帝都櫻大戦⑤~ランタン満ちる場所でのお茶会を
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――夜空を桜色に染めるランタンが、『冬桜』を照らし出すその場所で。
その青年の様な容貌をし人物はそっと嘆息をついていた。
「……すみませんね」
それは、誰かに聞かせる様にも聞こえる独り言。
それを紡いだ『皇族』の青年は少し遅くなりましたが、と言の葉を紡ぎ続けた。
「漸く、この儀式を行う時間が出来ました。……鎮魂のお茶会を」
その呟きと共に。
紅茶、抹茶等……様々なお茶会に使われるそれをその『皇族』……竜胆と人々に呼ばれるその男は用意した。
――それがまるで、鎮魂の儀式であるかの様に……。
●
「……成程ね」
――グリモアベースの片隅で。
その光景を恐らく目の当たりにしたのだろう北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)が誰に共無くそっと呟く。
その呟きを聞いた猟兵達が集まってくるのを見て、皆、と優希斗が静かに微笑む。
「帝都櫻大戦が始まると同時に起きた、『浮島』を鎮める儀式の1つが、今、正に行われようとしているのが俺にも視えたよ」
その優希斗の呟きに。
それぞれの表情を浮かべる猟兵達を見つめて微笑み、優希斗はその皇族は、と言葉を紡いだ。
「桜色のランタンに照らし出された、|櫻花幻想界《サクラミラージュ》の秘境の1つに咲いていた幻朧桜……『冬桜』を抱えた浮島を鎮める為に、1人の皇族が動き出したのが確認できた」
その皇族の名は、『竜胆』と言う。
猟兵達の中には、一度、或いは何度か接触したことのある|櫻花幻想界《サクラミラージュ》の皇族の1人だ。
「皆にはこの浮島を『鎮める』為の竜胆さんの鎮魂の儀に協力して欲しいんだ。竜胆さんの儀式を邪魔する可能性のある者達を警戒して護衛しても良いけれど……護衛よりは、鎮魂の儀そのものに協力して貰った方が、より効率よく『浮島』を鎮める事が出来る様になるからね」
――因みに、竜胆が鎮魂の儀として行うのはお茶会らしい。
互いのお茶汲み技術を競い合うも良し、単純に竜胆が入れたお茶を楽しむも良し。
そうやって竜胆に協力することこそが、この儀式においては最善だと優希斗が続ける。
「まあ、実際に如何するかは現場に向かうことになる皆に一任するけれどね。いずれにせよ、ゆっくりとお茶会を楽しむ、或いは楽しめる様な環境を作って貰えば良い。どうか皆、宜しく頼む」
その優希斗の言の葉と共に。
――蒼穹の風が吹き荒れて……それに包まれた猟兵達がグリモアベースから姿を消した。
長野聖夜
――その鎮魂の儀の果てには。
いつも大変お世話になっております。
長野聖夜です。
と言うわけで、帝都櫻大戰・皇族編のシナリオをお送り致します。
此方のシナリオのプレイングボーナスは下記となります。
=============================
プレイングボーナス:皇族を護衛する/皇族の「幻朧封じの儀」に協力する。
=============================
但し、このシナリオでは『幻朧封じの儀』に協力した方が効果が高いかも知れません。
このシナリオは下記タグの拙著シリーズと設定を多少リンクしております。
ですが旧作未参加者でも、参加は歓迎致します。
参考タグシリーズ:桜シリーズ
このシナリオに登場する皇族『竜胆』は下記URLの様な容姿です。
URL:https://tw6.jp/gallery/?id=196915
尚、このシナリオの竜胆はお茶会を儀式としております。
もし、UCで表現するのであれば『紅茶の時間』が一番近いでしょう。
尚、このシナリオでは戦闘は一切発生しない上に、採用人数を少な目にして完結する予定です。
プレイング受付期間はオープニング公開後にタグ、マスターページにてお知らせ致しますので、ご確認下さい。
――それでは、良きお茶会を。
第1章 日常
『サクラ・スカイランタン』
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POW : ランタンを飛ばす
SPD : ランタンを飛ばす
WIZ : ランタンを飛ばす
イラスト:葎
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ウィリアム・バークリー
お久しぶり、というほどでもありませんか、竜胆さん。
帝都もすっかり様変わりしてしまって。帝都桜學府の皆さんも休む間もなく、戦いに飛び込んでるんじゃないですか?
このお茶会が竜胆さんなりの戦いなら、ご一緒します。
「お茶を淹れる」のは、ぼくも一家言あるくらいでして。普段は妻が入れてくれることが多いですが、時々はぼくが入れて二人で飲むこともあります。
ただ、茶葉の産地は世界ごとに違うので、覚えるのに苦労しますね。
とりあえず、これなら外れは無いということで、印度のダァジリン茶葉を用意しました。お茶の淹れ方自体はどこでも同じようなものですね。たっぷりのお湯でじっくり蒸らす。
お待たせしました。お試しください。
栗花落・澪
お茶は好きだよ
持ち込みも大丈夫?
大丈夫なら桜紅茶の茶葉と
お手製薔薇のアップルパイを、あらかじめ切り分けたうえで持ち込み
アップルパイはお好きですか?
