【File●1】アスカ・ユークレース、女、22歳
「ちょうどサクラミラージュからの帰りだったのですよ」
「あぁ、今戦争の真っただ中だもんねぇ。お疲れ様」
夕暮れの喫茶店にて。
今日お喋りに付き合ってくれているのはアスカ・ユークレース(電子の射手・f03928)。パーカーにスニーカーってラフな格好と、それでも隠しきれないスタイルの良さに目を惹かれて俺がつい声を掛けてしまった子だ。一瞬警戒されながら、決してナンパではないことと猟兵の先輩諸氏に教えを乞うている旨を説明すると快く応じてくれた。ま、ナンパなんですけどね。
「何よりこんな美人が目の前に居たらナンパしたくなるのも解ります」
うん、バレてた。って言うか結構自信あるタイプな感じ? 嫌いじゃない。そんな感じの馴れ初めだ。
閑話休題。
「俺猟兵始めて暫く経つけど、こんな可愛い女の子が前線で戦ってるの未だにピンと来ないんだよねぇ」
「そうですね。ですが、いかなる戦いも弾幕を厚くすれば勝てます」
「なかなかに脳筋なお言葉」
「弾幕勝負には自信があります。戦いは火力が全てです」
「筋金入りじゃん」
笑ってしまった。普段着姿でアイスのキャラメルマキアート片手にした美女が言う台詞とは到底思い難いよね。見た目とのギャップすごくない?
暫く戦いのハウツー聞いて、って言ってそれはほぼ「いかに力押しするか」みたいな中身なんだけど、その後彼女がサイバーザナドゥ出身でバーチャルキャラクターだとかそう言う話を聞いた。
で、一体いつからだろねぇ。それで、何だろね? この感じ。
こんな見知らぬ輩の誘いにおそらくは気遣いで付き合ってくれる程度に彼女は親切で、且つ人当たりも悪くない。ちょっぴり残念美人なきらいはあるけど、それも十分愛嬌の内。つまり普通にヒトとして好感の持てる相手だし、この感覚も何も好感を損なうものでもないんだけども……。
——水膜一枚隔てた向こうに居る様な、薄くノイズのかかった画面で見ている様な、この妙な得体の知れなさよ。
「不勉強だから完全に興味本位なんだけどさ、バーチャルキャラクターって、誰かが創り出した存在なんだっけ?」
それは彼女のルーツから来るものなんだろうかと当たりをつけて、何かの手がかりが得られないかと訊いてみた。
「はい。私の場合はとある企業に造られました」
「ふぅん」
あぁ、ダメだ。
字面だけ見れば別に何かをはぐらかすでもない、きちんとしたご回答。如才ないとすら言える。でもさぁ、その実あんまり答えることに気乗りしてない雰囲気、俺の気の所為かなぁ? 露骨に見せやしないから、たぶん気の所為で片付けてすら差支えのないやつだ。でも、万が一にもそうだとしたら、これ以上突っ込んで聞くの野暮かもね。
「ところで、サイバーザナドゥって俺あんまり詳しくないんだよね。楽しい? ってかアスカちゃんのお勧めの世界とかどっかある?」
「キマイラフューチャーが好きですね!お買い物も楽しいし、ネットで遊ぶのも楽しいです。この前ネッ友たちとチャットで——」
愉快な話題に切り替えて喋って貰いながら、先の違和感の正体はどうやらお蔵入りする気がした。
バーチャルキャラクターの知り合いは他に居なくもないけども、彼らにこの手の感じはないなぁ。だから、この感じの正体はおそらく彼女が造り物であることに由来する類のやつじゃない。じゃあ何だろ、って考えると、初対面で訊いて良いものには到底思えない。答え合せはお預けだ。
随分と日が短くなったもので、お会計して帰路につく頃にはすっかり夕闇だ。気を付けてね、って手を振ってから踵を返して考える。
つくづく情報収集が趣味なんだよね俺。返ったら彼女のことをちょっと調べてみようっと。
成功
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