2
アーリーサマー・バンド

#アスリートアース #ノベル #猟兵達の夏休み2024

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アスリートアース
🔒
#ノベル
🔒
#猟兵達の夏休み2024


0



ハロ・シエラ



ロラン・ヒュッテンブレナー




●スポーツペア大会・夏の陣
 アスリートアースはユーベルコード操る超人アスリートたちが日夜しのぎを削っている。
 小風心地よい春であろうが、燦々と太陽照りつける夏であろうが、食欲に翻弄される秋であろうが、極寒の如き厳しき冬であろうが、その季節に相応しいスポーツでもって切磋琢磨する。
 真に強くなければオブリビオン……即ち、世界を滅びに導くダークリーガーたちに勝利することができない。
 それは古代オリンピア時代から連綿と紡がれてきたアスリートアースの歴史でもあった。

 そして、季節は夏。
 今年の水着コンテストは苛烈だった。
 否、毎年苛烈そのものであったが、開催されたアスリートアースは尚、燃え上がるようだった。
 そう、水着コンテストが終わりを告げても、生命萌える夏は終わらない。
 今此処に開催されているのは――。

「夏のペア運動会だね」
 ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)は、その全身にペイントされた紋様が仄かに光を放つのを知らなかったかもしれない。
 それ自体が魔術回路になっているのだ。
 魔力の制御と増幅をサポートするペイントである。彼はこれを用いいて得意なけっかいや水を操る術式を組み立てる。
 加えて、身体能力は人狼でるが故の瞬発力と俊敏性を備えている。
「ハロちゃん、一回戦はチャンバラ合戦と聞いたけれど、どんな競技なんだろう」
 チャンバラ、という言葉にあまり聞き馴染みがないのだろう。
 そう首を傾げて尋ねるロランに黒を基調とした水着を着込んだハロ・シエラ(ソード&ダガー・f13966)は頷く。
「チャンバラとは剣劇のことを示しています。支給されたこれ……スポンジ製の刀剣を用いて斬り合うのです」
「へえ! それならハロちゃんが得意だね!」
「ええ、例え模造品であろうと刀剣の扱いで負けるわけにはいきません。やるからには勝ちましょう」
 ハロはスポンジ刀剣の柄を握りしめた拳をロランの拳に合わせる。

 そう、負けられない。
 確かに彼女たちは夏のペアスポーツ大会に出場しに来ていた。
 元々は遊びに来たついでに、位だったのだ。
 だが、彼女たちは猟兵だ。
 猟兵ある所にオブリビオンあり。
 この夏のペアスポーツ大会にダークリーガーが紛れ込んでいることを二人は察知していた。
 せっかくの休暇。夏休み。
 だというのに、猟兵としての仕事をしなければならないなんて……。けれど、二人はそんなことを微塵も思っていなかった。
「どうせなら楽しんでダークリーガーを倒しちゃいたいよね。ダークリーガーとは言っても、勝利のために手段を選ばないだけで元々はアスリート魂を持っていたはずなんだから」
 ロランは、そうした彼らの眠っている魂に勝負を通して呼びかけたいと思ったのだ。
 正々堂々。
 勝負を真っ向から挑み、勝利のために手段を選ばぬダークリーガーたちのアスリート魂を目覚めさせる。
 そうすれば、彼らだって、と思うのだ。
 温厚な彼らしい、とハロは思ったかも知れない。

 ハロにとってロランは親友であり、先生でもある。また可愛い弟でもあるし、頼れる相棒でもあった。
 それはきっと複雑な物事の重なりあいであっただろうし、余人の立ち入るところではないだろう。
 けれど、強い絆があることは第三者から見ても明らかだった。
「そうですね。では、早速参りましょう」
 スポンジ刀剣を腰に差してハロはロランと共に砂浜のフィールドに立つ。
「なるほど」
「ううん? どうしたの?」
「いえ、夏、と銘打つだけあって足場は砂浜。思った以上に砂がサラサラとしていて、踏ん張りが効きません」
「本当だ!」
 ハロの言葉にロランは頷く。
 自分の重心が僅かにでも傾けば、砂浜の砂に足が取られてしまう。
「ロランさんの瞬発力とバランス感覚は素晴らしいですが……」
「うん、ちょっとスポンジ刀剣、使いづらいかも」
 ロランの腕は獣化している。
 狼そのもののような掌は、確かに刀剣を握るには適していないかも知れない。加えて、スポンジ刀剣は軽い。上手く力の加減ができないのだ。
 となると、このペア競技。
 頼りになるのはハロということになる。

