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なにも、なかった

#サクラミラージュ #『諸悪の根源』 #山本五郎左衛門

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#サクラミラージュ
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#『諸悪の根源』
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#山本五郎左衛門


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 ●
 尽きぬ花弁は願いでした。

 せめて、覆いつくせますように。その傷を、あの苦しみを、それから――。
 桜にできることはそれだけです。それが桜のありようでありました。
 ありよう、と申さば。桜とは、為すべき時を計る花でもあるのです。

 ぞっとするほど冷たい風が、|地の底《あしもと》から吹き上がります。
 積もる花弁を払うように、祓うように。身もだえし、嫌する邪悪がそこにありました。

 果敢ない願いは彼岸を迎え、時告げの声が為すべき時にはじめて為すべきを伝える。ああ、四季の別なく常咲き誇る|幻朧桜《わたくし》も、やはりまた桜の一本でありました。

 今こそ行かめ、舞い上がる桜のひとひらよ。この時、冷たいその悪意すらを都合して――。

 立ち尽くす桜は、どうか届けの新たな願いを花弁に篭めて。
 それを見送るばかりでありました。

 ●
 今は空のてのひらをみて、それから、プルミエール・ラヴィンス(はじまりは・f04513)は顔をあげると、周りの仲間たちへ笑顔を一つ向ける。
 「皆さんにも、届きましたか?」
 とても綺麗な花びらでした、と加えてから、プルミエールは表情を引き締めた。

 「桜の精さんのメッセージを確認しますね」
 何者かが桜の精に告げたのは、桜の根元に、声が《諸悪の根源》と呼ぶ何かが埋まっていること。
 我々《六番目の猟兵》と、カクリヨファンタズムの《山本五郎左衛門》が揃い、そうして彼の助力をもって何かを為せば、その《諸悪の根源》を打ち払うことが出来ること。

 「ですから、すぐにでも、親分さんをお迎えに。皆さんをカクリヨファンタズムにお送りしたい……、ところではあるのですが」
 そこで、プルミエールは言葉を切る。なにかを思い出すように、視線を遠くして。
 「実は私、|見たんです《・・・・・》――親分さんが襲撃を受けているところを。本当はそのことで皆さんをお呼び立てしようと思って。だけど、桜の。幻朧桜の丘で、花弁の代わりみたくひらひらと舞う蝶。オブリビオンは、おかしなくらい、強くって……そこに、あのお花が届いたの」

 それで、私、わかったんです。
 きっぱりと言い切るのと同時、プルミエールは視線を戻すと、しかと皆を見据えて、言葉を続ける。
 「カクリヨファンタズムの幻朧桜は、サクラミラージュの幻朧桜の状況に影響を受けている。だからあのオブリビオンはあんなに強くて。だって、桜は一つの木から始まっているというでしょう? みな連なるひとつなんです、きっと。そんな話、私、聞いたことがありますから」

 まずは《諸悪の根源》の眠るというサクラミラージュの幻朧桜へ向かって欲しい。そこでも何かが起きている筈だ。強い確信でプルミエールはいう。そこで悪の先触れを押さえ込めたなら、その恩恵を受けていると見えるカクリヨファンタズム側のオブリビオンは弱体化するに違いない。
 その時こそが、山本親分救出の好機である。

 話聞く誰もの頭を過る疑問――果たして、《諸悪の根源》とは何か。
 いや、と|頭《かぶり》を振って。今は、そんなこと、構うまい。
 たった一つを打破すれば|諸悪《・・》を打ち破れるだなんて、きっと世界はそんな風には出来ていないことも知っている。それでも貴方は行くだろう。大事なことがあるとするならば、その上に立ち、名を呼び待つものが、窮地に陥っているものが、居るということ。そのもの達の為だけに身命打って駆け出せるからこそ。

 我々は《六番目の猟兵》である。

 ●
 決意の固まった者たちへ、強い信頼をその目に浮かべて、ぺこりと一礼したプルミエール。
 頭を上げてあるのは、見送る強さの笑顔と、空であったてのひらに、今、グリモアの輝き。

 「皆さん、お気をつけて。どうぞ宜しくお願いします」


紫践
 いや、だから!
 《諸悪の根源》が埋まっているといっているだろ!
 こんにちは、紫践と申します。

 一章。
 誰にも話さず大事に抱えておく、というのも、ひとつ考え方としてあるとは思うのですが、
 物語る世界である以上、語らうまではそれは存在しないのと一緒という難しさもあって。

 二章。
 強い想いに群がり、それを焼き尽くさんとする、沢山のチョウチョです。
 古本開いて実際に紙魚見るとぎょっとしますが、虫食いの本にはそれはそれで風情がある。

 三章。
 最後に残るは、我が身一つ。

 以上です。
 ヨロシクお願いします。
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第1章 ボス戦 『君探しの朧姫』

POW   :    あなたの亡くした人を教えて
質問と共に【対象の心に眠る人間の幻影】を放ち、命中した対象が真実を言えば解除、それ以外はダメージ。簡単な質問ほど威力上昇。
SPD   :    もう飽きちゃった
自身が【興味を失くしたり無関心】を感じると、レベル×1体の【姫の分身】が召喚される。姫の分身は興味を失くしたり無関心を与えた対象を追跡し、攻撃する。
WIZ   :    あなたが逢いたかった人
無敵の【「相手がかつて喪った絆の深い誰か」】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠無間・わだちです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ●憐憫など、なかった
 散る花弁に心重ねて――もっと聞かせてちょうだいな。
 今は居ない、貴方の大切なそのお方のこと。煌くひと時の思い出を。

 運命を嘆いていいわ。私がそれを許すから。
 世を恨んでいいの。私も共に呪ってあげる。

 喪失に拘泥する貴方を、いったい誰が糾弾できるというの。
 悲劇の主人公、あぁその圧倒的強者の輝きを、私にひと雫飲ませてほしいだけなの。
 愛する人を喪った貴方、慰める私でいさせて。
 それってとても優しくて、それってとても美しいでしょ。

 ホラ、皆が――|私たち《・・・》を見ている。
中村・裕美(サポート)
副人格のシルヴァーナで行動します
『すぐに終わってしまってはもったいないですわね』
多重人格者の殺人鬼× 竜騎士
外見 赤の瞳 白の髪
口調 (わたくし、~さん、ですわ、ますの、ですわね、ですの?)

裕美のもう一つの人格で近接戦闘特化。性格は享楽的な戦闘狂
戦闘では【残像】が残るような優雅ステップで敵に近づき、惨殺ナイフによる【切断】を【早業】で繰り出す
ドラゴンランスを使うことがあれば、相手を【串刺し】にするか、竜に変えて【ブレス攻撃】
【瞬きの殺人鬼】使用後の昏睡状態はもう一つの人格に切り替えカバー
電脳魔術が使えないので裕美の能力が必要な場合は【オルタナティブ・ダブル】で呼び出します

あと、虫が苦手


荒谷・つかさ(サポート)
前提として、必要であれば他の猟兵やNPCとも積極的に連携します。
シナリオの失敗に繋がるような行為や、例え成功のためでも公序良俗に反する行いはしません。

基本的に極まった「怪力」を武器に、体一つで行動します。
必要であれば武器も使いますが、基本は素手(拳)です。
戦闘狂かつ脳筋で、強敵との正面からの殴り合いを好みます。
非戦闘時も力仕事や力ずくでの問題解決を得意とします。人助けには協力的です。
涼しい顔で非常識的な筋力を行使し、それを当然で驚くことは無いというように振る舞うタイプです。

ユーベルコードの指定はありません。「成功」できるようであればどれを使用しても大丈夫です。不使用でのリプレイも歓迎です。


飯綱・杏子(サポート)
ジビエ|食材《オブリビオン》がヒト型でなければ料理して喰らうっす
ヒト型の|食材《オブリビオン》を料理するときはこちらがヒト型を辞めるのが|マナー《マイルール》っす

リビングアーマーや宇宙船の類だってきっと貝類みたいに美味しい可食部があるし、食器としても活用するっす
どんなに癖のある|肉《ジビエ》でも濃い味付けにすれば食えない肉はないっす

悪魔だから|毒は利かない《【毒耐性】持ち》っす。酔うけど。腐敗も発酵もわたしには一緒っす
あと|八つ裂きにされても死なない《【切断部位の接続】持ち》っす

シナリオの傾向によっては、ヒト型を性的な意味で食い散らかしてもいいっすよ
白子もミルクも大好きっす



 ●悲哀など、なかった

 最初に目に飛び込んだもの。
 まだ少し遠い満開の桜の元、ぴしりと軍服を着こなす麗しい青年の、伸びた背筋も美しく、しかし、前に進まぬままにその場を歩く様――これは幻影だと此方が気付き足を速めるのと、幻影の青年が何かに気付き足を止めたは同時である。
 そして、青年はその場ではじけ飛ぶのだ。誰かの為に伸ばされた腕、美しかった全てを、赤とピンクと白とに変換して。

 あ、あ、あ。
 聞く者の心まで抉るような女性の悲鳴が、僅か遅れて丘を満たす。
 
 もう止めて、と少女に縋り付き、他に縋る当てもなくて、結局は座る少女の膝に面を埋めて泣く女。
 その髪を優しく手櫛で梳きながら、かわいそうにと少女が被さるように寄り添うのだ。
 「何度見ても酷いわ。テロルに巻きこまれてお亡くなりになるだなんて。ホラ、ちゃんとご覧になって、あれなど脳のカケラかしら? あのように何もかもさらけ出して、ふふ、なんてはしたないことっ。え? まぁ、そんなこと仰らないで。その最期までを見つめてこその愛とお思いにはならなくて? それで、そう、この美しい青年の、お名前はなんといったかしら」
 |もう一度《・・・・》教えてくださらない? 問う少女の目は此方を捉えており、頬は上気し、その声は、喜びに弾んでいる。
 膝に伏せる女性は微動だにしないように見えるが、果たして、正解を答えたのだろうか。
 「あぁ、そう。そうでしたわね……。実はね、私もそろそろ貴女に飽きちゃった」

