1
ひとひら、ひとひら、重ね咲く

#UDCアース #ノベル #猟兵達の夏休み2024

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#UDCアース
🔒
#ノベル
🔒
#猟兵達の夏休み2024


0



シウム・ジョイグルミット



藤間・宗一郎




 吊るされた色とりどりの提灯がUDCアースの夏夜と集い賑わう人々を照らしている。祭り囃子もはしゃいでいるかのよう。
 神社へと続く石畳の参道ではカランコロンと軽やかな下駄の音色。
 光を反射してキラキラ光る風鈴参道からは夜風に吹かれる美しき奏で。
 涼音彩る空間のなか、一際天真爛漫な輝きの音色がある。それは「宗くん、宗くん」と藤間・宗一郎(f32490)を呼ぶシウム・ジョイグルミット(f20781)の声。
 提灯の橙が差した緑髪、ふわふわなウサギの垂れ耳を飾る紫や白の花々はつまみ細工の簪。
 宗一郎と共にシウムが今宵纏うのはUDCアースの和に倣う絞り染めの浴衣だ。レースのように染められた細やかな格子柄に大輪なる白と紫の花が連なり流れ、可愛らしい小花が踊っている。
 ふわふわとした反物の感触はシウムが好むもの。
 人の流れから逸れて立ち止まり、たこ焼きを頬張るシウムの表情はとろけんばかり。
「宗くん」
 先程の『こっち、こっち』と呼ぶような「宗くん」とは違い、今度は何かを伝えたい『あのね』。
 宗一郎に向けてシウムはにっこり。
「たこ焼きー! すぅごく美味しいよ~。宗くんも、はい」
 あーん♪
 と差し出されたたこ焼き。
 程よく冷まされたたこ焼きの熱を、ふっと微笑みがてらに払って身を屈めた宗一郎は差し出されたものを一口でさらっていく。
「ん、美味いな」
「でしょ~? タコもおっきいよねぇ♪」
 宗一郎の言葉にシウムは嬉しそうに頷く。
「だな、弾力ある」
 出来立てならではの美味しさだ。続いて二つ、三つと食べさせて貰って仲良くシェアした。
 シウムの瞳と同じ色の夏帯――宗一郎が動けば揺れ動く鈴の根付が小さく音をたてる。
 彼女と同じ宗一郎の絞り浴衣は、黒を基調に。変則的に配置された花は夏夜に咲く花火のように一つとして同じものはない。
 熱々でソースが濃厚なたこ焼きのあとはフレッシュなジュース、食べ合いっこしやすいベビーカステラに、ふかっとした食感で香ばしい海の味なイカ焼き。
 様々な食べ物屋台があってシウムの興味は尽きない。
「宗くん、お面があるよー。この狐のお面、カッコイイね~」
「本当だ。黒面に描かれている模様に鋭利さも感じるな」
「いらっしゃいカップルさん。格好良いお面も、もちろん可愛いお面も取り揃えていますよ」
 屋台の主が声を掛けてきて、猫、うさぎ、キャラクターものと様々なお面を示した。
「シウム、うさぎの面を買っていくか?」
「んんー、ううーんんん……」
 ウサギも可愛い。けれど、それより気になるお面があるようで、シウムはそちらの方へちらちらと視線を向けている。
 珍しく悩んでいる彼女の指先は自然と宗一郎の袖を摘まんでいた。
(「これは相当悩んでいるな……」)
 悩ましいシウムの表情も可愛いなぁと思いながら、宗一郎が「どれだ?」と目を遣れば。
 シウムの示した先にはうさ耳ドーナツのお面。
 はちみつが掛かっているかのようにつやつやとしたうさ耳と丸型のお面の縁一片には、ミニチュアなスイーツたちが装飾されていた。
「うんっ、決めた~。ボク、ドーナツのお面にするね♪」
 元より自分の直感やコインを投げて道を選ぶ、運任せな生き方をしているシウム。ここで出会ったのも良き縁だ。珍しいドーナツ型のお面を宗一郎に買ってもらう。
「ふふふー、宗くん、ありがとうね~♪」
「どーいたしまして。シウム、俺のも選んでくれるか?」
「まっかせてー」
 宗一郎に似合いそうなものを探す喜び。シウムはニコニコと楽しそうに、彼に似合う狐の面を見繕う。
 明るい青と銀の化粧を施された黒狐の面を被せてもらって、宗一郎は柔らかく笑んだ。

