだ大丈夫、と知らせる為だ。
内側から暴くような暴力的なまでの強制力、そんな風に思えるほどの力で互いの真の姿が引き摺りだされようとしている。徐々に変化していく姿に、藍夜がぽつりと零す。
「真、真か」
見た目こそさして変わりはないが、藍夜の衣装が星と月をモチーフにしたスーツとコートへと変わる。装飾品の数々も、夜の空を象るものへ。
「……ふふ、そういやお互い真の姿を見せるのは初めてだな」
苦痛を耐え、笑う暁の姿も変わっていく。暁の実年齢である二十五という年齢にふさわしい体つきとなった、吉祥を運ぶ黒狐の能力を開花させた九尾持つ姿へと。
「そうだな、初めてだ」
暁の成長した姿に柔く目を細めつつ、藍夜が真の姿となった己の手に視線を落とす。
「……この姿の俺にはきっと」
初めて見せる姿がどんなものか、お前には知っていて欲しいと藍夜が言葉を紡ぐ。
「……――足りないのは心音、お前だけだ。アレは一人で――……『まほうつかい』に成りたかった俺だから」
藍夜の真の姿は『たった一人で』魔法使いに『成った』自分自身。自信に満ち溢れ、誰も必要としない、そんな自分だ。
「一人で……」
暁の狐耳がぴる、と震えてしょげるように伏せられる。藍夜の過去を知る暁だからこそ、彼が零す言葉の一つ一つが重くて、淋しくて、悲しいと思う。
「成りたかった姿ってんなら、俺も同じだ」
繋いだ手をぎゅう、と握りしめて暁が藍夜を見遣る。
「……みんなが俺に求めたもんを持ってる、『俺』になりたかった。吉祥なんざ微塵ももたらせねぇって、知られる度に落胆される俺じゃなく」
まるで懺悔をするかのように告白する暁の手を、藍夜が握り返した。
「心音はそのままでも俺に吉祥をもたらしてくれたのにな」
「……藍夜はすぐ、そういうこと言うよな」
「本心だからな」
ふ、と笑えば重くなりそうな心が軽くなる。繋いだ手から力を貰うような心地に、これが吉祥以外のなんだというのだと藍夜は思う。
「これはマジカルリーフの煙草でな」
魔力増強剤と言われるマジカルリーフだが、所謂麻薬めいたもの。
「臓器も意思も薬で壊しかけで」
手の中の赤い髪巻き煙草を揺らし、藍夜が続ける。
「夢の涯で死にたかった、思い描いた俺の姿だ。この煙草の葉はな、研究の最中に見つけたんだ、一度食って死にかけてな」
「えっ!? 死にかけたって……」
「ふふ、あれは苦しかったな。今くらい苦しかったかもだ」
「ったく……笑い事じゃねぇだろ……」
呆れを含んだ、困ったような笑みを浮かべて暁が藍夜を嗜める。
「藍夜、お前の苦痛と狂気は俺にとっても同じだ」
息を整え、暁が手にした楹月盤に視線を向ける。それは藍夜から贈られた風水盤で、霊媒士としての力を引き出すもの。けれど、使うのは未だ――。
かつて、銀の雨が降る世界で妖狐軍として能力者達と闘った後に暁を庇い消えた、四人の少女の地縛霊――蘇芳、萌葱、桔梗、浅葱――四つ花を切欠に、霊を道具のように使う事に疑問を覚えた、覚えてしまった。それから、暁は霊媒士の力を使っていない。
「今でも、使うのが、怖ぇ」
いつか使うことになるとしても、今はまだ。だから暁は楹月盤を御守のように懐へと仕舞い込み、愛刀である一刀赤心を抜き放つ。
「心音は格好いいな」
「怖いのに?」
「怖くても前を向くのは強さだろう。俺は……俺も、認めるべきだな」
雨を降らせるしかなく、焦がれた月は輝かない。
魔法なんてごっこ遊びだと思いながらも諦められなくて、一人で追って、一人で夢見て、猟兵になっても、心音に出会うまでずっと――。
「藍夜だって、格好いいぞ」
「ふ、ああ、そうだな。俺は心音に格好いいと思ってもらえる俺でありたいよ」
だって今は、一人ではないから。俺も、お前もと藍夜が笑む。
「未来も生命もいらないなんて、思うわけがない」
「ああ。一緒に討とう」
真の姿から引き出す力でしかイティーハーサを倒せないというのなら、この姿で!