良ければ竜胆さんもどうぞ
自分が飲む際に1番好きな淹れ方で桜紅茶を淹れて
アップルパイと共に竜胆さんに差し出す
紅茶用のジャムもあるんです
桜ジャム、風味が物足りなければ溶かしてどうぞ
代わりに僕の分は竜胆さんに
竜胆さんの好みで、淹れて欲しいな
ランタンも含めて大きな桜のイルミネーションのようで
この場合はライトアップが正しいのかな
普通にお花見しながらのお茶会も風流でいいけど
そこにランタンの煌めきが追加されるとより幻想的で
また少し違った良さがあるね
とっても綺麗
●
――|櫻花幻想界《サクラミラージュ》某所、浮島。
チラチラと周囲を美しく彩る桜色のランタンに照らし出された冬桜の姿を見て、竜胆はそっと息を漏らす。
(「先日の戦いの影響で、此方に来るのが遅れてしまいましたね……」)
無論、それも民達を守る為。
であればこそ、その事に関して自らの判断が必ずしも正しいとは限らないが、間違っていたとも思えない。
そう、内心で思索に耽りながら、ティーセットを用意していた……その時。
「お久しぶり、と言うほどでもありませんね、竜胆さん」
不意に蒼穹の風と共に背後に現れた気配が誰かを感じ取り。
竜胆が其方を振り返り、そっと穏やかな微笑みを浮かべている。
「そうですね、ウィリアムさん」
そんな竜胆の返事を聞いて。
「帝都もすっかり様変わりしてしまって。帝都桜學府の皆さんも休む間もなく、戦いに飛び込んでいるんじゃ無いですか?」
そうウィリアム・バークリーが問いかけてくるのに、そうですね、と竜胆が首肯する。
「とは言え、帝都桜學府の本部である青山が、嘗て幻朧帝を封じた、失われし種族の英雄、ソウマコジロウによって支配されているのです。しかも通信の要所たる、港区にも|超古代種族《エンシェント・レヰス》が出現している以上、今、|皇族《・・》の私に出来る戦いは、これ位ですから」
その竜胆の呟きに。
成程、とウィリアムが1つ首肯して。
「このお茶会が皇族としての竜胆さんなりの戦いと言う事ですね。それでしたら、ご一緒しましょう」
そうウィリアムが言葉を紡いだ……その背後から。
「私もお茶、好きなんだー」
ひょっこりと言った様子で。
何処となく儚げな、薄桃色の袴の裾を風に靡かせる様にしながら、姿を現したのは一対の天使の様な翼を持った男の娘、栗花落・澪である。
「因みに、持ち込みも大丈夫なのかな?」
そう続けて問いかける澪のそれに。
ええ、と穏やかに微笑んだ竜胆の笑みを見て、ウィリアムがこう見えて、とポン、と軽く自分の胸を叩いて。
「ぼくも『お茶を淹れる』事には一家言ある位ですので。しっかりと堪能して貰いますよ、竜胆さん」
そう澪に続けてウィリアムが伝えるのに。
「楽しみにしておりますよ、ウィリアムさん、澪さん」
そう竜胆が穏やかに首肯したのだった。
●
「僕が用意してきたのは、桜紅茶の茶葉ですね」
そう告げて。
自分が飲む際に1番好きな淹れ方……桜紅茶の茶葉をポットの中で蒸らしながらの澪の様子を見て。
「やっぱり、淹れ方は大体何処でも同じなのですね。とは言え、茶葉の産地や、その世界の環境ごとの違いはありますから、茶葉の種類を覚えるのには苦労しますが」
そう呟きながら、取り敢えず外れは無いであろう、|櫻花幻想界《サクラミラージュ》産の印度のダァジリン茶葉を用意するウィリアム。
それをティーセット『サニー・アフタヌーン』備え付けのポットに入れ、たっぷりのお湯でじっくりと蒸らしていく。
澪とウィリアムが用意したティーセットを見て、竜胆がそっと微笑んでいると。
「早々、僕、これも持ってきたんですよ。竜胆さんやウィリアムさんは、アップルパイ、お好きですか?」
そう軽く小首を傾げながら澪が、何処からともなくケーキ箱を取り出してその蓋を開けると。
そこには綺麗に3等分に切り分けられた未だ焼きたてと言った雰囲気をも醸し出す澪お手製の薔薇のアップルパイがあった。
「成程。良い匂いですね」
そう頷くウィリアムのそれに、竜胆もまた優しく微笑みを浮かべて。
「アップルパイは好きですね。もし宜しければ頂けますか?」
そう告げる竜胆のそれに良かったです、と微笑んで頷いた澪が綺麗に切り分けられたアップルパイを3枚の桜色の小皿に取り分けて差し出した。
尚、桜柄模様のティーカップは2つ。
(「竜胆さんとウィリアムさんの分だからね、この桜紅茶は」
そう考えつつ桜柄模様のティーカップに桜紅茶を注ぎながら、澪が懐から取り出したのは……。
「これ、紅茶用のジャムなんです。桜ジャム、風味が足りなければ溶かしてお2人ともどうぞ」
そう告げて、桜ジャムを詰めた小瓶を指し示す澪のそれに。
「ありがとうございます」
と竜胆が軽く礼を告げ、桜ジャムを1匙入れて、そっと飲む。
ほんのりとした桜の香りの漂うフルーツの様な柔らかな甘みを感じさせるそれに竜胆が舌鼓を打っている所に。
「普段は妻が入れてくれることが多いですが、時々、ぼくが入れて2人で飲むこともありますので……とそろそろですね」
たっぷりのお湯でじっくりと蒸らしたダージリンを『サニー・アフタヌーン』備え付けのポットから、ティーカップにウィリアムが注いだ。
世界で最も高級なブランドとして名高きダージリンのフルーティーな香りが、桜紅茶とはまた異なる楽しみを感じさせられ、此にもまた、竜胆が一口口を付けて、ほう、とそっと息を漏らした。
