●天を衝く石柱
アックス&ウィザーズのある地方に、真っ白な岩肌が聳える土地がある。
広がる、とは誰も言わない。聳えているのだ。
まるで塔の様に巨大な白い石柱が、幾つも天を衝いている。
高さはほぼ全て同じだが、形はどれも微妙に異なる。何時からあるのか、どの様にして作られたのか、はっきりした事は判っていない。
長年をかけて風や雨に削られたと言う者もいる。
はるか昔に川が流れていた名残だと言う者もいる。
そして――こんな説もある。
かの帝竜との決戦に望み、帰らなかった勇者達。
その1人が、竜を討つ為の業をこの地で磨き続けた、その爪痕だ、と。
如何に勇者と言えども、流石にそれは――荒唐無稽。
そう考える人の方が圧倒的に多い説だが、そんな説が生まれた背景には、この地にはもう1つ、勇者にまつわる言い伝えが残されていた事がある。
幾つもある石柱のどれかの天頂に、勇者が残した石碑があると言うのだ。
何が記されているか定かではないが、その勇者にとっては大切なもの。だからこそ、余人の届かぬ地に残したのだと言う。
それがどの石柱の天頂にあるかは――満ちた月が知っている。
石柱群は、現在はこう呼ばれている。
この地で最も月に近い場所。月指しの石群――ムーンフィンガーズ。
●月に近い場所へ
「とまあ、月指しの石群――ムーンフィンガーズと呼ばれている土地で、そんな勇者の伝説を調べてきて貰いたいんだ」
ルシル・フューラー(ノーザンエルフ・f03676)は、グリモアベースにいる猟兵達を見回し、そう話を切り出した。
「他のグリモア猟兵から聞いている人もいるかな? アックス&ウィザーズには『勇者の伝説』がごまんとあるんだ」
かの世界でかつてあった、帝竜ヴァルギリオスとの決戦。
参加した者の多くは沈みゆく群竜大陸と運命を共にしたと伝えられている。
その戦いで命を落とした冒険者――その全てが現在も勇者と称えられているのだ。
その数、数千人超。
となれば、その伝説の数も相当な数に上る。
「今、勇者の伝説を調べるのは、『群竜大陸』を見つける為だよ」
復活したと言われている『帝竜ヴァルギリオス』が、もしもオブリビオン・フォーミュラーであるならば、未だ所在の掴めない『群竜大陸』の発見は必須だ。
「今ある手掛かりとなると、勇者の伝説くらいしかないんだよね」
すぐに群竜大陸には繋がらなくとも、勇者の意志が残っている可能性はある。
調べていけば、いつか繋がるかもしれない。
「まずは転移先の月指しの石群の根元で一夜を明かして、満ちた月が知っている、との言い伝えの真偽を確かめて欲しい」
真偽がわかれば、どの石柱の天頂かも判る筈だ。
「夜営しても、危険はないから大丈夫」
石柱の一帯に、危険な獣の類は生息していない。
偶に商隊が夜営地に選ぶ事もあるくらいだ。
「石柱の根元の辺りは、ね。登った先の安全は、申し訳ないけど保証できない」
ん?
登る?
「うん。石柱。伝説はその頂を示しているんだから、登らないと」
あの、飛んだりは?
「翼のある種の人や、飛行の魔法でも、飛んで行くのは簡単じゃないと思うよ?
相当に高さがあるし、なにより風が削ったと言う説もあるだけあって、石柱の周りの風の流れが滅茶苦茶だから」
崖登り頑張って、と告げるルシルの顔は、経験者のそれだった。
泰月
泰月(たいげつ)です。
目を通して頂き、ありがとうございます。
アックス&ウィザーズで、勇者の伝説を目指してみませんか?
舞台は、ムーンフィンガーズと呼ばれている土地。
にょきにょきと、塔の様に巨大な石柱が幾つも聳えています。
スタートの1章は、その根元で明かす夜の章となります。
満ちた月に訊ねれば判る。
その言い伝えの示す所は、まあ参加された方全員が『朝までぐっすり寝ちゃったぜ』なんてことにならなければ、おそらく判明するでしょう。
2章は冒険。3章は、詳細は伏せますが、戦闘があります。
ではでは、よろしければご参加下さい。
第1章 日常
『幻想夜景』
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POW : キャンプファイアーをしたりバーベキューをしたり、盛り上がって過ごす
SPD : 夜の森や原っぱを駆け回ったり星空を飛んだり、満喫して過ごす
WIZ : 虫や動物の声を聞いたり星占いをしたり、静かに過ごす
👑5
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●石柱に囲まれる夜
転移した先で、猟兵達は聳え立つ白亜の石柱に囲まれた。
根元から石柱を見上げても、天頂が見えない。
確かにまるで塔のように高い石柱だ。入り口も窓も見当たらないが。
高さもさることながら、大きい。根元と天頂の幅が変わらないのなら、頂の上に家を建てるくらいの土地がありそうである。
石柱と石柱の間隔は、2~5mくらいだろうか。等間隔に並んでいるわけではないようだ。
表面の細かい形状は1つ1つ違うが、どれも大きさに差はなさそうだ。
このままではどの石柱の頂を目指せば良いのか、見当がつきそうにない。
やはり、月に訊くしかないか。
この地では、月が昇るのは日が変わる頃になるそうだ。
間もなく、日が暮れる。
そろそろ夜営の準備を始めておこうか。
ビュォゥ!
時折、突風が吹き抜けている。
テントはしっかり張っておいた方が良さそうだ。
フィーナ・ステラガーデン
【POW】
【属性攻撃】で火を用意したら後はUCを使ってお肉を次々焼かせるわ!
(召使の霊はエプロン姿の中年女性。フィーナ自身も誰か知らないけど
彼女はそんなこと気にもしない)
んふーーーっ!バーベキューよバーベキュー!
ここに来る前になんか獣がいたから持ってきたわ!
何なのかしらねこいつ?
(何なのかと味はMSにお任せ。ダイスロールとかでもOKです)
あ、お肉食べたいなら食べてくれてもいいわよ!
今の私は機嫌がいいわ!
そろそろ焼けた頃かしらね?じゃあ頂くわ!
ぷしゅー。それにしても
物々しいわねこれ!(石柱)
月が知ってるって聞いたけど、どういうことかしら?(月を見上げる)
(アレンジ、アドリブ、絡み大歓迎)
ヘンペル・トリックボックス
紳士的には夜更かしするのはあまり好ましくはないのですが──折角の美しい夜空、眠ってしまうのは反って失礼というもの。どんちゃん騒ぎが終わった後も、少しばかり宵っ張りを気取るとでもしましょうか。
シルクハットに収納したティーセット一式を出して、起きている方がいれば振る舞いましょう。
星を眺めるのは良きことです。何億光年離れたあの星のどこがで、我々のように星空を眺めている人々がいるやもしれません。いやはや、浪漫ですなぁ......。
あ、アドリブ・絡みは大歓迎ですとも。えぇ、紳士ですので。
フィーリ・アスタリスク
【心情】勇者になれるかはわからないがなるにしても、ならないにしても一度はその伝説を見てみたいものだな。
星や盛り上がっている人を見つつ、暗視で本を読んだりする。
虫や動物の声を本を読むときに聞きながら読む。
疲れた人とかみつけたときは
自分のコートとか貸したりして少し休ませつつ
夜明け前くらいにはそっとおこしたりする。
念のため暗視で警戒しておく
満ちた月が知ってるなら、月明かりに何か起こるのかもな
例えば、月明かりに咲く花とか、光る石とか。
とても楽しみだ。
緋翠・華乃音
さて……石柱の天頂に行く事は出来なくとも、少しは歩き回ってみるのも悪くはないだろう。
星空の見えそうな場所に簡単な夜営を築き、一休みしてから夜の散策へ。
ユーベルコードで瑠璃の蝶を呼び、散歩がてら自由に飛ばせておく。
いきなり月に答えを聞くのも興に欠けるな。
少しは自分で考えてみようか。
どうやって建てられたのか、その意味や目的。どの石柱の頂きに石碑があるのか。
【アドリブ等歓迎です】
エルト・ドーントレス
連携・アドリブ歓迎
POW選択
「勇者の意思」かぁ。
猟兵になる前だったらそんなあやふやなもの信じなかったけど、ヤドリガミみたいな「思いの結晶」の実例もあるし、確かに手掛かりになるかもね。
…どうやって情報を引き出すのかはさっぱりわかんないけど。
月が昇るまで待たなきゃいけないみたいだけど、とりあえずキャンプファイアーの火の番でもしてようか。
薪を追加したり、眠気覚ましのコーヒー用にお湯を沸かしたり。
はしゃいだり騒いだりするよりは、黙って炎が揺らぐところを見てる。
…こういうの見てると、なんだかすごく落ち着く。
故郷じゃ火を焚くことすらしたことないのに、なんでか懐かしい気分になるから不思議だよねぇ。
ロー・オーヴェル
余人の届かぬ位置に残すにしても
もうちょい楽な場所はなかったのか
おかげで後世の俺達が苦労することになる
「それに見合ったものがあれば文句は撤回するがね」
●
「満ちた月に尋ねればわかる」
尋ねて返事してくれれば話が早いんだが
太陽が東から昇り西に沈む軌道を取るが
その過程で南中を迎えるように
月にも同様に南中……軌道の頂を通過する時がある
その南中時に月を突き刺すように聳えている石柱の頂
ってのが当たりじゃないかな
と目星をつけて
その時刻に寝ないようにして過ごそう
その柱か違う柱かいずれ昇ることになるんだから
道具の手入れでもして余計な力を使わずに静かに過ごそう
にしても獣も寄ってこないとはな
勇者のご加護ってやつなのかね
アメリア・イアハッター
この地で最も月に近い場所!
それってもしかすると、月を掴んじゃったりできるかな!
あり得ない、とは思わないよ
だってここは不思議な世界なんだから!
うー、早く登ってみたいけれども、ここは我慢我慢
まずは皆と協力してテントを立てちゃおう!
高いところの作業は任せて
ふふ、団員と一緒によく旅をしてるもの
夜営準備はお茶の子さいさいよ!
へぇ、ほんとだ
暗くなっても、中々月が出ないんだね
月明かりが無くて、星の光だけが輝く夜空ってのは珍しいなぁ
それぞれの明るさがはっきりわかって、楽しいや!
星の1つ1つに、オリジナルの名前でも付けて楽しんじゃおうかな
……やっぱ我慢できない!
ちょっとだけ、ちょっとだけ
星明りの下で踊っちゃお!
東雲・円月
双子の姉の東雲・咲夜(f00865)と共に
勇者の伝説か。ちょっと心躍りますね
いやまァ勇者って聞いて興奮しない男性はいませんから
咲夜は女だから解んないだろうけどね
双子って言っても男女の差があるからね。男のロマンだからね
さて、じゃァ弁当でも食べて月が満ちるのを待とうか
腹が減っては戦が出来ないって言う言葉もあるからね
咲夜の作る弁当は美味しいから大好きだよ
今日の献立はなにかな、俺の好きなシイタケ入ってる?
勿論シイタケから食べるよ。いただきますッ!
んぐ。ぐ?
好きな人?
あー、恋愛的な意味で?
そうだなァ、昔から変わってないかなァ……
っていうか出会いがないからなァ、他に。うん
ほら、咲夜も。食べなよ。あーん、だ
東雲・咲夜
弟のえっくん(f00841)と
えっくんもそういうの好きなんやね
わからんでもないけど、浪漫かぁ…
男の子が戦隊モノに憧れる、みたいな?
戦、はするん?
せやけどええ時間やしいただきましょ
今日のお弁当は
明太マヨの玉子焼き、手作り焼売、アスパラベーコン巻き
唐揚げとマカロニサラダ
ほら、えっくんの好きな椎茸の筑前煮も
おむすびはおかかチーズとごまゆかり
ほなどれから食べる?
もりもり食べてくれはる姿に頬が緩んでしまうん
ふと…
ねぇえっくん、いま好きな子とかおるん?
なんとなく聞きとうなっただけやから
深い意味はないんやけど
…そっか、よかった(ほっ)
な、なんでもあらへんよ?
なんや照れくさいけど…小さく唇を開いて
あ、あーん…
リュカ・エンキアンサス
オズお兄さん(f01136)と。
野宿は慣れてる家がないから基本は野宿だし
テントなんてお手のもの…なので、
てきぱきと組み立てていく
うん、最初は俺も下手だったけど、何度もやって覚えた…
って、野宿したことあるんだ。意外
あ。お兄さん
そこの布広げて
そうそう。いい感じ
うん、ありがとう
上手いよ。で…ここをこうして、
はい、完成
入る?どうぞ。俺も入る
うん、上手くできてる。よかった
そうだね。時間はまだまだたくさんあるからお話でもしようか
石を積んで風除けを作って火をつけて
珈琲をいれよう
お菓子って何。食べる食べる
なんだか旅行みたいだな
あ、これ、旅行か
いろんなこと話してたら、あっという間に月が昇りそうだ
※アドリブ歓迎
オズ・ケストナー
リュカ(f02586)と
テントっ
おてつだいおてつだい
なにする?
ひょこひょこリュカの手元を見て
野宿はしたことあるけどテントははじめて
すごいねえ
なにも見なくてもつくりかたがわかるんだね
お願いされたら喜んで
はりきって布を広げて
このくらい?
うまくできた?
褒められたらうれしくて
どういたしましてっ
完成したら
そわそわ
中に入ってもいい?
わあっ、ちゃんとおうちだ
よかった、リュカのおかげ
ありがとう
月が出るまでまだまだ時間があるよ
お菓子も持ってきたし
リュカのコーヒーも飲みたいし
いっぱいお話もできるね
ふふ、ドライフルーツだよ
日持ちするんだって
宝石みたいできれいでしょ
旅行っ
わたしともだちとおとまり、はじめてだ
たのしいね
泉宮・瑠碧
風か…
風の精霊にこの一晩でも野営の辺りの風が緩くならないか頼んでみる
そうでなくとも、テントはしっかりと固定するが
…石柱を登る際も風はどうにかならないものか
登り切る腕力、僕に無いと思うんだ…
石柱を見上げて内心途方に暮れるな
持ってきたサンドイッチと
カップで干し肉やハーブの簡単なスープを作り
のんびり月が昇るのを待とう
星を眺めて
東西南北の位置を把握したり
本で見た事がある星座というのを探してみながら
…そういえば、危険じゃない動物なら居るのだろうか
月が昇ってくれば…
恐らくは月で出来る影なのだろうか
フィンガーは指で、月の影で出来る指…?
後は石柱の上の月光の照り返しとか…
注意深く、地面を含めて周りは見ておこう
ニコ・ベルクシュタイン
【うさみっち(f01902)と】
キャンプ、そうか野営か
俺も実際の経験は無かったので良い機会だ
…だが少し待って欲しい、俺が一人でテントを張るのか?
最近ではペグ不要のテントもあると聞くのに
敢えてのペグ使用式を持ってきて…(ぶつぶつ)(カンカン)
苦心して張ったテントの中でうさみに一つ聞いてみようか
「うさみの両親は今どうしているのか?」
…しまった、拙い事を聞いてしまっただろうか
余りにも辛い記憶を追いやる為にゆたんぽが云々と…?
だが、うさみの話もあながち有り得なくはない気がする
むしろそうであれば、其れはとても偉大な英雄譚なのでは
…待て、寝るなうさみよ
まだ「満ちた月に訊ねて」いな…
仕方が無い、俺だけでも。
榎・うさみっち
【ニコ(f00324)と!】
俺、キャンプとか一度してみたかったんだー!
というわけでテント張るぞニコ!
てれれってれ~いい感じのテント~
(ゆめのくにうさみっちランドから取り出す)
さ、あとは任せた!
(テントの中、ニコの膝上でゴロゴロしながら)
俺が寝ないように何か面白い話しよーぜ!
俺のパパとママ?知らない!
だって俺、ゆたんぽに命が宿った存在だからー!
(と本人は主張してry)
でもさぁ、もしかしたら俺のパパとママは勇者でさ
ヴァルギリオスとの戦いに俺を巻き込むわけにはいかないって
幼い俺の魂を何やかんやで封印したのだ~
っていう話もありじゃね?
言うだけならタダ!
……スヤァ
スノウ・パタタ
リジェリ(f03984)さんと
空に何か変わったものは無いかとキョロキョロしながら一緒にお月見。
星がいっぱいで、きれーだねえ、降ってきそうなのよー
これだけ明るくてきれーだから、ランプいらなそーだねえ!
石柱の影…地面に映る影?
石柱のデコボコに何か見える?
んんー。「訊ねれば分かる」…たずねる、って、お空の満月に向かって話しかけたら答えてくれるかなあ。
見上げながらうとうと。分かるまでがんばって起きていたいの…
風が強いから、木の精霊魔法で風よけの即席テントなのよ。きゃんぷ!
