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帝都櫻大戰⑤〜綴る縁かなれの果て

#サクラミラージュ #帝都櫻大戰 #第一戦線

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●綴る縁か、なれの果てか
 秘境にあって、その桜は「冬桜」と呼ばれていた。
「どうなっているんだ……おい」
「まさか……動いて、来るのか……!」
 サクラミラージュ各地の秘境に咲いていた幻朧桜が、周辺の土地と共に「浮島」となって帝都に飛来した。幻朧帝が己が配下とするために呼び寄せたのか辺境の影朧達は、影朧達にあるまじき凄まじい戦闘能力を有していた。
 ——謂わば、淀みだ。
「それとも穢れか。どちらにしろ、宴には良い頃だろうな」
「お、お待ちください! 行かれるのですか? 貴方様が……!?」
 慌てふためく臣下達を前に、大柄な男は刀を手に取る。まさか『あれ』を斬るとでも言い出すつもりかと文官のひとりが顔を上げた。
「あそこで戦でも始めるおつもりですか!? 御身は、皇族なのですぞ……!」
「当たり前だろう? 皇族の務め、そなた達が良く口にするものだ」
 口の端を上げた皇族と言われた男は笑う。豪快な音は、常とは違う身なりで——白の衣に袖を通し、下ろしたままの髪を結い上げるとキン、と鯉口を切る。
「その無礼、一度は許そう。
 我の動きであれば、追っているのであろう? 我の旅路。我が行き先。
 それが彼処であっただけのことよ」
 最初の一振りを放ったときに比べ、黒髪には霜が降りた。長く、長く繰り返されてきた秘境への旅路が、今、露わになっただけのこと。
「殿下……!」
「これ以上、無為に恐れるでない。あれは、弔いの時を待つだけの宴の地よ」
 この俺が、刀を抜くに相応しい宴のな。

●果てにあるもの
「やぁ、君達。来てくれて良かったよ。
 サクラミラージュ各地の秘境に咲いていた幻朧桜『冬桜』と呼ばれるものが、どうやら周辺の土地と共に「浮島」になってやってきてるようだ」
 そう言ったのは、シリウス・クロックバード(晨星・f24477)であった。
「幻朧帝が手を入れたのか、浮島に乗った影朧達は影朧を越える戦闘能力を有しているんだ。
 冬桜の周辺の土地——浮島に巻き込まれた大地には、その土地の人々もいる。これに対応して、サクラミラージュの皇族達が出陣することになった」
 それは浮島を鎮める為の出陣。
 これまで、皇族達が密かに行っていた秘境への旅は、人目につかない冬桜だったのだ。
「彼らは人目を忍び、冬桜の元を訪れて『幻朧封じの儀』を今まで行っていたんだ。櫻花幻想界による幻朧帝の封印を維持するためにね」
 だからこそ、今回も彼らは出陣するというのだ。
「君達には、儀式に向かう皇族と一緒に現場に向い、儀式に協力してほしい」
 同道する皇族が行う『幻朧封じの儀』は、剣舞であるという。
「解放——彼に言わせれば、ここに根を張るべきものではないものを『剣舞によって斬る』という話だね」
 曰く、冬桜の周辺には霧のような淀みがあり、それが冬桜に因果となって侵食しているのだという。
「彼はその霧を、冬桜の封印の安定を剣舞で行う。君達にはその手伝いをしてほしいんだけど、ちょっと困ったこともあってね」
 件の、霧に似た淀みだ。
「霧は、その人が執着する何かの幻影となって姿を見せて、儀式を邪魔してくるんだ。
 心を乱さないように、儀式を続行するためには淀みを『送る』必要がある。君達には、儀式の場を保つ為にランタンを飛ばしてほしいんだ」
 淀みが、ここに根を張ることが無いように。
「とはいえ、幻影の方も厄介だからね。もしかしたら、君達の記憶にあるような幻影を見せるかもしれない」
 記憶に刻まれた何か、己が執着する何か——それが、たとえ自分が意識していなくても。
「姿をみせるだろう『最悪な結末』として」
 それは、何者かとの敗北の記憶かもしれない。
 或いは、手に入れられずに終わる記憶かもしれない。
「もしくは、己が手で決着をつけられなかった者の姿か」
 色の無い声でそう言って、ふ、とシリウスは静かに笑った。
「もしくは、限定のデザートを誰かに食べられてしまうような幻影、とかね」
 何が出てくるにしろ、送るためには一度、断ち切る必要がある。
「封印の儀の為に。浮島にここで根を張らせない為に。
 幻影は幻影でしかないからね。それが見せたものを、その思いを持ち帰るために断ち切るか、切り払うために断ち切るんだ」
 そうしてランタンを飛ばせば、儀式の場は維持できるだろう。皇族の舞を見届けることができれば、それで幻朧封じの儀は成る。
「どうか、支えてほしい。彼自身は、豪快なタイプだから、支える、なんていったら笑い飛ばすだろうけれど」
 でも、とシリウスは一つ言葉を切る。
「——……、彼は、この地でいつも故合って敵対した婚約者の幻影を見るそうだよ」
 それじゃ、行こうか。とシリウスはグリモアの光を灯す。
「あなたたちの行く道にどうか祝福を」


