12
帝都櫻大戰⑭〜魂鎮めの螢提灯

#サクラミラージュ #カクリヨファンタズム #帝都櫻大戰 #第二戦線 #山本五郎左衛門

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サクラミラージュ
🔒
#カクリヨファンタズム
🔒
#帝都櫻大戰
🔒
#第二戦線
🔒
#山本五郎左衛門


0




 灯る燈を、連れましょう。
 その手にぽうと、導きの。

 命のあかり、火垂るの光。
 灯りて鎮めて貴方の傍に。

 ●

「皆々、連日の戦、お疲れ様じゃよぅ」
 そう告げて、柔く頭を垂れた娘の髪に咲く鈴蘭が揺れる。再び面を上げた彼女、ティル・|レーヴェ《エアルオウルズ》(福音の蕾・f07995)が、紫色の瞳に集う君達の姿を映した。
「この戦も第二戦線に突入しておる。各世界に及ぶ脅威も、|其方《そなた》達や駆け付けてくれた多くの仲間達の存在あればこそ、不安など、ない」
 信頼の籠る眼差しで、そう告げ笑んだ彼女はさて、と続ける。
「此度はその仲間のひとり。第一戦線で皆が命を守った、東方親分『山本五郎左衛門』殿の助力に向かって欲しいのじゃ」
 曰く、カクリヨファンタズムには遥か昔に骸の海を通じて漂着した幻朧桜が存在しており、この桜の下で執り行う「『諸悪の根源』の滅殺を可能にする儀式」を『山本五郎左衛門』が執り行おうとしているのだそうだ。
「その儀式には膨大な手順が必要だそうでな、その内の一つを其方らに担って欲しいのよぅ」
 向かう先は、カクリヨファンタズムにおける幻朧桜の群生地「幻朧桜の丘」。
「その地にて、山本五郎左衛門殿が、巨大なお花見の宴席をしつらえておるのじゃ」
 宴席……? と不思議そうな顔をした猟兵達へ、ティルは笑って見せる。
「ほほ、その宴席こそ、儀式そのものなのじゃという」
 強力なユーベルコードの使い手が宴席に集まれば集まるほど、儀式は力を増すらしい。

「そうして妾が案内するのは、幻朧桜の丘にあって、涼やかなせせらぎ聞こえる幽世の川辺。螢舞う夜の宴」
 その川辺に舞う蛍は『幻朧螢』と呼ばれ、其処を訪れた者にとって近しい誰かの魂を宿すと言われている。――今は亡き大切な誰か。親族、恋人、友人、師弟……はたまた関係性に名はなくも、あなたと深き縁のある誰か。
 幻朧螢は言の葉を紡がない。けれども、宿す光色と明暗で意思を伝えるとも言う。寄り添う螢光は、その一夜、君と共に在ってくれるだろう。
「そうして、幻朧螢の宿す光をこの提灯に分けて貰うのよぅ」
 ゆらり、ティルは手にした提灯を揺らして見せた。それは、大きな大きな鬼灯の実。
「これは、『螢提灯』と呼ばれていてな、幻朧螢の持つ特別な光――鎮魂の光を分けて貰い、燈る提灯なのじゃと」
 見本だと告げた彼女の持つものは鬼灯で出来ているが、他にもホタルブクロの花であったり、和紙で作られたものであったり、ステンドグラスの如く鮮やかな硝子を合わせたものであったり、蛍狩りを思わせるよな木製の虫籠型であったりと、その形も素材も様々だという。
「螢提灯は幽世の提灯職人の夫妻がその地で屋台を出しておられる故、好みの物を得られるといい」
 猟兵達の行う儀式とは、今は亡き、君たちの縁者の魂宿す幻朧螢と対し、時を共にし、その鎮魂の光を螢提灯に分けて貰うこと。そうして、その鎮魂の灯り宿した螢提灯を手に、この地の幻朧桜を参る事。――光を分けた幻朧螢は、その後静かにこの地の夜空へと帰ってゆくという。

 儀式を終えた後、得た提灯は自ら持ち帰っても、この地の桜に捧げても、川の流れに委ねるでも、ぞんざいにさえ扱わなければ、各々の想う儘として構わないそうだ。灯る提灯を此の地で手放した後、土産用に新たな螢提灯を得てもいい。ただし、出逢える蛍はひとり一匹。宿せる光は一つだけ。新たな提灯は土産用のガワだけとなるのを覚えておいて欲しいと彼女は語る。
「幽世の幻朧桜。その水辺にて出逢う蛍火。儀式の一つとしての助力を乞うものではあるが……皆にとって、良き時間となればいいと、妾は思うよ」
 宴と言うには静かな時間となるだろう。けれども、故人との、光を介しての邂逅は趣深い一夜となるだろうと、鈴蘭の娘は笑む。

「どうか、其方らに良き夜を。そうして、その先に世の安寧が繋がりますよう」
 どこか祈るようにそう紡いだティルは、宜しゅう頼むよ。と続けた後、君たちを件の地へと送り出すのであった。


四ツ葉
 初めまして、またはこんにちは。四ツ葉(よつば)と申します。
 此の度は当オープニングをご覧頂き、有難うございます。
 未熟者ではございますが、今回も精一杯、皆様の日々を彩るお手伝いが出来ましたら幸いです。

 それでは、以下説明となります。

 ●シナリオ概要
 『帝都櫻大戰』、1章完結のシナリオです。

 ◎【プレイングボーナス】山本と一緒に儀式の手順を成就させる。

 ★各章について。
 (各章、能力地による選択肢は参考まで、行動はご自由にどうぞ!)

 第1章『蛍火』
 カクリヨファンタズムに在る『幻朧桜の丘』。その川辺にて、あなたと|縁《ゆかり》のある魂を宿した『幻朧螢』と会し、時を共にし、お好みの『螢提灯』に鎮魂の光を宿して貰って下さい。鎮魂の光宿した『螢提灯』を手に、幻朧桜を参ることで、この依頼で担う儀式の一手は成立致します。
 『幻朧螢』は言葉を話しませんが、語りかけることは可能です。静か寄り添うだけでも構いません。其処に宿る故人との関係や過ごし方などをプレイングに明記下さい。
 お声掛けがあれば、当案内役のティルが顔出し致しますが、なくても静かに儀式に参加しつつ、皆様の良き夜を祈っていることでしょう。

 ●プレイングについて
 オープニング公開直後より受付です。
 今回は断章の追加はございませんので、公開後いつでもどうぞ。
 今回締め切りはフォームの空いている限りとさせて頂きます。(状況により〆日を設定する場合は、タグ等にてお知らせ致します)予期せず閉まる可能性も御座いますので、ご承知おき下さい。

 また、当方のキャパを超えた場合お返しの可能性も御座います。その場合は先着順ではなく、筆走る方から順に、執筆可能期間内で出来る限りの描写、となりますので、ご了承頂けますよう、お願い申し上げます。

 ●その他
 ・同行者がいる場合は【相手の名前(呼称可)とID(f○○○○○)】又は【グループ名】のご記入お願いします。キャパの関係上、今回は1グループ最大『2名様』まででお願い致します。また、記載無い場合ご一緒出来ない可能性があります。
 ・逆に、絶対に一人がいい。他人と組んでの描写は避けたい、と言う方は【絡み×】等分かるように記載して頂ければ、単独描写とさせて頂きます。記載ない場合は、組んだり組まなかったりです。
 ・グループ参加時は、返却日〆の日程が揃う様、AM8:31をボーダーに提出日を合わせて頂ければ大変助かります。