「この何処か心穏やかになる味は、やはりダージリンだけはありますね。澪さんが淹れて下さった桜紅茶のほんのりとした初恋を思わせる甘味ともまた少し違う柔らかさ……どちらも甲乙つけがたい一品です」
そう告げて。
澪が用意した薔薇のアップルパイを丁寧に頬張り、口元を緩める竜胆の姿を見て、澪が折角ですし、と言葉を続ける。
「僕が用意したのは、桜紅茶ですが。代わりにと言っては何ですけれども、竜胆さんに僕の分を淹れて頂いても構いませんか? 出来れば、竜胆さんの好みの紅茶をです」
そう言って、桜模様の空のティーカップを自分の前に置いた澪のそれに。
ダージリンを一口啜りつつ、そうですね、とウィリアムが相槌を打った。
「ぼくも折角ですし、竜胆さんのお茶を楽しませて欲しいです。どうでしょうか?」
そのウィリアムの確認に。
勿論ですよ、と竜胆が微笑み、丁度、と。
「お湯も丁度良い塩梅になりましたし。それでは僭越ながら私も紅茶を1つ、用意させて頂きましょう」
そう話を続けてから。
さりげなく懐から取り出した茶葉をポットに落とし、そこにそっとお湯を注ぐ。
それからじっくりと蒸らして出来上がった紅茶を、取り出したほんのりと温かみの残ったティーカップに注ぐ。
その水色は明るい深紅で、桜色の幻想世界の中でも、美しく灯った暖かな炎の様にもウィリアムや澪には思える。
けれども、それよりも何よりも特徴的なのは、花のような優雅な甘い香りだ。
まるで、この桜ランタンの花の香りを優雅に照らし出すかの様に。
「錫狼のウバです。もし宜しければ、如何でしょうか?」
そう微笑む竜胆のそれに、先程ウィリアムのダージリンを一緒に飲んでいた澪と、ウィリアムが口に含む。
――その優雅で甘い香りや、まるで周囲のランタンを照らし出す灯火の様な美しさと共に、口腔内に広がるのは、切レ味の良い渋み。
その渋みは先程澪が用意した薔薇のアップルパイや、ウィリアムも共に含んだダージリンの甘味に程良い刺激となり、口腔内で新たな旨味と化して、それぞれの口の中を満たしてくれていた。
三大紅茶の1つであるダージリンと同じウバ……最高級の紅茶葉によるそれは、深い充足感をウィリアムや澪にも与えてくれている。
そんな、竜胆の好み……『他者の味と程良い調和により、更により旨味を引き出す』味を感じて、澪が周囲のランタンを見回しながら微笑んで。
「まるで、ランタンも含めた大きな桜のイルミネーションの様な、ライトアップされたこの場所でのお茶会なんて……何だかより幻想的で違った良さがありますね。僕は、こう言うお茶会もとっても綺麗で、好きですよ」
その澪の率直に漏らした感想を聞いて。
「少しでもそう感じて、お楽しみ頂けた様なら幸甚です」
そう微笑んで首肯する竜胆のそれに、ウィリアムと澪は微笑で返した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
稲垣・幻
こうして異世界の方とお茶で語り合う時が来るとは
10年前の自分にはとても信じられないでしょうね
はじめまして、竜胆さん
お茶に魅せられ
その魔法の一端を扱う者として
微力ながらお手伝いさせていただきますね
今回の為にアレンジした茶葉を持参します
ダージリンのセカンドフラッシュに干し林檎で味付け
香りづけにカミツレ、レモングラス、
見た目にアラザンを加えて
中で白い花びらと銀の輝きが舞う耐熱ガラスのティーポットを示し
銀の雨降る世界より、幻想の桜の世界へ
同じ36の世界に連なるものとしての親愛と友誼を
この一杯に込めて差し出します
こちらも竜胆さんのお茶をいただきますね
きっと言葉よりも雄弁にその人柄を語ってくれるものだから
●
――その桜色のランタンに彩られた『冬桜』とそこに居る竜胆を見つけて。
「こうして、異世界の方とお茶で語り合う時が来るとは……10年前の自分には、とても信じられないでしょうね」
そう酷く感慨深げな、そんな口調で。
黒髪で、黒い瞳の何処か穏やかな物腰の青年……稲垣・幻が誰に共無くポツリと呟く。
その呟きに気が付いたティーセットにお湯を注ぎティーセットを温めていた竜胆が興味深げに幻の方を見て。
「異世界……ああ、成程。例えば、『ビームスプリッター』の言っていた、『デビルキングワァルド』や、『サイキックハァツ』の様な世界のことですね?」
そう問いかける様に告げてくる竜胆のそれを聞いた幻は、穏やかに微笑み、1つ首肯。
「私は、『シルバーレヰン』と言うこの36の世界の1つにある、茶葉専門店の1つを預かる者です」
本来はマヨイガ結社の1つではあるが、それを今、此処で竜胆に説明したところで、然程意味は無いだろう。
今、此処で最も重要なことは……。
「私も、お茶に魅せられ、その魔法の一端を扱う者として、貴方の鎮魂の儀のお手伝いをさせて頂くことです。宜しくお願い致します、竜胆さん」
そう微笑む幻のそれに。
宜しくお願いします、と丁寧な首肯と一礼を返す竜胆を見て、幻が胸を撫で下ろし。
(「お茶に魅せられ、お茶を愛する世界を越えた同好の士として、特別な紅茶をお持ちした甲斐がございました」)
そう内心で呟く幻の背を後押しする様に、ランタンが風に靡いてふわりと揺れた。
●
Fortune Bringer。