秋月諒
秋月諒です。
どうぞよろしくお願い致します。

このシナリオは戦争シナリオです。1章で完結致します。

●プレイング受付について
ざっくりとした雰囲気の導入は追加予定。
プレは公開時より受付。
同日にプレイングが多い場合、その日の中の採用数が減る可能性があります(締めきり的に)
再送はご自由にどうぞ。再送における優先などは特にありません。
書きやすいものを書いていく感じです。

●幻朧封じの儀について
霧を払い、剣舞を舞う皇族のサポートをしてください。
以下のどちらかを選択してください

①儀式場の為にランタンを灯して送る

②霧が見せる幻影、執着する・心に残る何かの「最悪な結末」と対峙し、ランタンを灯す
→対峙とランタン灯しどっちがメインか絞っていただければ。
 特に無ければ基本、対峙がメインです。
 買ってきたプリン食べられちゃう結末とか、敗北とか、黒歴史とか、自分の知らないところで起きた結末とか。間に合わなかった……とか。

●剣舞を行う皇族について
サクラミラージュの皇族・義雪(よしゆき)
刀を扱う豪快な性格の男。若い頃、故合って敵対することになった婚約者と斬り合い、勝利した。
ランタンは一度だけ飛ばし、後は儀式のための剣舞に集中している。

●プレイングボーナス
=============================
プレイングボーナス:皇族を護衛する/皇族の「幻朧封じの儀」に協力する。
=============================

●同行について
 複数の参加はお二人までとさせて頂きます。
 プレイングに【名前+ID】若しくは【グループ名】を明記してください。

 プレイングの送信日は統一をお願い致します。
 失効日がバラバラだと、採用が難しい場合がございます。

 それでは皆様、ご武運を。
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第1章 日常 『サクラ・スカイランタン』

POW   :    ランタンを飛ばす

SPD   :    ランタンを飛ばす

WIZ   :    ランタンを飛ばす

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●四条の桜
「——なぁ、随分いきなりだと思わんか?」
 冬桜が狂い咲いていた。はらはらと舞う桜が落ちては足元に溜まっていく。何れ、歩く道さえ覆うのだろうか。踏み込んできた男の足跡はとうに消え、霧のような淀みがあたりを覆う。
『   』
 淀みの向こう、見えた何かが立っていた。
 淀みの下、何かが倒れていた。
 地に伏したそれに立つ者が何を告げているかなど男には分からない。聞く気もない。
「無粋であろうになぁ、婚約者殿」
 斬り払う。舞の一差し、みせるように。
 男は——皇族たる男は、その一振りを舞として、霧を払って冬桜へと向かう。
「我が倒れ、お主が生きる。それが最悪の結末であったというのであれば、ふ、我もまだ青いな。
 これは、我とお主の真剣勝負であったというのに」
 許せよ、とただ一言告げて、二振り目と共に払い、舞う。足を引き、伏せた瞳は赤く輝き責務を乗せた。
「——これより、幻朧封じの儀を行う。
 手を貸してもらうぞ。猟兵よ」
 儀式場としての空間の維持のために、霧を送り——或いは、払うのだ。


●マスターより
 霧を払い、剣舞を舞う皇族・義雪(よしゆき)のサポートをしてください。
行動は以下のどちらかを選択してください。
プレイング上は数字だけがあれば大丈夫です。

①儀式場の為にランタンを灯して送る

②霧が見せる幻影、執着する・心に残る何かの「最悪な結末」と対峙し、ランタンを灯す
→対峙とランタン灯しどっちがメインか絞っていただければ。
 特に無ければ基本、対峙がメインです。
 買ってきたプリン食べられちゃう結末とか、敗北とか、黒歴史とか、自分の知らないところで起きた結末とか。間に合わなかった……とか。

