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A little summer. So long

#ヒーローズアース #ノベル #猟兵達の夏休み2024

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#猟兵達の夏休み2024


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大町・詩乃



ネフラ・ノーヴァ




 陽が強く、その熱視線で遠景を歪ませる中で、青と青の堺が曖昧になる。
 遠くに水平線。そして見渡せる限りに人の姿の無い、そこはアスリートアースはハワイの群島の一つに設けられたプライベートビーチであった。
 人でごった返すようなシーズンであっても、ここは波の音と海鳥の声しか聞こえない。
 日常ではあまり目にすることない白い砂浜の続く遠浅の波間に見えるのは、このパノラマを贅沢に頂く桟橋上の海上コテージホテル。
 建築費用のみならず、維持費とて馬鹿にならないだろう。
 まあでも、そんなことは、今は考えなくてもいい。
 熱気を感じる砂浜をさくさくと歩んでホテルを目指す目的は、普段の猟兵が請け負うような物騒なお話ではないのだ。
 心もとない砂浜から木組みの桟橋へ渡り、日光を白く反射するコテージホテルの下へとたどり着くと、ようやく一息つけるほどの涼しい風が通り抜ける。
 大荷物を下ろして文字通り肩の荷が下りた風に大げさに嘆息すると、開け切った窓から吹き付ける海風と、そしてそこから望む海の景色に目を向けざるを得なかった。
「いいね。抜群のロケーションだ」
 玉髄のような乳白色を含んだ緑の光沢を帯びる長い髪を風に泳がせ、ネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)は両手の人差し指と親指で画角を測ってみる。
 手足も指先も、その鋭角な目つきまでも何もかもが長くてきれいな曲線を描く姿が、ぴしっと姿勢をとるだけで絵になる。
「ポートレートを撮るにも最高のシチュエーションだね」
 観光の為だけに作られたようなこの場所、この光景に満足いったように口元を綻ばせるネフラは、同意を求めるように同行する友人の方をみるが、もう一人のほうはというと、備え付けのベッドに思い切り手足を伸ばしてぼすんと背を投げ出しているところだった。
「たまには自分へのご褒美があっても良いですよね~♪」
 大町・詩乃(|阿斯訶備媛《アシカビヒメ》・f17458)は、普段のちょっぴり抜けたような、それでも清楚なちょっと神々しい雰囲気の巫女さんの姿からすれば、だいぶ気の抜けた無防備なご様子でふんにゃりとシーツの中で身をよじらせる。
 切羽詰まった仕事ならばいざ知らず、ここへは完全にプライベートで訪れている以上、ネフラはそれを咎めることもせず、鼻を鳴らして肩を竦める。
 神様をやるのも大変だ。
 彼女の穏やかな神社の生活の全てを知っているわけではないが、日常の中にだって見えざる気丈というものがあり、まして猟兵ともなれば有事の際にその身を危険にさらすことも珍しくない。
 そのまま猫が液状化したような寝姿を晒そうとするのを咎めることができようか。いや、いくらなんでも寝て過ごすのはちょっと惜しい。
「このまま海風に抱かれて寝るというのも悪くないが、それは陽が落ちてからでもいいんじゃないか?」
「それもそうですね。ついつい緩めすぎてしまいました」
 折角の海を前にして堪能しない手はない。
 荷物の中から水着を引っ張り出すネフラの誘いに、詩乃は重い腰を上げるのだった。
 着替えシーンは描写しませんよ。全年齢だからね!
 揃いの黒ビキニは、デザインこそ同じ、きわどいカットの入ったホルターネックであるが、系統の異なる美女である二人ではその印象もまるで異なる。
 硬質な魅力と包容力のある魅力。それは同種の服装をまるで別のものにしてしまう程の魔力があった。