愛用の茶道具を幻が一式用意する。
大人数にも対応できる代物だが、今、此処にいるのは自分と竜胆の2人きり。
(「2人で互いのお茶を頂き、お互いの親愛と友誼を深め、そして互いを理解する……」)
そんな状況で、自分が用意できる紅茶は此しかあるまい。
そう思考を進めた幻が、初夏に摘まれたセカンドフラッシュのダージリンの葉を用意して、先ずはそこに干し林檎を加えて少し甘みを加え。
続けて香りづけにと、Add Arrangementで各種取り揃えられた香草の中から、乾燥したカミツレとレモングラスを細かく切ってダージリンの葉に添える様に混ぜる。
「見事な手際ですね」
そう感嘆の言葉を紡ぐ竜胆に、いえ、と幻が何処か穏やかだが誇らしげな微笑を浮かべ、用意した茶葉にお湯をゆっくりと注ぎ、ポットの中で暫く蒸らす。
――ふわり、ふわりと桜色のランタンが何かを待ちわびるかの様に淡く輝く。
そんなランタンの灯りを眺める幻と竜胆の間に沈黙が過ぎていくが、別に不快なものでは無い。
(「そろそろ、頃合いですね」)
その沈黙に暫し身を委ねていた幻だったが、自らのポットの注ぎ口から漂う青リンゴを思わせる新鮮さと、干し草とレモンの様な温もりを感じさせるそれが、ダージリン本来のマスカットの香りと調和して、何処か蕩ける様な優しく甘い匂いを漂わせ、鼻腔を擽る。
そんな馥郁たる香りを漂わせ始めた中で白い花弁と銀の輝きが舞うその耐熱ガラスのティーポットから、ゆっくりと同様の輝き伴うカップに紅茶を注ぐ幻。
芳醇な香りが優しい微風に乗って周囲に満ちていくその間に、カップに注いだ赤味の薄い、オレンジの液体の上にそっとアラザンを1粒まぶす様に乗せる幻。
水面が淡く薄く一瞬波打つその姿は、香りと色合いだけでも飲む者達の目と鼻を楽しませてくれる。
「銀の雨降る世界より」
波が静まった紅茶と自らのティーポットを指し示し。
そう朗朗と優しく歌を口ずさんだ幻が、ティーカップをそっと竜胆の前に差し出して。
――幻想の桜の世界へ。
万感の思いと共に差し出したそれに竜胆が一礼して紅茶を手に取り、ゆっくりと啜る。
――林檎の甘く優しい酸味と、セカンドフラッシュのダージリン自身が持つマスカットフレーバーの甘き調和が口一杯に広がっていき竜胆はほう、と息をついた。
「見事なお手前ですね。ありがとうございます」
「いえ、お気に召して頂けたのでしたら幸いです、竜胆さん」
その幻の柔和な笑みに微笑みを浮かべ。
「この様な紅茶を頂けるのでしたら、私も少しでも良いものを返杯させて頂きますね」
そう穏やかに告げる竜胆のそれに、ありがとうございます、と首肯する幻。
そんな幻にそっと微笑み、竜胆が取り出した茶葉は、幻と同じくダージリン。
そこに桜葉と幾種類かのチェリーを入れ、ゆっくりと蒸らされたその何処か櫻花を思わせる水色のそれから漂うのは甘く優しく鼻腔を擽る温かな香り。
そこにちょこん、と桜の花弁が水面を飾るの様子をランタンが淡く照らし出す。
影朧と呼ばれる存在をも優しく包み込み、新たなる魂へと転生させていくと言う、本来の幻朧桜の優しさそのものを体現するかの様なそれを見て、静かにそれを舌で転がす幻。
(「此は……」)
爽やかでありながらも、しっかりと残る優しき渋みは、まるで大樹の様に寄り添う優しさと、その地に根付き続ける為の強さや想いの深さを体現しているかの様。
――それこそが、彼の在り方なのであろう。
大樹の様に人々や影朧……救える者達を救い守る事を願い、行動する深き心と。
この地のランタンの様に常に人々を見守り、永遠に咲き誇り続ける幻朧桜……当たり前の様に誰かに寄り添うことを願うその想いを抱いた……。
その深く優しく、気高い……そんな人柄を感じさせるその味を紅茶から感じ取り、そっと幻が竜胆に向けて微笑みを向けた時。
「数多ある異世界……遠き、遙かなる場所にある銀の雨降る、|櫻花幻想界《サクラミラージュ》とは異なる理持つ、遠き世界の同胞よ。貴方と数多ある形こそ違えど同じ世界に連なる者の1人として、親愛と友誼を結べたこと、深く感謝申し上げます」
そう深々と一礼する竜胆のそれに。
「それは私もです、竜胆さん。此度は良き時間を共に過ごさせて頂き、誠にありがとうございました」
そう深々と返礼する幻と互いに顔を上げて、申し合わせた様に2人は笑った。
大成功
🔵🔵🔵
ユリッド・ミラベル
アドリブ・連携歓迎
竜胆さんの立場が「偉い人」というのは理解しているので、他の参加者の方達も含めて普段よりも口調は畏まり気味
(鎮魂、か。灯りを送るのも、茶会を開くのも供養の一例だって聞きかじった気がするけど、あんまり深く踏み込み過ぎてもな)
ランタンの景色や提供されているお茶を楽しむ。
が、純喫茶の営業が本業故に、次第に指定UCを活用して参加している人達の給仕側へまわる。
「宜しければ此方は如何でしょうか」
「もしご希望が御座いましたら承ります。紅茶が一番慣れていますが、それ以外でもお好きなものをどうぞ」
藤崎・美雪
他者絡みアドリブ大歓迎
指定UCはほぼ演出
まあ、私は鎮魂の儀の協力一択だな
むしろ、竜胆さんとお茶を楽しめるなら協力するしかない(断言
というわけで
竜胆さん、ここは儀式に協力致そう
いや、それより…ここでお茶淹れ勝負を申し入れる(唐突感満載
我ながらどんな勝負やねんとは思うがな!