久篠・リジェリ
スノウ(f07096)と参加
とても綺麗な星空ね。
石柱の下は安全だというし、今夜は夜空とこの風景を楽しみましょう。
ほんとう、降ってきそうな星空。
明日は本格的に冒険になるのかしら。
望むところよ。
他の参加者さんとも協力していきたいわ。
満ちた月が知っている、どういうことなのかしらね。
ちょうどそのときに月で出来る影とかかしら。
少し気にしつつ、明日に備えてゆっくり休みたいわ。
石柱がどれかが分かったら休むわね。
満点の星空を目に焼き付けながら
●風に負けるな、猟兵
勇者の伝説が残る石柱群。
猟兵達はこれから一夜を明かす事になる。
「……ちっ。風が納まらないと無理か」
時折吹き抜ける突風の勢いに、ロー・オーヴェル(スモーキークォーツ・f04638)は煙草に火をつけるのを諦めた。
この風では、すぐに消えてしまうかもしれない。
それに、携帯灰皿を使っていても、灰が何処に飛んでいくかわからない。
周りでは、テントの設営が始まっていた。
「と言うわけで、テント張るぞニコ!」
「ふむ。野営か。まあ、テントの知識はあるが……」
実際の経験はないのだが、とニコ・ベルクシュタイン(虹の未来視・f00324)が眉間に皺を寄せているのに気づかず、榎・うさみっち(うさみっちゆたんぽは世界を救う・f01902)がうさみっちゆたんぽに手を入れごそごそ。
「いい感じのテント~」
それを取り出した丁度そこに、ヒュゴウッと一際強い風が吹き抜けた。
いい感じに丈夫なテントは、突風を受けて膨らみ舞い上がっていく。その結果、凧のような役割を果たしてしまった。
\ぴゃああああ/
「うさみぃぃぃ!?」
飛んでくテントとうさみっちを、ニコが流石に慌てて追いかけて行った。
「……風除けはこんなものかな」
石を積んで作った即席の風除けの囲いの中に、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)がテントを広げて組み立てに入る。
「おてつだい、なにかする?」
「あ。お兄さん、丁度良かった。そっち抑えといて」
慣れた手つきを興味深々と覗き込むオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)にテントを押さえるようにお願いし、リュカの手はテントの骨組みに伸びる。
「わたし、野宿はしたことあるけどテントは、はじめてなんだ」
「野宿したことあるんだ。意外」
たのしみと笑うオズと話しながら、野宿に慣れているリュカの手は、てきぱきと部品を組み立てていた。
「すごいねえ。なにも見なくても、つくりかたがわかるんだね?」
「最初は俺も下手だったけど、何度もやって覚えた……あ、おにいさん。そこの端の方を広げて。そうそう、いい感じ」
その時だった。
協力してテントを立てるリュカとオズのすぐ近くと、飛んでくテントと小さな猟兵が通り過ぎて、大きな猟兵が追いかけて行ったのは。
「……リュカ?」
「いや、大丈夫。俺達のテントは、もうすぐ完成だから」
不安そうなオズの視線に、リュカは自分にも言い聞かせるように頷き作業を続ける。
「わあっ、ちゃんとおうちだ」
「うん、上手くできてる。よかった」
実際、程なくして無事に立ち上がったテントの中で、オズがはしゃいだような声を上げて、リュカは顔色を変えていなかったけれど、こっそり安堵していた。
風に飛ばされ続けるテントと以下略を泉宮・瑠碧(月白・f04280)が目にしたのは、石柱を見上げて『登りきれるんだろうか』と早々に途方にくれているところだった。
そして、瑠碧は悟った。
明日の崖登りの心配よりも、今夜のテントをしっかり張らなくてはならない。
だから瑠碧は指を組み目を閉じて、精霊に祈りを捧げる。
(「此処らに吹く風を、少し緩くして欲しい。どうか、力を貸して……」)
程なくして、その願いに風の精霊が応えてくれた。
風に揺れていた瑠碧の薄青い髪が、ふわりと浮き上がる程度に収まる。
「これなら、何とか……でもしっかり固定しないとだな」
自分の腕力で、大丈夫だろうか。
そんな不安を抱きながら、瑠碧はテントを組み立てていく。
「力仕事に手が要るなら、手伝いますよ?」
そんな様子を見て、声をかけた紳士が1人。
コツンとステッキを鳴らし、シルクハットを降ろしたヘンペル・トリックボックス(仰天紳士・f00441)である。
「一夜とは言え、斯様な場所で女性陣を外で寝かせるというのは、紳士としては見過ごすわけには行きませんからな」
そう言いながらヘンペルは、シルクハットの中から小さなトンカチを取り出すと、固定用の杭をゴンゴン打ち込んでいった。
カンカン、ゴンゴン。
ペグを打ち込む同じ音は、別の場所でも響いていた。
黙々と打ち込んでいるのは、ニコだ。
良かった。無事にテントに追いついていた。
「うさみっちが飛んで来た時は、何事かと思ったわよ……」
尤も、飛ばされてた先に居合わせたアメリア・イアハッター(想空流・f01896)が、ナイスキャッチしてくれたお陰だったりするのだが。
ついでだし、とそのままアメリアは2人のテント設営を手伝っている。
「アメリアはテントも慣れてんだな?」
「ふふ、団員と一緒によく旅をしてるもの」
テントの中で重石代わりしてるうさみっちの声に、フライシートを固定するロープを張りながらアメリアが返す。
「助かった。俺が一人でテントを張っていたら、もっと手こずっただろうからな。最近はペグ不要のテントもあると聞くのに、敢えてのペグ使用式を持ってきて……」
アメリアへの礼と、うさみっちにはぶつぶつ言いながら、ニコの手はせっせと動いていた。
テントがなければ、寝床を作れないわけではない。
「木の精霊さん、おねがいなの」
雪色ぽんちょを纏ったスノウ・パタタ(Marine Snow・f07096)の魔法で、地面を割って木が伸びてくる。絡み合った木が、風を除ける壁となった。
「即席テント完成なのよ。きゃんぷ!」
「ありがとう、スノウ」
スノウが作った壁に触れて強度を確かめながら、久篠・リジェリ(終わりの始まり・f03984)が微笑みかける。
屋根はないが、雨が降らないならば大きな問題ではない。
むしろ、夜空を見上げるならば好都合だ。
衣食住。例え一夜とは言え、それが大事なのは、猟兵とて同じ事。
衣類は問題なく、一夜の寝床――住の問題も解決した。
残るは、食である。
●焚き火で焼くと何故かお肉は美味しくなる
夜の『月指しの石群』のそこかしこで、赤い光が揺れている。
猟兵達が点けた、炎の赤が。
「んふーーーっ! バーベキューよ、バーベキュー!」
周りの石柱群がまるで峡谷のような役割を果たして、フィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)の楽しげな声が大きく響き渡った。
「美味しそうな匂いなのよー」
「ええ。分厚いお肉を焼くのは、いいものよ」
「肉代はそこの眼鏡に付けといてくれ!」
「また集る気か」
その声と、焼ける肉の匂いに釣られた他の猟兵達も、既に集まっている。
猟兵達の輪の中心には、石を積んだ即席の竈があった。
『お嬢様、少し火を弱くしてください』
「はいはい」
竈の上に置いた鉄板で肉を焼いているエプロン姿の中年女性に言われるがまま、フィーナが竈の中で燃えている魔法の炎の火勢を落とす。
「どちらさん?」
「さあ? 何か喚べるから時々来てもらってるの」
中年女性を見たエルト・ドーントレス(灰色猟兵・f14009)の問いに、フィーナは軽く首を振って返した。
とぼけているのではない。どういう霊なのか気にしていないのだ。
「いいじゃない。そろそろ焼けた頃かしらね?」
フィーナの言葉を示すかのように、中年女性の霊が肉を返すと、じゅぅっと油が跳ねて音を鳴らし、肉の焼ける良い匂いが漂い出す。
「ま、そうですね。敵じゃないんだし」
お肉争奪戦的な意味で敵にならないのなら、エルトに気にする理由はない。
「じゃあ、頂くわ! 食べてくれていいわよ!」
そんなフィーナの一言で、鉄板に猟兵達の手が伸びる。
「そのお肉、少し頂いても?」
「構わないわよ!」
瑠碧はフィーナの中年女性の霊から肉を少し貰うと、それとハーブと少量の干し肉と共に煮込んで軽く塩を振って、簡単なスープを仕上げた。
本当は干し肉だけで作るつもりだったけれど、この方がきっと美味しい。
そして。
お肉が猟兵達のお腹の中に消えるまで、余り時間はかからなかった。
「……ところで、今さら気になったのだが。何の肉だったんだ?」
「何なのかしらねこいつ?」
粗方食べ終わったところで、緋翠・華乃音(Lost prelude.・f03169)が尋ねると、フィーナがおそらく誰にとっても予想外であったろう答えを返してきた。
「ここの外になんか獣がいたから持ってきたわ!」
集まった視線を浴びても、フィーナは事も無げにそう告げる。
実際、動物の肉であることは、間違いないだろう。
魚でもなければ、鶏肉でもなかった。
そして――美味しかった。これはとても重要。
「……まあ、毒があるような感じはなかったから……大丈夫だろう」
華乃音は小さくため息をつくと、そう結論つけた。
●外で食べるお弁当も美味しい
「弁当食おううか。腹が減っては戦が出来ないって言う言葉もあるからね」
「えっくん、戦、するん?」
東雲・円月(桜花銀月・f00841)の言葉にくすりと微笑みながら、東雲・咲夜(桜歌の巫女・f00865)が荷物の中から重箱を取り出した。
「今夜は戦わない筈だけどね。咲夜の作る弁当は美味しいから大好きだよ」
「ほな、ええ時間やし、いただきましょ」
ストレートな円月の言葉に笑みを深め、咲夜の白い手が蓋を開く。
「今日の献立はなにかな? 俺の好きなシイタケ入ってる?」
「えっくんの好きな椎茸の筑前煮は、ちゃーんと入れとるよ。
他には、明太マヨの玉子焼き、焼売、アスパラベーコン巻き。こっちは、唐揚げとマカロニサラダと……」
色鮮やかなお弁当の具を、咲夜が1つ1つ説明する。
「おむすびはおかかチーズとごまゆかり。ほな、どれから食べる?」
「勿論シイタケから食べるよ。いただきますッ」
早速円月が箸を伸ばした筑前煮は、彼の好みに合わせた辛めの味付け。
(「ふふ。作り甲斐あるなぁ」)
全て、弟の好みを知り尽くした咲夜の手作り。箸が進むのも当然といえば当然だが、もりもりと食べる円月の姿に、咲夜の頬も思わず緩む。
緩ませていたのだが。
ふと、ある事が咲夜の脳裏をよぎった。一度気になってしまうと、中々離れない。
「……ねぇ、えっくん。いま好きな子とかおるん?」
「んぐっ。ぐ??」
おにぎりを頬張っていた円月は、その不意打ちに目を白黒させた。
「好きな……って、あー、恋愛的な意味で? そうだなァ……」
お茶を一口、驚きを飲み下し、円月は口を開く。
「昔から変わってないかなァ……」
そして、大して迷う風もなくそう答えを返した。
「っていうか出会いがないからなァ、他に。うん」
「……そっか、よかった」
ほっと胸を撫で下ろす咲夜だが、話がこれで終わる筈もない。
「けど、何で?」
円月がそう聞き返すのも、当然であろう。
「な、なんでもあらへんよ? な、なんとなくや。なんとなく、聞きとうなっただけやから。深い意味はないん、やけど……」
「ん、そっか」
自分と同じ藍色の瞳を泳がせる咲夜をそれ以上追及する事はせず、円月は卵焼きを取って差し出す。
「ほら、咲夜も。食べなよ。あーん、だ」
「なんや照れくさいけど……あ、あーん……」
雪の様に白い頬を仄かに染めて、咲夜は小さく唇を開いた。
●月を待つ
猟兵達がそれぞれに夜の食事を終えても、夜空はまだ、星空だった。
月が夜空に現れるまで、もうしばらくかかりそうだ。
「……」
フィーリ・アスタリスク(雪の月・f00557)は、暗がりの中で本を開いていた。まだ月がない暗闇で本を読めているのも、暗視技能をフィーリが持っているからだ。
(「満ちた月が知っているなら、月が上がれば何か起こるのかもな」)
それまでは、慌てる必要もないだろう。
どこかで聞こえる夜行性の鳥の鳴き声を聞きながら、フィーリの指が頁を捲る。
「……こう言うの見てると、何だか凄く落ち着くねぇ」
パチパチと爆ぜる焚き木を眺め、エルトが誰に言うでもなく呟いた。
火を絶やさぬ番を買って出たのは、何故だろう。
エルトの故郷は、スペースシップだ。
その中では、火を焚いた記憶などなかったというのに。
「なんでか懐かしい気分になるから、不思議だよねぇ」
再び誰に言うでもなく呟いて、火の上で温めていた眠気覚ましのコーヒーを啜る。
いつもより少し濃い目の苦味が口の中に広がるのを感じながら、エルトは揺らぐ炎の中に撒きを1つ追加した。
「いきなり月に答えを聞くのも、興に欠けるか」
少しは自分で考えようかと、華乃音は石柱の間を歩き回る。
『――瑠璃の蝶よ』
灯りの代わりにと喚び出したのは、瑠璃色の蝶の群れ。
敵であれば燃やす炎でもある瑠璃の蝶は、今は彼の周囲を照らす星灯も同じだ。
「繋ぎ目の1つも見当たらないな……誰がどうやって建てたものか」
ぺたぺた、とんとん。
華乃音は石柱に触れて、叩いてみる。手応えは堅く冷たく、重く大きい。
何よりこの大きさで繋ぎ目が見当たらないという事は、これらの石柱1つ1つは、何れも1つの石から作られた、と言う事だ。
上まで精査しなければ、断言する事はできないが――。
一先ず散策を続けていると、華乃音はもう1つの事に気づいた。
「この辺りの柱は……少しだけ傾いている、のか?」
石柱群の中心から離れ、外周近くの柱が持つ、僅かな傾斜に。
ローの姿も、石柱群の中央からは外れたところにあった。
(「この程度の風なら、やっと火付けられる」)
風は昼間より少し落ち着いている。ローが震える手で小さな火をつけ、紫煙をくゆらせる。ぷはぁと吐いた息に、煙が混ざった。
「余人の届かぬ所に残すにしても、もうちょい楽な場所はなかったのか」
勇者と呼ばれる過去の誰かに向けて、愚痴るようにローが呟く。
おかげで後世の俺達が苦労する事になるだろうが、と続いた言葉の中にあった苦労は、煙草を吸えずにいた時間の事も含まれていただろうか。
「ま、見合ったものがあれば文句は撤回するがね。……襲ってくるような獣が寄って来ない辺り、勇者のご加護ってやつもあるのかね?」
答えのない呟きを夜空に吐いて、ローは2本目の煙草に火をつけた。
「月が出るまで、まだまだ時間があるんだね」
「そうだね。珈琲を入れて、お話でもしようか」
テントの前で熾した小さな焚き火を囲んで、オズとリュカは珈琲片手に色んな話をしていた。
話好きのオズが色々聞いて、リュカが答えるのが多かっただろうか。
「これ、美味しいね」
「ふふ、ドライフルーツ。宝石みたいできれいでしょ」
話の合間に摘むのは、オズが持ってきた甘い果実。採り立てのような瑞々しさはないけれど、また違う色合いになって、甘味も凝縮されている。
「なんだか旅行みたいだ……って、これ、旅行か」
「旅行っ」
リュカがぽつりと呟いた言葉に、オズが子猫のような青い瞳を大きくする。
「わたしともだちとおとまり、はじめてだ! たのしいね」
「そうだね。いろんなこと話してたら、あっという間に月が昇りそうだよ」
楽しい時間は、早いもの。
声を弾ませるオズに返すリュカの声はいつもの淡々としたものだったけれど、その口元には、ほんの僅かな笑みが浮かんでいた。
「俺が寝ないように、何か面白い話しよーぜ!」
「なあ、うさみよ。うさみの両親は、今どうしているのか?」
テントの中。膝の上でゴロゴロと寛いで転がるうさみっちにせがまれ、ニコはふとその疑問を口にする。
訊ねてから、しまったと思った。
「俺のパパとママ? 知らない! だって俺、ゆたんぽに命が宿った存在だからー!」
うさみっちが、フェアリーなのにゆたんぽに命が宿った云々とヤドリガミの様なことを言っているのも、余りにも辛い記憶を追いやる為では――と、ニコは思ったのだ。
「でもさぁ、もしかしたら俺のパパとママは勇者かもしれないぜ?」
当のうさみっちは、いつもと変わらぬでそんな事を言ってきた。
「でさ。ヴァルギリオスとの戦いに俺を巻き込むわけにはいかないって、幼い俺の魂を何やかんやで封印したのだ~。
――っていう話もありじゃね?」
どーよ、と見上げるドヤ顔に、ニコが目を細める。
「そうだな。うさみの話も、あながち有り得なくはない気がする。そうであるとしたら、其れはとても偉大な英雄譚になるのではないか?」
テントの小さな空気穴から夜空を見上げて、ニコが問い返す。