「ルールは二本先取。つまりは、肩に付けられた『命』ボールをスポンジ刀剣で切り離された者は、その場で動けなくなります」
 審判の声が聞こえる。
 そう、チャンバラ合戦は、ペアで行うためパートナーの片方が『命』ボールを失えば、一気に不利になってしまうのだ。
「うぅ……大丈夫かな」
「大丈夫です。ロランさんは、その瞬発力を活かして……」
「いざ、尋常に!!」
 審判の掛け声が聞こえる。
 瞬間、相対するアスリートたちに気迫が巡るようだった。
 これがスポーツである、ということは疑いようもない。だが、ここは超人アスリートひしめくアスリートアース。

 その動きも何もかもが超人のそれ。
「――勝負!!」
 迫るは超人アスリートの踏み込み。
「獲った!」
 振るわれるスポンジ刀剣の一撃。
 それはロランの肩に付けられた『命』ボールを狙っていた。
 しかも、対する超人アスリートのペアは交差するようにロランを狙ってきていたのだ。
 ある意味定石。
 このチャンバラ合戦において、ペアの片割れが退場するということは戦力が半分になるということ。そして、二対一の状況に追い込まれるということなのだ。
 その優位性をアスリートたちは十分に理解していた。

 故にロランを狙う十字交差の斬撃。
 如何に優れた動体視力を持つのだとしても、試合開始直後に間髪いれず放たれる同時攻撃に対応はしきれないだろう。
「わっ」
 だが、ロランはその柔軟性の高い体躯を仰向けに傾け、身をねじりながらバク転して躱していた。
「なっ!?」
「躱した!?」
 超人アスリートの斬撃は速かった。
 それ以上にロランの身を翻す速度は凄まじかったのだ。

 彼らに落ち度はない。
 作戦としては完璧であったし、その鍛え上げられた体躯より放たれる斬撃は鋭かった、申し分ない。
 多くの世界を見ても、アスリートアースの超人アスリートたちは種族としては上位に食い込む者たち。侮れたものではない。
「そこです」
 だが、その上を往く者がいる。
 呟くような声が超人アスリートたちの頭上に響く。
 影が落ち、彼らは気がついただろう。己達はロランという囮に引っかかってしまったのだ。
 敗因は、ただそれだけだ。
 ロランが初撃を躱す躱さないにかかわらず、彼女――ハロは超人アスリートの視界から外れ、砂浜を蹴って彼らの頭上に飛ぶ。
 ロランを狙った一撃のために超人アスリートたちの体は伸び切っていたし、空中から見た彼らの肩にある『命』ボールは丸見えだったのだ。
 閃くスポンジ刀剣。
 その一撃はただの一撃で二人の超人アスリートの『命』ボールを切り離し、勝負を一瞬にして決したのだ。

「勝者、ハロ・ロランペア!」
 審判の声に超人アスリートたちは悔しそうに歯噛みする。
「あーっ! 一瞬か! 全然見えなかった! すごいな君」
 悔しそうな顔は一瞬。けれど、すぐに彼らは勝者である二人を讃える。
 これがアスリートアースらしさとも言える。
 勝利を求めながらもスポーツマンシップに則る。それを忘れていない対戦ペアにハロもロランも頷く。
「お兄さんたちもすごかったよ。ぼく、びっくりしちゃった」
「いやいや、あれを躱せるなんて思ってもいなかった。柔軟性すごいな。体幹といった方がいいのか」
「ロランさんの身体能力は凄まじいですからね」
 ハロはなんだか自分が褒められたように嬉しそうだった。
「君もだよ。お嬢さん。一瞬とは言え、視界からすぐさまに姿を消したのがまるでわからなかった」
「お二人の狙いはわかりやすかったですから」
「やっぱりか!」
 そんなやり取りを経て、ハロとロランは順当にトーナメントに回戦に駒を進めていく。
 やはりスポーツはいいものだと思えたかもしれない。
 アスリートアースの超人アスリートたちは、来たるべき脅威、即ち世界の破滅に体高するために心身ともに鍛え上げてきた。
 例え、試合に負けても、その心は次なる勝負へと向けて走り出している。
「見習わなければなりませんね」
「うん、あれだけ気持ちのいい人たちなのだもの。このペア大会でダークリーガーが優勝してダーク化アスリートになってしまうのは、ざんねん」
 二人は次なる種目を見つめる。
 第二回戦。
 そこに示されていたのは、『追いかけ玉入れ』であった――。