 邪魔、と冷たく突き飛ばされて尚、もう見たくないと地に伏せ起き上がれぬ女性――そして、今再び麗しく立ち上がる青年将校の幻影と、彼を囲む少女の幻影たち。それを下がらせて全てを護るよう前と立ち、青年の抜く軍刀は。

 襲い来る巨大鋏の分裂した二刀流を弾かんが為だ。振り下ろした二刃は横薙ぐ刀に弾かれて、しかし予想したその反動を利用すると軽やかに。くるりと宙返りを決めながら、飯綱・杏子(悪食の飯テロリスト・f32261)は、味方の元へ、華麗に着地する。
 「活きがいいっすね!」
 食材の力量に文句なし。にこり笑うと地に鋏を突き刺して、続けて肩に担ぐように用意されたのは余りに巨大な肉叩き。それから肩越しチラリと味方を振り返る。
 「どう料理するか……みなさん希望あるっすか?」
 「お任せしますわ」
 微笑を返すのは中村・裕美(捻じくれクラッカー・f01705)。いや、今はシルヴァーナ・セリアンと呼ぶべきだろうか。その紅い瞳が、敵の最奥、伏せたままの女性に向けられる。
 「……」
 だから、分担を把握した。荒谷・つかさ(|逸鬼闘閃《Irregular》・f02032)は、飯綱に並ぶように、一歩前へ。

 ●
 振りかぶり。
 手前の可憐なる少女たち目掛け、一切の容赦なく存分に叩きつけられる肉叩きには手ごたえのなくて、打ちつけた衝撃でふわり、花びらの舞い上がるばかりであるから。
 「ありゃ」
 ガッカリとした声。それでも飯綱は器用に舞う一枚を指で捉えて口に運んではみる。
 「んー! 下衆の味っすね!」
 うっとりと身震い。下唇を親指で拭い、きりと見据える本体。毒すら甘味の彼女にとって、思い出を愚弄し汚して哂う|下衆の姫は喰らうに値する《・・・・・・・・・・・・》食材だ。
 ぐっ、と。篭る力に盛り上がるふくらはぎ――人型ならば、と肉叩きを肩に担ぎ身を低め、獣みたくに地を噛んで駆ける、その瞬発力。

 しかし、青年将校の目は敵の動きを追わない、来るべき場所に来るのを待っていた。そこ撃ち込めばいいのだから。タン、タタンと音のする。懐から取り出されたピストルから放たれる銃弾。応えてキンという金属音を立てたのは、落ちる薬莢か――それとも、弾弾き返す荒谷の拳か。
 「お前は私が相手するっ」
 即座に銃を捨てると軍刀を抜き青年が駆けて、振り下ろすそれを、やはり荒谷の|生身の拳《・・・・》が止めるのだ。拳の指を切り落とさんとしてそのまま引かれる刃は無駄となり、だが諦めず、そのまま、二度、三度――常人に追えぬ速度で幾たびもぶつかる二つの得物。
 少女の幻影が潰れ花吹雪と化すのなら、此方は打ち合う度に、刃零れ起こす軍刀のカケラがキラキラと。双方の顔へ遠慮なく突き刺さるそれが紅い筋を作るのだけれど、しかし、どちらも気にした様子もなくて。
 「よい太刀筋……、だが場数が違うっ」
 度胸でも、技量でも。
 喉を突かんと伸ばされた切っ先に真っ向、荒谷の左の裏拳がそれを弾いてそのまま直進する。勢いを載せ、続けてみぞおちに打ち込む右の拳が、青年を浮かせそのまま桜の木まで飛ばすから。
 はらり、花びらは彼へと落ちて――。

 「邪魔をしないで下さる?」
 シルヴァーナのナイフの、煌いたと思った次には、少女の幻影を花弁の如くに変える。
 「さぁ、起きて。ここにいてはあぶないわ」
 ナイフの構えは解けない、今、手は差し出せない。女性が自分で、立ちあがるのを待たねばならない。
 「……|また殺す《・・・・》の? 」
 伏せた彼女の言葉に、少女達の幻影のほころんで。
 思い出を汚され、息も絶え絶えの人を囲んで、さんざ嬲った側がお前の悲しみなどはもう飽きたと嘲笑う――これが眠る悪の、ひとつの先触れである。
 だからシルヴァーナの手は、女性の背を撫でてあげることが、寄り添うことが叶わない。勢いあげる幻影を品のないこと、と切り伏せねばならぬから。そのように、虚しくも幻影を裂き続けることが出来るのは――。
 「いつでもその人に 相応しい貴女でいるべきよ。 さぁ面を上げて」
 彼女と、仲間と、誇り高き己と。今、確かなものを信じているから。
 切り裂いた幻影、目の前を覆うその花弁を風が攫う先――青年を木に縫い止めてそちらも堪える荒谷。

 では。
 戦場――いいや、食卓の整ったのを知った飯綱の、豪快な横薙ぎが最後の少女たちを振り払い、肉叩きはそのままに投げ捨てる。
 今、最高の速度で。
 その|眼が喰らうべき相手を捉え《ワイルドフード・ゲイズ》た――。

 ●
 桜の木の元、佇む青年将校は、何かに気付いた様子だ。
 だけど、これは幻影であるから駆け寄る女性に視線の絡むことはなく。
 それでも確かに、誰かの為に伸ばされた腕と、はにかむような微笑で。

 これが貴女の唯一で本当、それ以外はなにもなかったのよ――今度こそ女性の背を抱き支えるシルヴァーナと。

 幻影の、ふわり解けた花弁を見届けて、ほうと息を吐く荒谷に、お疲れ様っすとの飯綱のからりとした声が掛かる。
 「飯綱さんもお疲れ様よ。――お味の方はどうだったの?」
 「ちっと薄味」
 撃破の実感までは至らなかった、と言外に。残念っす、と肩竦めるも、言葉ほど気にはしてないようである。頷く荒谷も、それは同じと見え、今はない刀のカケラの作った顔の血を拭い、身を整えれば此方もなにもなかったかのよう。
 「いいわ。だって、あの人、笑っている」
 彼女が望まず触れた地獄の先触れは、二目と|見《まみ》えぬ筈の笑顔の奇跡で塗り替えた。涙に濡れるその人の頬は、今、桜の色に色づいているから。

 そうして。
 四人の仲良く丘を下るのを、桜の木は見送るばかりである。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ギュスターヴ・ベルトラン
サクラミラージュに来てみれば…クッソ悪趣味だな、おい
あなたの亡くした人を教えて、か

最近の写真を送った時、|母《ママン》から返信があった
「|あの人《パパン》に似てきたね」と
似た面差し、異なる短髪の硬そうな黒髪、全く同じ金色の瞳

そいつはオレの父親だよ

愛する人との間に産まれた子を疎み闇堕ちした|父親《ダークネス》の話は…|あの世界《サイキックハーツ》ならよくあることだろ
その子が必死で抵抗し、灼滅者としてそのダークネスを灼滅したことも…きっとよくあることで
…その事実を母に伝えぬ事も、まぁある

ここまで言えばもういいな
UCを…ああ、UC名の意味?
「恥知らずの我々を殺してくれ」くらいの意味合いでとらえてろ



 ●救いなど、なかった

 「そうなのね、可哀想に。奪われたのね、貴方に向けられていた筈の陽だまりを」
 花散らす桜のもと、可憐な少女はかかとを浮かし、精一杯に手を伸ばして、目の前の長身の男、その頬へ手を伸ばす。健気に、慰めるように、癒すように――煽るように。
 「貴方は愛していたのに、揺ぎ無く愛していたのに。そうね、貴方の愛したその人は、|殺されてしまった《・・・・・・・・》のよ。そして母へと生まれ変わって――もう貴方を見ない」
 棒立ちのままの短髪の、長身の男の胸に、一人よがりにうっとりと身を寄せて。

 そこで、くるりと向き直る。
 僅かに離れたその場所で足止めた、新たな登場人物へ姫が問う。
 「ところで、そこなお方。愛を喪ったこの可哀想な殿方が何方か……ご存知?」
 面白くって堪らない、無邪気な笑いに弾んだ声色。

 「俺の親父だよ」
 人の親父に盛ってんじゃねーぞ、クソガキがと吐き捨てる彼の。
 ギュスターヴ・ベルトラン(我が信仰、依然揺るぎなく・f44004)が《父》に向けるまなざしの、どのようであるかは黒眼鏡に隠されて、伺うことは叶わない。

 ●
 我が身を囲う光輪へ、言っているのだと最初は思った。
 
 「あぁ、僕の太陽」
 闇落ちした者の得る黒い炎が、魂の苦悩の慰めに、主の光へと手を伸ばすように見えたからだ。
 所詮はこいつ、幻影か。
 ギュスターヴの記憶にある父親は彼を疎い、打ち、払うことはあっても、一度だって、手を伸べるような真似、しなかった。そうとも、|幼子《灼滅者》と絶対的な|父親《ダークネス》として対峙した、あの時には容赦なく明確な殺意として揮われた炎が、こんな風には、決して。