 では、此処まで確認有難うございました。
 皆様どうぞ、宜しくお願い致します。
77




第1章 日常 『蛍火』

POW   :    蛍を愛でる

SPD   :    蛍を愛でる

WIZ   :    蛍を愛でる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

テーオドリヒ・キムラ
こいつが幻朧螢…

なぁ、あんたは誰だ?
俺の|義父《 とうさん 》か
|義母《 かあさん 》か
俺を産んですぐ亡くなった|貴種吸血鬼《 おふくろ 》か
ビャウォヴィエジャの森で死んだ|人狼《 おやじ 》なのか

(淡い光に目を瞬かせ)
義父さん…?
そっか、義父さんが来てくれたんだな

こんな形でも会えて嬉しい…なんて思っちゃダメだよな
2人とも、俺を子供にしなきゃ、きっと未だ

(赦しの意思を感じて)
だって俺は洗脳されてたとしても…!
(重ねられる光に言葉を呑み込み)
…幸せだった?
…俺も、だよ

9歳で死に別れてからのことを少しずつ語り

ホタルブクロの形の提灯に光を移して貰い
かあさんにもよろしく
また、いつか(泣きそうな笑顔で)



 ●

 カクリヨファンタズムに存在する『幻朧桜の丘』。
 漣の音が心地よく響く川辺に、薄紅の花弁に交じり幻朧螢の光が舞う。
「こいつが幻朧螢……」
 夜の闇に光燈し舞う蛍を見つめ、テーオドリヒ・キムラ(銀雨の跡を辿りし影狼・f35832)は、ぽつりと声を零した。星光の如く辺りを燈し往く蛍の中から、ふわり、とテーオドリヒに近づく光がひとつ。揺蕩うように近づく光へ思わず鼓動が大きくなるのを感じながら、彼は問う。

 ――なぁ、あんたは誰だ?

 問う理由。それは、その光に――己と縁ある魂に、心当たりが複数存在していたから。
「俺の、|義父《 とうさん 》か? |義母《 かあさん 》か?」
 それとも。俺を産んですぐ亡くなった|貴種吸血鬼《 おふくろ 》か、ビャウォヴィエジャの森で死んだ|人狼《 おやじ 》なのか。じ、と幻朧螢の光を見つめつつ、心の中で問いかける。心の中で、四つの可能性がぐるぐると巡る。そんな中。

 ――……あ。

 彼の目の前で、幻朧螢の淡く優しい光が、テーオドリヒに話しかけるかのよに瞬いた。
「義父さん……?」
 その瞬間、テーオドリヒは察した。そう、この光は、此処に宿る魂は、テーオドリヒの義父であるのだと。そうと分かれば、彼の目が穏やかに細められた。
「そっか、義父さんが来てくれたんだな」
 紡ぐ言の葉も柔く響く。安堵と喜びが混じったような、いつかの過去に戻るよな声音。
「こんな形でも会えて嬉しい……なんて思っちゃダメだよな」
 喜びの溢れるままに、声に出し……そうして、己を戒める。だって、そうだ。喜んでいい筈がない。だって、だって――
「2人とも、俺を子供にしなきゃ、きっと未だ……」
 彼の言葉に幻朧螢の優しい光が柔く瞬く。それはまるで、テーオドリヒを赦すよな、義父のあたたかな光。
「だって、俺は洗脳されてたとしても……!」
 ふわり。幻朧螢の光が増した。ぽう、と言葉遮るように重ねて光る其れが、己を諭す義父の温かな聲にも重なる。幻朧螢は声を発さない。きっと誰にも聞こえていない。けれども確かに、自分には聞こえたような気がして。
「……幸せだった?」
 重ねるように、絞り出すように、声を重ねる。ああ、ああ……

 ――……俺も、だよ。

 紡ぐテーオドリヒに寄り添う幻朧螢が、彼の傍で緩やかに明暗を繰り返した。暫し静かに添うた後、テーオドリヒは語りだす。9歳で死に別れてからのことを、少しずつ。今までの時を埋めるよに、重ねるように。

 そうして、想い出語りが終わる頃、取り出したのはホタルブクロの形の提灯。幻朧螢に向けた其処へと、あたたかな淡い光が灯される。
「ありがとう。かあさんにもよろしく」
 そう紡いだテーオドリヒに応えるようにして、幻朧螢は穏やかに光を点滅させた。そうして、ふわり。彼に寄り添っていたその光が、ゆっくりと空へと向かってゆく。その光を見つめながら、今にも泣きそうな笑顔を浮かべ、テーオドリヒは見送る。その光が見えなくなるまで。

 ――また、いつか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神臣・薙人
葛城さん(f35294)と

静かで綺麗な岸辺
ここは現し世と幽世がとても近い
…はい
私はここに来たかったのです
大丈夫
私はこちら側にいますよ

提灯は鬼灯のものを使わせて頂きます
螢は私には白く光って見えます
初恋の人
…今でも、好きな人
その人の魂がいると思って良いのでしょうか
そんな風に考えていたら
光が少し瞬きました
これは肯定でしょうか
その光ちょっとだけ分けて下さいね
大丈夫
私はこの世界で生きています

葛城さんの所にはどなたが…
尋ねたく思いますが我慢します
きっとそれは
私が触れて良いものではないから

提灯に光が灯ったら
葛城さんに声を掛けて
幻朧桜へお参りします
世界を護るために私自身も力を尽くします
どうかお力を貸して下さい


葛城・時人
ダチの神臣(f35429)と

静かな岸辺
此処なら永遠に失ったものも、きっと

神臣の顔はいつもより少し白い
「けど来たかったもん、な」

ほんの少し背を押す言葉に
かすかに頷きわずか笑む顔の動き

此処は幽世
でもダチはこちら側にいると安心して
釣鐘人参の花の形の螢提灯を手にした

つ、と俺の指先へ降りた蛍は
思った通り兄貴が『馬鹿だなあ』と言う時の
瞬きと同じ明滅

「逃げないよ」
囁くとまた明滅する
絶対また言ってるね、これ
「大丈夫…ありがと」
言葉を紡ぐと、すうと自ら螢提灯に宿った

神臣の対話は見ない
だって俺は…逢瀬だって知っているから

神臣が動くまで声も掛けない
傍に居て兄貴と話していよう

「OK、いこっか」
祈りと願いを、此処で共に



 ●

 幻朧桜の丘。静かで綺麗な岸辺に立って、神臣・薙人(落花幻夢・f35429)は舞う幻朧螢の光を見つめていた。そうしてそんな彼の隣で、葛城・時人(光望護花・f35294)も同じ景色を瞳に映し、想う。

