ひやしゅわフルーツ、夏のおもてなし
ある夏の晴れた日、朝からずっと、わくわくそわそわ。
ココ・ロロ(ひだまり・f40324)の尻尾は、ゆうらりゆらゆらと、揺れっぱなし。
だって今日は、ココにとって、毎日指折り数えるほど、待ちに待った日なのだから。
そして、そっと白いふわふわした尻尾を揺らすほど嬉しい気持ちなのは、ココと一緒に森に住んでいるおじいさんも同じで。
手紙を貰ってから毎日のように、今日という日を楽しみにしていた孫の姿を微笑ましく思っていたのだ。
そう……離れて暮らすココの両親から届いたのは、こんな一通の手紙。
――『休みが取れたからお土産をたくさん持って会いに行くよ』と。
ココが両親と会うのは、1年と少し振りくらいで。
猟兵になって少ししたくらいからこれまで会えておらず。
それはココにとっては、とても長い時間であったから。
だから、久しぶりに会う大好きなおかーさんとおとーさんに、喜んでもらいたくて。
この数日間、ココは今日のために張り切って、色々と考えたり準備してきたのだ。
帰ってくる両親をおもてなししたくて。
ということで!
ココがおじいさんと一緒に、これからぐぐっと気合いを入れて作るのは。
「おじいさん、ふるーつぽんち作り、はじめましょー。おいしく作れるようにがんばらないとですね!」
このアックス&ウィザーズとは違った別の世界で知った、フルーツポンチ作り!
それはとても夏らしい、フルーツをふんだんに使った、ひやしゅわなスイーツで。
作り方もそんなに難しくはなく、両親に夏にぴったりな美味しくて冷たいおもてなしができそうだと、そう思ったから。
そしてココがわくわく、調達したフルーツやトッピングをテーブルに並べてみれば。
「そうそう、これもいいんじゃなかろうかと、朝摘みのブルーベリーも採ってきたんじゃが……どうかの?」
「わ、採れたてのブルーベリー! それもぜひ入れましょう、おじいさん!」
おじいさんが追加するのは、朝に詰んだばかりの瑞々しいブルーベリー。
他に用意したものは、ブラックベリーやキイチゴやグミの実など、森で採れた果物や木の実に。星型のフルーツに宝石いちごなどなど、この世界の市場で買ってみたものだったり。あとは、スイカや桃やパイナップルなどの、ココが別の世界から買ってきた、定番のフルーツたち。
というわけでまずは、そんなフルーツの皮をむいたり、切ったりする作業から……なのだけれど。
「わしが皮を剥いていくから、ココはそれを切っておくれ」
「皮むきはおねがいします、おじいさん。あっ、別の世界で、道具も買ってきたんですよ……!」
そうココがすちゃっと手にするのは、くるんっと簡単に果物がまあるくくりぬけるスプーンに、星型やお花型などの型抜き。
ということで、おじいさんが皮を剥いてくれたり下拵えしてくれたフルーツを、ココは切ったり型で抜いたりしていくことにして。
けれど……いざ、使うとなれば。
「どのかたちがいいでしょうか……?」
そう首を傾ければ、チュチュッと。
……これはどう? なんて選んでくれたのは、仲良しネズミのチュチュとチュリ。
それに、ころりと床に転がったフルーツを、てしてししゅたっと追いかけるのは、こもれびねこのルル。
甘えん坊さんなリスのポポも、ココの肩でお利口にしつつ、興味津々。
そして、そんなちょっぴりお手伝いしたり、いい子にしていたりする森の友がわくわく期待するのは、やっぱり。
「えへへ、みんなで、味見もしちゃいましょう……!」
くり抜かれた美味しそうな果物の味見です!