 外れた答え。
 益々面白そうに笑う、少女の甲高い声が耳につく。
 光輪を割り、顔を、腕を、身を焼く黒い炎の温度は、幼き日と変わらず、子すらを疎んだおぞましい嫉妬の現れのままである。
 それでいて言うのだ、纏わりつきながら、ああ、僕の太陽、と。

 「……アンタの気障も大概だな」
 そんな風だから俺に取られんだよ。クッソ重てぇんだよな、アンタ。
 どうにか、笑いのようなものを浮かべたくて、出来ない。気付いた彼を襲うのは、火傷の齎すものより、もっとひりついて。
 「太陽、だなんて」

 太陽――母親は、いったのだ。『|あの人《パパン》に似てきたね』と。
 それなら、きっと俺は|彼女《ママン》にだって似ているに違いなかった。
 知っていたさ、コイツは決して俺を見ない。

 『おとうさんは、どうして、ぼくを、みてくれないの』

 あぁ、彼女はどう思っているのだろう、突然いなくなった父を。息子に見出す彼の事を。言えないまま、聞けぬまま。だけど、そんな彼女に抱くのは、愛情より、秘匿の辛さより、罪悪感よりも、もっと。
 子供ながらに、母の傍にはいられないと思った、あの日。
 彼女の言う通り、父に似て、俺は――。

 「ねぇ、ところでお兄様――貴方、どうして、此方にいらしたの?」
 コロコロと、涼やかな声が桜の下に響く。

 おぞましき執着と嫉妬の暗き淵で、向けられぬまなざしを乞いながら――切りあい、焼きあう、その両者を嘲笑って。

 ●
 「別に? 散歩だよ」
 自意識過剰のお譲ちゃん。
 鼻で笑う。ギュスターヴの体力はしかし限界に近くて、父に焼かれるままに、それでも調子外れに歌い始める。散歩といった、そのままに。ふらりふらりと、父のほうへ歩きだす。
 歌声に応えるように、歩く彼の影から数多生まれる鴉は、父の生んだ黒炎に焼かれるまま、それを纏って、彼を焼く父のかたわらを疾く抜けて――。
 「まぁ、なんて縁起の悪いの。黒い炎に鴉だなんて」
 初めて、苛々とした声を漏らして、少女が自分の周りを囲む鴉を払おうとする。自分が襲われるとは思っていなかったか、殺してやるとねめつける仮面の剥れた悪辣の眼差しも、ダンスの下手なお譲ちゃんだと返すギュスターヴは、今や《正解》を得ているから。
 「俺達、似た者親子でね」
 なぁ、|父さん《パパン》――呼びかけられた、父の炎は、もう彼を焼かない。そして、ギュスターヴは続けるのだ、調子外れ、音も外れで悲壮を喪ったモテットを。死を弄ぶ少女の為、子殺しの父のため、そして、再び求めて、今また父を殺す自分の為に。

  もし、あなたが諸々の不義に目を留めるのなら
  主よ、だれが耐えられましょう

 ああ、どうか――恥知らずの我々を殺してくれ。

 茨はその場の全てを囲み、太陽の如き発光が、瞬間、全て灼きつくす。
 花弁に解けて掻き消え去る少女を、黒眼鏡の奥のギュスターヴの目は捉えたけれど、もう追わなかった。これ以上は、父の情念に焼かれた彼も動けなかったのだ。膝をつき、崩れ落ちんとする彼の前に立った、それが誰か、分かるけども、分らない。強い光が逆光となっている。思えば幼い時、見上げ、盗み見た父の顔はいつもそのようだった。彼と同じで、背の高くて。だから、表情など、分らなくて、でも。

 ギュスターヴと同じ、金の瞳が、今、彼を見ている。

 ●
 満ちる生命力に、立ち上がる。
 ただ、はらはらと、桜の散るだけの場所で一人。

 震えるデバイスに、こんな場所で届くものかといぶかしむも、焼かれボロボロの服の内側から、不思議と焼け残ったそれを取り出して確認すれば、始まるビデオ通話。

 『そういえば、この間、聞きそびれと思ってね。次はいつ帰るの? My son!』

 このタイミングで、なんだって仏語でなく英語。マイサン、思わず噴出すその響き。
 なんだかんだ、似合いの夫婦だったんだろうな、なんて――その二人がいて、ギュスターヴはここにいる。

 貴方、随分ボロボロじゃなあい? 聞く母親に、なんでもないよ、なにもなかったって。うるさいなぁ、と釈明しながら丘を降りるその背を、穏やかな陽光に照らされた桜の木は見送るばかりである。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リカルド・マスケラス(サポート)
『正義のヒーローの登場っすよ~』
装着者の外見 オレンジの瞳 藍色の髪
基本は宇宙バイクに乗ったお面だが、現地のNPCから身体を借りることもある
NPCに憑依(ダメージはリカルドが請け負う)して戦わせたりも可能

接近戦で戦う場合は鎖鎌や鎖分銅の【ロープワーク】による攻撃がメインだが、プロレスっぽい格闘技や忍者っぽい技もいける
遠距離戦では宇宙バイク内臓の武装による射撃攻撃やキャバリアによる【結界術】
その他状況によって魔術による【属性攻撃】や【破魔】等使用。

猟兵や戦闘力のあるNPCには【跳梁白狐】で無敵状態を付与できる。

基本的にチャラい上辺ですが、人々の笑顔のため、依頼自体には真面目に取り組みます



 ●愛など、なかった

 そう、こんな黄昏時。ほんの少し目を離した。
 だって、友達が。お前のお世話は、それは僕のお勤めだったけど、だけど、僕。
 「ごめん、ごめんな」
 今、僕だけがこんなに大きくなってしまった。だけれど、お前の事を、一瞬だって忘れたこと、ないよ。

 記憶のまま、細く、小さく、か弱い妹――いつも布団に寝かされていた彼女が、起きて、立って、僕に微笑んでいる。『にいさま』と呼ぶ声に釣られ踏み出す一歩。その花弁の絨毯の上に、狐の面の一つ、落ちている。そうだった――僕はつと足を止めて。あの日、僕は、祭りにいこうって誘われて。いったこと、なかったから、本当にちょっとだけ。それにさ、お前にも見せたくて。そう、こんな狐の面を土産に、急いで、走って。外に出られないから、お前にも――本当に、お前の事を忘れたわけじゃ、なかったんだよ。

 そして、僕は、面を拾いあげた。彼女にあげようと思った、あの時と似たその面を。

 ●
 「うそつき」
 先ほどまでの笑みを、その小さな手で覆い隠して妹がいう。膝つきその子を横から、抱き、護るようにした少女が、可哀想にと言葉を継ぐ。
 「……ねぇ。本当は疎んでいたのでは、なくて?」
 ――病弱の妹を、その看病に縛られる事を。
 少女が、幼い子の頭を撫でて、立ち上がる。
 「責めているわけじゃあ、ないのよ。ただ、ねぇ?」
 幼い子をいとおしげに見つめ、撫でてやるその彼女の手を端にして、どす黒いもやが立ち上る。そうして、顔を覆ったままの少女の周りを、人が病魔を形と想起するなら、ひとつこの様も知れないと、そう思わせる何かが、取り囲む。

 「それは……」
 「それは?」
 ふふ、と笑いの堪え切れず小首を傾げる少女。
 「しらないっす」
 あら。随分とつれないお言葉、とさも悲しげに瞼を伏せ、
 「でも、そうね。過去を振り返るだけなら甘美でも、向き合うのなら辛いかもしれないわ」
 再び顔を上げたとき、にたりと、少女は最早邪悪の笑みの隠しきれない――今度こそ。
 そして横の幼女を見て。
 「……えっ?」
 「ありがとう、おきつねさま」
 「なに? 」
 きゃ、と少女が悲鳴をあげる。横など向くから……リカルド・マスケラス(希望の|仮面《マスカレイド》・f12160)の鎖鎌は簡単にその身を捕らえた。
 「いえいえ~、かわいこちゃんの助けになれたならそれが一番っす」
 へらりと幼女へ微笑んで、しかしその手は容赦なく鎖を引く。腕ごと腹回り締め上げる鎖に、少女は思わず片膝をついた。そして、妹はもう顔を覆わない。どす黒い病魔の妄想もそこにない。細い足でおぼつかなくも、どうにか、リカルド――|兄の体を借りる仮面《・・・・・・・・・》の横まで駆けて。

 そういう訳である。
 体を借りた青年の、その日の真実までをリカルドは知らない。
 一方でリカルドは己が何であるかをよく知る。これまでの報告も聞いてきた。

 彼だから狙えた、この特殊な乖離。
 誰も傷つけず、少女の攻撃を無力化するための手段。

 「にいさまを、おねがいします」
 まもって。
 見た目よりしっかりと物をいう。鎖を締め上げる両手はその子の頭を撫でてやることが適わなくて。
 「必ず」
 真摯な眼差し、この瞳は確かに彼女の兄のものだから。
 そして、ふわり――幻影は解けて花弁となる。

 ●
 空が夜へと色を変えつつある時間なのも、味方した。これまでの度重なる猟兵の襲撃も、確実に彼女を疲弊へと導いていた。青年がリカルドになることに、その髪色の変化に気付けないほど。
 「うそつき」
 「さっきから、うそつきうそつきって。嘘ついてないっすよ。自分は知らないっすから」
 「誰よ、誰なの、あなた」