……。
スヤァと寝息が返ってきた。
「待て。寝るなうさみよ。まだ『満ちた月に訊ねて』いないぞ」
ニコが揺すっても、みょーんと引っ張ってみても、起きる気配がない。
「ま た 寝 落 ち か !」
起きたらどうしてくれようかと思いながら、ニコはせめて自分だけでも起きていようと決意を固める。だけど、ゆたんぽを自称するだけあって、膝の上のうさみっちはとても暖かくて――。
「へぇ、ほんとだ。暗くなっても、中々月が出ないんだね」
月のない夜空を石柱の間から見上げて、アメリアが呟く。
「月明かりが無くて、星の光だけが輝く夜空ってのは珍しいなぁ」
まだ月がない夜空だからこそ。星々それぞれの明るさが良く判る。
「うーん。あの星の名前は――」
旅団の仲間に良くやっているように、見上げる夜空の星のひとつひとつにオリジナルの名前を考えながら、アメリアは夜を歩く。
本当は、早く石柱の頂に登ってみたいのだ。
(「この地で最も月に近い――なら、もしかすると、月を掴んじゃったりできたら、楽しいよね!」)
あり得ない、とはアメリアは思っていない。
だってここは――そう言う不思議な事もありえる世界なのだから。
やがて、我慢できなくなったのか。
踊る様に跳ねるアメリアの影が、石柱に照らし出される。
そう。影が出ていた。
「やあ、やっと出てきたね!」
いつの間にか上がっていた月を、アメリアが眩しそうに見上げた。
●月影の道標
他の地よりも遅い、月の出。
煌々と輝く月明かりが、月指しの石群に降り注ぐ。
満ちた月が知っている――その謎は徐々に露わになろうとしていた。
「月が知ってるって聞いたけど、どういうことかしら?」
「お空の満月に向かって話しかけたら答えてくれるかなあ」
フィーナとスノウが同時に月を見上げて、その眩しさに思わず目を瞑る。
「物々しいこっちの方に何かあるのかしら」
目をしぱしぱ瞬かせながら、フィーナの手が石柱を叩く。
そちらと言う事になるだろう。月そのものがどうこう、と言う線はなさそうだ。
「月で出来る影、とかかしら?」
「影……石柱のデコボコに、何か見える?」
リジェリの呟きに、スノウは今度は石柱の表面に目を凝らしてみるが、特に何も見つからなかった。
「と言うか、石柱、どれも昼間よりも白く見えないか? 月光の照り返し? いや、月光に反応している……?」
「ここいらの地質に、月灯りに光る石の類が含まれているのかもしれないな」
瑠碧が呟いた疑問に、フィーリが返す。
月の光と陽の光ではその波長は異なる。そう言う鉱物も、世界によっては存在してもなんらおかしくはない。
「そうなると、石柱そのものの、影かしら……?」
「そうなるだろうな。石柱表面に影が出来難いのなら、石柱そのものの影か。フィンガーは指、月の影で出来る指……?」
瑠碧とリジェリが、揃って首を捻る。
近づいている気がするが、どの石柱の影を見れば良いのだろう。
「……まだ時間が早いのかもな」
黙って辺りを見ていたローが、ぽつりと口を開く。
「太陽に南中ってあるだろう? 月にも南中――軌道の頂を通過する時がある」
太陽も月も、ほぼ同じ軌道を描く。
ローの考えは、丁度、月が南中に差し掛かったその時に、月を突刺すように聳える石柱があるのではないか、というものだ。
そして、その時がやって来た。
月指しの石群を見下ろすように、その南中に来る時が。
降り注ぐ月光が、幾つもの石柱を照らす。
照らされた石柱の影が伸びて、幾つもの影が重なっていく。
「リュカ、かげが! すごいよ!」
「うん。見てる見てる。そう言う事か」
ゆさゆさと肩を揺らすオズを制しながら、リュカの目が影を追う。
そして――重なった影は、全てが1つの石柱に向いていた。
その中程よりも少し上までが、他の石柱の影を浴びて真黒に染め上げられている。
「そうか。石柱群の外側の柱に、僅かな傾きがあるように見えたのは。こう言う事か」
それを見た華乃音が、やや驚きながら口を開いた。
柱が傾いているなら、その影の角度も微妙に異なって来るはずだ。
「私は見る。しかし今ではない。私は見つめる。しかし間近ではない――か」
華乃音の口が、聖書の一句を告げる。
月だけが知っている――昼間の陽光で見られないのは、石柱自体が月明かりでのみ輝く性質だからだろう。
石柱が僅かとは言え輝く事で、余計な影ができないからこその光景。
時期によって、月の南中高度は変わる。それでも、おそらくこの影が作る光景は大きくは変わらないのだろう。影が染める長さが変わるくらいだ。
そして、外から見ているだけでは、外側の石柱が邪魔で、見えないだろう。
月を指す指の中にいなければ、決して見えない光景。
それはもう1つあった。
南中を過ぎた月が傾き出すと、石柱の影も動く。
やがて、影を浴びていた石柱自身の影が伸びて――他の石柱に映し出される。
その影の中には、他の柱になかった何か大きなものの影と、その周りに揺れる小さな影が写し出されていた。
「石碑の影……周りで揺れているのは、花か?」
フィーリの言うように、揺れる影は花に見えた。
「月明かりに咲く花、と言うものだろうか」
確かに月夜に咲く花もある。フィーリの言う可能性はおおいにあるだろう。
(「勇者、か。俺が勇者になれるか判らないが。なるにしても、ならないにしても、一度はその伝説を見てみたいものだな」)
石碑の存在を示す影に、この地の勇者の伝説の確かさを感じ、フィーリはそれのある頂への想いを強くする。
(「あれが石碑……そこにある『勇者の意思』かぁ」)
猟兵になる前の自分だったら、そんなあやふやなものは信じなかっただろうと、エルトは影を眺めながら思う。
だが、今のエルトは猟兵だ。色々なものを見てきた。ヤドリガミのような『思いの結晶』と言える実例も知ったのだ。
(「勇者の意思だって、手掛かりになるかもね。どうやって情報を引き出すのか、さっぱりわかんないけど……実物見たら浮かぶかな」)
胸中で呟きながら、エルトも石碑の存在を示す影を眺めていた。
「勇者の伝説か。ちょっと心躍りますね」
「えっくんもそういうの好きなんやね?」
伝説の確かな影を目にして笑みを浮かべる円月の顔を、咲夜が覗き込む。
「いやまァ勇者って聞いて興奮しない男性はいませんから。こればっかりは、咲夜は女だから解んないかもね。男の浪漫だから」
「わからんでもないけど、浪漫かぁ……」
戦隊モノに憧れるみたいなものかな、と咲夜は首を傾げてはいたけれど、円月の顔が楽しそうに笑みを浮かべていたので、それ以上追求しない事にした。
「さて、皆さん。夜更かしはそろそろ良いのではないですかな?」
パンと軽く手を叩いて、ヘンペルがそう告げる。
「月や星を眺めるのは、良き事です。遠く何億光年と離れたあの星の何処かで、我々の様に星空を眺めている人々がいるやもと思うと、浪漫ですなぁ……。
しかし、今宵はもう宵っ張りを気取る理由もありますまい。これ以上は明日にも響くでしょう。紳士的にも、夜更かしはあまり好ましくありません」
ヘンペルの言う事も尤もだ。
「ああ、寝る前の一杯を御所望でしたら、いつでもどうぞ。紳士ですので」
ヘンペルがくるりと返したシルクハットの中に手を入れると、そこからティーセット一式を取り出してみせる。
これから夜明け前は、気温が下がる。
温かい紅茶を飲んでから寝るのは、良い事だろう。
そして、猟兵達はそれぞれ、明日に備えての眠りに着き始めた。
テントを張ったものは、その中へ。
あるものはその場で腰を下ろし、コートやマントで包まり体を休める。
「明日は本格的な冒険になりそうだし、明日に備えてゆっくり休みましょう、スノウ」
「うんー。がんばって起きてたけど、さすがに眠いのー……」
リジェリはスノウを促し、木で囲われた場所に戻っていった。
(「ほんとう、降ってきそうな星空ね」)
仰向けに並んで寝転んで、リジェリはしばし夜空を見上げる。
月が遠くなりだした夜空には、再び大小様々な星が瞬いていた。
この満天の星空を目に焼き付けよう――そう思って星空を見やるリジェリの耳に、スノウの寝息が聞こえて来た。
規則正しい小さなリズムを聞いている内に、リジェリの瞼もとろんと落ちてきて――2人分の小さな寝息が立ち始めるのに時間はかからなかった。
伝説の影に触れた、夜が更けていく。
そして、朝が来る。
伝説の在り処へと、手を伸ばす朝が。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 冒険
『そびえ立つ崖を登れ!』
|
POW : 気合で登れ! 体力の続く限り!
SPD : 体力が尽きる前に素早く登る!
WIZ : 道具や魔法を使って登る。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●天頂を目指す朝
月明かりと月影が示した、勇者の伝説の残る石柱。
それがどれかは判明した。
あとは、その天頂に到達するだけ。
だけ、とは言うけれど。
聳え立つ石柱を登るつもりで見上げてみると、これはもう断崖絶壁も同じだ。
どれだけ登れば良いのだろう。地上からだと、ちょっと良く判らないほど、高い。
周りの柱も、どれもこれも似たような状態である。
他の石柱を登って飛びついても、労力はあまり変わらないだろう。
ならば、飛んでいくか?
時に吹く強風の対策を取れれば、それも不可能ではないだろう。
幸いなのは、時間はたっぷりある事だ。
うっかり落ちてしまっても、やり直しも効く。疲れるだろうけれど。
地上でアレコレ考えていても、仕方がない。
さあ、登ろうか。
========MSより==========
昨夜は遅くまで夜更かしでしたね。
その疲れは特に影響ありません。
選択肢の例は登る感じですが、飛んでみたっていいんです。
UC、技能、そしてプレイング。
色々駆使して、天頂を目指してください。
敢えて天頂までの高さを数値で明らかにしていないのですが
目安として、mで3桁はあると思っておいて頂ければ大丈夫です。
うっかり落ちてもやり直しも効きます。
========================
フィーナ・ステラガーデン
【wiz】
高くて、強い風が吹いてるのよねえ。
うーん・・・ピコーン!
それなら風で飛ばされないほど重くて
すごい勢いで飛んでいけば問題ないわね!
UCを使用して私の元までマグロを移動させるわ!
ぱたぱたとマグロの炎を沈下した後、アイテム「あんしん旅人セット」から
ロープを取り出して私の身体とマグロの尻尾の付け根あたりに括り付けて
準備万端よ!
どうやって止まるのかって?
そこんところどうなのよマグロ!
「グロォ!」
うん!きっと大丈夫ね!(通じてない)
(マグロの身体にへばりついて)
上むいてーその位置ね!じゃあいくわよ!天を突くのよマグロ!
(アレンジアドリブ連携大歓迎
地面に人型の穴でも杖に乗ってゆっくり落ちてもOK)
ヘンペル・トリックボックス
ナマハゲ型の超巨大な式神、『前鬼』と『後鬼』を召喚します。超巨大とは言え、ただ肩車しただけでは到底届かない高さ……ですので、ちょっと工夫をしてみましょう。
①前鬼、岩山の天辺目掛け鉞をブン投げる
②前鬼はそのまま中腰で、両手を前にしっかり組んで待機
③私を掌に乗せた後鬼、十分に助走をつけ前鬼の組んだ腕へ跳躍
④前鬼、全身のバネを使って後鬼を上空へ飛ばす
⑤後鬼、鉞の柄まで跳躍、着地。柄のしなりを利用してもう一度跳躍
⑥後鬼、限界滞空地点で私を天辺に向け全力でブン投げる
⑦私、木行符で気流操作しつつ天辺へ──行けたらいいなァ!
自分で考えときながら上手くいく気がしませんが……モノは試し!全力で挑むとしましょう!
●マグロが飛び、鬼が跳ぶ
「うーん……強い風が吹いてるのよねぇ」
フィーナ・ステラガーデンが見上げる先で、焚き火の跡から風が攫った灰が、不規則な渦を巻いて舞い上がっていく。
別の場所では。
「この天辺まで行けとわけですか」
見上げていた石柱から視線を降ろし、ヘンペル・トリックボックスはステッキを構えて両目を閉じた。
「オンギャクギャク エンノウバソク アランキャ ソワカ ――出番ですよ、『前鬼』『後鬼』」
護法招来・阿吽屹立。
ヘンペルが唱えた真言に応じて現れる、『前鬼』と『後鬼』の2体の式神達。
だが――式としては超巨大な2体に肩車をさせても、石柱の天頂には届かない。
「さて、どうしたものですかなぁ」
顎鬚を撫で考え込むヘンペルの後ろで、2体の式神が所在なさそうにしていた。
「そうだ!」
パッと表情を変えて、フィーナが顔を上げる。
その頭上に電球がピコーンとしているのが見えるようだった。
「なら、風で飛ばされないほど重くて、凄い勢いで飛んでいけば問題ないわね!」
それはその通りだろう。
だが、そんな都合の良いもの、そう簡単には――。
「出番よ! マグロ!」
『グロォッ!』
フィーナの隣に、炎を纏った巨大なマグロの霊が現れた。
そのマグロ、どっかの世界で邪神してたことありませんかね?
「今は炎はいらないわ」
『グロロ』
ぱたぱたと炎をはたくフィーナの言葉がわかったのか、マグロの霊が炎を消す。
「私を引っ張って飛ぶくらい、できるわよね?」
『グロォッ!』
炎が消えて、任せとけと言わんばかりの巨大なマグロに、フィーナはその巨体と自分の体を旅人セットから取り出したロープで結びつけた。
「あと、ちゃんと止まれるのよね?」
『グロォ!』
「うん! いい返事! きっと大丈夫ね」
大丈夫かなぁ?
「マグロ、もうちょっとこっち……そう、その位置よ! じゃあ行くわよ!」
周りの視線を気にした風もなく、フィーナはマグロの位置と角度を調整すると、その尻尾らへんにへばりついて。
「天を衝くのよマグロ!」
『グロォォォォッ!』
一声吠えて答えたマグロは、フィーナを乗せてまるでロケットの様に真っ直ぐ天へ向かって飛んでいった。
「いい調子なのよ、マグロ! もうちょっとで――なんかスピード上がってない?」
ドドドドドッ!
フィーナの不安を他所に、マグロはどんどん天へ突進していく。
「え、あれ? 今の天頂? もう止まっていいのよマグロ!?」
フィーナの声が聞こえているのかいないのか、マグロは止まらない。
ここで、思い出して頂きたい。
飛び出す直前、フィーナがマグロに何と言ったか。
――天を衝くのよマグロ!
そうだ。確かに、こう言ったではないか。
天。即ち空。ゆえにマグロは空に向かって、突進していく。元々、突進で攻撃するユーベルコードだしね?
「止まってぇぇぇぇぇぇぇ!?」
しっかりと括ったロープに引っ張られ、フィーナも天へ連れられていった。
はるか上空にマグロ雲が描かれていた頃。
「ふむ。むむむ。正直、上手く行く気がしませんが――」
やがて、ヘンペルの脳裏に1つの手順が組み上がる。
それは、第六感が所謂『嫌な予感』の類を告げるくらいのものだったが、それ以上の案が浮かばないのも事実だった。
「モノは試し! 全力で挑むとしましょう」
マジックだって、失敗する時はするものだ。
見上げているだけでは、登れない。
「前鬼、後鬼――行きますよ」
手順を伝えたヘンペルの号令で、式神達が動き出す。
まず前鬼が業火を纏った鉞を投げて、石柱の半ばに突き立てる。
鉞を投げると同時に動いていた前鬼は、石柱から少し離れた所で両手を組んで、中腰になって身構えた。
「後鬼、私を乗せて――跳べ!」
そこに走っていくのが、片方の掌にヘンペルを乗せた後鬼。
短く助走した後鬼は、前鬼の組んだ掌に片足をかけ――後鬼の跳躍と同時に、前鬼は全身の撥条を使って後鬼を頭上へと押しやった。
自身の跳躍と前鬼の力を合わせ、後鬼が巨体に見合わぬ身軽さで跳び上がる。
タンッ。
後鬼が降り立ったのは、鉞の柄。
ギシリと撓るほど柄に力をかけて、それを足場に後鬼はそこから更に、跳躍した。
後鬼の掌の上で、ヘンペルが一枚の符を掴む。
木行歳星符。
対応する理のひとつは――風。
風を阻むのも、また風だ。
木行符が再現した風が周囲の風を飲み込んで、風の道を成す。
「後鬼――今です!」
そこに向かって、後鬼はヘンペルを『全力で』ブン投げた。
2体の式神と符術も使った、3段跳躍。天辺へいけたらいいなァ、くらいの気持ちでヘンペルが試したそれは、予想以上の結果を出していた。
「はっはっはっ! 飛びすぎですな」
愛用の帽子を押さえ、石柱の天辺を見下ろす空で、ヘンペルが笑う。
全力でブン投げろ、なんて言うから。
「いやしかし笑ってる場合じゃないですな。どうしたものか――ん?」
その時、ヘンペルは誰かの声を聞いた気がした。
こんな空で?