『真の姿ごと、捻りつぶしてくれよう』
「生憎だな、俺達には未来がある」
だから、この真の姿は、一人でまほうつかいに成った自分は、もういない。今、隣には最愛がいるのだから。
雨は降り、されど月の昇る夜となる。
「――心音、『何も怖いことなんてない』だろ?」
「……ああ!」
一緒に行こう、と繋いだ手に力を込める。そうして、二人同時に力を解放し、イティハーサへと攻撃を仕掛けた。
「思考を読まれても完全でいられるか……!?」
暁が展開するのは視認・感知・探知不可の妖術陣、イティハーサの思考を感知するもの。
「もう俺は……俺達は過去に捕らわれる必要はない」
藍夜が戦場となるこの地に月の美しい夜を呼び、狐雨を降り注ぐ。完全性を削がれたイティハーサにはそれを防ぐだけの力はない。
「もう過去に焦がれなくていい、俺達は互いを見つけたんだ……!」
繋いだ手を離さぬまま、二人は同時に踏み込むと息の合った連携を見せながらイティハーサに止めを刺すべく一撃を叩き込んだのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
スティーナ・フキハル
◎
スティーナ口調
真の姿は妖狐形態・UCで出てきた妹は民族衣装の鬼姿
自分がオブリビオンで未来なんか無いからってその歳で周り巻き込んでリサイクル精神に目覚められても困るんだけどなーじーさん
ましてやサクラミラージュでなんて
随分長いことここの温泉宿には間借りさせてもらってたし、そろそろ宿代分くらいは頑張らないと
まず専用鎮痛剤服用
アタシにとっての苦痛は……やっぱりそのまんまか
こんな痛みの嵐なんか効くと思うなよ、こっちは産まれた時から人の痛み共感してんだ
激痛耐性も狂気耐性も持ち合わせてる
結界術を自分の周りに使って、と
地獄の冷気がなんだ、アタシの故郷フィンランドの北方なんか最低-50℃だぞ
生まれついての氷結耐性がある、寒さに負けないよう鼓舞だって出来る!
ヒーローなめんなこの野郎‼
神鷹に向かって護符の誘導弾を投擲して牽制、アタシに仕掛けてきたら
動きを見切って逆にカウンターで自分の後方に衝撃波を撃ってじーさんに突撃
捨て身の体当たりで体勢を崩したらUC使用!
ミエリと挟み込んで限界突破した攻撃ぶちこんでやる!
●怒りは、生きる力であり
骸の海が広がる侵略新世界『サンサーラナラーカ』、放っておいてはサクラミラージュのみならず、他の世界にも魔の手を伸ばすであろう世界。
「そんなの、到底許せるはずがないんだよね」
スティーナ・フキハル(羅刹の正義の味方・f30415)は、そう言ってサンサーラナラーカに通じるゲートを潜り抜けた。
「見渡す限り骸の海か、趣味が悪いじーさんだ」
全ての生命がやがて過去になり、オブリビオンになろうとも、最初から骸の海で満たすのはどうなんだろうね、とスティーナが唇を尖らして彼方よりこちらを見ているイティハーサを見遣る。
「あのさ、自分がオブリビオンで未来なんか無いからって、その歳で周り巻き込んでリサイクル精神に目覚められても困るんだけどなー、じーさん」
聞こえているのかいないのか、そんな事はどうでもよかった。
言いたいことは言う、おかしいと思ったら口にする。スティーナはどこまでも真っ直ぐに、イティハーサと真っ向から視線を合わせて歩き出す。
「ましてや、サクラミラージュでなんて」
