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美味しさの宝物を見つけに

#UDCアース #ノベル #猟兵達の夏休み2024 #北海道美食シリーズ

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兎本・モモ




 自然の香りと都会の薫りが、整然と並ぶ道と道の間に立ち並ぶビルの間を駆け抜ける。
「うわぁぁ……」
 兎本・モモ(時計ウサギの冒険商人・f26484)は初めて来る世界の初めての町の光景を、青く広がる夏空と共に見上げていた。
 生まれ故郷のアリスラビリンスでも何となく似た国はあったし、グリードオーシャンにもUDCアースから落ちてきた島はあんな感じのコンクリートのビルがいっぱいあった気はするけども。
「えっと、札幌――っつーか北海道来るのは初めてなんだっけ」
 キョロキョロと落ち着かない様子のモモを見て、共に歩いていた青年――梟別・玲頼(風詠の琥珀・f28577)はペラペラと地元雑誌を捲りながら問いかけた。するとピョコンと白い髪から飛び出たウサギ耳が大きく跳ねて、彼女もこくりと頷く。
「えへ、兎本はホッカイドーどころかこの世界自体初めてです!」
「あ、そうなんだ?」
 その返答に、そっかーと玲頼は笑み向けた。別の世界から来た者を案内するのは初めてでは無い。|地球《アース》世界と文化様式が大きく違う別世界から初めて来て慣れていない者に色々と教えるのがUDC組織の支援なのだと彼は語る。
「そうでなくてもこの世界は世界転移が一般的に知られてねぇからさ」
「はわぁ……そうなんですね」
 異種族でも違和感は感じさせぬとは言え、この世界の社会全般は受入体勢が整ってない。故の支援だと彼は解りやすく説明しつつ。
「でもさ、そのお陰で猟兵に夏休み楽しんで来いって福利厚生で経費落としてくれるんだぜ」
 つまり、今日の分の飲食費諸々は全部組織持ち。
「え、タダって事ですか? そんな――」
 遠慮の言葉が出そうになったモモに、玲頼は口元に立てた人差し指当てて一言。
「んな訳で案内させて貰うオレも楽しみでさ。ほら、楽しむ事もまた仕事……だぜ?」
 ――と。

「で、今ちょうどソフトクリームスタンプラリー……なんてやってて」
「ソフトクリーム……!」
 アリスラビリンスでも恐らく存在したのだろう。モモは目をキラキラ輝かせ、こくんと唾を飲み込んだ。
 早速向かった一件目。その地元で評判のお菓子屋さんは昔の建物をリノベーションしたらしく、石造りの年代感じる外壁に対して中は近代的で明るく綺麗だった。
「すごい……おかきもバウムクーヘンもシュークリームもあります!」
 和菓子も洋菓子も扱っているそのお店。それもまた絶品だと言う事でお土産に幾つか購入しつつも、やはりお目当てはソフトクリーム。
 ワッフルコーンに目一杯巻かれた白くて甘い口溶けは、とでもずっしりしてて濃厚で。まるで生クリームをそのままぎゅっと圧縮したかの味わいが口の中目一杯に広がっていく。
「ミルクの味がとても濃くて……ああ、兎本の言葉では上手く伝えられません!」
 じたじた。ベンチで悶えるモモの姿に、玲頼もソフトクリーム頂きながらクスクスと笑っていた。
「そそ、バニラじゃなくてミルク!って感じなんだよなぁ、北海道のソフトクリームって」
 何せ広大な自然の中で牛さん達がノビノビと草を食み、沢山のお乳を出してくれるお陰でこうして美味しい乳製品が生まれるのだと玲頼が告げれば。
「牛さん達に感謝しなきゃですね!」
「アイスにチーズにヨーグルト……それにチョコやケーキなんかのお菓子。どれも美味い牛乳あってこそ、だな」
 そこまで話して、ふと青年は思い出した様に呟いた。
「山羊さんのソフトクリームって珍しい店も最近出来たんだよな、そーいや」
「行きたいです……!!」
 モモのウサ耳がピョコンと物凄い勢いで反応した、と玲頼は後に供述していた。