「落ーちーるー!? 落ーちーてーるー!?」
フィーナだ。空から降って来る。
何とかして、マグロから離脱できたようだ。
手にした花のような杖には、赤い色が輝いている。飛行能力は出ている筈だが――乗れずに掴まってる状態では、上手く飛べていないのだろうか。
このままだと、地面にフィーナの形の穴が作られてしまいかねない。
「これは行けませんなァ……もう一度、木行符――いや、ここはこっちですな」
ヘンペルが掴んだ符は、土行鎮星符。
対応する理のひとつは――重力。それを2枚。
「あの場所に引き寄せれば、何とかなりましょう」
重力のベクトル操作で、まずはヘンペル自身が石柱の上に着地。
後に、フィーナにかかる重力を同じ場所へと引き寄せる。
「わわっ!? 引っ張られ――あ、でもこれなら飛べる!」
引き寄せられることで軌道が安定し、フィーナもややふらつきながらも石柱の上に何とか着地した。
猟兵とは、埒外の存在である。
本気を出せば、文字通りに勇者の伝説の上を行く事くらい、造作もないようだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アメリア・イアハッター
影で表現する踊りっていうのもいいね…今度考えてみようかな
さて謎は解けたみたいだね
皆で頑張って登っていこ!
・行動
UCを使い本体の赤い帽子を最大数複製
まずはそれを隙間なく地面に敷き詰め、帽子に巻かれている縄でそれぞれを結び付ければ
じゃーん!空飛ぶ帽子イカダの完成!
私の力で浮かせるから私が乗ってもきっとへっちゃら!
これに座りゆっくりと空へと昇っていこう
きっとスピードは出ないから、周囲の景色も眺めながらのーんびり
狭いけど少しくらいなら誰かを乗せられるかな
誰かが上から落ちてきたら拾ってあげましょう
風?
ふふん、私が空で、乗って動かしてるのよ?
風は友達!
むしろうまく風に乗ってちょっとした飛行も楽しんじゃお!
ニコ・ベルクシュタイン
【うさみっち(f01902)と】
うさみは自力で登る事を選んだか、応援だけはしてやろうか
(駄目だった模様を見て)
…この根性無し、と言いたい所だが堪えてやろう
うさみ一人増える位どうという事も無い、同行するなら来るが良い
「クライミング」と「ロープワーク」で堅実に登る事も考えたが
【精霊狂想曲】で「風の竜巻」を起こして
思い切って其れに乗り、一気に上空へと舞い上がり
崖の上までひとっ飛びという寸法で行こうと思う
制御の面で些か不安は残るが、何とかなだめすかして行こう
「全力魔法」の出番だろうか、伝われ俺の此の…「気合い」的な…!
若し失敗してしまったら、当初の予定通り堅実に登ろう
うさみ、お前も協力するのだぞ
榎・うさみっち
【ニコ(f00324)と!】
ふっ、俺の羽根があればこんなのひとっ飛びで…
\ぴゃああああ/
ゼェ…ハァ…
気を取り直して!俺はこのかっこいいワイヤーで登るぜ!
まずワイヤーを身体にしっかり巻き付けて取れないようにする
ワイヤーの先端のフックを石柱にガッと刺しながら登る
これで強風が来てもワイヤーが命綱になってくれるぜ!
…ぴゃあああ もうやだ疲れたぁぁぁ!ニコ!運んでー!!
そしてニコの懐にIN
わー!なんだこの竜巻すげー!
これがじょーしょーきりゅーってやつかー!
遊園地のアトラクションみたいー!
とキャッキャとはしゃぎまくり
あとちょっとで行けるぞー!頑張れー!
ダメだったらその時も応援という協力をするぜ!
泉宮・瑠碧
…頂上が見えないのは、僕の目が悪いのか?
これを登ったという勇者って凄いな…
風の精霊に
目的の石柱の周囲の風の流れが緩やかになる様にお願いし
風鳥飛行で頂上まで飛んで行く
一応、鳥の姿を取ってくれてはいるが
この子も風には違いないので
この付近の気流には何かあるのかを訊いてみよう
…単純に、そういう立地なだけな気はするが
念の為、第六感で気流の変化には備えておく
風が強くなったりしたら騎乗のまま伏せ
鳥は石柱の岩肌に張り付く様にしてやり過ごすぞ
その為
なるべく石柱の近くに沿って浮上するが
…これ、腕力で登るのは僕には明らかにアウトだな
高所は怖くは無いし、木登りも多少は出来るが
途中で体力が尽きて落ちる未来しか浮かばない
●風に乗る猟兵
「増えろ、私!」
ほとんどいつもその頭にあり、アメリア・イアハッターのトレードマークと言っても過言ではない赤い帽子――それはアメリア自身でもあった。
ヤドリガミであるアメリアの本体と言う事だ。
その赤い帽子の複製が、錬成の力によって幾つも幾つも作られていく。
「よしよし、それでは――整列!」
ふよんふよんと辺りを漂うだけだった28個の赤い帽子は、アメリアの念力で地面の上に敷き詰めるように整列した。
そうして帽子に巻かれた縄を絡めて、全ての帽子を一繋ぎに結び付ければ――。
「じゃーん! 空飛ぶ帽子イカダの完成!」
ふわりと浮き上がる赤いイカダは、アメリアが座ってもそのまま浮いている。
「うんうん。私の力で浮かせてるんだから、私が乗ってもへっちゃらよね!」
帽子を操作しているのは、アメリアの念力。
そして全ての帽子もアメリア自身。
全てが己によるものならば、アメリアが飛べると疑わない限り、その赤い帽子のイカダがアメリアを空に運べぬ筈がない。
ふわり、ふわり。
アメリアを乗せた赤いイカダは、ゆっくりと空中を登っていく。
「……まあ、スピードは出ないけどね」
アメリアに、その速度を気にした様子はない。
ゆっくりと流れていく景色を、のんびりと眺めるのも悪くない。
そう思っていると、風が下に流れていくのを感じる。
アメリアが視線を下に落とせば、薄青い姿の元に風が集まるのが見えた。
石柱に取り付き、昇っている姿も見える。
「うん。皆もそれぞれ、頑張ってるわね」
そう呟いたアメリアは、赤いイカダをまた一段ふわりと押し上げた。
●風を紡いで
「……頂上が見えないのは、僕の目が悪い……のではないのだね」
泉宮・瑠碧は見えていた。
見てしまった。
お空の彼方まで飛んでった、マグロを。
いっそ目の錯覚とか、目が悪い、だった方が良かったかもしれない。
瑠碧の目の前に聳える現実の厳しさと来たら。
「精霊に頼もう」
瑠碧にその方針を決意させるのに、時間はかからなかった。
風よ、暫しの時、力を貸して……
其の身は風と等しく、自由に空を翔けるものなり……
風は本来、定まった形を持たないもの。常に吹き続けるもの。
だが、祈りにも似た瑠碧が唱えた願いに応えた風が、姿形を持っていく。まるで極細の糸が紡がれていくような、人の指では消してなしえぬ精緻な変化。
風鳥飛行――ウィンド・バード。
その背中に乗って、瑠碧は空に舞い上がる。
風の鳥が広げた翼が、風を裂いて飛んでいった。
●飛べるはず
そんな2人に触発されたのだろうか。
「ふっ、俺の羽根があればこんなのひとっ飛びだぜ! 見てろ!」
言うなりばびゅんっと飛び出していった榎・うさみっちの小さな背中を、ニコ・ベルクシュタインは地上から何とも言えない目で見送っていた。
――テントごと風に飛ばされたのを忘れたのか?
と言いたげである。
「まあ、自力で登ると言うなら応援だけはしてやろう」
でもそれは言わないで、ニコは素直に応援し――。
\ぴゃああああ/
あ、なんか駄目そうな声が降ってきた。
力尽きたらしいうさみっちが、赤いイカダにぽてんとワンクッションして貰って、ニコが掲げた掌にぽてちんと落下する。
「ゼェ……ハァ……」
(「この根性無し……とは言わないでおいてやろう」)
掌の上で喘ぐうさみっちに、ニコがもっと何とも言えない目を向けていた。
――だいじょうぶー?
「大丈夫だ! でも、羽根だけじゃだめだな!」
上から降ってきた声に手を振って、うさみっち復活。
「気を取り直して、このかっこいいワイヤーで登るぜ!」
うさみっちはもぞもぞと、ワイヤーの端を身体にしっかりと巻きつける。
「これをこうして――こうだ!」
そして、うさみっちが投げたフックが石柱にガッと突き刺さった。
「これで強風が来ても、このワイヤーが命綱になって落ちることは無いぜ!」
(「うさみ、何故フラグを……いや、何も言うまい」)
ニコが胸中で嘆息した、数分後。
「ぴゃあああ!」
再び力尽きたうさみっちが、石柱からワイヤーでぶら下がった状態で風に煽られてくるくる回っていた。
●風を飛ぶ風の翼
ヒュゴゥッ!
「っ! 風鳥よ、岩肌に!」
その音が耳朶を打った瞬間、瑠碧は早口に告げていた。
その言葉を聞き逃さず、風鳥がふわりと石柱の面に舞い降りる。
ゴゥと強く吹き抜ける風に、風鳥が瑠碧を守るように風の翼を広げる。
「この付近の気流、何か特別なものなのかな?」
その背中の上で伏せたまま、風鳥に瑠碧が尋ねる。
『……?』
返って来たのは、風鳥の不思議そうな意識だけだった。
「……やはり。単純に、そう言う立地なだけか。だろうとは思ったよ」
瑠碧の声に、諦めが滲む。
「うん。これ、腕力で登るのは僕には明らかにアウトだね」
首だけ動かし眼下に広がる飛んで登ってきた距離を眺め、瑠碧は思わず素の口調に戻りかけていた。
別に高いところは怖くない。
単純に、生来の非力さの問題だ。
多少の木登り程度なら出来るが、この石柱は比較対象にすらならない。
「これを登ったって言う勇者も、登ろうとしてた人たちも、凄いな……」
飛び立った直後に見えた登ろうとしていた猟兵達を思い出し、素直に感心する。
そうしている内に、風は止んでいた。
「ここまで来て、体力が尽きて落ちるのはゴメンだ。一気に飛んでいこうか」
瑠碧の一言に風の翼が応えて、ぐんっと力強く羽ばたいた。
「っ!?」
その勢いに瑠碧が思わず風鳥にしがみ付く。気がつけば、天頂はすぐそこだった。
●昇竜が如き風に運ばれて
「もうやだ疲れたぁぁぁ! ニコ! 運んでー!!」
「仕方がないな。来るが良い。うさみ一人増える位、どうと言う事もない」
回収されたうさみっちが懐に潜り込むのをニコがあっさりと受け入れたのは、その努力は買ったからだろうか。
(「そうは言ったが、どうしたものか」)
それはそれとして、ニコは石柱を見上げて改めて思案する。
ロープとクライミングの技術を駆使して、堅実に登るのも可能だろう。
だが――
「風よ、俺を乗せて渦を成せ。荒れ狂え精霊よ、汝らは今こそ解き放たれん!」
敢えて、精霊の力を解放する業を使う事を選んだニコの足元を、渦巻いた風がふわりと押し上げる。
渦巻く風は次第に強くなり、やがて目に見えるほどの風の渦になった。
「わー! なんだその竜巻、すげー!」
うさみっちの上げた歓声の通り、それはもう小さな竜巻だ。
竜巻とは、単なる風の渦巻きではない。上昇気流を伴うものだ。故に、竜巻に飲み込まれたものは地上から吸い上げられる。
ならば、最初からその上に乗れたなら?
「じょーしょーきりゅーってやつかー! 遊園地のアトラクションみたいー!」
ニコの懐でキャッキャとはしゃぐうさみっちだが、この術、制御が難しいもので。
「うさみ、はしゃぐな。制御の面で些かの不安がある。若し失敗してしまったら、堅実に登るしかなくなるぞ。その時は協力するのだぞ?」
告げるニコの眉間には皺が寄り、額を汗が伝う。
「それは困るな! 頑張れ、ニコ!」
うさみっちの声援に、ニコは小さく息を吐いて――全力を出す事にした。
「その竜巻で、俺をこの石柱、崖の上までひとっ飛びに飛ばせ――精霊狂想曲!」
全魔力と気合いを声に込めて、ニコが精霊に告げた直後。
竜巻の勢いが増した。
渦巻く風の先端を尾の様にすぼませ、一気呵成に上空へと昇る風はまさに昇竜。
「ひとっ飛びとはこう言うものだ、うさみよ」
「え、これ飛びすぎじゃね?」
そう。到達すれば良かった石柱の天頂は、眼下にある。うさみっちの言う通り、ちょっと飛び過ぎてた。
さらにその状態で、ニコの足元で竜巻がふぅっと消えた。
――崖の上までひとっ飛び――その一言に、精霊は忠実に応えてここまで運んでくれたのだろう。気まぐれをおこしたのでは、ないと思う。多分。
何にせよ、上昇が止まった。
次に感じるのは浮遊感。そして、落下。
「アトラクションみたいって言ったけど、これジェットコースターじゃねーか!」
「着地するだけなら、何とかなる!」
言い合いながら真っ直ぐに落ちた2人は、石柱の天頂に無事に着地を果たした。
●友たる風に、空影揺れる
ふわり、ふわり。
「やっと頂上が近づいて来たかな? 景色も段々変わってきたね」
赤いイカダの上で、アメリアが石柱群の向こうに見えた緑の景色に歓声を上げる。
上の方は、何だか賑やかだ。
何人かの猟兵は、既に先に天頂に届いている頃だろう。
だが、アメリアは昇るごとに少しずつ変わる景色を、楽しんでいた。
ヤドリガミとして自我を得た時から常に溢れる空への想いが、そうさせているのもあっただろう。
それともう1つ。
「おっと」
ビュゥと向きを変えて吹き付けた風が赤いイカダを流そうと瞬間、アメリアは念力で一部の帽子の向きをくるりと変えた。
帽子で、風を受け止める向きに。
「私が空で、乗って動かしてるんだもの。風は友達よ!」
風を切るでも逆らう逆らうでもなく、帽子で風を受け止め、風に乗る。
それだけの騎乗技術があるからこそ、アメリアは景色を眺める余裕もあるのだ。
ぶつかりそうになった石柱を押して離れてから見れば、風に揺られる自身の影が石柱の上でも揺れている。
(「影で表現する踊りっていうのも、いいかも……今度考えてみようかな」)
昨夜の影を思い出しながら、アメリアはある意味風任せな空中散歩を、最後まで楽しそうに続けていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
エルト・ドーントレス
連携・アドリブ歓迎
POW選択
レッキスのブースター全開で天辺まであっという間…だと思ってたけど、この風だとちょっと無理そう。
昇って落ちてを繰り返しててもしょうがないし、面倒だけど一歩一歩登っていくしかないかなぁ。
要はレッキスでロック?クライミングやろうって話。
使うのはアンカーシューター&ウインチユニット。
アンカーにワイヤーロープを繋げたら、10m先の壁面にそれを撃ち込んで
ウインチでロープを巻き上げ。
足を踏み外さないようにヒールバンカーをスパイク代わりにして、一歩ずつ確実に登ってく。
あとはこの作業を繰り返すだけ。
追加でUC守護擬精の風の力で強風をそらして機体を持ってかれないようにするよ。
●風纏い、壁歩む
『コード実行。パラメータ設定。擬似精霊の生成開始……』
流体を操作する風の擬似精霊を纏った灰色の機体が、
ウィーン! ガシャンッ! ガシャンッ! ガシャンッ!
と、モーター音と機械音を響かせて、石柱を登っていた。
機械音とモーター音を響かせて、灰色の機体が石柱を登っている。
エルト・ドーントレスの乗機である、灰色の高機動型パワードスーツ・PSX-03R『レッキス』である。
当然、中にはエルトがいる。
「風の擬似精霊で風を逸らしてみたけど、やっぱりレッキスのブースター全開で天辺まであっという間……ってのは、ちょっと無理そうだねぇ」
呟くエルトの声は、外には出ずに『レッキス』の中だけで響いていた。
『レッキス』の脚部には、スラスターが集中している。
とは言え、それはホバー移動を可能とする事を目的とした機構であり、飛行ユニットと言うわけではないのだ。風を切って飛べるほどの推進力は望めない。
だが、エルトは諦めなかった。
「面倒だけど、一歩一歩登っていくしかないかなぁ」
『レッキス』がその脚に備えている機構はスラスターだけではない。
ガシャンッ!
『レッキス』が一歩、石柱を登る度に鳴らす音がその正体。
ヒールバンカー。
その名の通り、脚部裏面、踵に近い位置に装着した杭打ち機構である。打ち込む事もできるその杭を、エルトはスパイク代わりに利用していた。
(「打ち込んだって壊れやしないだろうけど、時間かかるし」)
すぐに落ちないように、引っかかればそれで良いのだ。
登る力は、別にある。
ウィーン!