どの世界が標的にされていても、スティーナは守る為に戦うだろう。けれど、サクラミラージュはスティーナにとって少しだけ特別なのだ。
「随分長いことここの温泉宿には間借りさせてもらってたし、そろそろ宿代分くらいは頑張らないと」
だって、この世界がなくなっちゃったら、あの宿にいる彼らが悲しむ。
「アタシも、嫌だ」
そう思うくらいには、大事な場所のひとつだから。
イティハーサのもとに向かうスティーナへ、骸の海が押し寄せる。それは激痛を心身にもたらす、毒のようなもの。
「ああ、そうだった。まずはアタシ専用の鎮痛剤を飲んどくか」
慣れた手付きで薬を飲み込み、軽く首を振る。産まれた時から人の痛みに共感し、自分の心身に同じ痛みを引き起こす彼女の為の鎮痛剤、かなり強力なものだ。
「アタシにとっての苦痛は……やっぱりそのまんまか」
はは、とスティーナが笑って、痛みなどものともしないかのように走り出す。
「こんな痛みの嵐なんか効くと思うなよ、こっちは産まれた時から人の痛み共感してんだ」
激痛も狂気も、産まれた時から今の今まで感じない日などなかった、嫌でも耐性がつくというもの。だからといって、痛みを感じないわけではなく、苦しさを感じないわけでもない。耐えるだけの胆力を持ち合わせている、それは持ち合わせなければ生きてはこれなかったということだ。
駆けるうちに、スティーナの姿が変わっていく。黒い狐耳に、九尾の尻尾が生えた妖狐の姿はどこか神聖さを感じさせた。
『猟兵よ、お前達は最早不要である』
イティハーサがそう言って、弓に止まらせた神鷹をスティーナに向かって羽ばたかせる。その羽ばたきは八寒地獄の冷気を巻き起こし、スティーナへと襲い掛かる。
「寒さ勝負か」
冷気を感じるよりも早く、スティーナが自身の周りへ結界術を施す。それでもなお、結界を突き抜けてくる冷気の強さはイティハーサの強さを感じさせるには充分なもの。けれどスティーナが悲嘆に暮れることなどはない。
「地獄の冷気がなんだ、アタシの故郷フィンランドの北方なんか最低-50℃だぞ」
冷気が触れたそばから、生命力や意思の熱、そういったものが奪われる感覚にスティーナが抗うように叫ぶ。
「生まれついての氷結耐性がある、寒さに負けないよう鼓舞だって出来る! ヒーローなめんなこの野郎!!」
どれほどに生命力やこの身に宿る熱を奪おうとも、それが尽きることはないとスティーナが笑う。そして、カード型の護符を身の回りに展開させると、神鷹に向かって打ち放った。
神鷹が高く鳴き、スティーナに向かって翼を羽ばたかせる。
「甘い!」
一度見た動きだと、スティーナがそれを防ぐように動き、そのまま自分の後方へ衝撃波を放ち、それを推進力とするかのようにイティハーサへと突撃していく。
『死を選ぶか、猟兵よ』
「誰が死ぬか!」
渾身の体当たりを喰らわせ、イティハーサがたたらを踏んだ瞬間を狙いスティーナがミエリを身の内から召喚する。
「ミエリ!」
「お姉ちゃん!」
スティーナの声に応え、鮮やかな赤と青が目を惹く民族衣装を纏ったミエリが鋭く伸び、尖った爪をイティーハーサへと向けた。
「私が音を込めるのは右の拳!」
「アタシは左の掌打に込める!」
互いの腕に浄化の力が宿り、二人の腕が眩い光を放つ。
「いくよお姉ちゃん、レゾナンス!」
「インパクトォ!!」
息の合った動きで、同時にイティハーサへと拳を叩きこむ!