そしてココも、森の友達と一緒につまみ食い……いえ、味見をして。
おいしい~、って、みんなとほわほわ尻尾を揺らしていれば。
「ふふ、ふるーつぽんちとやらに使う分は、残しとくんじゃよ」
そう優しく笑うおじいさんの言葉に、お耳がぴこり。
「……はっ! そうです、足りなくなったら大変です……!」
味見もほどほどにすることにして。
「そういえば、うちに遊びにきてくれたサイは元気じゃろうか」
「元気ですよー。ふふー、また遊びに行く約束をしているんですよ」
「そうか。土産にくれた、だがしという珍しい菓子も美味しかったんじゃよ」
「またカクリヨ世界に遊びにいったら、お土産に買ってきますね~」
作業しながらも、楽しくおじいさんとお喋りも。
「おじいさん、他の世界には、海のいきものさんたちと会える、水族館っていう場所があるんですよー。ふふー、お友達と遊びにいってきたんです!」
「ほう、お友達と。すいぞくかん?」
「泳げなくてもこわくないし、ペンギンさんっていう、森にはいないかわいい鳥さんもいました! ペンギンさんは飛べないけど、泳ぐのがすごく早いんです~」
「飛べない鳥もいるんじゃな、初めて知ったぞい」
「あ、あとですね! 列車っていう、ものすごく早いのりものにも、サイさんと一緒に乗って~……」
おじいさんはココの話をうんうんと聞きながら、そっと瞳を細める。
猟兵になるまであまり森の外に出ることがなかったココは、外の世界が珍しくて、なんでも楽しそうであるし。
知らないを知ることがとても好きで、知ったことをこうやって教えてくれるし。
何より、ココが猟兵になって外の世界へ出て様々なことを知り学んでいることを、とても嬉しく思っているから。
それから、フルーツを切る作業もだいたい終われば、次は。
「えっと、器は……」
「ココ、これじゃな?」
「あ、それです! 他の世界で買ってきましたが、まるくてかわいいのですよ~」
フルーツポンチ用にと用意した、ころんとまんまるな、ひとり分サイズの金魚鉢4つ。
切ったりくり抜いたり皮を剥いたりしたフルーツを、なるべく均等に器にいれていって。
「これも入れるんじゃろうか?」
「はい、それは寒天や白玉っていうもので、つるんとしていたりもちもちしていて、おいしいんですよー。全部いれちゃいましょー」
他の世界で知ったおいしいやキレイなものも食べてほしいからと、フルーツ以外のものも色々と調達してきたココ。
そんな、うきうきで作業を進めていたココだけれど。
「あとは、サイダーをそそぐだけーなのですが……最後のしあげは、おかーさんとおとーさんが帰ってくる直前のほうがいいでしょうか……?」
聞いた話によると、あまり早くサイダーを注いだら、しゅわしゅわがなくなっちゃうって聞いたから。
そう悩むように首を傾けるココに、こう提案するおじいさん。
「それじゃったら、ひとまず少し休憩はどうかの? はちみつりんごの冷たい飲み物を作っておいたんじゃよ」
「わ、はちみつりんごのジュース……!」
夢中でずっと作業をしていたから、これまで意識していなかったけれど。
そう言われれば、喉が渇いていることに気づいて。
「ふふー、はちみつりんごのジュースと余ったフルーツで、みんなでおやつきゅうけいにしましょ~」
すとんと椅子に座れば、ぴょこりお膝の上に乗ってきてご機嫌なポポも。
仲良くならんだチュチュとチュリも、ゆらりと尻尾を揺らすルルも――みんなでひとやすみ。
そして楽しくまたおじいさんとお喋りしていれば。
「そろそろ帰ってくる頃かもしれんのぅ」
「おじいさん、最後のしあげをしちゃいましょー!」
いよいよ、フルーツが入った金魚鉢に、飲み物を注いで仕上げることに!
というわけで注ぐのは、しゅわしゅわ冷たいサイダーなのだけれど。
青、緑、無色、赤――それぞれ、色が違っていて。
そうっとひとつずつ慎重に注いでいけば……しゅわしゅわっと耳に聞こえるのは、弾けるような涼し気な音。
そんなしゅわしゅわなサイダーの海にぷかりぷかぷかと浮かぶのは、星型やお花型や小さく切った、心躍るほど鮮やかでかわいいフルーツやトッピング。
そして4つとも、器の中をしゅわしゅわサイダーで満たせば。
「ふふ、おいしそうにできましたね……!」
ひやしゅわフルーツポンチの完成です……!
それから、その出来に満足気に、ふふ、と笑み宿して。
もふもふな尻尾をココがふりふりと揺らしていた――その時。
ココのお耳がふいに、ぴこんっ。
「ん、帰ってきたようじゃな」
「……!」
両親が帰ってきた音が聞こえて、尻尾もそわそわゆらゆら。
たたっと逸るように駆け寄って……扉が開けば、大好きなおじいさんと一緒に。
「えへへ。おかーさん、おとーさん、おかえりなさい!」
あれもこれも、はたまたこんなことや、そんな話も。
この1年ちょっとの間、ふたりに話したいことは、とてもいっぱいあるから。
ココはうきうきわくわく、大好きな両親を出迎える――作ったフルーツポンチみたいに、弾けるような嬉しさいっぱいの笑顔で。
成功
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