 ――此処なら永遠に失ったものも、きっと。

 そう、光舞う景に思い馳せている彼の耳に、ぽつりと、薙人の声が届いた。
「ここは、現し世と幽世がとても近い」
 視線を向けた時人の目に映る、薙人の顔はいつもより少し白い。だからこそ。
「けど来たかったもん、な」
「……はい。私は、ここに来たかったのです」
 時人の、ほんの少し背を押す言葉に、かすかに頷きわずか笑む顔の動きに、時人の口許も僅か緩む。此処は幽世、でもダチは――薙人はこちら側にいるのだと安心して、淡い笑みが浮かんだ。その表情から彼の内心をも察した薙人もまた、穏やかな笑みを友に向ける。そうして言の葉に変えるのだ、自らの居場所を。
「大丈夫。私はこちら側にいますよ」
「ああ、そうだな。神臣は、こっちにいる」
 笑み交わし、歩み往く先の提灯屋台でふたりは其々に螢提灯を選び取る。薙人の手には、鬼灯のもの。そうして、時人は釣鐘人参の花の形をした螢提灯を手にした。

 そうして再び、川辺に訪れたふたりのもとへと、其々に幻朧螢の光が近づいてくる。つ、と、時人の指先へ降りた蛍は、ぽうっと瞬くように明滅して、その様に時人は小さく笑って見せた。ああ、その様は思った通りだ。

 ――兄貴が『馬鹿だなあ』って言う時の瞬きと、同じ。

 ありありと、その声音も表情も浮かべることが出来た。目の前の幻朧螢に兄の魂を感じる。だからこそ、真っすぐと告げるのだ。
「逃げないよ」
 そう、幻朧螢に――兄に向けて囁き告げたなら。同じように、また明滅をする。ああ、もう。ほんとうに。思わず笑ってしまう。
「絶対また言ってるね、これ」

 ――大丈夫……ありがと。

 大丈夫だよ、と。そう、兄に告げるよに。言の葉を紡げば、螢提灯に幻朧螢の光が宿された。あたたかな光を灯す釣鐘人参の花。鎮魂の光を宿した螢提灯を見つめ、時人は隣の薙人のことを思う。彼も縁ある魂との邂逅を成しているのだろう。けれども、彼の方を見ようとはしなかった。だって、

 ――俺は……逢瀬だって、知っているから。

 友の逢瀬の時間を邪魔してはいけない。薙人が動くまで、声も掛けないと決めていた。静か見慣れた明暗を時折見せる手元の提灯を見つめて笑んだ時人は、ただ友の傍に居て自分は兄と話していようと、明滅する幻朧螢と向かい合い、言葉と光を交わしゆく。

 一方、薙人のもとへと近づいてきた幻朧螢は、白き光を纏っていた。その光を見て想うのは――薙人の初恋の人。……今でも、好きな人。

 ――その人の魂がいると、思って良いのでしょうか。

 そんな風に考えている薙人へと、幻朧螢が応えるようにその白い光を瞬かせた。ぽう、ぽう、と、彼に知らせるように瞬く光はなんだか彼女の様を想わせて。
「これは肯定、でしょうか」
 ぱちり、瞬いて紡ぐ薙人の言葉に、今一度、そうだと言わんばかりに明るく瞬く蛍の光。その様に、元気な彼女の姿を見たような気がして。思わず顔が綻んだ。そうして、あの日から重ねた今の自分が、あの日と変わらぬ調子で彼女に――螢に乞う。

 ――その光、ちょっとだけ分けて下さいね。

 いいよ、と。笑顔で頷く彼女の様が見えるよに、再び明暗繰り返した幻朧螢から、鎮魂の光が彼の持つ鬼灯の螢提灯へと宿される。光分けた後、ふわりと舞う螢の様に薙人は柔い笑みを深めて見せて、こう紡ぐ。
「大丈夫。私はこの世界で生きています」
 穏やかにけれどもきっぱりと。目の前の彼女へと確と伝えるように紡いだ言葉に、明るい白き光は応えるように瞬いた。
 そうして、幻朧螢から光を分けて貰った後、ふと薙人が気になったのは隣の時人のこと。

 ――葛城さんの所には、どなたが……。

 つ、と視線を向けてはみるけれど、尋ねたくなるその思いに静か蓋をするよう、我慢する。今は、問わない。きっとそれは、私が触れて良いものではないから、と。堪えた気持ちを落ち着けるよう、静か一度瞼を伏せて、明かした瞳で再び手元の燈と隣の友を映したならば、薙人は時人へと声を掛ける。
「葛城さん、お待たせしました。幻朧桜へお参りしましょう」
「OK、いこっか」
 交わし合う聲は、いつもの音。互いの手に互いの大切な光を宿して幻朧桜のもとへと歩んでゆく。裡に抱くのは、祈りと願い。それを共にとこの地で重ねる。
「世界を護るために、私自身も力を尽くします」
「俺も……俺の出来ることは、なんだって」
 だから、どうか。どうか力を貸して下さい。この地の儀式が、無事に成りますよう。世界の平穏が安寧が、護られますよう。はらはらと舞う薄紅の中、星光のよな蛍火の舞う中、ふたりの想いと願いは灯りと共に、送られ巡り力と変わる。ぽう、と。手元の螢提灯がまるで導くようにと光を増した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

北十字・銀河
アドリブ歓迎

幽世の川辺
ゆっくりと舞う蛍を見つつ
亡き剣の師であり初恋の人の幻朧蛍を探す
暫くすると淡い優しい色の光をともした蛍が一匹
俺は師の名前をそっと呟く
蛍はふわりと光を点滅させた


彼女がいなくなってからの話を俺はゆっくりと話す
故郷の世界での相棒や仲間達との絆
楽しかったことや苦い思いの経験など
故郷の世界は平和になったけれど
戦いが続くこの世界の存在に気づき
まだ助けられる多くの命の為に、今ここにいること

『命ある限り多くの人を助ける』

それが彼女の願いで俺の願いでもあるから……

そっと蛍提灯を差し出す
光を分けてもらうと、微笑んで見送ろう

これからも護っていくよ
命を。命が住む場所を……
だから見ててくれよな



 ●

 幽世の川辺。幻朧桜の薄紅と共にゆっくりと夜に舞う蛍を見つつ、北十字・銀河(星空の守り人・f40864)は、亡き剣の師であり初恋の人の幻朧螢を探していた。

 ――彼女に、逢えるだろうか。

 夜桜と蛍の光に身を委ねながら暫くこの地を歩むうち、そんな想いが銀河の裡に過ったとき、淡い優しい色の光をともした蛍が一匹、彼のもとへと、ふわり近づいてきた。そのあたたかでいてどこか凛とした光に彼女の姿を見た気がして、銀河は師の名前をそっと呟く。その名に、彼の聲に応えるように、目の前の幻朧螢はふわりと光を点滅させた。あゝ、彼女だ。そう想えば裡より込み上げるものもあったけれど、穏やかに努めて目の前の幻朧螢と連れ立つように、銀河は川辺を歩んでゆく。

「今までのことを、聞いてくれるだろうか」
 徐に切り出した銀河が語るのは、彼女がいなくなってからの話。ゆっくりと語り始める彼の言葉を受け止めるように、穏やかな光を灯して幻朧螢は銀河の隣を飛ぶ。
 故郷の世界での相棒や仲間達との絆、楽しかったことや苦い思いの経験などを語る彼の横顔を、幻朧螢の燈がともす。
「故郷の世界は平和になったけれど、戦いが続くこの世界の存在に気づいて、今ここにいるんだ」