「アタシは、怒ってるんだからな!」
「私もです!」
怒りは冷静な判断を奪うこともあるけれど、今二人を突き動かすこの怒りは生きる力。
「じーさんには、わかんないだろうけど!」
「未来には無限の可能性があるんです!」
そして、未来を創り出す生命にだって。
わからないのなら、わかるまで、この拳を唸らせるまでだと二人はイティハーサに向かって再び拳を振るうのであった。
大成功
🔵🔵🔵
雨野・妙
おーっと待ちな、元豊穣神として聞き捨てならん。
「新しい生命は要らない」なんて言われてよ、はいそうですかって帰れるかい。
とか言ってたらアレか。その|元《・》の姿に戻るのか。ぼかあ冬の始めに一年ぶりの外套を見るような気分になるだけだが。
ただまあ、「無理矢理に」となると。この姿を取れなくなった日のことは思い出さァな。
神格を損なうような…んー…立場上やっちゃならんことをしたからよ。当たり前なんだが。
…寒かったな。寒さが堪えたことなんて、いっぺんも無かったはずなんだがね。
僕の苦しみは【沁む寒さと、ひとびとの恨み言】ってとこか。
雪深い里から豊穣神が消えたら生活が立ち行かん。信仰は簡単に怨嗟に変わっちまう。
でも全部過去さ。それも遠い遠い昔のお話だ。
僕は今の僕に備わった力だけで戦える。十分に。
――荒べ、《凍風》。
生命の重みと未来の価値をよくご存知でないご婦人に教示しよう。
雪も氷も世界を巡る季節のひとつだ。
冬は冷たく暗い。だがその先に春がある。不変の世界が美しいとは、僕には思えんよ。
●春を告げ
全ての未来も生命も不要だと告げたイティハーサは骸の海が広がる侵略新世界『サンサーラナラーカ』を以てして、他の世界を侵略せんと動き出そうとしていた。
けれど、そこに待ったをかけたのは雨野・妙(落伍・f22864)である。
「おーっと待ちな、元豊穣神として聞き捨てならん」
いつものスーツに、いつもの帽子を指先に引っ掛けて、ちょっとそこの綺麗処がいる飲み屋に行ってくるといった気軽さで、妙は骸の海の上に立っていた。
『猟兵か、何故わからぬ。最早貴様らも不要であることに』
「そんなね、『新しい生命は要らない』なんて言われてよ、はいそうですかって帰れるかい」
たとえ苦痛に苛まれようと、どれほどに傷付こうとも、この場に立ち続ける甲斐性くらいは持ち合わせてんだよ、と妙が唇の端で笑う。
「しっかしまあ、痛いものは痛いがね」
身を削るような痛み、心を苛む痛み、そういやそうだったなと妙が思い出した頃にはすっかり彼は人の姿ではなくなっていて。
「とか言ってたらアレか。元の姿に戻るのか。ぼかあ冬の始めに一年ぶりの外套を見るような気分になるだけだが」
特に感慨はないが、と言う妙の姿は桃の花が咲く立派な角を生やし、鞍と鐙を付けた神鹿の姿へと変容していた。
「ただまあ」
こうも『無理矢理に』、望んだわけでもなく、どちらかといえば苦痛と共に引き摺りだされた真の姿とくれば。
「この姿を取れなくなった日のことは思い出さァな」
蹄をゆっくりとイティハーサに向け、四つ足で歩き出す。その間の世間話とでもいうように、ぽつぽつとあの日の事を口にして。
「この姿の僕はね、豊穣神というやつでね」
雪深い里で信仰を集め、それなりに楽しく、うまくやってたもんさと房飾りを揺らして笑う。
「人の姿になったのはまあ、神格を損なうような……ん-……立場上やっちゃならんことをしたからよ。当たり前なんだが」
蹄が鳴る音が静かに響き、イティハーサの姿が近付いていく。
「……寒かったな。寒さが堪えたことなんて、いっぺんもなかったはずなんだがね」
でも、別に悔いちゃいないし、何度同じ場面を繰り返しても違う選択肢を選ぶことはないだろうな、と妙は思う。それであの子が助かったなら、安いもんだとさえ思える。
「気にすんなってずっと言ってんだがねえ」