 他詳細は、オープニングにあるマスターよりを確認してください。
栗花落・澪

執着…と言うのかわからないけど
僕は人に助けられるのが怖い
檻に閉じ込められていたあの頃
僕に救いの手を伸ばした人、皆殺された
今側にいてくれる、1人を除いて

だから、他人を頼っていいのかわからない
ううん…また僕のせいで失うのが怖くて
頼りたくない

そういう意味ではある意味執着とも言えるのかもしれない
きっと、簡単には変われない

だから、最悪な未来になったら
きっと震えるくらい怖い

でも、きっと大丈夫
僕には両親がくれた形見がある
それに…ちゃんとは覚えてないけどね
夢の中で、迎えに行くって…毎日約束してくれた男の人がいるんだ
1人じゃないから

沢山の人が死んでも
僕は大丈夫

だから断ち切って
想いを乗せてランタンを飛ばします



●花、実を結び
 遠く、鈴の音が聞こえていた。剣舞の音か。抜き払った刃に飾りでもあるのだろう。シャン、と一振り音が響き、斬り下ろす刃に音は無い。
「……あれが、鎮めの剣舞」
 ぽつり、呟くように告げたのは琥珀色の髪を揺らすオラトリオであった。ほっそりとした指先が、はらはらと舞う花弁に触れる。淡く色付くそれは雪に似て、触れた先で解けていく。
「――」
 瞬間、視界で何かが揺れた。立ちこめる霧の向こう、立ち竦む姿に栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は、足を止めた。
(「……あれは、僕だ」)
 動けずにいる自分。
 はた、はたと揺れる服は、今着ているものとはまるで違う。奴隷の頃の服であり、琥珀の瞳が瞬けば霧の向こうにあの日の惨状が見えた。
『   』
 誰かが呼ぶ。助けに来たと。
 誰かが叫ぶ。一緒にいこうと。
 その全ての結末を、今の澪は知っていた。
「これが、僕の執着……」
 澪は人に助けられるのが怖いのだ。檻に閉じ込められていたあの頃、澪に救いの手を伸ばした人は、皆、殺されてしまった。
(「今側にいてくれる、1人を除いて」)
 チビ、と自分を呼ぶ声を心の中に抱く。知らぬ間にきつく握りしめてしまっていた手が、爪の痕を残していた。
「だから、他人を頼っていいのかわからない」
 霧の向こうの景色が揺れる。あの日の自分を助けに――結果的に助けただけだという彼が、眉を寄せ、溜息をつく姿がみえる。その声すら、想像がつくのに霧が見せる幻影は澪の彼の声を伝えてはくれなかった。ただ、記憶の中にある言葉が全てで――きっと、帰ったら普通に聞こえる声。でも、だからこそ澪は怖かったのだ。
「ううん……また僕のせいで失うのが怖くて、頼りたくない」
 そういう意味では、ある意味、執着とも言えるのだろう。
「きっと、簡単には変われない」
 伏せた瞳と共に、髪に咲く金蓮花がはらはらと舞った。霧の中、失いそうになる色彩を残すように澪は翼をひらく。
『――……は、』
 幻影として映る人が笑う。手を赤く染めたまま、お前は行けとでも言うように。
「――ッ」
 手を離そうとする。そんな最悪な未来に――その幻影の齎した結末に、ひゅ、と喉が震えた。見たくないのに、足が動かない。どうしたら良いか分からなくて、助けたいのに手が届かない――今ならば、と思うのに上手くいかなくて、怖くて体が震えてしまう。
「僕、は……」
 あ、と声が震えて落ちる。その時だった。澪の手の中で、何かが光る。
「これは……桃色兎の……」
 魔除けのお守り。
 それは大切な母親からもらった御守りだった。顔も知らない人だけれど、確かにあたたかく優しい光が澪を包み込んでいく。
「うん。きっと大丈夫。僕には両親がくれた形見がある」
 ゆっくりと顔を上げる。祈るように手を組んで澪はオラトリオの翼を広げた。
(「それに……ちゃんとは覚えてないけどね。夢の中で、迎えに行くって……毎日約束してくれた男の人がいるんだ」)
 一人じゃ無いから、と澪は告げる。霧の向こう、最悪な結末を払うように。
「沢山の人が死んでも、僕は大丈夫」
 だから、断ち切ろう。この最悪な結末を。
 ゆっくりと澪は、空に手を掲げる。霧を払う一撃を――これから歩む道のりに何があっても、ひとりじゃないから。暗くは無いのだ。この道は。
「――さぁて、僕もランタンをとばそうかな」
 思いをのせて、空に捧ぐ。淡い光が空を満たすように――この地を守るように灯った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