 ――まだ助けられる、多くの命の為に。

 そう、『命ある限り多くの人を助ける』。それは、他の誰でもない彼女の願いで、そうして銀河自身の願いでもあるから。だからこそ、聞いて欲しかった。彼女から受け継いだ想いと技をもって、今を生きる自分のことを知って欲しかった。その志を胸に、今も戦い続けていることを。あなたがいてこその、今の自分なのだから。
 語り終えた銀河は、手にした螢提灯をそっと目の前の幻朧螢へ向けて差し出した。任せておけと言わんばかりに、ふわりと舞った幻朧螢が提灯へと鎮魂の光を宿す。分けて貰った光と、目の前の幻朧螢を見つめ、微笑んだ銀河は夜空へとかえりゆく幻朧螢を見送る。その笑みはどこか晴れやかな空気を纏っていた。
「これからも護っていくよ、命を。命が住む場所を……」

 ――だから、見ててくれよな。

 天へかえりゆく幻朧螢の光へと、そう紡いだ銀河の聲は、かの光にそして自らの心にとしかと刻まれ、力と導きと変わるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

布原・理馮
幽世生まれの者として親分の助力をしよう

にしても、あそこに漂着してた桜が
そんなに重大なものだったとは
曾祖父さんなら何か知ってたかな…

螢提灯:花で作られたものを選択
儀式の後は川に流して還すつもりだ
形に残さない方がぬらりひょんらしいだろ?

俺が会いたい魂は、果たして来てくれるかな
…俺がまだガキの頃に消えちまった曾祖父さん
妖怪が死んだ後も、魂は残ってるのかな

なあ、曾祖父さん
俺、あんたの武勇伝聴くの好きだったんだよ
でさ、幽世が大変なことになっちまった今になって思い出したんだ
俺も曾祖父さんみたいになりたかったんだって

どう転ぶかわからないけど
できる限りのことはするつもりだ

さあ、行くか
久々に一緒に散歩してくれよ



  ●

「幽世生まれの者として、俺も親分の助力をしよう」
 そう抱く想いを口にした、布原・理馮(行雲流水・f44508)は、くるりと改めてこの地を見回す。
「にしても、漂着してた桜がそんなに重大なものだったとは」
 幻朧桜の丘として呼ばれ、この地に咲き誇る薄紅の桜。その明かされた役割に改めて感嘆する。はらはらと舞う花弁と、周囲を舞う蛍火を見つめながらふと思う。

 ――曾祖父さんなら、何か知ってたかな……。

 物知りだった曾祖父。彼なら何かを知っていたかもしれない。そんなことを思い乍ら、提灯屋台でホタルブクロの螢提灯を手にして川縁へと歩む。
「俺が会いたい魂は、果たして来てくれるかな」
 ぽつりと零しながら、未だ光の宿らない螢提灯を揺らして想う。その姿を記憶に手繰る。

 ――……俺がまだガキの頃に消えちまった、曾祖父さん。

 妖怪が死んだ後も、魂は残ってるのかな。なんて、そんなことにも思い馳せながら足を進めていたならば、いつしか爪先は川の淵。せせらぎの音を耳に、数多の光に目を向けていたなら、その中の一つが理馮のもとへと近づいてきた。
「……曾祖父さん?」
 思わず問いかけた彼へと応えるように、ゆったりと瞬いた幻朧螢のその様を見て、理馮はそこに曾祖父の魂を感じた。湧き上がる懐かしさを抱きつつ、目の前で光を湛えた幻朧螢に語り掛ける。
「なあ、曾祖父さん」
 俺、あんたの武勇伝聴くの好きだったんだよ。そう語る理馮の言葉に、しかと耳を傾けるように、幻朧螢は温かな光を宿しその傍らに寄り添った。
「でさ、幽世が大変なことになっちまった今になって、思い出したんだ」

 ――俺も、曾祖父さんみたいになりたかったんだって。

 幼い頃、武勇伝を沢山聞かせてくれた、その姿に憧れた。知識も、在り方も。『妖怪総大将・ぬらりひょん』と呼ばれたあんたのことを――ずっと。ああ、だから。
「どう転ぶかわからないけど、できる限りのことはするつもりだ」
 きっと、あんたもそうしただろう?
 なんて、問いかけてみたなら、笑って応えるような曾祖父の姿が見えるよな、そんな様で幻朧螢がふわりと飛んで、彼の持つ螢提灯へとその鎮魂の光を分け与えた。灯り宿したホタルブクロに笑み深め、ゆらりと揺らして見せる。
「さあ、行くか。久々に一緒に散歩してくれよ」
 灯る螢提灯と、隣往く幻朧螢と、理馮は幻朧桜を参る道行をゆるりと歩む。久々の散歩を楽しむように。
「そうそう、俺さ、儀式の後はこの螢提灯、川に流して還すつもりなんだ」

 ――形に残さない方が、ぬらりひょんらしいだろ?

 いつか語り合ったあの日のように。少しばかり童心にかえったような声音で、ニッと笑った理馮は言う。そんな彼を見守るように、語る其れに応えるように、幻朧螢は明るくぽうと瞬いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
螢…誰かの、魂……

物心つく前で、顔も声も覚えてない
それでも…幻朧螢は
魂を宿してくれるんだろうか

提灯は悩むけど、和紙で出来たものを
桃色兎の刺繍されたお守りに合わせた
桜色の提灯

そうして蛍が魂を宿してくれたのなら

母さん…?
母さんですか…?

言葉は交わせない
わかっていても
話しかけずにはいられなくて

過去の戦争でも出会う事は出来た
この世界で、幻だけれど、それでも
涙が出るくらい嬉しい

あのね、母さん
僕頑張ってるよ
生きるために、守るために
まだ弱くて、やれる事も少ないけど
それでも…

僕はちゃんと
貴方の自慢の息子でいられてますか

そうだと、いいな

光を分けてもらった提灯は
幻朧桜を参った後持って帰りたい
貴方との、思い出として



 ●

 幽世の夜空の下、薄紅の桜がふわりと舞う。はらり、舞い落ちる花弁の合間を縫うように、幻朧螢の柔いひかりが飛び交っている。そんな様を見つめて、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)
は、目の前を飛び往く数多の光に目を細めた。
「螢……誰かの、魂……」
 舞う光に宿る魂を想い、瞼を伏せる。自分の想い至る人。その人を亡くしたのは澪が未だ物心つく前で、顔も声も覚えてない。

 ――……それでも……幻朧螢は、魂を宿してくれるんだろうか。

 一抹の不安をも抱えつつ、足を向けた提灯屋台。少し悩んで決めたのは、和紙で出来た提灯。それは、澪が大切に持つ桃色兎の刺繍されたお守りに合わせた、やさしい桜色の物だった。

 ――御守りに似た色の提灯に……此処に、蛍が魂を宿してくれたのなら……。

 きゅ、と。提灯を持つ手に力が籠る。そんな時だった。澪のすぐ傍に一つの光が近づいてくる。穏やかに、優しく歩み寄るような空気を纏うその幻朧螢を見て、澪は思わず息を呑んだ。
「母さん……? 母さんですか…?」
 呼ぶ声が、問いかける聲が、僅か震える。
 言葉は交わせない。そうわかっていても、話しかけずにはいられなくて。そんな澪に応えるように、優しく寄り添うように、仄か淡い桜色を纏った幻朧螢が、澪に寄り添うようにと瞬いた。その様に、胸が詰まる。裡から数多が込み上げる。
 過去の戦争でも出会う事は出来ていた、この世界で、幻だけれど、それでも……ああ、それでも。涙が出るくらい――嬉しい。
 ほろほろと、音もなく溢れる透明な雫が澪の頬を伝い、そんな涙を拭うよに、彼の頬に寄り添う光が上下した。