ありゃあの子の性分か、誰に似たんだろうね、なんて笑っちゃいるけれど、妙の身には絶えず痛みと苦しみが押し寄せている。
「僕の苦しみは『沁む寒さと、ひとびとの恨み言』ってとこか」
それはそうだろう、雪深い里から豊穣神が消えてしまったら、その加護を受けていた人々の生活は立ち行かない。人々の信仰は容易く怨嗟に変わってしまう。美しく立派だった社は廃れ、見る影もなくなって――まるで人々の姿のようだった。
「でも全部過去さ。それも遠い遠い昔のお話だ」
かつん、と蹄が鳴って、妙が立ち止まる。
「僕は今の僕に備わった力だけで戦える。十分に」
豊穣神としての姿と力をひととき取り戻した妙であれば、過去の力を振るうこともできただろう。けれどそれをしないのは己への戒めか、全てを受け入れそれでも前へ、未来へと進もうとする意志の表れか――全ては妙にしかわからぬことだけれど。
「――荒べ、《凍風》」
妙の足元から、真冬の冷気をまとう紫煙が立ち昇る。
『愚かなり、猟兵』
イティハーサが矢を番え、避けるには難しい程の複雑な動きをする炎を纏った天羽々矢を妙に向かって無数に降り注がせた。
「生命の重みと未来の価値をよくご存知でないご老人……いや、この場合はご婦人か? まあどちらでも構わないが、教示しよう」
妙が前足の蹄をひとつ鳴らすと、紫煙が意思を持ったかのように矢を絡めとり、冷たい炎が天羽々矢が纏う炎を喰らうようにして燃え上がる。
「雪も氷も世界を巡る季節のひとつだ」
世界を休ませ、力を蓄える為に必要な季節。
「冬は冷たく暗い。だがその先に春がある」
冬がなければ春は来ず、その先に繋がる夏と秋もない。一つでも欠けてしまえば、世界は容易く滅んでいくだろう。
「不変の世界が美しいとは、僕には思えんよ」
紫煙が矢を呑みこみ、更にはイティハーサまでをも呑みこもうと勢いを増していく。まるでこの世界の冬を終わらせ、春を導くかのように――。
大成功
🔵🔵🔵
朱酉・逢真
真の姿:黄金竜
心情)|未来《さき》無き名を持つ者よ。他者の積み上げたものを好き勝手積み木し戯れる、挙句の果てには自作気取りとは。育ちの良いことだ。
|歴《へ》た事象の|史《ふみびと》よ。貴様のソレは独り遊びに過ぎぬ。彼岸でひとり戯れ給えよ、他者の手を煩わせるものではない。老害とは殊更みっともないものだぞ。
行動)同時使用できる『|災蛇の魔風《アンゴント》』を使い、矢は炎ごと毒に変え食らっている。だが、この宿は骸の海に適応しちゃいない。人真似が剥がれそうな感覚もある。いずれも耐えられぬほどではないが。
なぜなら、この場は"病"と"毒"に満ちている。歪んだ《過去》、それは世界の"病み"。《過去》の影響、それは世界の"毒"だ。そのすべてが、俺のチカラになっている。
それでは眷属たちよ、この世界を破壊しよう。根で地を壊し、獣虫鳥で民を殺し、魚の群れで海を渦巻こう。砕けた世界の破片で、俺ごと眼前の敵を押し潰そう。お片付けの時間だ、坊や。この|宿《身》を無事に帰ろうなどと、ハナから思っちゃいないのさ。
●その世界に終わりを齎すは黄金
そのかみさまは、静かに怒っていた。
声を荒らげるでもなく、口汚く罵るでもなく、ただ静かに口元にのみ笑みを浮かべ、静かに骸の海が広がる侵略新世界『サンサーラナラーカ』に立っていた。
「|未来《さき》無き名を持つ者よ」
イティハーサ、それは歴史という意味のサンスクリット語である。歴史とは人々が作り上げたもの、命あるものがいなければ紡がれぬ物語。
「他者の積み上げたものを好き勝手積み木し戯れる、挙句の果てには自作気取りとは。育ちの良いことだ」
だからこそ、朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)は目の前に立つイティハーサに向かって目を細め、駄々をこねる幼子に言って聞かせるように口を開く。