――もう1つの音の正体が、それだ。
アンカーシューター&ウインチユニット。
牽引機構とそれに耐えうるだけの錨付きのワイヤーロープ機構。
アンカーを上方――石柱の壁面に立っている今では、前方に向けて撃ち込む。
後はウィンチユニットがワイヤーロープを巻き取り牽引する力を使って、『レッキス』の脚を進めていくだけだ。
「レッキスでクライミングする日が来るなんてねぇ」
どこか面倒くさそうなエルトの声が、レッキスの中に響く。
かつての母船「ドーントレス」の中にいては、おそらくできなかった経験だろう。
ただひとつ問題があるとすれば、ワイヤーロープの長さ。
アンカーを撃ち込める限界距離は、その長さで決まる。
「あと何回、この作業を繰り返せば良いのか……考えない方がいいよねぇ」
登って落ちてを繰り返してても、と思って始めたクライミングだけれど。それを繰り返す回数からは目を背けて、『レッキス』を動かし続ける。
『レッキス』が壁面に刻む、錨と杭の跡。
その轍が後に続く猟兵達の一助になるとは、エルト自身気づいていなかった。
成功
🔵🔵🔴
ロー・オーヴェル
天を突くような樹に昇ったことはあるが
「幹だけ」といえる柱はまた別物だな
だが盗賊たる者この程度では怯めない
例えば厳重な警戒の城に忍び込み囚われの姫様を助けて
そして甘いラブロマンスを体験するということはできん
……あれ、最初は何を考えていたんだっけ?
まぁいいや
●
手足に滑り止めを十分に施す
柱途中に手足を引っ掛けられる箇所等があれば活用
もし柱がハーケンを打てる強度なら利用
一端にロープを結びもう一端は身体に結び安全帯代わりに
打てない強度なら……ロープをしかと柱に結び
それを取っ掛かりにして地道に昇る
●
一気に昇れない俺は非力だ
勇者なんぞには程遠い
でもだからこそ
努力と工夫で物事を攻略して成長していける
そうも思う
●使えるものは使う
「何と言うか……また、すごいもん出てきたな」
ガシャンッ、ガシャンッと音を立てて、灰色の機体が登っていった方を見上げて、ロー・オーヴェルが感心したように呟く。
マグロやら風の鳥やらも感心したけれど、あれも驚かされた。
「ま、お陰でこいつがそこまで固くないって事が判ったが」
コンコンと、小さな金属が石柱を叩く。
ローが手にしているのはそれは、鉤状の金属。ハーネスと呼ばれる登山道具だ。
ローは幾つか用意したその1つ1つを自分の身体とロープで繋いで、さらに手足には滑り止めを施した。
「さて、行くか」
そして、ローは石柱の凹凸に手をかけ、登り始めた。
ある程度登ったところで、ローはハーケンを岩の隙間に打ち込み身体を固定した。
そのままでロープが届く範囲に手をかけ、別の割れ目にハーネスを打ち込んでから、先のハーネスを抜いて体を持ち上げる。
アンカーを撃ち込んだ跡に残っている小さなヒビを利用すれば、ハーネスを打ち込む隙間に困ることもない。
「以前登った、天を突く様な樹とはまた別物だが……これなら何とかなるな」
別物とは言うが、活きる経験もある。
腰をかけられるくらいの大きな突起を見つけたローは、全てのハーネスを打ち込んで体を固定すると、携帯灰皿を取り出す。
紫煙が空に流れていった。
●盗賊たるもの
「随分と登ってきたが……まだか。勇者ってのは、これを一気に登ったのかね」
ローのぼやく声と、腕が震えている。
腕の震えの方は、煙草か疲れかどちらだろうか。
「一気に登れない俺は、非力だな」
ぼやくように言いながら、ローは腕に力を込めて岩肌を登る。
「俺は勇者なんぞには、程遠いんだろうな」
自分の事をそう評価するローの声に、諦めの色はなかった。
だからこそ、だ。努力と工夫で足りないものを補い、工夫して成長していける――そんな風に、ローは内心思っていた。
「それに……盗賊たるもの、この程度では怯めないからな」
盗賊が行くのは、楽な道ばかりではない。
目的の為には、時に道ですらない所も通る事もあるだろう。
「この程度で怯んでたら、警戒が厳重な城に忍び込み、姫様を助けて、甘いラブロマンスを体験するということはできん」
……。
「……あれ? 最初は何を考えていたんだっけ?」
疲れのせいだろうか。
それとも空気が足りなくなってるのだろうか。煙草が足りないのか。
自分でも何を考えていたのかと、ローは思考を巡らせ――。
「まぁいいや」
天頂が見えてきたので、深く考えるのをやめて一気に登っていった。
成功
🔵🔵🔴
オズ・ケストナー
リュカ(f02586)と
やっぱりたかいねっ
見上げて
わたし柱のぼったことない
リュカは?
うん、まかせるっ(楽しそう)
いのちづな(くいくい)
リュカのまねして
くぼみとかでっぱりに手足をひっかけてのぼるよ
【学習力】で早く慣れたらいいな
リュカ、すごいね
どこに足をおけばいいのかわかってるみたい
ねえねえリュカ
あの雲、うさぎみたい
えっとね、右側
風がつよいからかな
どんどんはしっていっちゃうね
ずいぶん高いところまできたね
テントがあんなにちっちゃい
たかいなって思ったけど
リュカと話して周りを見てたら
あっという間にきちゃった
ふふ、もうちょっとだね
雲、わたがしみたいだものね
おいしそう
やっぱりあまいのかな
ついたっ(ばんざい)
リュカ・エンキアンサス
オズお兄さん(f01136)と
…高いな
崖…。旅の途中がけから落ちかけて登ってきたことなら何度か
だからクライミングは齧った程度なんだけど
オズお兄さんの顔を見たら、任せろ、って言ってしまう不思議
先ずはざっとその形を見つつ足をかけられそうなルートをあらかじめ目星をつけてから登る
途中に引っ掛かりがあるならこれ幸い。フック付きワイヤーを投げてそれを元に進む
命綱もしっかりとね
いざとなったらお兄さんを助けられるように、確りしなきゃ…
え、雲?
どれ
わからなかった
悔しいから今度は俺が面白いのを探す
…本当だ。テントがもうあんなに遠い
喋ってたらなんだかあっという間だな
ちょっとお腹すいてきた
雲が食べられたらよかったのに
●堅実に楽しく
2人が石柱を登り始めて、どのくらい経っただろうか。
「……高いな」
「うん、やっぱりたかいねっ」
天頂が今だ見えない石柱に、リュカ・エンキアンサスとオズ・ケストナーが向けた言葉は同じでも、表情は全く異なっていた。
「でもこの穴は助かる。命綱を引っ掛け易い」
杭の跡にフックをかけるリュカは無表情――いつも通りの彼とも言えるか。
一方、オズはどこか楽しそうに、青い瞳を輝かせていた。
「オズお兄さん、楽しそうだね」
「うん。わたし柱のぼったことないから。リュカは?」
リュカが引っ掛けたワイヤーロープを掴んでのぼりながら、オズが破願する。
「旅の途中で、何度か。崖から落ちかけて登ってきたことなら」
これまでのリュカの旅の中には、中々ハードな事もあったようだ。
「そっか。だから、リュカ、すごいんだね」
何故問うでもないオズの飾り気のない賛辞に、リュカがほんの少し目を丸くする。
「えっと、クライミングは齧った程度なんだけど」
「でもリュカ、どこに足をおけばいいのかわかってるみたい。いのちづなの事も」
他の猟兵が開けていった杭の跡。
そこにリュカが命綱代わりに引っ掛けたフックから伸びるワイヤーを、くいくいと引っ張りながらオズはリュカに笑顔を向ける。
「任せろ」
オズの真っ直ぐな視線と笑顔に、リュカは思わずそう言っていた。
●兎雲が流れて
「ねえねえリュカ」
「うん?」
すぐ隣で聞こえるオズの声に、リュカは上を見上げたまま曖昧に返す。
(「いざとなったらお兄さんを助けられるように、確りしなきゃ……」)
この先の石柱の形を見て、どこに足をかけ、ワイヤーのフックはどこの穴にかけるか。進むべきルートの目星を付けようとしていたのだ。
「あの雲、うさぎみたい」
「え? 雲? うさぎ?」
だが、続いたオズの言葉にリュカの視線が石柱から外れる。
「どれ?」
「えっとね、右側……もういないね」
オズが首の動きと視線で示した方には、何だか丸々と大きな雲があるだけだった。もしもそのどこかから細長い雲が伸びていたなら、確かにうさぎに見えたかもしれない。
「わからなかった……」
「風がつよいからかな。どんどんはしっていっちゃうね」
表情には出さないけれど少し悔しそうなリュカの肩を叩こうとして、オズは手の代わりに頭をコテンと載せた。
(「悔しいから今度は俺が面白いのを探す」)
リュカは内心、少しどころじゃなく悔しがっていた。
その後も2人は、色んな形の雲を動物やお菓子に見立てた話をしながら、石柱を登り続けていく。
そうしている内に、いつの間にか天頂が見えてきていた。
「ずいぶん高いところまできたね。テント、もう見えないよ」
「……本当だ。さっきまで、テントも小さく見えてたのにね」
首だけ動かして下を見たオズの言葉に、リュカも視線を変えて見下ろす。
もうほとんど何があるか判別も出来なくなるほど遠くなった地上に、これまで上って来た高さを実感させられる。
「喋ってたら、なんだかあっという間だな」
「そうだね。のぼる前はたかいなって思ったけど、リュカと話して周りを見てたら、あっという間だった」
また上を向いて登り出すリュカに、オズが楽しげに付いていく。
「うん。楽しかった。ちょっとお腹すいてきたけど」
「ふふ、もうちょっとだね」
空腹感を感じさせずに淡々と告げるリュカの声に、オズが笑って返す。
「雲が食べられたらよかったのに」
「さっき、わたがしみたいな雲も、あったものね」
まだ雲を食べる話をするリュカに、オズがほんの少し前に見た雲を思い出す。
疲れもあったけれど、2人ともここまでの崖のぼりでコツを掴んでいた。程なくして、天頂の縁に手が届く。
「ふぅ……」
「ついたっ」
登りきったのは、ほぼ同時。
息を吐くリュカの隣でオズが、ばんざい、と手を上げる。
「――雲ってやっぱりあまいのかな?」
その手を下ろしてオズが呟いた言葉に、リュカが目を瞬かせた。
雲は雲だ。
様々な形を取ることはあっても、それは単なる自然現象に過ぎない――本当に?
「……そう言う雲も、あるかもしれないね」
しばし答えに迷ったリュカは、そうオズに返していた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
東雲・円月
双子の姉の東雲・咲夜(f00865)と共に
【POW】
これって石柱を傷付けるのはあんまりよくないですね。
となると、これはもう俺は力でよじ登るしかありません。
こういう修行、漫画で読んだことがありますね。
さて、一丁やってみますか!
ん、咲夜はどうするんだ?
俺はあれこれ考えず、原始的な登り方でやるつもりだけど。
自然が削った石柱だからね、なんだかんだで手足をかける場所ぐらいあるものさ。
……咲夜はどうしてるかな。
どうしても登り方を思いつかないなら、背負ってあげてもいいけど?
おお、マジか。そういう上がり方……い、いや、俺は自分の力で……。
って、うわあああああ!?
は、はは、ありがとう。なんか凄いね、咲夜……。
東雲・咲夜
双子の弟・えっくん(f00841)と
こないに高い柱、どないしましょうね
えっ…えっくんそのまま上らはるの?
かなりの高さやけど落ちないで(はらはら)
うちの着用してる《水守姫》は『空中戦』向け
加えて纏う神霊《花漣》にもお願いしてみましょ
ふたつの力を組み合わせれば
何も無い所でも風の神霊の助けで跳躍できます
すごく跳べる訳ではあらへんけどね
まず一度どれだけ跳べるか試してみて
その後【玉兎】を召喚
応援してもらいましょ
ふふ…かいらしい月兎さん
力を貸してね
失敗する度に兎さんの応援で跳躍力が増す筈やから
ねばーぎぶあっぷ
ある程度の高さまできたら
『念動力』もつこてえっくんを頂上まで放り上げましょ
大丈夫?
怪我はあらへん?
●桜銀の姉弟
「石柱、あんまり傷つけない方が良くないかな?」
杭を打つ足音が残した杭跡が残る石柱を見上げ、東雲・円月が隣の姉に呟いた。
「どないやろうねぇ? こないに高くて大きい柱なら、丈夫そうやけど」
東雲・咲夜もその藍眸で同じものを見上げ、弟の問いにそう返した。
「ま、確かに崩れる心配もなさそうだから、大丈夫かな」
そう言うと、円月は壁面の杭跡の窪みに指を入れると、ほとんど腕の力だけでぐっ自分の体を持ち上げて、そのまま石柱をひょいひょいと登ってみせた。
「えっ……えっくん、そのまま上らはるの?」
それに驚いたのが咲夜である。
「ああ。石柱が崩れないにせよ、あんまり傷は増やさない方が良いだろう? ならもう、俺は力でよじ登るしか無いかなって。原始的な登り方で登ってみる」
「今はいいけど、登るとかなりの高さになるんよ? 落ちないでな?」
石柱を登りながら返す円月の背中を、咲夜の藍眸がはらはらと見上げる。
「大丈夫、大丈夫。自然が削った石柱だからね。この足跡が途切れてても、なんだかんだで手足をかける場所ぐらいあるものさ」
心配そうな咲夜の声色に気づいたか、円月は丁度見つけた壁面の隆起に足をかけ体を安定させてから声の方を振り向いた。
安心させるように笑いかけ、片手を放して振ってからまた登り出す。
(「こういう修行、漫画で読んだことがあったけなぁ」)
何と言う漫画だったか忘れたけれど。
これも修行と思い、円月は手足に力を込めて登っていった。
「えっくん、大丈夫やろかなぁ」
小さく遠くなっていく弟の背中。
「うちも追いかけんとね……花漣、お願いしてもええですか?」
それを見送った咲夜が、抱く神霊の一柱に呼びかける。
「おおきになぁ」
風がふわりと指先に応えたのを感じながら、咲夜は地を蹴って跳び上がる。
花と戯れる風に後押しされた跳躍は、寛雅な印象からは想像もつかない高さと滞空時間を誇った。
精霊や神々の類の歓迎を受け易くなるという纏う装束《水守姫》には、空中での戦いに備えた力もあるのだ。
それでも、跳躍の域を超えられてはいない。
翼を授かったわけではないのだ。
だが――。
「ふふ……かいらしい月兎さん、うちに力を貸してね」
咲夜には、まだ秘策があった。
円月の額を、汗が伝う。
「ふっ――ふっ――」
石柱を己の腕と足で登ってきた円月の呼吸は、さすがに大きくなっていた。
「あれは――やっと見えてきましたか」
そこまで登り続けた円月の視線に、ついに石柱の果てが見えてくる。
酷使した手足に疲労を感じてはいたが、俄然、岩肌を掴む腕に力が篭った。
「……咲夜はどうしてるかな」
この状況で円月が思うのは、地上で一時別れた姉の事だった。
登り出してから一度振り向いた時には、兎の様にぴょんぴょんと跳ねていたけれど、あれはなんだったのだろう?
「ちゃんと登れてるかな」
「登ってるんとは、ちゃうかなぁ?」
「もし登り方を思いつかなかったらどうするか。背負ってあげても良かったな」
「そんな風に考えてくれて……おおきにね、えっくん」
あれ?
なんでだろう。
さっきから、円月の独り言に咲夜の声が混ざるような。
「って、咲夜!?」
「やっほー、えっくん」
円月が横を見れば、そこには桜銀糸の髪を風に揺らす姉がいた。
いつの間に、物音も立てずに追いついたと言うのか。
「月兎さんのおかげや」
咲夜が肩に乗せているのは、もふもふの白うさぎ――玉兎。
――ひとりじゃないよ。
戦闘力はないが、そのつぶらな瞳は主の武器や防具を強化する力がある。
「何度も失敗したけどな。その度にうさぎさんの応援で跳躍力が増して、こんな風に跳べる様になったん――よいしょ」
「え? おお、マジか」
まるで階段を登るような気軽さで、咲夜の足が岩壁を蹴る。直後、その足が何もない空中を蹴ってさらに跳び上がった。
咲夜の肩の月兎は、ユーベルコードだ。その力によって、花と戯れる風と、巫女装束の力が増加され、咲夜は石柱の壁と交互に空を跳ぶまでの力を手にしていた。
「そうか。そういう上がり方も……い、いや、俺は自分の力で……」
「ねばーぎぶあっぷや、えっくん」
それでも自力で登ろうと、岩壁にかける手足に力を込める円月のすぐ横で、咲夜がぴょこぴょこと跳びながら声援を送る。
姉弟が、並んで石柱を天頂へと近づいていく。
「ここまで来たなら、もうええやろ。いくよ、えっくん」
やがて、天頂まであと僅かになったところで咲夜が、そんな事を言い出した。
「へ? なに――って、うわあああああ!?」
何事かと聞き返す円月の体を咲夜の念動力が持ち上げ、一気に天頂へ運ぶ。
「うぉっ!?」
円月にしてみれば、急に体が浮いてめまぐるしく景色が変わったと思ったら、崖を上りきっていたようなものだ。
「えっくん、大丈夫? 怪我はあらへん?」
「は、はは、ありがとう。なんか凄いね、咲夜……」
ぴょんぴょんと跳んで登って、ふわりと舞い降りた咲夜の笑顔に、円月は尊敬と感謝と微苦笑が混ざったような表情を返していた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
久篠・リジェリ
スノウ(f07096)と参加
こ、これを登るのね!登る……の?(断崖絶壁をみあげる
そうだわ飛んで……羽は(背中をふりかえる)…ないわ
何か、何かないの……
じっと見上げる
スノウのUCを見て
すごいわ!これは、いけるわ!!