阿夜訶志・サイカ

ほォ、ランタンに灯してきゃいいわけだな。
楽な仕事だぜ。

俺様の執着なんざ、酒・食いもん・博打と相場は決まって――

『逃げるな』

んだ、また借金取りか、編集野郎か――

『災禍から逃げるな』

ァア?
今更、自分の影のようなもんが見えやがる。
俺様はな、そっちを作るのは辞めたんだよ。
人に恐れ敬われる神の座に執着なんざねぇ。

なーんもなくなっちまえば、誰が俺様を敬う。
誰が酒を作る。煙草を。
どんなくだらねェ三文小説でも、終末世界を創造するよかマシだぜ。

祓い清めるなんざ俺様の業じゃねえ。
ナイフを、ぶん投げて、ブッ刺す。

てめェは其処にいな、神の力の残滓サンよ。
どうせ空気より軽い存在だ。
ランタンと一緒に、飛んでっちまいな。



●枯栄久しく
 鈴の音共に、刃が空を滑る音がした。ヒュン、と一振り、振り下ろす刃が因果を絶ち、取り直す構えがその影を払う。はらはらと舞い落ちる冬桜の花弁が、剣舞に沿うように揺れ――落ちていく。
「ハッ、こんだけありゃ、売れるかもなァ」
 派手な男の靴先が、花弁に沈んだ。足癖悪く、軽く蹴り上げたところで冬桜の花弁は甘く香り――消えていく。
「ケッ」
 甘さはあるが、口に放り込むにゃぁ向いてねぇ。口に入れれば大抵のものは一緒だが、と男はサングラスを軽く持ち上げた。
「向こうじゃ剣舞だ、宴だってんだろ? しけたもんだが……」
 色のついた視界ではなく、晒すオレンジの瞳で見た先の光景を阿夜訶志・サイカ(ひとでなし・f25924)は「面倒なもんだぜ」と言う。編集やらが追い掛けてくるには向かない場所だろうが、長居に昼寝にゃぁ向かねェ。尤も、悪夢の程度で寝心地が悪くなるような方でも無いのだが。
「ほォ、ランタンに灯してきゃいいわけだな。楽な仕事だぜ」
 冬桜の座する大地に漂う霧が淀みだという。鎮めの儀式は、冬桜を封じるものであると同時にこの霧を、因果たる執着が根を張ることがないように斬るのだという。
 故に、ひとは剣を以て舞う。
 しゃん、と響く鈴の音は皇族が舞う音か。大剣を背負った豪胆な男は、祭事服を纏い、腰の酒を刀身に吹きかける。
「ケ、ちょっとは寄越しやがれ」
 儀式用の酒に上手いも何も無いかもしれないが――まぁ、酒は酒だろう。はらはらと舞う花弁に沿って、足元這い上がるように来たものをサイカは踏む。砂利を弾くように落とした足から、するりと霧が逃げた。
「はァ? 踏むなってか?」
 めんどくせェ、と吐いた息ひとつ、サイカは件の霧を――這うように迫るものを見る。こいつは面倒くさいブツだ。結局、面倒くさいでしかないのだから楽な仕事だ。『此れ』が何をみせようが、どんな結末であろうがそれがどうしたというのか。
「俺様の執着なんざ、酒・食いもん・博打と相場は決まって――」
『逃げるな』
 声が、した。二度、三度反響するように響いた声に、サイカは胡乱げに視線を上げる。
「んだ、また借金取りか、編集野郎か――」
 一頁だって見てないんですよ、と泣きながら来た編集なら先週扉の向こうにやった。借金取りはどこに押しつけたんだったか。
『逃げるな』
 声は四度響いた。放っておけばそのまま、馬鹿みたいに繰り返してきそうな声に、ケ、とサイカは息を吐いた。
「おい」
『災禍から逃げるな』
「ァア?」
 それは、見知った姿をしていた。
 ざんばらに伸びた髪に、長く尾を引く黒の衣。その背に見えるのは鴉の羽根か、災禍の色か。羽織のように黒を背負ったそれは確かにサイカの――阿夜訶志・サイカの姿をしていた。
『逃げるな』
 己の影が告げる。逃げるなと。災禍の神たる事実から、存在から――災禍から、逃げるなと。
「俺様はな、そっちを作るのは辞めたんだよ。人に恐れ敬われる神の座に執着なんざねぇ」
 ハ、とサイカは薄く笑う。口の端を上げたそれは、いっそ露悪的でさえあった。聖者かと言えば誰も違うというだろう男の笑みは――だが、神の影となって出て来たモノに、その淀みに、執着と形づけられたものを断ずる。
「なーんもなくなっちまえば、誰が俺様を敬う。誰が酒を作る。煙草を」
 サイカは災禍であるが故に、万難では済まされぬ。雨に浚われた更地で泣くか、火に炙られた廃墟で灰に喉を焼かれて敬うか。そんな場所に人っ子ひとりいなくなれば、サイカの娯楽は消える。それは確かに人よりは神らしい傲慢さであり——同時に、文豪たる男の言葉だった。
「どんなくだらねェ三文小説でも、終末世界を創造するよかマシだぜ」
 ポケットに残っていた煙草に火をつける。ふぅ、と吐いた紫煙が薫り、幻覚の己に吐きつけた男は腰のナイフを抜いた。
「祓い清めるなんざ俺様の業じゃねえ」
 一歩、踏み込む。霧を踏みしめ、淀みを踏みしめ――執着を、踏みしめた男は、災禍の神たる名を過剰広告と嗤う男は、綴る言の葉と共にナイフを影へと投げつけた。
「てめェは其処にいな、神の力の残滓サンよ」
『災禍、か――……』
 災禍から逃げるなと、残滓は告げたか。或いはナイフを放つ男を――文豪を見てそう言ったのか。ケ、と吐きだした息ひとつ、サイカは一瞥だけを投げてランタンを手に取った。
「どうせ空気より軽い存在だ。ランタンと一緒に、飛んでっちまいな」
 塵となったか芥となったか。消え去った幻を乗せるようにサイカはランタンを灯す。とん、と手を離せば、淡い光と共に空に舞いあがった。くゆる、紫煙と共に空に届き――儀式場に、光が灯る。封印の全てを成す光だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴァニス・メアツ