用意するのは私のお店で出している紅茶の茶葉
まあ|櫻花幻想界《サクラミラージュ》ではなくUDCアースの茶葉だが
もちろん、ポットもカップもとっておきの品だ
…と言いながら淡桜のティーセット(アイテム欄参照)をお出ししよう
実は水色が解りづらいのが難点だが、お気に入りなのでな
後はお湯を沸かしてポットとカップを温めてから
「お茶を淹れる」で丁寧にお茶を淹れてお互い味を確かめ合おう
最後は勝負関係なくお茶を楽しむことになるだろうけどな
…振り返ってみると
竜胆さんと関わる過程で沢山の影朧を目にしてきた
その中には、転生の輪廻に乗った魂もあれば、そうでない魂もある
竜胆さんは…『浮島』を鎮めるこの儀式を通して
それらの魂も鎮めたいのだろうか
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん
やはり、竜胆殿も動きますよねー。
ですから…私も来たんですよー。浮島を鎮めることが、勝利の一歩ですからー。
抹茶もらいますねー。ふふ、こうして眺めながら…というとこっちになるんですよー。
独特の苦みとか…好きなんですよね。陰海月も抹茶好きなんですよ、意外ですよねー。
幻朧桜とランタンを、この季節に見るのは贅沢とも思えますねー。
※楽しむ孫的存在
陰海月「ぷきゅ!」
抹茶、美味しい!この苦みは好き!
フェル・オオヤマ
・心境
鎮魂の儀…ね。了解!
竜胆さんの行う儀式を成功するためにも協力するよ!
…とはいえ、皇族の人とするお茶会…すっごく緊張するなぁ…。
こういう事には不慣れだからか、緊張しています
そういやあの時は街の復興作業や調査をしていたので私の自己紹介はしていませんでしたね。
私はフェル。フェル・オオヤマ。今後ともお見知りおきを。
と自己紹介をしておきます。
そして可能であれば以下の事を会話しながらお茶会に参加します
先日のデモノイドによるテロルの事
今起こってる戦争の事
私たちも|猟兵《超弩級戦力》としてこの戦争を一刻も早く終わらせれるよう頑張りたい
他キャラとの連携・アドリブ歓迎
文月・統哉
竜胆さんがお茶会を開くと聞いて手伝いに。
折角だしお茶を戴きながら、皆でゆっくり話も出来たら嬉しいな。
竜胆さんは、俺達猟兵の事をどれぐらいご存知なのだろう。
幾つもの世界で活動している事はもう知ってると思うけど、
俺が生まれた世界はアルダワ魔法学園、魔法と蒸気機械技術が発達した世界だよ。
今日はお茶菓子にと、故郷のお菓子も持ってきたんだ。
蝶の形のパイはふんわりサクサク、優しい甘さで美味しいよ。
でも気を抜くと、ふわふわと勝手に空を飛び回るから、食べる時には気をつけてね。
飛んでるパイを捕まえるにはコツがあるんだ。
こうしてお茶のカップを掲げたら、カップの縁に止まってくれるよ。
冬桜にも、楽しんで貰えたらいいな
●
――桜色のランタンが、煌々と『冬桜』を照らしているのを見て。
「やはり、竜胆殿も動きますよねー」
そうぼそり、と呟いたのは馬県・義透……の筈だが。
「おや、義透殿? 何やらいつもと口調が違う様でござるが」
そう竜胆の鎮魂の儀に協力する為にやってきたフェル・オオヤマからの指摘を受けて、そう言えばーと義透がのほほんと応えている。
「オオヤマ殿が私とお会いするのは初めてでしたかねー。いつも『我等』がお世話になっておりますー。私は、忍びで、義紘と言うのですよー」
そう義透と言う人格術式を構成する四悪霊が1人――『疾き者』外邨・義紘がのほほんとした口調で告げるのに、フェルが成程、と首肯を1つ。
「義紘殿と言うのでござるか……拙者、フェルと言うでござる。しかし、忍び……忍者なのでござるなぁ」
等としみじみと言うのは、忍者と言われると、デウスエクス『螺旋忍軍』と|もう1つの世界《ケルベロスブレイド》で戦った記憶が掘り起こされるからであろうか。
そんな事をちらりと思うフェルの様子をオレンジの瞳で見遣りながらユリッド・ミラベルがそっと内心で嘆息を漏らした。
(「鎮魂、か。灯りを送るのも、茶会を開くのも供養の一例だって聞き囓った気もするけれど……」)
とは言えそれについてあまり深く踏み込んだ所で、何か得るものがあるのであろうか。
そう考えて、取り敢えずこれ以上深く突っ込みを入れるのは無粋であろうと結論づけるユリッド。
そんなユリッドが何かを飲み込む様にしている様を見ながら、それにしても、と文月・統哉が話し始める。
「竜胆さんがお茶会を開くんだね。いつも色々と忙しくしている方でもあるし、どうせなら皆も含めて一緒にゆっくり話が出来ると良いな」
「寧ろ、竜胆さんがお茶を楽しめるというのであれば協力するしか無い」
そう統哉の言葉を引き取る様に断言したのは藤崎・美雪。
普段、比較的冷静(ツッコミモードの時除く)で思慮深い輝きを伴っている筈の紫の双眸が心なし、爛々と燃えている様に思えるのは気のせいであろうか。
「なんせ、私もUDCアースで喫茶店を営む身。此でもお茶淹れには一家言あるのだ。それこそ竜胆さんにお茶淹れ勝負を申し入れてやる程にな!」
「何か凄いこと言っていませんか、あなた!?」
その美雪の発言と闘志を感じ取り、|櫻花幻想界《サクラミラージュ》で純喫茶『桃兎』を営むユリッドが少し驚愕した様に目を見開く。
「み、美雪殿が何だか物凄く生き生きとしていらっしゃるでござるな……」
フェルもその美雪の熱に当てられる様に銀の瞳を白黒させているのにも構わず……。