 溢れる涙が落ち着くのを待って、寄り添う光に向き合った澪はゆっくりと口を開く。
「あのね、母さん。僕、頑張ってるよ」
 静か寄り添い続けてくれる幻朧螢に、未だ潤ける瞳のまま澪は口元に笑みを作り語る。意識をしないと、また涙がこぼれてしまいそうだから、努めて笑顔で。だって、聞いて欲しんだ。
「生きるために、守るために。……まだ弱くて、やれる事も少ないけど」

 ――それでも……。

 そう、それでも、生きている。今を生きるこの命を、今を頑張って生きている。そのことを、伝えたかった。そうして生きる今の自分を、見て欲しかった。――ねぇ、母さん。
「僕はちゃんと、貴方の自慢の息子でいられてますか」

 ――そうだと、いいな。

 願う気持ちは、音には乗せず。けれども、きっと目の前の光には届いていただろう。問う言葉に応えるように、其れを肯定するように、幻朧螢は柔らかな桜色の光を増した。そうしてその光は、澪の手に握られた螢提灯へと分け与えられてゆく。
 ぽうと光宿した提灯は、きっと澪の標にもなるだろう。再び、潤け揺らめく瞳を細め、燈る提灯と幻朧螢と共に澪は幻朧桜に参りゆく。この儀式を終えたなら、優しい光を宿したこの提灯は持ち帰ろうと、持ち手を柔く、けれども確と握りしめた。そう、この光を――貴方との、思い出として。

大成功 🔵​🔵​🔵​

稲護・狐燐
【絡み×】

(白む焔の色の光に
いつになく真面目な雰囲気を纏って)
今は亡き縁のある誰かってなると、だいたい検討はつく

(声には出さず)――親父、だろ

生まれるより前に死んじまって顔も知りゃしねぇが、親しくて遠いこの感覚は他に心当たらねぇ
優秀すぎるアンタのお陰で色々と面倒は被ったし、ちぃとばかり遠廻りもしたが、いつの間にか俺も「親父」になっちまってるさね
勿体ねぇ位良い嫁と、嫁と俺に良く似た子供達だ

(当人達が居合わせないからこそ、普段は軽いノリに隠した想いを他に聞かれぬ声で素直に零す)

儀式に使った螢提灯は櫻に捧げ、新たな螢提灯を家族への手土産に手にする頃には、普段通りに

「さて、帰るとするかね。我が家へ」



 ●

 薄紅の桜咲き誇る幽世の幻朧桜の丘。
 幻朧螢の光が舞う川辺を、稲護・狐燐(護りの狐火・f35466)は、静かな足取りで歩みゆく。今は亡き縁のある誰かってなると、だいたい検討はつく。そんなことを思い乍ら、ふわりふわりと燈が舞う中を往くその瞳が、白む焔の色を宿した幻朧螢の姿を捉えた。じ、とその白光を見つめた狐燐は、いつになく真面目な雰囲気を纏っている。真っ直ぐと見据えた金色が、白と対し、暫しの静寂。その静寂を保ったまま、狐燐は裡にて語りかける。

 ――親父、だろ

 音に乗らぬ彼の問いかけに、白焔の螢が静かに揺れた。
 ああ、やっぱり。その螢の纏う雰囲気に狐燐は確信を得る。自身が生まれるより前に死んでしまって、顔も知らない父のことだが……だからこそ。

 ――親しくて遠いこの感覚は、他に心当たらねぇ。

 目の前にふわりと浮きながら、確かな存在感を持つその白き螢から、ふっと視線を外し狐燐はその場に腰を下ろした。見つめる先は幽世の夜空。けれども紡ぐ音はすぐ隣に居る白焔の螢へ向けて。
「優秀すぎるアンタのお陰で色々と面倒は被ったし、ちぃとばかり遠廻りもしたが、いつの間にか俺も『親父』になっちまってるさね」
 ゆっくりと、父に語り聞かせるのは今の自分、そうして――
「勿体ねぇ位良い嫁と、嫁と俺に良く似た子供達だ」
 そう、今の己と共に在る大切な家族のこと。見上げる夜空の瞬きに、大切な家族たちの顔を重ねる。共に過ごす日々の温かさを想う。そう、掛けがえのない家族たち。当人達が居合わせないからこそ、普段は軽いノリに隠した想いを、狐燐は他に聞かれぬ声で素直に零した。すぐ傍の、幻朧螢にだけ聞こえる聲で。
 そんな彼の素直な想いを、静か耳傾けるようにただ隣に寄り添っていた白き幻朧螢が、ゆっくりとその光を瞬かせる。それは、深く頷くような――息子の話を聞く父親の其れに、とてもよく似た光の仕草。

 ふ、と小さく笑んだ狐燐が改めて白焔の光へと向き合えば、幻朧螢の纏う白焔の如き光が増す。己をも包むよなその光に僅か目を細めた狐燐の視界が元に戻れば、いつしかその光分け与えられた螢提灯に白が燈っていて、白き螢は緩やかに天へと還るところだった。

 ――……アンタらしいさね。

 灯る提灯を、上りゆく光を見送りながら小さく零した声は夜に溶かして。狐燐はその灯りを櫻に捧げる為に歩みゆく。揺らりと照らす白は導きのようでいて、けれども共に帰るのはこれじゃない。宿された鎮魂の力はこの世の為に。帰りを待つ家族への土産とするのは、新しい其れがきっと似合う。燈灯らぬ螢提灯ゆらりと揺らし、帰路を映した金色が前を向く。

「さて、帰るとするかね。我が家へ」
 一つに結んだ真白が揺れて、紡がれた言の葉は――いつもの声音に戻っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
この子達が幻朧螢ね
指の間をすりぬけ淡い光を紡ぎながら静かに舞う姿は……静かに佇む母上の姿を思い返される
…最も母上は呪術と呪殺に長けた八岐大蛇の系譜の姫巫女……神にも臆することなく立ち向かい運命にも抗う
決して螢のように大人しい性格では無い
この幽世での邂逅を果たしてから私の事を見守ってくれていると感じる

傍らを舞うひとつの螢に語る

手にするのは淡い灯火を宿した螢提灯
私のものはどこか桜提灯にも似ている
揺れる度、螢の光と重なりうつくしいこと
分け与えられた光はあえかな桜色
ふふ、もちろんよ
私は誰かを守れる存在になる
…母上の願い通りに
心配いらないわ