●第二回戦
「おいかけたまいれ」
 ロランは首を傾げる。
 玉入れ、ならわかる。あれだ、地面に立てられた支柱の上の籠へと地面に落ちている玉を投げ入れて得点を競う競技だ。
 だが、追いかけ、とは。
「説明しよう!」
 また審判役のアスリートが登場する。
 毎回こんな感じで説明されるのか、とハロは思ったが、まあ、夏のスポーツ大会だ。
 ご存知であってもそうでもなくっても、こうしたMC的な立ち回りを求められる人というのはいるものである。

「『追いかけ玉入れ』とは、移動する籠を目掛けて玉入れする競技! そう、移動する籠とは即ち、ペアの片割れ! パートナー! 勿論、移動する籠を背負ったパートナーは制限された範囲内を自由に移動できる!」
「では、もうひとりのパートナーは」
 ハロの疑問に審判は頷く。
 大仰すぎる。
「良い質問だ! 籠を背負っていないパートナーは、手網でもって投げ入れられる玉を妨害できる! 逃げ回る籠パートナーと妨害パートナー。二人の息が合わねば簡単に玉を投げ入れられて大量得点されてしまうぞ!」
「ふんふん。僕とハロちゃん、どっちがどっちを担当するかでも違うね」
 ロランはううん、と考える。
 彼の獣化した腕は力こそ凄まじいが、チャンバラ合戦の時のように器用さとは程遠い。握力もそこまで強いとは言い難い。
 必然的に籠を担当した方がいいだろう。
 彼の機動力は、籠でも妨害でも大いに役立つ。

「ハロちゃんはどう思う?」
「ロランさんの思う通りで大丈夫だと思いますよ。どちらでもロランさんは大活躍してくださるでしょうから」
 けれど、とやはりどちらかと言えば、ロランは籠を背負った方がいいだろう。
「私が妨害の手網を持ちましょう。多少の得点はやむなし。逆に此方が攻撃側に回った時に取り返せばいいのです」
 ハロの言葉にロランは頷く。
「うん、任せておいて! 絶対に玉を入れさせないからね!」
 ロランの黒い髪が揺れる。
 紫の瞳が輝くのを見て、ハロは頷く。

「では、用意はよろしいか」
 なんだか審判役がどんどん仰々しい言い回しになっているし、顔がどんどん劇画調に近づいているように思えた。
「第二回戦、追いかけ玉入れ、よーいドン!」
「あ、そこはよーいドンなんだ」
 思わずロランが突っ込んでしまう。
 瞬間、ロランの背負った籠に殺到するは雨のような玉であった。
 例えるなら嵐にさえ例えられたであろう玉の乱打。凄まじいまでの玉の回収能力……!

「なるほど。一人が玉を集め、一人が一気に籠目掛けて放つ」
 ハロは手にした手網では一気に投げつけられる玉を防ぎきれないと理解する。考えられている。此方の機動力はいわば、線。
 対する超人アスリートたちの放つ玉は面。
 どうあっても防ぎ切れるものではない。
 だが、ハロは心配などしていなかった。確かに自分の手網では投げ入れられる玉を妨害する範囲など知れている。
「ロランさん!」
「まかせておいて!」
 そう、自分のパートナーはロランなのだ。
 どんなに雨のように降り注ぐ玉であろうとも、ロランの動体視力と身体能力であれば籠に玉をかすらせることなく範囲内を駆け抜けることができる。

 玉の一つ一つの軌道を認め、ロランは狼の如き俊敏性でもって砂浜を駆け抜け、籠に迫る玉を躱していくのだ。
「なっ!? なんで玉が入らないの!?」
 超人アスリートたちが目を見開く。
 それほどまでにロランの速度は凄まじかった。狙いを付けることすらできない。
 そして、初撃を躱された衝撃にまごついていればハロがロランの動きをサポートするように手網で妨害するのだ。
「くっ、良いコースを全部塞いでくる!」
「ええ、狙いは明白ですから」
 それでも自在に走り回るロランが何処にいるのかわかっていなければできない行動だったはずだ。
 けれど、ハロは勘所が冴え渡っていた。
 彼女の背で走り回るロランの気配を敏感に感じ取り、即座にハロは手網を掲げて、超人アスリートたちの玉を投げ放つ玉のコースを潰していくのだ。