過去の、今更覆せない終焉を結末と言うのであれば
最も悔やましき思い出が私の前に現れるのでしょう

幼馴染みの親友
スラムで共に育った孤児で兄弟同然
思えば空を見ようと私の手を引いたのは彼だった

初めて本物の空を見て、初めて見た終焉は彼の瞳に映る彼自身の最期
あの時、その意味を識っていれば…と今でも思う
幻覚だと思わずに彼と共に逃げれば良かったのに
現実となった終焉が、今、俺の前に再び幻影となって見えている
仮面の怪物に彼が斬り殺されたあの瞬間が

はぁ…(溜息
本当に厄介な幻影ですね
早いところ膾斬りにして下さいよ、この澱みとやらを
所詮、過去は過去
時は二度と戻らぬからこそ美しく残酷に光り輝くのだと――教わりましたからね



●save you from anything
 はらはらと舞い落ちる花弁が、大地を埋めつくしていた。冬桜。この地に在るべきではないそれは、空から降る雨のように花弁を散らし、大地に降りる。
「……これが冬桜ですか」
 それ自体、何ら不思議なものでは無かった。花は舞い落ちる。だというのに、さくり、と靴先が触れた花は妙な感覚を青年に齎す。
「……」
 それはエンディングを見たような、それに似た感覚であった。目に見える世界の他に、あと一つ。その先が視えるというよりは視させられるような感覚に――息を吐く。
「まったく」
 やれ、と落とす息は、旅芸人たる己へと向けたものだ。この地の桜だ。何があっても驚くようなものでもなく――だが、その一つ一つの発見を、青年は軽くは見ない。気負い過ぎて踏み込んだつもりは無いのだが――さて、少しの疲れでもあるのか。赤茶色の瞳を細め、ヴァニス・メアツ(佳月兎・f38963)は瞳に掛かる髪を弾いた。
(「どちらかといえば、からかわれるよりは、からかう方が好きですし」)
 ふ、と息を吐いて、顔を上げる。しゃん、しゃんと遠く聞こえるのは剣舞の為の鈴なのだろう。封印の儀式。剣舞を行う皇族は、舞という言葉には不釣り合いな体格に――だが、踏み込む足が、舞う一差しが場の空気を変えていくのをヴァニスは感じていた。
(「この封印というのは、場を制御する目的もあるのでしょう。花弁の枚数が減っている。ランタンの効果もあるのでしょうが……」)
 あの舞が、この地を正しく戻そうとしている。
「……」
 封印。
 馴染みのある言葉に吐きだした息を飲み込む。溜息ばかりなど己には向きもしない。そうあれかしと、ヴァニスは己を定めたのだ。そう決めて踏みだして、それから――……。
「そうでしょう。彼の他に現れるひとなどいない」
 霧の向こう『彼』が立っていた。その人影に、誰だと問う必要など無い。理由も無い。この地が、霧が人々の執着を、その最悪な結末を映すというのであればきっとあの日の光景だとヴァニスは分かっていた。
(「過去の、今更覆せない終焉を結末と言うのであれば、最も悔やましき思い出が私の前に現れるのでしょう」)
 それが、己の想像通りであったことに安堵など無く――ただ、暗澹たる想いが胸に滲む。
「……」
 二度、三度と薄く開いた唇が音を探す。彼の名を覚えているのに、忘れるはずなど無いのに紡ぎ出すことが出来ない。もう長く口にしていない名前は舌に溶けることも無いまま、ヴァニスの視界を青く染めていく。