「髪の色合いがとてもお似合いです。綺麗……」
「ありがとう。詩乃も、大胆なデザインはどうかと思ったが、よく似合っている。なんというかこう、いけない物を見ている危うげな魅力というのかな」
 思い思いにお互いを湛えつつ、携帯端末でその魅力をつぶさに記録していく。
 満足いくまで撮影会を楽しむと、いよいよ海の中を堪能することにする。
 水底が見えるほどの透明度を誇る海の中は、水面の影が落ちるキラキラとした中に、色とりどりの魚が泳ぎ、それはまるで空を飛んでいるかのようにも錯覚するほどであった。
 どこまでも続くような蒼い世界に目を奪われる詩乃は、そういえばとネフラの姿を探すと、ちょうど人懐っこい熱帯魚の群れが横切って目を丸くしているところだった。
 その様子にお互い目を合わせ微笑むと、やや遅れてゆるりと海流に漂うクラゲが目に留まる。
 毒があっては大変だが、ネフラは構わずその幻想的な傘に指で触れ、愛おしげに口づけする。
 大胆だな~と驚きながらも、この光景をこそ写真に収められないのを悔いる。いや、残せないからこそ、とばかりにこの幻惑の世界を自在に泳ぎ回り、堪能するのだった。
「ふう、さすがに、泳ぎ過ぎましたね……」
「いい所がある。こちらが目的といっても過言ではない」
「ええー?」
 気が付けば陽も落ちて、足元を照らすランプが無ければ砂浜に足を取られてしまいそうになりつつ、コテージの近くに備え付けられた設備に足を運ぶ二人。
 カフェを兼ねるその店は、陽が落ちれば雰囲気のあるバーにもなる。
 オーセンティックなカウンターと、室内プールがミスマッチではあったが、水際のハンモックはなんとも魅力的だった。
 優しい間接照明でほのかに夜闇を照らすような薄暗さが、豪奢なバーカウンター、プールの底と、ぽつぽつと足元を幻想的に照らす。
「テレビでしか見たことないような所ですね。すごく贅沢している気分です~♪」
「私も日常的にこんな事をしているわけじゃないが……いい雰囲気だ」
 二つ並びになっているペアのハンモックに腰かけて、南国を思わせるカクテルを手にゆるりと背を預けながら、なかば寝転がるようにしてのんびりするのは、さながらローマ貴族のようだったが、当時の貴族とてこんな贅沢はしていまい。
「ん、濃いですね。でもおいしいです。ネフラさんお強いですね~」
「詩乃もいける口だね。プール際でこれは少し、危ないかな? ふふ」
 ブルーハワイのグラスと、ブラッドオレンジというこれもまた対照的なグラスをかち合わせ、ほんのりと顔色を赤く染めながら、ぽつぽつと緩い会話を楽しみ、それもラリーの感覚がどんどん長くなる。
 起きているような夢を見ているような、至福のひと時の中で、夢のような今日を振り返ると、ふとそれは日常にまで及ぶ。
「あのクラゲ、可愛らしかったな……クラゲと言えば、あのUDC-P……プリメーラないし大町透子は元気だろうか」
「クラゲから思い出したんですか? うふふ……きっと元気にしてますよ、今でも」
 思い出す日常。猟兵にとってのそれは、荒事が多いのだが、その中でも二人にとって優しい思い出。
 詩乃とネフラの出会いの物語でもあり、救い出した少女の思い出でもある。
「指が硝子になったこともあったな……詩乃に治してもらった……懐かしいな」
 こと、とグラスを置く音が聞こえたかと思うと、呟く声もしばらく聞こえない。
 ネフラにしては珍しく無防備を晒しているが、そんな事には気づかないふりをしつつ、詩乃もグラスを置き、ハンモックに揺られながら視界の端に見える月を見上げる。
「きっと幸せですよ。毎日祈っていますから」
 声を落として、呟いた言葉は、果たして届いたかどうか。
 でも今は、それ自体は重要な事ではない。
 真夏の熱気を、今だけは忘れて、この小さな夏へと。
 やがてはきっと、この小さな夏へと、ふたたび辿り着くことを思いながら。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年08月19日


挿絵イラスト