「すごいすごい。玉がいっぱい雨みたいに降り注いでくるよ」
 ロランは、それでも放たれる玉を躱しながら籠を背負い直す。
 ハロがコースを限定していても、全ての玉を防げるわけではない。いくつかの玉が偶然にも籠に入り込むが、その数は僅かなものだった。
 制限時間が終わり、超人アスリートたちが息を切らすのに対して、二人は息一つ切らしていなかった。
「はぁっ、はぁっ……なんて体力」
「でも、あっちだって……って、えええっ!?」
 そう、全然疲れていないのだ。
 ハロの手網による妨害は、思いの外対戦ペアの体力を削っていたのだ。
 削られた体力によって対戦ペアの動きは精彩を欠く。そうなれば、体力勝負に持ち込んだロランとハロが勝利するのは、ある意味当然であったのだ。

 攻撃側に回った二人の玉捌きは凄まじく、相手の籠にみっちりと玉が詰め込まれ、超人アスリートはその重さに潰されるように砂浜に突っ伏す。
「わ、若いってすごい……」
「ロランさんの機動力に助けられましたね」
「ハロちゃんがいっぱい妨害してくれたからだよ」
 圧倒した二人に超人アスリートペアは握手を求める。互いに夏の日差しを受けて、汗が滴り落ちる。
 良い勝負だったと観客たちからも喝采が響き渡る。
 そんな拍手の音を聞きながら、三回戦の種目が示される。
 それは――。

●ウォーターサバイバル
「説明しましょう!」
「あ、毎回するんだね」
 ロランは審判役の超人アスリートが読み上げる競技説明に笑む。
「ルールを改めて教えてもらえるのは助かりますね」
 ハロも自分たちが三回戦……つまりは準決勝に駒を進めたことにより、注目を浴びていることを理解していた。
 自分たちペアの強みはロランの機動力だ。
 圧倒的な身体能力は、人というより狼のようだった。
 人間離れした柔軟性と俊敏性。
 それはあまりにも強く周囲に印象付けられている。となれば、これから対戦する相手はロランの機動力を殺そうとしてくるだろう。

「ウォーターサバイバルとは! ジェットウォーターガンによるサバイバルゲーム! 無論、ペアで参加していただきます!」
 ふんふん、とロランはそうした会場内から飛ぶ視線を気にもとめていないようだった。むしろ、隣にいるハロのことを意識しているようだった。
 いやまあ、それも当然と言えば当然である。
 本人は今の関係性を進めたいとも思っているが、しかし、それ以上に今の心地よい絆が育んだ関係性も壊したくないと思っている。
 口に出せば、この心の支えもなくなるのかもしれない。
 けれど、口には出さない。
 とは言っても嘘は苦手だ。隠すのも下手だ。
 結局、いつも通りが一番いいのだということを理解している。

 それはこれまでのペア競技にも現れている。
 言葉にしなくても互いの長所を理解し、短所をカバーするべく動いている。
 チャンバラ合戦では自分を囮にして、ハロの剣戟を活かした。
 追いかけ玉入れでは、自分の長所である機動力を十全に発揮し、ハロがこれをサポートしてくれた。
 サポートしたりされたり。
 互いの呼吸が読み、相互理解できているからこそのコンビネーションであったともいえるだろう。
 それはきっとハロも同様だった。

「チャンバラ合戦と違うのは、肩の『命』ボールではなく、顔面が濡れればヒット扱い、ということですね」
「うん……うん!」
 ロランはちょっとだけハロの水着姿に見とれていた。
 いや、ちょっとだけ生返事になってしまったのは仕方のないことなのかも知れない。
 ハロの水着は黒を基調として差し色に赤を入れてある。
 格好良さと可愛らしさが同居したような水着姿なのだ。むしろ、なんとも思わないほうがおかしいのではないだろうか。
 とは言え、今はペアスポーツ大会だ。
 ぼぅっとはしていられない。
 しかし、そんなロランにハロが気が付かないわけではない。

「ロランさん」
「うん?!」
 びく、としてしまう。
 ハロの顔が近づいてくる。自分の顔を覗き込むような彼女の仕草に、ロランは少しだけびっくりしてしまう。
「お顔が赤いですが、もしや熱中症になってはいませんか?」
 季節は夏。
 そして今年は酷暑である。
 加えてスポーツ大会は野外で行われているのだ。強い日差しにさらされたロランが熱中症になってしまったのかもしれないとハロは勘違いしたのだろう。
「お水を、いえ、スポーツドリンクを」
「え、あ、だいじょうぶだいじょうぶ! ちゃんとすいぶんほきゅうはこまめ、こまめにね! しているよ!」
 慌ててロランは手を振る。
 ちょっと動揺してしまった。隠そうとしても、こういうのは上手くない。なんだか余計に顔が赤くなってしまったような気がするが、熱中症ではないかと疑われるのもまた、さもありなんといったところであろう。