 「……下らないお|遊戯《ままごと》はおしまいの時間っすよ」
 ヒーローは仮面の下は明かさない。なにもない、だれでもない。彼女の問いには、応えない。
 鎖のもう一端、リカルドの側に鎌はある。悪辣を刈り取るための鎌。
「いやよ! いや! 私まだ遊び足りないわ、こんなのってない!」
 その煌きに恐慌して少女が喚く。あなた、あなた、助けてと地を見て叫ぶ。目の前を受け入れられるわけがないと。応えて地の底から吹き上がる冷たい風が周囲の桜を巻き上げれば、いま、一つの影を作られて。ち、と舌打ちする、リカルドが見る先には、遂に少女自身の、彼女に纏わる誰か――時代錯誤の武士崩れ、山賊のような若い男がひとり、少女の前に立っている。

 「……へぇ、それがアンタの情人っすか?」
 それは別に深い意図をもって為された《質問》ではない。さて、この状況どうしようか、と、間を繋ぐための。それに答えたのは少女ではなく、男である。
 「オレは役立たずは嫌いだ」
 「なにいって、……ふざけないでっ。早く鎖を解いて頂戴! 愛してるっていったじゃないっ」
 続く、え、と虚を突かれたような声は、リカルドのものとも、少女のものとも判然としなかった。
 喚く少女の肩から先、ボロっと腕が外れて花弁に変わるから。

 正しい《答え》が導くもの――それは、幻影が解ける瞬間。

 はははははと、男が全てを嘲笑う高笑いをあげると同時。踏ん張らねば立てぬほどの突風と、少女の絶叫、解かれた幻影は花吹雪となってリカルドの視界を奪う。
 やがて全てが落ち着き、目を開けるリカルドは。その先には。

 ――なにも、なかった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『燐火蝶』

POW   :    灼熱飛舞
【ヒラヒラ舞い飛びながら炎】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    翅翼火光
【炎の翅から放たれた光】が命中した対象を燃やす。放たれた【蒼白い】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
WIZ   :    蝶蝶怪火
レベル×1個の【蝶の姿をした焦熱】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ●怪気炎をあげる
 固定された揺らめきという奇妙さこそが、異常な堅牢の表れだった。
 
 「悪霊衆っ!」
 抜く軍刀、号を発す。
 しかし、鋭い声に似つかわしい山本の剣風ですら、その蝶の炎の端を切ることはおろか、靡かせることすら叶わない。花見客をばかり焼く蝶のいると聞いて急行したものの、これは……。

 起こるのはかすかな変化。
 虫の顔の、心通わぬゆえに。ふわりふわりと遊ぶゆえに。気づくのが遅れる。
 あらゆる干渉を、自身の飛翔の影響をすらも無視する、ふわり舞う固定された揺らめきは、今、山本の参戦を知ってか、牧羊犬の如くに徐々に皆を追いたて纏めていく統率を見せている。対する山本の側は、悪霊軍団に見物客たる妖怪たちも加わって、指示の元、蝶たちをどうにか凌ぐが、彼女の刀で薙ぐことすら無理なら、勿論軍団の憑依も受け付けぬ。

 せめて離脱の突破口を、わが身は厭わず――強く握る柄。
 その時だ。不思議と地面から、あたたかな風の吹き上がったのは。
 そして見る。風に煽られ、蝶の檻の乱れる先に。

 山本の表情に、不敵な笑みが戻る。
 《仲間》の到来に、今こそ反撃の時と《怪》気炎を上げて!

 ●マスターより
 第一章は有難う御座いました。
 皆様のご到着により、固着された揺らめきは、ただの炎の揺らめきとなりました。

 山本ニャンコ親分ですが。
 大祓百鬼夜行④を参照 『東方親分『山本五郎左衛門』威風形態』 となります。
 敵も数が多ございます。
 能力発動に関してアドバイスなどあれば、親分にお声掛けください。

 『東方親分『山本五郎左衛門』威風形態』
 ●POW : どろん衆きませい!
  レベル×1体の【東方妖怪のどろんバケラー 】を召喚する。
  [東方妖怪のどろんバケラー ]は【化術(ばけじゅつ)】属性の戦闘能力を持ち、十分な時間があれば城や街を築く。
 ●SPD : 獄卒衆きませい!
  対象への質問と共に、【マヨヒガ(屋敷)のあちこち 】から【東方妖怪の地獄の獄卒軍団】を召喚する。
  満足な答えを得るまで、東方妖怪の地獄の獄卒軍団は対象を【嘘つきに対して威力増加する鬼棍棒】で攻撃する。
 ●WIZ : 悪霊衆きませい!
  自身が装備する【号令懐刀(ごうれいふところがたな) 】から【東方妖怪の悪霊軍団】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【妖怪憑依】の状態異常を与える。

 以上です、宜しくお願い致します。
祓戸・多喜
大変なことになってるわね!
山本親分さんを守るためにもここは一つ頑張るわよ!

とりあえず数が多いのが厄介ね!
私が切り込んで敵集団の内側から矢をぶっ放して数減らすから、その直後に獄卒さん呼んで畳み掛けてと作戦伝える。
それから燐火蝶の群れに矢弾の雨放って陣形崩してダッシュで敵陣ど真ん中に飛び込む!
近づいてくる蝶は念動力で通連操り切り払い、炎はオーラ防御と結界術合わせて障壁作ってガード。
山本さん巻き込まぬよう距離になったらUC起動、空に強弓引き絞り矢を放ち光の矢で周囲の蝶を纏めて射抜いてやるわよ!
さあガンガン攻めるわよ!と速射で矢を次々放ち獄卒さんと共に撃ち漏らしを倒してくわ!

※アドリブ絡み等お任せ🐘


水心子・真峰(サポート)
水心子真峰、推参
さて、真剣勝負といこうか

太刀のヤドリガミだ
本体は佩いているが抜刀することはない
戦うときは錬成カミヤドリの一振りか
脇差静柄(抜かない/鞘が超硬質)や茶室刀を使うぞ

正面きっての勝負が好みだが、試合ではないからな
乱舞させた複製刀で撹乱、目や足を斬り付け隙ができたところを死角から貫く、束にしたものを周囲で高速回転させ近付いてきた者から殴りつける
相手の頭上や後ろに密かに回り込ませた複製刀で奇襲、残像で目眩まし背後から斬る、なんて手を使う
まあ最後は大体直接斬るがな

それと外来語が苦手だ
氏名や猟兵用語以外は大体平仮名表記になってしまうらしい
なうでやんぐな最近の文化も勉強中だ


ルドルフ・ヴァルザック(サポート)
「フゥーハハハ!(こ、この場は笑ってごまかすしか……)」
◆口調
・一人称は我輩、二人称はキサマ
・傲岸不遜にして大言壮語
◆性質・特技
・楽天家で虚栄心が強く、旗色次第で敵前逃亡も辞さない臆病な性格
・報復が怖いので他人を貶める発言は決してしない
◆行動傾向
・己の威信を世に広めるべく、無根拠の自信を頼りに戦地を渡り歩く無責任騎士(混沌/悪)
・何をやらせてもダメなヘタレ冒険者だが、類まれな「幸運」に恵まれている。矢が自ら彼を避け、剣先が届く前に毀れ、災難は紆余曲折で免れる
・臆病な性質も見方次第では生存本能と言えなくも……ないよね?
・コミックリリーフ役にお困りならば、彼が引き受けます(但し公序良俗の範囲内で)


ティモシー・レンツ(サポート)
基本は『ポンコツ占い師』または『本体を偽るヤドリガミ』です。
カミヤドリも魔法のカードも、「Lv依存の枚数」でしか出ません。(基本的に数え間違えて、実際より少なく宣言します)
戦闘についてはそれなりですが、戦闘以外は若干ポンコツ風味です。(本体はLv組で出せない、UCの枚数宣言や集団戦は数え間違える、UCを使わない占いは言わずもがな)

ヤドリガミの「本体が無事なら再生する」特性を忘れて、なるべく負傷を避けつつ戦います。
オブリビオン(最後の一体)に止めを刺すためであれば、猟兵としての責任感が勝り、相討ち覚悟で突撃します。
でも負傷やフレンドファイヤ、代償は避けたいお年頃。


シン・クレスケンス(サポート)
◆人物像
落ち着いた雰囲気を持つ穏やかな青年。
窮地でも動じず冷静な状況判断で切り抜ける。

◆戦闘
射撃(愛用は詠唱銃だが、様々な銃器を使い分けている)と魔術による広範囲攻撃が主。
魔力の操作に長け、射撃の腕も確か。
作戦次第では、闇色の武器を召喚(UC【異界の剣の召喚】)して前衛を務めることもある。

◆特技
・情報収集
・機械の扱いにも魔術知識にも精通している

◆UDC『ツキ』
闇色の狼の姿をしており、魂や魔力の匂いを嗅ぎ分けての追跡や索敵が得意。
戦闘は鋭い牙や爪で敵を引き裂き、喰らう。

◆口調
・シン→ステータス参照
(※使役は呼び捨て)
・ツキ→俺/お前、呼び捨て
だぜ、だろ、じゃないか?等男性的な話し方


アラタマ・ミコト(サポート)
|荒魂鎮神命《あらたましずむるのかみのみこと》助太刀に馳せ参じてございます。
かの軍勢が障害なのでございますね。
では、極楽浄土で身に付けし武芸でお相手いたしましょう。


ギュスターヴ・ベルトラン
山本親分さんとは初めましてだな
…親分って言うからバズトレの同類かと思って警戒したがすげえまともそう

さて疲労困憊なとこに悪いが、こっちが手助けを乞う側になりそうだ
ちょっと献策するんでお耳拝借

悪霊衆で敵を妖怪憑依状態にさせた状態で、オレが除霊だの妖魔殺しだのと祈りを込めたUCで攻撃する
攻撃が当たったら悪霊衆は憑依状態を解除して、更に敵を攻撃
…と言うのもこのUCは味方には回復の効果が発動する
回復した悪霊衆と、攻撃当たって弱った蝶…倒しやすくなるはずだろ?