「――」
 舞い散る花弁では無い――晴れ渡る青い空。あの日見上げた青空。
『ヴァニス!』
 幼馴染みの親友は、スラムで共に育った孤児で兄弟同然に育った。時には向こうが兄で、今日はヴァニスが兄で。何も気にせず、伸びた背くらいを話題にしていたあの頃、思えば空を見ようとヴァニスの手を引いたのは彼だった。
『空だ……!』
『――』
 それは二人で初めて見上げた「空」だった。城塞都市の中、簡単に見ることなど出来ないその青を探して、目指して手を繋いで上に、上に目指して向かった日、ヴァニスと親友が見たのは晴れ渡った美しい青空であり――……。
『……だな、ヴァニス!』
『――』
 そうしてヴァニス・メアツは初めて『終焉』を見た。
 彼の瞳に映る、彼自身の最期。悪夢のような光景は、ただの悪夢では無かった。疲れたから見たような白昼夢でも無くそれが真実であると――終焉であると知っていれば。
「あの時、その意味を識っていれば……」
 彼は生きていたのではないか。
 喉がひどく渇く。気が付けばきつく、ヴァニスは白い手を握っていた。爪の食い込む感覚が痛みを伝えてくる。それが、己への罰だと罪だなどと甘いことを言うつもりはない。
「幻覚だと思わずに彼と共に逃げれば良かったのに」
 現実となった終焉が、今、ヴァニスの目の前に見えていた。あの日の光景が幻影となって――血が、舞う。
『    』
 ゆらり、手が揺れた。ぐらりと倒れる細い体。仮面の怪物が振るった刃が彼を貫いて、笑っている。
「……」
 この血溜まりに、今であれば踏み込めるのに。
 この惨状に、今であれば対処できるのに。
 この光景に――あの時だって。
「――……識っていれば」
 肺腑の底から、全ての息を吐き出すような重い息が落ちた。にこにことよく笑う男の顔から、表情が消えていた。血溜まりはヴァニスの足元まで辿り着かない。まるで、今の自分と『彼』の間に線をひくように。
「はぁ……」
 溜息を落とす。その一息と共にヴァニスはゆるりと顔を上げた。
「本当に厄介な幻影ですね。早いところ膾斬りにして下さいよ、この澱みとやらを」
 手を出しはしない。その光景をこの目に焼き付けながら――他の誰にも見せることも無い。ただ、この死地の番人であるかのように立った男は舞い落ちてきた花弁に触れた。
「所詮、過去は過去。
 時は二度と戻らぬからこそ美しく残酷に光り輝くのだと――教わりましたからね」
 その言葉を合図とするように触れた花弁が消えた。ひとつ、ふたつ舞い落ちるばかりであった花弁が淡い光に飲み込まれるようにして――上がっていく。
「……空、ですか」
 淡く輝く桜花の向こう、いくつものランタンが空を彩っていた。夕暮れの色彩。その向こうに夜の藍がやってくる。最後の一振り、皇族の男が花弁を斬った。キン、と鋭い音を一つ響かせて――全ての霧が消える。
「――……」
 伏した友の名を紡ぐことはないまま。ただ、ほんの少し吹いた風がヴァニスの顔を隠した。空を見た男を、彼を、見送るように。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年09月10日


挿絵イラスト