「と言う訳で竜胆さん、いきなりだが、貴殿に此処でお茶淹れ勝負を申し入れる!」
――ビシリ! と。
そう言って何故か背中に炎を背負っている様にも見える美雪が、正々堂々桜色のランタンに照らし出されながら次のお茶会の準備を整えていた竜胆にそう突きつけると。
「若いって良いですねー。まあ、それでしたら私達もそのお茶淹れ勝負とやらの御相伴にあずかるとしましょうかー。浮島を鎮めることが、勝利の一歩ですからねー」
そうのほほんと動じずに告げる義透のそれに、何だかなぁ、と言う表情をユリッドが浮かべるのであった。
●
「お茶淹れ勝負ですか。成程、中々面白い趣向ですね、美雪さん」
そんな美雪の『お前、何言ってんねん』と突っ込まれそうな唐突な勝負宣言。
無論、美雪も我ながらどんな勝負やねん! と自身の発言に自ツッコミをしている訳だが、竜胆は全く動じない。
寧ろ、優雅さと言うか、穏やかながらも不敵な何かを感じさせる笑みを浮かべている。
「ええと、竜胆様、もし宜しければ何か私もご用意致しましょうか? 因みに私が一番慣れておりますのは紅茶ですが、それ以外でもお好きなものを」
そうやや畏まった口調で問いかけるユリッドのそれに。
「おや、貴方は……」
「ああ、申し訳ございません。私、純喫茶『桃兎』と言う喫茶店を|櫻花幻想界《サクラミラージュ》にて経営させて頂いております、ユリッドと申します」
その竜胆の問いかけに、ユリッドが応えるのに成程、と竜胆が首肯して。
「それではユリッドさん。貴方にも美雪さんからの『お茶淹れ勝負』に参加して頂きましょう。統哉さん、義透さん、それから……」
そう竜胆が言葉を紡ぎ、一旦、移動させていた目を止めたのは、フェルの前。
そんな竜胆の様子に気が付いたフェルがそう言えば、とその場で紅蓮のドラグ・クロスの両端をつまみ、カーテシーを1つ。
ただ、そのカーテシーをする姿は、緊張のあまりか、がっちがっちではあったが。
「拙……私は、フェル・オオヤマと言います。先日の一件では、町の復興作業や調査に当たっておりましたので、自己紹介をしておりませんでしたね」
そんなフェルの堅苦しい挨拶を聞いて。
ああ、と竜胆がそっと微笑み首肯を1つ。
「雅人から報告は受けております。フェルさん、あの時は統哉さん達共々、お力をお貸し頂き、誠にありがとうございました」
そうペコリと穏やかに微笑んで一礼する竜胆のそれに、フェルがはい、と首肯を1つ。
「さて、フェルさんやユリッドさんの挨拶も済んだ事だし、覚悟は良いな、竜胆さん!」
そう勇ましく叫んで指を突きつける美雪のそれに、竜胆がええ、と再び柔和な笑みを不敵なものへと戻して頷くのに。
「ニャハハ。これは、ゆっくり話すよりも先に勝負が始まっちゃう雰囲気だね」
そう笑ってポリポリと頬を掻く統哉の呟きに。
「まー、それは良いんじゃないですかねー。ふふ……このランタンの景色を眺めながら、竜胆殿や藤崎殿、ユリッド殿が淹れてくれたお茶を私達が楽しむ……正しく竜胆殿の執り行う鎮魂の儀に相応しい感じですしねー」
そう義透がのほほんとした笑顔の儘に統哉の言葉に反応するのに。
「ぷぎゅ!」
何時の間にか姿を現していた義透の陰海月が何だか嬉しそうに無数の触手をヒラヒラと振るわせたのだった。
●
「と言う訳で、行くぞ! 私の特製スペシャル紅茶!」
そう何かノリノリで叫びながら。
UDCアースにある自身の喫茶店で出している紅茶の茶葉を取り出す美雪。
その目前には、お気に入りの淡桜のティーセットが置かれている。
(「まあ、私が使うのは|櫻花幻想界《サクラミラージュ》ではなく、UDCアースの茶葉なのだがな」)
まさか、その前にシルバーレヰンで取られたのであろう、紅茶の茶葉で竜胆が紅茶を頂いているなんて事、美雪が知る由も無く。
その一方で。
「それでしたら、私は|櫻花幻想界《サクラミラージュ》の紅茶の茶葉を使用させて頂きましょう」
なし崩し的に本業である純喫茶の営業の習慣か、|櫻花幻想界《サクラミラージュ》の紅茶の茶葉を用意するユリッド。
一方で、竜胆も直ぐに紅茶淹れバトルの臨戦態勢を取る……その前に。
「ああー……良い香りですねー」
「ぷぎゅ! ぷぎゅぎゅ!」
座布団に居住まいを正して座り込んだ義透に対して、竜胆が自ずから抹茶を淹れていた。
その竜胆の淹れた抹茶を抹茶茶碗からまったりと飲んで義透が完全に寛ぎ。
その傍には、まるで『抹茶! 大好き!』と言う様に触手で抹茶茶碗を抱えて楽しそうな鳴き声を上げる、陰海月の姿もあった。
「お気に召したようでしたら何よりです。さて……それでは改めて、次は紅茶を淹れるとしましょうか」
「ニャハハ! そうしたら俺は皆で楽しく摘まめる様にお菓子を用意しておくよ!」
竜胆が不敵に笑って懐から紅茶の茶葉を用意する姿を見ながらそう告げて、近くに腰を落ち着けてクロネコ・マジカルハットの中をごそごそと探る統哉。
「……な、何か違う意味で、戦争が起きている様な気がするでござるよ……」
緊張も含めて気合いを入れて丁寧に対応しようと心に誓っていた筈のフェルが、思わぬ展開に気を削がれ、取り敢えず手近に用意されていた座布団に腰を落ち着けつつ、竜尾を所在なさげに振りながら何とも言えない表情を浮かべている。
見事にギャラリー兼、採点者に認定された3人の超弩級戦力達の事はさておき、美雪はせいや! と気合いを入れてお湯を沸かし始めていた。
(「先ずは湯沸かしからなのか……!」)