 ちりめん細工や風鈴が売られる雑貨屋台、レトロな玩具が溢れんばかりにある屋台、光が賑やかな屋台には現代らしく様々なペンライト――レインボーに光ったり、キャラクターものだったり――が売られている。
「すごいね~」
 感嘆の声を零すシウム。夜をこんなに明るくできるなんて。
 屋台の光に留まらず、その目は頭上に飾られた提灯や人々の賑わいにも向けられていた。
「ペンライト……の前に、シウムの両手にまずおさまるのはスイーツだよな」
 宗一郎は片手にフルーツ串、片手にチョコバナナを持っている彼女を見て、うんうんと頷いた。
「宗くん、わかってるね~。ボクの両手は、しばらくは美味しいものの予約でいっぱいだよー」
 トン、と寄り掛かる様に刹那に肩を預け、シウムはぱちんとウインクした。
「お。じゃ俺の手の予約も忘れずにしとこ」
「ううん、宗くんのためなら、ボクはいつでも空けるよ~」
 はい♪ と渡されるフルーツ串。それはまるで、頼りにしているよ、と言われているようで。甘い笑みを浮かべて宗一郎は受け取った。
 ね、空いたでしょー♪ とシウムは宗一郎の手を取って歩き出す。
 時折「宗くん、あーん」とシウムが見上げてきて、フルーツ串をねだった。先程とは違う「あーん」に宗一郎は大甘やかしモードだ。
 飴を終えれば、いつの間にか彼の手には次なるクレープが鎮座していてシウムは大喜び。
 次はどんな食べ物屋台がくるかな、と見ていけば子供やカップルで賑わう射的屋台に出会った。
「宗くん、射的できるー?」
「お、なんだなんだ? シウムは俺の得意分野を忘れたのかー?」
 宗一郎の言葉にシウムは悪戯めいた笑みを浮かべる。
「射的は一ゲーム三回まで撃てるよ」
「じゃ、一ゲーム分だ」
 代金を払ってコルクガンを屋台の親父から受け取る宗一郎。この重さに馴染みはないが、アサルトライフルの扱いには慣れている。現場で調達した物品へ同調を合わせたり馴染ませるのはお手の物だ。
 確かめるような動作をした後、コルクガンを構える宗一郎。銃口も軽く感じる――射線を調整し撃てば、予想通り緩やかで軽い弾道。
 コルク弾は見事、小さな駒に当たる。
 二発目に当てたのは木札だ。シウムの好きそうなお菓子の詰め合わせセットと引き換えてくれるもの。
「おお~宗くん、すごーい」
 感嘆の声を聞きながら次に宗一郎が狙ったのは――可愛いぬいぐるみ。
 たんっ! とコルク弾がぬいぐるみのおでこに当たれば、愛らしいそれはコテンと転がった。
「すごいね、兄さん! 百発百中だ! おめでとう!」
 屋台の親父がにこにこと商品を渡してくれる。
 可愛らしいぬいぐるみ、お菓子セット、小さな駒はおとぎ話のブリキの人形風。
「ほら、シウム」
 愛らしいそれらをシウムに一つずつ渡していく。
 お菓子セットにちょこんと乗ったブリキの人形。可愛らしいぬいぐるみは彼女の腕の中に。
 ふくふくふかふかとしたぬいぐるみを抱きしめるシウムの表情はニコニコ笑顔だ。
「えへへ~♪ 宗くん、ありがとうー」
 大事にするね~♪
 ほわっとした可愛らしい声でシウムが言う。
 頬をピンクに染めて、本当に嬉しそうに。
「この子たちのお名前、何にしようかな~」
「そうだなぁ……いちご、めろん、ブルーハワイ」
「も~それ読んでるだけでしょー?」
 向かい合わせの屋台がかき氷屋で、自然とそちらへと向かっていく二人。
 夏祭りの夜はまだまだ続く。

 今宵の楽しくかけがえのない時間を一緒に過ごして、たくさんの思い出が詰まったぬいぐるみ。
 抱けばふくふくふかふかと柔らかで優しい気持ちがよみがえってくる。
 この夏にまた一つ、幸せな想いを重ねた二人だった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年09月09日


挿絵イラスト