「|歴《へ》た事象の|史《ふみびと》よ。貴様のソレは独り遊びに過ぎぬ」
朱酉逢真は神である。通常、人々の前に姿を見せる時は青年の姿をしているが、その姿は多岐にわたる。猟兵として姿を現せるのは、今のところ少年、青年、壮年初期、壮年中期、初老、老年と、六つの姿であるのだが、今の逢真はその全てが重なるかのようにも見えた。
『猟兵、神だというならば、儂の言うことがわかるはずだ』
生命も未来も不要であることが、とイティーハーサが言葉を重ねるのを、逢真は否と切って捨てる。
「独り遊びだと言っただろう。そんなもの、彼岸でひとりで戯れ給えよ、他者の手を煩わせるものではない」
広がり続ける骸の海に目をやって、溜息でも零す様に息を吐く。
「老害とは殊更みっともないものだぞ」
お前の出る幕などないのだと、逢真が言外に言ってのける。此岸は命あるものの為にあり、死者には彼岸があるのだから。
『理解できぬ愚か者めが』
「果たして、どちらがそうであろうな」
押し寄せる激痛と狂気に、何も感じていない訳ではない。神であろうと、この身が人でなかろうと、痛みというのは避けられるものではないから。ただ、逢真にとって痛みを耐えることだけならば難しいことではなかった。
ヒト型が崩れ、真の姿と猟兵が呼ぶ姿に変わろうとしているのを感じながら、逢真は巨大な蛇を喚びだす。それはあらゆる物質を毒へと変える風を巻き起こし、イティーハーサが放った大焦熱地獄の炎を纏った天羽々矢を絡め取る。炎は毒へと変質し、その毒をヒト型から巨大な黄金竜へと姿を変えた逢真が喰らい尽くした。
骸の海に浸ってもなお、巨大な黄金竜。背にある翼は樹木が骨組みとなり背に緑と花を湛え、角は美しい鉱石と化した――死した世界に栄える自然を思わせるような佇まいだ。
「この姿とはいえ、この宿は骸の海に適応しちゃいない」
いずれ呑みこまれるとしても、それまでの猶予はたんとあるのだと黄金竜は毒混じりに笑う。
「人真似が剥がれそうな感覚もあるが、いずれにせよ耐えられないものではない」
なぜならば、ここは骸の海が広がる世界であり、逢真からすればこの場は『病』と『毒』に満ち満ちているからだ。
「歪んだ『過去』、それは世界の『病み』。『過去』の影響、それは世界の『毒』だ」
黄金竜が食べ続ける病と毒、それら全てが――。
「俺のチカラになっている」
神は様々な面を持ち、権能も姿によって様々であるけれど、逢真は病毒に戯ぶ神であり、その本質は――。
「毒と病においては、俺に敵うものはおらんよ」
そう自負する通り、逢真の神威は高まり続けていた。
それに伴い黄金竜の戦闘力は比類なきまでに増幅され、今や世界を滅ぼす――凶星であった。
「それでは眷属たちよ、この世界を破壊しよう」
ばさり、と翼をはためかせれば嵐のような風が巻き起こる。
「根で地を壊そう」
言葉の通り、地を壊すべく張り巡らされた根が荒れ狂う。
「民をも殺す獣虫鳥を放とう」
空を埋め尽くすかのように、眷属達がイティハーサに向かっていく。
「魚の群れで海を渦巻こう」
骸の海が逆巻き、世界を砕かんばかりに割れていく。
「そうして、砕けた世界の破片で、俺ごと眼前の敵を圧し潰そう」
|黄金竜《逢真》がイティハーサの頭上で、高らかに告げる。
「片付けの時間だ、坊や」
『この世界ごと、お前も消えようというのか』
「この|宿《身》を無事に帰ろうなどと、ハナから思っちゃいないのさ」
それに怒りそうな顔は幾つか浮かべど、逢真にとって宿は容れ物であり、替えの利く消耗品。
「それでは――さらば」
黄金の咆哮が、世界に響き――ひとつの世界が姿を消したのであった。
大成功
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