流石に数で対抗するにはオレの力だけだと足りねえんだ
悪いとは思うんだけど、協力してほしい!

桜の中を飛ぶ蝶ってのも、眺めるだけなら良いんだけどなぁ…



 ●むしばめるもの

 「こんにちはっ」

 意識して発された大きな声。その声の明るさと溌剌さだけなら、本当に女子大生がアルバイト先のクルールームに入ってきた時の挨拶のよう。山本親分と、守られている妖怪たちを励ます為にだ。そんな彼女の大きく円らな瞳は彼ら囲う蝶の群れのどこを抜けるかを伺う鋭さを湛えて。
 なんとしてもあちらまで。戦況の把握に努める祓戸・多喜(白象の射手・f21878)の、その巨躯の後ろからひょこりと戦場の様子を伺う者がもう一人。
 (こちらは7名……、何せあの山本親分もいる。旗色や、よし!)
 「我輩こそはルドルフ・フォン=ヴァルザック! さぁ、いざ共に蝶の檻、その軛を破ろうぞ!」
 フゥーハハハ! とルドルフ・ヴァルザック(自称・竜を屠る者・f35115)は名乗りの通りに、《|自由《やり》》を掲げながら、バッと身を現す。
 「……オイオイ、当てになるんだろうなぁ」
 先の挙動不審からの急な勇ましいさ。遠慮ない言葉と苦笑いで突っ込むのは、ギュスターヴ・ベルトラン(我が信仰、依然揺るぎなく・f44004)だ。
 而して、心のありようを受け取る者達の住む《カクリ|ヨファン《ここ》タズム》では、祓戸の明るさや、ルドルフの力強い名乗りというのは、初手として充分有用であった。
 応!と元気に返事し、刃の通るようになった蝶たちをいなす山本親分の太刀筋は冴え、彼女の後ろの妖怪たちは震える事を止め、お試しと燃えにくい石像に変じてみたりと、銘銘に出来る事を始めている。

 では共に、と行きたいところではあるが、あちらとこちらの間には距離があり、舞う蝶は余りに多い。元気な名乗りから一転、声音を顰め、祓戸の横から離れないルドルフが皆に問う。
 「……して、どうする?」
 不安や迷いなどでは、断じてない。これは、威厳を示すために声のトーンを落としただけですから。
 「ははは、んなことだろうと思ったぜ」
 ギュスターヴが遂に声をあげて笑いながらも、此方に気付き、飛来する罪深い蝶たちの先鋒に《光輪》の赦しを与え、時間を稼ぐ。
 「私は山本さん側に。援護に入りたいです!」
 「こんな中をお譲ちゃん一人で行かすのはな、それならオレもそちらに回ろうか」
 祓戸の申し出にギュスターヴが乗るのを聞いて。
 「了解しました、ではまずは……」
 応えて、白銀の光沢も美しい《愛銃》、その銃杷の底に左手を添えながら、シン・クレスケンス(真理を探求する眼・f09866)が口を開いた瞬間のことである。
 「かの軍勢が障害なので御座いますね」
 それだけを言いおいて飛び出すのは、立派な兜も勇ましい……幼女だ。
 「私が彼女を援護しよう。私も真っ向勝負が性に合う故」
 一瞬皆を振り返って力強く頷くと、地を蹴って彼女を追う影がひとつ。

 かくして、まずは第一陣が切り込みに入る。
 ブォ、ンッ――低く、竹のしなるかのような音。その|眼《まなこ》は愛おしいものをみるかのように穏やかに。薄らと仏の微笑、それに似つかわしくない豪快な太刀筋。アラタマ・ミコト(極楽浄土にて俗世に塗れし即身仏・f42935)が、己が身の丈と変わらぬほどの《オオガタナ》を一文字と横薙ぎし、蝶の命の火を剣風で掻き消すならば。
 開けた場所に、身を躍らせ跳びいったのが、水心子・真峰(ヤドリガミの剣豪・f05970)である。空手のままと見えたそこに、柄が、鍔が、そして反り返る光が現れて。アラタマの背を守り、蝶に振り下ろす時には、日を受けて煌く一刀が手に握られている。呼び声など不要、念ずるままに《練成》されたもう一つの己。
 水心子の玉の如き煮澄んだ髪色、アラタマの赤い数珠の装身具たち、蝶のほの暗い青――外からみるなら色々の美しさが入り乱れて――今、うごめく蝶の壁に一点を穿つ。

 銃を構えたシンの、ふぅと吐息して微笑むのを見て、ティモシー・レンツ(ヤドリガミのポンコツ占い師・f15854)も釣られ笑いながら、《ルーンソード》に水を呼び纏わせる。
 「僕たちの行く末を占うなら、……見通しは明るいでしょう、そんなところでしょうか」
 「えぇ、彼女たちのおかげで、敵はかなり自由を失いました」
 第一陣のアラタマ、水心子両名に応対せざるを得なくなった蝶たちの動きは格段に読みやすいものとなる。シンはいつだって冷静で、状況のよくなったのなら先陣の判断に異論もなく歓迎だ。彼女らの攻撃の範囲外、或いは打ち漏らしを、シンの銃と、ティモシーのカードが狙い撃つ。
 「さぁ行きましょう!」
 シンの声掛けで、一団は、先陣の作った点を線に、そして道に変えるべく進みだす。

 送るべき者を中央に、先陣は入れ替わり殿へ。
 その周りをふわりふわりと、蝶たちが舞う。逡巡も、予備動作もなく、放つ炎。
 「おおっと」
 ヤドリガミたるティモシーなれば、燃えたところで再生は可能なのだけども、人と振舞い生きて長い。なにより仲間を怪我させたくはないと、魔力の水を纏うその剣は炎を相殺せんと絶え間なく|空《くう》に弧を描き続けている。体力に余力はある、対処も出来ている、ここまでは問題なく。だが。
 「……」
 相手は物言わぬ蝶である。語りかけは不要、顔をみたとて占えるものもなければ、揺らめく炎の頭部が見る世界は我々にはわからない。何もためらうことはないのだ、けれど。
 「厄介ですね」
 シンがこぼす。ためらいがないのは、蝶の側も同じであるからだ。彼の放つ銃弾をひらりと交わす一匹は命を惜しんだのではない、ただ反射である。山本親分たちを囲っているのだから、狩りの本能くらいはあろうかと踏んでいたが、きっとアレは|想い《いのち》に惹かれただけの、ただの走光性のようなもの――。
 
 現実にはまだなにも困難のない。それなのに。
 命厭わぬ蝶達の、まさに炎で炙られるように――思うようには進めぬ焦燥がじりじりと隊を満たす。

 その焦げ臭い空気感を断ち切ったのは、ギュスターヴの声であった。
 「はじめましてだな、山本親分さんよ!」
 まだ、たどり着けていない。が、張り上げさえすれば会話の届く、彼はそう踏み語り掛ける。
 「疲労困憊のとこ悪いが、手助けしてくれないかっ」
 「初めましてだにゃっ! 皆々の助太刀感謝するにゃ、さ、何なり申されよっ!」
 「悪鬼衆とやら、|蝶《こいつら》に憑依させてくれないか!」
 詳細、話したいことはあった。だが、状況はそれを許さない。それは山本親分も同じ事。
 「悪霊衆きませいっ!」
 望まれるままに。蝶の隙間に見える瞳に強い信を湛え、頷きを一つギュスターヴに返すと、山本親分が号を発する。呼び出され我先にと飛びつき憑依する悪霊衆と、眠れる諸悪の加護の外れた蝶たちが、その軽やかな体の主導権争いを繰り広げ始める。
 果たしてどうやってこの《一匹が敵でもあり味方でもある》という状況を援護する?
 皆の困惑を他所に、緩慢な飛行になった蝶々たちに――下るギュスターブの審判。

 掲げられた手にはロザリオ。
 天空より招来された数多の光条が辺り一帯、悪霊衆ごと蝶を貫き、地に縫いとめるその光景。
 誰もが一瞬、言葉を失う。

 「お嬢さん、今だ!」
 ギュスターヴの言葉に、弾かれたように祓戸が反応する。縫いとめられた、その間を駆け出す――山本親分の元へ。
 消えゆく光条、大地に縫いとめる標本針の抜けた順に、猟兵達の到着以前に受けた傷まで|すっかり癒えた《・・・・・・・》悪霊衆たちが、首捻りながらその後ろを追う。
 ジャッジメントレイは、味方を癒し、それ以外にダメージを与える|力ある言葉《ユーベルコード》なのだ。光条はその一撃をして、果たして蝶には贖いを、憑依する悪霊衆には恩寵を同時に齎した。思惑の上手く行ったことにホッとして、頼んだ、とギュスターヴが続けていえば、それはもう既に。面食らったが、悪霊衆の抜け、弱り地に留まる蝶を見逃す猟兵たちではない。無詠唱で湧き出るが如くのシンの弾丸が、ティモシーの手繰るカードが、審判に従い刑の執行を確実なものとしている最中である。
 「ひらひらとしゃらくせぇ相手だったが、おかげでしっかり、匂いを覚えられたぜ」
 「ツキ、頼みますね」
 今までどこにいたものか、嗅ぐ鼻先でもがく蝶を、今度はその大きな足で踏みつけもみ消して。舌なめずりをする闇色の狼が、シンの横にのそりと姿を現した。頭を低くぎょろりと目玉を動かす、シンのUDC《ツキ》は、しっかり援護しな、言うが早いか、身を躍らせ黒色の風となって桜の丘で舞う。
 「頼もしいことで」
 一人と一匹の背面側では、ティモシーも山本親分の負担の軽減されたここで一気に攻勢を強める。蝶の放つ炎が無地のカードへ吸い込まれるように。勿論、単なる吸収や防御というわけではない。|呪《まじな》いの類は彼の商売だ。そして他を害するような|呪《のろ》いの類は、蝶達のものである。
 お前達がそれを振りまくというのなら。
 「そのまま自分に帰ってくるよ?」
 人の、怪たちの、過去と情念を燃して羽とする蝶たちは、自分達の集めたその強い|情念《ほのお》の輝きに惹かれ、自らの力の前に、哀れ燃え尽きていくばかりである。