スノウの巻き付けてくれた蔦を登っていく作戦(?)に
私はスノウのあとからついていくわ
やれる、やれるわよ!
頑張りましょう!
スノウ大丈夫?
後ろから後押しし
もうちょっと…!あとちょっと!
励ましつつ!
スノウ・パタタ
リジェリさん(f03984)と一緒に!
たかーいだねえ!羽、羽ないないなの…体を伸ばしても届かなそうなのよー
えっとね、前にね、絵本よんだの。木がにょきにょきして、雲までいけたお話!せーれーさんにお願いしたら届かせてもらえるかなあ?
【香水瓶の魔法】属性攻撃、範囲攻撃を応用
地面に自然由来の塗料をぐるっと撒き、能力の底上げを。
地属性の精霊魔法を展開し石柱に巻き付く様に木の根と蔦をにょきにょき生やして、螺旋階段!
あとは…登るのよー!
の、…登るのよ…疲れたのよ…がんばるなんです…!
へとへとしつつ、後ろからリジェリさんに押してもらって二人でえいえい登っていきます!えいえい!
疲れて少し溶けてきたけどえいえい!
●道がないなら作ればいい
多くの猟兵が、何がしかの手段をとって石柱の天頂へと向かっていく。
そして地上に残されたのは、少女2人。
「たかーいだねえ!」
「こ、これを登るのね! 登る……の?」
断崖絶壁に等しい石柱の壁を見上げて、スノウ・パタタと久篠・リジェリは、色味の近い青い瞳を揃って丸くしていた。
スノウは、おそらく好奇心。
リジェリは、おそらく不安で。
「そうだわ! 飛んで……羽はないわ」
ない翼を求めて、背中を振り返ってしまうくらいには、リジェリは動揺していた。
どんな道でも進む。
そんな決意を、リジェリは胸に秘めている。
道に迷っても。
歪んだ道でも。
挫けても違えても、進もうと決めているけれど。
目の前のこれは道じゃない。崖だ。
崖は登るものであって、進むものではない。
(「何か、何かないの……」)
それでも、リジェリは諦めていなかった。
石柱をじっと見上げて、思案する。
「すのーも、羽ないないなの……」
一方、スノウはリジェリに倣って背中に翼を探していた。
ブラックタールであるスノウなら、翼の様な形を身体に作る事は可能だろう。だが、それで飛べるようになるわけではない。
「体を伸ばしても届かなそうなのよー」
ブラックタールの体を伸ばしてみても、届かない。
だが、閃きとは意外なところに潜んでいるものだ。
「――あ。伸ばすと言えばね、前にね、絵本よんだの」
スノウが何を言おうとしているのかすぐに判らず、リジェリが首を傾げる。
「えっとね、木がにょきにょき伸びて、雲までいけたお話! せーれーさんにお願いしたら、木とか届かせてもらえるかなあ?」
「道を作って貰うのね。やってみる価値はあると思うわ」
リジェリの言う通りだ。やってみなければ、答えは判らない。
「それじゃーいくのよー!」
――Hello World――。
スノウは体内の香水瓶にある自然由来の塗料の塗料を、一斉に撒き散らす。
石柱の根元をぐるっと囲むような範囲の地面が、塗料とその飛沫に塗り潰された。
「地のせーれーさん、お願いなの!」
巻いた場所は地面。
石柱も大地から聳えているし、その名の通り石だ。
そして香水瓶の魔法は、地形とその属性に干渉する力を高める業。
故に、スノウが地の精霊にお願いしたのは正しい判断だったろう。
だが――その結果起きた事は、少し、思っていたものと異なっていた。
ぼこっ、ぼこぼこっ!
にょきっ!
石柱の壁面が盛り上がったかと思うと、足場になりそうな木のコブのような塊がにょっきりと生えてきたのだ。それも、幾つも。
「あれー?」
木の根や蔦をにょきにょき伸ばして、螺旋階段みたいにしようと思っていたスノウは、この現象に首を傾げる。
「すごいわ! これなら、行けるわ!!」
だが、リジェリはこの結果に少し興奮すらしていた。
歪ではあるが、道ができたのだ。
「やれるわよ! 行きましょう、スノウ」
「そうね、リジェリさん。登るのよー!」
そして2人の少女は、石柱にできた道を駆け上っていった。
この時はまだ、2人は気づいていなかったのだ。
螺旋階段に潜む罠に。
「の、登るのよ……」
息も絶え絶えになったスノウの声が、風に流されていく。
「ス、スノウ、大丈夫?」
リジェリも息が上がってはいるが、スノウを気遣う余裕はあった。
螺旋階段とは、その名の通り斜めに螺旋を描く。
その距離は、石柱を真っ直ぐ登るよりも長いものになってしまっていた。吹き付ける風に耐えながらそれだけの距離を登れば、2人が疲れるのも無理もない。
「疲れたのよ……がんばるなんです……!」
少し溶けかけみたいになりながらも、スノウが塗料を石柱にペタペタと塗り進む。
これまでも、途中で何度か石柱に塗ってきた。そうでもしなければ、既に干渉力が途絶え、足場がなくなっていただろう。
最初に塗料を撒いた根元の地面からは既に遠く離れているのだ。
「スノウ、もうちょっと……! あとちょっとよ!」
段々とてろんと溶けた感が増していくスノウの背中を押して、励ましながら、リジェリはゆっくりと、確実に進んでいく。
「そうです……あとちょっと……えいえい!」
スノウも、疲れはしても進む気力は残っている。
時間はかかるが、天頂まではもうすぐだ。
10mが7mに。
7mが3mに。
「本当に、もうちょっと……この上に!」
片手でスノウを押しながら、リジェリが腕を伸ばす。
その指先が、天頂の端にかかった。
既に登っていた誰かがそれに気づいて、2人に手を差し伸べる。
そして、リジェリとスノウも何とか天頂に辿り着いた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第3章 集団戦
『レッサーデーモン』
|
POW : 悪魔の三叉槍
【手にした三叉槍】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : 金縛りの呪言
【手で複雑な印を結んで】から【呪いの言葉】を放ち、【相手を金縛り状態にさせる事】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : 呪いの鎖
【投げつけた三叉槍】が命中した対象を爆破し、更に互いを【呪われた漆黒の鎖】で繋ぐ。
イラスト:純志
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●勇者の残した石碑
力や技術、魔法の技を駆使して、石柱の天頂に辿り着いた猟兵達。
その中心には、その周囲だけ緑に囲まれた石碑があった。
今は緑しかないが、夜、影の中に見えた花もあるのだろうか。
猟兵達は、その緑を踏み荒らさぬように、石碑に近寄る。
そこに刻まれた文字は、幾らか薄れてはいるが何とか読める。
『ここに来れば月みたいに遠い憧れに手が届く気がした
結局、届かなかったけれど
ここから見える光景を見ていたら
世界もまんざらじゃぁないって思えたんだ
ここから見えた世界は、俺にとって宝だった
ここまで来た誰かの目に、世界はどう映っている?
まだ、美しいままだろうか?
青い空は見えているだろうか?
大地は広がっているだろうか?
夜空に月と星は輝いているだろうか?
この世界を守る価値はあったと思って貰えるだろうか?
そんな世界が続いている事を願う
追伸 裏は見るな、見るなよ? 見ないでくれ』
勇者の意志が残っている可能性はある。
そう聞いて、ここまで登ってきたが。
これは紛れもなく。
後に勇者の1人に数えられた者の意思ではないか――最後の追伸は変だけど。
見るなと言われれば、見たくなるもの。
だが――裏側を改める前に、異変が起きた。
『っ!?』
空気が変わった。
猟兵達はそれぞれにそれを感じて、弾かれたように周囲を見やる。
石碑があるこの石柱。それ以外の石柱の天頂に、それらは今まさに顕現していた。
山羊の頭部と脚部、そして烏の翼を持つ悪魔――レッサーデーモンの群れが!
ともあれ、今この場にいるのは猟兵だけだ。
この悪魔の群れを一掃出来るのは、猟兵だけだ。
それはきっと、石碑に残された意志に応える事にもなるだろう。
========MSより==========
3章の戦場は、ムーンフィンガーズの全ての石柱の天頂です。
足場の限られた高所戦闘となります。
敵は、石碑がある石柱以外の石柱の頂から、一箇所1体ずつ出現しています。
猟兵の初期位置は、石碑のある石柱の天頂となります。
全員がそこに留まっても、特に支障はありません。
他の石柱に飛び移って戦うのも可能です。
猟兵なら、跳び越えられる程度の間隔です。
皆様のやりたい様に、レッサーデーモンを蹴散らしましょう。
========================
フィーナ・ステラガーデン
裏を見るな。ってすっごい気になるわね?
これはあれよね。描いた本人も見て欲しい一心で描いたと私は信じるわ!
とはいえまずはこいつらの掃除からね!
そうね!出来れば皆と力を合わせて戦いたいわね!
私は普通に魔法で打ち落とそうかしら
槍を投げてこられたら涼音(UC)がどうにかしてくれるわね!
「高速詠唱」「全力魔法」を使って
他猟兵が困っていそうなら「邪眼ノ開放」で地面に叩き落すか
動きを止める役をするわ!
特に困ってなさそうなら「圧縮セシ焔ノ解放」で爆破よ!
あんたが花火になるのよ!
それにしても身体は人間だけど
足はこれ山羊かしら?味が気になるわね!
(アレンジ、アドリブ、連携、色々大歓迎)
エルト・ドーントレス
連携・アドリブ歓迎
POW選択
やれやれ、こんなところにまで律義に出てこなくていいのに。
まあ、見つけちゃった以上はいつも通り仕事するけどね。
さすがに石碑を壊されないように移動はするけど、落下の危険を冒してまで空中戦はしたくないなぁ。
ってことで、相手に降りてきてもらいますか。
空中の敵に向かってアンカーシューターを発射、ワイヤーを相手の武器や体に巻き付ける。
そこにUC守護擬精を状態異常重視で発動。
ワイヤー伝いにアウロラの電撃と、おまけでニグルの冷気攻撃を加えて相手の動きを封じるよ。
身動きが取れなくなって落下するならそれでよし、少なくとも動きは鈍るからそこをビームライフルで【スナイプ】する。
ニコ・ベルクシュタイン
【うさみっち(f01902)と共闘】
うさみよ、人には誰にでも知られたくない秘密というものがある
ましてや其れを死して後暴かれるなど、酷い話だとは思わないか
…思わないのだろうな…
何?作戦がある?(うさみの耳打ちを受ける)
…成程、若干うさみの身が心配ではあるが、合理的でもある
乗ろう、上手くやるのだぞ
自分は石柱からほとんど動かずうさみが敵を翻弄する様を注視
敵が隙を見せ、かつうさみが危険に陥らないタイミングで
「スナイパー」の技能を活かして狙いを良く定めつつ
「クイックドロウ」で機を逃さず【疾走する炎の精霊】で撃ち抜こう
可能ならば翼を狙ってやりたい所
其れにしても…まあ、本音を言えば
気にはなるな、裏側。
榎・うさみっち
【ニコ(f00324)と共闘!】
石碑の裏側、超気になるんですけど~
それはつまり見ろという振りだな?
こいつらちゃっちゃと倒して絶対見てやる!
でもここ皆でわちゃわちゃ戦ってると落ちそうで恐いな!
だからスマートでナウい作戦思いついたぞ!(ニコに耳打ち)
まず俺が突風が来ないタイミングを見計らって
敵が居る石柱に飛んで移動
いでよ【きょうふときょうきのせみっちファイナル】!
100匹超えのせみっちを群がらせる!
【挑発】【逃げ足】【フェイント】等を活かして
敵の周りをちょこまかとうざったく飛んでは逃げを繰り返し
敵を倒すことよりも気を引くこと重視
鬼さんこちら~(お尻ペンペン)
ニコ、ドカンとやっちゃえー!!
東雲・円月
双子の姉の東雲・咲夜(f00865)と共に
勇者さんの表のポエム、中々でした
これは隠された裏ポエムにとても期待出来ますね
邪魔をしないで戴きたいものです
咲夜、いつも通り、俺は突っ込むから援護よろしくッ!
武器の都合上、混戦は苦手なんで、1匹は俺たち姉弟に任せてください
1匹に石ころでも投げて挑発してみましょうか
お、来た来た、それじゃ俺たちはこっちの石柱に行くよ、咲夜!
飛んでる敵とか正直苦手な部類だけど、俺たち双子のコンビネーションで!
槍で攻撃してきたところが逆に言えばチャンスですね
臆さず飛び込んで、大斧の一撃を喰らわせてやりましょう
※単純な殴る蹴る、大斧を力任せに叩き付けるような粗雑な戦い方を好みます
東雲・咲夜
双子のえっくん(f00841)と
勇者さん…届かへんかったかもしれんけど
近づいてたんやないかな
世界の分だけ色んな良さがありますけど
こないに美しい所はそう多くあらしまへん
…裏…見たらあかんのよね
えらい気になりますけど、我慢、がまん…
これは…西洋の悪魔さん?
掌にふっと息を吹きかけ
生じた桜の花弁を目元に纏わせる『属性攻撃』で挑発
援護…よろしおす
猪突猛進なんやから無茶せんといてね
『破魔』を乗せた『歌唱』を響かせれば
西も東も境無く魔の者に重苦を与えましょう
動きが鈍った所を狙い光の矢を番います
えっくん、下がって…!
ありったけの霊力を注ぎ籠めば
重い一矢と成り得ましょうや
皆さん、怪我はあらへん?
🌸アレンジ可
久篠・リジェリ
スノウ(f07096)と参加
な、なんとか登れたようね……、、
まずはレッサーデーモンをやっつけましょう
裏側を見られたら困るのでしょうし
落ちないように
石碑近くで戦うようにっするけれどもっ
移動する手段もないのだけども!
スノウの姿、すごいわ、可愛いわ…
UCはウィザードミサイル
最大出力よ!
敵の槍は受けないようにとても気を付けたいわ
2回攻撃や高速詠唱使って
スノウと協力攻撃
スノウの様子に微笑みつつ
大変だったけれど良い景色
世界の美しさは、結局は自分の心持ち次第だとは思うけれど
価値があると、思えるものを今みたいにもっともっと増やしていけたら、きっと価値ある瞬間をどんなときも思い出していける
ところで裏には何が?
スノウ・パタタ
リジェリさん(f03984)と!
たかーいだから、落ちちゃわないように気を付けよーね!がんばって上がったもんね!
【真の姿】メンダコ
ブラックタールの伸縮性もあり、にゅーんと伸ばしやすい形状。
落ちそうになったらびょんびょん戻って来ます。
他の人が危なそうなら同じ感じで助太刀を。
【宝石箱の奇跡】WIZ
この場所にあいしょーがいいのは…
体から取り出した緑の宝石をロッドの形へ解放、風の精霊に干渉。
リジェリさんの魔法に重ねて煽り風で炎を育て、連携してせーのでえいえい!
前もふたりでこれをやったから、息ぴったりなのよー!
上手く当たったら隣でメンダコがぴょんぴょん。
さっきの石の裏、何があったのかなあ?気になるねえ。
ロー・オーヴェル
石柱登攀の後は戦闘の実地訓練か
勇者伝説はハードだな
とはいえ愚痴るのは後だ
「『宝』とやらを楽しむためにも……守ってみせるさ、ここも、世界も」
●戦闘
石柱を飛び移り敵と距離を保ちつつ
投げナイフで攻撃
敵弱体化後は攻撃手段をユーベルコードに切替
確実に仕留めていく
●戦闘後
それで石碑の裏には何があるんだ
好きな子との相合傘でも彫ったのか?