 ハロが心配そうな顔をしているから、ぐいっとロランは両手でペットボトルを呷るようにして飲み干す。
「だいじょうぶ。ちゃんとのんでるよ」
「なら、良いのですが……次はウォーターガンを使った競技です。嫌でも涼が取れるでしょう」
「うん。魔術で水を飛ばすのと同じ要領で……あっ! そうだ」
 ハロの言葉にロランが名案を思いついた顔をする。
「何か思いつかれましたか?」
「うん、とっておきのをね!」
 にっこり笑うロラン。
「頼もしいです。では、その戦術を試してみましょう」
「うん、まかせておいて」
 作戦方針は決まった。
 なら、後は実践するだけ。ロランの秘策を引っ提げた二人は、審判に誘われてウォーターサバイバルのフィールドに降り立つ。
 ジェットウォーターガンを使用しているため、ゴーグルを使用した二人は互いに目で作戦通りに行動することを確認しあう。

「あの小さな男の子、すごい機動力だった。侮れない。絶対にこっちを翻弄してくるはず」
「だろうな。撹乱して、パートナーの子がこっちにヘッドショットをかます……といった作戦が王道だろうな。ならこっちは……」
 対する超人アスリートたちは、ロランの機動力を封じるためにウォーターガンを調整する。
 バトロワシューターのサマーバージョンとも言うべきペア競技、ウォーターサバイバル。
 彼らが手にしたジェットウォーターガンは、連射モードと単発モードに切り替えることができる。
 連射モードは速射性に優れているが、飛距離が伸びない。
 ごく短い距離しか水の弾丸が飛ばないのだ。だが、速射性に優れているため、面で圧倒することができる。
 ロランの機動力が圧倒的ならば必ず此方に接近して確実に弾丸を叩き込もうとするだおる。
 だからこそ、二人共が連射モードに切り替えて、まずはロランから打ち倒そうとしていたのだ。
 例え、ハロが通常弾モードの飛距離の長い弾丸でスナイピングして、一人を倒している間に此方が接近して躱しようのない連射を浴びせればいいのだ。
「一気に片をつける」
「レディ・ゴー!!」
 審判の掛け声と共に始まる試合。
 砂浜のフィールドは通常のサバイバルゲーム、バトロワシューターと違って遮蔽物がない。
 その点においては勝負は一瞬のものとなるだろう。
 トーナメント形式の大会にありあがちなスピーディな試合運びの弊害とも言える。
「いくぞ!」
 超人アスリートたちの弾丸が凄まじい数でもって連射される。

 狙うはロラン。
 だが、ロランは動かなかった。
 手にしたジェットウォーターガンをハロと共に構え、引き金を引く。
 放たれた弾丸の数を見て超人アスリートたちは目をむく。
「速射モード!?」
「しかも二人共……!?」
 そう、ハロとロランは二人共、連射モードで水の弾丸を放っていた。互いの距離は離れている。
 どちらの弾丸も互いには届かない。
 だが、次の瞬間ロランの体に浮かんだペイントが輝く。
 魔術回路としての力を発揮しているのだ。

「なにを……」
「ロランさん、頼みました」
「うん、まかせておいて」
 その言葉と共にロランの魔術術式が発動する。
 即興で組み上げた術式。それによってロランたちの放った水の弾丸は、加速する。そう、この大会においてユーベルコードの使用は禁止されていない。
 そもそもアスリートアースの超人アスリートたちはユーベルコードを使用できる。
 超人スポーツにユーベルコード禁止などという文言はない。
 己の持てる全ての力を用いて勝利を目指す。
 それこそがアスリートアースの超人スポーツの流儀!

 ロランの術式は水を回転させ、加速させる術式。
 そう、ジェットウォーターガンは水圧で水の弾丸を押し出すだけ。それ故に連射モードでは水圧不足で飛距離が伸びないのだ。
 けれど、ロランの魔術術式によって弾丸が螺旋を描くように回転し、加速させられている。
「わぶっ!?」
「うおおおっ1?」
 これによって飛躍的に飛距離の伸びた水の弾丸は互いに連射モードであったが故に圧倒的なアドバンテージを得て、超人アスリートたちへと飛来し、その顔面をびしゃびしゃにしてしまうのだ。
「やったあ!」
 ロランがはしゃいだようにハロに抱きついてしまう。
 上手く戦術が嵌ったことで一気にテンションが上がってしまったのかもしれない。思わず抱きついた事に気がついて、ロランは顔を赤らめて体を離す。
「やりましたね」
 ハロは柔らかく笑む。
 彼女の恋愛面に関する感情は、どうにも疎いものであるが、しかし弟のようにも思っているロランがはしゃいでいれば、嬉しいと思うのもまた真実だった。
「しかし、こうも上手くいくとは」
「ね、ねー?」
 ロランはもだもだしていたが、ハロは改めて水の術式を即興で組み上げてしまうロランの技量というものに感服してしまう。