 一変した戦況。
 愉快愉快と大きな声で笑うのは山本親分だ。何せ、このような作戦は自分も覚えがある。あえて敵について斬られて、地の固まるような一連は。

 「お待たせしましたっ」
 「感謝にゃっ」
 挨拶もそこそこ、やけどの見える山本親分たちを背に庇い、くるり振り返る祓戸。
 アラタマの大太刀にも引け取らぬ大弓を引き絞り、悪霊衆の更に後ろ、追い縋る蝶たちを立て続け射抜いていく。そうして親分の力の戻った事を確認すれば、すかさずに。
 「獄卒衆をっ」
 「承知ッ! 蝶たちよ、まだお前達に勝ち目があると思うかにゃ?」
  問う山本親分の瞳孔のすぅと細くなり、口角はつりあがる。それは笑みではない。猛獣の、狩りの面構え。獄卒衆来ませい! 山本親分の呼び声に、そこかしこの茶屋や東屋から、金棒をもった彼らが蝶を打ち据えつつ、馳せ参じる――はて、そこかしこに東屋などあっただろうか? だからこそ、これは山本親分の力なのだ。言葉にするまでもなく、低く飛ぶものを親分と獄卒衆が、高度の蝶を祓戸の射ぬく、完璧な連携がここに成る。
 祓戸に想定外があるとしたら、ひとつ。掛けてくれた声、必死に駆けてきてくれたこと、間近で見るその戦い、一度は親分がいても駄目かと諦めた妖怪たちを、彼女の、猟兵達の行動の全てはどれだけ励まし癒しただろう――ここはカクリヨファンタズム。心のありようこそ、生きる糧となる世界。

 守られていた妖怪たちが声を張り上げる。
 猟兵たちへ、山本親分へ、獄卒衆たちへの必死のガンバレの声援。その後押しこそが、この戦場の|最後の武器《・・・・・》である。

 以って遂に全ての猟兵が、幻朧桜の下へ到達する。見える蝶は最早数えられるほど。
 機は熟した――勝ちを見てとったその男が、再びの名乗りをあげた。
 「わが名は、ルドルフ・フォン=ヴァルザック……竜を屠る者也! 此度もまた、我らの勝利の決したぞ! われを敬い、拝み、奉れいッ!! 」
 やんやとはしゃぐ妖怪たちのかわいいこと。格好良く引き締めた顔も緩みそうなほどに。え? 今までどこにって? ……ずっといましたよ。|淑女《レディ》を守るは高貴なる血筋のものとして当然のこと。祓戸の傍にずっと、ええ。
 名乗りと共に高く掲げる鎗の穂先は、残る蝶の炎の齎す光に美しく煌……ちょっとまて。この炎、でかくないか?
 
 残る蝶達の、ない思考は読むことが出来ない。ただ、ルドルフの名乗りに応対するように見えただけ。自らを模すように炎の蝶を次々と生み出して、自らも加わる蝶達の、その全てが、合一し――。

 最後にして、最大の一匹が、空高くふわり、舞い上がった。

 「ぎゃあ!」
 動揺に手をわたわたと、思わず鎗を取り落としたものだから、あ、と身を屈めそれを取ろうとしたルドルフのシャツを、背中から水心子がぐいと引き、阻止をする。そんな間はないぞ、と。そこに、無言で切れ味の有りそうには見えぬ剣――あくまで剣を模した神器であるからして――を差し出すのはアラタマだ。ないよりいいだろう。二人は、いや、ルドルフ以外の全員は蝶から目を逸らさない。
 ひときわ大きくその羽根を動かして、蝶が頭を下げる。
 「来るにゃッ!!」
 張り詰めた山本親分の激。
 だが親分の言葉の鋭さに反して、蝶の方は実にゆるりふわりと優雅に降下するのだ。世の諸共を焼き尽くすのに、焦る必要などないのだといわんばかりに。

 どうする? 見上げる全員の内に、再燃する焦燥感。
 羽の動くたびに、その熱風だけで、肌が焼かれ、眼球の干からび、喉の張り付くように思う。一斉に放たれる遠距離の攻撃も火に焼べる小枝だ。ルドルフなどは、もう、怯えきって借り受けた小剣を握り締め「たのむ、お願ーい!!!」などと本人も誰に何を願うものか分らぬまま喚き散らすものだから。

 神器《天叢雲剣》はその願いを受け、神へ奉った。
 応えて齎されるのは――途端、まるで早回しのように暗くなりゆく空と《慈雨》である。
 神器の通じる《神》が実際ナニモノかは分らぬ。例えばギュスターヴの主と呼ぶそれと同じなのか、はたまたシンの絆結ぶツキのようなUDCの類なのかは。だが、そのナニモノかが贈った雨は確かに、炎を弱め、次の瞬間。
 一筋、細い雷が轟音と共に片羽を貫いた――。
 
 これは本来なら起こりえないはずの奇跡だ。そも《天叢雲剣》はアラタマのもの。彼女の呼びかけ以外に応えるなどありえない。静かにして欲しくて、動転するルドルフを落ち着けるため預けただけの。
 つまりそのようにして、《誰からも持て囃されたい》と願うルドルフに、動揺を晒しても仲間は《信》を示し、妖怪たちは喝采と感謝で《支持》を送っていた。そのことが、彼自身も知らぬ彼のうちの、|理《ことわり》すら曲げる《|豪運を導く力《ユーベルコード》》を解放させた。

 ということは、この時の、いや、この後の誰にも分りえぬ事の真相であるけども。
 炎に水。止まぬ慈雨の中、今一度、祓戸がその大弓を引き絞り――放った。
 水に濡れた矢は思う軌道からは、ずれが生じる。が、雷と同じく、その巨大すぎる炎の羽に風穴を開ける。もはや待ったなしだ。ギュスターヴ、シン、ティモシー、そして祓戸が、それぞれのやり方で立て続け光臨に矢弾、カードを放ちその巨大な羽に点を穿てば。

 「これだけ低くなれば充分。親分っ!」
 今や前ではなく垂直に落ち始めた蝶に向け、水心子と山本親分が同時に駆け出していく。途中で左右に分かれ高く跳んだ二人の、その剣技乱舞。みることが出来るのは、雨に濡れた刀身の、炎を受けて煌き、幾筋も光線の走る、剣技の名残だけ。遠距離隊の穿った点を線につなげて、炎の羽は細切れに。千切れたものから、掻き消えていく。
 その最後には、まるで何度もこのような共闘があったかのように、息もぴったりと二人同時に残るその胴を蹴り上げて、反動を利用し、最後の一人の両隣に見事着地を決める。

 受けて最後。
 今ここにいる妖怪達に至るまでの全員で、点を線に、そのように作った道を、アラタマが駆ける。余りに大きなその胴を斬れる者のは、彼女と、そのオオガタナを除いてこの場にない。
 「……極楽浄土より持ち帰りし法具にて、ここに妖を滅します」
 振り下ろされる刀が、地に着く手前の蝶の胴をすぱりと縦に割く。

 掻き消えて逝く蝶の最期を見送るアラタマの表情は、仏の湛える、ほの寂しくも慈悲深い、あの優しい微笑であった。

 ●
 雲間から差す光。
 炎に焦がされ雨に濡れた桜たちはしかし、一件の前と変わらぬ……いや光芒をうけ一層の輝きで、そこに立つ全ての者を祝福する。
 「L'echelle de l'ange」
 ぽそり、呟くギュスターヴに、アラタマと水心子がガバ、と顔を向ける。
 「な、なんだよ?」
 二人横文字のものには、疎いがゆえに敏感であって。でも、それなぁにと聞くのはちょっと。アラタマは、何せ語句のよく聞き取れなかったから、なんて聞けばいいものかしらんとおっとり。水心子は、ちょっと見栄っ張りの知ったかぶりであるからして。
 「あぁ、あれかね! うむ」
 ルドフルは、そもそも、ギュスターヴのなんといったか、聞こえてなかったのに、しっかり光芒の方を見るという幸運で辻褄だけは合うものだから。

 一方で、続けざま申し訳ないですが、と山本親分に経緯を説明するのは、シン、ティモシー、祓戸の3人だ。
 「にゃるほど、貴殿らの来る前の、可笑しかったのはそのようにゃ……」
 儂も耄碌したのかと焦ったにゃ、とにゃははと笑う親分の表情は晴れやかで。
 「サクラミラージュに、お出で願いたいのです」
 「お願いしますっ! 山本親分さんっ!」
 シンがいえば、祓戸が継いで愛らしい女子大生の溌剌さでぺこりとお辞儀し、顔を上げて微笑むから。

 「勿論! 東方親分山本五郎左衛門、為すべきを為すためにっ! いざ、共に参りましょうにゃ!」

 「そっち、話し纏まった?」
 ギュスターヴが、ティモシーに声を掛ければ、頷きひとつ。この場でこれだけの存在がいたのだ。《諸悪の根源》の眠るその場所で|見《まみ》えるのは鬼か蛇か。それでも。