それはさておき
俺は勇者だなんて存在は生理的に好かないんだが
「この眺めが『宝』という言葉には完全に同意する」
ここで一泊していこうか
青空と大地と太陽が美しいのは確認した
後は星と月と夜空を見届ければ
「『勇者の遺産』を心に残すことができる」
そしてこの煙草があれば
世界は間違いなく最高だ
オズ・ケストナー
リュカ(f02586)と
きれいだよ、きれいな景色がいっぱい
勇者の守りたかった世界が、きっと今も続いてるよ
だからここも守るね
たくさんいるね
手近な相手に切りかかって【ガジェットショータイム】
リュカが狙いやすいよう
【武器受け】で攻撃をひきつけ足止めするよ
リュカのところには行かせないから
「まかせてっ」
正確な射撃に拍手する代わりに
わたしも武器を振り下ろす
槍を投げようとしたら手を攻撃して
武器を落とせないかな
せめて軌道が変わればっ
倒したら次はあっちっ
間髪入れず指さして次の石柱へ
高いところで飛ぶの、ちょっとどきどきするね
振り返らずに駆けていけるのは
リュカがいてくれるって信じてるから
わ、裏みちゃうの?
興味深々で
リュカ・エンキアンサス
オズお兄さん(f01136)と
ああ。世界は…果てしなく広いね
世界の価値とかはわからないけれども…
誰かの守りたかった世界は、きっとずっと続いていて、これからも続いていってほしいと思う
敵を確認次第銃を構え、警告も問答もなく発砲する
直前でちらっとお兄さんのほうに目をやって
任せた
とだけ言う
それで通じる
後は細かいことを考えずに、急所を狙って撃ちまくる
普段ならもうちょっと細かく考えてるんだけど、今回は任せたから、任せておく
あっち、とか、声をかけてくれるととてもありがたい
声に反応してほとんど反射的に撃てるから
ただ、普段からの性格で退路だけは確保しておく
生存優先、無理しない
あと見るなといわれた裏は容赦なく見る
ヘンペル・トリックボックス
裏は見ますまいよ。えぇ、紳士ですので。
悪魔が相手となれば望むところ。大丈夫、依然として世界は護るに値しますとも。
歳星符で気流を操作し、レッサーデーモンを一ヶ所に集敵。ある程度の数が集まった時点で【高速詠唱】開始。
【全力魔法】で【破魔】の力を最大限にまで高め、【範囲攻撃】化させた『帝釈天招雷符』による雷【属性攻撃】を叩き込み、一網打尽を狙います。
その醜い翼で空を汚すな、下郎......!神罰が下りましょうや。
緋翠・華乃音
――君には多くの物語があったのだろう。
けれどきっと、それは誰にも語られない。
ただ、想いだけが残される。そして残されたものを辿って来る者が必ず居る。
そういう生き方も――悪くないんだろうな。
方針:初期位置から動かず狙撃にて援護する。
最初は様子見をしつつ、敵の攻撃パターンや回避行動等の情報を収集・分析し、見切りを行う。
優れた視力・聴力・直感を生かして戦況を常に把握。
敵の注意を極力引かぬよう、猟兵達への援護狙撃に徹する。
場合によっては貫徹弾や高速弾などの銃弾を使い分ける。
世界は残酷で――だからこそ儚く美しい。
泉宮・瑠碧
石碑の裏側は見られたくは無くても
残してはおきたかったのだろうか…
…まさかこんな登頂まで
人が見に来るとは思わなかったのだろうな
僕は主に精霊祈眼と破魔を込めた弓で援護射撃
攻撃してくる行為の妨害を優先
なるべく皆の被弾を減らせる様に
そして隙を作って他者が攻撃し易くなる様に
三叉槍が飛んで来るなら射落とすか狙いを逸らす
呪言の印を結ぶ様なら氷の精霊に願い、手元を凍らせる
相手が飛ぶようなら
翼の付け根付近を弓で狙うか
風の精霊に、近付けないでと願って気流を乱す
自身への攻撃は見切り
避け切れないならオーラ防御と呪詛耐性
あの影で見えた花は昼にはどうなっているのか探した後
勇者が見たという此処からの景色…僕も少し見ておこう
●高所での戦い
『テキダ……テキダ! ヤツラヲ殺セ!』
レッサーデーモンの1体が声を上げたその瞬間、ターンッと甲高い銃声が響いて、その眉間を弾丸が撃ち抜いた。
(「ああ。世界は……果てしなく広いよ」)
リュカ・エンキアンサスが愛用のアサルトライフル・灯り木を構えていた。
警告も問答もない、一瞬の早業。
灯り木の銃口から登る硝煙が、開戦の狼煙となる。
『オノレ!』
別のレッサーデーモンが、三叉の槍を振り上げる。
だが、槍は投げられる事無く、その無骨な腕から零れ落ちた。ロー・オーヴェルが音もなく投じたナイフが突き立っている。
「……其れは木の葉、其れは流れる一点、其れは一矢にて散り得る」
泉宮・瑠碧が、別のデーモンに指先を向ける。
その手には、水の精霊が変化した弓が握られていた。
放たれた水の矢は、瑠碧が相性のいい風の精霊の力も受けて、猛スピードで飛んで槍を構えたデーモンの手首を撃ち抜いていた。
槍を握ったまま、デーモンの手首がごろんと落ちる。
『ナラバ、飛ベ!』
烏の翼を広げたデーモン達が、石柱から空に浮き上がる。
投げられないなら、直接攻撃か。
「行かせるわけには――!」
瑠碧が再び水矢を放つが、一斉に来られては手数で止めきれない。
「その醜い翼で空を汚すな、下郎……! 神罰が下りましょうや」
ならばとヘンペル・トリックボックスが、木行の符を放つ。
符術で操作された気流が、飛び立とうとしたデーモンの数体を押し戻した。
それでも、翼を広げたデーモンの何体かが飛び立ってしまう。
(「……まだ大丈夫だろう」)
緋翠・華乃音は空にいるデーモンを攻撃する手段を持ち合わせていたが、敢えて今は動かずに敵の情報収集に当たる。
そのためには、華乃音は今は敵の注意を引かないでおくべきだ。
この程度を見逃したところで、他の猟兵がやられるほど弱くもないのだから。
「やれやれ、こんなところにまで律義に出てこなくていいのに」
灰色のパワードスーツ『レッキス』の中でエルト・ドーントレスが嘆息する。
「いつも通り仕事しますけどね」
エルトが向けたビームライフルが放った光が空中のデーモンを撃ち抜くが、飛び上がった全てを撃ち落とすにはとても足りない。
「任せた」
「まかせてっ」
リュカの短い声に短く返して、オズ・ケストナーが追加のガジェットを喚ぶ。
身の丈ほどもある斧型のガジェット『Hermes』と合体したそれらは、十字架と斧を合わせたような何と呼称すれば良いのかよくわからない形状の武器に変わった。
「こっちには、来させないよっ!」
オズはそれを迷わず振るい、着地しようとしていたデーモンに叩き付ける。槍を構えた腕を斬り落とし、返す刃で腰と胴を割った。
「西洋の悪魔さんかぁ……何でこんな所におるん?」
ふわり。
東雲・咲夜の掌からふっと吹きかけた息で風に舞った桜の花弁が、降り立ったばかりのデーモンの目元に纏わりつく。
『ヌァッ、ナンダコレハ』
「桜って言うんです、よっ!」
視界を奪われたデーモンの元に、東雲・円月が駆ける。
闇雲に振り回される三叉槍を掻い潜り、大斧の一撃を叩き付けて石柱の外まで吹っ飛ばした。
土煙を巻き起こし、デーモンの一体が舞い降りる。
「斬り開くわよ! 涼音!!」
――チリンッ。
フィーナ・ステラガーデンの声に応えるは、小さな鈴の音。
次の瞬間、現れた何者かが抜き放った刃が、デーモンを真っ二つに両断した。
『……鬼の一種でしょうか? 面白い相手ですね』
黒髪を頭の横で1つに束ねた女剣士の霊――『涼音』は、あっさり斬り捨てたデーモンを物珍しげに見下ろしてフィーナを振り返った。
『ググッ……』
翼の有利もなく、先制攻撃が悉く防がれ、デーモン達が二の足を踏む。
その隙を逃す猟兵達ではない。
次は、攻勢に出る番だ。
●セミと悪魔
「おい、ニコ。スマートでナウい作戦思いついたぞ!」
「何? 作戦?」
言うなり耳元に飛んできた榎・うさみっちの囁く声を、ニコ・ベルクシュタインが顎に手をやり相槌を打つ。
「どーよ! ここ皆でわちゃわちゃ戦ってると落ちそうで恐いしな!」
「……成程、合理的ではある。乗ろう、上手くやるのだぞ」
自信たっぷりなうさみっちの案に、ニコはしばし考えて、頷いた。
(「若干うさみの身が心配ではあるが」)
「行って来るぜ!」
ニコの心配を知らず、風に乗ってぶーんと飛び出すうさみっち。
『ナンダ?』
突然向かって来る何かちっちゃいのに気づいて、デーモンが首を傾げた。
あれは、脅威になるんだろうか。
その迷いが判断ミスだったと、デーモンが悟るまで時間はかからなかった。
「いでよ――きょうふときょうきのせみっちファイナル!」
デーモンが立つ石柱の範囲に入った、その瞬間。
うさみっちの数が、ぶぶわわっと増えた。
いや、よく見ると増えたうさみっちは、本人より更にちっちゃい。
何を隠そう、この100を超える小型のうさみっち集団は、妙にリアルなセミ形態うさみっち――略してせみっちなのだ。
何と言うリアルなセミ感でしょう。うさみっちのかわいらしさは、どこに。
(「ううむ……やはり何度見ても、慣れないな」)
それを見守っていたニコの脳裏に、いつかの河原の恐怖を思い出される。
『ナ、ナンナンダコレハ!?』
ジジジジジッ!
独特の羽音を響かせて、飛び回る小さなせみっちに困惑を隠せないデーモン。
「へいへーい、デーモンビビってるー」
そんなデーモンの周りを、ウザったく飛び回るせみっち。
「鬼さんこちら~」
中にはお尻ペンペンなんて挑発行為までする固体もいたりして。
『ジャマダ!』
だがデーモンが苛立たしげに投げた三叉槍が、数体のせみっちを掠めた。
それだけで、その数体が消滅して――。
\ぴゃああああ/
残るせみっちも、全部ぱたっと周りに落ちた。
『……エ?』
それにデーモンが虚を突かれて、間の抜けた声を上げた瞬間。
ジジジジ!
鳴り響く羽音。
「死んだと思ったかばかめ! 夏のふーぶつし、せみっちファイナル喰らえー!!」
せみファイナル。
夏場、地面に落ちているセミを、もう死んじゃったかな?と突いてみるとジジジジッと動き出すことを、ある世界では俗にそう呼ぶ。
それを名前に組み込んでいると言う事は、つまりそう言うことだ。
(「とりあえず、まだ夏じゃないと後でツッコミを入れておこう」)
「みーっち」「みーっち」「みーっち」「みーっち」「みーっち」「みーっち」
「みーっち」「みーっち」「みーっち」「みーっち」「みーっち」「みーっち」
「みーっち」「みーっち」「みーっち」「みーっち」「みーっち」「みーっち」
胸中でツッコむニコの目の前で、一斉に鳴き始めるせみっち。
セミだもんね。鳴くよね。
『グォォォォォォォッ!?』
デーモンすら、きもちわるいと感じる業。
まさにきょうふときょうき。
(「うさみ……恐ろしい業を編み出しおって」)
いつかの河原の巨大せみっちをこえるきもちわるさに、ニコの背中を冷や汗が伝う。
だが、ニコもただ戦慄しながら見守っているだけではなかった。
その手に握るは、銃身に炎の意匠が入った真紅の精霊銃――エレメンタル・ワン。
既に精霊の力は充分に充填されている。
『オ、オイ! 呪言ダ! コイツヲ金縛リニシロ』
「そうはさせん――契約の下に疾く来たれ、我が炎の愛し子よ」
クイックドロー・サラマンドラ。
ニコが向けたエレメンタル・ワンの銃口から炎の弾丸が放たれ、疾走する。
その指が印を結ぶより速く、ニコの放った炎の弾丸が周囲のデーモンの全てを撃ち抜いたと思った直後、物凄い勢いで炎と変わった。
石柱の上に、火柱が燃え上がる。
そして――。
「おーい、ニコ! こいつにもドカンとやっちゃ――あれ?」
せみっちに取り付かれ続けたデーモンは、炎の弾丸に撃たれるよりも早く、うさみっちの見ている前で泡を吹いて消滅していった。
●風と炎と
石柱の上に、小さな真黒い円盤状の生き物がいた。
「スノウの姿、すごいわ、可愛いわ……」
それに久篠・リジェリが、ほぅと目を細めている。
円盤状の生き物は、スノウ・パタタの真の姿――メンダコだった。
メンダコ。
足のほとんどが膜で繋がっている、一般的にタコと聞いて想像する姿とはちょっと違う外見を持つタコ。海のUFOなんて呼ばれたりもする。
閑話休題。
『ナンダ、アレ……?』
『ワカランガ、翼モナイ。落トセバコッチノモノダ!』
そんな2人に迫る、デーモン達。
勿論、2人が気づいていない筈もない。
「なんとかここまで登ってきたのよ……落とされちゃたまらないわ」
「そうなのー! がんばって上がったもんね!」
リジェリが魔導書を構え、スノウが身体の中から緑の宝石を取り出す。
「この場所にあいしょーがいいのは……これ!」
スノウの蛸足の先で、緑の宝石が魔法の杖に変わった。
DROPSの1つ。緑の石に宿るは、風の精霊。
スノウが杖を掲げると、ゴウと、風が吹き付ける。
その風にデーモン達の足が止まり、リジェリの手にした魔導書の頁が捲れ出す。
「リジェリさん、準備おっけーなのよー!」
「任せて、スノウ」
杖をふりふり、合図を送るスノウに頷くリジェリの手の中で、魔導書の頁が更に激しく捲れていく。
風に煽られているのではない。頁は、彼女の魔力の昂ぶりに反応して捲れている。詠唱の代わり――通常よりも高速な。
其の一枚一枚は、全能なる道へ持ち主を導く道。魔導に通じるための一冊。
「落ちるのは、あなた達の方。最大出力よ!」
リジェリの頭上に、魔法によって炎の矢が生まれる。
200を超える炎の矢が、風に乗って放たれた。
風は、時に炎を育てる。
蝋燭の炎の様に人の吐息で消える事もあるが、焚き火を熾す時には逆に吐息で空気を送ってやる必要があるのと同じだ。
そして、この風はスノウがリジェリの為に起こした風。
炎を消すのではなく、炎を育てて熾す為の。
風に育った炎の矢は最早、矢の比ではなかった。槍の様に大きな炎となってデーモン達目掛けて飛んでいく。
『コ、コンナ……』
飛んで逃げる事も出来ず、デーモン達が炎の中に飲み込まれていく。
風と炎が収まった時、2人の前にデーモンは残っていなかった。
「やったのよー! 今回も、ふたりで息ぴったりなのよー!」
ぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねる、メンダコなスノウ。
「そうね。2人なら、デーモンも怖くないわ」
その様子に微笑みつつ、リジェリは少し肩の力を抜いた。
まだデーモンはいるけれど、数は確実に減っている。
●くたばれ悪魔
「石柱登攀の後は戦闘の実地訓練か」
その声を残して、ローの姿が掻き消える。
「まったく、今回の勇者伝説はハードだな」
次にローの声がしたのは、別の石柱の上だった。
そして――その度に、デーモンが1体、また1体と、倒れていた。
ローが振るう『Outsiders Edge』の刃に斬り裂かれて。
そう。ローの手にあるのは、セレーション――波刃の付いた銀灰色の直刀型ナイフ、ただ1つ。後は素早い身のこなしのみだ。
「『宝』とやらを楽しむためにも……守ってみせるさ、ここも、世界も」
Ghost Zapper。
敵に姿を見せず、位置を悟らせず。
幽鬼の如く、ローはデーモンを狩って回る。
――abi dierectus!
