チキンレッグに興味はない
黒田・牙印
【お任せコズミック】
かつて、どこかの家でペットとして飼われていた黒ワニ。
下水道に棲み着いた彼はヒーローズアース地下世界特有の過酷な汚染と弱肉強食環境を逞しく生き延び、その果てにワニ男として変異をした。多分、周囲の汚染物質や戦って食ったモノの中に変異をもたらすコズミック的なナニカがふんだんに取り込まれていたのであろう。
新たな姿になった彼は再び日の当たる世界へ戻ることとなった・・・・・・ヴィランでもヒーローでもない、ただのデストロイヤーとして。
そんな流れでコズミック的にお願いします。
砕け散ったコンクリートに横たわる幾人か。駆け付けたヒーローは犯人がいないと見るや情報収集を始めた。何処の誰の仕業だ。最近噂のヴィランか。被害者の一人曰く……。
怪物だ。ヴィランにしちゃ目的が無ぇ。
急激な文明の発達――それが齎す『害』については、最早、説明する必要などないだろう。より便利な暮らし、より強力な兵器の開発、悉くを可能とするには『自然』とやらを蔑ろにせねばならないのが極々『自然』な流れと謂える。此処までは所謂『何処の世界でも共通しているもの』だ。ヒーローズアースにおいての『廃棄された汚染物質』とはある種の『繭』とも考えられた。たとえば一匹の蠅が汚染物質に止まったとしよう。蠅の命は数秒と思われたが、しかし、如何した事か。蠅は異常な『成長』をし人の頭程度のサイズに進化した。最初は自重で飛べそうになかったが何れは慣れて羽搏くのだろう。このような『人類の危機』が無尽蔵に発生する沙汰となったのだ。では、此処でひとつの最悪が生じる。汚染に中てられたのが蠅などではなかったら如何に。
兄弟姉妹の数は20~60、生き残るのは何匹だったか。
鶏肉の味はあまり記憶になかった。何故なのかと自問自答してみたら、成程、きっと己の舌は肥えに肥えていたのだ。己は何処かの金持ちの子であり、美味しいものを与えられ続けていたのだから。そりゃあ鶏肉の味など、一々と気にしている暇などない。一本だけ残った脚を弄びつつ、ふと、思う。この生活は退屈なのではなかろうか。この生き方は無聊の沙汰なのではなかろうか。いっそ身体ひとつを投げ棄てるように、逃げ出してしまった方が己の為なのではなかろうか。いいや、実際には『そんなふうに悩んでも』いない。気が付いたら家出をしていた。逃げ出すだなんて、そんな臆病な思考になる『所以』が「俺のどこにあるというのだ……?」
俺は『生まれる前から』野生児であるべきだった。視界を埋め尽くす泥・泥・泥な現状にまったく満足が行く生命であった。この悪辣な環境こそ、病的な闇黒こそ、俺が最も求めていた生活とでも宣うべきか。俺よりも弱いものを喰らい、俺よりも強いものも時には喰ってみせた。そう、俺は喰らったのだ。喰らって喰らって、鶏肉の見た目も判らなくなるほどに喰らって、喰らい尽くして……。最初に覚えた違和感は後ろ足。いつもより力が入る。試しに、ぐぃ、と起こしてみると……成程、如何やら「俺は俺ではない何かになりつつある」
泥の中を泳ぐ事にも、呼吸する事にも慣れて幾日経っただろうか。俺はようやく『新たな俺』としての完全な産声を耳にした。昨日までは起立するのがやっとだったと謂うのに、遂に、歩く事すらもお茶の子さいさいとなったのだ。これで新たな戦い方を獲得する事ができる。これで今の俺では勝てないだろう『なにか』にも勝てるかもしれない。あとは……この前足だ。この部位を別の何か……握るのに上等なカタチに出来ないものか……。そうか。俺は知っている。このようなカタチの生物を『俺』は知っている。今の俺ならば「あれにだってなる事くらい、簡単なのではないか……?」
俺は何の疑問も抱いていなかったのだが、如何して、このような『思考』が出来てしまっているのだろう。それこそ進化の証なのではないかと、初めて、俺は『俺というもの』に言葉をかけた。おう、俺。俺はいったい何をしたいんだ。何をしたくて、このような身体と精神を手に入れてしまったんだ。上等な答えは見つからないし、俺じゃあ導き出せそうにもない。なら、やはり、いつもの通りに『やりたいこと』を『やる』だけなのではないか。そうして俺は――泥を拭うように、殻を破るように、挙げる事に成功した。
学者曰く――東方の島国の地下にはダストブロンクスとも違った、独自の生態系、独自の汚染物質が存在するらしい。広さに関して謂えばダストブロンクスの方が上だが、狭い分『生き物の争いも盛ん』と思われる。つまりは蟲毒だ。生存競争に勝利した怪物は今も尚、現代文明に溶け込んで活動をしているらしい。如何か、気を付け給え。アナタの隣人が怪物なのか否か、誰にも判らないのだから……。
久方振りの綺麗な空気だ。勿論、本当に美味い空気なのかと笑われたら『それまで』だが、泥の中での生活よりかはマシだろう。いや、マシと謂うよりも、あそこにはもう、餌がひとつも残っていないのだ。ならば日の光に向かって歩むのは自然の摂理とやらだろう。それに……そう、俺は如何にも暴れてしまいたい気分なのだ。長い年月泥の中にいた影響か俺の心身は何かを破壊したがっている。破壊して、喰らい尽くしたくなっている。人間という生き物は如何やら、俺のような生き物をバイオモンスターなどと呼称しているらしいが、間違っちゃいねぇ。俺はワニらしさを失くしてはいけないのだ。
何もかもを破壊し、進む、この僥倖こそを血肉とせよ。
成功
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