内心でユリッドがそんなことを思うが、けれども美雪は気にしない。
そして、世界こそ違えど、同業者だと言うのであれば、負ける訳にも行かない。
と言う訳でストレートティーを新しく用意するべく湯を沸かし始めるユリッド。
無論、竜胆も既にお湯を沸かし始めている。
そんなこんなでそれぞれに湯を適正な温度(100℃)迄温めたところで、3人の紅茶職人が、それぞれに用意した茶葉を愛用のポッドへと落としていく。
(「UDCアース産の紅茶の茶葉を使うのは私だけだ、これは不利か……?! いや、その程度で私の喫茶店店主根性は折れん……!」)
「私は、今回は此方の茶葉で行きましょう」
「……成程。竜胆様があの茶葉を使うのでしたら、私は此方の茶葉で……」
等と、謎の高度(?)な茶葉に関する駆け引きが美雪・竜胆・ユリッドの間で行われ……。
――そして、数分後。
「うむ、水色が解りづらいのが難点だが、此は私のお気に入りのティーセットだ。さあ、これで勝負……!」
そう言って。
木製のティーカップ……随所に満開の桜が彫刻されている……に気合い十分、出来たての紅茶を注ぐ美雪。
注がれた紅茶のアロマセラピー的な香しい癒やしの香気が周囲に漂い始める中で。
「では、私は此方ですね」
その癒やしの香気にほう、と息をつきながら、竜胆が淹れた紅茶から漂うのは、まるでマスカットの様な芳醇な香り。
温められたカップに注がれたその深いオレンジ色をした液体が、その紅茶が何であるのかを如実に現している。
それらの香気に対抗……と言うか見事に調和させ、自らの紅茶の存在を主張しすぎない程度に主張する様な何処か優しい甘い花の様な香りが、ユリッドが淹れた紅茶からは漂ってきていた。
「む、むう……どれもこれも良い匂いでござるな……!」
美雪・竜胆・ユリッドが淹れた紅茶のそれぞれの匂いを最も敏感に感じ取ったフェルが感嘆も含めて唸るのを聞いて。
「此は良い勝負になりそうだね。皆の紅茶を飲むのが楽しみだ」
そう統哉が笑って評しつつ取り出したお茶菓子……蝶の形のパイを用意するのを見て。
「そうですねー。抹茶派の私ですが、此方の蝶の形のパイや紅茶も折角ですので頂きましょうかー」
そうのほほんと、抹茶をゆっくりと味わう様に飲みながら、冬桜とランタンを見つめていた義透のその言葉に。
「ぷぎゅ!」
と抹茶の苦みとコクを味わっていた陰海月が嬉しそうな鳴き声を上げた。
●
――結局、勝敗は……。
「ニャハハ! どれも美味しくてこれが一番って決められないね、これ」
そう笑いながら告げたのは、美雪・ユリッド・竜胆の注いだ紅茶に口を付けた統哉。
「むう……竜胆殿のは甘味がほどよく色合いもよくみえるでござるが……美雪殿の淹れた紅茶から漂うこの香気は何者にも代え難く……ユリッド殿の淹れた紅茶は、主張こそ控え目でござるか、芯のある程よい苦味が全体的な味わいをより一層深いものにしてくれるので、やはりどれが一番かと言われると答えるのに迷ってしまうでござるな……ハム」
統哉の感想を聞いたフェルが、統哉が用意してくれた蝶の形のパイを食しつつ深々と統哉に同意する。
「これはー、やはり、本人達同士で飲み比べをするのが良いのでは無いですかねー?」
同じくそれぞれの紅茶に口を付けた義透がのほほんと好々爺の笑みを浮かべてそう提案を出していた。
本来、こう言う時は抹茶派の義透ではあるが、成程、三者三様の紅茶故に、審査員としての判断には迷ってしまうだけの良さがあることは良く分かっていた。
――故に。
「むう……見事なものだ。流石は竜胆さんと言っておくべきか。いや、ユリッドさんの紅茶も……」
等と義透達の返答に唸る様に呟く美雪のそれを聞いて、恐縮です、と一礼する竜胆とユリッド。
「今回の勝負は引き分けと言う事で如何でしょうか? 折角のお茶会ですし」
そう竜胆が纏める様にユリッドの淹れた紅茶と美雪の紅茶を飲みながら告げるのに。
「むっ……そうだな」
そう竜胆の紅茶を干した美雪が唸る様に首肯する。
「皆さん、何か他にご希望の飲物はございますか?」
第1回竜胆主催・紅茶杯の取り敢えずの答えを得て、本業に戻る様に周囲に尋ねたユリッドのそれに。
「では、私達に抹茶をお願いできますかー、ユリッド殿-」
のほほんとした笑顔で告げる義透のそれに頷き、神妙にお茶汲みをするユリッド。
何時の間にか給仕に回っているユリッドにありがとうでござる、とフェルが礼を述べたところで、竜胆殿は、と彼女は続けた。
「先日のデモノイドによるテロル……あれはどの様な理由で行われたと思っておりますか?」
そのフェルの問いかけに。
ふむ、と少しだけ表情を正した竜胆が、何時の間にか自分の前にユリッドによって給仕された紅茶を啜りながら。
「あれは恐らく、雅人達を外に出すための陽動だったのでしょうね。念のため、青山の本部の方に白蘭や本隊は残しておきましたが……それでも、ソウマコジロウ程の大物とまともにやり合える者達が學徒兵の中に何割いたのかと言えば……」
「……まあ、そうであろうな」
その竜胆の解答に、嘆息しながら応えたのは美雪。
(「実際、あの透明軍団は物理的な攻撃では捉えるのも難しいであろうが……」)
雅人の『強制改心刀・閃』の様に、その本体を斬る以外のユーベルコヲドを使うものであれば、もっと楽に対処できた可能性も0ではない。
無論、いないよりマシという程度かも知れないが……そこまで計算して影朧達が動いている可能性は無いとも言い切れないだろう。