●生き方
デーモン達は、石柱の上にいるばかりではない。
だが、ある一角のデーモン達は――迂闊に飛べなくなっていた。
華乃音の、濃藍の瑠璃の瞳に見据えられて。
『クソッ!』
「無駄だ。お前達の限界高度は覚えた」
痺れを切らして飛び出したデーモンに、華乃音が冷たく告げる。
流星を模した狙撃銃の銃口は、デーモンではなくその上空を向いていた。
だが、立て続けに3発の銃声が響くと、空中で撃ち落されたデーモンが落下を待たずに消えていく。
デーモンが飛び立った時に達する高度、その軌道、そして自身の放つ弾丸の軌道。
それら全てを、華乃音は優れた視力・聴力・直感で計算し尽くしていた。
その為に、序盤は見ることに徹したのだ。
(「――君には多くの物語があったのだろう」)
背中にある石碑。そこにある文字を刻んだ誰かに、胸中で華乃音は呟く。
(「けれどきっと、それは誰にも語られない。ただ、想いだけが残される。そして残されたものを辿って来る者が必ず居る。俺達の様に」)
そう言う生き方も――悪くないんだろうな。
知らず微笑を浮かべる華乃音の目は、デーモンが指で印を組みながら翼を広げるのを見逃さなかった。
「――それが神であろうと、俺の眼からは逃れられない」
況や、悪魔風情が逃れられる筈がない。
「世界は残酷で――だからこそ儚く美しい」
華乃音が告げて、銃声を響かせる。
呪いの言葉を吐く暇を与えられず、また1体のデーモンが撃ち落された。
●東雲の双子
「咲夜。俺はこっちの石柱に行くよ。いつも通り、突っ込むから援護よろしくッ!」
「よろしおす」
咲夜が頷くのを待たずに、円月が駆け出したのは姉を信頼しての事だろう。
「猪突猛進なんやから。無茶せんといてね!」
咲夜も弟を信じてはいるけれど、だからこそ心配な気持ちもある。
背中からかかった声に円月は手を一度振り返し、力強く地を蹴った。ふわりと浮いて、隣の石柱に飛び移る。
「飛んでる敵とか正直苦手な部類だけど……咲夜もいますしね!」
足元に落ちていた石ころ1つ拾い上げ、円月は目に付いたデーモンに投げた。
『キサマ!』
「お、来た来た」
あっさりと激昂し、同じ石柱に飛んでくるデーモン。
『ナメルナ!』
「別に舐めちゃいませんけどねぇ……邪魔をしないで戴きたいものです!」
デーモンの三叉槍と、円月の大斧がぶつかり火花を散らす。
どちらも大型の武器を軽々と振り回し、切り結ぶ。技術よりも力にモノを言わせた粗雑なスタイル。
一見すれば――だが。
ガンッ!
『ナニッ!?』
デーモンの三叉槍、その隙間を縫う形で円月が蹴った足が槍を抑える。
「よっと!」
そのまま槍を足場に跳び上がると、円月はもう片方の足を振り下ろしてデーモンを蹴り倒した。さらにそのまま、踏みつける。
「こうすれば外さないでしょう?」
動かない相手なら、確実必中。粗雑な中に混ぜた、円月の手。
『マ、マテ』
「待ちませんよ」
踏みつけられてさすがに狼狽るデーモンの頭を、円月が振り下ろした大斧が容赦なく断ち割った。
『オノレ!』『ヨクモ!』
だがそこに新手のデーモンが、他の石柱から飛んでくる。それも数体。
「混戦は苦手なんですよね……」
呟く円月の声に、しかし動揺の色はない。
信じているから。
それに応えるは、清冽な歌声。
「~~♪」
破魔の祈りを乗せた咲夜の歌声が、辺りに響く。
デーモンと呼ばれようが、悪魔と呼ばれようが。
それが魔性の存在であるのならば、その歌声を媒体とした神々の寵愛は、西も東も世界の区別すらなく、魔性の重苦となる。
白い喉から旋律を響かせながら、咲夜の手に光が集う。月の様に冴え冴えとした光が集まり、弓矢を象った。
リィン――。
咲夜の指が光の弦を弾けば、響くは鈴鳴。其は神をも射抜く破魔の鳴箭。
番える光は――天羽々矢。
「えっくん、伏せて……!」
咲夜が霊力をたっぷり注いだ光の矢が、円月の前のデーモン達に放たれる。
『『グガァッ!?』』
破魔の旋律で動きが鈍っていたデーモン達に、その矢を避けられる筈もない。
「俺たち双子のコンビネーションですよ!」
低い姿勢から円月が振り回した大斧が、苦悶に呻くデーモン達をなぎ払った。
●任せ、任され
「リュカ、こんどはあっち!」
オズが張り上げた声に応えるのは、リュカが向けた灯り木の銃声。
そしてオズの視線の先では、足を撃ち抜かれ呻くデーモン。
「さすがリュカ!」
オズが上げた賞賛の声は、届いていただろうか。
拍手の代わりに、謎の十字架斧となったHermesを、オズが振り下ろしデーモンに止めを刺す。
「今度は――あそこだよ!」
デーモンが動かなくなったのを確認すると、オズはすぐに別の石柱のデーモンに狙いを定める。声とガジェットで示して、そちらに向かって駆け出した。
(「きれいだよ。きれいな景色がいっぱいだよ」)
石碑を刻んだ誰かへ、地を蹴って飛びながらオズが胸中で語りかける。
(「勇者の守りたかった世界が、きっと今も続いてるよ。だからここも守るね」)
胸中で続けながら、オズが石柱に降り立つ。
そこに響く、もう聞き慣れた銃声。
よろめくデーモンを、オズがガジェットで吹っ飛ばす。
そんな狩り方を繰り返す内に、デーモンもリュカに狙いを定めるようになった。
(「世界の価値とかはわからないけれども……」)
狙われているのに気づいても、リュカは慌てず騒がず、弾丸を込めなおした灯り木を向けて狙いを付ける。
(「誰かの守りたかった世界は、きっとずっと続いているんだ。そして、これからも続いていって欲しいと思う」)
願いを胸中と弾丸に込めて、リュカは無言で銃爪を引く。
急所を狙って撃ちまくる。
いつものリュカならば、もう少し細かく考えていただろう。
だが――今日は、この時は。
任せたと言った。
まかせて、と聞こえた。
だから任せる。
「リュカのところには行かせないっ」
蒸気を噴出する音を響かせて。幾らか長い距離を跳んで来たオズが、リュカに迫るデーモンの背中にHermesの刃を叩き降ろした。
●刃は風斬り、炎爆ぜ咲く
「でね、裏を見るな――って書いてあって。すっごい気になるわね?」
杖から炎を放ち、デーモンが投げる槍を撃ち落として他の猟兵の援護をしながら、フィーナは『涼音』とそんな話をしていた。
『油断しすぎでは?』
「槍が飛んできても、デーモン本体が来ても、あんたが何とかしてくれるでしょ?」
諌める『涼音』の声に、フィーナが笑って返す。
『まぁ、そうです――ねっ!』
応えて『涼音』が刃を振るう。
軌跡すら残さぬ神速の斬撃が、空を斬り風を刃に変える。デーモンが投げた槍が空中で斬り砕かれ、その先のデーモンの首を飛ばした。
「あんた、そんな事も出来たの?」
『ええ、まあ。未だ空を斬るには届きませんが、風一刃、飛ばすくらいでしたら。此処の風は斬り易い』
さらりと返す『涼音』の答えに、フィーナの方が目を丸くする。
そのやり取りに込められた意味は、きっと2人にしか判るまい。
「涼音にそんなの見せられたら、私もちょっと本気出すしかないじゃない!」
フィーナが瞳を輝かせ、魔力を高めた。膨れ上がった焔の魔力が解放される。
「飛ぼうっての? あんたが花火になるのよ!」
フィーナの掲げた杖から、炎が猛る。猛る炎がぶつかり合い、爆ぜる炎となる。
「消し飛べえええええええええ!!」
放たれた爆炎が、飛び立ったデーモンを飲み込む。単純な火力を上げることに魔力を注いだ爆発が空に炎を咲かせた。
黒焦げになったデーモンが、石柱の上にぽてりと落ちる。
石柱の上で炸裂させていたら、そこが石炭に変わっていただろう。
「あの足って山羊よね? 味が気になるわね!」
『あれは焼きすぎですよ。生の内に斬り落としてきましょうか?』
そんなやり取りを『涼音』と交わしながら、フィーナは次のデーモンを探し視線を巡らせて――その視線が固まった。
「あっちゃー……一気に来ちゃったか」
空に浮かぶ残る全てのデーモンを目にして、さすがに眉間に皺を寄せた。
●奇跡の形
「止まれって言ってんでしょ!!」
フィーナの赤い瞳が、闇の輝きを放つ。同時に上げた罵声と共に放った威圧の魔力が、空中のデーモン達の動きを一時的に封じた。
とは言え、一時的だ。
フィーナの魔力も、永遠には続かない。
「一気に来ましたね。落下の危険を冒してまで空中戦はしたくないですなぁ」
空を見上げてぼやきながら、エルトは『レッキス』のスラスターを全開にして、隣の石柱に飛び移った。
「折角見つけた石碑、壊されるのもねぇ」
癪と言うもの。故に、エルトの中に何もしないという選択肢はなかった。
「さて、降りてきて貰います」
バシュッと空気を吐く音が鳴り、アンカーシューターから放たれた牽引用のワイヤーロープが、飛来するデーモンの先頭に撒きついた。
『ウォッ!?』
絡み付く鋼の糸に、デーモンが空中でもがく。
『コード実行。パラメータ設定。擬似精霊の生成開始……』
その様子をレッキスの中で見ながら、エルトはコードを起こす。
風の擬似精霊――スルーア。
氷の擬似精霊――ニグル。
雷の擬似精霊――アウロラ。
電脳魔法で擬似的に再現された三精霊が、エルトの周りに顕現した。
「スルーア、アウロラ、ニグル」
それぞれの名を、エルトが告げる。
スールアの風が空気の谷となり、デーモン達の壁となる。
ニグルの冷気がその中に放たれる。デーモン達の烏の翼に、霜が降りる。
(「後はアウロラの電撃で……これで身動きが取れなくなって、落下してくれればいいんですが……ん?」)
エルトが見ている前で、風が強くなる。
何か別の力が、気流を操作している。
「私も手伝いましょう。悪魔が相手となれば望むところです」
木行歳星符。
木と風の理を持つ符を構えた、ヘンペルがいつの間にか近くに来ていた。
気流の操作で風の壁が厚くなり、その中の空気も渦を巻く。
「中の冷気を強められませんかな?」
「ああ、氷の精霊なら、僕が手伝えるよ」
ヘンペルの提案に応えたのは、隣の石柱にいる瑠碧の声だった。
(「どうか、力を貸して……この願いを聞き届けて」)
一度目を閉じ、瑠碧は心中で精霊に願いを捧げる。
そして、その青い瞳を開いて――風に囲まれたデーモン達に向けた。瑠碧の意思を汲んだ氷の精霊の力が、冷気を強めた。結晶化した氷が、光を受けて煌く。
「風よ」
「そう言うことですか――スルーア」
それを見たヘンペルが風を渦巻かせるのを見て、エルトも擬似精霊に指示を出す。
エルトの電脳の魔術であれ、ヘンペルの符を介した道術であれ、森の巫女としての精霊と心を通わせた故の瑠碧の伝心であれ。
手段こそ違えど、その力のもたらす帰結は似ている。
即ち、奇跡による自然の操作。
風によって集められた、微少な氷の粒。風の領域の外に出る事無く、一箇所に集まったそれは、小さな小さな雲と同じだ。
そして、雷とは雲の中の氷による静電誘導で起こるもの。
そこに外から雷の力を足してやれば――。
「アウロラ」
バヂィッ!
エルトが短く告げると、アウロラの放った電撃がワイヤーを伝ってその先のデーモンに届いて、さらに放電する。
「遍く帝釈天に帰命し支え奉る! 其の権威を以て悪しきを尽く焼き滅ぼしたまへ!」
ヘンペルが放った数枚の呪符。
すなわち帝釈天招雷符。
帝釈天――三十三天、その筆頭たる守護者の力こそ、稲妻。
ズドンッと腹に響く音を鳴らして落ちた大きな雷が、中で放電が始まっていた雲に突き刺さり――バヂッ、バッヂヂヂンッ!
静電気に始まり、放電からの雷。
三重に重なった電撃が荒れ狂う雲――それは局地的な雷雲。
しかもトドメの雷は、魔性に対して絶大な威力を持つ性質を持つものだ。
やがて、雷光が雲を吹き散らすほどに大きくなって空で爆ぜる。
雲が消えた空に、悪魔の姿は残っていなかった。
●だってこれを見たかった
石柱群に現れたレッサーデーモンは、猟兵達によって駆逐された。
「大変だったけれど良い景色ね」
見下ろすリジェリの長い髪が、風に揺れている。
(「世界の美しさは、結局は自分の心持ち次第、だけれど」)
「価値があると、そう思えるものを今みたいにもっともっと増やしていけたら、きっと価値ある瞬間を、どんなときも思い出していけると思うの」
「すのー、むずかしいことはわかんないけど、ここの景色、好きなのよー!」
景色を心に焼き付けるように見て回るリジェリの横を、スノウがぴょんぴょん跳ねてついていく。
そして、2人は石柱を一周し――。
「ところで、石碑の裏には何が?」
「うんうん、何があったのかなあ? 気になるねぇ」
リジェリとスノウの興味は、見るなとあった石碑の裏に向いた。
「そそ。俺も石碑の裏側、超気になるんですけど~」
ニヤニヤと、うさみっちが石碑に寄って行く。
「うさみよ、人には誰にでも知られたくない秘密というものがある。ましてや、其れを死して後暴かれるなど、酷い話だとは思わないか」
「あんな事書いてあったんだぜ。つまり見ろという振りだろ?」
ニコが窘めるが、うさみっちは止まらない。
「そうよ! 刻んだ本人も見て欲しい一心で刻んだと私は信じるわ!」
同意見のフィーナが、うさみっちと頷きあう。
「ホントはニコだって見たいんだろ? な?」
「……まあ、本音を言えば、気にはなるな」
さらにうさみっちに押されて、ニコも取り込まれた。
「わ。皆、裏みちゃうの?」
「え、お兄さん見ないの?」
驚きと興味が混ざったようにキトンブルーの瞳を丸くするオズに、しれっと返したリュカは、容赦なく裏を見る気満々だった。
「み、見てしまうん? 見たらあかんのやない?」
とっても気になるけど我慢するつもりだった咲夜も、その動きに戸惑いを隠せない。
「咲夜は、勇者さんの裏ポエム、見たくないの?」
だが、弟の円月は裏を見に行く輪に加わっていた。
「そら、うちかて気になるけど……」
弟にまでそう言われては、咲夜も興味には勝てない。
「え? 見てしまうのか?」
石碑の周りの緑を調べ、その中に夜に見た花の蕾らしきものを見つけていた瑠碧は、石碑の裏を見に集まってきた猟兵達の多さに、少し目を丸くする。
「……僕は、勇者が見たという此処からの景色を見てくるよ」
気にならないわけでもなかったかもしれないが、瑠碧は石碑から離れる。
(「見られたくは無ければ、残さなければよいだろうに。それでも、残してはおきたかったのだろうか……まさかこんな天頂まで、人が来ると思わなかったのだろうな」)
胸中で、今は亡き勇者に同情しながら瑠碧は石柱の外側へ歩いていった。
「私は一足先にお暇しましょう。裏は見ますまいよ」
きっぱりと裏側を見ないと言ったのは、ヘンペルである。
「えぇ、紳士ですので。其れはお先に失礼!」
言うなり、石柱から飛び降りる。着地は、まあなんとかするのだろう。
そして、猟兵達は石碑の裏側に回った。
●裏側の真実
分不相応なこの気持ちが愛だと言うなら
この景色と秘めた愛を――――姫に捧ぐ
裏側に刻まれていたのは、その短い文だけだった。
全体的に文字が薄くなっているので、肝心の名前の部分が読めなくなっているのは、年月で消えてしまったのだろう。
或いは――刻んだ本人、つまり勇者の一人が、あとで小っ恥ずかしくなって削り取ったと言う可能性も無きにしも非ずだが。
「おいおい……好きな子との相合傘でも彫ったのかと思ったら、当たりかよ」
くつくつと、ローの肩が小さく震える。
そう言えば、勇者達とは、当時の冒険者だと言う事だ。
ならばその中の身分も様々だった事だろう。
中には――身分違いの恋と言うやつも、生まれたかもしれない。
(「勇者さん……届かへんかったかもしれんけど、近づいてたんやないかな」)
短いその文と、此処から見える景色を見比べて、咲夜が胸中で呟く。
(「世界の分だけ、色んな良さがありますけど。こないに美しい所、そう多くあらしまへんもの――勇者さんの気持ちも、きっと気づいてもろてたんやないかな」)
本当に身分違いの恋だったのかも、今となっては確かめる術はないけれど。
「裏ポエムも中々でした。ね、咲夜?」
「そうやね」
ポエムとしか思っていない円月の言葉に、咲夜はふわりと微笑み返す。
見るべきは見た。
確かめるべきは確かめた。
調べるべきは調べた。
三々九度、猟兵達はそれぞれに技術を駆使して、石柱の天頂を後にする。
――ただ1人を除いて。
「……どうせなら、夕焼けの事も書いておけよ」
地平線の向こうに沈む太陽。それで茜に染まった大空を見渡せる夕暮れ時の光景に軽く息を呑みながら、ローは1人呟いていた。
「俺は、勇者だなんて存在は生理的に好かないんだが……この眺めが『宝』という言葉には完全に同意する」
青空と大地と太陽が美しいのは確認した。
太陽の沈む時も、これで見た。
後は、星と月と夜空だ。石柱の下からは見たけれど、この場所からは見ていない。
「全部見れば、『勇者の遺産』を心に残すことができる」
そのためなら、もう一泊するのも悪くない。
そして、完全に日が沈んで――空が暗くなり、星が瞬く。
紫煙をくゆらせるローの視界に、月が昇ってくる。
「ああ、世界は間違いなく最高だ」
大成功
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