桜の世に灯した光が
どうかこの想いごと
空なる母に届けてくれますよう



 ●

 幽世にあって、薄紅の咲き誇る幻朧桜の丘。
 静かな夜に響くせせらぎは、まるで心も洗うよう。水辺に集う幻朧螢もふわりと舞い飛ぶ姿は星にも似て。 
「この子達が幻朧螢ね」
 光舞うその姿を穏やかに、そしてどこか愛おし気に眺めては目を細めた、誘名・櫻宵(咲樂咲麗・f02768)は、薄紅と舞う光の中を嫋やかな足取りで往く。徐に、そうっと伸ばしゆく手の、繊細な指先。その間をすりぬけ淡い光を紡ぎながら静かに舞う姿は……静かに佇む、母の姿を思い返される。ふわり、ふわりと舞う光に、母の姿を重ねながら、櫻宵は柔く口許に笑みを浮かべた。
「ふふ、最も母上は、呪術と呪殺に長けた八岐大蛇の系譜の姫巫女」

 ――……神にも臆することなく立ち向かい運命にも抗う、そんな方。

 決して螢のように大人しい性格では無い。
「……そうでしょう?」
 静か紡いだ言の葉に、想いが乗る。この幽世での邂逅を果たしてから、櫻宵の事を見守ってくれていると感じているから。そう、ずっと。だからこそ、今この場所で――傍らを舞うひとつの螢に、櫻宵は語る。
 寄り添う螢は、その聲に応えるようにして櫻宵の傍をふわりと舞った。嫋やかな、それでいて凛とした強かさをも感じるその動きは、どこか懐かしさをも感じて。母上、と呼びかけたならぽう、とその光が揺れ瞬いて――その光が不意に増したなら、櫻宵の持つ螢提灯へとあえかな桜色をした鎮魂の光が分け与えられた。

 隣添う螢と語らうかのように櫻宵の手元で揺れるのは、淡い灯火を宿した螢提灯。それははどこか桜提灯にも似ていた。ゆらり、ふわり。揺れては燈り光と重なる。
「揺れる度、螢の光と重なりうつくしいこと」
 仄かなあかり。けれども、それがたいそう眩く見えて、櫻宵の瞳はうっそりと細まって弧を描く。そんな櫻宵の隣で、ぽうと瞬いた幻朧螢にくすりと笑った櫻宵が、艶やかな紅引く唇を開く。そう、燈る光の言の葉を――想いを解するかのように。
「ふふ、もちろんよ。私は誰かを守れる存在になる」

 ――……母上の願い通りに。

 だから、ええ、だからね。
「心配いらないわ」
 嫋やかに、しかし、強かに。櫻宵は美しい笑みを浮かべて螢に語る。
 だって、私は。母上の子だもの。だからどうか見守っていて。これからも、ずっと。
 咲き誇り舞いゆく桜花の花弁に負けない、美しい笑みが其処に在る。あたたかくも強い思いが其処に咲く。燈りゆく。幻朧桜に向けてそうと掲げた螢提灯が、桜の世を灯しゆく。あゝ。

 ――どうかこの想いごと、空なる母に届けてくれますよう。

 想いは光に。
 願いは燈に。
 この世に、この夜に、昇りゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
優しいひかりはこの幽世に睡る魂達の灯火なのか、それとも桜の世にて癒されたもの達の光であるのか……
伴を連れず一人で見あげ思う
桜の世にて癒されて幽世にて廻り咲いた
私は両方の世に縁がある故そんな事を思ってしまう

生まれて四年程の私にはまだ、近しい者で生き別れた魂、というものが存在しない
けれどこの光達の中には、私が神として見送り、守った生命もあるのだろうか

手を伸ばせば、不思議な…まるで逢魔が時の光のような螢が飛んできてくれた
明るく眩しく、されど何処か儚げ
おや、この子は…私の神友の光とも似ている
逢魔が時にしか逢えぬ友を想う
縁を感じ桜提灯を差し出せば
淡く力強い光を分けて貰えた

良いな
友の光と共に花逍遥といこう



 ●

 ぽうと燈る螢の光。薄紅と共に舞いゆく光。
 宵に響くせせらぎの音に身を任せ、目の前を舞う光たちを見つめながら、朱赫七・カムイ(禍福ノ禍津・f30062)は、静か足を止めた。ふわり、ふわりと目の前を往く螢火。優しく灯るその灯りを見て、カムイの目は細められた。
「優しいひかりはこの幽世に睡る魂達の灯火なのか、それとも、」

 ――桜の世にて癒されたもの達の光であるのか……。

 今宵は供を連れることなく往く彼が、ひとり、光舞う景を見上げ想う。カムイ自身、桜の世にて癒されて幽世にて廻り咲いた。そうそんな身であるからこそ。
「私は、両方の世に縁がある故、そんな事を思ってしまう」
 誰に聞かせるでもなく、ぽつりと零れる。廻り咲いて……そう、生まれて四年程のカムイにはまだ、近しい者で生き別れた魂、というものが存在しない。けれど、
「この光達の中には、私が神として見送り、守った生命もあるのだろうか」
 そんなことを思いつつ、数多の光のなか、どこか答えを手繰るよに、つ、と伸ばした手の先に、不思議な……まるで逢魔が時の光のような螢が飛んできてくれた。その幻朧螢の纏う光は、明るく眩しく。……されど、何処か儚げで――そんな纏う光にカムイは心当たりを覚え、ぱちりと目を瞬かせた。
「おや、この子は……」

 ――私の神友の光とも似ている。

 逢魔が時にしか逢えぬ友を想い、目の前の螢へと縁を感じたカムイは、手にしていた螢提灯を逢魔が時の光を宿す幻朧螢へと差し出した。ふわりとその近くを舞った幻朧螢は淡くも力強い光を瞬かせ、その光が眩さを増したかと思えば、カムイの手で揺れている螢提灯に灯りが宿った。
「そうか、分けてくれたのか」
 手元で燈る光に目を細め、そう呟いたカムイへと、ふわりと舞った螢が応えたように見えた。
「……良いな」
 くすりと零れる笑みはどこか懐かしさを帯びていて、穏やかであたたかな気持ちが胸に満つ。うん、と一つ頷いて、カムイは揺れる螢提灯と挟間の色宿す幻朧螢と共に歩みだす。

 ――友の光と共に花逍遥といこう。

 そう思えば、懐かしく。けれども今この身で……互いにかつてとは異なる姿で歩む宵逍遥は其処か新鮮な気持ちともなる。幻朧桜に参る道、薄紅の宵を歩む宵、神友の光宿す螢と往くこの時間は、きっと良きものとなるだろう。ぽう、と燈る逢魔が時のいろ。カムイの手で揺れる挟間のいろは繋いでゆく。今と嘗て――想い出と、未来を。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラシード・ファルカ
目にするものはどれも見た事のないものばかり
猟兵になった実感とワクワクを抱えつつ
この後に帰す先を考えて六芒星の提灯にしよう

自分にとって近しい誰かの魂…祖父母の両親?殉職した同僚?
誰と逢えるんだろうと思っていたら
俺の周りを飛んだ後、結婚指環に止まった光がひとつ

…君なのか?

理不尽に奪われた君(妻)とまた逢えたら
何度も願った事が思わぬ形で叶って目の奥が熱い

今度は目元に止まった螢に思わず笑う
大丈夫、これは嬉し涙だよ
ああでもどうしようか
君の写真にしょっちゅう話しかけているのに
何話せばいいかわからないんだ

瞬く光に、ん?と思う

…もしかして見てた?