 桜の丘に掛かる《天使の梯子》を仰ぎ見る。道は繋げたのだ。
 「いい流れですよ。僕の占うところによると、見通しは明るいでしょう!」

 舞台は再び、サクラミラージュへ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『不退転浅鬼・賀楪猿』

POW   :    咲かずば裂こうか赤い華
【相手を叩き潰し、引き裂く素手】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    傾国への執念
【強さを追い求める羨望と怒り】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
WIZ   :    植え込まれた妄執
【攻撃を受けた際、悪の心を増大する炎】が命中した対象を燃やす。放たれた【炎に触れた者は暴走し、また】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ブライアン・ボーンハートです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ●なにも、なかった
 かつてはそれなりに上等だったのではと見受ける文様入りの、薄汚れ、擦り切れた着物に身を包んだ青年が、その腰に下げた刀を抜く。それは、ついた血も拭われぬまま根元といえば錆び、中ほどからは折れ、使い物になるようには見えぬ。彼はそれを林の中へ投げ捨てた。

 そうして、彼は、林の中を歩いていく。

  孝行つくしてなんになろ。
  忠誠つくしてなんになろ。
  情を交わしてなんになろ。

 歩く一歩ごとに、彼の腕が、足が、腹が、着物を裂き、変貌を遂げて。

  嗚呼。
  生きていたって、何に成ろう?

 それならばはじめから、なにもなかったのと同じに。
 最後に残るは、我が身一つ――。

 これが、彼の歩んだ道。
 彼の経験であり、実感であり、人生であり、結論である。

 満開の桜の下、否みの鬼の立っている。
祓戸・多喜
どうみてもヤバそうな相手ね!
けれど諸悪の根源の影響は弱まってる筈だし山本親分の協力もある。
これなら絶対負けてられないわよ!

足を止めて狙撃中心に援護、攻撃するわ。
向かってくるあの影朧はアタシ達を邪魔する”障害”、だったら遠慮なく跳ね飛ばせるわ!
UC起動して防御力、それから狙撃能力を高めるわ。
あの頑丈そうな身体で強引に突破して近づこうとしてくるなら細めの矢を幾つか同時に番えて牽制射撃、それを速射で放ち数で強引に足止め!
そこに山本親分に攻撃仕掛けてもらって、隙ができたら矢筒から一番太く威力の高い矢を抜いて番える。
破魔の力をありったけ込めてガードごとぶち抜く勢いの一矢を放つ!

※アドリブ絡み等お任せ🐘


夜奏・光花(サポート)
ダンピール/聖者×人形遣い
 
普段の口調「明るく丁寧に!/わたし、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?」

覚醒「静かで丁寧に/私、~さん、です、ます、でしょう、でしょうか?」

『行動』
・優先して怪我人の治療や救助活動など後方支援をします。
必要なら野戦病院などを設営して戦闘から外れる事も。
『戦闘』
・前線では基本は器用に大鎌の使用。
・中距離〜後衛
人形や魔法を中心に使用や味方のサポート。

・心優しく、自分の力にも誇りを持ち、人を傷付ける事は許せません。

UCや技能はどれでも使用し、怪我に気をつけながら行動します。
迷惑行為や公序良俗に反する行動はしません。

あとはおまかせ。

※アドリブ連携◎/エロ絶対ダメ


アラタマ・ミコト(サポート)
|荒魂鎮神命《あらたましずむるのかみのみこと》でございます。
此度は妖討伐の任を受け馳せ参じてございます。
極楽浄土より持ち帰りし法具の力を開放いたします。
活路は切り開きませたでございましょうか?


シン・ドレッドノート(サポート)
実年齢はアラフィフですが、外見は20代前後。
行動パターンは落ち着いた大人の振舞い。
口調は丁寧。時折、奇術師らしい芝居がかった言い回しをします。
「さぁ、ショウの始まりです!」等。

技能、ユーベルコードは状況に応じたものを使用。
身軽で素早い動き、器用さを活かした行動をとります。
主にビットを展開、ビームシールドで防御しつつ、銃器による攻撃を行います。
効果があるなら破魔の力を込めて。

依頼成功のために積極的に行動しますが、他の猟兵や住民の迷惑になるような行動は避けるようにします。

女性には年齢関係なく優しく。
但し、奥さんがいるので女性からの誘惑には動じません。
失礼のない程度に丁寧に辞退します。


雫石・凛香(サポート)
アドリブ・MSの解釈による下記に沿わない動きも歓迎
貴方の書く雫石凛香が見たいです

オブリビオンへの恐怖で眠れなくなった姉のために戦う妹キャラ
性格はクール枠。冷静に物事を見て、必要そうな行動をとれます
敵への態度は苛烈。相手に事情があろうと容赦なし
子供故の短絡さもあり、口が上手い相手だと挑発に乗せられるかも…

魔剣【鞘】という凛香の意思に従い姿を変える剣での形状変化による攻め手の多さとスピードで勝負するタイプ
逆に相手の攻撃を剣で受ける行為はパワー不足でほぼ不可能

UCは基本的に妖剣解放のみ
高い機動力で相手をかく乱し、衝撃波でヒット&アウェイが基本戦法

動きを封じることで先の展開が有利になれば剣戟結界も使用


ヘンリエッタ・ネクサス(サポート)
「状況:能動的脅威を検知/脅威度=グレードⅣ――任務遂行を最優先」
◆口調
・一人称はボク、二人称はあなた
・誰でも丁寧な口調。語彙は硬く、形式的
◆特技・性質
・全身を機械的に強化されており、常人以上の身体能力と反応速度を有する
・USBで充電可能
◆行動傾向
・とあるヴィランの組織の尖兵として造られた宿命に抗うべく、猟兵として活動しています
・体内に武器やセンサー等を格納しており、状況に応じて展開します
・強化頭脳は動作のムダを省きます
・私情や一般的道徳に囚われることなく、合理的な行動に徹します(中庸/中立)
・感情表現を学習途中なので無機質な印象を与えがちですが、実は人情を重んじ、真顔でジョークを言います


ギュスターヴ・ベルトラン
否定の果てにある者を更に否定する
空しい…助けたかった人々を、助けられなかったあの苦しさと一緒だ

攻撃をする前に主への祈りと懺悔を
――主よ、彼の者を…否定の果てに成った者を、更に否定する我が所業を赦したまえ

UC発動
これは血の臭いを纏うアンタを傷つけるモノじゃねえ
だが…そうなってしまう程の、罪に導く感情と、その欲を浄化する

何もないと嘆き、情を否定する心を…真向からオレが否定するのは心苦しくあるが
罪を重ねる行為を止めるのもまた、我が主の望まれることである

敵の行動を支え、動かす感情を攻撃することで一時的に隙を作り、
|HYMNE《讃美歌》と|Miserere nobis《我らを憐れみ給え》で攻撃する



 ●誰問迷悟道

 「やるかね」

 導きに、駆けて駆けて戻った先。
 聞こえたのは、『生きていたって、何に成る』という重い嘆息。
 見えたのは、降り落ちる花弁の中で、人が鬼に変ずる様。

 七対一の状況を前にして、ぼうと立ち、やるかねと問う鬼の声に闘志はなく、何かの欠落している。
 「当たり前でしょ、アタシたちは生きるわ! 邪魔者は全て跳ね飛ばしてやるんだから!」
 応えて気勢あげるは、やはり彼女であった。一同の中で最奥に陣取る、祓戸・多喜(白象の射手・f21878)だ。彼女の|闘志の言霊《ユーベルコード》が、彼女の元よりの巨躯を、神降ろしをも叶う器へと転じさせる。鬼に劣らぬ、その力強い腕が引く弓。

 ぴょう、と鋭く響くは鳴りかぶら。
 邪を祓え、諸悪を祓え――かくして、その先駆けの戦端が開かれた。

 ●
 鬼の声。波のない声。
 このような声を知っている、と彼女は思う――記憶と照合するまでもない。
 「状況:能動的脅威を検知/脅威度=グレードⅣ――任務遂行を最優先」
 《ボク》の声と同じ。

 戦端こそ頼みとしたが、連戦となる者たちの疲弊は合流で見てとれた。彼らの整うのを待つ間をまずは作らねばなるまい。せめて、水の一本を――それは新たに加わった者たちの共通の思いだ。

 そうして、ヘンリエッタ・ネクサス(棄てられた少女兵器・f35114)が、駆けた。
 全身を兵器とするサイボーグ。見る間に形を変え機構を整えるヘンリエッタの義肢は、内部で生んだプラズマをブレードとする。駆けて来た勢いを、ドン、と地の震える程の踏み込みで止めた。その慣性も乗せて、弧をえがき降り下ろされる全力のブレードを、鬼は構わず右腕で受ける。肉を焼き食い込むプラズマ。
 加護は、確かに消えている――攻撃は通る。
 深く、腕の半ばまで。焼かれた肉から吹き上がる血などあろう筈もない、ないはずのものが吹き上がる。血に代わり、それはどす黒く燃える《|否み《ほのお》》であった。鬼の傷から刃へ走る炎、即ちヘンリエッタの左腕を焼くということに他ならない。それでも悲鳴の一つも上げない彼女の腕を、刃から逃がれ、ぐるり回された鬼の太い手が今度は上からぐいと掴んで引き寄せる。

