境界の外側から思えば、内側は常なることで
●再訪
押すぞ、と決めたのなら実行しなければならない。
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の屋敷を二日連続で訪れることになった配送業者の若者は、深いため息を吐き出していた。
よくない。
わかっている。
お客様のお宅の前でため息をつくなんてことは。
だが、仕方のないことだ。
「だってやっぱ怖いもんは怖いし!」
若者はなんで二日連続でやってくることになったのか、その不運を呪う。
確かに昨日はちょっとおかしな部分もあるお屋敷だなーと思う程度であったが、しかし家に帰ってからよくよく考えるとおかしい所結構あったな! と再確認してしまってもうダメであった。
「いや、大丈夫大丈夫。そういうの平気だし」
自分に言い聞かせるように若者は呼び鈴を鳴らす。
本来なら置き配ボックスに品物を入れるだけでいい。
だが、今回の荷物はそうは行かない。
代引きなのだ!
そう、品物と引き換えにお金をもらわねばならない!
故に呼び鈴を押す!
となれば、必ず屋敷の主人が出てくるはずだ。
この不可思議な噂絶えぬ屋敷の主がどんな人間なのか知りたいと思う好奇心と覗き込まなければいいのにと思う心が二つあるのだ。
とは言え、ここでぐずっていたってしようがない。
仕事はまだ沢山あるのだ。
此処で躓いているわけにはいかない。
ていうか、商品名プラモデルってなんだそれ! 余計にわけわからん!
「ええい!」
ままよ! 呼び鈴を押す。
「ぷきゅ~」
「変わった呼び鈴だな。昨日と違う……」
ガラガラと音を立てて戸が開くと、そこにいたのは巨大なクラゲだった。
なんで?
若者は思った。
なんで?
己に問いかけても仕方がない。
だが、巨大なクラゲはこちらがあっけに取られていると、器用に触腕でもってハンコを伝票の上に押して荷物を受け取る。
「ぷきゅ~!」
ガラガラ、とまた音を立てて戸が閉じる。
「……」
ぽつねんと取り残された配送業者の若者は我が目を疑っていた。
え?
いや、夢?
「伝票は……ある」
けれど、今まさに目の前で起こった出来事を上手く言葉にできない。
集荷場に戻ったとて、先輩たちになんて説明すればいいのだろう。
例の屋敷に行ったら巨大なクラゲが出てきた、と?
此処は海か? 違うだろ? じゃあ、お前の幻覚だ。この暑さだもんな、仕方ないよ。
で済まされてしまう!
若者はまた二日連続で真夜中まで思い悩むしかないのだった――。
成功
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