境界の内側は浮足立ち、取り残される者は呆然と
●ウキウキ
心が踊るというのはこういうことを言うのだと巨大なクラゲ『陰海月』は思った。
手にしているのは今しがた届けられた段ボール。
嫌に軽く感じるのは中身がプラスチックモデル……即ち、模型であるからだ。
「ぷきゅー!」
自分で作る玩具。
そう言葉にすれば、たったそれ一つでそんなにも浮足立つものであるのだろうかと疑問に思うものだっているかもしれない。
少なくとも『陰海月』はスキップできるものならスキップしているくらいに心踊っているのだ。
早速作りたい。
もう我慢なんてできるわけもない。
けれど、『陰海月』はあることに気がつく。
「ぷきゅ!」
そう、彼は人間で言うのならば大人ではない。
そもそも巨大なクラゲに年齢という概念があるのかどうかもわからないが、ともあれ、『陰海月』は品物をネットで購入するに当たってクレジットカードというものを持ち合わせていない。
では、支払いはどうするのか。
そう、代引きである。
便利なシステムであると言えるし、クレジットカードを持たぬ『陰海月』にはとてもありがたいことだった。
と、話は脱線したが代引きとはつまり、荷物が届いた時に配送業者へと品物の代金を支払う方法なのだ。
「ぷきゅぷきゅ」
ガラガラ、と戸を開ける。
そう、ここまではよかった。けれど、伝票にハンコを押しただけで『陰海月』は品物を手にとって屋敷に戻ってしまったのだ。
代引き料金を払っていない。
そのことに気がついて『陰海月』は戸を開けて、まだ待っているであろう配送業者の若者へと代金の入った封筒を手渡す。
「へっ、あ」
変な声を出しているな、おにーさんは、と『陰海月』は思っただろう。
なんで呆然としているのかわからない。
けれどまあ、ちゃんとお金は渡したのだから、もういいだろう。
それよりもプラモデルだ!
予約してから待ち焦がれたプラモデル!
ウキウキとしながら『陰海月』は自分の部屋へと段ボールの包みを持っていく。
器用にバリバリと段ボールを開けると緩衝材が入っている。
これの処理も面倒なのだが、開けてそのままにしておいていると馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)たちは良い顔をしない。
やっぱり気持ちよく何事も済ませたいと思う。
なら、先にやるべきは逸る心に従うことではないだろう。
段ボールを畳んで端に片付けておく。
「ぷきゅー!」
そう、後はお楽しみだ――!
成功
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