 「人の為にいきて、なんになろ」

 「君の気にするところではありませんよ」
 言わせない。悩ませない。それは、皆のため、最初に駆けた勇敢なる女性に聞くことではない。
 碧玉の煌きを通して精霊が声の主に魔力を分け与える。女性の腕をそのように掴むなど、放したまえよというが早いか《精霊銃》から撃ち出された魔力弾。
 鬼はだから、ただ、手を放した。
 そして、シン・ドレッドノート(真紅の奇術師・f05130)の放った魔力弾を迎撃したのは――鬼から開放されたヘンリエッタの左腕、電磁放射砲である。鬼の炎に焼かれ、《暴走》しているのだ。
 ――けれど、それで構わない。
 クスリと笑う麗しい青年は、しかし、そうとは見えぬ年の分だけ積んだものがある。シンの要求はヘンリエッタの《解放》である。鬼から。否みから。それの叶えば重畳。
 続けざまの彼の射撃は援護射撃だ――初撃を合図に駆け出した者達のための。

 軽い体に、ヘンリエッタのような重い一撃は放てない。だから、真っ直ぐではない。林というこの場を活かし、桜の幹を借り、蹴って。それを繰り返し溜めた力。最後に高く蹴りあがって、高所からの振り下ろしは衝撃波となり、鬼を一歩下がらせる。そこにすたと降り立った。
 「ごめんなさい、なのっ」
 告げる雫石・凛香(鞘の少女・f02364)は、謂うことを聞かぬ左をどうにか右で押さえ込む彼女を鬼から引き離すべく――ヘンリエッタの腹を蹴る。
 鬼はこれ以上は容易に動かせぬ、苦肉の最善。

 吹き飛ばされた先に走るのは、夜奏・光花(闇に咲く光・f13758)だ。どうにか間に合って、サイボーグの重さに二人一緒にもんどりうつ。それを押しとめたのは――幻朧桜の幹である。
 「大丈夫ですかっ」
 乱れた身なりも頭になくて、炎に焼かれ暴走する腕に触れる危険を顧みずに伸ばされる夜奏の手。いつだって《ひとにやさしく》と願い、それを実行する、まだ小さく柔らかい手。彼女の慈しみに感応し、今、夜奏の手の甲には、花に十字の《聖痕》が浮かび上がる。それが、ひと撫でごとに黒い炎を吸い上げ、浄化してゆく。
 「さぁ! ここから、ですよね!」
 頬の土汚れも知らず明るくいう夜奏に、ヘンリエッタが代わりそれをぬぐって一つ頷く。

 「くだらない事ばっかりいうんだから!」
 先の問いは、自分に向けられたものではないと分っていても、雫石の気持ちは治まらない。これだからオブリビオンは嫌いだ。
 己が身を削ったって、大事な人の為に生きて、その人を活かす為に。わたしはその為の剣でありたい。
 姉のために、このオブリビオンもまた排除せんとする強い決意は、魔剣の怨念と交じり合い、一人とひとつで、ひと振りとなる――妖剣解放――雫石の振るう《鞘》は、時には鞭の如くに自在に撓りながら、避けきれぬ数の衝撃波を生んで鬼を襲う。

 「飽きんかね……俺ぁ、飽いたよ。おんなじことの、繰り返し」

 何について? 衝撃波? それとも――。
 衝撃波は確かに鬼の身を削っている。しかして、いや増すのはより燃え盛る否みの揺らめきだ。
 「下がって!」
 ぐ、と太さの増した鬼の体。そして伸ばされる鬼の腕に、今度送られるものは、幾筋もの細い矢である。
 ここまで4人の稼いだ時間などは、実際にして僅かなものかもしれなかった。それでも。
 「獄卒衆、来ませいっ!」
 有り難く、充分な。
 それがどれだけ価値ある時間だったかは、張りある山本親分の声にも明らかで。下がる雫石を、獄卒衆に預け成り代わり、前へ躍り出るそのしなやかさ。
 対して、最奥に陣取った、祓戸は動かぬ。動けぬ。移動の自由を代償に手に入れた神の力降ろす体は、仲間のおかげで今、十全に漲っている――|強力《ごうりき》が複数の矢を同時に番え、過たず放つその《神》技で、鬼の避ける道を潰し、親分を援護する。

 だが、そこまでをして、尚。
 かは、と、血を吐き、その刀ごとに飛ばされるのは――。

 「人の為にいきて、なんになろ。おまえたち……飽きんかね」
 とぼとぼと、いうのが相応しかった。歩み寄って、親分の黒髪を引きつかんで持ち上げて、鬼が問う。
 「オマエらの止めぬから、終われぬ。オマエらの止めぬから、いやさか否みの燃え盛る」

 「それでもまだ、やるかね……オマエらが救世と呼ぶ――この戯れを」

 遂に鬼が嗤う。
 明くる年ではない、明日を語ることすら可笑しいのだと、それが地獄を招くと嗤う。
 嗤って、山本を放り投げた。

 ●何知名利塵
 転がる親分を支え起こし、ギュスターヴ・ベルトラン(我が信仰、依然揺るぎなく・f44004)は不敬にも目を開いたまま、祈る。

 ――主よ、彼の者を…否定の果てに成った者を、更に否定する我が所業を赦したまえ。

 胸の内は、苦しかった。何を言える、己一人の道を省みても。
 果たして自分達のしていることはなんであるか。
 その為に、我らに代わって、血を流す者――その現実が今ここにだってあるというのに。

 ギュスターヴと山本親分を庇うように構えて、穏やかな微笑はいう。
 「所詮は妖に御座います」
 「それ悟りってヤツ?……そうさな。利のためならば、悪魔も聖句を述べるというからなぁ。それっぽいこと言いやがるぜ」
 軽口は、まだいえる。救い、それは主の御技であろう。神ならぬひとの身なれば。

 助けるのではない、助けて貰うでもない。

 「――緊急修復プログラムを|作動《ラン》します」
 黒いナノマシン達がヘンリエッタの身を覆う、それは鬼の否みにも似て見えて。
 一瞬、ぐっ、と噛んだ下唇。それを解いて、夜奏は目を伏せ手を組む。

 『――絶えず祈りなさい。どんなことにも感謝しなさい』
 『わたしの祈り、どうか届いてください』
 二つの祈りが、《光》を招く。
 先の祈りが鬼の身を肥大させる炎を鎮め、あとの祈りが山本の傷を、否みに焼かれた皆の心を癒し、ほぐしていく。

 「結論では、ないよね」
 そういったのはシンだ。今、射撃の息を合わせるべく、祓戸の横に来ながら。いきて、どうなる。誰か委ねるな、それは得るものだ。怪盗なれば、自らで掴んでみせるとも。
 「全部が上手くいくわけじゃないって、分ってます。……それでも私、まだ結論、出したくないです」
 それを若さというのかもしれない。でも、自分で体験したことでないのなら、納得できないからと祓戸は思う。

 これは問いだ。否みではない。問うて問うて問い続けろ。
 そうとも、何度も、繰り返して。

 「今度は、一緒に」
 先もそうしていれば――ううん。そうじゃない。今から実行すればいいのよ、と自分を奮わせ、雫石が、声を掛ける先。ヘンリエッタは頷く――黒色の、己の否みを纏って尚、《ボク》は選べる、と。人の為に在る事を。
 「ちょーっと待たれい、儂もいくにゃっ」
 あンにゃろ、と、傷の癒え駆け寄ってきては、息巻く山本親分の横で、祈りを終えた夜奏もまた、立ち上がり大鎌を構えて。無理はしないで、といいたかった。誰の怪我だって見たくない、それでも、怪我なら私が癒せるから。もっと大事なもののために、差し出すものだってあるのだと。

 「皆々様、お覚悟よろしいか」
 改めまして、と、アラタマが鬼へ向き直る。
 
 「|荒魂鎮神命《あらたましずむるのかみのみこと》でございます。
  此度は……妖討伐の任を受け馳せ参じてございます」

 神仏は遣わした。|救世《くぜ》の為に、おぬしの為に。
 その否みに苦しむものは一人ではないのだ、と、誰の心にも届けるために――。
 
 ●
 雫石の剣戟の軽いというのなら、それをギュスターヴの《HYMNE》が、押し込んだ。
 祓戸の矢を、シンの弾を、嫌して身を翻す先に、山本親分の斬りかかる。
 鬼の身に傷の増え、鎮まりきれぬ否みの吹き上げる炎を、アラタマによって招来された神器が一つ、鏡が鬼に返していく。
 だが、ここまで受けても、ただ強いものは、腕振り回し、その爪かすらせるだけで充分であって――それでも、尚、近接するものたちを、夜奏の癒しが支援する。
 いよいよ窮して、その圧倒的な脚力で高く跳んだ先。主の救いは鬼を取りこぼさぬ。主の影たる《黒き鴉》に、羽根を展開するヘンリエッタは、今、黒き天使のようにして。

 「……オマエらの、その成れの果ては、何と心得る」

 「過去じゃない、未来じゃない。わたしたち、今ここにいるのよ!」
 雫石の袈裟斬りが、鬼への最後の一撃となった。

 もはや、鬼は限界である。
 よろめき、荒い息のままに、どうにか立って。指のいくつかは失われ、黒い汁のようなものをもらしている。鬼の残った太い人差し指は、雫と共に地を示す。地の底に眠る《諸悪の根源》を。
 「終わらされたものは、終われんのだ」

 ――オマエらも、いずれ、こうなる。

 先の話を嗤う鬼が、黒い水となって、崩れ落る。
 吸い込んだ先はほかに、変わりなく、まるで、なにも、なかったように。
 
 今、桜の下に張り詰めるものといえば、地から伝わる冷え冷えとした空気ばかりである。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年09月10日


挿絵イラスト