 そんな訳で次に向かったのは山羊ミルクの専門店。可愛い山羊さんのイラストがモモの心を惹き付ける。
 細長いメイプルコーンの上に乗ったソフトクリームの色や形は普通のものと変わらない気がするも、何となくその香りは違って感じる。そっと一口含んでみたら、その違いは更に明確に味覚からも感ぜられた。
「舌触りが違います……! あとさっぱりとして滑らかで……」
 乳脂肪分の違いが味わいの違いなのだとお店のあちこちに置かれた説明を読みながら、モモは山羊さんグッズや山羊乳から作られたお菓子にチーズなどの製品をしっかりメモしている。色んな材料を元に色々なお菓子を作れば、色々な味わいが無限に生まれる――そんな気がしてならないモモは実に研究熱心であった。
「ところで、昼飯はどうする?」
 好きな食べ物あれば、と玲頼が問いかければ。名物とか解らないですけど……と返ってきた答えに。
「なら、取って置きの店があるぜ」

 そのお店は地下街の更に地下に存在する喫茶店。
 お昼のピークを過ぎたと言うのにまだ長い行列が出来ている事に驚きながらも、列が進むにつれて狭い階段を一段一段降りていく毎に紅茶や珈琲の良い香りが近付いてきて胸のときめきが止まらない。
 まるで穴ぐらに入って行くかの様に階段を最後まで降りて店内を覗けば、どこか昭和レトロな喫茶店。
 席に通され、メニューを見れば。
「うわぁ、凄く沢山……!!」
 そこはサンドイッチ専門の喫茶店。それも数多くの珍しい具材が取り揃えられているのだ。
 定番のハムやタマゴは勿論のこと。ポテサラにスモークチキン、パストラミビーフ。揚げた具材ならメンチカツにエビカツ、そして人気のあるメニューはと言うと。
「タラバガニ!? メロン!?」
「北海道らしいメニューだとは思うんだよな」
 そう言う玲頼はスモークサーモンも北海道らしいかも、と指で示してみたりする。
 一人二種類のサンドイッチが選べるとの事で、色々食べてみたいと言うモモのリクエストから注文。
「お待たせしました」
 お店で一番人気の組み合わせ――タラバガニサンド&フルーツサンド。そして季節限定のメロンサンド&メンチカツサンドが二人のテーブルにご到着。耳を綺麗にカットしてあるサンドイッチ。その断面から覗くのはごっそり詰まって中で大きく膨らんだ美味しそうな具材。
 まずはタラバガニ。マヨネーズで和えた所謂カニサラダ風だが、香りと食感で解る本当のカニの味。それがパンとパンの間で渋滞でも起きている様に詰まっているプチ贅沢。
 次にメンチカツ。揚げたて熱々のカツは衣がサクサク、滲み出る肉汁がフワフワ柔らかいパンに吸い込まれて一つで二度の美味しさ。
 そしてメロンは鮮やかなオレンジ色した赤肉メロン。大きくカットされた果肉からは濃厚な甘みがジュワリ。フルーツサンドもイチゴにキウイに桃と色々入って甘酸っぱく。しかしたっぷり一緒に挟まれた生クリームが適度な甘さとまろやかさで邪魔するどころか果物達の酸っぱさを抑えて良き相乗効果を口の中で広げてくれる。
 それらの具材を受け止める食パン自体も絶品。それを作っている小さなパン工場も大人気、との事で。
「サッポロもホッカイドーも、すごく美味しいが溢れてます……!」
「だろ?」
「次はどこに行きましょう……!」
 チョコかパフェか――夜はラーメンかカレーか。
 ああ、お腹が一つでは間に合わない。とっても一日で回れるとは思えない。

「色んな場所に行き、色んな人や物と出会い、色んな事を知る事が――全ての経験が、其方の糧とならんことを」
 跳ねながら前を歩むこの天真爛漫で若き時計ウサギのの冒険の先が良きものであれ――と。長きを生きた北海道の|梟神《カムイ》はそう願わずにおられず微笑むのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年08月18日


挿絵イラスト