「……いやぁ……まったくもって虚を突かれた。まさか、機動力だけでなくて、あんな隠し玉も持っているとは」
「すごかったよ。あんなやり方で飛距離を伸ばすことができるんだね」
 超人アスリートたちの言葉にロランは頷く。
 ペイントの魔術回路によるサポートがあったというのもあるが、即興で術式を組み上げること自体はロランにとっては難しいことではなかったのだ。
「うん、対策を取られると思っていたからね。此処まで勝ち上がってきた人たちだもの。油断をしないだろうし、できないって思っていたから」
 そう言って、ロランたちはまた握手を躱す。
 やはりスポーツマンシップに溢れたアスリートたちだ。
 となれば、この大会を狙っていたダークリーガーとは即ち……。

「フンッ! 小手先の魔術で敵の虚を突くなど!」
「どんな勝負であろうと圧倒的な力で踏み潰してこそ、圧倒的強者の証なのよ!」
 ギラつく太陽を背に砂浜に打ち立てられたバレーネットの支柱に立つ二つの影。
 そう、彼らこそが決勝戦の対戦ペア。
 あまりにもスポーツマンシップから程遠いパワープレーで、これまで戦ってきた彼らこそが、決勝戦の相手であり、ダークリーガーなのだ。
「あなたたちがダークリーガーでしたか」
「その通り。こんな夏の日差しに浮かれて、生ぬるい勝負をしている者たちに勝利を得ることこそがスポーツ最大の目的であることを改めて示してやるのよ」
「わたしたちが勝った暁には、大会後のプロテインを全て独り占めしてやるの! どう! 運動後のゴールデンタイムを無為にしてしまう恐ろしさは!」
 二人のダークリーガー。
 彼、彼女の言葉に超人アスリートたちはおののく。
 だが、ハロはなんていうか、アスリートアースらしいな、とも思った。

 生命のやり取りではなく、ただ勝敗によってのみ決する。
 そして、そこに生命が奪われる戦場の冷徹さはない。誰が呼んだか『テニス・フォーミュラ』宮本・武蔵も言っていたことだ。
 殺し合わず、競い合う事で生まれた恒久の平和。
 故に、命と食を危惧する事無く、老いて死ぬまで体躯を鍛え上げ競技に邁進することのできる世界。
 そんな平和をダークリーガーは勝利飲みを求める修羅道へと落とさんとしているのだ。
「なんてやつら!」
「運動後のゴールデンタイムを奪うなんて!」
「プロテインは大量に摂れば摂っただけいいってもんじゃあないんだぞ!」
 やいのやいの。
 他の超人アスリートたちが騒ぎ出す。

「黙れぃ! 敗者の弁など聞くにたえぬ!」
「そうよ。語る資格があるのは勝者のみ! そう、ここまで勝ち上がってきたあなた達!」
 びしぃ! と指差すはハロとロランであった。
 決勝戦の対戦ペア。
 彼らに超人アスリートたちの誰もが望む大会後のプロテインが掛かっている。
 運動後のゴールデンタイムを逃すなんてアスリートにとってはもってのほか! 超人アスリートたちの明日の筋肉は二人の肩に掛かっているのだ。
「いきなり託されても」
 ハロはちょっと冷静だった。
 なんていうか、超人アスリートたちの言わんとしていることはわかる。
 だが、なーんかズレているのだ。

「決勝戦種目は!」
 空気も読まずに審判アスリートが声を張り上げる。
 ロランはダークリーガーが紛れ込んでいたことはいいのかなぁ? と思ったが、まあ、スポーツであるから拒まず勝負を受け入れてしまうのだろう。
 だから猟兵たちが事件に飛び出していくことになるのだが。
「砂浜のスポーツ種目の王道にして正道! それは!」
 砂浜に爆発が巻き起こる。
 明らかにこれまでとは毛色が違う演出であった。
 炸裂した爆発の中にダークリーガーのペア二人が飛ぶ。
「ビーチバレーで勝負だ!!」
 砂浜に着地したダークリーガー二人は、不敵にハロとロランを見上げ笑む――。