恥ずかしくなるけど、君ならいい
だって俺は、今も君に恋してる



 ●

 静かな夜に響くせせらぎの音。川縁を飛ぶ螢は様々な光を湛え、薄紅の花弁と共に舞う。
「ほう、これは……」
 思わず感嘆の声を零した、ラシード・ファルカ(赫月・f41028)は、己を包む景に視線を巡らせる。目にするものはどれも見た事のないものばかり、猟兵になった実感とワクワクと高揚する気持ちをを抱えつつ、その足を止めたのは提灯屋台。目の前に並べられた提灯もまた、様々な姿をしていて、ラシードの好奇心を擽る。
「どれも興味深くて、迷うものだな」
 煌めく赤に宿るは童心めいた好奇心。惹かれるものは多々あれど、今この時選び取るのは一つだけ。ふむ、と顎を擦りながらその赤が見止めたのは――
「この後に帰す先を考えて、六芒星の提灯にしよう」

 ゆらり、ぶらり。
 未だ灯り宿さぬ六芒星を揺らしながら、其れを差し出し歩みゆく前を見つめて、ラシードはふわりと思案する。自分にとって近しい誰かの魂……それはいったいだれだろうか。

 ――祖父母の両親? 殉職した同僚?

 はてさて、と。脳裏に思い浮かべつつ、誰と逢えるんだろうとそれもどこか楽しみに思っていたら、ふわりと一つの光が――幻朧螢が彼に向って近づいてくる。この螢が、『そう』なのか、と。期待に満ちた視線を向けていたなら、近づく螢は彼の周りを飛んだ後、その指に嵌まる結婚指環に、静か止まった。ぱちり、瞬く眸。まさか、と色を変える表情。とたん、胸打つ音が大きくなった。己の鼓動が頭に響くよう。熱くなる思考を何とか落ち着け、漸く口から零れ出たのは……、

 ――……君なのか?

 僅か震える聲ひとつ。それに応えるようにして、止まる位置を変えぬまま、幻朧螢は柔く優しく瞬いた。……あゝ、嗚呼……、なんということだろう。理不尽に奪われた君とまた逢えたら、と。亡き妻を想って何度も願った事が思わぬ形で叶って、目の奥が熱い。込み上げる想いの儘、潤ける瞳に光が近づく。ぽう、とあかりを点滅させながら、目元に止まった螢に思わず笑みが零れた。だって、ああ、それはいつも君がしてくれていたこと。溢れ零れそうな雫を拭うよに、伸びる指先を想う。
「大丈夫、これは嬉し涙だよ」

 ああでもどうしようか。
「君の写真にしょっちゅう話しかけているのに、何話せばいいかわからないんだ」
 困ったように笑うラシードの元、幻朧螢がぽう、と瞬く。

 ――ん?

 不思議そうに瞬いて、小首を傾げたのも僅か。あゝ、もしかして。
「……もしかして、見てた?」
 瞬く光のその様が、あまりに君の儘だから。光伝える其れにも思い至って。問いかけてみれば応える光。ああ、やっぱり。是を示す光に恥ずかしくなるけれど――
「……君なら、いい。だって、」

 ――俺は、今も君に恋してる。

 愛し君へと囁いたなら、螢もまた淡い光を瞬かせる。長く願った逢瀬の夜に、想い交わし、燈しあう。この幽世で――きみと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シリルーン・アーンスランド
親友のリグノアさま(f09348)と

「わたくし、恩ある方と語らいたくて」

リグノアさまは魂の理解を渇望され
ご一緒下さったのでしょう
心を理解された今その先へ至られたら
失くしたものに更に近づかれましょう
良いご機会ですわ

蛍灯篭は硝子の蛍袋を選び
「リグノアさまもお好きなものを…」
選べず悩むは、また好きが増えたこと
思わず口元がほころびましてございます

お越し下さいました…
リグノアさまと川辺に立つとあえかな光放つ蛍が

「導師様」
一礼し手を伸べると指先に
「お久しゅうございます…元気にしおりますゆえ
どうかご安心下さいませ」
懐かしい思慮深い瞳
その光がそのまま蛍灯篭に入られて灯ります

「リグノアさまも―」
声を掛ける間に
炯々と輝く光がリグノアさまの胸元へ

請う心と、呼ばれ、駆けつけた魂
「ご記憶でなくとも繋がっているのですわ」

「ご息女さまの親友、シリルーンにございます」
優雅に一礼しご挨拶を

共に灯篭を流した後も名残惜し気に見送る親友を
けしてせかしは致しませぬ
こころゆくまでお考えになり、会得されます事を
ご応援したく存じますわ


リグノア・ノイン
親友のシリル様(f35374)と

不思議なほどに静かで
ですがとてもどこか悲しいような空気
シリル様の仰る語らうという言葉も
私の知らない心があると感じます
だからこそ勿論
「|Ja《肯定》.ご一緒させて頂きます」

蛍灯篭はどれにするかとても悩みます
細工の美しい物、可愛らしい物
どれも目移りしますが今は
「シリル様と同じ、硝子の物に致しますね」

ですが二人で川辺に立ち思うのです
魂とは何か、それは機械のこの身にも
「|Nein《否定》.あると思って、良いのでしょうか」
ぽつりと零れた不安は隣のシリル様の様子に
当たり前に魂に寄り添うその姿に掻き消えます

心が有り、魂が有り
だからこそ私が在る
そして私が居るのはと考えた所で
ふわりと光が止まります
「|Mutter《母様》.」

心を得て、どこかで解ってはいました
私を生んだ両親はきっともう居ないと
だけど悲しみでなく、今は伝えたいのです
私は元気で、友にも恵まれて、歩めていると
「母様、紹介致しますね。親友のシリル様です」

これがひと時の儀式とは解っています
ですが、光を送ってもう少しだけ



 ●

 川のせせらぐ音に包まれた静かな夜。音もなく舞う薄紅の花弁と、とりどりの色をした螢火。不思議なほどに静かで、けれどもとても、どこか悲しいような空気を感じて、リグノア・ノイン(感情の渇望者・f09348)は、ふと足を止めた。その瞳に螢光を映し暫し立ち止まるリグノアの――親友の横顔を、シリルーン・アーンスランド(最強笑顔の護り風・f35374)は、何処か見守るような眼差しで見つめ、隣に立てば徐に口を開く。

「リグノアさま。わたくし、恩ある方と語らいたくて」
 そう、この地に至った理由を短く言葉にする。紡ぐ言の葉に、リグノアの視線が己に向いたことを感じつつ、その瞳は舞う蛍に向けられたまま。そんな彼女の言葉と視線を受けて、親友たるシリルーンへ向けた視線をリグノアも再び螢へと向ける。この地の空気、舞う螢火、そうして、彼女の言葉。それらを受けて、リグノアは想う。

 ――シリル様の仰る語らうという言葉も、私の知らない心があると感じます。

 そう、この地だからこそ、魂宿るという螢火の中だからこそ、彼女の言う『語らい』に宿る心が――だからこそ、勿論。
「|Ja《肯定》.ご一緒させて頂きます」
 真っ直ぐと伝え還す言の葉は、シリルーンをしかと見つめて。そうしてそんなリグノアのことをシリルーンもまた見つめ返して笑む。真っ直ぐな返答にの中に籠る彼女の気持ちを感じたから。わかるから。