その美雪の呟きに1つ頷いた後、そう言えば、とフェルが続けた。
「今起こっている帝都朧大戦のこと、竜胆殿はどう思っているのですか?」
先程までの紅茶バトルの間に緊張が完全に解れた為であろう。
口調こそ真剣ではあるが、気負い無く尋ねてきたフェルのそれに、竜胆がそっと嘆息を零して軽く頭を横に振った。
「……私達の力だけではとてもでは無いですが、止める事の出来ない戦いだとは思っています。とは言え、帝都桜學府本部が取り戻されれば、帝都桜學府全体としても、多少の支援を行うことは可能になるでしょう。それが、何処まで皆様のお役に立つのかどうかは分かりませんが」
そう淡々と言葉を紡ぎながら、紅茶を干す竜胆。
それから、給仕を務めていたユリッドにもう一杯同じものを、と言う様に依頼するのを見ながら、統哉はそう言えば、と話を変える様に続けた。
「竜胆さんは俺達猟兵の事をどの位ご存知なんだい? 幾つもの世界で活動していると言う事は、もう知っているとは思うけれども」
先日のデモノイド事件。
あの事件によって少なくとも竜胆は、『サイキックハァツ』については、知った筈だ。
だが、それ以外の世界となると、何処まで知っているのかは定かでは無いが……。
「そうですね……『シルバーレヰン』、『UDCアァス』、『デビルキングワァルド』と呼ばれる世界については、伺ったことがありますね。『銀の雨の世界』と呼ばれる世界から来た方とも先程お会い致しましたし、『UDCアァス』に関しましては、今、正に美雪さんが淹れて下さった紅茶がそこで取られた茶葉による紅茶だとの事ですから。後は、『サイキックハァツ』ですね。他にも幾つかの世界の名前は耳にしたことがございますが……我々『皇族』も、所詮は|櫻花幻想界《サクラミラージュ》の民。である以上、貴方方の様な猟兵……超弩級戦力の皆様よりも多くの|世界《・・》を知る事は出来ません」
そう淡々と言葉を紡ぎながら、統哉が用意した茶菓子……『蝶の形のパイ』に竜胆が手を伸ばそうとした、その時。
――パタパタパタ……。
不意に蝶の形のパイの内の1つがふわふわと勝手に空を飛び回り始めたのに気が付き、微かに竜胆が息を飲む。
そんな竜胆の表情を見た統哉が思わずクスリと微笑んで。
「あれは俺が生まれたアルダワ魔法学園って言う、魔法と蒸気機械技術が発達した世界のお茶菓子だよ。気を抜くと、ふわふわと勝手に空を飛び回ってしまうんだ」
そう手早く説明すると。
「そうですか。どの様にすれば捕まえることが出来るのですかな?」
個人的な興味をそそられたのだろう。
そう問いかける竜胆のそれに、統哉が何も言わずに、ユリッドが新しく淹れてくれた紅茶の入ったカップを掲げると。
――パタパタパタ……。
と蝶の羽を羽ばたかせ、鱗粉の様にも見える粉を僅かに撒き散らしながら、統哉が掲げた紅茶のカップの縁に止まった。
その様子を見ていた竜胆が成程、と興味深げに首肯するのに、つまりね、と片目を瞑る統哉。
「こうやってお茶のカップを掲げたら、縁に止まってくれるんだよね。此、冬桜にも、楽しんで貰えると良いな」
そう統哉が呟いた、その時。
――ザァァァァァァァー。
不意に風が流れる様に吹き、冬桜の花弁を吹雪の様に舞わせる。
「ふむ……冬桜も喜んでくれている様ですね。此ならば、もう、大丈夫でしょう」
その冬桜の様子を見た竜胆が、何処か安堵する様な息を漏らすのを聞いて。
「どうやら、此処までやれば無事に鎮魂の儀は完了した、と言っても良い様ですね-」
周囲の冬桜とランタンの様子が鎮まり、落ち着いていく気配を感じたのであろうか。
義透が残った抹茶を飲み干して、そう何気なく呟くのに応える様に「ぷぎゅ!」と陰海月が楽しそうに鳴くのを聞いて。
「ふむ……その様だな」
竜胆の淹れてくれた紅茶を飲み、その味に満足げに息を漏らした美雪が周囲の気配を同様に感じて静かに息を吐きながら、チカチカと瞬く様な桜色のランタンを見つめて、そう言えば、と紫の瞳を静かに眇めた。
「……振り返ってみると、竜胆さんと関わる過程で、沢山の影朧を目にしてきたものだな」
――その中には、この幻朧桜による転生の輪廻に乗った魂もあれば、そうで無い魂もあったのだ。
或いは……竜胆は。
「竜胆さん。あなたは、この『浮島』を鎮める儀式を通して、転生する、しない関係なく荒ぶった魂達をも鎮めたいと、そう思っているのか?」
その美雪の鎮まりゆく浮島の様子を見ながらの問いかけに。
「……彼等、彼女等もまた、|私達の故郷《サクラミラージュ》の住民なのです。そんな魂達が安らぐ場所を、私が求めぬ理由はございませんよ、美雪さん」
――だから、この帝都櫻大戦に決着を。
そしてそれだけの力を内包している者達こそ……。
「貴女方、超弩級戦力の皆様だと私は信じておりますから」
――その竜胆の万感の想いの籠められた言葉を聞いて。
「そうですね。私達も、|猟兵《超弩級戦力》として、この戦争を一刻も早く終わらせられる様に頑張りますよ」
そう確かな決意を籠めて静かに首肯するフェルのそれに。
「頼みましたよ、皆様」
と竜胆が静かな信頼の眼差しと共に向けた光こそが、統哉が探している竜胆の超弩級戦力とは何かに対する1つの答えなのだと統哉の胸には確かに感じられたのだった。
――『鎮魂の儀』……完了。
大成功
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