●決勝戦
 ビーチバレー。
 それは言うまでもないが、バレーボールから派生した球技の一つである。
 砂浜にネットを張ったコートにて二人一組のアスリートで対戦するビーチスポーツ。
 他の世界では、スポーツの祭典の正式種目として行われたこともあったのだが、まあ、今はあんま関係ない。
 バレーボールのようにポジションは定められていない。
 ボールへの接触は三回まで。
 それまでに相手のコートへとボールを返さねばならないのはバレーボールと変わらない。 
 だが、使用するボールはバレーボールのものとは異なり、空気圧が若干低い。
 ボールの空気圧が低い、ということはそれだけ打ち込んだときの反動に寄るスピードが得られ難いという点がある。
 加えて、砂浜をコートとしているため、優れた体幹がなければバランスを崩して思うようにボールを追えないだろう。

 そういう意味でもビーチバレーは広く多くの人々の楽しめるビーチスポーツでありながら、多くの戦略性と幅をもった王道たるスポーツなのだ。
「セット!」
 ダークリーガーたちが不敵に笑む。
「……ただならぬ相手ですね」
「うん。でも……僕らのコンビネーションだって負けてないよ」
 そう、どれだけダークリーガーが強敵であろうとも、二人には切っても切れぬ絆がある。
 放たれるサーブ。
 強烈な一撃だった。
 ダークリーガーの驚異的な身体能力。
 その膂力によって打ち込まれたボールは、空気圧が低いだとか、そんなことなど些細な問題であると言わんばかりに空気を切り裂き、音速を超えたことを示す轟音を響かせながらロランへと一直線に迫るのだ。

 まるでレーザービーム。
 そんなサーブの一撃をロランは瞳を見開き、腕で受け止める。
 強烈な衝撃が身に走る。
 獣化していなかった腕ならばきっと耐えきることのできないほどの強烈さ。
「くっ……すごい。でも!」
 打ち上げるボールが高く舞い上がる。
 太陽を遮るようにして飛んだボールをハロは柔らかくトスする。
 ダークリーガーのサーブは凄まじかったが、ロランが勢いを殺してくれたおかげで、トスするのはイージーだった。
「ロランさん!」
「まかせて!」
 後方にいたロランが砂を蹴って飛ぶようにして一気に打ち上げられたボールへと肉薄する。
 獣化した腕。
 その膂力は彼の見た目通りではない。
 放たれるスパイクの一撃は痛烈にして強烈。
 振るう腕が一瞬にしてダークリーガーのブロックの合間をこじ開けるようにしてボールを打ち出し、轟音を響き渡らせる。
 だが、ダークリーガーもさるものである。
 そのスパイクの一撃を飛びついて滑り込みレシーブするダークリーガー。
「重い……! だが、この程度で!」
 低く飛んだボール。
 レシーブをしたダークリーガーが立ち上がるまで時間がない。
 トスするダークリーガーが高く打ち上げねばならないが、重たいスパイクの一撃は思ったほど高く跳ね上がらないのだ。

「まかせなさい。このときのために柔軟性をアップするサプリメントをガリゴリやってきたのだから!」
「それはドーピングでは?」
 ハロの言葉にダークリーガーは首をふる。
「勝利を得るためならば、なんだってするのよ!」
「それはそれでなんと申しますか」
「いくぞ、必殺グラビディスパイク!」
「なんかすっごい技名来た!」
 放たれるスパイクの一撃をハロは受け止める。
「グラビティ……重力。重量級のスパイク、ということでしょうか」
「改めて解説されると恥ずかしいので、そういうことはやめて欲しい!」
「え、あ、ごめんなさい」
 思わず謝ってしまうハロ。
 だが、ボールはしっかりとネット際へと跳ね上がる。
 ロランが駆け抜け、一気に飛び立つ。

 第二打のセオリーはトスでボールを柔らかく打ち上げること。
 けれど、敵の虚を突くためには敢えて一打を省いて速攻を仕掛けることも必要なのだ。
「えーと、えーと、なんとかスパイク!」
 かっこいい技名を叫びたいとロランは思ったのだろう。
 だが、思いつかなかった。
「ロランさん!?」
 そんなロランにハロが目をむく。
 だがしかたない。年頃の男の子というのは、それぞれが必殺技を考えてしまうものなのだ。そういう宿命なのだ。
 誰もが自分だけの必殺技を夢想してしまう。
 それ故にロランまた必殺スパイクを叩き込もうとしたのだ。
 思いつかなかったのは、如何に即興で水の術式を組める彼にしても難しかったのかも知れない。
「何を! ナントカスパイク敗れたり!」
「稲妻レシーブ!」
「エンジェリックトス!」
 微妙にくそダサいダークリーガーの必殺レシーブに必殺トス。