 ――リグノアさまは魂の理解を渇望され、ご一緒下さったのでしょう。

 心を理解した今、その先へ至ることが出来たなら、失くしたものに更に近くことが出来るだろう。今までを共に歩み見てきたシリルーンだからこそ、想う。その先を描き、背を押すように笑みが零れる。

 ――良いご機会ですわ。

 そう、己の願う邂逅も宛ら、彼女にとっても代えがたい夜となるだろう。そう想えばこそ、シリルーンの心は温かく燈る。交わし合う視線を其の儘に、互いに頷きあったふたりは緩やかと踏み出した歩みを提灯屋台へと向けた。

 至る屋台には数多の螢提灯。素材も、形も異なる提灯たちが、望むものに迎えられることを待っている。溢れんばかりの提灯に、ぱちりと瞬いたリグノアがその全てをぐるりと見回す。そんな様をもどこか微笑ましく感じながら、シリルーンはふと目に留まった心惹かれる提灯へと手を伸ばす。
「あゝ。わたくしは、これに致します」
 店主へと告げて手元に迎えた提灯は。硝子で出来た蛍袋。きらりと煌めき透く花色は、繊細で美しい。良き出逢いに満足げに目を細めたシリルーンは、その視線を友へと向けて緩やかに促す。
「リグノアさまもお好きなものを……」
 お選びください、と紡ぐ詞を呑み込んだのは、あまりに隣の彼女の目が真剣に提灯を見つめていたから。
「|Ja《肯定》.ですが、どれにするかとても悩みます」
 見つめる瞳に映るのは、細工の美しい物、可愛らしい物、どれもがそれぞれの個性をもって、此処に並んでいるものだから、目移りしてしまう。そんな様のリグノアに、温かな視線を向けながらシリルーンは穏やかに紡ぐ。
「選べず悩むは、また好きが増えたこと」
 それは、リグノアにとって、そうして彼女の親友たる自分にとって、嬉しく喜ばしいことだ。思わず口許が綻ぶのを感じながら、彼女にとっての一つが選ばれるのを静かに見守る。そんなシリルーンの視線を受けつつ、リグノアが選んだのは――
「決めました」

 ――シリル様と同じ、硝子の物に致しますね。

 悩んで、悩んで、そうして決めたのは。親友と同じもの。その事実がまた、あたたかい。揃いの提灯を手に揺らし、ふたりは川辺へと歩みゆく。涼やかな水の音が間近で聞こえ、舞う螢火を眸に映す。その景を前にして、ふたりはともに足を止めた。
 ふわり、ふわり。あたりを飛ぶ数多の幻朧螢。そのなかから、ひとつ、あたたかな光宿した螢がシリルーンのもとへと飛んできた。
「あゝ、お越し下さいました……」
 シリルーンの目の前で、あえかな光放つ蛍が静かに向かい合うようにして浮き、止まる。その光を前にして、シリルーンは恭しく一礼をして見せた後、柔く緩めた瞳でその光を映し、紡ぐ。

 ――導師様。

 短くも確かに呼んで、手を伸べると指先に幻朧螢が静かにとまる。
「お久しゅうございます……わたしくしは元気にしおりますゆえ、どうかご安心下さいませ」
 燈る螢に語り掛ける。その様は、生前の相手に対するそれと変わらぬ声音。向かい合う光が、応えるように、笑むように、静かに瞬く。その様は――導師様の懐かしい思慮深い瞳そのままだ。その光がそのまま螢提灯に分け与えられ、灯る。目の前で尚もあたたかに光湛える幻朧螢に、シリルーンは感謝を込めて、恭しく一礼をした。

 そうしてリグノアは、幻朧螢を介し師と邂逅する友の姿と、周囲舞う光を見て想う。魂とは、何か。それは……それは、機械のこの身にも。
「|Nein《否定》.あると思って、良いのでしょうか」
 ぽつりと零れた彼女の不安は、けれど隣のシリルーンの様子に……当たり前に魂に寄り添うその姿に掻き消えた。
「心が有り、魂が有り……だからこそ、私が在る」
 その事実を確かめるように、言の葉に乗せる。

 ――そして、私が居るのは……。

 そこまで考えたところで、ふわりと飛んできた幻朧螢の光がリグノアの胸元に止まる。そう、その優しくも炯々と輝く光が止まると同時、理解したのだ。この、光は――螢に宿る魂は……、
「|Mutter《母様》.」
 思わず声が震えた。ほんの、ほんの僅かであるが、音が震える。心が、聲に乗る。そう、心を得て、どこかで解ってはいたのだ。私を生んだ両親は、きっともう居ないと。その事実が、この邂逅で突き付けられる。確かなものへと、変わる。――だけど、

 ――悲しみでなく、今は伝えたいのです。

 静か、胸に手を当てたリグノアは想う。こうして逢うことのできた魂に、私は今、伝えたいのだと。私は元気で、友にも恵まれて、歩めていると、そう、伝えたい。そうして想えるのは、共に立つ親友の存在あればこそ。共に経てきた、そして得てきた、心あればこそ。だから、だから。最初の言葉はこれなのだ。真っ直ぐと幻朧螢と向き合ったリグノアが、紡ぐ。
「母様、紹介致しますね。親友のシリル様です」
「ご息女さまの親友、シリルーンにございます」
 紹介されたシリルーンは優雅に一礼し、親友の母へと挨拶をする。そんなふたりを前にして、明るい光燈した幻朧螢はその光をまたたかせる。それは、まるで――

 幻朧桜を参った後、灯される燈を互いの手に持ち、そのあたたかさを並び感じる。互いの大切な燈火。そうして互いに寄り添う螢と共に、川のせせらぎに耳傾ける。流れる水面に目を向けていたシリルーンは、隣座すリグノアと、彼女の肩に乗る幻朧螢へと視線を移す。その姿に、柔らかに目を細め、静か告げる。

 ――請う心と、呼ばれ、駆けつけた魂。

「ご記憶でなくとも、繋がっているのですわ」
 届く親友からの言の葉に、静か眼を緩めて頷いたリグノアは、手にした提灯を川へと近づけた。その様に、頷き返したシリルーンもまた、師の光燈した提灯を川の流れへと寄せる。
「よろしいですか?」
「|Ja《肯定》.」
 静かに、けれども、確かに紡いだリグノアの声を受け、ふたりの手からそれぞれの光宿した螢提灯が静かな流れに乗り、送られてゆく。流れ、流れてゆく灯りを、リグノアはじっと……名残惜し気に見送っている。

 ――これがひと時の儀式とは解っています。ですが、

 光を送ってもう少しだけ。流れゆく灯が見えなくなって、添うていた螢が空へと還って、そのあとも。螢火の余韻と、己が心と向き合うように、静かに、ただ静かに在りし場所を見つめている。そんなリグノアのことを、シリルーンは決して急かすようなことはしなかった。それでいい、とさえ思う。

 ――こころゆくまでお考えになり、会得されます事を。

 そう、願う。かけがえのない親友の、その先を。応援したいと切に思う。

 静かな夜に、桜舞う。せせらぎに乗り螢舞う。
 灯る燈は導きの――

 命のあかり、火垂るの光。灯りて鎮めて、貴方の傍に。
 願わくは。愛しこの世の安寧を、静けき魂の平穏を。
 そうしてどうか、『あなた』に幸の、ありますように――

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年09月18日


挿絵イラスト