リグ・ヴェーダは、交響たる音か
●小国家『ビバ・テルメ』
アルカ・スィエラ(鋼竜の戦姫・f29964)は己のキャバリア『アルカレクス』のコクピットの中でどうしてこんなことになってしまったのだろうかと独白する。
彼女が今まさにいるのは、小国家『ビバ・テルメ』が接する湾内の海中である。
己の機体の周囲に取り囲むようにして存在しているのは、シュモクザメにも似た無人艦である。
「数が増えてない?」
彼女が嘗て『ビバ・テルメ』においてオブリビオンマシン事件の解決に赴いた際、敵機である『アークレイズ・ディナ』へとユーベルコードによって変容した無人艦をぶつけた。
その後、無人艦は『巨神』『セラフィム・シックス』と同様に海底に沈んだはずである。
だが、どうにも『ビバ・テルメ』の漁業を担う者たちから怪奇現象のように、どうにも不自然な魚影……いや、機影めいたものが見えるという噂が広がっているようなのだった。
それを聞きつけたアルカは、心当たりしかなかった。
あの戦いのゴタゴタで行方を見失っていたのは、確かに己の落ち度だ。
だが、あの戦いから四ヶ月ほどが経過している。
音沙汰がないからきっと海底に沈んだのだ。
そう思っていただけにアルカのショックは計り知れなかった。
「どうやらそのようです」
『ビバ・テルメ』を運営している『神機の申し子』の一人『ツヴェルフ』の冷静な声にアルカは頬にまた汗が落ちる感触を覚えた。
「あ、いや、その、そうね」
アルカは確かにこの湾内での活動の許可を彼らに取った。
彼らは『ビバ・テルメ』のトップと言ってもいい。
本来なら律儀に許可を取る必要はないのだが、しかしアルカの性格上そうした隠し事は、はっきり言ってできないものであった。
下手な言い訳はしたが、それもきっと『ツヴェルフ』にはお見通しだったのだろう。
彼女のキャバリア『セラフィム』が随伴していることからも伺える。
だが、むしろ助かったとも言える。
彼女がユーベルコードによって変容させた無人艦は、何故か数を増やしていたのだ。
それも。
「まるでハンマーヘッドシャーク……シュモクザメのような形ですね」
「そう、ね」
曖昧な返事しかできない。
おそらく機械細胞によって進化したのだろう。おかげで自分のせいだとは直接的な因果関係は失われている、はず。
「おしゃべりよりも、まずはこれをどうにかしないとね」
「そうですね。ですが……」
「ああ、いいのよ。私が一人でやる。いや、やらせて」
「そうですか? 危なくなれば加勢をします。」
「ええ、機体のね、調整も兼ねてね。だから大丈夫」
アルカは背筋を流れる汗と共にどうにかしてこの事態を自分一人で収めなければと周囲を取り囲むハンマーヘッドシャーク型機械獣たちと対峙する。
「さっさと片付けるわ」
『アルカレクス・ドラグソリス』のアイセンサーがユーベルコードに輝く。
己の機械細胞によって進化したのならば、此方の命令系統に組み込まれているはずだが、しかしハンマーヘッドシャーク型機械獣たちは己に応答しない。
ならば。
「上下関係というものを教えてやりましょう」
その言葉と共にアルカは湾内に現存していた全てのハンマーヘッドシャーク型機械獣全てをぶちのめし、回収と言う名の上下関係をしこたま教え込むのだった。
そして、彼女はどうにもバツが悪かったのだろう。
『ビバ・テルメ』で多くの土産物を買い込み、また観光と温泉に浸る。
それは贖罪そのものであったが、彼女は頑なに、これを否定する。
「他に予定もないし、別の使い道もないから此処でお金を使うことにしただけ」
本当に?
「……本当にそれだけだから。本当よ?」
言い訳がましい言葉だった――。
成功
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