「もしかして、必殺とつければよいと思っておりませんか」
 ハロの冷静なツッコミにダークリーガーたちは、てへ、と照れた。
 照れるところかな、そこは、と思ったが、その一瞬をロランは見逃さなかった。
 炸裂するスパイクが砂浜を抉った。
 そこからは必殺技の応酬であった。一人だけハロだけが冷静にツッコミを入れ、ダークリーガーたちの調子を崩す。
「デッドエンドと言ってますが、性格にはゲームセットの方がよいのでは?」
 とか。
「ドラゴンショット……どのへんがドラゴンなのでしょうか。架空の存在とは言え、形態模写くらいはやっていただかなくては」
 とか。
 それはもう痛烈なツッコミが、ビーチバレー関係なく炸裂する。
 そのたびにダークリーガーたちは青色吐息であった。
 言い返せない。
 だってだって、必殺技ってそういうものだから!
 そんな彼らの調子が崩れた所にロランは、いいのかなぁと思いながらスパイクをガンガン決めていくのだ。
 加えて、ロランが大狼へと姿を変えたコートを縦横無尽に駆け抜ける。
 その背にあるのはハロ。
 圧倒的な機動力を得たハロは、ロランの脚力を頼りに敵スパイクの一撃を尽くブロックしていくのだ。

「それはズルじゃないのか!?」
「いいえ、ルール上狼に変身してはならないというルールはありませんので。人馬一体ならぬ……」
「人狼一体、だね!」
 二人で一人。
 絆の生み出した合体技とも言うべきハロとロランの人狼一体たる攻勢を前にダークリーガーたちは圧倒され続ける。
「ゲームセット! 勝者、ハロ・ロランペア!」
 審判の声が響き渡る。
「やったぁ!」
 またも抱きつくロラン。
 でも、気恥ずかしさはない。あるのは勝利の喜び。
 ハロもまた同様だったことだろう。
 ハイタッチに笑顔が咲く。
 そうして、二人はダークリーガーを下し、夏のペアスポーツ大会を制し優勝を果たすのだった――。

●そして、そして
 超人アスリートたちのゴールデンタイムは守られた。
「プロテインが旨い! 旨い!」
 喜びに溢れるアスリートたちの声を聞きながらハロとロランは商品のプロテインセットとトロフィー、賞状を手にしていた。
 表彰台では、なんかダークリーガーたちが憑き物が落ちたようにキレイな表情を浮かべている。
「これで思い残すことはない」
「ええ、最後に良い勝負ができたわ」
 なんかキャラ違うなって思ったが、二人は満足そうだった。
 他の世界と違って、この世界では生命のやりとりがない。死ぬこともなければ、殺す必要もない。
 ただ、正々堂々とスポーツで勝利を得る。
 それだけがこのアスリートアースにおける戦いの主幹なのだ。

「ふふ、よかったね。みんなのゴールデンタイムが守られたよ」
「ええ。皆さん嬉しそうです」
 二人は表彰台で盛大な拍手に包まれながら、超人アスリートたちが思い思いにプロテインで乾杯している光景を見下ろす。
 いやまあ、なんていうか、これもこれで異様な光景と言えばそうなのかもしれない。
 けれど、二人はこれでよかったのだと思う。
 だって、ダークリーガーが優勝してしまえば、このトーナメントに参加した超人アスリートたちはダーク化アスリートになってしまい、夏を謳歌できない。

 生命萌える季節。
 それが夏なのだ。
 そんな季節にダーク化アスリートになって棒に振ることなんてないのだ。
「ね、ハロちゃん」
「なんです?」
 表彰台をおりて、抱えきれない商品を手にしたロランがハロを見つめる。
「せっかく砂浜に来たんだからさ、ちょっとだけ泳いでいかない?」
 そう、確かにスポーツ大会はビーチ、海辺だったが、泳ぐという競技がなかったのだ。
 せっかくここまで来たというのに海で泳がぬというのはなんとも勿体ない。
「……そうですね」
 ハロも同意を示す。
 そのための水着でもあるのだ。
 どうせなら、夏を満喫したい。
 それも不足なく、思いっきり。二人は賞品を砂浜に置いて駆け出す。
 どちらとともなく手を繋ぎ、海へと飛び込むのだ。

 まだまだ海の水は冷たい。
 けれど、二人の間にある光はまだ夢のなかであろうとも、その掌から伝わる暖かさは紛れもない真なのだ――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年08月18日


挿絵イラスト