不可思議な夜のアリスたち
蕩けるような甘美と溺れるような淫靡、戯れては押し寄せる悦楽の日々。
闇に覆われた常夜の世界において、まるであのひとときは、決して明けることのない夜に揺蕩う夢のようで。
親友であり恋人であった異母姉の吸血姫の『あの子』|アリス・ロックハーツ《分身》や異母妹である|セレナ・ロックハーツ《分身》、ロックハーツ家の使用人として在ったアリスシスターズたち――そんな彼女達と過ごした日々はとても甘やかであった。
特に今のような夏の季節になれば、身も心も余計に開放的になったものだ。
夜は決して明けぬけれど、この世界にだって、ぐるりと季節が巡って、夏が訪れる。
そしてただでさえ薄い衣を軽やかにひらりと翻し、真夏の夜空に舞わせながら。
「もっと楽しい遊戯びをしましょう? ね、“ ”」
そう誘われる声のまま、己の欲に従い寄り添えば。
擽ったい感触を覚えたのはきっと、与えられる体温と、開け放たれた屋敷の窓から吹く熱を帯びた夏の風が身体を執拗に撫でるから。
そんな中、まるでお茶会に興じるかのように愉快に『あの子』と戯れ合っては、たくさん互いを味わい合って。
まるでそれは、真夏の夜の夢のようで――常夜の世界でそれは永遠であると、そう思って疑っていなかった。
闇の種族であるアリス・ロックハーツやセレナ・ロックハーツにとっては勿論のこと。
ロックハーツ家の使用人としての立場であるアリスシスターズも同様に、アリス・ロックハーツの異母兄弟姉妹に異端の神|『夜』《デモン》と、神隠しで漂着したエリクシルを加工したエリクシルの|欠片《フラグメント》を植え付けて生きた願望器にされた、闇に遊戯ぶもの達であるから。
そして、アリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗の|混沌魔術師《ケイオト》艶魔少女・f05202)――正確に言えば、今はそう名乗っている“ ”だって、そんな|アリスシスターズ《『夜』で変質したエリクシル》の一員であったのだけれど。
彼女がセカンドカラーとなったのは――永遠に続くかのように思えた甘い日々が一変した、あの日から。
だって、|アリス・ロックハーツ《本体》が望む話は、溺れるような甘やかな永遠では決してないのだから。
酔い痴れるような淫蕩な甘さも、流れる涙や血の味も、己が送った分身による反逆さえも、より物語を彩るためのスパイス。
だから、じっくりと甘やかに育み、来たるその時を待って。
「“収穫”はいつにしようかしら」
そう――|アリス・ロックハーツ《本体》が運命を弄び演出するのは、頭セカンドカラーの元凶である彼女が自ら生み出す、悲恋話である。
そして、片翼戦……『あの日』の出来事は。
「私もあんな風に死闘の後に|ねぇさま《セカンドカラー》と一つになりたいのです」
|アリス《本体の姉》が紡いだその一連の|悲恋《エピソード》を『見ていた』セレナ・ロックハーツ本体に性癖を植え付けるほどのものであって。
うっとりと恍惚とした表情でくねくねとしては、セレナはこう高揚するのである。
「2人のねぇさまが|ひとつになった《融合した》だけでも素敵なのに、そこにセレナが加われば……きゃー」
だって『あの日』以来――『あの子』と“ ”は、共にあるのだから。
甘やかな日々が一変した『あの日』は、雨が降っていた。
そしてそれは――“ ”が、セカンドカラーが目覚めた日。
オブリビオンと戦う運命にある、猟兵に覚醒した日であった。
――けれど。
「……ッ、! どう、して……ぐっ!」
この時のセカンドカラーはその宿命を知らず、わけもわからぬままに抗っているだけであって。
「うぐっ、かは……ッ!」
分身とはいえ闇の種族の『あの子』に手も足も出ずに蹂躙されるしかなかった。
そう……到底勝てるはずのない、実力差が大きな相手だった。
しかし、『あの日』のセカンドカラーは、初めて猟兵として討ったのだ。
|吸血姫《オブリビオン》を――異母姉にして親友である彼女を。
朦朧とする意識の中、|『あの子』《アリス・ロックハーツ》の心臓をその手で、深く抉るように穿って。
そんな致命的な傷を与えたのは、誰でもない自分で。
それは傍から見れば、猟兵と|吸血姫《オブリビオン》としてのふたりが、迎えるべき結末。
だがそれは“ ”の望んだことではなく、『あの子』の望みであったのだった。
だって――涙を流す“ ”とは逆に、『あの子』はわらっていたのだから。
そう、この結末を望んだのは『あの子』。
だから雨が降る中、泣く“ ”の頬へと、『あの子』はそっと手を伸ばして。
“ ”が覚えているのは――添えられた掌の感触と、血の味がした最期のキス。
そして心臓を融合させ精神寄生体となった『あの子』と“ ”が一つになった、瞬間である。
だから、今の彼女は。
(「以来、私は|『あの子』《アリス・ロックハーツ》をエミュり続けている」)
故に、セカンドカラーで在るのだ。
再び巡ってきた夏に揺蕩い、無邪気で残酷な笑みを宿しながら。
「たくさんたくさん“|おともだち《オブリビオン》”を私の|精神《中》に招きましょう」
――『あの子』が寂しくないように、って。
成功
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